―――――金曜日。
「ハイ、それでは今日はここまでです。日直の村上さん、号令をお願いします。」
「きりーつ、礼、さようなら!」
『さようならーーーー!』
号令と共にクラスメイト達が三々五々と散っていく。私も帰り支度をして、教室から出ようとした。その直前、長瀬の後ろを通りかかる。そのすれ違う一瞬に声をかける。
「―――――今夜の事、頼んだぜ。長瀬。」
「―――――承知。」
長瀬の返事を聞きながら、教室の扉へ向かう。
今日の昼休みに、ネギ先生とマクダウェルの会話が聞こえた。決闘は今日らしい。だが、何時にどこで、とは一切言っていなかった。どうやらマクダウェルが最初に合図をするらしいが、どう考えてもまともな“合図”にはならないだろう。校舎一つまるごと爆破しそうだ。
「あれ、長谷川さん、帰っちゃうの?」
教室から出ていこうとすると、後ろから声がかかった。柿崎だ。振り返ると、和泉、釘宮、椎名もこちらを見ている。たぶんあいつらのバンド関係のことだろうな。
「あぁ、ちょっと用事があってな。急いでるってわけじゃないんだけどさ。」
「ふぅん…。あのね、今度の麻帆良祭でライブがあるんだけど、曲目について相談したくて、話しながら超包子で一緒に食べようとおもってたんだけど、その時間も無い?」
ふむ。早めに部屋に戻って装備を整えておこうかと思ってたけど、腹ごしらえをしておくのも悪くはない。それに、クラスメイトが音楽のことで私を頼りにしてくれているのだ。それを無碍にするなんて有り得ない。マクダウェルもそんなに早くおっ始めたりしないだろう。
「ああ、それぐらいなら別にいいよ。行こうか。」
「ホント!?用事あるのにごめんね〜。早めに終わらすから!」
「ゆっくりでいいよ。大切な曲目だ。じっくり考えて決めた方がいいだろ?」
そう言いながら4人のもとへ近づいた。その際今度はのどか達図書館組とすれ違う。
「今日は図書館来れそうにないですか?」
のどかが寂しそうな目と声で話しかけてきた。後ろで早乙女がニヤニヤ笑っている。無視だ無視。構ったら最後、クラス中を巻き込む騒ぎになりかねん。
「ああ、悪いなのどか―――――後、今夜は一歩も外へ出るなよ?」
「―――――――――!!ハイ、分かりました。」
聡いのどかのことだ。この一言で察してくれただろう。
頼んだぜ、のどか。背中はお前に預ける。
#12 ボーダーオブライフ
あの後超包子に行くことになったはいいが、言いだしっぺの柿崎たちがチア部の部室に行く用事があるらしく、先に行って席を取っといてくれと言われた。そんなわけで今私は和泉と共に歩いている―――――白い燕尾服を着て。
理由は簡単。超包子に行く前に仕立屋に行って服をもらい、その場で試着したのだ。すると一緒に来た和泉が手放しで絶賛し、美砂たちにも見せよう!と言って無理やり私を引っ張ってきたのである。この服は今夜の戦いのためにあつらえた勝負服なので、それを衆目に晒されるというのはかなり恥ずかしいものがある。実際道行く人が結構振り返って私を見るし。
「それにしても、服一つでえらい変わるもんやなぁ…。長谷川さん、すごく凛々しいわ。別人みたいや。」
和泉が感嘆の声を上げる。仕立屋を出てからずっと私を褒めちぎっているが、それが余計に恥ずかしい。連れてくるんじゃなかった。
「でもホンマにかっこええなぁ。宮崎さんが惚れるのも分かるわぁ。」
「ちょっと待て。誰だその妄言吐いたの。」
「早乙女さん。」
無言で携帯を取り出し、すでにテンプレと化した文章―――「早乙女シメとけ」―――をのどかに送る。ここ数日でこのメールを何回送ったことか。いい加減懲りろよ早乙女。その度にのどかにお仕置きされるんだから。
「そういえば、宮崎さんが髪切ったのって、千雨さんが何か関係しとるん?」
「…いや、私も初めて見て驚いたし。」
無論大ウソだが、「宮崎のどか前髪ばっさり事件」は後世まで語り継がれるであろう大パニックとなったので、自分のせいですとは言えない。
聞くところによると、綾瀬は一目見た瞬間気を失ったらしい。そして夢でないと分かった瞬間、私に罵倒の電話をかけてきた。私が原因だと勘付いたようだ。その直後電話口から鈍い音が聞こえて綾瀬の声が途切れ、のどかが電話を代わるという恐ろしい事態になっのだが、それについて早乙女は何もしゃべらないし(ずっと目をそらしていたが)、綾瀬は私に電話したこと自体忘れていた。
…うん。のどか関係のことはやっぱり全部わたしの責任になるんだよなぁ…。ホントになんであんな子に育ってしまったんだろう。
そうこうしているうちに超包子が見えてきた。和泉が注文をしに行くそうなので、私は席を取りに行くことにした。席を見つけて荷物を置いていると、料理を持った和泉が戻ってきた。ほどなくして、柿崎達も合流する。
「いやー似合ってるよ長谷川。」
「うん、すごいカッコいい!」
「だからさ、こっち向いてほら一枚!」
「うっさい!その撮った写真どうするつもりだ!」
着いた瞬間過剰反応した柿崎たちは、燕尾服姿の私を写真に納めようとしやがったので、全力で阻止する。教室でばら撒かれるのは目に見えてるし、教室でこの格好させられるのも確定だ。…例え時間の問題だとしても。
「もー!何でそんなに嫌がるかなー!みんな喜ぶのにー!」
「私は嬉しくねぇんだよ!いいからさっさと曲順決めるぞ!ほら席つけ!」
渋々といった表情の3人を席に着かせ、飲茶を頬張りながら曲順を考えた。4人はあーでもないこーでもないと言いながら話し合っていた。私はそれを傍から聞いて、アドバイスを送る程度だ。私自身は学園祭でライブを開いたりしたことはないが、4人の様子から察するに、きっとすごく楽しいのだろう。青春を費やす甲斐があるほどに。いつもは騒がしい連中だけど、きっと舞台上では燦々と煌めくのだろう。
―――――私には眩しすぎる、青春の憧憬。そうだ、これを崩すことは誰にも許されない―――――
「ちょっと長谷川?どうしたの?」
気付けば、釘宮の顔が目の前に来ていた。他の3人も私を見ている。どうやら自分の思考に埋没し過ぎたようだ。不甲斐ない。この私ともあろう者が。
「悪いな。ちょっとボーっとしてた。3番目の曲の話だっけ?」
「イヤ、最近美砂が伊達眼鏡買ったって話。」
「曲順はどうした。」
いつの間に雑談に移行してやがったんだお前ら。柿崎もいつの間にか件の眼鏡をかけていた。
「なんか彼氏に眼鏡が似合うんじゃないかって言われたんだって。」
ちょっとむくれた感じで椎名が言葉を続ける。そういやこいつ彼氏持ちだっけ。ウチのクラスでは唯一なんじゃないだろうか。…私は一生出来ないだろうな。何せ前世が男なわけだし。
と、ここで釘宮と和泉が視線を私に向けていることに気付いた。
………嫌な予感がする。
「ねぇ〜、長谷川〜?」
「…何だよ。」
「眼鏡、かけてみない?」
やっぱりそう来るか!
無論断る―――と言いたいところだが、4対1。私の意見はまず間違いなく封殺される。ここはさっさと諦めたほうがいいだろう。どうせ眼鏡かけるだけだ。大して何かが変わるわけでもない。
「…分かったよ。かければいいんだろう?ほら、さっさと貸してくれ。」
柿崎の手から伊達眼鏡をひったくるように奪い、自然な流れでかける。両目とも視力2.0の私が眼鏡をかけるというのには、個人的には違和感しか湧かない。
「「「「おおおーーーーーっっっ!!」」」」
顔をあげた瞬間、4人から歓声があがった。どうやら似合ってるらしい。とてもそうは思えんが。
「いやびっくりした!かなり似合ってるよ長谷川さん!いやー白の燕尾服といい眼鏡といい、ここまで似合うなんて!実はファッションセンスの塊だったりしない!?」
やめてくれ。そして絶対にそんなこと教室で口走らないでくれ。次の日からあだ名が「3−Aのファッションリーダー」になりかねない。
「ほらこれ。自分で見てみなって。」
そろそろ切れてもいいよな?と思い、そうしようとした直前、椎名から手鏡を差し出された。渋々ながら、鏡に映る私を見た。
そこには伊達眼鏡をかけた、普段見慣れない私の姿があるだけだった――――――それだけなのに。
何故だか、思い出した。あの、真っ赤なコートの平和主義者を。平和とは程遠い力を持った、あの化物を。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードを――――――――――思い出した。
(それって、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの生き方とそっくりじゃないか?ラブアンドピース、ってさ。)
夢の中でのガントレットの言葉が思い出された
人間が皆素晴らしいだなんて思っていない。事実、私は救いようのない外道だったのだから。あの砂の星は、そんな綺麗事とは真逆の世界だった。
でも、あの男は。ラブアンドピースなんて夢物語を掲げて、百何年も星中を駆けずり回った。誰もが嘲笑った。無論、『俺』もだ。それでもあの男は折れることはなかった。裏切られた回数は数えきれないだろう。人間の醜さだって、何度も目の当たりにしてきたはずだ。それでも、決して折れなかった。どこからその不屈の意志が湧きあがってくるのか、不思議でしょうがなかった。
でも、今なら分かる。あの男は――――――――――
「ちょっと長谷川!?どうしたのよ!?」
椎名の慌てる声で現実に引き戻される。いけない、また思考に埋没していた。今度はみんな顔が心配そうだ。
「ああ、ゴメン、ちょっとまた考え事してて…。心配かけたな。」
「ホントだよ。急に鏡見てウンともスンとも言わなくなって、こっちの呼びかけにも全然反応しないし…。」
「大丈夫なん?まだ体調悪いんと違うの?」
釘宮や和泉の心配そうな声。何でもないことなのに、心配してくれる人たちがいるというだけで、不思議と心安らかな気持ちになる。
「…この前私が倒れた時も、心配だったか?」
「あったり前じゃん!いきなり顔真っ青にして倒れて、死んじゃうんじゃないかって皆心配してたんだよ!?ホントに大丈夫なの?最近ちょっと体調おかしいんじゃない?」
ああ、ホントにいいやつらだ。出会えて良かった。平和で、愉快で、心穏やかに過ごせる、笑顔の絶えない世界。きっとあの平和主義者は泣いて喜ぶだろう。
だからこそ、この胸に沸々と闘志が湧きあがってくる。
…ああ、そういえば、あの男も眼鏡をかけていたっけ。
「柿崎。この眼鏡、買い取らせてもらっていいか?」
「え…べ、別にいいけど…。100均で売ってるような安物だよ?」
「構わないよ。」
眼鏡をかけたまま言葉を返す。あの男の真似でしかないが、雰囲気だけでも出せていればいい。きっとまた、ガントレットに笑われるだろう。
私はサックスを取り出し、席を立つ。すぐ後ろの机が空いているのを確認して、その上に飛び乗った。
「ちょ、長谷川!?」
慌てる声を無視し、大袈裟かつ優雅に一礼する。
「―――――紳士淑女の皆様方。誠に唐突ではございますが、不肖長谷川千雨、一曲演奏させていただきます。どうぞご静聴くださいませ。」
別に大した意味はない。これから起こる戦いの前の、単なる景気づけだ。
マウスピースを口にくわえ、息を吹き込む。最初の一音を吹き鳴らすと同時に、超包子の店先の全ての目が私の方に向いた。
大音量のバリトンで満たされる世界。私に注がれる視線を感じる。聞く者全てを魅了させる。店内で働く四葉さえも、手を止め耳を傾けているのが聞こえた。 店の外からも、人が寄ってくるのが分かる。前世のような、感情のこもっていない、傷つけるためだけの音楽ではない。この麻帆良で得た思い出を載せつつ、感情を目いっぱい込めて吹く曲だ。かつてのどかが言ったように、一人でも私の音楽を聞いて幸せな気持ちになってくれれば、それだけで私の心は満たされる。
次第に客もノッてきた。リズムに合わせて手拍子が刻まれる。目の前の和泉達は最前列ではしゃいでいる。
さあ、今はただ奏でよう。この、愛すべき日常にしばしの別れを告げるこの曲を―――――
side out
初めにその異変に気付いたのは近衛近右衛門だった。
午後7時45分、そろそろ夜間巡回が始まる時間かの、と思っていたところ、一本の電話が入った。相手は魔法教師の一人だ。
「ふむ、瀬流彦君か。どうかしたのかの?」
『ハイ、先ほど変電所の付近を通りがかったのですが、人除けの符が四方に貼ってありまして。誰が貼ったか不明なので、ひょっとして学園で貼ったものかと思って連絡したのですが…。』
「ふむ…変電所を使うという報告は挙がっとらんのう…。まぁいいわい。剥がしてしまってかまわん。」
『ハイ、了解し…』
「瀬流彦君?どうかしたのかの?………瀬流彦君!?」
そのまま電話は途切れた。学園長はすぐさま応援を出そうとしたが、また電話が鳴り響いた。近右衛門はすぐさま受話器を手に取った。
「…もしもし。」
一瞬の沈黙。しかしその一瞬で、近右衛門は誰が電話をかけてきているのか察した。そして、何が起こっているのかも。何が起ころうとしているのかも。
『…黙って見ていろ、ジジイ。』
それだけ言い残して電話は切れた。
近右衛門は青ざめる。今の声は間違いなくエヴァだ。そして、エヴァは今日封印を解くつもりだ。今の二つの電話から察するに、その方法はおそらく―――――
「学園長、そろそろ夜間巡回のお時間ですが…。」
「葛葉君、全ての魔法教師および魔法先生に緊急通達じゃ!!麻帆良学園の変電所周辺に一歩たりとも近づくな!!そしてネギ君を――――」
瞬間。とてつもない轟音が、学園都市中に響き渡った。
「風速0,1メートル。風向き南南東。気温9,7℃。湿度10,1%。天気は快晴。
―――――状況、オールグリーン。」
茶々丸は校舎の屋上に居た。しゃがみ込むその体の右側には、およそ2メートルはあろうかという鉄筒を持っていた。
否、単なる鉄筒ではない。銃身はまるでライフル銃のようなフォルムで、長さは1メートル以上、太さも並の鉄パイプを遥かに超える。銃床はエアコンの室外 機ほどの大きさがある。全体的に見ると、ライフルというより高射砲に近かった。しかし、見る人が見ればこう言うだろう―――――88mm砲だと。
「マスター。最終発射準備完了しました。距離337メートル。周辺50メートル区域内、マスター以外の生体反応確認できません。」
『了解した。茶々丸。私とチャチャゼロもこれより退避を行う。カウントダウンに入れ。』
「了解しました。これより発射カウントダウンに入ります。
―――――発射、10秒前。」
エヴァンジェリンは自らの魔力の封印が、麻帆良学園の電力を利用した結界によるものであることを知った。そしてその電力が途切れれば、結界の機能もダウンすることが分かった。
ならばどうするか?一斉停電を狙って魔力を取り戻すか?しかし自分がかつての力を取り戻す機会が与えられた状況によるものなのは、何となく気に入らなかった。どうせなら自分から作った状況により取り戻したいのだ。そして辿り着いた結論は。
麻帆良学園に電力を供給する変電所を破壊し、停電を引き起こすことであった。
「9、8、7―――――」
しかしこの作戦には一つ欠点がある。それは、どうやって変電所のような大きな施設を破壊するかということ。
力を封じられているエヴァでは当然無理なので、その役目は必然的に茶々丸が担うことになる。しかし、チマチマと壊していたのでは、途中で邪魔が入る可能性も大きいし、その間に他のルートから電力が供給されてしまうかもしれない。故に必要なのは、ミサイルのような大威力の兵器。一撃で変電所を吹き飛ばす破 壊力。
そしてエヴァは、超にそれを可能とする兵器の開発を依頼した。
「6、5、4―――――」
今茶々丸が持つ大砲こそがそれである。
この巨砲の銃身内には二本の電気伝導体製レールが敷かれている。このレールの間に、同じく電気伝導体製の弾頭を挟みこみ、レールに電気を流す。そして弾頭とレールの間に電磁誘導を発生させることで、通常より遥かに速いスピードで弾頭を撃ち出す。
様々な問題や課題があるため、いまだ実用化段階に至っていない、SF的兵器。それを、超の持つ未来の科学力が現実の物とした。
これこそが、今回のエヴァの作戦における最大の鍵にして、間違いなく世界最強の兵器―――――。
「3、2、1――――――。」
88mm電磁加速高射砲―――――それが、茶々丸の持つ武器の名前だ。
そして今―――10秒間の充電が終了した。
「―――――発射。」
閃光が麻帆良学園の上空を埋め尽くし、まるで真昼のように照らされた。
まっすぐ伸びた閃光は一瞬で変電所に到達し―――――貫いた。
轟音が学園中に響き渡る。変電所が爆炎に包まれ、壁やガラスの破片が爆風で吹き飛ばされる。着弾と爆風の余波で周囲の柵が根こそぎ引き抜かれていく。
そして―――――変電所の電塔が次々と倒れていく。それと共に、学園に電気を供給する電線が千切れていく。
その外側で、エヴァの高笑いが響いていた。
「ハハハハハハハハ!!素晴らしい威力だぞ超鈴音!!見ろチャチャゼロ!私を、この私を長年縛り続けていた封印の元凶が、今や跡形もない!これで、これで、これで!!フハハハハハ!!ハハハハハハハ!!」
「オウオウ、テンションメチャクチャ高イジャネーカゴ主人。ダガ気持チハヨク分カルガナ。ケケケケケ!!マサニ煉獄ノ原風景ダナコリャ!!」
主従が目の前で紅蓮の炎に飲み込まれる変電所を見ながら高笑いを上げていると、後ろから物音がする。エヴァとチャチャゼロは笑みを崩さぬまま振り返った。
そこには、十数名の魔法教師と生徒がいた。
「ククク、どうした?雁首そろえて血相変えて。野次馬か?それとも火事場泥棒か?」
「黙れこの吸血鬼め!!」
「とうとう本性を現したか『闇の福音』!!」
「正義の名の下に、この場で粛清してやる!!覚悟しろ!!」
全員が全員怒り狂い、エヴァを滅ぼさんと杖や銃を構えている。しかしエヴァは余裕の笑みを崩さない。それどころか、いきり立つ彼らを見下し、軽く鼻で笑った。
「フン、状況判断も碌に出来ない甘ちゃん共が。笑わせるな。」
「何だと!?」
エヴァの一言一仕草に、さらにボルテージが上がっていく。しかし彼らはいまだ気付かない。今彼らが、どんな状況に置かれているのかを。
「私を封じる忌々しい結界は崩れた。私を縛る枷は存在しない―――――故に、私を止めれる者もいない。」
その言葉が終わるや否や、学園都市が闇に包まれた。電力供給が完全に途絶え、学園の全機能がダウンした。
それと同時に、膨大な魔力がエヴァの体から溢れだす。それは局所的な暴風を巻き起こし、魔法教師や生徒は吹き飛ばされないようにするので精一杯だった。
しかしここで吹き飛ばされなくとも、結果は変わりない。むしろ吹き飛ばされていたほうがよっぽどましだったろう。今から彼らが相手にするのは、魔法界の伝説そのものなのだから。
「よくぞ私の復活に立ち会ってくれた―――――私の真の実力、その身でとくと味わっていけ、三下共。」
前菜にはちと足りないがな、と嘯きつつ、口が裂けんばかりの笑顔を見せた。
side 千雨
「………始まったか。」
昼間のように明るく照らされた一瞬。響く轟音。突然切れた電気。罵声と悲鳴。そして先ほど出ていったネギ先生―――――。
間違いなく、エヴァが行動を起こしたのだろう。ならば、私も行かなければ。
武器は全て持った。サックスの調子は万全だ。体に不調はない。
サックスケースを背負い、寮の玄関まで歩いていく。そこには二人の人影があった。長瀬と、のどかだ。
「…行くでござるか。」
「ああ。打ち合わせ通りに頼む。」
「承知。」
その言葉を最後に長瀬は偵察に飛び出して行った。ピョンピョンと飛んで行くのをのどかと二人で見送った。
私も、行かないとな。
「…じゃあ行ってくるよ。」
のどかに背を向け、私も寮から出て行く。
「千雨さん!」
―――――と、数歩も歩かないうちにのどかから声がかかった。
「…暖かいココア用意して待ってますから、ちゃんと帰ってきてくださいね?」
心配そうなそぶりを見せず、明るい声を出すのどか。内心はきっと不安でいっぱいだろう。でも、私を心配させないよう、気丈に振舞っている。千雨さんの背中は私が守ります―――そんな強い決意を感じた。
なら私も、それに応えなくちゃな。
「砂糖はちょっと多めで頼むよ。疲れて帰ってくるから、美味しいやつ期待してるぜ?」
「了解です♡いってらっしゃい!」
のどかに送り出され、私は戦場へと向かう。大丈夫だよのどか。今夜中に必ず帰るからさ。
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