魔法世界流浪伝




















第6話 元最強の真髄



突然ではあるが、世界の移動法一般的には2つある。
1つは、転移魔法による移動。
もう1つは管理世界にある交通機関を利用しての渡航だ。
管理局に関しては、戦艦を利用した移動も可能にしているが、あくまで一般的な移動方法はこの2つだ。
ただし、光司の場合ほとんどが転移魔法である。
既に様々な世界に行った光司には、その世界座標がそのデバイスに数多く記録されており、それを元にするか、もしくは行った世界で新しく仕入れたその情報を 元に新しい世界を旅するかのどちらかだ。
交通機関では、気ままな旅ができないからであり、単純に光司には身分を証明するような物がないからである。
正確には、ある時点でもう使えないと判断したため、廃棄してしまったからであるが。
そして、そんな光司の転移魔法はかなり特殊だ。
転移で位置の特定や魔法反応を示さないように、かなり特殊なステルスを独自に考案し、それを術式として組み込んでいる。
これは本来光司が生きるために作った物だったが、それはこの旅でも役立っていた。
だが、そんな光司でも失敗する事がある。
それは、転移座標をその世界のどこかという不明瞭な点にしている事から起こった。

「おろ?」

闇の書の騎士の襲撃から2年程経った現在。
世界を移動した光司は、その転移先で頭に?を作り出していた。
それは、その転移した先が窓もないような暗い建物の中だったから。
つまりは、ここが全くどこだかもわからない場所に出てしまったのだ。

「……しまったな。またやってしまったか」

しかし、光司の場合この失敗は既に何度か経験済みだった。
その経験済みは大抵転移先の世界の違法研究所という物騒極まりない場所であった。
無論、その度にその研究所を潰すはめになってしまっていたので、光司は何気に違法研究所を潰した数が多かった。

「今回も、そうでなければいいが……」

そう考えた時だった。
ふと自分の鼻に付く臭いに、光司は眉を顰めた。

「……血の臭いか」

どうやら光司の憂いは今回も当たったらしい。
表情を真剣な物にした光司は、床に耳を付けて耳を澄ませる。

ドォン…ドカァン……

かすかに床に伝わる爆音と共に床が揺れている。

「しかもどこかで戦闘中か。僕が来た事による物ではなさそうだ……。という事は、既に他の誰かがここに突入もしくは侵入していたという事か…?」

とりあえず違法研究所などでの危険な場所での戦闘は危険だ。
様子をいち早く確かめるべく、デバイスとバリアジャケットを展開した光司はすぐに音のした方向へと駆けていった。

























一方、その戦闘地域では1人の女性が戦闘を続けていた。
多数の浮遊する機械群相手に、両腕に装備した回転式のナックルガントレットで立ち向かう。

「はあああっ!」

女性がそのナックルを機械に放つ。
しかし、手応えはなく、消えるようにその機械は消えていく。

「っ!?またなの!?」

「アハハ!私の作り出す幻影がそう簡単に見破れる訳ないじゃない」

それと同時に数10機にも及ぶ機械群からレーザーが発せられる。

「くっ!?」

咄嗟に女性は防御魔法「プロテクション」を張り、防御態勢。
レーザーが張られたバリアに着弾。
だが、その勢いで吹き飛ばされる女性。

「がはっ!」

女性は背中に生じた痛みに顔を歪めつつ、立ち上がろうとする。

「ちっ、しぶといわね……」

「くっ……」

その女性「クイント・ナカジマ」は明らかに消耗していた。
この違法研究所へ所属する部隊と共に突入したのは、先ほどの事。
それから調査する内、この研究所は既にもぬけの殻で罠だと悟った瞬間の待ち伏せ。
展開されたAMF(アンチ・マギリング・フィールド)により思ったように魔法を行使できず、そして思ったよりその待ち伏せしていた敵が強かった。
前方にいる眼鏡をかけたタイトスーツの女が、その敵で使用してくる幻術の前に手が出しづらく、結果防御と回避にその戦力のほとんどを割かれていたクイント は激しく魔力と体力を消耗するはめになってしまったのだ。

「でも、これで終わりね」

なんとかクイントは立ち上がろうとするも、既に足元が覚束ない状態。
立つのがやっとという状態だった。
このままでは、確実に殺られる。

(っ……ここまでなの?……ごめんなさい、あなた…ギンガ……スバル……)

視界が霞みながら、そう家族に心の中で謝るクイント。

「死になさい」

女が死刑宣告のように言い放ち、クイントもこれで終わりかと思われたその時だった。

ドカァァン!!

いきなり、機械群の内1機が爆発した。

「!?何!?」

「!?」

2人はその事態に思わず目を剥く。
だが、さらに事態は進む。
機械「ガジェット」を破壊した黒い影が目にも止まらぬ速さで次々とガジェットを切り裂いていく。
その度にガジェットが爆発する。

「!?馬鹿な!?私のシルバーカーテンをこうもあっさりと見極めるですって!?!」

そして、動揺した女とクイントの間にその影が割り込んだ。
着地したその影の正体は、金髪の青年で、その姿は青く輝く装飾を付けた白いコート。
そして、その手には円輪を付けた刀を持って女に向けるように構えていた。

「……大丈夫か、管理局員の人」

そう言って、この時クイントの前に光司が現れたのだった。

























あれから研究所を駆けた光司は、索敵モードのサブオプション「サテライトモード」を使い、研究所内にいる生きている人間を探索していた。
既に、その道中には血溜まりの中絶命している管理局員と見られる人間を多数見つけていたからだ。
「誰か生きていてくれ」と心の中で呟きながら、駆けた光司は進んだ先でようやく1人戦闘中の生存者を発見する事ができた。
しかし、その戦闘中の女性も満身創痍。
このままでは遠からず、敵に敗北し命を落とすと判断した光司の行動は早かった。
敵が展開していた幻術の本物偽者を瞬時に見極めると、一気に踏み込んで突撃。
己の誇る速度「神速」によって、一番近くにいた兵器を斬り付けると続けざまに壁、天井を利用して一気にその兵器を切り裂いていったのだ。
そして、女性に武器を向けている兵器を全て殲滅した後、光司は女性の前に身を躍らせていた。
油断なく目の前のタイトスーツの女に刀を構えながら、光司は後ろの女性に問いかけていた。
すると、女性から困惑の声が返ってくる。

「……あなたは?」

その言葉に光司はわずかに振り返って、笑顔で答える。

「僕はここに迷い込んでしまった、ただの旅の流浪人です」

すると、敵の女がいきなり声を荒げて光司に問いかけてきた。

「くっ!なんだ、おまえは!?何故私の幻術が通用しない!?」

明らかに動揺した女は、先ほどとはまるで違う態度でそう叫ぶ。
その言葉で視線を戻した光司の表情は先ほどと打って変わり、鋭い物となっていた。

「……うるさい女だな。話の途中くらい静かにできないのか」

「何ですって!?」

女は光司の態度に突っかかってくるが、光司はそれをやや鬱陶しそうに見るだけだった。

「簡単な事だろう。確かにおまえの幻術の精度は高い。だが、僕とこのサテライトモードの前ではどのような幻術であろうと……児戯に等しい」

「……っ!!」

現実を淡々と突きつけられた女は戦慄する。
殺気を募らせた鋭い視線で、光司は刀を向ける。

「……できれば、このまま退場願おうか。これ以上やるというのなら……おまえ達を斬る事になる」

「はっ……!誰が、人間ごときの戯言に応じてやるもんですか。それにまだ…こっちには、ガジェットがあるのよ!」

その瞬間、転移魔法によりガジェットが出現した。
数は先ほどよりも少ないが、恐らく他の箇所から回してきたか、増援を送ったのだろう。
その光景を見て、後ろにいたクイントが叫ぶ。

「気をつけて!その女、幻術を使うし、そのガジェットっていうのにはAMFが張られてる!」

そして、その言葉に女は笑みを浮かべた。

「そういう事よ。今度こそ、死になさい!」

物凄い形相で宣告した女だったが、光司は全く意に介していなかった。
先ほどから右手を横にしたまま言い放つ。

「それで、おまえ達はその程度か?」

「……何ですって?」

瞬間、増援に来たガジェット群は一斉に一機も残らず爆散した。

























「最強」とはどういうものか。
現在、管理局には「エースオブエース」という称号が存在する。
それは、当代の管理局において文字通り「最強」と判断された者が受け取る称号である。
だが、それはあくまで魔法戦が主体となった管理局でという話であり、それが全てにおける「最強」に当てはまるのかと問われれば、それは否である。
ならば、真の「最強」とは何か。
それは管理局のみならず、全世界において、己が例えどんな不利な状況であろうと、自らの戦法を制限されようと、その状況を覆し、相手を常に屠り生き残って きたきた者にこそふさわしいと言える だろう。
そして、その「最強」と言われた者に魔法を封じるAMFだろうが、幻術だろうが何だろうが、そんな小細工は一切通用しない。

タイトスーツを身に付けた女「クアットロ」は視界にある光景に絶句するしかなかった。
増援のために他の場所から呼んだガジェットが僅か数秒の間に屠られたのだから。
しかも、やったであろう目の前の光司はただ右手を横に突き出しているだけ。
どうやって屠ったのか、理解する事すらできなかった。

「っ……!!!おまえ、一体何をした!?」

「……何だ、見えなかったのか?」

キィィィィン……

すると、妙に鋭い駆動音と共に何かが光司目掛けて飛来してきた。
それを光司は右手でキャッチする。

「なっ……それは、さっき鞘に付いていた円輪!?」

そう、光司がキャッチし指で回していたのは、先ほど鞘について円輪だった。
今もキィィンと音を立てながら、回転している。

「戦輪(チャクラム)という武器だ。僕の中で、最速を誇る武器でもある。重量が軽いから攻撃力は低いがな」

光司の通常展開しているのは、「パイレーツモード」。
名前に意味の意味は武器とはまた別にあるが、機動戦と小回りを重視した汎用性の高い形態だ。
その中でもこの戦輪は特別光司の誇る武器の中でも最速を誇る。
それは例え高速移動魔法を使われようと易々追いつける程の超速度。
クアットロが例え戦闘機人であろうとも、意識の外から出されてはそれを認識できないのも無理のない話であった。

言われて、クアットロはハッとする。

「まさか、私が話している間にそれを飛ばしたのか!?」

「ご名答。その通りだ。おまえが話している間に、意識の外である視界の端から射出していただけだ。動揺していてくれた分、やりやすかったよ。切るまで本 当に気づいていないようだったからな」

「っ〜〜〜〜!!こっの…人間風情がー!!!」

その叫びに光司は鋭い表情で返す。

「1つ言っておくぞ。僕に、AMFや幻術なんていう小細工は無駄だ。僕の戦術は現代とは違い、魔法戦が主体ではない。それと……」

すると、光司は虚空という明後日の方向に視線を向ける。

「隠れている奴も出て来い。どんな能力かまではわからないが、そこに隠れているのはわかっている」

すると、壁からぬるりとタイトスーツの女が出てきた。
こちらはクアットロとは違い、水色の髪をしており眼鏡もかけていない。

「うわ〜、まさかバレるとは思ってなかったよ」

そう苦笑いしながら、その女「セイン」はクアットロの隣に立つ。
だが、気づいていたのは光司だけでセインが壁から出てきた事にクイントは驚いていた。
それに構わず、光司は言う。

「……これ以上続けるか?おまえ達がただの人間ではない事は、その足音からわかるが……これ以上続けるなら全滅だな」

「何を……!!」

「ちょっと待った、クア姉。これ以上はまずいよ。こいつ、私達の予想以上に強いし」

「……っ、仕方ないわね」

すると、クアットロは幻術を展開し、セインはそれに乗じて床の中に潜り込んでいく。

「覚えておきなさい、人間。今度会った時は、おまえを真っ先に殺してあげるわ」

そう言い残し、クアットロとセインはこの場から撤退して行った。
撤退を確認し、周囲に気配を感じなったのを感じた光司は後ろで座り込んでいたクイントに近寄る。

「大丈夫ですか?」

そこには既に先ほどまでの鋭い表情はなかった。
クイントも我に返って、慌てて頷く。

「え、えぇ。あなたのおかげで助かったわ。でも、あなた本当に一体……」

光司は自身の荷物から簡単な包帯を取り出すと、応急処置としてクイントの負傷箇所に巻いていく。

「そういえば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。僕の名は、天城光司。先ほども言ったとおり、旅をしているただの流浪人です」

その言葉にクイントはやや呆れ返る。

「私はクイント、クイント・ナカジマよ。でもただのって……ただの旅の人なら普通このAMFや幻術の状況下であそこまで戦えないわよ?」

「まあ、ああいう状況下ではよく戦う事がありましたから。それに僕は魔法主体では戦わないので」

そうやや苦笑しながら不明瞭に答えると、光司は包帯を巻き終え、応急処置を終えた。
そして、やや真剣な顔つきになってクイントに問い始める。

「それよりも状況を教えてください。生き残りはあなただけですか?」

「いえ、後他に2人いるわ。同じ隊員と隊長なんだけど」

すると、研究所内に大きな爆音が響き渡った。
もしかすると、先程の隊長か隊員が戦闘をしており、その中で何かあったのだろう。
光司は爆音の方角に目を向けたが、すぐに視線を戻す。

「立てますか?」

「え、えぇ……っ!!」

そう言って立ち上がろうとするクイントだったが、激痛でまた座り込んでしまう。
よく見ると、先程包帯の巻いたところからまた血が出ていた。

(やはり、この負傷具合では気休めにもならないか……。正直、重傷すぎる)

クイントの状態、そして今の状況から光司はこの場から脱出する事を決めた。

「クイントさん、脱出しましょう」

「っ!?でも、まだメガーヌと隊長が!」

心配しているのだろう。
声を荒げて異を唱えるクイント。
しかし、現状その2人を助けるのは光司でも不可能だった。

「クイントさん、同じ隊の人を心配するのはわかります。ですが、あなたは重傷だ。行っても足手まといになりますし、かと言って重傷であるあなたをここに置 いていく訳にはいかない。僕は神じゃない。あなた1人を助けるのが現状限界なんです」

「っ……」

その言葉で、自分の置かれた状況を理解したのだろう。
クイントは俯いてしまう。
光司も本当はこんな事を言いたくはない。
すぐ近くにまだ生存者がいるかもしれないのだ。
助けたい気持ちは充分にある。
だが、怪我人である彼女を置いていく訳にも連れて行く訳にもいかない。
そうなれば、折角助けた彼女の命を下手をすれば捨てる事にもなりかねない。
この事は光司にとっても苦渋の決断だった。
その証拠に、握った手からは血が零れ落ちていたのだから。

「クイントさん、ここをあなたと共にここから脱出します。いいですね?」

「……えぇ」

彼女の返事を確認すると、光司は一旦明後日の方向にちらりと視線を向け、その後クイントを背負うと神速を使って彼女の案内によりこの研究所を脱出した。





















そして、その脱出する様子を映像で別の場所から見ている者がいた。

「っ……くっ、ははははははははははは!!!」

「ど、どうしたんです、ドクター?」

「いや、すまない。まさかこの私を見てくるとはね……ククク…!」

その言葉に、ある笑っていた男に話しかけていた女性が驚く。

「まさか、あの場から私達の隠蔽したサーチャーを見破るなんて…!」

「そう、普通はありえない。だが、突然現れた彼はそれを見破った。しかも、クアットロや私の作品を退けた。実に興味深い!!是非、一度会ってみたいもの だ。ハハハハ!!!」

「あぁ…またドクターの悪い癖が……」

高笑いする男の様子に呆れる女性。
そして、その映像とはまた別の映像に、血溜まりの中に横たわるゼストとメガーヌが映っていた。
















あとがき

どうもこんにちわ、ウォッカーです。
また見てくださった読者の皆様ありがとうございます。
とりあえず調子がいいので、また5話と6話を挙げさせてもらいました。
以前感想で指摘っぽいのがありましたので、備考欄に元ネタについて少し追加しておきました。
さすがにストーリーは、なのはシリーズが元なので正式に入れる事はしませんでしたが。
とりあえず見てくださっている人が増えてきており、私も嬉しく思います。

5話と6話をまとめてあとがきという事で、ある程度解説を。
両方やこれからに共通する事ですが、実は主人公不運というか不幸遭遇率がかなりの割合で高いです。
どこの○条さんだー!って感じなんですけどね。
一応本人のくだらないミスによる物が多いんですが、これからも襲われたり戦闘に遭遇する確率は高い不幸人間になってたりします。
本人はあまり気にしてなかったりというか、実はある程度覚悟しているので、別に「不幸だー!」とか叫んだりはしません。
たぶんですが……。
5話については、その不運が祟ってできた回ですね。
人助けの一貫で戦闘に巻き込まれるのではなくて、単に襲われる……。
これは不運でしかないと思います。
まあ私個人の観点ですが……。
しかし、やられるのは勘弁という事でシグナムさんと戦闘という事です。
シグナムさんも鞘を使うという事で、半分は剣&鞘VS刀&鞘的な物にしました。
もう片方は新モードと黒幕との一幕になるのですが。
基本主人公は、魔力量はないですがコントロール率に関しては抜群の力を発揮しています。
魔力がないなら、より集中させれば魔力を節約しつつ高威力を出せる。
そういう発想が元で、デバイスも魔法も作っています。
もちろん、デバイスは主人公が製作した訳ではありませんが。
6話については、これもまた主人公のミス&不運。
しかし、ミスをほったらかしにする主人公はアホなのかと思う人もいるかもしれませんが、これには理由があります。
まだ、それは明かせませんが。
だから、別に馬鹿ではありません。
そして、6話で主人公の新たなモードと刀に付いていた円輪の正体をようやく出せました。
中々出す機会がなくて、やっとという感じです。
戦闘も、基本原作でAMFに苦戦する魔導師とは対局の存在を出したくて、書いたのですが、うまく書けたでしょうか?
書けてたなら幸いです。
そして、まさかのクイントさんを助けるという。
というかクイントさんってこんな感じでいいんだろうか……?
まあとにかく、これがどうなるかは次回以降でご覧ください。
後、世界間の移動手段でこんなのもあるよ、というのがあれば是非教えてください。
合っていれば問題ないのですが、抜けがあるとさすがにあれなので。


という事で今回は2話お送りしました。
一応しばらくはこんな感じのスタンスで続くかと思います。
調子が良い限り短期間での投稿をしていきますので、これからもよろしくお願いします。
では、また次回でお会いしましょう!
さようなら!



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