コードギアス反逆のルルーシュR2
              Double  Rebellion














TURN-23 ダモクレスの空(前編)


甚大な被害をルルーシュの策によって被った黒の騎士団は、大混乱に陥りながらも非戦闘員や負傷者の避難などを始めていた。
その戦場では、フレイヤがこの戦域を支配している。
またフレイヤの爆発で多くの命が消えていく。

「また、フレイヤが……!」

黒の騎士団のカレンは味方であるにも関わらず、その状況を見て顔をしかめた。
一方、ルルーシュ皇帝のブリタニア軍ではフレイヤに対する対処に追われていた。

「トワニー艦隊消滅しました!作戦は!?」

セシルの切羽詰った声に、ルルーシュは動じる事なく淡々と指示を出す。

「作戦は継続する。このアヴァロンはこのまま後退。ダモクレスとの距離を保て。各部隊は波状攻撃をもってフレイヤを撃たせ続けよ!」

そして、フレイヤを放ったダモクレスでは、その発射スイッチを握ったナナリーの手が震えている。

「こんなに……あっさりと……私が………」

覚悟はしていたものの、その重さは想像以上だった。
そこにシュナイゼルからの通信がまた入った。

『ナナリー、次の発射準備ができたよ』

「は、はい……」

すでに4発目であった。
その一発一発でいったいどれほどの人間が塵と化したのか。
だが、ナナリーはそれでも発射を拒むことはしない。
唇を噛み締め、顔は蒼白になりながらも、言われるままにスイッチを押した。

























5発目のフレイヤで再び大量の艦船とナイトメアが消えていく。
大量の命と共に。

「戦術が意味を成さない……」

その状況を見ながらルルーシュが呟く。

「だが、しかし!懐に入りさえすればフレイヤは使えまい!」

そう、フレイヤは間断なく連射できる兵器ではない。
要は1発ごとの間隔の間にダモクレスを叩いてしまえば、相手を沈黙させることも可能なのだ。
サザーランド・ジークのコクピットで叫んだジェレミアが声と共に、ハーケン、ミサイル、キャノン砲をダモクレスに向けて一斉発射させる。
到達するかと思われたその攻撃はダモクレスの周囲に展開された壁によってはね返された。

「ブレイズルミナス!」

しかし、その間隔で攻撃を防いでいるのがダモクレスのブレイズルミナス・シールドであった。
フレイヤを撃たない間のダモクレスはこれを全面に展開し、まるで甲羅に閉じこもる亀のように守りに入ってしまう。

「あんな巨大な……」

ルルーシュの隣で待機していた咲世子がダモクレスを包んでいるブレイズルミナスを見て驚いたように呟いた。
そんな咲世子にセシルが説明をする。

「あのダモクレスは絶対の制空権を握るために造られたものですから」

そして、セシルが戦域のパネルと画面に表示されたダモクレスの予測進路を見て再度報告する。

「このまま高度を上げられると、こちらからは手が出せなくなります!」

それを理解していたルルーシュは、すぐにスザクとライに通信を繋げる。

「くっ!スザク、ライ。あの守りを突破できるか!?」

『やってはいる。でも相手の出力がケタ違いで……』

そう、ダモクレスのブレイズルミナスはナイトメアに装備されているものとは、ケタ違いの強度を誇る絶対防壁だ。
その原因は単に出力の元となる動力のパワーの違いから来ており、それゆえ強度の差が出ている。
たとえ、圧倒的な攻撃力を持つランスロット・アルビオンといえど、あの防壁を抜く事は難しい。

『この状態なら、フレイヤは撃てないはずだけど……』

確かにブレイズルミナスの防壁を展開している間は攻撃がないのだが、かといって状況を打開する手がなかった。
そこで、ライの返事がまだない事にルルーシュは気づいた。

「ライ、おまえは?」






















無論、ライも通信でルルーシュの声は聞こえている。

「すまない。こっちは今ナイトオブシックスと取り込み中だ」

『……そうか。なら、決着をつけ次第、ダモクレスの攻撃を開始してくれ』

「わかった」

ライは通信を一旦切ると、目の前のモルドレッドに視線を戻した。
フレイヤが発射されている間も互いに動かないままだったが、ここで天月が動いた。
一気にモルドレッドに突撃する。
正面からの神速の突撃。
それをモルドレッドはシュタルケハドロンで迎撃する。
天月はモルドレッドのビームを寸前で急上昇して回避した。
そして、再度接近する。
モルドレッドはそれをさせまいと、機体の各部からミサイルを放つ。
放たれたミサイル群を天月はかわしつつ、ライは通信をモルドレッドに繋げた。

「今の君に僕を止める力はないよ」

ライが言いながら、天月に刀を左薙ぎに振るわせる。
それをモルドレッドが防ぎながら、アーニャも反論してきた。

『何かに頼る。弱い男になんか言われたくない』

ライはアーニャの言葉に表情を変えず、機体を操作する。
そして、ライも淡々と言う。

「否定はしない。だが、君1人の力もたかが知れてるよ。そして、今1人きりの君に僕は負けない」

また放たれたシュタルケハドロンを天月は回避する。
下方から接近した天月は左手を刀の峰に添えて、刀を切り上げる。

「月翔閃!」

それをモルドレッドはブレイズルミナスを展開する事でなんとか防いだ。
衝撃により距離が離れた事で、ライは口を開く。

「悪いが、早々に決めさせてもらう。時間がある訳ではないからね」

神速の速度で天月が突っ込もうとした瞬間だった。
モルドレッドが後の先を取り、シュタルケハドロンを発射する。

「!」

天月が発射されたビームに呑み込まれる。

「記録…終了」

アーニャはそれをコクピットで見て呟いた。

(確かめる事はできなかったけど……これでいい。……これで)

少し悲しそうな顔になったアーニャだったが、そこで唐突にコクピットに警告音が響き渡った。

(!?…接近されてる!?)

咄嗟に横を振り仰いだアーニャの視線の先には、先ほど仕留めたはずの天月がいた。
物凄い勢いで横回転しながら、こちらに迫っている。

「っ!!」

咄嗟にアーニャはモルドレッドのブレイズルミナスを展開させようとした。
しかし、あまりにも突然の事で動揺し、もたついてしまったためブレイズルミナスを展開するためのボタンを押すタイミングが遅れてしまう。

「奥義五の型『旋月』」

天月の凄まじい横回転による遠心力を利用した右薙ぎが振るわれる。
モルドレッドはこれをブレイズルミナスでなんとか防いだが、展開のタイミングが遅かったために、既に刃がブレイズルミナスに喰い込んでいた。
そして、今天月が使っている刀は対ブレイズルミナス武器であるブレイズルミナスソードだ。
それゆえ防いだのも一瞬だった。

「はああ!!」

天月が一気に刀を振り抜く。
それにより、展開が不十分だったブレイズルミナスは易々と切り裂かれ、それと共に刀の軌道上にあったモルドレッドの頭部がごっそりもって行かれる。
その余波でコクピットの上部が破損し破片がバラバラと落ち、機体も揺れる。

「く、くぅぅ!」

アーニャは生じた激しい揺れになんとか耐える。
そして、そのすぐ後。

「記録するのは、君の方のようだな」

「っ!!」

ライの声が直接聞こえたので、アーニャはコクピットの破損した上部を見上げると、そこにはライがアーニャに直接刀を突きつけていた。
コクピットの上部が破損した事で、パネルがなくともコクピットが丸見えの状態だった。
加えて、互いを隔てる壁がないので、ライの姿が直接見えるだけではなく、ライの刀もこのままではアーニャに届く。
ライは、天月の制御を一旦アカシックシステムの大本である星龍に預けて、コクピットから飛び出し、モルドレッドの頭部があった場所に着地したのだ。
今モルドレッドが浮いたままでいるのはフロートだけでなく、天月が支えているおかげでもある。

「記録しておくといい。君に敗北をもたらした、記念すべき男の名前だ」

それにアーニャは顔をそらした。

「記念……。関係ない。どうせ私には、記憶が……」

そう言って涙を流したアーニャを見たライはそこで先ほどの冷たい表情から一転、柔らかい微笑を浮かべた。

「やはり、そうだったか」

「え……?」

その様子にアーニャが背けていた顔を上げた。

「君がシュナイゼルに付いたのは、失った記憶を取り戻したかったからだろ?」

「……うん。ライは敵で、トウキョウ租界が消失した後、いなくなっちゃって……。どうしていいか考えた時には、もう記憶の事しか考えられなかったか ら……。だって、ライがいなくなって……再び現れた時は悪逆皇帝ルルーシュの騎士で……!」

普段無表情な彼女にしては、珍しく大粒の涙を流しながら自分の感情を一つ一つ吐き出すように言葉を紡ぐ。

「私、もうどうしていいかわからなかった……!ライといれば、記憶の事気にならなかったのに……、ライがどんどん離れていってしまうから……だか ら……!」

ライは泣きながら自分の心の内を打ち明けるアーニャに、少し申し訳なさそうな表情になったが、すぐに表情を戻した。

「じゃあ、君が本当にほしかったものは?」

「え…?」

「自身の失った記憶?それとも何か他のもの?……今一度言ってみてくれ。本当に君が望んだものは何なのか。そして、君が今望むものは何か」

「……私は」

ライはアーニャの答えを聞くと、口の端を吊り上げてフッと笑った。
そして、ライは彼女に審判を下した。
















「では、アーニャを頼みます。ジェレミア卿」

「うむ、了解した。君は君の務めを」

「ええ、わかってます」

ライは天月のコクピットにまた飛び乗った。
その隣にはいつの間にかジェレミアの乗るサザーランド・ジークがいた。
ライがモルドレッドの頭部を吹き飛ばした後コクピットを出る前に彼をここに呼んでおいたのだ。
サザーランド・ジークはハーケンでモルドレッドを支えるようにして、拘束している。
そして、モルドレッド操縦者のアーニャは半壊したコクピットで気を失っている。
その彼女の姿をライは一瞥すると、天月を駆りアヴァロンの元に向かった。

























その頃主戦場では、まだフレイヤの攻撃は続いていた。
発射されるごとにルルーシュ軍の艦船やナイトメアが消えていく。
そして、その状況の中、ダモクレスに通信が入った。

『シュナイゼル!人質ごと消すつもりか!?』

ダモクレスの通信パネルに、阿修羅のごとき形相になった黎星刻の顔が映っている。
シュナイゼルはそれを受け流す。

「黒の騎士団が敗れた今……」

『まだ負けてはいない!』

それは事実であった。
ナナリーがフレイヤを次々と撃ち込むその間、星刻はルルーシュのフジ爆破策によって散り散りになりかけた黒の騎士団の残存兵力を終結させ、ようやく軍の再 編に成功しつつあったのである。
シュナイゼルは顎を撫で、「ふむ」と呟いた。

「では、10分待ちましょう」

『たった10分!?』

普通に考えればそれなりに長い時間のように思えるが、これほど大規模な戦場で10分となると相当短い。
正直これは無茶ぶり以外の何ものでもなかった。

「反撃の位置取りをしたから、こちらに連絡を入れているのでは?」

『……わかった。10分だな』

忌々しげにシュナイゼルの顔を睨みつけ、すぐさま星刻の通信が途切れる。

「次弾発射までの10分を高く貸し付けたものですね」

こちら側でそう言ったのはカノンだった。
シュナイゼルは小さく肩をすくめる。

「戦後処理の手を打っただけだよ」

「黒の騎士団はもう必要がないと?」

これはディートハルト。
シュナイゼルは淡々と言った。

「集合体としての軍事力に何の意味が?」























旗艦アヴァロンの艦橋で、ルルーシュはついにその決断を下した。

「残存戦力をこのアヴァロンを中心に集結させろ。人質ごとダモクレスに突撃をかける」

「よろしいんですか?」

そう問い返してきたのは、先ほど艦橋に入ってきた旧キャメロット主任ロイド・アスプルンドだった。
彼の瞳は、こんなときでも飄々としたままだ。
それをルルーシュはちらりと見やってから、ロイドの問いに応じた。

「お前が戻ってきたということは、目処がついたんだろう?」

「あとは陛下とライ君にかかっていますがね」

ロイドがそう言い、ルルーシュはそれに対して頷いた。
2人の様子を見守っていたセシルが全軍に通達した。
ライの天月、スザクのランスロットを始め、方々に散っていた生き残りの部隊がアヴァロン周辺に集まってくる。
が、そのときであった。

「っ!?」

不意にアヴァロンの艦橋を襲ったのは鈍い衝撃。
途端に全ての戦略パネルに真っ赤な警告表示が浮かび、警報が鳴り響く。
後方を映し出していた艦外カメラがとらえたのは、黒々とした敵ナイトメア、航空艦の編隊だった。
先頭に青と黄色で染め分けられた一機のナイトメアが一隊を率いて飛翔してくる。

「後ろから!?」

「きゃあ!」

またも揺れた震動でセシルが悲鳴を上げた。
その一隊から攻撃されている。
先頭の青いナイトメア、神虎のコクピットで星刻が叫ぶ。

「必ずや我らの手で!」

「回りこんだのか!星刻!」

そして、その状況をいち早く察知していたライと天月がアヴァロンへの攻撃を阻止しにかかる。

「このアヴァロンは落とさせない!」

持ち前のスピードで一気に肉薄した天月は、刀から蒼破閃を飛ばして、神虎に攻撃する。
それをかわした神虎はハーケンを射出して、天月の刀を絡め取った。
だが、天月がすぐにブレイズルミナスを鋭くする事で絡め取っていたハーケンは千切れてしまった。

「ここで止める!」

「道理なき者などに!」

その言葉を皮切りに互いに刀と剣で切りあう。
しかし、数度切り合ったところで、天月が神虎に蹴りを入れる。
だが、それを神虎は左腕でなんとか受け止めると、逆に蹴りを入れようとする。
それを既に予測していた天月はすぐに身を引き、超神速で背後に一瞬で回ると、刀を上から振り下ろす。
神虎の飛翔滑走翼の左翼と左腕が切り飛ばされる。

「がはっ!!」

その衝撃で星刻は血を吐いた。
そのため、次の行動が完全に遅れる。
また天月が刀を振りかざす。

「終わりだ」

その時、横から急接近する敵がいる事にライは気づいた。
咄嗟に刀を引いて、敵のすれ違いざまの攻撃を受け止めると、旋回して再び接近してきた敵の斬撃を受け止める。
奇襲を仕掛けてきた敵は、ぼろぼろの斬月だった。
先のルルーシュの作戦で、火山弾に被弾したのだろう。
機体の各部から電磁パルスと火花が飛び散っている。

「そんな状態でよく仕掛けてきましたね」

そこで斬月のパイロットである藤堂が呼びかけてきた。

「ライ君!君は騎士団を捨て、位にのみ固執する醜い存在と成り果ててしまった!君の願いはどこにある!」

「僕は明日を望んでいる。ただ、それだけだ」

「今の君が望む明日など…!」

そう言って、藤堂は刀を押してくる。
しかし、天月がそれを弾き、斬月が次に刀を振るうよりも速く斬月の胴を叩き切る。
さらに刀を袈裟懸けに振り下ろして斬月を完全に切り倒す。
そこで、斬月のコクピットに脱出の文字が表示された。

「不覚!」

斬月が爆発する寸前にインジェクションシートが射出された。

「藤堂さん!」

それを千葉の暁が受け止める。
そこへさらに他の四聖剣の朝比奈、卜部、仙波の暁が天月に攻撃を仕掛けた。

「ライ君!君は何故こんな事を!」

未だにライの行動が信じられない卜部はライにそう呼びかけた。
しかし、ライには彼の疑問に応じる気はもうない。

「あなた方に話す事はない!」

言うと、ライは天月を操り、まず朝比奈の暁に超神速で肉迫する。
あまりの速さに虚をつかれた朝比奈の暁は反応が遅れ、次の瞬間には袈裟懸けに切り飛ばされる。
それを見た卜部と仙波の暁が天月を挟み撃ちにしようと迫るが、天月は卜部の斬撃を刀で受け止め、仙波の斬撃を左手の輻射波動で受け止める。
そして、刀の勢いを殺した瞬間に両者の刀を弾き飛ばし、卜部の暁には斬撃を、仙波の暁には輻射波動の手で頭部を握り、輻射波動を叩き込む。
どちらも撃墜はされたが、機体が爆発する寸前に脱出した。
だが、その間に星刻の神虎が天愕覇王荷電粒子重砲をアヴァロン目掛けて発射。
アヴァロンのシールドを貫き、艦を動かしているフロートユニットの一部を破壊する。

「しまった!」

ライはその光景を見て思わず叫んだ。
そして、その被害状況はアヴァロンでも報告されていた。
映像にも被害状況が映し出される。

「第一フロート損傷。損害率75%」

「……落ちるか。このアヴァロンが……!」

フロートを破壊し、アヴァロンの足を止めた星刻の神虎と、その副官、香凛の指揮下にある強襲揚陸艦やその他数機のナイトメアがアヴァロン目掛けて特攻。
分厚い隔壁を破り、艦を肉薄させようとする。

「まだ中には……!」

それをさせまいとライの天月が特攻をしかけようとしている黒の騎士団に攻撃を仕掛けようとする。
その時、一機の暁が目前に割り込んできた。

「待て待て待てーい!」

この声からするにパイロットは玉城のようだ。

「ここから先には行かせねえ!」

と言った瞬間に天月はすれ違いざまに暁の胴を真っ二つに叩き切った。
暁が上半身と下半身に見事に分かれる。
しかし、それで撃墜したわけではなかった。

「俺だってなあ……!意地があんだよ!」

上半身だけになった暁が天月に射撃してきた。
ライは舌打ちをすると、その攻撃を輻射波動で防ぎ、飛燕爪牙を発射して今度こそ暁を仕留めた。
撃墜した暁からインジェクションシートが射出されていく。
しかし。

「間に合わなかった。中に入られたら……!」

今の攻防の間に敵機のアヴァロン内部への侵入を許してしまった。

「白兵戦に持ち込めば勝機はある!動力制御と通信を押さえ、人質の救出に向かう!」

「ツェンツンツゥイー!」

自動小銃と剣を片手にアヴァロンの艦内に飛び降りた星刻の雄叫びに、香凛以下、合衆国・中華の精鋭達が爆発的な歓声でもって応えた。

























再び劇的に戦局は変化した。
ここでルルーシュは即座に決断する。
ルルーシュはさっと衣を払って、その場に立ち上がった。

「ここまで持てば充分だ。本艦はこのまま太平洋に着水。君達はミッション『アパティアレティア』を」

「ルルーシュ様……」

隣にいた咲世子がルルーシュに向く。
ロイド、セシルも彼に振り返っていた。

「これまでよく仕えてくれた」

ロイドたちがそれぞれの席から立ち上がる。

「君達の覚悟に感謝する」

「イエス・ユア・マジェスティ」

敬礼を背に、ルルーシュは衣服の裾をひらめかせて、指揮官席の後ろにある出口へと向かう。
と、そこで、以前アッシュフォード学園で飼われていたアーサーが、

「ニャー」

と鳴いた。












「ああ。わかっている。これは俺個人の望みだ。しかし……」

艦内通路を伝って、第二格納庫へルルーシュは向かっていたところにニーナと出くわした。
そして、今彼女とその通路を通りながら話している。

「ユーフェミア様の願いでもあるんでしょ?」

「……だから俺がやらないと」

そこでニーナがルルーシュに初めて顔を向けた。
その表情は真剣そのものである。

「でも、あれの最終プログラムは環境データを打ち込まないと完成しない。私も一緒に……」

「もう充分だよ。ニーナ」

ルルーシュはニーナに最後まで言わせず、そう言い切った。

「今の言葉で君の本心を理解した。ユフィの仇である俺に、ゼロによく付き合ってくれて」

「私はゼロを許しはしない。たぶん、一生……」

そこで、ニーナが右手を強く握り締める。

「でも……、ライ君って言ったわよね?あなたの騎士」

「ああ」

ルルーシュが頷く。

「私がここに連れてこられて少ししたときに、彼が言ってくれたの。『ゼロを、ルルーシュを許せないのならそれでもいい。けど、君自身の答えはまだ見つかっ てないんだろ?君のした事がどうだったのか、それを見つけるのが先なんじゃないか?』って。……その通りだと思った。だから私はここにいる。……ただそれ だけなの」

そう言って彼女はルルーシュの向かう通路とは反対側の通路に歩いて行った。

「……君は立派だよ」

そう言ってルルーシュも第二格納庫への通路へ歩いて行った。
互いに去って行ったが、ニーナの顔は俯いていた。






















そして、ルルーシュは自らの専用ナイトメア、蜃気楼が待機している第二格納庫へ着いた。
ここは外の爆音も聞こえる。
ルルーシュはそこへ足を踏み入れると、ちょうど一機のナイトメアが補給のために戻ってきていたらしく、コクピットから長い髪の少女が降りてくるところだっ た。

「C.C.、無事だったのか」

ルルーシュは近寄りながら、声をかけた。
C.C.は声のした方向を振り返り、ルルーシュの姿を見つけると微笑んだ。

「珍しいな。心配してくれるのか?」

「大事な戦力だからな」

「フッ……だから、あれを取りに来た」

C.C.が目線を向けた先に、巨大なナイトメア用の盾が置かれている。
かつて、あのトーキョー租界の決戦でライが倒したブリタニアのナイトオブテン、ルキアーノ騎乗のナイトメア、パーシヴァルが使っていたミサイルランチャー 内臓のシールド。
ライの崩月によって破壊されていたそれを修理し、今度の戦いのために用意していたものである。
ルルーシュも同じものに目をやり、それからC.C.に視線を戻した。

「では、護衛を頼もうか?」

「やはり出るのか?ナナリーをその手で討つことになるかもしれないのに」

「ゼロレクイエムの障害になるのなら仕方ない」

そこでC.C.が何故か笑みを消し、わずかに顔をそらした。

「ルルーシュ、恨んでいないのか?ギアスを与えた事でお前の運命は大きく変わってしまった」

今度はルルーシュが柔らかく微笑した。

「らしくないな、魔女のくせに」

C.C.が顔を戻す。
ルルーシュは言葉を重ねた。

「C.C.、お前がくれたギアスが……お前がいてくれたから、俺は歩き出すことができたんだ。そこから先の事は全て俺の……」

C.C.が再び笑った。

「ふっ……。本当におまえ達はおかしな奴ばかりだ……」

「おまえに言われたくはない……」

とそこに突然爆音が周囲に響き渡った。
吹き飛ぶ格納庫の外壁。
そこから紅蓮聖天八極式が内部に突入してくる。

「!?カレン!?」

それを見たルルーシュが怒鳴った。
C.C.の方はすでに素早く自分のナイトメアのコクピットに飛び乗っている。
そこに紅蓮の外部スピーカーを通じて、カレンの鋭い声が投げかけられた。

『あなたは私が止める!さようなら、ルルーシュ!』

紅蓮が右手の輻射波動の爪を構える。
が、その横からC.C.のナイトメア、ランスロット・フロンティアが取り出した盾からミサイルを発射する。
紅蓮が咄嗟に輻射波動でそれを防ぐ。

「くっ……!」

その隙に爆炎に紛れてルルーシュが自身の衣を脱ぎ捨てながら、蜃気楼へ走り出す。
振り向いた紅蓮のコクピットには蜃気楼に乗ろうとするルルーシュが映っていた。
だが、その瞬間、紅蓮の機体に衝撃が走る。
ランスロット・フロンティアが紅蓮に盾を構えて体当たりしたのだ。

『ここは私に任せて、ダモクレスを!』

『しつこい!』

「っ!しかし、紅蓮が相手では!」

こちらも外部スピーカーを通じて聞こえたC.C.の声に、ルルーシュが言い返す。
事実、紅蓮の方が性能が上、パイロットとしての腕もカレンが上。
確実にやられるのは目に見えている。
ルルーシュの言葉にC.C.は微笑を含んだ声で答えた。

『嬉しかったよ。心配してくれて』

「!」

『早く行って、そして、戻って来い。私に笑顔をくれるんだろ?』

「……ああ。約束しよう」

ルルーシュは帽子を脱ぎ捨て答えた後、蜃気楼のコクピットに乗った。
開閉口を閉じ、起動プログラムをスタートさせる。
キーボード型の操縦桿がルルーシュの前に展開し、ルルーシュはその上に両手を置く。
そして、蜃気楼は戦う紅蓮とランスロット・フロンティアを無視して紅蓮の空けた穴から艦外へ飛び立った。

「必ず成功させてみせる。この一手でなんとしても……!」



















『敵ナイトメア編隊接近中。先頭は蜃気楼です』

オペレーターからの報告に、ダモクレス司令室のシュナイゼルは素早く指示を出した。

「フレイヤ発射口のブレイズルミナスを部分解除。照準は蜃気楼に変更する。……ルルーシュ、最後は捨て身か。見苦しいな」

『照準変更完了!』

その報告に、シュナイゼルはナナリーに通信を入れる。

「ナナリー、これでおしまいだ。できるね?」

艦内通信でナナリーがすぐに返事を寄越した。

『はい。シュナイゼル兄様』

『ブレイズルミナス解除』

「今だよ」

シュナイゼルの合図を受けて、ナナリーがスイッチを押し、再び破壊の閃光、フレイヤが宙をかける。






















「よし、データ入力を」

ルルーシュが即座に蜃気楼の操縦桿に指を走らせる。
蜃気楼にはいつの間にか長い突起物のような物が搭載されている。
ルルーシュはそれにデータを入力しているのだ。
その蜃気楼に一直線に迫り来るフレイヤ。

最大の問題点はその膨大な攻撃範囲だ。
ダモクレスはフレイヤを撃たない時はブレイズルミナスの殻に閉じこもっているが、発射の瞬間は展開しているブレイズルミナスを解除しなければならない。
言い換えれば、そこが唯一鉄壁の防御力を持つダモクレスの隙である。
一度解除したブレイズルミナスを再び展開させるには意外に時間がかかる。
そこを突けばいいのだが、それをさせてくれないのが、フレイヤの破壊力と攻撃範囲だった。
開いたブレイズルミナスの穴に仕掛けようとしても、フレイヤの爆発がそれを阻む。
爆発の効果範囲外にいて、爆発が収まった後に突撃しても間に合わない。
とはいっても、フレイヤの爆発の範疇にいて生き残っていられる兵器など、現状では存在しない。

チェックメイト。
しかし、ここで一つの仮定をしてみる。
もし、仮に発射されたフレイヤが臨界値を突破し、炸裂する前に、何らかの干渉を行い、爆発の規模を軽減できたとしたら?

無論、本来この仮定はほとんど無意味である。
現にこれまでルルーシュ軍はそれを行おうと発射されたフレイヤに特攻をしかけては、ことごとく失敗しているのだから。
それはシュナイゼルがフレイヤの設定を発射された段階で既に臨界値になるように変えていたからだ。
つまり、破壊するだけでは駄目だ。

爆発の威力をもっと抑えなければならない。

フレイヤは原子組成を千変万化させる。
変化しつづける原子組成の一瞬をとらえ、そこに臨界反応を凍結させる事のできる精確な別の原子組成をぶつけ、それぞれの原子を分離させる事によって、反応 を強制的にストップさせる。
発射されたフレイヤが爆発するまでの時間は19秒。
そして、変化し続けるフレイヤの原子組成が1つのパターンのまま固定しているのは、わずか0.04秒。

つまり、フレイヤの臨界反応を止めるには、まず最初の19秒間に発射されたフレイヤに関する環境探査を行い、それに対応する原子組成の正確な予測を割り出 し、その予測に沿った原子組成を組み上げ、さらにフレイヤが狙った原子組成のままでいる0.04秒の間に、組み上げたこちらの原子組成をぶつける必要があ る。

もちろん、こんなものは不可能に等しい。
当然のことながら、ルルーシュだろうとスザクだろうと、ライだろうと無理。
いや、この世にこんな真似ができる人間など1人もいない。
ただし。
その作業を全て、1人の人間が自分だけでやろうとした場合は、だ。

最初の19秒間の作業。
蜃気楼の情報解析システム、ドルイド・システムとルルーシュならば、何とか可能かもしれない。
次の0.04秒の作業。
抜群の性能を誇る天月とライならば何とか可能かもしれない。
両者の呼吸が完全に合えば、フレイヤの爆発は止められるかもしれない。

迫り来るフレイヤを前に、ルルーシュは一心に指を走らせ続ける。
向こう側、ダモクレスの内部ではシュナイゼルが「平和の完成だ」と笑っていた。
しかし……。

「……!ライ!」

『イエス・ユア・マジェスティ!』

ルルーシュの組み上げた組成構造を宿した反応棒を、いつの間にか隣まで来ていたライの天月が蜃気楼から受け取る。
ライの天月が大きく振りかぶる。
しかし、まだ早い。
ルルーシュが指示してきた時間は、この後3.78秒から3.82秒の間。
臨界反応間近のフレイヤが光を放ち始める。

(いくぜ……相棒…!)

(ああ……僕達の力で!)

ライはウルフと同調(シンクロ)する。
シンクロ率100%。
2人の意識が一つになる。
ライの目がかっと見開いた。

「今だ!」

天月が手にした反応棒をフレイヤに向けて投擲する。
弾頭の正面に突き刺さる反応棒。
刹那、生まれようとしたフレイヤの光がその色を変えた。
白く輝くような閃光から鮮やかな七色へ。
拡散しようとしていた光が一気に収束し、小さな瞬きを放つ。


爆発は……ほとんど起きなかった。


「フレイヤが……」

ダモクレスの司令室でカノンが唖然と呟く。
続く言葉を口にしたのはディートハルトだった。

「消えた?」

そして、この戦いが始まって以来、シュナイゼルが初めて刺すような眼光をその瞳に浮かべた。

「そんなおもちゃを用意していたとは……」























とはいえ、それで全てが終わった訳ではない。
ルルーシュやライ側から見れば、フレイヤを止めたとはいえ、たった一発。
まだ敵の手にはフレイヤは残っている。
再びダモクレスのブレイズルミナスに生じていた突破口が閉じてしまえば、状況は振り出しに戻ってしまう。

フレイヤ消失の瞬間には、既に最大戦速で飛翔していた蜃気楼が、今にも閉じようとしていたブレイズルミナスの発射口に取り付いた。
蜃気楼の絶対守護領域を上下左右に円盤状で展開させ、ブレイズルミナスの殻にぶつける。
それでなんとか穴を維持する。

「今だ!飛び込め!」

ライの天月が、スザクのランスロットが、他のナイトメア達が次々と蜃気楼の維持した穴から、ブレイズルミナスの内側に侵入していく。
最後の一機はルルーシュの蜃気楼が先頭のライの天月と同時に内部に突入していたため、閉じていくブレイズルミナスに間に合わず激突し、爆散した。
先頭を切ってダモクレスに肉薄したライの天月とスザクのランスロットはすでに主砲である輻射波動砲とヴァリス・ハドロンブラスターモードを構えている。
懐に飛び込まれ、無防備となったダモクレスに向けて、次々と攻撃を加える。
目もくらむばかりの砲撃はダモクレスの外壁を貫き、その巨体を大きく振るわせた。















「っ!ああっ!」

艦内庭園を激しく揺らした爆発と共に、ナナリーは悲鳴を上げた。
それと同時に持っていたフレイヤの発射スイッチも床に落としてしまう。

「か、鍵が……ダモクレスの鍵が……あ!」

再びの爆音。
庭園がまた揺れ、傾いた車椅子からナナリーはそのまま床に転げ落ちた。

























あとがき

今回のあとがきは後編でします。



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