魔法少女リリカルなのは
                  Accel  Knight


















第1話 異世界でまさかの!?




「う……うん………」

俺は……一体……。
いつの間にか気を失っていた俺。
じょじょに意識が覚醒していき、俺は目を開けた。

「そうか……俺は確かリュケイオスで転移して……」

という事は並行世界に着いたのか?
そう思い、俺は床に横たえていた体を起こし、軽く頭を振る。
どうやら転移の際の衝撃で艦長席から落ちてそのまま気を失っていたらしい。
その時、俺の近くに見覚えのないものが落ちていた。
それはカードの束でゴムによってとめられていた。
俺は気になりそのカードの束を手に取る。
床に置いていた状態では裏向きだったので、何のカードかはわからなかったため表に返して見た。

「……ブラックマジシャン?何だ、これ?」

何だかそういう名称が書かれており、絵として魔法使いが書かれている。
攻撃力は2500、守備力2100……。
とりあえず裏も見てみる。

「デュエルモンスターズ……これってモンスターなのか?」

そう言った直後、俺のものではない別の声が聞こえた。

(私の声が聞こえるか?)

「!誰だ!?」

この声はエイダの声ではない。
そう思い、警戒しながら声の主に問いかける。

(どうやら私の声が聞こえるようだな。後ろを見てみるといい)

後ろ?
そう思い、振り返ると。
いたのは紫の服を着た魔法使いだった。

「あれ……?ブラックマジシャン?」

「そうだ。私はブラックマジシャン。名はマハードと言う」

俺は開いた口が塞がらなかった。
何でカードに書かれていたモンスターがここにいるの?
軽く混乱してしまう。

「驚いているようだな。無理もない。私はカードの精霊だ。つまり、カードに書かれている本人だという事だ」

「つまり、このカードに宿る魂って事か?」

「そう思ってもらって構わない」

なるほど……とりあえず目の前にいるマハードの正体についてはなんとか把握した。

「じゃあ、このカードは何なんだ?俺の世界にこんなカードはなかったぞ?」

「それはデュエルモンスターズ。これを使い人はデュエルという戦いをする。おそらく私達がここにいるという事は、お主が時空転移を行った影響だろう」

なるほど……ってちょっと待て!

「どうして俺が時空転移したとわかるんだ!?」

俺は血相を変えてマハードに問い詰めた。

「それについては私もはっきりとは答えられない。私も声が聞こえたと思ったらここにいたのだから」

「声?」

マハードは頷いた。

「『これから時空転移する者を助けてくれ』とな」

「……わかった。信じよう」

マハードの目が嘘を言っていないと俺はわかり、その言葉を信じる事にした。
このカードの使い方は後で学ぶとしよう。
それよりも今は……ちゃんと転移できたのか、現在地がどこかを把握しなければならない。
そう言って、立ち上がった時俺は違和感を覚えた。
いや、正確には起きた時から感じている違和感が大きくなったのだ。

「なあ、俺なんか小さくなってない?」

そう、なんか見える景色や周囲の高さが低いのだ。
よく見ると、腕や足の長さが短い気もする。
とりあえず身近にいるマハードに聞いてみる。

「質問の意味がよくわからないが、自分の姿ならそこの窓の近くまで行って確認するといい。窓と言っても、近くなら姿は映るだろう」

「……それもそうだな」

そう言って、俺はブリッジの窓の近くまで行き、自分の姿を見た瞬間言葉を失った。
そして、しばらくして……。

「なんじゃこりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!」

それが俺がこの世界に来てからの最初の絶叫だった。
そう、俺は何故か5歳頃の体に縮んでいたのだった。
しかも、ご丁寧に着ていた服まで。

























思いっきり叫んだ後、なんとか立ち直った俺は状況を把握する事に努めた。
転移の影響で待機状態になっていたエイダを起動させ、周囲の情報の収集を始めさせる。
今の所わかっているのは、俺の体が何故か5歳頃になっている事、異世界のカードが手元にある事、そして今このアーク・スマッシャーは海のど真ん中に浮いて いるという事だった。
情報の収集はエイダにまかせ、俺はカードを次々と順番に眺める。
艦長席に三角座りで座りながら、俺は呟く。

「しかし、これはどうやって使うんだろうな……。俺デュエルなんて知らないぞ」

その時、後ろから声をかけられる。

「そう言えば、私達がここに来る前にこんな事も言われたよ?ドライバーとメモリと一緒に戦いなさいって」

「そうなのか?」

そう言って後ろを振り向いた先にいたのは、金髪の魔法使い。
ちなみにこちらは少女だ。
彼女の名はマナ。カードの名称はブラックマジシャン・ガール。
先ほどマハードの紹介で教えてもらった。
ぶっちゃけかわいいんだよね、うん。
とまあ紹介と俺の感想はこのくらいにしておいて。

「なら、今度試してみるか……」

確かカードスロットはあったはず。
今まで使った事も用途も知らなかったので、何に使うのか見当も付かなかったがとりあえず使用の目処は立った。
すると、今度はエイダから声をかけられた。

『マスター。検索終わりました』

「お、早かったな。それで、どうだった?」

俺はエイダに検索の結果、ここが本当に並行世界かどうか聞く。

『結論から言うと、ここは並行世界ではありません』

その言葉に俺は耳を疑った。

「何?じゃあ、ここは一体どこの世界なんだ?」

『それは断定できませんでした。何せ、こちらも地球だったもので……』

ますますわからなくなった。

「?どういう事だ?ここは地球なんだろ?」

『はい。ですが、私達の世界には存在しない市や町が存在するのです。私が言うよりも、見て頂く方がいいでしょう。今からそのリストを場所と一緒にアップし ますので、ご覧になってください』

エイダが言った直後、メインモニターにリストが表示される。

「うわ〜、すごいね。文字がびっしり……」

マナの感心したような言葉を俺は流して、そのリストを流し読みしていく。
確かに、こんな市名などは俺の世界には存在していない。

「なるほどな。確かにここは異世界という奴だな。しかも、かなり似た」

『はい。それに他にもそれを裏付けるデータがありましたので、後でマスターの端末に回しておきます』

「ああ、頼む」

『あ、それとマスター』

「ん?」

『私が待機状態になっていた間にいつの間にか見知らぬデータが追加されていました』

「見知らぬデータ?」

『はい。ただ内容が膨大ですので、後でご自身で閲覧なさってください』

「え、めんどいんだけど……」

俺は心底面倒くさそうに言ったが、エイダは淡々と言った。

『この世界で生きていくためです。我慢してください』

俺はそうエイダに諭されて、仕方なくその言葉に従う事にした。

「……わかった。後で見ておく」

この後にそのデータを見た俺は、驚愕の事実を知る事となる。

『それで、マスターどうしますか?このまま海の真ん中にいるという選択肢はないのでしょう?』

「当たり前だ。とりあえず、この艦を人目につかない所に移して適当な市か町に住むとしよう。腹も減ってきたしな」

『で、どこに行くのです?』

俺は顎に手を当ててリストを見ながら考える。

「そうだな……。……よし、この海鳴市というところにしよう。エイダ、どっかいい物件がないか探しておいてくれ。後、資金源の調達も忘れずにな」

『了解』

こうして、ランは日本にある海鳴市という町を目指した。























それから1週間、ランはこの世界での生活基盤を整えるために色々とやった。
ランは、カードの使い方についての把握、幼くなった体をもう一度見直すためかつてやっていた血も滲むような(というか本当は滲むどころではない)修行メ ニューの再検討、そしてこの世界でのある 程度の常識の獲得。
エイダは、その演算処理能力と独自のネットワークを使って情報を取り引き、つまり情報屋として資金を調達、さらにランが生活するための戸籍と住居の確保な どをあたった。
既にこの時期からは情報社会と言われ、情報は金やそれと同等の物と取り引きする程の価値を持つ事がある。
ランとエイダはこの世界に来てすぐに、独自のネットワークを形成し、あらゆる情報を随時得ていたので、情報を望むものに対価として金を支払わせるという形 で情 報を提供していたのだ。
ちなみにエイダは超高性能とはいえコンピューターなので、細かい所はランが色々と処理をしている。
おそらくランの情報屋としての知名度は、いきなり現れた新星としても、その優秀さとしても、かなり高いものとなっている。
もちろん、情報屋としての名は偽名なのに加えてエイダが優秀なので素性を知られる事はまずなかった。
後、戸籍などについては政府などに手を回して作ってもらっている。
何せ、情報は武器だから。
まあ、要するに非公式だ、戸籍は。
こうして、とりあえずの生活基盤を整えたランは海鳴市のとあるマンションに居を構える事となった。
母艦は海鳴市に隣接した海の底に隠しており、定期的に立ち寄る事にしている。
入り口自体は簡易転移装置という形で、マンションの部屋に置いてある。
こうして、ランは今入ったばかりのマンションの部屋にいた。

「ふう。終わった……」

俺は荷物の仕入れから始まり、引越し業者に手伝って家具などを置くという作業をしていたのであり、それがたった今終わった。

「では、私達はこれで」

「あ、はい。ありがとうございました」

俺が礼を言うと、引越し業者のスタッフさん達は笑顔で返って行った。
ちなみに手伝ってくれたのは俺が5歳の子供であったからだ。
まあ、俺が冷蔵庫とか1人で持ったときは皆びっくりしていたが。
ちなみに私物はほとんどないと言っていい。
この世界に来てから忙しいというのもあったが、俺のいた世界で子供の頃に起きたある事件がきっかけで俺はそういう無駄な私物などは極力持たないようになっ たのだ。
だから、引越し作業が終わっても部屋は殺風景のままである。
と、ここで。

グゥゥゥゥ〜〜

俺の腹の虫が鳴った。
結構動いたから腹が減ってしまったみたいだ。

「そう言えば、こっちでの食料はこの街で調達するんだったな」

アーク・スマッシャーにいた時は指定した場所に食料を持ってきてもらうという事になっていた。
そこで、最初は艦から食料を持っていこうかと考えたのだが、エイダの提案で艦は艦で、家では家で食料を調達する事になったのだった。

「……ついでに生活用品も買おう。向こうとこちらでは必要な物が違うしな」

俺はそう言って立ち上がると、財布とマンションの鍵を持って部屋を出た。
とりあえずは生活に必要な物を整える事が先決なのだ。























この世界に来て少し経つが、わかった事があった。
それは、文化に関してはそれほど元いた世界と変わらないという事だった。
違うと言えば、この平穏さだろう。
俺のいた世界は、いや俺達は混沌を望んでいたのだから。
そう思いながらも俺は的確に買い物を済ませた。
大きい物や量の多いものは宅配にして済ませている。
その帰り道。
俺は公園の近くを歩いていた。

「さすがにあれだけ買うと疲れるな……。さっさと帰って休もう」

そう口に出して、公園の入り口をそばを通りかかった時。

「グスッ……ヒック……」

女の子の泣いている声が聞こえた。
普通なら聞き逃してしまう程の小さい泣き声。
しかし、俺の耳はそれを捉えた。
何故わかるかって?
俺は耳がいいし、女性の声には敏感だから。
とにかく、気になって行ってみると、公園にあったベンチにツインテールの茶髪の小さな女の子が座っていた。
やはり、泣いている。
泣いている女の子を放っておくわけにもいかないので、俺はその子に声をかける事にした。

「君、大丈夫?」

「グスッ……ふぇ?」

俺の声で少女が気づいたのか、泣いて俯けていた顔を上げてくれる。
うん、結構な美少女じゃないか。

「俺、北川乱って言うんだ。君は?」

「グス……高町なのは……」

高町なのは……か。

「どうして君は泣いてたんだ?」

俺がそう言うと、なのはという少女は少々泣きながらも、話してくれた。

「……お父さんが…怪我しちゃって」

「………」

俺は黙って耳を傾ける。

「そしたら、お兄ちゃんが変わっちゃって……だから……」

「…………」

「なのはもいい子にしなきゃって……、1人で頑張れるようにしなくちゃって……そう思って……」

話があまり見えてこなかったが、ランはなんとなくだがこの子の家族の状況を察した。
おそらく、父親が重度の怪我を負って、それがきっかけで家族が変わってしまったというところなのだろう。
彼女の兄がその代表例という訳だ。
そして、父親の怪我で少なからず落ち込んでいる家族に対し、心配をかけまいと1人で頑張っていたという事だろう。
自分の本当の気持ちを押し殺して……。

(本当は寂しくてつらいんだな……)

全ての事情は後で知っておくとして、今はこの子がつらいとわかっただけでもランにとっては充分だった。

「そうか……つらかったんだよな」

「……ふぇ?」

話す内に俯いていたなのはの顔が再び俺に向けられた。

「誰にも……家族にも……自分の本当の気持ちがわかってもらえなくて。出す訳にはいかなくて……。心配をかけたくなかったからいい子にしてた。そうなんだ ろ?」

「……うん」

なのはゆっくりと頷く。
そこで、俺は笑った。

「でもさ、俺達みたいな子供はいい子にする必要なんてないんだよ。俺達子供は周りを頼って、そこから色々学んで、大きくなっていくんだからさ。1人で頑張 るのは、もっと色んな事を知ってからでいいと思うんだ」

「でも……」

俺の言い分もわかったのだろうが、なのははそれでも躊躇う。
よほど家族が好きなのだろう。

(彼女は……賢すぎる)

そう思った俺はまた笑顔で言った。

「じゃあさ、俺の友達第一号になってくれないか?なのは」

「え……?」

「友達になればさ、もっと分かち合えると思うんだ。喜びとか悲しみとか……。もし、なのはがその孤独感に泣きそうになったら、俺がすぐに助けてやる。話も 聞いてやる。だからさ、俺が困ったときは、なのはが俺を助けてくれよ。正直、俺この街に来たばかりで友達誰もいないんだ。……いいかな?」

そうすると、なのはは嬉しそうに、でも泣きながら頷いてくれた。

「うん……うん……!」

それに俺は満面の笑顔で応えた。

「良かった。じゃあ、これから俺達は友達だ。よろしくな!」

「うん!よろしくなの、ラン君!」

俺が差し出した手を、彼女は両手でぎゅっと握りしめてくれた。
そして、そのまま俺は彼女を優しく抱きしめる。

「ラ、ラン君……?」

「じゃあ友達として俺の最初の仕事。なのは、今は思いっきり泣くといいよ。我慢しないでさ。そうすれば、少しはすっきりすると思うよ?」

「う…う……うええぇぇぇぇぇぇぇぇん………」

そして、彼女はそのまま俺の肩に顔を寄せて泣き始めた。
俺は言ったセリフがちょっとくさかったかな、と思いつつ黙って彼女が泣き終わるのを待ち続けた。
それが大人で子供である俺の唯一できる事だった。
かつて、かけがえのない妹にしてやったように。
ただ優しく。
涙で服が濡れるとかそういう事は、全然苦に思わなかった。

























それからしばらくして泣き止んだ彼女はなんとか涙を拭いていた。
そして、俺はそんななのはに聞いてみる。

「なのはのお父さんは病院に入院してるのか?」

「うん……」

涙を拭いた彼女から、渡したハンカチを受け取る。

「じゃあ、今からお見舞いに行こうぜ」

「お見舞いに?」

笑顔で言った俺になのはが問い返してきた。

「ああ。そうすれば、なのはのお父さんも元気になるかもしれないしな」

「それならなのは、行くの!」

彼女の決意の篭った声に、俺は微笑むと立ち上がった。
やっぱりこういうかわいい子は笑顔が一番だ。

「じゃあ、家の人に言ってからお見舞いに行こうか」

「うん!」

俺はなのはと共に彼女の家まで付いて行く事にした。
そして、これが俺となのはの記念すべき出会いだった。























「ここなの!」

着いた彼女の家は店だった。
翠屋という店らしい。

「へぇ〜、店やってるんだ。なのはの家」

「うん!そうだよ!」

そう言って、彼女は入り口まで行き、扉を開けた。

「お母さんただいま〜」

「おかえりなさい、なのは。…あら、そっちの子は?」

「公園で遊んでたら友達になったの!ラン君って言うんだよ!」

なのはの言った後に俺は軽く礼をした。

「北川乱です。こんにちは」

「あら、礼儀正しいのね。こんにちは。なのはと仲良くしてあげてね」

「はい」

俺が笑顔で答えたところで誰か奥から来た。

「あ、お兄ちゃんただいま」

どうやらなのはのお兄さんらしい。
俺を見つけた途端、少々睨まれる。

「お帰りなのは。そっちの子は?」

「この子は北川乱って言って、さっき公園で友達になったの!」

「よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ。なのはとは仲良くしてやってくれ」

「はい」

ランはそう言いながらも、心では全く別の事を考えていた。

(こいつの目……。随分と黒いな……。という事はなのはのお父さんはただの怪我をしたって訳じゃなさそうだな)

鋭い目でなのはの兄恭也をライは観察していた。
そんなランをよそに、なのはは話を進める。

「お母さん!これからお父さんのお見舞いに行くんだけど、行っていい?」

「ええ、いってらっしゃい」

「うん!じゃあ行ってきます!」

そう言って、なのはは早々に行こうとする。
ランはもう一度礼をした。

「お邪魔しました」

「気をつけてね」

そして、俺もなのはの後を追いかける。
そのなのはとランの後ろ姿を母の桃子は微笑みながら見送っていた。






















それから程なくしてなのはの父が入院している病院に着いた。
受付の看護士の人に言ってからなのはの父のいる病室に向かう。
そして、着いた病院のベッドの上ではなのはの父が寝ていた。

「………」

状態は酸素マスクを付けており、全身に包帯、体のところどころにはチューブも取り付けられていた。
さらには周囲には生命維持装置などの機械も置かれている。

(思ったよりひどいな……)

病室にはその装置の電子音だけが響いていた。

「……ひどい怪我…したんだな。なのはのお父さん」

「……うん」

ベッドのそばまで来た俺達はとりあえず近くに置いていた椅子に座った。
ここで、ずっと何もしないでいるよりは何かした方がいいだろう。
俺はそう思って、なのはに言った。

「なのは、君のお父さんが早く治るようにお祈りでもしよっか?」

「うん……」

そうして、なのはと俺は目を瞑って祈った。
なのはは真剣に祈っていたようだが、俺はそこで別の事を考えていた。






















あの後なのはを家まで送って行った後、俺は一度アパートに戻った。
それから、一度アーク・スマッシャーにも立ち寄った。
そして、現在時刻は深夜。
なのはの父、高町士郎のいる病室に俺は忍び込んでいた。
元々こういう潜入は何度もした事があるので、お手の物だった。
ちなみになのはの父の素性は、俺がエイダに頼んで調べさせた。
その結果、彼については色々な事がわかった。
どうやら彼も裏世界に絡んでいる人間だったらしい。
まあ、俺にとってそんな素性はどうでも良かった。
俺がいる理由はただ一つ。
なのはのあの悲しい表情が気になってしまっていたからだった。

「さて、さっさとやるか……」

そう言うと、俺はジャケットのポケットからある物を取り出す。
それは、バックルだった。
名称はゲシュペンストドライバー・ダブル。
それを自分の腰に当てる。
すると、バックルからベルトが伸び、俺にしっかりと装着される。
続いて俺はさらに違う物を取り出した。
こちらはUSBメモリにも見えるが違う。
俺はメモリにあったスイッチを押した。

【MAGIC!】

発音のいい音声が鳴る。
これは、PTメモリと言って俺の親父が開発したものだ。
この中には特別なPTの能力のデータが記憶されており、使用者はその中に封印された力を使用する事ができる。
ただし、条件があって、メモリに適合した者でなければ使用する事ができない。
さらにドライバーという装置がなければ使用する事もできない。
つまり、適合者がドライバーにメモリをさして始めて使用できる代物である。
これを使うと、基本は対応したPTに変身できるのだが、ランは既に使いこなしているのでメモリをさすだけでその力を使う事ができる。
ついでに言っておくと、ドライバーも親父の開発した物だ。
これらは、対人戦闘を想定した武器であり、親父はそれを想定して開発した物である。
俺は取り出したマジックメモリをドライバーの装填口が二つある内の右側のライトスロットにメモリを挿した。

ジャキン!

セットされたのを音で確認すると、俺は次にカードを取り出す。

(誰か、傷を治すの得意な奴いないか?)

そう問いかけると、答えてくれるものがいた。

(ご主人様、私をお使いください)

(マジシャンズ・ヴァルキュリアか)

(はい。私は白魔法、つまり回復術もそれなりに使えますので)

(そうか。なら、俺に力を貸してくれ)

そう心の中で話すと、俺はベルトの左腰部分にあったカードスロットにマジシャンズ・ヴァルキュリアのカードをセットしてロードする。

【ロード、マジシャンズ・ヴァルキュリア】

すると、横にマジシャンズ・ヴァルキュリアが現れた。

(今から高町士郎の治療をある程度行う)

(わかりました。では、始めましょう)

そして、俺は両手をベッドの上にいる高町士郎にかざした。
すると、次の瞬間、ランの両手が光り、高町士郎の体もほのかに光で包まれる。
そして、それをしばらく続けた後、ランは手を離した。

(これでいいだろう。完全には治していないが、この分なら明日には目覚める)

(それでよろしいのですね?)

(ああ。いきなり完治させては不自然だからな。これぐらいがちょうどいいだろう)

元々彼を治す気になったのは、なのはのようなかわいい女の子の悲しい顔を見ているのが嫌なだけだったからだ。
俺はそれがなくなるきっかけを作ればそれでいい。
俺は善人ではないのだ。

(わかりました。では、私は戻らせていただきますね)

(ああ、ありがとう)

そう言うと、横にいたマジシャンズ・ヴァルキュリアは姿を消した。
そして、俺もメモリをはずし、ドライバーをしまうと病室から立ち去った。





















そして、次の日。
なのはは母の桃子と姉の美由希と一緒に父士郎のお見舞いに再び来ていた。

(ラン君とお祈りしたから、きっとお父さん元気になってるの!)

そして、病室に着いた後、桃子は花瓶を持っていった。
水を替えに行くのだろう。
そして、姉の美由希もそれに付いて行った。
なのははベッドの脇にある椅子に座り、父の手を握る。

「お父さん……」

すると……。

「……ん……ここ…は?」

なのはが呟くと、それに答えるように父の士郎が目を覚ました。

「え……?」

ガシャン!

なのはは、父が目を覚ました事に驚いていたが、何か割れたような音にも驚き、後ろを見ると、さらに驚いたようにしている母桃子と姉の美由希がいた。
下に花瓶が割れて落ちているのは、おそらく帰ってきた直後にこれを見て驚いたのだろう。

「士郎さん……」

「お父さん……」

「……そうか。ここは病院か。桃子さん、美由希、なのは、心配かけたね」

「士郎さん!」

そう言って、次の瞬間母の桃子は士郎に抱きついた。
彼はまだ痛そうにはしていたが、彼女を優しい目で見ていた。

(お父さん……良かったの…!)

こうして、なのはの父士郎は無事に目を覚まし、半月後には退院する事ができた。
この時、なのははランとお祈りした事で、父である士郎が元気になったと思った。
そしてまた、この時からなのはにとって、ランは大切な友達となったのだった。


















それから4年後。
私立聖祥大付属小学校に編入し、なのはに続いてアリサ、すずかという友達ができ、平穏な生活を続けていたランに転機が訪れる。
それは、ランの運命を変える出来事であり、どこか退屈であった日々から再び戦いの日々へ身を投じる事となる。






















あとがき

第一話をお送りしました。
これはほとんどオリジナルですが、ランが早速なのはやなのはの家族達と関わっていきます。
ちなみに、前回で言い忘れていたのですが、この作品は決してパクりはしていないので。
リリカルなのはの二次作品自体かなりの数で、どこかにダブっている所があるかもしれません。
でも、パクったりは絶対にしていないので、似ていた部分があれば、思想や考えが似ていたと思ってください。
パクってたりしていたら、投稿など決してしませんので。
その辺りをご理解なさった上で、読んでくださるとありがたいです。
で、話を戻しますね。
今回は遊戯王カードのモンスターの登場やランの手にしているゲシュペンストドライバー・ダブルやPTメモリなど新要素が出てきました。
今回の話で前回カードの使い方が全く異なるという事がわかって頂けたと思います。
ですが、この作品はちょっとテンポ重視なところがあるので、詳細を説明できない場合はあとがきの後に随時載せていきたいと考えています。
ですから、もしわからないとか、知りたい人などがいればあとがきの後の設定紹介を参照ください。
それと、なのはの幼少期がキャラが変わっていると思われる方がいるかもしれませんが、それは幼少期だという事で理解してください。
幼少期から大人びていたり、暗かったりしたらさすがに不自然なので。
主人公は別ですよ?見た目は子供でも、中身は大人ですから。
という事で今回第一話をお送りしました。
次回からはいよいよ原作ストーリーへと入ります。
ランがなのは達とどのように関わっていくのか。
それは次回で確かめてくださいね。
では、今日はこの辺で。
良ければまた、次回も見てください。











設定(1)


ラン・キタガワ(北川 乱)(幼少)

不安定な時空転移のせいかわからないが、5歳時の肉体まで逆行してしまった。
性格は変わらないが、子供という事で本来の女好きである一面をある程度隠している。
イメージ作りのため、というのが本人談。
そして、頭脳は変わらなかったため、外見の幼さとは裏腹に大人びた態度を見せる事がある。
肉体は幼くなった分、スペックが落ちたので、自分で組んだ再修業に励んでいる。
デュエルモンスターズのカードに宿る精霊の声を聞く事ができるのと、念話が受信オンリーで可能という新たな才能も加わった。



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