中忍。それは下忍とは違い自らが部隊のリーダーとなって部下達をフォローし、または指示を出し任務を遂行する者の事。
その中忍になるための試験が行われるのはここ『忍者アカデミー』。いつもならそこには下忍になる為に通う忍者の卵の姿があるのだが、今日この日のアカデミーには中忍になるべくこの時のために腕を磨いたと思われる殻が取れた下忍達の姿があった。
その下忍達の中には、受付を済ませた俺達第七班の姿も勿論ある。アカデミーの中に入って集合場所の所に向かっている訳なんだが、ここに来るまでシカマル達に会えてねぇから、あいつらはもう集合場所の『301』の教室にいるんだと思う。
と、考え事をしながら歩いていると、『301』と書かれたプレートのある教室の前で喧嘩……じゃないないが、騒がしくしている奴らを見つけた。てか、ここ2階だぞ?お前らってば3階行かなくていいの?
サクラの奴も「ちょっと、止めた方がいいんじゃない?」とかサスケじゃなくて俺に言ってくるし…。
「めんどくさいから俺はパス。サスケは?」
「フンッ、あんな茶番に付き合ってやる程、俺は暇じゃない」
「だとさ。俺ら二人は無視して先に進むけど、サクラが止めて来るか?」
「うぅ…はいはい、分かりました。あれは放置して、先に行けばいいんでしょ!」
サクラを誘導するのにサスケは使えるからなぁ。あ、この1ヶ月で俺とサクラはちろっとだけ仲良く?なったぞ。名前を呼ぶくらいには。知り合い以上、友達未満って奴だ。
サスケに修行をつけていると、なぜかサクラも付いて来るようになったんだよなぁ。んで、たまぁに『遊んで』やっていたら、俺に向けて来る目がやっと普通になったんだ。ま、友達にはなれるかは分からねぇけど。
「ふ〜ん、そんなんで中忍試験を受けようっての?止めた方が良いんじゃない、ボク達?」
と、そんな声が聞こえるが無視無視。いの達が待ってるだろうから早く行こ〜〜。だが、そんな俺の思いとは裏腹に面倒事があっちの方から絡んできやがった。
ドカッ!!
そんな音がすぐ近くで鳴ったので視線を少し下げてみると、原作でおなじみのオカッパ、ゲジマユ、全身緑色のタイツ……ロック・リーその人が口角に血を付けて苦しそうにしている姿があった。
俺がリーの姿を凝視しているところに「リー!!」と悲鳴に近い声を上げて、駆け寄って来るのは髪を左右でお団子にし、簡単な中華風の服を着たテンテンだった。あ、ちなみにテンテンの声はちゃんと田村ゆかりボイスだったぞ。
言ってなかったけど、ヒナタの声も水樹奈々ボイスだし、いのの声も柚木涼香さんボイスなのだ!はぁ…リアルのゆず姉さん可愛かったなぁ…。
「おいおい、中忍って言ったら部隊の隊長レベルだぜ?任務の失敗、部下の死亡…それは全て隊長の責任になるんだ。それが…」
さっき無視していた声の奴がこっちに歩いて来ながら話す内容はどれもが正しい。だが、こんな奴が中忍だと思うと呆れてしまう。下忍をいじめて悦に入ろうなんて…。だから上忍になれないって事に気付かないんだろうか?
「お前みたいな弱い奴に務まる訳ねぇだろうが!!」
パシッ
歩いて来るなり腕を振り上げ、リーを殴ろうとするそいつの腕を止める。いや、面倒事は勘弁だけど目の前でやられるのをただ見てるだけってのは、いただけないっしょ流石に。まぁ、リーのこれも演技なのも分かってるけどさ…。
「はい、ストップ。そこまでにしてくれないですか、お兄さん。喧嘩がしたいなら、ここじゃないとこでやってください。正直邪魔なんですよね〜」
「……放置するんじゃなかったのか?」
「いや、向こうから絡んできたんだから、これは不可抗力だろ?」
「私が言った時には、無視しようとか言ってたくせに…」
「あぁ〜?サクラ、聞こえねぇけど何か言ったかぁ?」
「べっつにぃ〜〜〜べぇ!」
このクソ女、お前が舌を出しても可愛くねぇんだよ!サスケも呆れた顔すんじゃねぇ!全く…これは俺のせいじゃないだろ。ん?何か、腕押さえてる奴が五月蠅ぇな。離してやるか。
「っく、ふざけやがって!」
クナイを取り出そうとしたそいつを、今まで静かにしていたリーが止める。ったく、お前がはじめっからそうしておけば、こんなめんどくさい事にならなかったんだ。
リーがそいつの腕を掴んでいると、遠巻きに見ている下忍の中からそいつの仲間らしい奴が出てくる。遠巻きに見てるとか…こいつの独断先行ってやつ?いや、それはねぇか。現にそいつを連れてここを離れて行きやがったし。
てか何だよ…茶番を勝手にしてたくせに、収拾は俺達に丸投げかよ。まじで、めんどくせぇ…。それに、遠巻きに見ていた他の下忍の奴らが「あいつ九尾の…」「あぁ。それに後ろにいるのは、うちはだぜ」とか、俺達の話してるし。今度見つけたらあいつらボコる。絶対ボコる。
「ふぅ…」と、リーが息を吐き出した。いや、お前なんかより俺の方が溜め息出してぇっての。
「おい、約束が違うぞリー。下手に注目されて警戒されたくないと言ったのは、お前だぞ?」
ん?リーにそう言って、周りの下忍の中から現れたのは…ヒナタの従兄のネジじゃねぇか。確かこの時はまだ、ヒナタの事恨んでるんだっけか?
「それは……」
リーは言葉を続けずにネジから視線を切り、熱のこもった視線をサクラに向ける。おお!!やっぱりサクラの事は好きになるんだな、こいつ。リーは頬に朱を散らして一歩前に足を踏み出した。
「はぁ…これだからうちの男どもは……」
と、テンテンが天を仰ぐように顔に手を当てながら溜息を吐く。どんまい、テンテン。これは避けられぬ運命だったんだよ、きっと。
俺がテンテンに同情していると、サクラの方にリーが更に歩み寄り、目の前で止まる。来たぁ!!サクラへの愛の告白ぅ〜〜!
「僕の名前はロック・リー。貴女の名前を教えて下さい」
どこぞの紳士がやるみたいに腰を折り、挨拶をするリー。これが、サスケとかだったらサクラもトキメいたんだろうが、如何せんそれをやったのはロック・リー。
キューティクルのように照っている黒髪オカッパ。ゲジゲジのような太く濃ゆい眉毛。まつ毛が目立つクリクリっとしている丸い目。更には服装が緑色の全身タイツ。漫画の世界ならば違和感なく見れていた俺でも、実際に見たこいつの全貌は……只の変態だ。
そんな変態の恰好をした少年に、いきなり名を問われたサクラは堪ったもんじゃなかったみたいだ。一応は木ノ葉の額当てを付けている。サクラは頭ではそう理解していても、心までは理解出来なかったんだろう。
初対面の人にいきなり嫌悪感を出したくないという気持ちと、一刻も早くここから逃げ出して、警察にリーを突き出したい気持ちの2つで板挟みになったみたいで、ひくひくと頬をひきつらせながらも自分の名前を言うサクラ。俺もこの時ばかりは、はじめてサクラに同情した。
「………………春野サクラです……」
「―――――春の野原に咲くはサクラの花。その姿は儚く、されど麗しい…。美しい貴女にふさわしい名前だ」
「…………」
……ww…悪いサクラ。俺、我慢の限界だわ。何だよ、こいつバッカじゃねぇのww
何が「春の野原に咲くはサクラの花、その姿は儚く、されど綺麗な花」だよwwwwああ腹痛ぇ!!サスケも笑ってるし、相当だよこれwwwwww
サクラは真正面からそれを見て聞いていたが、俺達みたいに笑えないみたいで、ひくひくと更に頬を痙攣させている。そりゃあ、自分の事を言われてるんだ、笑えねぇよな。サクラが無言でいるのをどう解釈したのか、リーは歯をキランっと輝かせながら笑みを作り、再度紳士のように腰を折って、片手をサクラに向けて伸ばす。
「僕とお付き合いしましょう!死ぬまで貴女を守りますから!!」
「ごめんなさい」
まさに即答。考える時間などこれっぽちもなく、リーが告った瞬間にはサクラはもう頭を下げていた。告白され慣れているサクラだが、ここまでの即答は過去になかったと思う。たまに、そんな現場に出くわしたから分かる。あれは、拒否反応だったんだな。
ピシっていう音がリーからしたと思う。リーを見てみると真っ白に燃え尽きている姿が俺の目に飛び込んできた。それを見てまた腹が痛くなるくらい俺は笑い、サスケも我慢せずに笑う。
「あちゃぁ…ドンマイ、リー。次、頑張ろう」
と、テンテンが苦笑を浮かべてポンポンとリーの肩を叩く。テンテン、今のリーには何を言っても、馬の耳に念仏だと思うぞ。俺がそんな事を思っていると、ネジがサスケに声を掛けた。
「馬鹿が…。おい、そこのお前、名乗れ」
「……人に名を聞くときは、自分から名乗るもんだぜ?」
「お前ルーキーだな。歳はいくつだ?」
「答える義務はないな」
おお?何だよ、今度はこっちが面白そうじゃん。おかげで、周りのウザい連中の声は聞こえなくなったから、俺ももうちょっとだけ付き合ってやってもいいぞ?
「はぁ…サスケ君、行きましょうよ。ナルトも何時まで笑ってんのよ!一次試験の開始時間までそんなに余裕ないんだから!!」
何だよ、ノリ悪いなぁデコ介。まぁ、確かにサクラの言う通りかもな。こんな所で油を売ってる暇なんてねぇし、そろそろ3階に行くか。
「…目つきの悪い君、ちょっと待ってくれ」
はい、邪魔入ったぁ〜〜〜何だよリー、お前達も時間ないって分かってる筈だろ?
「今、ここで僕と勝負しませんか?」
「………」
喧嘩を売られてるのはサスケだけだよな?なら、俺は先に行ってようかな。どうせ、サスケの事だから戦う事になるんだろうし。
「僕の名はロック・リー。人に名を尋ねるときは、自分から名乗るものでしたよね?うちはサスケ君」
「…知ってて声を掛けてきたのか。フン、俺も舐められたもんだ」
「君と戦いたいですから」
リーとサスケの空気が変わっていくのに気付くサクラだが、おろおろするだけで使えない。ま、サスケのお守はこいつに任せて俺は先に行く事にします。頑張ってなぁ〜
「サクラ、後は頼んだ。俺は先に301の教室に行ってるからよ」
「ちょ、私に押し付ける気!?」
と、サクラが言ってくるが、俺は無視して歩を進める。序でにリーとネジ、テンテンの脇を通る際に、ちろっと殺気を叩きつけてやる。そうしたら、面白いように三人は固まった。これ位の殺気にやられてるんじゃ、今のサスケには勝てないぞ〜リー。それから、ネジもテンテンも少しは殺気なれしといた方が良いぞ〜。
▼ ▼ ▼ ▼
「ナルトッ!!遅かったじゃない今まで何やってたのよ!」
「うわっと…。いの、まずは離れてくれると助かるってばよ…」
301と書かれたプレートのある教室のドアを開き、教室の中へと足を踏み入れた瞬間いのが抱きついてきた。
「えぇ〜!久しぶりに会った幼馴染に対してそれはないんじゃない?それに私ってば、すっごく待ってたんだからね!」
「はいはい、それはありがとな。でも、年頃の女の子が男にこうも簡単に抱きついてちゃ駄目だぞ」
俺に抱きつきながらぷくっと頬を膨らませて抗議し、金髪のポニーテールを揺らすいの。いのの奴、香水つけて、化粧も少ししてる…。はぁ…忍者には必要ないもんだけど、こいつの場合俺のためにやってくれてんだろうから、強く言えねぇ…。
「ナルト、いのの好きにしてやれ。そいつ、本当にお前の事を待ってたからよ」
「シカマル……そうだな、分かったってばよ。いの、ありがとな」
「し、シカマル余計な事言うんじゃないわよ!」
こっちに歩いてきたシカマルに苦笑で返し、いのの頭を撫でてやると嬉しそうに笑みを浮かべる。こいつは俺に頭を撫でてもらうのが好きらしい。この前シカマルにそれを聞いて、いのの頭を撫でてやったら、今みたいに、頬に朱を散らせて嬉しそうな顔をしていた。
本当、これの何がそんなに嬉しいのやら…。ブルッその時一緒にいたヒナタと白が、すっごく恐い笑みを浮かべていたのも同時に思い出した。あれは恐かったなぁ…と、そんな事を考えていると向こうからチョウジ、キバ、シノ、ヒナタが歩いて来るのに気付いた。
俺に近寄ってくるなりキバからは、「この試験、お前には絶対負けねぇ!」とか宣言された。ま、それについては予想していたから別にいいんだが、シノにも「キバではないが、俺も今日の試験ではお前に勝つ。なぜなら、この日のために俺は厳しい修行をしてきたからだ」って言われたんだよ。
これにびっくりしたのは俺だけじゃなく、シノ以外の全員だった。こいつが、こんなに感情を表に出すなんて……よっぽど俺に勝ちたいらしいな、シノの奴。だけど、俺もそう簡単に負けてやれねぇんだよな。だから…。
「なら、勝負だってばよシノ」
「ああ、勝負だナルト」
拳と拳を合わせる俺とシノ。これは、原作を読んでた時にキラー・ビーっていう八尾の人住力が使ってた合図を、俺が真似して使ってる合図。なんかかっこいいじゃん。
「あわわわ……」
(ナルト君とシノ君が……シノ君は同じ班の人だから応援しなきゃならないけど、ナルト君は大好きな人だし…ううう…困るよぉ)
はぁ…ヒナタも相変わらずだな。でも、そのおかげでさっき俺がいのの頭を撫でてやっていたのを忘れたみたいだし、結果オーライってことで。
それからしばらくして、サスケとサクラが教室に入って来た。サスケの体に目立った傷がないことから、リーとの勝負には勝った事がわかる。
ま、リーも重りを外してなかったと思うから、完全な勝利じゃないけど、サスケの奴は原作の時より確実に強いんじゃないか?まぁ、あれだけイジメたら強くなるのは当然か。
そして、サクラといのの口喧嘩がいつの間にか始まっていて、それを止めようとするシカマルとチョウジ、それにヒナタ。キバとシノはサスケを睨んでるから、そっちには不参加。
はぁ…こいつらの会ったらこうなる感じ、そろそろ止めて欲しいわ…。
「おい君達!少し静かにしたほうがいいよ」
ん?ああ、カブトはここで出て来んのか。カブトがどこで絡んでくるか構えてたけど、案外早かったのな。でもま、ここはこいつの事は無視でいいだろ。ルーキーで固まってたら嫌でも注目されるしな。
「あ、すみません。ほら、お前ら注意されたぞ。てか、そろそろ席に座らないか?こうしてるのも、いい加減目立って嫌だし」
「めんどくせぇな、ホント。」
「シカマル、まだお菓子食べてていいよね?」
「ナルト、隣に座りましょ♪」
「わ、私もナルト君の隣…」
「シノ、ナルトと最初にやるのは俺だからな!」
「それは、早い者勝ちだ」
「サスケ君、さっきは御苦労さま。」
「あいつは、まだ本気を出していなかった…ッチ」
「え、あぁ…ねぇ、君たち……」
カブトを無視して、俺達はまとまって空いていた席についていく。カブトの奴が何か言ってたけどお前に今構ってる暇はねぇの。大蛇丸と合流してから掛かってこいよ。
あとがき
今年はあと一度掲載して終わりかと思いますが、来年こそはにじファンまで掲載していたところまであげたいと思いますので、それまでどうかお付き合いください。
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