魔法世界流浪伝




















第11話 将来を考えて



結果的には、キャロの修行は上手くいかなかった。
竜魂召喚の安定には至っていない。
ただ、これについてはキャロ自身が悪かったという訳ではなかった。
上手くいかなかった原因は2つある。

1つは、光司がキャロの講師として単純に向いていなかったという事。
彼がしていた修行や鍛錬の方法が、キャロとは全く別だったという事が大きかった。
光司の鍛錬の方法は、基本実戦形式で、技の習得にしろ何にしろ、一度は喰らって覚えるといった一見雑なやり方だ。
もちろんこれにはちゃんとした理由があり、一度身を持って受けてこそ、いざという時に役立つからである。
光司の主体にしている剣技などにはこれが一番実戦向きで良い。
だが、キャロにはそんな修行法は当然合わない。
年云々は抜きにしても、まず召喚は喰らうものではないし、技術的にもまず鍛錬の方法が全く違う。
いくら光司が強いと言っても、教えるジャンルが全くの別では結果が上手くいかない場合もある。
強い人から教わっても、必ずしもそれが成功するかというのは、また別の話なのである。
2つ目の理由は、キャロの竜召喚の不安定の原因が精神面にあった事だ。
これは、修行を始めた時から光司が言っていた事だが、一朝一夕に身に付く物ではない。
しかも、キャロにとってはトラウマともなっている物だ。
それはとても根深い。
光司は他人の感情の動きには敏感だが、あいにくカウンセラーではない。
結果、そう簡単に克服できず、竜召喚が安定する事はなかった。

ただ、何も進展がなかった訳ではない。
この1ヶ月の自然の中での厳しい修行で、キャロ自身(精神が)ある程度逞しくなったし、魔力の運用面でも以前より技術は上達した。
つまり、この1ヶ月で目的こそ果たせなかったものの、キャロはしっかりと成長していた。

そして、現在。
修行をこれ以上続けても、望んだ効果は期待できないと判断した光司はキャロとフリードと共に修行していた世界とはまた別の管理世界の森を探索していた。
他の人間からすれば、その事に違和感を覚えるだろうが、光司にはしっかりとした目的があった。
もちろんキャロにはその目的を知らせていなかったため、キャロはそんな事露ほども知らずに付いて来ている訳だが。

ザッザッザ……

草木を後ろのキャロに当たらないよう掻き分けて進んでいく光司。
キャロもその後に続いていく。
すると、いきなり2人に声がかかった。

「止まれ!ここは保護観察区域で関係者外は立ち入り禁止だぞ!」

光司が周囲を見回すが誰もいない。
キャロも辺りをきょろきょろとしていたが、誰も見つけられない。

「うぅん、疲れたんでしょうか。休憩します?光司さん」

目をこすりながら言うキャロ。
しかし、光司はしっかりと相手のおおよその居場所を掴んでいた。

「いや…恐らく上だ」

そう言って、2人が上を見ると、光司の言うとおり何やら男性が浮いていた。
恐らく魔導師だという事はわかるが、それ以上はわからない。
と言っても、光司には言動から既に相手の所属については察しが付いているが、あえて知らないふりをして尋ねる。

「すみません。ここがそういう場所だったという事は知らなかったもので。ところで、あなたは?」

「管理局自然保護隊の者だ。ここは立ち入り禁止区域なのでな。できれば、外に出てほしいのだが」

光司はキャロと顔を見合わせる。
キャロも特に問題ないようだ。
しかし、別の問題があった。

「すみませんが、道案内をお願いできませんか?どこまでが、どの方向に行けば外なのか正直わからないので」

言うと、局員は仕方ないといった感じで下りて来て道案内をしてくれた。
光司は後ろに付いていきながら、内心目的が成功した事にほっとしていた。

(とりあえず、管理局員との接触はできたか……)

光司がここへ来た目的は、管理局員との接触だったのだ。

























そして、局員に案内された後光司はその隊の隊長に話を申し込んでいた。
相手は、40代の人で自然保護隊でもベテランの人間だった。

「で、話っていうのは?」

「単刀直入に言います。ここでしばらく働かせてもらえないでしょうか?」

その言葉で、隊長は考える素振りを少し見せた。
それと同時に向こうで女性隊員と話しているキャロを見る。
そして、すぐに光司に視線を向ける。

「……あの嬢ちゃんか」

さすがベテラン。
察しが良い相手に、光司は苦笑するしかない。

「えぇ。僕自身は旅人ですし、お金は元々1人だったので、立ち寄った世界で数日働かせてもらえば何とかなったのですが…キャロがいるとそれも難しく て……。無論、キャロが悪い訳ではないんですが」

「まぁ、難しいわな。あの嬢ちゃんはまだ10歳にもなってない。それを連れているおまえさんは、端から見れば、足手まといだ。進んで雇う人間なんぞいない だろう」

とある程度同意の意を示してくれる。
ここで、お願いするしかない光司は頭を下げた。

「そういう事なんです。ここで、少しの間働かせて頂けないでしょうか?」

「………」

隊長は考えていた。
正直、局員が他の人間、しかも民間人を雇うという事はまずしない。
しかし、この青年とあの幼女はどうも訳ありのようだ。
放っておくのもさすがに局員としても、大人としてもまずいと思う。
それらを考慮して、色々と頭を回転させた隊長は口を開いた。

「わかった。おまえさんの申し出を引き受けよう。ただし、できる事は色々とやってもらうからな」

「ありがとうございます」

頭を上げた光司は、隊長の言葉にまたそう言って頭を下げた。
光司の目論見はなんとか成功しそうだった。

























それから数週間。
光司とキャロ、フリードは自然保護隊にお世話になっていた。
といっても、ただでお世話になっていた訳ではない。
光司は、元々体の肉付きやお世話になって2日経った密猟者捕縛の際に偶然見せてしまう事になった実力を買われて、巡回や動物の保護など実地的な手伝いに借 り出されていた。
キャロは、竜召喚に不安があり、隊の人達もさすがに幼い少女に仕事をさせるのは気が引けたので、隊の食事の用意など身の回りの世話をある程度まかせられて いた。
フリードは基本キャロの付き添い状態で、たまに物を運ぶのを手伝っている。
そして、光司が今日も隊が駐屯している場所に戻るとキャロが料理を作って待っていた。

「あ、お帰りなさい!光司さん!」

走り寄ってくるキャロに笑顔で答える。

「ただいま、キャロ。もう夕飯作ったのか?」

「はい!今日はカレーです!光司さんも食べてください」

そう言って手を引かれ、席に座らせられると光司にカレーが盛られた皿がキャロによって手渡された。

「じゃあ、いただきます」

「はい。お代わりもありますからね」

そう言って、キャロは隊の女性陣の所へと行ってしまった。
光司はとりあえず「いただきます」と言い、カレーを食べ始める。
そして、少しすると隊長が夕食を終えたのか光司の隣に座ってきた。

「しっかし、キャロちゃんも逞しくなったもんだな」

「えぇ、そうですね」

そう言いながら、光司はキャロの方へと視線を向ける。
キャロは笑顔で女性陣の方々と話し込んでいた。
確かに隊長の言うとおり、キャロはこの数週間で逞しくなった。
料理だけでなく、家事に関する事は大抵1人でできるようになったし、光司自身の世話も焼いてくれる程になった。
正直、意外とおっとりしている光司にあれこれと指摘してくる程になった。
光司にはそれが耳に痛かったが、それでも逞しく成長していくキャロを見て嬉しかった。
やはり、キャロに必要なのは修行などではなく、心の静養と多数の色々な人達に囲まれての生活だった。
隊の人達が管理局にしては結構珍しい良い人ばかりだったのも、良かったのだろう。
光司は本当にその光景を見てきて、良かったと思えるようになってきていたのだ。

「そういや、近い内に俺らはミッドに戻る事になると思うんだが、おまえさんらは付いてくる気あるか?」

「ミッド……首都ですか」

「おう。ここよりは就職先にも困らないと思うが?キャロちゃんがいても大丈夫なところはあるはずだしよ」

「そう…ですね」

とそこだけ曖昧に返してしまう光司。
正直、光司に就職する気はほとんどないと言って良かった。
光司の旅の目的は、目の前の困っている人達を1人でも多く笑顔にするための物であって、就職先を探すものではないのだ。
捉え方によってはどこのニートだという話だが。
というより、社会的に見ればニートで光司の立場がそれで確定する事は間違いないのだが。
しかし、光司にはその気はなく、あくまで働くのもアルバイトとしてであり、ある程度の生活に必要なお金を稼ぐためであった。
そんな思いがあり、ここら辺りで本音を出してみるのもいいだろうと光司は考えた。

「それなら、おじさんにお願いがあるのですが」

「何だ、俺にできる事があったら何でも相談に乗るぜ?」

気さくに相談に乗ってくれる隊長に、光司は本心を告げる事にした。

「実は、ミッドに行く際にキャロとフリードだけ連れて行ってほしいんです」

「?……そりゃどういう事だ?」

訝しげに眉を顰める隊長に、光司は続けた。

「僕は旅人という事はわかっていますよね?」

「ああ」

「今までは旅にキャロを連れ立っていたのですが、いつまでもこのままではいきません。正直、今回おじさんがそう言ってくれたのは良かった。いずれ、あなた 方のような信頼できる方にキャロを預けようと思ってたんです」

しかし、隊長は難しい顔をしたままだった。

「それは、キャロちゃんが足手まといという事か?たとえそうでなくとも、あの子はおまえの事を信頼している。他の誰よりもな。おまえが行かないというな ら、あの子も行かないと思うぞ?いくらおまえの言う事でもな」

その言葉は正しい。
恐らくキャロは光司にこれからも一緒にいようとするだろう。
しかし、ずっとそれではダメなのだ。

「別に足手まといなどとは全く思っていません。そんな事を思っていれば、最初から一緒に旅などしていませんから。それに、キャロがそうしようとする事もわ かってます。それについては私が彼女を説得します。だから、その上であなた方にキャロをお願いしたいのです」

そう言う光司の表情は真剣そのものだった。
同時にどこか決意を秘めた表情だという事も。
それを長年の勘で感じ取った隊長は、光司の言っている事が本気だという事がわかった。

「……おまえのお願いとやらはわかった。俺達が嬢ちゃんを引き取る事に文句はない。だから、おまえさんが嬢ちゃんを説得するという前提で聞かせてもらう ぞ。俺達にそこまでお願いする理由は何だ?聞かせろ」

答えない事は許さない。
言外にそういう雰囲気を発した隊長。
その空気を感じ取った光司もまた真剣な表情で答えた。

「キャロの将来のためです」

「嬢ちゃんの将来?」

聞き返す隊長に光司は頷いた。

「キャロはまだ幼い。このまま僕と旅を続けるのもいいのかもしれない。しかし、彼女が大きくなった時にそれは社会に1人で立っていく上でどうしても枷にな る。旅人と言えば聞こえはいいかもしれませんが、所詮は文無しのニートと言っても過言ではない。このまま行けば、彼女は保護者や後見人がない孤独者になっ てしまう」

「……だが、それはおまえさんがなればいいだろう?」

しかし、光司は首を振った。

「それが無理なんですよ。とっくに僕の戸籍は無効になっている上に、今は僕は旅人という流浪人の身分。社会的地位なんて皆無ですよ。しかも僕には旅人をや める気がない。おじさんもわかっているでしょう?社会的後ろ盾のない子供が、どれだけ苦労した、もしくは悲惨な生涯を送る事になるか」

「………」

確かに光司の言う通りと言えるだろう。
子供が将来充分な生活を送っていくためにはそういった後ろ盾になる存在が必ず必要となってくる。
必ずしも光司の言う通りになるとは限らないが、少なくとも学校に行く、就職するその他色々な事でそういった存在が必要になってくる場面は多かった。

「別に僕は彼女を放り出したいとかそういう事は一切思っていません。むしろ、傍で彼女を見守っていたいという思いもあります。しかし、彼女が幸せな将来を 歩んでいくのに、僕と一緒にいる事は本当の意味で彼女のためにならない。キャロの人生はまだ始まったばかりです。これから色々な楽しい事が待っているんで す。しかし、僕と旅をしていては、彼女はその人生を潰してしまう。僕では彼女が1人で困っているところを助けるので精一杯だった。彼女の人生の将来までは 助けになれない。だからこそ、最善と思ったからこそ、あなた方にお願いしました」

それを聞いた時、隊長はこの光司という青年が紛いなりにもしっかりと考えているのはわかった。
キャロを他人に預けるという点では確かにこの青年は駄目だと言えるだろう。
何せその青年を信頼している人間の意思を無視して、そうしようとしているのだから。
かといって、この青年をただの無責任野郎と責めるのは筋違いだろう。
そんな奴がいれば、むしろそいつが馬鹿だ。
この青年がキャロを他人に預けるのは、その将来をしっかりと見据えた末でのもの。
キャロが順風満帆な将来を送るために、そうするという事だったのだ。

『自分には社会的地位はない』

確かに青年の言うとおり、今はキャロにとって幸せかもしれないが、長い目で見ればそれは間違いとも言える。
そのキャロに一切の社会的ステータスが身に付かないのだ。
学も常識も、生きていく上での他人との付き合いも、1人で生きていくための術も。
何を優先するかでキャロをどうするかが別れてくるこの決断。
光司という青年は、キャロの今の心ではなく、キャロの将来を幸せな物へとするためにこの決断を選んだ。
その決断を隊長は非難する事もできなかったし、光司がしっかりと真剣に考えていたという事がわかったため、その気も失せてしまった。

「……わかった。そういう事なら、キャロちゃんはこちらで引き受けよう。他に何かしてほしい事は?」

「できれば、彼女の保護者になってくれる方を探してください。彼女のために親身になってくれる、そういう方を」

「わかった。おまえさんの意思を組もう」

「ありがとうございます」

礼を言う光司に、隊長は釘を刺す事にした。

「だが、説得はおまえさんがきっちりとしろ。もし、できなければおまえさんの頼みごとも引き受けん」

「それはもちろんです。僕とキャロできっちり話し合いますので」

「……ミッドには3日後に行く予定だ。今日はしっかりと休んでおけよ。明日も仕事があるんだからな」

「わかりました」

そう言い残して、隊長はテントへと帰って行った。
その後、光司は冷えたカレーをしばらく味わっていた。























その後、隊員達のほとんどは寝静まった後、駐屯地の端の方で後片付けの終わったキャロと光司は向かい合っていた。
キャロに「大事な話がある」と言って、光司が呼び出しておいたのだ。

「大事な話って何ですか?」

「うん、そうだね……」

向き合いながら、光司は暖かいココアを一口。
しかし、はぐらかしても仕方ないと思い口を開く。

「単刀直入に言うね。自然保護隊の皆は、3日後にミッドチルダへ戻るんだけど、その時キャロも一緒に行ってもらおうと考えている」

「それは、光司さんも一緒ですよね?」

そう返したキャロの瞳にはどこか縋るようなものがあった。
やはり光司や隊長が危惧していた通り、彼女はまだ光司に依存してしまっているところができていた。
だが、光司ははっきりと告げた。

「いや、僕は行かない。キャロとはそこでお別れする事になる」

その瞬間、キャロは呆然となった。
恐れていたことがそのまま現実になったといったところか。
そのような雰囲気を醸し出している。

「…………」

我慢する事が癖になったのだろう。
今度はそのまま泣きそうな表情で俯いてしまう。
光司を罵倒する事も問い詰める事もしない。
だから、その間に光司は丁寧に説明する事にした。

「別にキャロの事を邪魔だとか足手まといだとかそんなのじゃないんだ。キャロの事は大切だ。それは僕の本心だ。嘘はない」

そう言うと、僅かにキャロの顔が上がる。
上目遣いに潤んだ視線が向けられる。
光司はその視線から目を逸らさなかった。
こういうのは可愛い、罪悪感があるからといって、逸らしていい場合でも場面でもない。
そして、幼いキャロだからこそ光司が真剣な表情で自身を見ている事で、それが本当だろうと思ったのだろう。
泣きそうになりながらも、口を開く。

「じゃあ、どうして……?」

「キャロのこれからを考えた上で、そうした方が最も良いと思ったからなんだ」

「私の、これから……?」

わからないといった風に首を傾げるキャロ。
光司は努めて笑顔で、丁寧に説明する。

「そうだね…キャロが大きくなった時の事を色々考えてたというべきかな。1つ聞くけど、キャロは今楽しいか?」

「……はい。自然保護隊の人がいて、光司さんがいて、フリードがいて…凄く楽しい…です」

その言葉に光司は笑顔だった。
そう言ってくれる事が本当に嬉しかったからだ。

「そうか、ありがとう。でも、僕はそれだけでは駄目だと思ったんだ」

「どうして、駄目なんですか?」

「今は楽しくてもキャロが大きくなった時、楽しくない事が多くなる、困った事が多くなる、苦しい時が多くなる。そう思ったからだよ」

「でも、光司さんがいれば「それだ」え?」

キャロの言葉を途中で遮って光司は指摘した。
そう、今のそれがキャロの将来にはいけないと考えたのだ。

「僕がいれば、問題ない。それが駄目なんだ。もし、僕がいなくなった時、キャロは1人で生きていける可能性が低くなってしまう。僕の社会ステータスは最悪 だからね」

「そんな事ないです!光司さんは優しい人です!」

必死にそう叫んでくるキャロ。
しかし、光司は首を振った。

「キャロの評価がどうとかいうのじゃないんだ。僕は一般的な社会人として見られた場合、最低辺の人間だという事だ。優しいとかそういう人格の問題じゃな い。人一人がしっかりと社会に生きる人として、仕事を持ち生活を確率しているかというところなんだよ」

「…………」

「僕といる事は将来キャロの足枷にしかならない。だから、僕はあえてキャロと別れる事を選んだ。そうする事で、キャロにはちゃんとした年相応の生活を してほしいと思ったし、将来困らないようにキャロを親身になって助けてくれるような人を探してもらえるようおじさんにも頼んだんだ」

「おじさんに…ですか?」

おじさんというのは、先程話していた隊長の事である。
光司は頷いた。

「ああ。キャロ、君の世界はまだまだ狭い。この世界は広い。僕がキャロを受け入れたように、きっと他にもキャロを受け入れてくれる人が絶対どこかにいる。 僕よりもしっかりした人で、優しい人が。僕は、そういう人の元でキャロに幸せな将来を送ってほしい。そう思ったから、キャロと別れる事を選んだんだ」

「…………」

キャロは何も言う事ができなかった。
光司の言う事はわかる。
自分が大切と言ってくれたからこそだ。
だから、自分のために最善の選択をして、こう言ってくるのはわかる。
だけど、別れるなんて言ってほしくなかった。
光司自身の事を最低だなんて言ってほしくなかった。
光司が優しいという事は自分が一番わかっているし、まだ光司と別れたくなかったから。
この人は自分を助けてくれた、最高の人だったから。
理解はできている部分と納得できていない部分がキャロの中でせめぎあっていた。
しかし、我慢という事を長い期間身に染み込ませすぎたせいだったのだろう。
大切な人を困らせたくない。
そんな思いが、キャロにこの言葉を口にさせた。

「……わかりました。光司さんがそう言うなら、きっとそうなんですよね」

暗い表情のまま。
光司はそれを見て、彼女が自分の欲求を押さえ込んだという事がすぐにわかった。

「2ヶ月もいて、我慢する事はないと言っておいて最後の最後に我慢を押し付ける。そんな僕は間違いなく最低な人間なんだろう。罵ってくれても、憎んでくれ ても構わない。ただ、僕が本当に悩んだ上で最善だと思ったのがこれしかなかった。キャロを引き取ってくれる相手が見つかるまでいても良かったのかもしれな いけど、僕は一所にずっと留まっていられないから。大切だからこそ、悩んで悩んでこの決断をした。それだけは覚えておいてほしい。それまでに僕にいっぱい 我侭言ってくれてもいい。それが僕にできる最後の事だからね」

そう言われると、さすがのキャロもこれ以上こらえる事はできなかった。
光司の胸に飛びつくと同時に泣き出してしまう。
光司は黙って、キャロの背中に手を当てると優しく撫でるだけであった。

大切な人だからこそ、自分の手の届かぬところへ置いておく。

そんな矛盾した行為をしなければならない事が、光司には虚しかった。


























それから2日間。
キャロは光司にできる限り甘えた。
寝る時も、食事する時も、仕事する時も常に一緒だった。
別れるまでにできるだけの我侭を受け入れる。
それが光司の言う約束だったから。
だから、それに目一杯キャロは甘えた。
それを隊員の人達は察してくれたのか、隊長から聞いたのか、特に何も言う事はなく、暖かい目で見てくるだけだった。
そして、ついに光司とキャロがお別れする日がきた。

「じゃあ、キャロ元気で」

「はい、光司さんも」

「フリードも元気でな。しっかりとキャロを支えてあげるんだぞ?」

「キュクゥ〜」

フリードは別れる事が寂しいのか、そういった声を挙げる。
しかし、これは決まった事だ。
今更、光司が決断を変える事はなかった。

「保護隊の皆さんもお世話になりました。キャロの事、すみませんがよろしくお願いします」

「ああ、まかせておけ」

「光司さんは安心して行っておいでよ!」

隊長と共に女性隊員の方々からもそんな言葉を頂く。

「では、お世話になりました」

そう言って、背中を向け、立ち去ろうとする光司。

「光司さん!」

すると、キャロが大声を挙げて光司を呼んだ。
光司は立ち止まり振り返る。

「また、いつか、会ってくれますか?」

そこには大粒の涙を目に溜めたキャロがいた。
しかし、暗い表情はどこにもない。
決して見せまいとする彼女がそこにいた。
だから、光司も満面の笑顔で言う。

「キャロが良い人を見つけて、自分に自信が持てる。そんな風になれたら、きっと会いに行くよ。きっと!」

「きっとですよ!約束ですからね!」

「ああ!」

そう言うと、今度こそ光司は背を向けて歩き出した。
そして、すぐに転移魔法を発動。
この世界から姿を消した。

























光司がこの世界から立ち去るのを見送ったキャロは、まだその地点を見つめていた。
そこへ隊長であるおじさんが声をかけてくる。

「嬢ちゃん、準備はいいか?」

「はい」

振り向いて答えたキャロに、隊長は頷くとすぐに隊員達へ指示を出す。
すると、隊員のお姉さんがキャロに手を差し出してきた。

「じゃあ、私達も行こうか。キャロちゃん」

「はい!」

(光司さん、私きっと自分に自信が持てるそんな人になってみせますから!)

キャロは光司の去った場所を見つめながら、決意を固めた後、すぐに女性隊員の手を取って振り返り歩き始めた。
「自分を誇れるようになって、大切な人ともう一度会う」、そんな新たな決意を胸に秘めて。

















あとがき

新年、あけましておめでとうございます!
今年も執筆活動がんばっていきますので、よろしくお願いします!
という事で、今回は新年第1号作品となります!
いえ、本当は昨年の年末に投稿する予定だったんですけどね……。
忘年会やら掃除やら何やらしている間に新年きちゃいました。
てな訳で新年第1号となった訳です。

今回は主人公が策略をもって、キャロを管理局に預けるという何とも主人公最低〜な回でした。
……冗談はおいておいて、今回は賛否両論に別れる回になりそうです。
まず、キャロの修行結果ですが、上手くいきませんでした!
結構こういう二次創作では、修行したら大抵成功するパターンが多いのですが、失敗もするだろうという事で今回は失敗してしまったという結果に落ち着きまし た。
今回の作品の主人公、光司君は万能ではないんです!、はい。
そして、光司君は色々と考えた結果、偶然を装って管理局と接触し、最終的にキャロを預けるという形に落ち着く訳です。
改めて、この話で主人公の社会的地位を掘り下げてみたのですが……。
まあ、最低に近いんですね。
話の通り旅人ってかっこよく言っても、結局はニートっていっても過言ではないのでしょうし。
光司は自分の社会的立場をよく自覚し、理解しているので、先を考えた上でキャロを預けるという決断をしています。
これをひどいか良い人か、かしこい人と取るかは人次第ですが、キャロはとりあえず光司をしっかりとした優しい人と取る事にしました。
読者の皆さんはどう受け取るかはわかりませんが、私的には光司の考えをしっかりと説明し、立場も明確にした上での説明ならわかってくれる人だろうと判断し た上での話となっています。

次回は、キャロの外伝的な話となります。
どういう内容かは次回で!
すごく日常的な話にする予定です。

今回でキャロ編は終了で、後は外伝を1話やって、散発的な話をちょこっとやった後Strikers本編に入ろうと思っています。
本編を楽しみにしている方にはもう少し待たせる事になってしまいますが、もう少しだけお付き合いください。
では、新年1号のあとがきはこの辺で。
今年も皆さんによい年でありますように。



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