C.E暦70年5月3日。地球連合軍とザフトが攻防を繰り広げた『ヤキン・ドゥーエ海戦』から約半月が経過したが、不思議と戦闘が開かれる様子は無かった。
無論それはそれで良いことなのだろうが、これまで電撃的に侵攻作戦を繰り広げて来たプラントを見る限り不気味に思えてならない、と感じる者も少なくない。
新たな軍事行動への備えの為に、鳴りを潜めているとも捉えられる。その一方で、地球連合側にしても反抗作戦の為に、着々と戦力増強の動きを見せているのだ。
  日本政府や軍上層部でも地球連合とプラントの動向には常に目を光らせており、巻き込まれないかどうか監視を続けている。
特に注目を浴びることとなったのは、水面下での動きが活発化している中立コロニー群だった。

「ここの所、衛星軌道状に点在するコロニー群は騒がしくなっているようです」

  閣僚会議で、その様に発言したのは森外務相である。外務相としてあらゆる情報を収集していた中で、コロニー群の動きは早くも彼の耳に入っていた。
彼の言葉にいち早く反応したのが竹上総務相だった。

「例の独立運動かね」
「そうです。表立って変化を見せてはいませんが、コロニー群の中ではヒシヒシと反地球連合として反発の色合いを強めております」
「しかし反発と言ってもねぇ‥‥‥。森外務相、コロニーの存在は数多あるが、彼らだって地球連合の軍事力には抵抗しきれんことは鼻から分かっている事じゃないか」

コロニー群の動きはあまりにも無謀だと発言するのは、行政局環境相 菊川宗佑(きくかわ しゅうすけ)である。御年63歳になる人物だ。
彼は楽観視しているようだ。言っている事は尤もであり、大した軍備力を有さないコロニー群が騒いだところで、地球連合にダメージとなるところではない。
その様に考えるのが普通であろう。
  だが、その意見に待ったを掛けたのが海原官房長官だった。

「いえ、プラントの傘下に入り同盟関係でも結ばれれば、そこがザフトの活動拠点と成り無視しえない存在となるのは明白です。さらにポイントL4には地球連合の資源衛星である新星があり、なおかつポイントL3にもアルテミス要塞があります。これらの目と鼻先に敵の根拠地を造られるも同然なのです。それを地球連合が黙ってはいますまい。さらに我が中立連盟の傘下に入る事を望むコロニーもいる筈です」
「そうなれば収拾はつかなくなる‥‥‥より厄介な問題ですぞ、これは」

別の58歳の男性―――危機管理監 郡山彪(こうりやま たけし)が同意した。危機管理を執り行う彼なればこそ、この事態に危機感を強く抱いていたのである。

「藤堂長官、我々は中立を最大限尊寿することは当然、一般市民への援助も掲げております。これらを狙い、我々を戦争の渦中に巻き込まんとするのは目に見えております」
「‥‥‥」

  藤堂もそれくらいの事は理解していた。中立連盟の参加国となることに対して拒否はしないが、それにかこつけて救援要請を頻繁に出されると非常に不味い。
中立連盟は未だに軍備再編の途上にある為、広範囲に渡ってカバーすることは不可能であった。願わくば、中立を表明したコロニーに対して、地球連合やプラントが攻撃を仕掛けないことを祈るのみで、中立連盟に対する負担を増やしてほしくはないところだ。
だが、悪意のある者達が彼ら中立連盟の気持ちに配慮する訳がない。相手の嫌がる事を平然としてやるに違いないのだ。
  しかも、この問題は海原や郡山の危惧する通り、デリケートなものとなる。1つの宙域に、中立派と地球連合派だけでなく、反地球連合派の3つもの勢力が混在するとなれば、中立連盟としても支援しようにも非常に動きにくいことこの上ない。
以前の件もあるが、中立連盟の勢力が危機に晒されれば、軍事衝突も避けられないだろう。その為、勢力が割れて混在する宙域という図式は極力避けていきたいのだ。
  次に軍務局長の芹沢が口を開く。

「長官、ポイントL4の不穏な動きは、以前よりキャッチしております。ですが、正直な話を申し上げますと、我が軍にそこまで気を配る余力はありません。我が宇宙軍だけで、火星と木星周辺の警備活動に、地球との連絡航路をも管轄しております。そこに新たな火種が跳び込めば、それこそ我が軍は身動きが取れぬものになりますぞ」

彼の言う通り、日本宇宙軍は余裕のない手一杯の状況で活動を続けている。
  まず拠点防衛活動が中心の軌道防衛艦隊の内で、第1軌道防衛艦隊は資源採掘のメッカとなっている木星圏一帯の警備活動等を担っている。
それと合わせて主力艦隊である第2艦隊が、木星圏衛星カリストを活動拠点として駐留し、地球との定期便や輸送船団等の護衛を受け持っていた。
また第2軌道艦隊は、地球周辺におけるラグランジュポイントの警備を担っているのと合わせて、第1艦隊も地球圏内における有事に備えていた。
さらに貿易の頻度が高くなりつつある、マーズコロニー群及び火星周辺を第3宇宙艦隊が担当して、警備活動や航路の安全確保に努めているのだ。

「今は地球連合も、プラントも、大規模な戦闘を生じさせていない故に我が軍も辛うじて活動を続けております。ですが、これで各コロニー群が一斉に動き出した挙句に、点でバラバラのポイントから要請を受けようものであれば、手の付けようがありません。中立連盟参加国の軍備再編も、まだ途上でありますし、我が軍の警備活動専門部隊の再編には時間を要します」

  少しでも活動に余力を持たせる為に、日本宇宙軍は広大な太陽圏を出来る限りカバーすべく、艦艇の増産に勤しみつつも、とある計画を進めていた。
それは、空間防衛総隊の傘下に新たな部隊が新設されるもので、哨戒活動専門の部隊と護衛活動専門の2部隊が追加されるのだ。
軌道防衛艦隊とは、あくまでも各惑星周辺の有事に備えた予備戦力的な存在だが、今の日本宇宙軍は戦力不足も甚だしい為、彼らに警備活動を任せているのだ。
戦力不足の皺寄せは主力艦隊にも来ており、輸送船等の護衛任務を行う為の艦船が不足している。その為、本来なら軍事作戦に投入される筈の主力艦隊を回していた。
よって、辛うじて有事に満足に動ける戦力は、第1艦隊のみになってしまう―――という異常事態なのである。
  そんな戦力不足を解消する為の計画だった。既存の軌道防衛艦隊は、そのまま各惑星上の防衛活動を続けていく。
その一方で、貿易ルートにおける輸送船等を護衛する為の護衛艦隊が新設され、各惑星周辺を見回り問題を小さな内に解決させる為の哨戒艦隊が新設される。
これら各任務に特化した艦隊を、交代要員含めて取り揃えられれば、主力艦隊もまた満足に軍事作戦で動くことも可能となる。
因みに、かの天龍型哨戒艦の開発は、この計画の前身でもあるのだが、無論のこと100%カバーというのは、机上の空論であることを承知の上だ。
それでも、勢力圏や物資輸送路の護衛部隊の充実化を図りたい一心であり、その末端として、中立連盟参加国の宇宙艦隊も警備任務に従事してもらうのだ。
  だが、連盟各国に与えられた日本軍の払い下げ艦艇群が、万全を期して活動を行うには、それなりの慣熟訓練が必要となってしまう。
連盟各国兵士が、一人前とは言わずとも平均の能力を得る前では、日本側が自力で取り組む形とならざるを得ない状況となっている。
  計画として軌道防衛艦隊と同じく、戦艦や空母といった大型艦は一切含まない。その主力艦は、磯風型突撃宇宙駆逐艦並びに増産予定の天津風型宇宙駆逐艦だ。
他にも、砲艇や宙雷艇といった補助艦艇が改めて増産され、護衛艦隊と哨戒艦隊の補助艦艇として構成される。
天龍型哨戒艦、或は村雨型宇宙巡洋艦は、そういった各艦隊の旗艦として編入されることとなっていた。
  現在にして、日本が守るべき存在は多様にして存在する。自国は無論のこと同じ連盟国やマーズコロニー群、木星圏の資材採掘基地、物資輸送航路等々。
日本軍上層部としては、一刻も早い連盟参加国の戦力加勢に期待を掛けている次第であり、日本だけの負担を早々に軽減したいという本音もあった。

「もしかすれば―――」

  ふと口を開いたのは。一際若い政治官僚の官房副長官 矢口欄(やぐち らん)であった。年齢は39歳。この場に集う政治家達に比べれば比較的若い方だ。
真っ直ぐな瞳で物事を捉え、理想主義の側面を持ち合わせていることから、現実主義な同僚や上司からは呆れられたり、窘められたりすることもしばしばであった。
同年代の若手政治家である滝とは、同期の間柄で何かと切磋琢磨する関係にある。

「プラントは、それこそを狙っているのでは無いでしょうか?」
「どういう意味かね、矢口君」

  藤堂が気になって矢口に問いかける。

「コロニー群が一斉に地球に対する蜂起や、中立連盟やプラントに同調するのを狙って、行動を起こすのではないでしょうか。そうすれば、これまでの動きの無さに納得も出来ます」
「敢えてコロニー群の分裂を誘い、その鎮圧に動きだす地球連合と保護の為に動き出す我々を待って、攻勢に出ようとでも言うのか」
「そうです」

確証はないが、十分にあり得る話ではないだろうか。
  矢口は危機感を募らせて閣僚に注意喚起を促そうとするが、菊川などの危機感に薄い面々は否定的な見解である。その理由は先と似たものの見解を示していた。
要するに、プラントとて兵力数において圧倒的に不利なのは明らかで、それを覆すには、地球連合軍のアキレス腱となる部分を潰して機能不全に陥れる他ない。
首都への奇襲は反撃のリスクが高い上に、非戦闘員への被害を考慮せねばならない。
  まして、中立連盟の下手な介入は避けたいところであるだろうから、限りなく考えにくい。となれば、自動的に狙われるのが軍事施設になる。
それに単なる軍事施設ではなく、機能が集約しており尚且つ艦隊等の建造、整備の施設なども有する一大基地。

「連合の中央司令部か、月のプトレマイオス基地あたりでしょう」
「それが妥当な線だろう。しかし矢口補佐官、我らが気にするべきは非武装の民間人が多くいるコロニーの動向であり、月の中立都市コペルニクスも同様だ。連合とプラントの戦闘要員同士が傷つき合うのは勝手だが、非戦闘員まで被害を及ぼされれば‥‥‥」

芹沢にしてみれば中立連盟の―――敷いては、最悪の場合は日本の将来を重視している為、連盟国以外の国がどうなろうが知ったことではない。

「兎も角は出来る限りの事はやるしかあるまい。それはそうと軍務局長、先の戦闘で我が国の技術が漏えいしたと言う話はどうなっているのかね?」

  コロニーの蜂起に関する基本対策は人命尊重という本来の目的に則って、非戦闘員への被害が及ぶのであれば中立連盟軍も駆けつけて防衛に当たる事で一致した。
その後話題を変えたのは郡山であり、日本の保有する技術が2つも知らず知らずの内に地球連合軍へ流れていたと言う事実には、首脳部も動揺を隠せないでいたのだ。

「その件は未だに調査中であります。ですが、他国のハッキングによる可能性は低く考えにくいです。あるとすれば、我が国内における内通者の漏えいか、或は中立連盟加盟国のいずれかによる地球連合との裏取引か、でなければ加盟国内部でのハッキングか内通者の情報漏洩か‥‥‥」
「そうだとすれば、重大な利敵行為だぞ」
「まだ特定できた訳ではあるまい。だが地球連合軍に巡り渡っているとすれば、独自開発したのではなく横流しを受けた可能性は否定できん」

馬見農林水産相が不快感を露わにし、竹上も横流しの可能性を拭いきれず沈痛な表情を作っている。
よもや中立連盟国の中でも、厚い信頼関係にあるオーブ連合首長国からのデータ流失とは、想像だにしなかったであろう。
  芹沢のみは、その可能性を十分に見ていたが、確証が得られない為に、下手にオーブを名指しで責任追及する訳にはいかず、例のロンド・ミナ・サハクも証拠を出さないように上手い事立ち回るに違いないのだ。
ともなれば、証拠もなく批判した日本の印象を悪くするだけに止まらず、彼らとの間に作った信頼の架け橋を叩き壊し、深い溝を掘り下げることになるだろう。
しいては、連盟各国の連携網も穿かなく脆く途絶えて、分裂の道を辿る可能性も大いにあり得る。
  芹沢としても、日本が不利に陥ってしまうような事は避けたい。今は兎も角も、証拠を掴むと同時に連盟各国との連携に、致命的な亀裂を生じさせぬようにしなければならず、この件に関する調査は、より慎重さを期すことになっていたのであった。

(ロンド・ミナ・サハク、度が過ぎれば火傷をすることになろう。いずれは身を以て味わうことだろうがな)

会議が進む中、芹沢はミナの独断にしっぺ返しが来るであろうことを、それとなく予見していた。それが実現化するまで、時間を要することとなる。
  閣僚会議が進む一方で、日本のとある陸軍試験運用場こと富士兵器試験場においては、試作兵器の最終運用試験が執り行われている。
それは、日本地上軍がオーブ国防陸軍との共同開発で誕生した次世代型多脚戦闘車輛―――70式多脚戦車〈風神〉70式多目的多脚戦車〈雷神〉だ。
六本脚を生やした戦車が、各脚先の爪と爪の間に設けられた高速移動用ローラーを使い、高低差のある地面を移動しながらの射撃精度テストに勤しんでいる。
かのキャタピラ式戦車もまた、高低差での精密射撃を可能とした絶妙なサスペンション等のバランス調整が貢献している。
それは風神、雷神も例外ではない。
  しかも多脚戦車は、92式主力戦車と違って車高の高さも大きく変えられるのが特徴だ。まるで生き物のように、脚を使って上下に車高を変えるのだ。
対MS戦闘や対戦闘車輛を考慮して開発された雷神、歩兵支援や歩兵輸送等の多目的運用を目的とした風神、神の名を冠した戦闘車輛が守護神として活躍の時を待つ。
また、日本が脚付の戦闘車輛を開発するにあたって参考にされたのが、自国で生産されていた98式特殊機動外骨格が良いヒントになったと言えよう。
これを応用して六足歩行による多脚戦車の開発を着々と進めていったのだ―――無論、98式の後継機の開発も進んでいたが、まだまだ時間を必要とした。
  そして様々な動きを行い、最終テストを続ける2輌の多脚戦車を眺めやる2人の男女がいた。1人は真田志郎で、もう1人は30代ほどの女性で日本人ではない。
その女性が感心したように、或は安心したように真田に感想を漏らした。

「あれ程までにスムーズな動きが出来るようになりましたね」
「えぇ。お蔭さまで量産体制へ移せますよ。これもオーブの技術力あっての成果です。シモンズさん」

ウェーブのかかったブラウンのショートヘアに赤茶色のジャンパーを纏った女性―――エリカ・シモンズは、オーブ連合首長国の大手企業モルゲンレーテの技術者である。
兵器開発に携わる技術部主任として働いており、オーブ国防軍の軍備力強化の為に日夜開発に明け暮れる毎日を過ごしていたが、今回の日本とオーブにおける技術提携並びに共同開発の方針を受けてからというもの、率先して多脚戦車開発に協力していたのだ。
  オーブ連合首長国は、MS開発より、日本との多脚戦車を開発する方針でいた―――その裏でロンド・ミナ・サハクが、独自に暗躍しているとはつゆ知らずだが。
確かにオーブ国内では、MSによる戦力強化を訴える者もおり、多脚戦車での有効性に疑問を持つのも致し方無いことであった。
ただし、保険を掛けると言う意味合いを含めて、日本も98式機動外骨格の新開発に勤しんでいた。それは、勿論のことオーブも関わっているが、あくまでも主体は多脚戦車の量産配備であった。
それでも、日本が考案した多脚戦車でMSを相手にした場合をシミュレートした結果、五分五分に持ち込める性能だと判定を下されている―――あくまでも、シミュレート上の話だが。

「後は、実戦でどれだけMSに対抗しうるかですが‥‥‥」
「この多脚戦車は、あくまでも連携を大前提としている車両です。無論単独でも戦えますが、やはり連携が必要不可欠ですし、部隊の生還率を上げるうえでも必要です」
「個人プレーを主とするザフトを相手とするならば、有効な手段ですね」

ザフトのMSパイロット達は、Nジャマー散布下での戦闘は個人プレーが主流である。それも、コーディネイターの持つポテンシャルの高さが成し得るスタイルであり、だからこそ単機で戦力の多い地球連合軍を相手に戦えると言うものであった。
  この雷神と風神は、個人プレーでMSに対抗しえるものの、確実な戦果を出すには連係プレーが必須である。連携できれば、それだけ損害も低く抑えられるのだ。
まして、地上戦ともなれば宇宙空間と違って、車両間はそれ程に距離を置く訳でもなく連携も執りやすいのだが、あとはやってみねば何とも評価しがたい。
多脚戦車の魅力は、あらゆる地形に対応可能な走破性、共にローラーを駆使した機動性と加速力、脚を使った車体バランス、陽電子ビームを採用した打撃力にある。
対するMSは、人型を採用したことで大半の地形に対応可能で、機動性も高く、武装も固有武装のみならずオプションパーツとして武器のレパートリーが多い。

「それにしても、驚かされましたよ」
「何がです、真田三佐?」

  顎に手をやり思考に深け入る真田の言葉に、シモンズは問い返した。

「この共同開発に当たって、技術者である貴女を始め、オーブから幾人もの協力者が来られました。技術立国として名のある貴国の技術力には助けられましたが‥‥‥」

そこで一旦言葉を切った。技術工廠関係者の間でも、この多脚戦車を開発するうえで、何事もスムーズに事が進んでいた訳ではない。
上記のように、二足歩行型の特殊機動外骨格の存在が開発にプラスに働いていたこそすれ、完成するまでに幾度か躓いていたのも事実であったからだ。
日本技術者は、自立式AIであるAUシリーズの手助けを借りたりして、比較的単純な操縦方法で制御しようとしたのだが、そうするのもまた大変な道のりだった。
オーブから派遣された技術者達の知恵も借りて、ようやく完成へと漕ぎ着けたのである。
  無論、シモンズからすれば日本の技術力の高さに舌を巻かれる想いだ。特にAUと呼ばれる自立式サブコンピューターの存在には、大きな衝撃を受けたものだ。
他にも、大気圏内外を飛行可能な航空機、先の戦闘で活躍した宇宙艦艇の性能、陽電子ビームを搭載した戦車―――あらゆる技術がオーブを上回っていた。
とはいえ、そんな日本技術者にも一時的な壁は存在するものであり、シモンズを始めとした派遣技術者達の知識や経験がそれを解消する手助けにもなったのである。
  やがて口を閉じていた真田は、再び勿体ぶったような間をおいてから口を開いた。

「他に驚いたのは、今回の多脚戦車のテスト走行の為に派遣された操縦者が、彼女らだったことです」
「そのことですか。確かに、三佐ばかりではなく、大勢の方が驚かれていましたね。ですが、腕は確かですよ」
「それは十分、証明して頂きました」

真田らが驚かされた点と言えば、何を置いても派遣されてきたテストパイロットの事だ。オーブでは、正式なテストパイロットとして活躍していると聞いてはいた。
だが、実際に当人達に会った真田は、あまりの若さに唖然としてしまったのである。
それでも、シモンズが言う様に派遣されてきたテストパイロット達は、見た目とは裏腹に懸命に取り組んでいた。腕は一流とは言わずとも、平均的ではあったのだ。
  やがて、走行テストと射撃テストを兼ねて試験コースを一通り走り終えた試作車両2台が、停車地点で止まると脚を畳む。まるで正座をするかのようだ。
すると各車から2人の女性が降りてきた。1人がヘルメットを外すと、その下から跳ねっ毛のある金髪のボブカットが現れた。
見た目からして10代後半とかなり若い女性である。緊張しておた為なのか、汗で額に髪が張り付いていた。彼女は、ヘルメットを脇に抱えながら、頭を左右に振って髪に新鮮な空気を通すと、自身も肺に新鮮な空気を取り込んだ。
  もう1人も続いてヘルメットを脱ぐと、ブラウンのショートカットをした若い女性であることが分かる。

「お疲れ、アサギ」
「そっちもね、マユラ」

  アサギと呼ばれた癖っ毛の17歳の金髪女性―――アサギ・コードウェルは、ショートカットの17歳の女性―――マユラ・ラバッツに労いをかける。

「お疲れ様、2人とも」

呼ばれた方向に向き直って、呼びかけた本人を捉えた。
  そこには、アサギと同年代の若い女性がおり、スポーツドリンクを持ってアサギとマユラに渡してきたのである。

「ありがとう」
「それでどう、アサギ、マユラ。調子は?」
「ビックリするくらい操作し易いよ。これまでの戦車とは思えない‥‥‥まるでMSみたい」

渡されたスポーツドリンクを口に含みながら答えるアサギ。ピンク色の縁をしたメガネに、紺色セミロングヘアの女性―――ジュリ・ウー・ニェンは感心したように聞き入った。

「やっぱりね。オーブで使っているリニアガン・タンクは3人乗りだけど、これは1人運用できるもんね」
「無論、それも補佐してくれるAIがあるからだけどね」

マユラが言った。
  彼女らの言う通りこの風神と雷神の最大の特徴は、AIによるサポートシステムによって、中に乗る人数は1人だけで全てを運用できる点にある。
これまでの戦車であれば車長、砲手、操縦士の3人で運用されるが、この次世代型多脚戦車はMSの様な1人運用をも目指していた。
その為に大幅な操作の簡略化を行っているのだ。それでも1人で全てを行うことには限度がある為、上述したようにAIに人間の補助を任せており、オーブ技術者達の知恵も借りてようやく完成させたのである。
極端な事を言ってしまえば、ゲーム等では戦車を1人で動かして敵を撃破する、というシチュエーションはよくあったもので、その延長線上の開発とも言えた。

「どうやら不備はなさそうね」
「あ、薫さん。それに世換さんも」
「御苦労様。これで、全ての試験運用は修了したわ」

  訓練を終えた所に歩み寄って来たのは、真田の後輩であり片腕的存在でもある新見一尉と、18歳の若い女性―――尹世換(ユン・セファン)の2人だった。
尹世換は、オーブから派遣されたモルゲンレーテ社の技術社員の1人で、シモンズの部下だ。量子コンピュータを駆使して、設計や開発等に携わっていた。
クリーム色の半袖シャツにオレンジの作業着に身を包み、腰には青色ポーチを備え付けている。顔立ちはソバカス顔で化粧っ気がなく、薄いブラウンの髪をやや乱雑にサイドポニーテールに纏めていることから、身だしなみにはあまり関心が無さそうに思える。
技術者としての腕はシモンズが保証する程である一方で、極度の不幸体質の持ち主―――ドジっ子でもありトラブルを続発させることで有名でもあった。

「あっ!」
「ぇ‥‥‥っ!?」
「「「あ‥‥‥」」」

  右靴の紐を自分の左足で踏んづけてしまい勢い余ってつんのめったのだ。しかも自分の前を歩いていた新見の背中へ、反射的に引っ掴んでしまった。
人間ドミノ倒しで道連れにされた新見はバランスを大きく崩して後ろに倒れそうになるが、ひざを折る事で辛うじて派手に仰向けに倒れそうになるのを回避する。
咄嗟の反応とはいえ新見の背中を掴んでしまった世換は、はっとして新見に謝罪した。

「すみません! 新見さん、咄嗟に‥‥‥」
「だ、大丈夫です。けど気を付けてください、尹さん」
(相変わらずだなぁ、世換さんのおっちょこちょい振りは)

アサギは、ペコペコと頭を下げて謝る世換を見ながらも、その心内では極度のドジっ子ぶりに関心してしまうものだった。
才能はあるが、このドジっ子は何とかならないものだろうかと思う。
  ちょっとしたハプニングを後にして、試験運用を終えた雷神と風神の総合判定結果が出された。各諸性能は目標レベルを達し、量産化に向かう事となったのだ。
その結果を、技術研究室の応接室にて耳にした新見は安堵し、他の開発関係者達にも喜びを与えたのである。

「これでMSに対抗できますね、先生」
「あぁ。だが、安心ばかりしてもいられまい」

生産許可が下りた試作機を前にして、真田は新見のホッとした一言にやや否定的な成分を含み、神妙な表情を作っていた。

「我々は実際にMSと対戦した訳でもない、いわば机上の空論でやってきたに過ぎない」
「真田三佐、つまり、これは決してMSに対抗しうる有効な兵器ではないと言うのですか?」

  疑問を持ったのはシモンズだ。当然と言えば当然の反応であろうが、実はシモンズ自身もまた雷神、風神がMSに対抗しうる存在なのか、と懐疑的であった。
オーブも組み合わさって完成させた多脚戦車故に、誇りは持っている。
だが、実績がない時点では、期待と不安が水と油の様に溶け込まれてはいないのだ。そうとは分かりつつも、取り組むとなれば全力で取り組むべきではないか。
不可能を可能にすべく、日夜奮闘する彼女らは常に試行錯誤の繰り返すのだ。

「有力かどうかは、実際の戦闘で示されなければわかりません。常々、希望的観測や推測のみで、楽観はしないように心掛けている物でしてね」
「それについては同意します。私も技術者の端くれですから‥‥‥まして、国と兵士の命を預ける兵器ともなれば尚更ですね。ですが、だとしても全身全霊を持って取り組みます」
「それでいいと思いますよ。兎に角は、やってみなけばわかりませんからね」

  こうして、多脚戦車雷神、風神の増産体制に踏み切った中立連盟もとい日本。日本の軍事技術が他国へ浸透する事によって、連盟全体の防衛力を強化させる取り組みは加速の一途を辿っており、それを快く受け入れている者ばかりではないのも、また世の常だった。
その代表格が、地球連合の面々であることは容易に想像がつくもので、地球連合議会の場でも度々に渡り日本の軍拡化を強く指摘しては、批難を繰り広げているのだ。
とはいうものの、中立連盟もまた各国の独立を護る為に、軍備力は必要とならざるを得ない。日本の突出した技術力の恩恵は、非常に有難みのあるものである。
  まして、軍事力の強化にひた走る地球連合に、とやかく言われる筋合いは無い。日本或は中立連盟として、軍備の再編を済ませる必要性があった。
地球連合とプラントも同じくして、互いに戦力の強化と技術向上に向けて邁進している。地球連合は秘密裏に入手した技術を以て、新型艦艇と新型機動兵器(MS含み)の開発を行い、プラントもジンに始まる派生型並びに新型のMS開発と新型艦艇の建造を行っているのである。
そして、この中にオーブの独自MS開発も含まれているものの、それを日本が感知するにはまだ時間が掛かることなった。

「結局、中立連盟ではMS開発の許可が下りませんが、果たして大丈夫でしょうか」
「人型にする必要性があるとは思えない。MSは人を模することで多彩な任務に対応できるようにしているのだろうが、結局人型を模してもバリエーション機が多くなることに変わりはない。ましてコストも馬鹿にならないだろうし、整備の面でも機種が多ければ困難を極めるだろう。であれば、最初から一本化した方が安上がりだ」

  新見の不安に、真田は持論を以て回答する。MSは確かに対応性が高い機動兵器だが、かと言って一種類の機体で多様な任務を担当する訳ではない。
ジンは、汎用性が高いとされる一方で、早くも後継機やら次世代機やらが開発されている。地上専用の機体や航空専用の機体、海中専用の機体―――といったバリエーションが多彩だった。
戦局を優位に進める意味で、開発は無論しなければならないのだが、かといって早い段階で次々と新機種を開発してしまってはバックアップする側が苦労する。
  片や日本を始めとした元国連軍の有する戦闘機コスモファルコン、コスモゼロ、コスモタイガーU等の機種は、宇宙、空の双方を運用可能な万能性を有する。
それで各国は、統一規格で軍備を再編しているのだ。よって部品の共通規格を成し得たことでコストは下がり、整備の面でも非常に整えやすくなっているのである。
真田からしてみれば、ザフトの様な乱雑とも思える兵器開発と配備は、前線の兵士にある種の苦労を押し付けるとも言えている。
ただし、新兵器を配備すれば良い訳ではない。そうだ、何だかんだと言っても肝心なのは、使う側の事を考える必要性があることだ。
  とはいえ、コーディネイターという身体能力的にも、優秀な人種故に成し得る事でもあるのだろう。

「地球連合も、水面下でMSの開発に着手しているようだが、恐らくはザフトの様にバリエーションを多種多彩には出すまい。これまでの戦闘でも分かる通り、地球連合軍は質を量でカバーする戦術を取らざるを得ないからな。考えうるとすれば、ザフトのMS程に高性能でなくとも簡易的な能力に限定して、後は部隊ごとに纏めて複数運用することだろう。その方が軍事産業でも栄える地球連合には取りやすい方針だ」
「成程、鋭い考察をされますね、真田さんは」

  感心したようにシモンズが頷いた。ただ一方で、ザフトの技術者の面々から言わせてもらえるのであれば、真田の評価に対してこのように反論したに違いない。

「我らがおかしいのではない。おかしいのは日本だ。何故一種類の機体で大気圏内外の運用を両立させる事ができる? 冗談にもほどがある」

1つの機体で多用の任務に対応できるならば、とっくにそうしているものだ。
  だが、現実は難しいもので、ザフトのMSでさえ各環境に対応した専門のMSを開発せねばならないのである。
ザフトの妬ましい感情はさておき、日本が正式的に雷神、風神の量産が決定された事に続き、そのさらに半月後、日本の軍港から新たな艦が就役した。





  C.E暦70年5月18日。かねてより次世代戦闘艦建造計画に基づき建造されてきたが、その締めとなる最後の戦闘艦が遂に白昼堂々と姿を見せられる事となる。
呉の宇宙軍専用建造ドックの一端で〈ヤマト〉と同じように隔離ドームが中央から分断され、前後にそれぞれスライドしていき中の巨艦を日輪によって照らされた。
そのドックの周辺には、新型艦就役のお披露目を見るべく市民が集まった他に、政府高官や軍幹部達も列席に並んでいる。
集まった人の規模は〈ヤマト〉就役時と左程変わらない。皆がC.E暦世界に来てから初の新型艦を迎えた時に思った期待の気持ちは、この時もまた同様である。
  やがて高官らの演説も終わり、就役祝いのシャンペンが新鋭艦の艦首に当たり砕け散ると、同時にくす玉が幾つも割られて華々しい紙吹雪が舞い上がった。
〈ヤマト〉の姉妹艦として誕生した大和型弩級宇宙戦艦2番艦〈武蔵(ムサシ)就役の瞬間である。かの旧日本海軍と同じ名を冠した〈ムサシ〉は、衆人環視の中で挙げられる歓声に包まれながらも、太陽機関エンジンを起動し、ゆっくりと巨体を大空へ向けて羽ばたかせていった。
  2番艦である〈ムサシ〉もまた、試作艦としての意味合いを持つ艦である為、今後量産されるであろう主力艦艇とは一線を越した装備を盛り込まれている。
〈ヤマト〉同様に機関部は最新型の太陽機関とされ、兵装も最新式のショックカノンは無論の事、主兵装であるショックフェーザー砲を搭載しているのだ。
他にも防御の面では、コスモナイト複合装甲を通常装備としているだけでなく、PS装甲の改良型―――TP装甲を主要部分を中心に採用して防御力の強化を図った。
  また、このTP装甲の防御範囲に関しては、1番艦に比して2番艦たる〈ムサシ〉の方が広かった。〈ヤマト〉のTP装甲率は、艦体の居住区周辺や艦橋、機関部といったところを含めて、約5割程で収まっている状態である。
それに対して〈ムサシ〉は、艦体の約8割程度をTP装甲で覆っているのだ。それだけでも歴然たる差が見える。
これは、〈ムサシ〉の建造経過そのものが、〈ヤマト〉よりも大幅に遅れていたこともあった。故に、防御範囲を比較的広げる事が出来たのである。
  だが、全周囲防御型ともいえる堅牢な耐久度を実現化した〈ムサシ〉は、その代償として改良型電磁防壁の装備は見送られてしまっている。
さしもの艦政本部のみならず、軍上層部もそこまでの広い器を持っておらず、どうせなら電磁防壁無でどれだけの性能を発揮しうるか、と試している部分もあった。
ただし、設計関係者は自信を持っているようで、コスモナイト複合装甲でかなり有効な事を踏まえれば、電磁防壁に頼らずともTP装甲の効力も期待できる。
そう踏んでのことであるものの、実際のコストパフォーマンスの悪さから鑑みて、TP装甲の全周囲防御という方法は今後の主力艦艇建造には採用しない方針だ。
  ともあれ贅沢な仕様となったことに変わりのない〈ムサシ〉は、ドックから飛び立つと大気圏外にて待機中である第3艦隊と合流すべく先を急いだ。

「沖田、これで第3艦隊の陣容は揃ったな」
「あぁ。一応の形は揃ったが、安心ばかりもできまい」

  その飛び立つ様子を見守る群衆の中には沖田と土方の姿もあった。姉妹艦の就役によって国防力が強化される一方で、日本のみならず人類全体が危機に瀕していると直感的に感じ取っており、行く先に待つのは人類の終末ではないか―――そのような心配が絶えないこの頃である。

「先日の『ヤキン・ドゥーエ海戦』で、プラントがまたもや勝利に沸き返っていることを鑑みれば、そろそろ新たな行動に出てきそうだと、俺は見ている」
「かもしれん。地球連合も度重なる敗北と、今回の作戦が漏えいした可能性を考え、慎重にならざるを得ない様子だ」
「当然だな。情報が筒抜けとなれば、下手に動くことも出来まい。だが、そうしている間にプラントは地球上の勢力を拡大し、宇宙においても勢力圏を広げようとするだろう」

土方と沖田は知る由もないが、よもや地球連合軍の内部にある部隊が内通者となっているとは思うまい。まして地球連合軍上層部も気付かないのである。
そして地球連合軍の動きが鈍くなるところを見計らったプラントの軍事作戦の展開は、もう目の前に来ているのではないかと2人は危惧していた。
  地球連合もプラントも、中立連盟に対して軍事行動を起こすとは考えにくいものの、その可能性はゼロとは言い切れないものがある。
共謀するとはいかないまでも共通の敵として認識され、この両国から挟み込まれてしまうこともあり得ることだった。
もし攻撃してくると言うのであれば、こちらとしても全力で抵抗するまでだが、問題は僚国の防衛だ。
日本は、単独で防衛できるとは言えども他国はそうもいかないのは前述したとおりである。そこで日本の役割を少しでも抑える為に、中立連盟軍の全体的な軍備再編に尽力している訳であるが、整う前に攻撃されないことを祈るばかりであった。
  土方は、傍らに立つ沖田の眼に、別の不安が混じっていたのを敏感に感じ取っていた。恐らくはあの件だろう。

「沖田、息子が心配か」
「‥‥‥軍人以前にして、親である以上は当然のことだ」

そう言って親友が見つめる方向には、既に豆粒ほどに小さくなって見える〈ムサシ〉の姿があった。彼の言う息子―――沖田宗二(おきた そうじ)二等宙佐は、この年33歳。
沖田の1人息子であり軍人として優秀な成績を収めるエリートの部類に入るが、決して鼻高なところを見せないことから人格的にも評価が高いと沖田も耳にしている。
親としても誇り高い気にはなるものの、その一方で息子までもが軍人の道に歩み入ってしまったことには複雑な思いである。
  その息子の宗二は、27歳にして駆逐艦〈秋月(アキヅキ)〉艦長を勤め上げており、その他にも巡洋艦〈羽黒(ハグロ)〉副長を務めたりするなど艦艇に長く勤務している。
様々な宇宙艦艇に配属しながらも職務を全うし、無事に勤め上げて来た宗二に対して〈ムサシ〉副長の職を拝命されたのであった。
実験艦とはいえ、最新鋭艦の副長に就任するなど滅多にないことだ。宗二自身も最新鋭艦への配属を誇張こそしなかったが、嬉しそうな雰囲気を多少は纏っていたのを沖田は今でも覚えている―――嬉しいやら、悲しいやら。
  また沖田以外にも宗二の事で心配する人がいた。

「お義父さん」
「ん‥‥‥清霞さん、君も来ていたのかね」
「はい」

ふと声を掛けられた沖田は振り返る。そこに居たのはくすんだ金髪のロングヘアーをした32歳の女性で、ピンク色のカーディガンに白いスカートを履いた清楚な雰囲気がある。
沖田宗二の嫁となっている沖田清霞(おきた さやか)で、純粋な日本人ではなくイギリス人と日本人の混血であり、金髪はその影響でもあった。
これももはや珍しい事ではなく、国際的な交流が長く続けば混血の日本人がいるのも当然であり、他国の人間も同様の事である。
  彼の傍にいる土方にも軽くお辞儀をして挨拶をすると、再び沖田に向き直って〈ムサシ〉発進式にわざわざ足を運んできた理由を答えた。

「宗二さんのお見送りに‥‥‥」

そう言う清霞の表情は何処か不安げであったのを沖田が見逃す筈がなかった。どう考えても夫である宗二への心配事であろうことは直ぐに察しがついた。

「大丈夫、宗二は帰ってきますよ」
「そう‥‥‥ですね。えぇ、そう信じます」

沖田から心配ないと声を掛けられると彼女の緊張した表情が和らいだ。
  彼自身も、第二次内惑星戦争時に最愛の妻―――静江(しずえ)を亡くしており、それ以降は男手1つで息子を育て上げてきたのである。
愛する者を失った時の精神的な負担や悲しみは大きいものであったが、当時の沖田が静江を失ったことを知ったのは、惜しむらくも終戦後の事だった。
彼は、火星軍との決戦の為に宇宙に出ており、日本へ落下した隕石群の一部によって損害を受けた、という情報までは知っていた。
  しかし、その被害者の中に、まさか自分の静江が含まれていたという真実までは、さしもの知りようが無かったのだった。
その隕石攻撃によって自宅は半壊し、静江も瓦礫の下敷きになって瀕死の重傷を負った。残念ながら救助隊に救助された時には、既に帰らぬ人となってしまった。
一種の救いとなったのは、当時13歳だった宗二が生きていたことであろう。宗二は外出中だったこともあり、隕石の衝撃を受けたこそすれ命に別条はなかった。
  帰還直後に対面した静江の亡骸を前にして、絶望の淵に立たされた沖田は、そのショックのあまり数週間は立ち直ることができなかった。
精神的に打ちのめされた沖田は、仕事にも悪影響が出る事を懸念して休職届を出したのだが、心配になって様子を見に来た土方から喝を入れられることとなる。

「沖田、静江さんを救えなかったというお前の無念さは、俺にもわかる。だがな、いつまで悔やんでも戻ってはこないんだぞ。俺達は出来うることの限りを尽くしてやるしかない‥‥‥それに、残った宗二君を誰が護るんだ? お前だろう、沖田!」

彼らしい励まし方と言えた。気性が荒いと周りからは言われる傍らで物わかりが良く公平な男だ、とも言われることからまずまずの評判を呼んでいた。
そんな彼が、優しい言葉を選ばずあえて厳しい事を言うのは、やはり彼の性格故なのかもしれなかった。沖田自身も言われる前から分かっていたことであったが、実際に静江を失う苦しみとは想像以上に強い傷を残していたのである。
  沖田は、悲劇の英雄気取りをするつもりは毛頭ない。それに自身の周りには、同じような境遇の人間が数多く存在するのもまた事実なのだ。
彼は親友のそれなりの励ましに応えるべく、少しづつ気持ちを整理して復帰していった。息子の宗二もまた悲壮の沼底から這い上がり立ち直ったのである。
やがて、宗二も軍人への道を歩み始めた。その動機は、やはり第二次内惑星戦争で母を失ったことが大きく、戦争による犠牲者を出さないと誓った故でもあった。
  複雑な過去を思い返す沖田は、清霞の肩に手を置いて頷き、言葉に出さずとも大丈夫である旨を目で語る。
改めて自信を持った彼女から目を放して大空へ視線を移した。

(宗二、死ぬなよ。お前には守るべき者がいる。儂の様な二の舞を踏むんじゃないぞ‥‥‥宗二)

息子の事なきを願いながらも見送った―――戦場で命を散らすことのない様に。
  父親と妻の見送りを受け取った当人は新鋭艦〈ムサシ〉艦橋にて、無事に処女航海の第一歩となる大気圏を離脱したことを報告する。

「艦長。大気圏を離脱しました。各部点検、異常は見受けられません」
「よろしい。合流ポイントに僚艦は既にいるか?」

宗二の報告を受けた41歳の男性が、労いの言葉を掛けつつ確認を求める。やや細長い顔にメガネを掛けた姿は、如何にも神経質、或は切れ者を伺わせる面持ちだ。
この男性が第3艦隊副司令官/〈ムサシ〉艦長 伊利陀辰巳(いりた たつみ)宙将補である。軍人としての評判は上々なもので、一手二手先を読んだ戦術手腕を有する他に、冷静な分析能力等を有する良将として名を馳せている。
  ただし、その一方で温かみに欠けることから、苦手とする部下や同僚は数多い。本人も温情等の配慮は大して持ち合わせておらず、最低限の労いしかかけない。
加えて、冷酷或は非情ともいえる命令を下すことも出来る為、なおのことそう言った評判が広まっているのである。
  索敵士官が報告する。

「レーダーに捕捉しております。10時方向、伏角13度、距離700、数12。予定通り、全艦艇集結完了しました」
「あれが、第3艦隊の奇想艦艇か」

宗二も、レーダーに捕捉されメイン画像に映された艦艇群を見て呟いた。第3艦隊の残りとなる艦艇群の殆どは、地球連合軍宇宙艦隊―――ユーラシア連邦宇宙軍の鹵獲した艦艇群を改装したものであり、彼が言うように奇想と言う言葉がしっくり来るような姿形をしていた。
  第3艦隊のコンセプトは、兵器技術の試験運用を主とした実験部隊だ。次世代型艦艇として建造された大和型、吾妻型、天龍型、天津風型の試験運用を行う。
並びに、赤城型と違った趣向を持つ、戦艦と空母の能力を兼ね備えた航宙戦艦(航空戦艦)に、大改装を施した艦艇群の試験運用を行うこととなっている。
また今回合流した8隻は改装艦で、他の4隻は磯風型突撃宇宙駆逐艦の新規増産されたものだった。

「データ照合―――空母〈泯栖垢(ミンスク)〉!」

  その中心にいる1隻の大型艦艇は、アガメムノン級を改装したアガメムノン改型宇宙空母〈泯栖垢〉(命名の漢字は鹵獲した艦名を当て字にしたもの)である。
主力兵装を36p連装フェーザーカノン砲塔×2基4門に換装され、下方砲撃も考慮して艦底部に20p連装フェーザーカノン砲塔×2基4門が追加搭載された。
機動兵器対策として、対空火器の増設を行っただけでなく、誘導兵器であるVLSを増設したことにより万事対応できる攻撃力を与えられている。
装甲も、対ビーム用複合装甲ことコスモナイト複合装甲を追加装備されると同時に、電磁防壁も備えるなど光学兵器並びに実弾兵器への備えを強化。
機関部も従来の代物ではあるものの、信頼性の高い核融合炉機関を備えられたことで、航行性能は従来よりも各段に上昇したのだ。
  加えて、艦載機を積めるようにする為に、両舷側の電磁カタパルト2基を廃止して外壁装甲と完全に一体化させたことで、艦内に余剰スペースが確保された。
これによってメビウス基準で30機だった搭載能力が、コスモタイガーU、コスモファルコン等を46機も搭載することに成功したのである。
艦首構造も大改造しており、艦首先端を発進口としたうえで、発進口上下に前方へ延びる一対の固定式リニアカタパルトが装備されているのが大きな特徴だ。

「続いて照合確認、弩級戦艦〈煉兜燐幻(ネルトリンゲン)〉〈邇湖羅亥(ニコライ)〉!」

  続いて、マゼラン級戦艦の改装型となるマゼラン改型弩級航宙戦艦〈煉兜燐幻〉〈邇湖羅亥〉。同じように大規模改装を受けて性能を大幅に向上させている。
特に目を引くのは、艦前部の大幅な形状の変更だ。艦載機の運用を計画されたことで、大型の格納庫2つが艦前部上下側に後付する形で設置されているのだ。
格納庫と艦体が一体化したことで、マゼラン級特有の艦首へ行くに従ってスマートになるところが、艦首から艦尾に跨って文字通り長方体の様な寸胴体型となった。
その代償として、艦首上下にあった主砲×2基4門は撤去されたが、残る5基10門は40p連装フェーザーカノン砲塔×5基10門へと換装された。
加えて単艦防御能力の向上の為に、パルスレーザーの増設やVLSの増設を行っている。
  大改装した格納庫には、上下階層に6機づつの艦載機を格納可能とし、小規模ながら単艦で飛行隊を編成することが可能な航宙戦艦へと生まれ変わったのだ。
艦載機が発艦する際は、艦首発艦口からカタパルトを使って発艦する以外に、緊急時にはエレベーターで格納庫から艦首上甲板へ艦載機を移送し、艦首上甲板に設けられたカタパルトを使って発艦することも可能になっている。
着艦する際は、艦首の発艦口からでも可能ではあるが、艦首上甲板の側からも着艦してからエレベーターで格納庫へ戻ることも可能だ。
このマゼラン改型2隻で24機の艦載機が運用可能となっていることからも、艦載機による制宙圏の確保や攻撃を可能としている。
  機関部も無論のこと換装されており、金剛型宇宙戦艦に使う核融合炉機関4基を備え、コスモナイト複合装甲の増加装備や電磁防壁、機械設備を一新している。
対艦戦闘能力は、弩級戦艦として若干心許ない一方で、艦載機運用能力を含めれば総合的な能力は寧ろ向上したと見るべきであろう。

「戦艦〈彈堺劉琥(ダンケルク)〉〈砺兜ヰ山(レトウィザン)〉の照合も確認!」
(あれが噂に聞く輸送能力を付随した戦艦か‥‥‥)

  地球連合軍で主戦力となるネルソン級宇宙戦艦を大改装したネルソン改型航宙輸送戦艦〈彈堺劉琥〉〈砺兜ヰ山〉の2隻。一際異色を放つ奇想艦の代表格だ。
何が奇想かと言えば、宗二が思ったように物資輸送能力を有した戦艦であることだ。何故そのような能力がもたらされたのか―――原因は機関部から始まった。
ネルソン級は大小含めて8つもの機関を有していたが、日本勢から見れば無駄な増設と言わざるを得ず、そのまま核融合炉機関を換装する訳にもいかない。
  当初は元の通りに機関部を換装するか、或は大出力の機関部1基のみで賄うかという議論がなされたものの、結果として長門型弩級宇宙戦艦で使用する機関1基で賄うことが決定された為に、艦尾中央にあった補助機関4基の部分に挿げ替えて配置した形となったのだ。
残る主機関4基があった両舷部分はどうしたかというと、せっかく確保された空間であるからして、提案されたのが空間を利用した物資輸送能力であった。

「そんじゃ、せっかく分捕った戦艦だしよ、思いきり改造してやろうぜ」

そう言ったのは、とある蟹股の機関技術士であるとかないとか。
  元主機関の空間をコンテナとして利用する為に内部をガランドウ(・・・・・)にし、追加装甲等で外壁を強化して誘爆等の可能性を極限に抑えているのである。
僚艦に物資を移す際にはガードの役目を果たしている艦尾両舷の円形ハッチ部分を開放して、そこから物資を移すような手筈になる。
無論のことハッチ部は、攻撃される事に備えて硬化された。
  戦艦としては、まず有り得ない輸送能力を付けたことで輸送艦や補給艦の必要性が無くなり、長期間の任務行動に備える事が可能となったのだ。
兵装面では、36p連装フェーザーカノン砲塔×3基6門へ換装し、艦首上部にあった単装砲塔を20p連装フェーザーカノン砲塔に変更している。
ネルソン級特有のシリンダー式回転ミサイル発射管は、そのままにして艦対艦ミサイルを備え、その他誘導兵器群は全て日本で採用するものに変更済みである。
他にもコスモナイト複合装甲による防御力向上、電子機器による索敵と通信能力の強化を行っている。
  そして最大の課題である格納庫の新設に関しては、元からある艦底部格納庫をほぼ作り直して空間確保していた。
格納庫の横幅であった為、横幅を舷側幅名一杯にまで広げてたことで、何とか戦闘機4機分の艦載機格納庫と整備区画や弾薬庫の確保を成し遂げていたのだ。
戦闘機用とは別に、連絡機専用の小型格納庫も増設されており、これは艦後部にある第3主砲塔直下の空間を大改装して、最低2機は搭載できるようにしている。
また戦闘機が発艦する際にはシャッターを舷側ではなく艦尾側に設け、〈ヤマト〉に採用した様なカタパルトで後ろ向きに発艦させる方法を採用していた。
  とはいえ拡張にも限度というものはあるもので、マゼラン改型に比べて拡張の余地がなかったことからそれ以上の搭載は断念されている。

「巡洋艦〈皇ヰ琥(ノーウィック)〉、護衛艦〈夷帑喇(イドラ)〉〈釡唆羅(プサラ)〉も照合を確認!」

  サラミス改型航宙巡洋艦〈皇ヰ琥〉は、マゼラン改型と同様の大改装を受けている。つまり艦の前半部を丸ごと格納庫に造り替えたうえで、カタパルトも増設した事に加え、艦後部側にも艦橋後部と一体化するような形で大型の連絡機用格納庫が増設された。
格納庫と化した代償として単装砲塔×4基、魚雷発射管全門、ミサイル発射基×2基を撤廃しているが、20p連装フェーザーカノン砲塔×2基4門を上甲板と艦底部に1基づつ増設することで、対艦戦闘能力を向上させていた。
  無論、残る艦尾両舷の単装砲塔も、20p単装フェーザーカノン砲塔×2基2門に換装し、誘導兵器類も日本仕様に変更、並びにパルスレーザーの増設を図った。
この大改装によって、艦首格納庫には4機までの艦載機が搭載可能となり、艦尾の格納庫には連絡機2機を搭載した。
その他、防御力の向上や機関部換装などはほぼ同一の改装である。

(ドレイク級を改装した艦艇か‥‥‥これも大改装ぶりが目に見てわかるな)

  そして最後となるドレイク改型航宙護衛艦〈夷帑喇〉〈釡唆羅〉の2隻。地球連合軍では、最も建造数の多いワークホースを、日本軍の独自技術によって性能向上の為の大幅な改装工事を受けた。
改装の主旨は同じもので、艦載機を搭載させることによって艦隊全体としての航空機戦力向上を目的としていたのだ。
  もとよりドレイク級は、対艦戦闘能力に乏しく誘導兵器で占められる。そう言った意味では、また改装しやすい面もあったと言えた。
艦橋基部から艦首にかけて、連絡機用の箱型格納庫を増設している(よって格納庫を艦橋が一体化した外見となる)。
  さらに艦尾の機関部においては、ネルソン級と同様の見解を示したことで村雨型宇宙巡洋艦の機関を1基のみとしており、この影響で不要となった4つの推進剤タンクの活用方法を見出すべく考え出されたのが、大胆にも各タンクがあった部分を艦載機用格納庫として大改装を施していたのだ。
無論、艦載機を搭載するのに既存タンクのサイズでは無理が生じる為に、設計を見直して大型化し、その影響で艦尾部分が一回りほど肥大化した印象を受ける。
それでも、開いた部分を有効的に活用したことによって、130mの艦艇でありながら艦載機を4機と、連絡機1機が運用可能な小型航宙母艦と化したのである。
ただし、他艦とは違って、連絡機と艦載機の配置場所が前後逆になっているのも、この艦の大きな特徴の一つと言えるであろう。
  上甲板に格納庫を増設した影響で、ガトリング砲は撤去せざるを得ず、残り2基のガトリング砲を12.7p三連装フェーザーカノン砲塔×2基6門に換装。
両舷側にあった三連装魚雷発射管も撤去され、20p連装フェーザーカノン砲塔×2基4門に換装。
さらに既存の十二連装小型ミサイルランチャー×4基に対して、上下に旋回可能なギミックを付随したことで、前後上下へ向けてミサイルの発射が可能となった。
  後は対機動兵器対策としてパルスレーザーが増設されるなど、従来のドレイク級とは比較にならない程の戦闘能力を有する結果となったのである。

「残り磯風型駆逐艦4隻の照合も完了。提督、第3艦隊残存艦艇の照合が完了しました」
「よろしい。では僚艦と合流後、艦隊は〈ヤマト〉本隊の待つ火星の衛星軌道上へと針路を定めつつ、大きく迂回路を取りアステロイドベルトへ向かう」

  当初予定として、火星宙域に居る〈ヤマト〉らと合流することとなるが、その前に合流するまでの時間を利用して、やや寄り道をすることとなっていた。
寄り道―――というより、慣熟航海として最大限に利用するのだ。火星へは、地球軌道上を沿って時計方向へ航行しつつ、外宇宙側へ向かって弧を描く形となる。
やがて火星軌道を横断していき、内惑星系と外惑星系の中間宙域となる膨大な小惑星帯(アステロイドベルト)に一度入り、そこで戦闘訓練や艦隊運用の訓練を行うのだ。
  とはいえ、慣熟訓練で十分な時間を掛けられず、精々1日は猛訓練に当てることとなる。そして再びアステロイドベルトを抜けて火星を目指すのだ。

「アステロイドベルトで1日分の訓練を終えた後、火星へと針路を戻し、そこで日向提督の指揮下に入る」
「了解。針路第1目標をアステロイドベルトへ、第2目標を火星へ設定します。頼むぞ、航海長」
「ヨーソロー」

  地球衛星軌道上で残存艦艇と合流を果たした〈ムサシ〉は、早速隊列を組み終えると、そのままアステロイド方面へと針路をとっていった。
第3艦隊は、これで正式な艦隊として機能するが、今なお地球連合とプラントの戦火が飛び火することを鑑みて、しばらくは警護任務に従事する。
また艦艇数が増えたことによって、警備範囲が広くなると同時にローテーションによる常時警備活動も可能となったのは、大きな意味を持っている。
それでも、本当に充実化した警備活動にはまだまだ艦艇数が必要となる。戦力の充実化を図る日本と、他の中立連盟を他所にして、プラントも地球連合もまた総攻撃並びに反撃の為に、着々と準備を進めつつあった。




〜〜〜あとがき〜〜〜
第3惑星人でございます。25話をようやく掲載させていただきましたが如何でしたでしょうか? 正直ネタの構成が上手い事見つからずグダグダとなってしまいました。
とはいえ、これもいつもの事ではあるのですが‥‥‥。戦闘に関しては史実通りに事を運ぼうとしていたのですが、どうしてもプラントの軍事作戦の実施速度を見ていると、あまりにも無茶が過ぎると思ったので、その再構築に時間を割かれているような状況になります(資源衛星『新星』と『グリマルディ戦線』は、位置関係や兵力配置から見てかなり無理があるように思いましたので‥‥‥)
その為に効率よく展開出来る様に色々と考えておりますので、また時間が掛かるかと思いますので、お待ちいただいている方には申し訳あります。

また今回登場したキャラクターもまた、例によって他作品からお借りしています。
・補佐官の矢口、環境相の菊川、危機管理監の郡山は、『シン・ゴジラ』の日本政府官僚からお借りしました。
・第3艦隊副司令官の伊利陀は、『キャプテンハーロック(平成版:ハーロック役は山寺氏)』のイリタ長官からお借りしました。
・沖田の妻や息子である宗二、嫁の清霞という名前は私の妄想です。ただ息子と嫁は設定上で存在するので、せっかくだと思い登場させました。



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