魔法世界流浪伝




















第11.5話 キャロの恩人



あれから約2年。
キャロはミッドにあるカフェである人と待ち合わせをしていた。
机の上には、サンドイッチとミルクが置いてある。
召喚竜であるフリードは、皿に設けられたミルクをちびちびと飲んでいた。
一応待ち合わせの時間から既に10分程経っていたのだが、キャロは特に気にしていなかった。
それは、待ち合わせをしている人がとても忙しい身分だという事がわかっていたからである。
そして、それからさらに5分後。
ミルクを少しずつ飲んで待っていたキャロの視界に待ち合わせをしていた人の姿が飛び込んでくる。
その人は、店員と二言ほど話すとすぐにこちらを見つけたのか早歩きで向かってきた。

「ごめんね、キャロ!遅くなって」

「いえ、私も今来たところですから。大丈夫です、フェイトさん」

キャロは気を遣わせまいと、目の前の相手、自分を引き取ってくれた管理局執務官『フェイト・テスタロッサ・ハラオウン』にそう笑顔で挨拶した。
























キャロ・ル・ルシエ。
今目の前で楽しく話しているピンクの髪の少女を初めて見たのは、今から1年半ほど前だった。
その時は何故か迷惑そうな雰囲気を見せる係員に、頭を下げてお願いしていたと思う。
それが気になった私『フェイト・T・ハラオウン』は、その訓練を彼女には見えない形でこっそり定期的に見学させてもらった。
それでわかったのは2つ。
1つは、各所の大きめの訓練所を借りているのは週に1回ということ。
そして、2つ目は借りた訓練所を毎回のごとく半壊させているという事だった。
恐らくそれぞれの訓練所の係員が迷惑そうにしていたのは、この2つ目が原因なのだろう。
1つ目もそれを察した彼女が控えめにしてそうしているのではないか。
彼女の訓練時に見せる必死な様子から、私はそう判断した。

そこで、私は勝手ながら彼女の事を調べた。
彼女の訓練時の必死な様子と、時折見せるどこか寂しそうな様子が頭から離れなかったからである。
調べて出たのは、普通とは言いがたいものだった。
アルザスという小さな村の出身で、追い出され放浪していたところを自然保護隊が保護。
以後、保護隊の女性隊員の1人が彼女を引き取り、世話をする事となる。
その後、局員になる事を決めた彼女は、試験を受け、合格し局員となる。
そのため、現在は保護者なしの孤児扱い。
住んでいる場所は、その自然保護隊の女性が使っていた寮だった。
それを見た私はどこか彼女の身の上が昔の自分に少し重なって見えた。
そして、そんな彼女が何故あそこまで必死になって訓練をするのか、さらに知りたくなった。
その光景を目にしていると、かつて必死に努力していた自分を思い出したから。

そして、日に日に「彼女の力になりたい」という気持ちが強くなり、意を決して彼女と話してみる事にした。
その時の彼女の顔は今でも覚えている。
どこか酷く驚いた様子で、でもどこか嬉しそうな感じも含まれていた表情を。

「私と家族になってくれないかな?」

そう言い、理由をしっかりと彼女にもわかる形で話した時に彼女が少し泣いてしまっていたことを。
その時の私はひどくうろたえてしまったのだけれど、その話を受けると言ってくれた彼女が「嬉しかったんです」と言ってくれた時は逆にほっとした程だった。
そして、私はキャロの保護責任者という形となり、この1年半を過ごしてきた。
彼女のお姉さんとして、保護者として、彼女が寂しくないように、いつでも相談に乗って時には助けてあげられるように。
今回の喫茶店での待ち合わせもその一貫だった。
話す内容は至って最近の事。
仕事だけでなく、プライベートの事もだ。
キャロ自身、身の上の都合の事もあってか、過去の事はほとんど話さない。
当然だ。
私の調べた事が本当なら、彼女にとってのそれはタブーであるとわかったからだ。
少なくとも私も過去のそういった事を自分から話そうと思った事はほとんどない。
ただ、この子が定期的に話す際、過去の事でいつも1つだけ楽しそうに話す事があった。

「それで、光司さんと一緒に無人世界で修行したんですけど、その時に……」

そう、この光司という人物の事である。
最初私は話を聞いてあげる事に専念し、余計な詮索はしない事にしていた。
しかし、定期的に会うたびこの名前の人物の話を何かしらの話に繋がる形で聞く事になるのである。
キャロはその人の事を嬉しそうに話すので、フェイト自身当初は特に気にしてはいなかったが、逆に今の時点ではその人物が一体キャロとどういった関係だった のか好 奇心という面で気になっていた。

「ねぇ、キャロ。ちょっといいかな?」

「あ、はい」

だから、悪いと思いつつ話の途中に割って入る。

「その光司って人って、キャロにとってどんな人なの?私が保護責任者になる前に調べた事ではそんな人物の事は欠片もなかったんだけど」

すると、キャロはある物を取り出した。
それは、以前私が引き取る前に彼女がいつも首に提げていたロケットだった。
彼女を引き取った直後に、それについて尋ねた事もあったが、彼女はその時にはそこだけ話題をはぐらかしていた。
それを今差し出される。

「見てもいい?」

「はい」

確認してから、私はそのロケットを開けて、中身を見る。
そこには、どこかの森で撮ったのか、キャロと共に笑い合う金髪の青年が写っていた。

「この人が光司さん?」

「はい。……私の、最初の恩人です」

まるで噛み締めるように、キャロは思い出すような口調でそう告げた。

「詳しく聞いてもいいかな?」

キャロは私の言葉に頷くと、話し始めた。

「フェイトさんは、私が故郷を追い出されたという事はご存知ですよね?」

「……うん」

「その時、行く宛もない私を偶然拾ってくれたのが光司さんなんです。4ヶ月程の短い期間でしたけど」

「という事は、自然保護隊に保護されるまでって事?」

またもキャロは頷いた。

「その時に光司さんには色々なところに連れて行ってくれたんです。楽しいところ、私が見た事がないところ、世界によって人々の生活が違うという事、私みた いな子供は遠慮しなくていいって事…色々教えてくれました。もちろん、私の召喚魔法の訓練についても」

「そうなんだ……。良い人だったんだね」

「はい。光司さんは優しい人でした。困ってる私に手を差し伸べてくれて、私のために色々とやってくれました。私の召喚魔法の訓練も、本来はジャンルという ものが違うのに嫌の1つも言わないで教えてくださったくらいです。光司さんには生きていく上で最低限の常識、力の使い方、考え方を色々と教えてもらいまし た」

それで私にも納得のいくものがあった。
その光司という人物は少なくとも孤独だったキャロにとっての光だったのだろう。
そして、訓練にも付き合っていたという事はその光司という人物も恐らく魔導師だ。
同じ魔導師として気になるフェイトは、少しだけその戦闘スタイルについて聞いてみる事にした。

「その光司さんって、ジャンルが違うって言ってたけど、どんな魔法を使ってたの?」

すると、キャロが困ったような表情を見せた。
フェイトはそれを疑問に思ったが、とりあえず聞く事に徹する。

「えーと、実は私も光司さんの魔法はそれ程見た事がないんです。せいぜい飛行魔法か身体強化くらいで……」

それは奇妙な話だ。
もう少し深く聞いてみる事にする。

「どういう事?」

「その…光司さん自身あまり魔法を好まないみたいなんです。魔法の形態や扱いについては、物凄く詳しいんですけど……。私が見たのも大抵魔法を使わない剣 技か何か不思議な方法で敵を倒していたりしていましたから」

「…不思議な方法?」

「はい。何でも、剣気っていう物らしいんですけど、あまり深くは話してくれませんでした」

その言葉から私は光司という人物を予想する。
優しいというところは恐らくキャロの言葉から間違いない。
しかし、魔法は嫌い。
でも何故か魔法には詳しい。
加えて戦闘法は、恐らく剣を利用した近接型。
それも剣気という物を利用したりもする。

(……もしかして、地球でなのはのお父さんが言ってた気っていうものと関連があるのかな?)

以前地球にいた時、親友である高町なのはの父が戦いにはそのような物を使う人間がいるとかいないとかそのような話をしていたのをちらっと聞いた事がある。
そのような事を考えていると、急にキャロが手をポンと叩いた。

「あ、そういえば光司さんの魔法を1度見たことがありました!」

「え?どんなのかな?」

知りたかった魔法の形態についてキャロが思い出したようなので、フェイトは再びキャロの話に耳を傾ける。

「えーと、確か刃の長さを延長する魔法って言ってました。その時たまたま見たんですけど、明らかに剣では届かない位置の木がシュンッって振った瞬間に、ス パッって切れたんです。その時に聞いたんですけど、光司さんはそう言ってました」

「そうなんだ」

(……聞いた感じだと私のザンバーに近い魔法かな)

キャロの子供らしい表現を微笑ましく聞いていた私であったが、聞く限りは自分の使う魔法の1つに近い印象を持った。
得物から考えても、近接主体の魔導師なのだろう。

(……でも、聞いた感じだと汎用性が高そうだし、速さもあるかも)

光司という人が組んだ魔法に私は少し興味がでてきた。
だが、そんな思考をしている間フェイトは口を閉じてしまっていた。
黙ってしまっていたフェイトにキャロが話を続ける。

「ただそんな優しい光司さんでしたから、私がこのまま一緒にいる事を良しとしなかったんです」

「…?どういう事?」

気になった私は聞き返す。
ちょうど聞きたかったと思っていたのだ。
何故そんな人物がキャロを放り出す形で、管理局の保護隊に預けたのか。

「光司さんは私の将来もしっかりと考えてくれてたんです」

「将来……」

呟く私にキャロは頷いた。

「光司さんは旅人でした。いわゆる身分としては最低ランクの人だったんです。もちろん、私はそんな事今でも思ってないんですけど。でも、光司さんは自分の 社会的立場を理解してました。だから、このまま自分がいれば私の枷になってしまう。私の将来が苦労でいっぱいのものになってしまう。だから、光司さんはよ く考えた上で、自然保護隊の方々に私を預けたんです。今思うと、保護隊の方に預ける事をあらかじめ決めていたと思うくらいですから」

「そっか……。優しいだけじゃなくて、しっかりした人でもあったんだ」

「はい!」

嬉しそうにするキャロにフェイトは笑顔になった。
恐らくこの光司という人物は、キャロがこのまま保護責任者がいないという立場になる事を恐れたのだろう。
自分はあくまで旅人で、身分は社会的に格下。
そんな人間が保護者になれるはずもない。
そして、保護者がいない子供がどれだけ苦労するか。
数々の孤児を見てきたフェイトにはそれがよくわかった。
だから、キャロを放り出したという形にもフェイトは納得がいった訳ではないが、少なくとも光司という人がしっかりと考えているという事はわかった。

「だから、私決めてたんです。次に会うときには立派に誇れるような人になってるって」

「それで、あんなに真剣に訓練を?」

「はい。と言っても、今でも上手くはいってないんですけど……」

苦笑いするキャロ。
しかし、フェイトは首を振った。

「ううん、そんな事ないよ。キャロが一番努力してるって事は私が知ってる」

「…ありがとうございます。いつか、フェイトさんにも会ってほしいです。光司さん、私を預けた時に私に親身になってくれる後見人を見つけるんだって言って たくらいですから。きっと、光司さんも納得してくれると思います。フェイトさんは私の2人目の恩人ですから」

「ふふ、そうだね。ありがと。そう言われると、私も会ってみたくなったな」

キャロの保護責任者となった身として。
1人の人間として。
キャロを一時でも支えた人物にフェイトは会ってみたいと思った。

「でも、よくそれを見せてくれたね?前はいつもはぐらかされてたんだけど……」

すると、今度はキャロが恥ずかしそうに顔を僅かに赤くした。

「いえ、その…今の保護者であるフェイトさんに申し訳なかったですし、その…恥ずかしくて。光司さん、男の人でしたし……」

それで、フェイトにもわかった。
キャロが光司をどう思っているのか。

「そっか、大好きなんだ。光司さんの事」

「え!?は、えっと…はい……」

そうしてしばらく私達は楽しく、家族らしい団欒の一時を過ごすのであった。

























しかし、楽しい時間というのはあっという間に来るもので、キャロとフェイトは店を出た先でお別れする事となった。

「じゃあ、また連絡してね。キャロが困っている事があったら、すぐに駆けつけるから」

もう彼女、完全に親馬鹿要素が出ていた。
しかし、それを気にした様子もなく、キャロは笑顔で返事をする。

「はい。わかりました」

「じゃあ、気をつけてね。帰ったら連絡入れてね」

二度も念押ししたフェイトは、振り返って走り去って行った。
恐らくこれからまた執務官としての仕事なのだろう。
キャロも一旦仕事場へ戻る事にする。
キャロもこれから少し仕事があるのだ。
管理局員としての。
しかし、歩き始める前にキャロは澄み切ったミッドの空を見上げる。

(光司さん、今私は凄く幸せです)

優しいフェイトさんが保護責任者で、そのお友達の方々や同じ引き取られていたエリオ君も優しい人で。
昔と違い何不自由なく暮らせている。
昔からすれば、キャロにとって今の状況は充分なものだった。

(光司さんは、どうしてますか?)

どこか遠い世界で今日も旅をしているであろう光司にキャロは届かないとわかりつつも、そう心の中で問いかけるのであった。
光司が偶然出会って助け、管理局へ預ける事となったキャロ・ル・ルシエは、今幸せといえる生活を送っている。






















あとがき


皆さん、10日程でしょうか。
お久しぶりです、ウォッカーです。
11.5話はどうだったでしょうか?
今回はキャロ編の外伝という事で用意しました。
キャロのその後を日常話として書かせて頂きました。
初めてのキャロやフェイト視点、つまり他キャラが中心でのお話です。
いつも誰かを助ける話なので、今回はちょっと毛色を変えてみました。
日常話は正直あまり書かない私なんですけど、この話だけは進んで自分から書いたので、書き上げた今でも正直よく書けたなと驚いていたりします。
最近ワンパターンになりつつあったので、この話でちょっとキャロとフェイトのほんわりした雰囲気を楽しんで頂ければ嬉しいです。

次回は、あの空港事件のお話です。
Strikersまで後次回も含めて2話程になります。
やっと原作……。
ちゃんと投稿できるよう気合入れて頑張っていきたいと思います。

では、皆さんまだまだ寒さが続く時期ですので、風邪にはお気をつけて。
また次回でお会いしましょう。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.