機動戦艦ナデシコ

〜The alternative of dark prince〜








第八話 今、ここにいる『自分』










「すみませんでした。突然」


ルリちゃんは前を向いたままそう言ってきた。

今、俺たちはルリちゃんと初めて出会った大通りを肩を並べて歩いている。


「謝ることないよ。俺はルリちゃんの護衛なんだから」

「そうでしたね」


こうして歩いていると、その、デートに見えたりするのだろうか。周りのカップルを眺めながら俺はそんなことを考えてみた。

……見えないな。

自分で考えておいて少し悲しくなった。

自分とルリちゃんを見比べてみる。

俺は護衛ということでそれっぽく全身黒色だし、ルリちゃんはその対極で真っ白なワンピースを着ている。何だか凸凹な感じだった。


「ところでルリちゃん?」

「はい?」


嫌な方向に傾き出した思考を中断させるために、ルリちゃんに質問することにした。


「ジンのやつから聞いたんだけど、ハーリーくんが俺がコックをやることを言いふらしてるって本当?」

「?」


返事がないのでルリちゃんの方を向いてみた。

ルリちゃんは俺の方を向いてきょとんとしていた。ルリちゃんの驚いた顔は結構珍しい。

あれ? 何か的外れなことでも言ったかな?

数秒たったあと、得心いったようでルリちゃんは「ああ……」と頷いた。


「別に言いふらしているわけじゃないと思います。ハーリーくん、多分口が滑ったんでしょう。つまり、それだけアキさんの料理が美味しかった、ということで すよ。もしかすると自慢したかったのかもしれませんね」

「どういうこと? 俺ってハーリーくんに嫌われてるんじゃないの?」


そこでルリちゃんはくすっと笑った。その表情はとても似合っていた。

俺はほんの少し心臓が跳ねたような気がした。


「嫌ってなんかいませんよ。ハーリーくんはアキさんの腕を認めているんです。ただ、最初が最初でしたから、あの子はアキさんに対して素直になれないでいる んですよ」

「そうなの?」

「そうですよ」

「そうなんだ」

「そうですよ」


そうか、それなら一度ハーリーくんと話してみようかな。ハーリーくんとは結構気が合いそうだし。

それにしても、ルリちゃんって本当にお姉さんみたいだ。ハーリーくんが慕うのも良く分かる気がする。


「ところでアキさん?」


今度はルリちゃんが聞いてきた。


「うん?」

「刀……なくても良いんですか?」


丸腰の俺を不振に思ったのだろうけど、俺は軍人じゃないから銃刀法に引っかかるのではないだろうか? それとも捕まれと?

変なところで常識外れのルリちゃんだった。


「大丈夫だよ。ソウさんに柔術みたいな変なのも叩き込まれてるから。なんでも、ソウさん木連では柔術の指南役だったんだって」


嗚呼、全身の傷という傷が痛み出してきたぜ。

手加減ってものを知っているのだろうかあの人は。……知らないんだろうな。それに、知ってたとしても手加減なんてしちゃくれない人だ。

『何とか委員会』といい、俺はどれだけ命の危険に晒されているのだろう? 今のところ世界中で一番不幸な人物は俺ではなかろうか。


「そうなんですか。あ、ここですよ」

「え?」


ルリちゃんは一軒の中華料理屋の前でその歩みを止めた。

『日々平穏』……変わった名前の店だ。

店の前には準備中と書かれた立て札が置かれている。


「でも、ここ準備中だよ?」

「問題ありません」


ルリちゃんはさっさと入っていってしまった。

ご飯を食べに来たってわけじゃないのかな? どういうことだろう?

しかし、俺はいつものように従うしかないのだった。










「らっしゃーい!」


店に入ると、奥から威勢の良い声が聞こえてきた。


「すみませんねぇ、お客さん。今は準備中なんだよ。もう少し待ってくれるかい?」


そう言いながら奥から出てきたのは大柄な女性だった。

見るからに料理長って感じだ。……料理長な感じって何だ?


「こんにちは、ホウメイさん」

「ああ、誰かと思えばルリ坊じゃないか。まあ、座んな。今日はどうする? いつものラーメンかい?」


ルリちゃんとホウメイと呼ばれた女性はどうやら知り合いで、しかもルリちゃんはここの常連さんらしい。

だから、準備中でも入ってきたというわけか。


「いえ、準備中なのに悪いです。それに、ちょっと場所を借りに来ただけですから」

「遠慮しなくてもいいさね。ちょっと待ってな。すぐ二人分作ってやるからさ。ん?」


そこで初めてホウメイさんは俺の方を見た。

そして、さっきまでの笑顔が消え、真剣な表情になった。


「ルリ坊、この子が……」

「はい。テンガ・アキさんです」


何故か俺のことを事前に話してあるようだった


「はじめまして。ホウメイさん? でいいんですよね」

「ふぅん」


ホウメイさんは真剣な表情のまま俺を上から下まで観察した。


「本当にアイツにそっくりだねぇ」

「アイツ?」

「座んなよ。すぐに美味いラーメン、食べさせてやるよ」

「あ、はい」


ホウメイさんはそう言って厨房に引っ込んでしまった。

何だったんだろう。










俺たちはカウンター席ではなく、丸テーブルに向かい合って座った。


「……」

「……」

「……」

「……アキさん」


しばらく言いにくそうにしていたルリちゃんは、意を決したように俺を正面から見据え、そう切り出してきた。


「うん、何?」

「失礼だとは思いましたが、あなたのことを調べさせて頂きました」


そういえば、あの時ルリちゃんは「調べれば分かる」みたいなことを言ってたような……。

調べるって俺のことだろうか。それとも……。


「ああ、別にいいよ。そんなこと。で、何か分かった?」


俺も自分のことを調べてみたことはあるが、ルリちゃんが調べた方がきっと確実だろう。


「それは……」

「?」

「正直に言うと、一週間前に調べは済んでいたんです。それをあなたに伝えるべきか迷っていました。……ですが、これはあなたの問題だと思いますから、伝え ておくことにします」


そう言いながらルリちゃんは、持っていた鞄から一枚の紙を取り出した。


「まず、これを見て下さい」


受け取ってそれに目を落とす。

そこには、俺の個人情報が記されていた。










テンガ・アキ。

年齢:17歳。

性別:男。

生年月日:2184年2月26日。

血液型:A型(RH+)。

身長:175cm。

体重:55kg。

出身地:火星。

住所:不定。

父:テンガ・クロオ(故人)。

母:テンガ・アイ(故人)。

勤務先:なし。

連絡先:なし。











その個人情報は確かに俺のものだった。なぜなら、俺個人で調べたものと全く同じだったからだ。

たいしたことは記載されていない。それなのにどうしてルリちゃんは言い淀んでいたのだろう?


「これが、どうかしたの?」

「アキさん、あなたもこれと同じ情報を見つけ出しましたよね?」

「ああ。でもこれ、すごく簡単に見つかったよ。ルリちゃんでもこれだけしか調べられなかったのかい?」

「それです」


ルリちゃんは犯人の失言を指摘する探偵のように鋭い言葉を放った。


「どういうことだい?」


ならば俺は犯人役を買って出るべきなのだろうか。


「私が調べたとき、これには極めて厳重なロックがかけられていました。おそらくアキさん以外であのロックを解除出来たのは私だけでしょう」

「でも、俺のときは……。何がどうなってるんだ?」

「まだ分かりません。ですが、そこに何者かが介入していることだけは確かです。……生きていればアノ人が一番怪しいのですけど……。それに、私がどれだけ 調べても、これだけしか探し出せなかったことも不可解です」


それは、これ以上の情報は存在しない、という意味なのだと判断して良いのだろうか。


「……アキさん」

「?」


顔を上げると、ルリちゃんは今まで見たこともないような表情をしていた。

それは、悲哀のような、憐憫のような。そして、どこか希望を持ったような……。















「あなたは、誰なんですか?」















「っ!」





俺は、答えることが出来ない。





答えなきゃいけないのに。





どうしてどうしてどうしてどうしてどうして。





俺は、俺は……。





俺ハ……ダレダ?





「……ルリ……ちゃん……」


俺は、何を言いたかったのだろう。

言うべき言葉があったかどうかは分からない。が、俺は口を開こうとした。


「はいよっ! ラーメンお待ちっ!」


そこへ、ホウメイさんがラーメンを運んできた。何故かチャーハンと餃子までついている。


「そいつはサービスさ。なんだい、ルリ坊もアキ坊も。そんな辛気臭い顔してんじゃないよ。これ食べて元気出しな」

「……ありがとうございます」

「……」

「さ、冷める前に食べちまいな」


ホウメイさんのラーメンはどこか懐かしく、美味しかった。










そのころ……。


「ふふっ。流石ね、ホシノ・ルリ。あれを突破するなんて。それに、気付き始めているわね。でも……これであの子はアキくんを手放せなくなるわ。これでい い。これで、いいのよ……」















<あとがき……か? これ>

こんにちは、時量師です。

またまた感想を頂きまして、それを読んでこの第八話を書き上げることが出来ました。ありがとうございます。

前回登場したジンくんですが、黒い鳩さんの話を読んで勉強不足を痛感しました。関西人でもない者がみだりに関西弁のキャラクターを出すべきではありません でしたね。反省。

実は時量師は京都が大好きなので、黒い鳩さんと同じに京都弁のキャラクターを出そうと思っていたのですが、どうしましょう? ううむ。

さて、今回。前回までが少しコメディに偏っていたので一度シリアスっぽくしてみました。

アキくん、本当に何者なんでしょうね? 謎が明かされるのはまだまだなのですが。

ああ、今日も執筆出来てよかったです。

では、次回も読んでくださいね。










感想

本当に頭が下がります、わたしゃ、なんとすりゃいいのでせう? 

取り合えず感想を書きなさい。

ごもっとも、アキ君今回は正体に迫られてますね。しかし、謎の少女一番不思議なのはどこから見ているのか? です。

細かい事を気にしますね。決まって いるでしょう、アキ君に仕掛けがしてあるんです。

ぶっ、そういうナノマシンだと?

さあ、パターンは分りませんが、影 から見ているにしては堂々と話しすぎです。どこにでも盗聴器を仕掛けられると言うのも変ですし、残るは…というわけです。

まあ、人の謎解きを余りするものじゃないし、この辺りでやめとこう。でも関西弁の事は言いすぎでしたね。申し訳ない。

関西弁は適当にやっても問題があるわけじゃありません。このサイトでこんなことをつっこむのは貴方ぐらいです。


ごめんなさい(汗)

今後は、一回ミスするたびに、光に なってもらいます。

光にって、それはネタが違う!

そうですね、ちょっと影響されてる かも…(ニヤリ)


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