機動戦艦ナデシコ
〜The alternative of dark prince〜
第七話 陽気な『親友』
「なんや、終わってしもたんか?」
ソウさんと道場の修復作業(ほとんどやらされた)を終えて道場を出たところに、そんな声をかけられた。
声の方を向くと、いつものようにソイツがいた。
「ジンか。また冷やかしに来たのか?」
「冷たいな〜。せっかく親友の応援に来てやったゆうのにその態度。僕は悲しいで」
「嘘を言え。それと、いつの間に親友になったんだよ」
「冗談冗談。そんな怖い顔すんなや。ほれ」
ジンが投げたジュースをキャッチする。
……ホットレモンだった。
汗かいてるっていうのに誰が飲むかこんなもん。
こいつの行動はたまに不可解だ。多分、嫌がらせなのだろうけど。
「どーも」
「機嫌悪いなぁ。またあのオッサンにボコられたんか? ん?」
そう言って、糸のように細い目をさらに細めた。カチューシャをしたままなのを見るとエステバリスの訓練のあと、そのままここにやって来たようだ。
ヤソガミ・ジン。18歳。男。関西弁。キョウトシティ出身らしい。ナデシコのエステバリスパイロットの一人。いつもは前髪でその細い目が隠れているが、エ
ステバリスの操縦のときはカチューシャをしている。……切ればいいのに。歳が近く(多分)エステバリスパイロット同士なこともあって俺はこいつと話すこと
が多い。というか、初めて会ったときから何かと絡んでくる。まぁ、それは右も左も分からない俺にとって、それはありがたくもあったわけなのだが。
そうそう、お姉さんもナデシコに乗っているそうだ。だが、俺はまだ会ったことがない。
「そんなとこだ。で、冷やかしに来たんじゃないならなんの用だよ?」
「ああ、そうやった。なぁアッキー。僕にも火星丼作ってくれへん? あ、別に和食以外なら何でもええんやけど」
勝手にニックネームをつけやがった。まったくマイペースな奴だ。
「アッキーって……。まあ、いいや。誰に聞いたんだよそんなこと。俺がコックやるなんて、まだ言ってないはずだけど」
「ハリくん」
「え? ハーリーくんに?」
「うん。ごっつ美味いで〜って言うとったよ。それがどうかしたん?」
ハーリーくん、いつから関西弁を……。じゃなくて、どうしてそんなこと言いふらしてるんだ? 火星丼は美味しそうに(睨みながら)食べてくれたけど、俺っ
て嫌われてるんじゃなかったっけ。何か考えでもあるのかな?
「いや、別に。でも、食堂に行けば火星丼くらいあるだろ? 何で俺に頼むんだ?」
「それなんやけどな、前にな、僕に姉貴がおるって話したやろ?」
「ああ。シノさんだっけ?」
「うん。その姉貴がなぁ、ご飯時になると頼んでへんのにいっつも飯作って持ってくるんよ」
「いいじゃないか。自分で作らなくてすむんだし。何が問題なんだ?」
良いお姉さんじゃないか。俺には兄弟はいない(多分)から羨ましいくらいだ。
「その飯が三食全部和食なんや。別に不味いっちゅうわけやない。むしろ美味いねんけど、たまには中華が食べたなるやんか。それなのに食堂に行くどころか自
動販売機のラーメンでさえ食わしてくれへんのや。もうガキとちゃうっちゅうねん」
「ガキだろ」
「……ガキやけど。そんでな、僕がほかのもん食べようとしたときの姉貴がめっちゃ怖いんや、これが。前に見つかったときなんてなぁ……」
その時のことを思い出したのか、うずくまってぶるぶる震えだしてしまった。
そんなに酷い目にあったのか? どんなお姉さんだよ。
想像しただけで怖くなってきた。イメージとしてはいつも包丁研いでる感じ。「ケケケケケ」とか言いながら。
「なあアッキー、頼む。助けてくれ。お前の部屋までは追っては来んと思うから、な、な? この通りや」
俺にすがり付いてくるジン。何だか可哀想になってきてた。
幸い俺の部屋には小さいながらもキッチンがついている。
それに、料理を食べてもらえるのならこちらとしてもうれしいことだ。
「分かった。作ってやるよ」
「ホンマか!? おおきに。やっぱお前は親友やで。今度こそ二人であの憎きタカスギ・サブロウタを倒そうやないの!」
「ああ、そうだな。で、いつ作ればいいんだ?」
「そ〜やなぁ。昼はもう姉貴に弁当渡されてもうたから、今日の夕方にでもアッキーんとこ行かしてもらうわ」
「ん、分かった」
「ところでなぁ……」
ジンの糸目がまた細まった。サブロウタさんのニヤついた顔と同じで、この状態のこいつは決まって何か変なことを言い出す。それはこの一週間で十分思い知ら
された。
「何だよ」
「あのオッサンとこに通っとるのって艦長の護衛のためやったよな?」
「ああ」
「護衛ちゅうことはいつも一緒におるってことやんなぁ?」
「ああ……ん?」
「で、その艦長とはどこまでいったん?」
「ななな、何言ってんだよ! 俺とルリちゃんはそんなんじゃ! 第一ルリちゃんには……」
何を言い出すんだこいつは。ハーリーくんみたいな言い方になってしまったじゃないか。
ハーリーくん、やっぱり君とは気が合うかもしれないな。一度語り合わないかい?
「ルリちゃん、ねぇ。そんな照れなさんなって。」
「いや、だから……」
「憎いねぇ〜。このこのぉ〜」
「ヒトの話を……」
「なんてな。冗談や。ホンマはな、アッキーの身を心配しとるんよ、僕は」
「は? 俺の身の心配って?」
「アッキー、ちょっと聞くけど最近なんか悪寒とか殺意とか、そんなん感じんかったか?」
それは……確かに覚えがある。
最初は気のせいだと思い込むようにしていた。が、上下左右前後ろから突然刃物が飛んできたり、部屋のドアに五寸釘が打ち込まれている藁人形があったりすれ
ば、もうそれは気のせいなんかじゃ済まされなかった。
ていうか、明らかに命を狙われていた。
「ああ、覚えがありすぎる」
「あぁ〜、やっぱりなぁ。実はな、アッキーは超ド級のアホで鈍感やから気付いてへんと思うけど、艦長って滅茶苦茶人気があるんやで」
ルリちゃんは可愛いから別に不思議ではないけど。って、さらりと失礼なこと言わなかったか?
「でも、それが何で俺の命が狙われることになるんだよ」
「だからぁ、アッキーが艦長と一緒におるんが気に入らん奴がここにはぎょ〜さんおるっちゅうことや。なんでも『テンガ・アキ抹殺撲滅抹消委員会』なんてゆ
うのも出来とるくらいなんやで」
「マジで?」
「マジで」
うわぁ。とんでもない職場に飛び込んでしまったものだ。
俺はこの時、本気で後悔していた。
何でも勢いに任せるものではない、という教訓だ。
「お。噂をすれば影、や」
「え?」
まさか、刺客か! と一瞬身構えたがそうではなかった。
ジンが向いた方に視線を向けるとルリちゃんがこっちに向かって歩いてくるところだった。
私服に着替えているが、どこかに行くつもりなのだろうか?
そして、ルリちゃんは俺たちの前で立ち止まった。
「これはこれは艦長。アッキーに何か用事ですか? さ、ど〜ぞ」
「おいっ、押すなって」
ジンは俺をルリちゃんの方に押しやった。
何が「さ、ど〜ぞ」だ。それが俺の身を案じているという言葉を吐いた口か。こいつ、本当は楽しんでるだけじゃないのか?
「こんにちは、ジンさん。ええ、そうです。アキさん?」
ジンに軽く挨拶してからルリちゃんは俺のほうを向いた。
「や、やあ、ルリちゃん。どうかしたの?」
「はい。これから出掛けるので、護衛、お願い出来ますか?」
「え? 勿論良いけど。出掛けるって、何でまた?」
出掛けるときは必ず俺が護衛につくことになっている。が、これが初めてだ。
「ああ、それは……」
ジンの方をチラチラと見ながら言いにくそうにしている。
それに何を思ったたのか、ジンはさらに俺を押し出して言った。
「ど〜ぞど〜ぞ。持ってっちゃって下さい。ほな、邪魔者は消えることにしますわ」
「はぁ」
「ちょっ、お前何か勘違いしてないか?」
「ええからええから。アッキー楽しんでこいよ。……骨は拾ったるから……」
小声でボソッと物騒なことを言い、俺の背中を叩いてから「夕飯頼んだで〜」と言い残してジンは走っていった。
何かサブロウタさんに似たところがあるなアイツは。
まったく、ナデシコのクルーは変なのばっかだ。
「あなたも含め、ですよ。それに……ナデシコですから」
「どういう意味?」
「特に意味はありませんよ。さ、行きましょうか」
「うん。でも、何処へ?」
「それはまだヒミツです」
いつもそうだけど、俺はルリちゃんに頭が上がらない。ま、雇う側と雇われる側ってことか。
そのころ……。
「……俺の出番は、まだなのか?」
「しょ〜がないでしょ〜。物事には流れってもんがあるんだからさ」
「そうよ。アタシなんて出られてもチョイ役なんだから。我慢しなさいよね」
「でも、俺主役じゃ……」
「おっと、それ以上は言わない約束だよ? ……くん?」
「アンタだって言ってるんじゃないの!」
「まあまあ。そんなに怒るとシワが寄るよ?」
「な、なんですってぇ!」
「…………」
賑やかだった。
<あとがき……か? これ>
こんにちは、時量師です。
まず始めに、なんと感想を下さった方がいました。雪夜さんに続き二人目ですよ。嬉しいです。
前回は関係のないことばかり喋ってしまったので、今回は真面目にゆきます。
さて、第七話。オリジナルキャラ、関西弁のスペシャリスト、ジンくんの登場です。
時量師は常々思っておりました。
何故に、何故に、ナデシコのあの個性的なキャラクターの中に関西弁を操る者がいないのか、と。
思わず出しちゃいました。
そのジンくんですが、性格はサブロウタさんとヒカルちゃんを足して割った感じ、ですかね。ナデシコBのパイロットはサブロウタさんしか描写されていなかっ
たので追加してみました。
ジンくんの役回りは実はプロスさんみたくしようと思っていたんです。仕方なくパイロットなどやっている彼ですが、きっとプロスペクターのような存在になり
たいと思っているはずですよ。
ひとつごめんなさいがあります。
これまで調子よく発表してきたような時量師ですが、諸事情によりこれから少しゆっくりになりそうです。
出来るだけ急ぎますが、これまでのようには早く書けないと思います。楽しみにして下さっている皆様、申し訳ありません。
では、それでも次回、よろしくお願いします。
感想
時量師さん頑張ってますね〜毎日投稿が続くと言うのはとても凄い事です。例え休日でも気力が続きませんよ本当。
まあ、考えても仕方ありません、私
がアキトさん意外にもてるのは当然としまして、アキトさん登場までまだ時間がありそうですね。
劇場版再構成だからね、劇場版まではプロローグ扱いと言う可能性もある。
分らなくも無いですが…、でもアキ
君そうなると、ヒロインが別に必要な気もしますね…
カップリングなんて、必ず必要な物ではないと思うので、まあのんびりやれば良いのではないでしょうか。
そうですね、アキトさんと私のラヴ
が保証されているんですから後はオマケみたいなものです。
…いや、むしろそっちがオマケでしょ、シナリオはアキ君メインなんだから。
ふう、物語の重要性ではありません、そこに私がいればわたしが主役なのです。
スゲエ台詞…(汗)
そう言えば、関西弁のキャラが出て
来ていますね。
むぅ、でも難しいんだよね、関西弁といっても色々だし、私も関西に住んでますからその辺は結構ね…。
ほほう、それは聞き捨てなりません
ね…
もっとも、私はバリバリの和歌山県民だから、大阪弁とも少し違うけどね。
れはそれは、田舎者ですね。
そりゃあもう、近くにゃ高野山があるくらいの田舎者さ。
自分で言ってりゃ世話ないです。
その田舎者でもちょっと辛いと思うのが、京都弁!
はい? なぜです?
実はアレね二種類あるんだよ。
ほう、貴方にしては妙に詳しいです
ね?
まあ、私のにもハルカ未来に出す予定の有る方言だしね(汗)
うちにも出るんですか!?
この調子だと何年先か分らないけど(汗)
それはそれとして、なぜ二種類ある
んです?
先ず、京都弁は関西弁とは違う、大阪弁が関西弁だから、和歌山弁も少し違うけど、京都弁は都言葉だったから実はかなり違う、最近は大阪弁と混じっているみ
たいだけどね。
一つ話すと「このお茄子なんぼにまけときなはる。百円ほどひいといて」「そらなんぼなんでもひどおっせ。これ以上まからん切りきりの値段どすさかい」とま
あ、こんな感じ。
これが大阪弁だと、「この茄子なんぼにまかる。百円ほどひいてんか」「そらなんぼなんでもひどおまっせ。これ以上まからんぎりぎりの値段やさかい」とま
あ、こうなる訳です。
では、もう一つは?
おいらんことばって言うんだけど、京都の遊女、花魁(おいらん)が使っていた言葉で、「ありんす(あります)」「なます(なさいます)」とか、遊女の方言
を隠すための言葉だったらしい。
はあ…でも花魁言葉は関係ないん
じゃ…(汗)
まあ、そうだけどね…兎に角、方言は大変って事。
でも時量師さんも今回のネタは引い
てると思いますが。
…そうかも。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
時
量師さんへの感
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