ナルト達が熊肉という朝から何ともヘビーな朝食を食べているそんな朝早くの事…。
木ノ葉のルーキーである第八班。キバ、シノ、ヒナタの三人は既に中央の塔へ到着していた。勿論、天地両方の巻物を持って予選を突破したのだ。だが、その事実を喜ぶ者は三人の中に誰一人としていなかった。
クゥン……。
「…大丈夫か?赤丸」
キバは体を震わせている赤丸の背を優しく撫でるが、その震えは治まらない。キバの撫でる手でさえ自身も分かっていないが、小刻みに揺れている。
「まだ震えているのか………もう半日も経つんだがな」
「赤丸……」
シノとヒナタの二人もキバの近くに寄って、赤丸の様子を沈痛な面持ちで見る。
「無理もねぇぜ。なんせあんなモンを見ちまったんだからな……」
キバのその呟きを耳にした途端、シノとヒナタの肩が一瞬震えた。それは二人にとっても凄まじい衝撃だった事を暗に肯定しているようなものだ。勿論、それはキバにも言える事である。
▼ ▼ ▼ ▼
一日目。第二の試験が開始して約50分経った頃。木ノ葉のルーキー第八班は、一路中央の塔を目指して爆走していた。
「ヒャッホウッ!!サバイバルはやっぱココだぜッ!なぁ赤丸!!」
ワンッ!!
自分の頭を親指でコンコンと叩き、森の中を駆け抜けて行くキバとそれに元気一杯に答える赤丸。
「罠に掛かった奴等が運良く『地の書』を持ってるたぁーな!この分じゃ、俺達が塔に一番乗りだぜ!!」
「調子に乗り過ぎだ…キバ。虫は外敵から身を守る為、敵に遭遇しないよう注意を払う…。俺達も注意して進むべきだ」
シノは浮かれて声が大きくなっているキバに注意するが、キバはどこ吹く風といった感じで鼻で笑う。さらには、シノに対する日頃からの不満を言うほどだった。
「んな事は分かってるってのッ!相変わらず分かりにくい喋り方しやがって、この虫オタク!」
「あ…で、でも、シノ君の言う事も一理あると思う……」
シノの方が正しい事を言っている。それが分かっているからこそ、ヒナタはビクビクしながらシノを弁護する。
「ッ!分かったよ!ったく!!」
好意を寄せているヒナタにまで言われたら納得するしかない。キバは面白くなさそうに鼻を一つ鳴らして、渋々納得するのだった。
(…ナルト君はもう巻物揃ったのかな。……ううん、私達がもう揃ってるんだもん。ナルト君はもう塔に着いてるのかも)
ヒナタの中でナルトは、木ノ葉の里の忍者で一番尊敬する忍びであり、思いを寄せる少年である。だからこそ、いついかなる時でもナルトの事を考えない時などないのである。
三人がかなりの速さで木の枝を次から次へ飛び移っていると、赤丸が何かに気付きクンクンと鼻を鳴らした。また、それと同時にキバも赤丸と同じように鼻をクンクンさせて、何かの気配を感じ取る。
「二人とも止まれ!」
両手を左右に広げて二人の歩みをキバは遮った。キバが先行していた事もあり、二人は慌てて体を突っ張って勢いを殺して立ち止まる。
だが、その事に対して二人は文句を言わない。なぜなら、任務でこのような事など日常茶飯事だったからだ。キバが急に立ち止まった時、決まって何かがあるというのを経験則で知っている二人は、辺りに気を配り始める。
「敵に遭遇しないように注意すんだろ?だったらヒナタ、あっちの方角1キロ先見えるか?」
キバは森の向こうを指さす。ヒナタはそれに頷き、キバが指した1キロ先を見るために、日向の者だけが使える術を発動させる。
「うん…見てみる」
≪白眼!!≫
ヒナタはキバに言われた通り『白眼』で見てみると、そこには大きな瓢箪(ひょうたん)を背負った少年の姿が見えた。他にも五人程姿が見えるが一際存在感を放っているのはその少年だった。
「あ…あっちに誰か……」
「どうやらこれは……六人か?」
シノはヒナタのそれを聞くと同時に、木の枝へと自分の耳を当てて呟いた。これはアカデミーで習う初歩中の初歩だが、シノは1キロ先の音を聞き取ったのだ。それも足を着けている地面ではなく木の枝から……。
この事から見ても、シノがアカデミーを卒業してこっち、如何に修行を疎かにしていなかったか、お分かり頂ける事だろう。
「よっしゃあ!!見に行こうぜ!!」
「え?」
「……時間を無駄には出来ない。ここは塔へ急ぐべきだ」
キバのその発言にヒナタは困惑の表情を浮かべ、シノは珍しく声を少しだけ大きくして異議を唱える。
「試験官は『天・地』1組の巻物を持って来いって言っただけだ。それ以上奪うなとは言ってないぜ?ここで俺達が余分に頂けば、その分他のチームが脱落していく訳だろ?」
「で、でも……」
キバは身振り手振りを付けながら二人に話す。ヒナタの小さな反論。それは、そんな事で時間を無駄にせず直ぐにでもナルトに会いたい、そう思っての事であるのに気付いたのはシノだけである。
「まずは様子を見るだけだって。ヤバけりゃ無理に戦いはしない。じゃ行くぜ!!」
それだけ言ってからキバは、一足先に森の中を駆けて行く。ヒナタはどんどん小さくなっていくキバの背を困惑の表情で見送り、シノは口元が隠れて見えないが小さく溜息を吐いた。
(全く、虫の好かない奴だ…)
シノはやれやれと肩を竦めながらキバの後を追い、ヒナタも二人が行くなら…と、渋々であったが二人の後を追って森の中を駆けていく。それが間違いだったと気付くのに、そう時間は掛からない。
その後、ヒナタとシノは先に進んでいたキバを見つけると、キバが隠れている茂みへと身を隠した。文句の一つでも言ってやろうかとシノが考えたその時、赤丸が小さな泣き声をあげた。
クゥン……。
赤丸は前足で一生懸命顔を隠し、元から小さかった体を丸めて震え始めたのだ。何かが変だ。そう思ったシノは出掛かった文句を飲み込み、パートナーであるキバの方に顔を向けた。
「ん?どうしたよぉ赤丸?」
「ど、どうしたの?」
「赤丸が急に怯え出した……」
「怯える?何にだ?」
クゥンクゥンと鳴いて、赤丸はキバの服の中へと潜り込んだ。何をそんなに怯えているのか。赤丸はキバの服の中に潜り込んでも、小さな鳴き声と震えを止める事はなかった。
「こいつは敵のチャクラを嗅ぎ分けて、力の度合いが分かっちまう。俺の母ちゃんに絶対服従なのはこの鼻のせいだな。……けど、ここまで怯えるのは始めてみる。……この先でやり合ってる奴ら只者じゃねぇ……」
▼ ▼ ▼ ▼
キバ達が隠れている場所から、少し離れた場所に2組のチームが対峙していた。片方はナルトが一次試験の時にちょっかいを掛けた砂の下忍達。もう片方は背に傘を何本も背負った男がいる雨隠れの下忍達だ。
「砂の餓鬼が……。俺達に真っ向から挑んで来るなんてなぁよっぽどの馬鹿か…」
「愚か者って奴だねぇ」
「クックック……」
雨隠れの下忍。そのの中心には傘を何本も背負った男。その男の左右には、編み笠のような物を被った二人の男がいる。年齢的に言えば我愛羅達、砂の下忍よりも6〜9歳は上であろう事は容易に想像出来る。
だが、忍びは年齢でその強さを図ることは出来ない。
我愛羅は腕を組んで雨隠れの下忍達を睨む。テマリとカンクロウは我愛羅の邪魔にならないように少し後ろに下って、末弟の様子を後ろから見守っている。
そんな2チームをキバ達三人は茂みから顔だけを出して見ていた。
「あのチビ……あんな奴らに絡むなんて、何考えてやがんだ?」
クゥン……。
「ッ!?」
「な、何だって赤丸?」
犬塚家であるキバは、忍犬である赤丸の言葉を理解するのは不思議ではない。だからこそ、キバは赤丸が何に怯えているのか分かった。
「あのデカイ奴……ヤバいって言ってる」
(た、確かにヤバそうな人達……とても強そう…)
ヒナタは背に何本も傘を背負った男を見てそう思う。だが、ナルトなら勝てるのでは…と、心のどこかでそう思う自分がいるのも確かであった。
そんな事をヒナタが考えていると、雨隠れのリーダーと思われる中心の男が口を開いた。
「おい小僧。相手は選んだ方がいいぜ。死ぬぜぇ〜お前ら」
どこか嘲笑うような口調。明らかに我愛羅達を格下と見ている。だが、それも我愛羅には効かない。いや、我愛羅にはそんなものどうでも良いのだ。ただ殺し合う…それだけが出来れば。
「御託はもういい……早く殺ろう。雨隠れの『おじさん』」
おじさん。そう呼ばれた雨隠れのリーダーは、糸か何かで閉じている目を引き攣らせた。
(一体、どいつが巻物を持ってやがんのか……)
カンクロウが我愛羅の後ろから雨隠れの下忍達をそれぞれ見る。普通に考えれば、図体のデカいあいつが持っている可能性が一番高い。だが、そうじゃない可能性も確かにある。
「おい、我愛羅。こいつらの後を尾けて、情報を集めてから狩るってのが筋じゃん。巻物の種類が同じなら争う必要はないし。……余計な戦いは「関係ないだろ」……」
カンクロウのその助言を我愛羅は一言で切り捨てる。これがこの兄弟のデフォなのだが、雨隠れの下忍達は全員怪訝な表情を浮かべた。
「眼が合った奴は………皆殺しだ」
「「「!?」」」
我愛羅のその言葉を聞いたカンクロウとテマリ。そして、雨隠れのリーダーはそれぞれ違った反応を見せた。
カンクロウは自分の言葉を遮るだけじゃなく、尚且つそんな事をのたまう我愛羅に苦い表情を浮かべ、テマリはまたかと言うように目を伏せる。雨隠れのリーダーは自分達が舐められていると悟り、怒りで顔を染めた。
また、茂みに隠れているキバ、シノ、ヒナタの三人も、それぞれ我愛羅のその言葉に驚いていた。
(だから嫌なんだよ。コイツと一緒にいるのはッ!)
カンクロウが内心で我愛羅に不満をぶつけると同時に雨隠れの下忍達は動いた。
「フンッ…じゃあ、お望み通り早く殺ってやるよ餓鬼がッ!」
雨隠れのリーダーは背中に両手を交差させるように伸ばし、背負っていた己の武器である傘の柄を掴んだ。
片方に三本、計六本の傘を前に振り下ろすと同時に開いた。また、その開いた傘を真上へと放り投げると、六本の傘は宙にそのまま浮かんだ。
おそらくこの雨隠れのリーダーの術であり、チャクラでコントロールしているのであろう。
「死ねッ!餓鬼ッ!!」
雨隠れのリーダーはそう言うと、両手で印を組んだ。
≪忍法・如雨露千本!!≫
術の発動により六本の傘が高速で回転を始め、そして傘の骨から無数の何かが発射された。それは、細長く先が尖っている。
(仕込み千本!?)
ヒナタはそれを見て内心でそう叫ぶ。シノとキバもその例に漏れない。
「はぁあああああああああッ!!」
雨隠れのリーダーは声を上げながら無数の千本を操る。我愛羅はそれを退屈そうに見ながら組んだ腕を解かない。
「ハッハッハ!上下左右、この術に死角は無い!しかも千本は全てチャクラで統制され、狙った獲物に襲いかかる!!」
雨隠れのリーダーが腕を我愛羅に向けて振り下ろすと、千本の雨が我愛羅へと降り注ぐ。だが、我愛羅は腕を組んだまま迎撃しようとも、避けようともしなかった。そして、無数の千本が我愛羅のいる所に降り注ぎ、辺りに土煙りが舞った。
(フンッ他愛のない……)
雨隠れのリーダーはニヤリと笑みを浮かべる。当然だろう。誰が見てもあれは我愛羅がやられたと思う。だがしかし、土煙りが晴れてみると、そこには何かで覆われた我愛羅が腕を組んだ状態のまま立っていた。
「……それだけか?」
我愛羅は腕を組んだまま口を開く。千本は確かに我愛羅の周りに降り注いだのだ。だが、それも砂の護りを持つ我愛羅には効かない。砂が自動的に我愛羅を攻撃しようとするありとあらゆるものからガードするからだ。
よって、我愛羅の身体は全くの無傷。
「そ、そんな一本も……無傷だと、馬鹿な」
雨隠れのリーダーは驚きの余り、一歩後退してしまった。自分が一番自身のある術で攻撃したにも関わらず、相手が無傷ならそれも仕方のない事なのかもしれない。
「くっ!!」
再び印を組み、数十本の千本を我愛羅に向かわせるが、その攻撃はまたしても我愛羅に辿り着く前に砂によって防がれた。
「ッチィ!!」
「千本の雨か……。じゃあ、俺は血の雨を降らせてやる」
酷い隈によって回りが黒い眼を鋭くさせて、我愛羅は自身のチャクラを解放する。そのチャクラは膨大だった。膨大過ぎた。雨隠れのリーダーだけじゃなく、その戦闘を見ていた他の下忍達全てを怯ませる程に…。
「何て…でけぇチャクラだ。…それに、あの砂……。凄い臭いがしやがる」
キバは自分の犬並の嗅覚をこの時程恨んだ事はなかった。顔をこれでもかと顰めながら我愛羅から目を逸らさない。
「臭い?」
シノがそう聞いてしまうのも仕方なかった。膨大なチャクラを感じる事は出来るが、嗅覚は普通の人のそれなのだから。普通の人はキバのようにはいかない。そして、この膨大なチャクラに耐えられなくなった事も、シノの口から言葉を発する事になったのかもしれない。
「あぁ…強い……今まで嗅いだ事のないすげぇ血の臭いだ…」
我愛羅の周りを囲っていた砂の壁が、突き刺さった千本と共に崩れて行く。
「クッ…砂の壁だと!?」
「そうだ、砂による絶対防御。瓢箪の中の砂を膨大なチャクラで纏わせて操り、己の身体の周囲を防御する我愛羅だけに許された術。しかもそれは、我愛羅の意思とは関わり無く、何故か自動(オート)で行われる。…つまり我愛羅の前では、全ての攻撃が無に帰す事になる」
カンクロウは我愛羅のその砂についてベラベラと講釈する。一応『我愛羅』自体が砂隠れの里の機密なのだが……。この後テマリに罰としてウサギ跳びで塔に行くように言われるとは、この時カンクロウは知りもしない。
「そ、そんな馬鹿な…。あの千本は厚さ5mmの鉄板でさえ貫く力があるってのに!!」
「お前らじゃ、ウチの我愛羅は殺れないよ…」
「舐めんじゃねェー!!」
カンクロウのその言葉にキレたのか、はたまた追い詰められたからなのか。雨隠れのリーダーは我愛羅に向かって背にある残った傘に手を掛けて一直線に駆けていく。
我愛羅は両手を合わせて、三角形を模した印を組んで構えてみせる。その印から何を繰り出すのか。それを知るのは、砂の姉弟二人のみ。
(死んだな…コイツ)
(我愛羅に逆らうからこうなるのよ)
カンクロウとテマリが、雨隠れのリーダーに向けて悲哀の表情を浮かべる。お前は運がなかったのだ。我愛羅に会ってしまったのだから。と、言葉に出しはしないが、二人の顔からそう読み解くのは難しい事ではないだろう。
≪砂縛柩≫
左手で印を組んだまま、我愛羅は右手を軽く指を曲げた状態で前に突き出す。その瞬間、雨隠れのリーダーが駆けていたその両足に、手の形となった砂が絡み付いていき、終いには体を砂に包まれ、顔だけを出した状態になった。
「クッ…う、動けねぇ……」
雨隠れのリーダーは身動きを取ろうとするが、体に纏わりついた砂によって少しも動けない。
「「「!?」」」
キバ達三人もそれを見て息を飲んだ。あれを喰らってしまえば、自分達でも脱出不可能だと悟ったからであり、何となくこの後に何が起こるのか予想出来てしまったからだ。
ザク……ザクザク…。
「こ、こんなも、ん…グッ!!」
体だけでなくチャクラまで封じられたのか、宙を舞っていた六本の傘が地面に落下し次々と突き刺さっていく。再度体に力を込めて抜け出そうとするが、強固な砂の柩はビクともしない。
「五月蠅い口まで覆っても殺せるが………」
我愛羅は地面に突き刺さった傘を一本だけ引き抜き、前に振り下ろして勢いよく開いて差した。また、前に突き出した右手をゆっくりと上げて行く。
「…ちょっと惨め過ぎるからな……せめても慈悲で顔は覆わないでおくか…」
それに合わせて砂の柩に入った雨隠れのリーダーも宙に浮かんでいく。そして、ある程度の高さで止まると砂が身体をきつく締め上げたのか、苦悶の表情を浮かべる雨隠れのリーダー。
≪砂瀑送葬!!≫
我愛羅は一度だけ雨隠れのリーダーを見てから右手を握り締める。おそらくそれが術発動のキーだったのだろう。砂の柩に入っていた雨隠れのリーダーの体が弾け飛んだのだ。
血と肉が辺りに降り注ぐ。カンクロウとテマリも傘を差してそれを防ぐが、雨隠れの二人はモロに自分達のリーダーの血肉を浴びている。顔に血やどこかの臓器が張り付いても、それを茫然と見ることしか出来ない二人。
「苦しみはない。与える必要もない程、圧倒したからな……。死者の血涙は瀑瀑たる流砂に混じり、更なる力を修羅に与ふ…」
血の雨を降らせる…。我愛羅は先程の言葉を実行しただけに過ぎないが、残った雨隠れの二人は我愛羅のそのあまりの淡々とした言葉に恐怖の余り震え出してしまう。
「ま、巻物は…お前にやる。だからッ」
「お願いだ!見逃して!」
『天の書』を投げるようにして地面へと置くと雨隠れの二人は後ろに下がって行く。そんな命乞いをする二人に我愛羅は無言で返して、傘を放り投げてから両の手を先程と同じ様に指を軽く曲げた状態で突き出した。
「ヒィ!!」
「イヤダァアァ!!」
砂の手が足元から這って行き、二人の身体を絡み取る。リーダーの時とは違い、今度は顔も砂の柩に閉じ込められた。
突き出した両手を握りしめると、グシャッ!っという生々しい音を出し、二人はリーダーと同じように血肉を弾け飛ばして息を引き取った。
それを茂みから見ていたキバ達は、顔を青くして後ろに下った。ヒナタに至っては頭を抱えるようにして、恐いモノが過ぎ去るのを待つ子どものようになってしまっている。
「ヤ、ヤバい……早く逃げるぞ!見つかったら殺される!!」
キバがそんな状態のヒナタの腕を引いて、隠れながらここから離れようとする。シノもそれに続いて行く。だが、気付かない内に三人の体は上手く動けなくなっており、徐々にしか離れられなかった。
「都合良く『天の書』じゃん」
カンクロウは雨隠れの下忍が地面に放った巻物を手に取ると、ラッキーと言わんばかりに上に放ってキャッチしてみせる。
「よし、このまま塔へ行くじゃん」
「…黙れ」
「!?」
「まだ、物足りないんだよ…」
カンクロウのその提案をまたも一言でバッサリ切り裂くと、我愛羅はヒナタ達の隠れている方に狂気に染まった目を向ける。
(ヤ…ヤバい!!気付かれた!?)
茂みに身を潜ながら離れようとしていた三人は、我愛羅のその言葉を耳にした途端、身体が動かなくなってしまった。
「もう止めよう…我愛羅……」
「怖いのか?…腰抜け野郎」
ヒナタ達に向けていた目をカンクロウに戻し、我愛羅はカンクロウを挑発する。カンクロウはいつもの事だと思いながらも、目元をピクッと動かすと『天の書』を持って我愛羅に近寄って行く。
「我愛羅ッ!お前は確かに大丈夫かも知れねぇが、俺達にとっては危険過ぎる!巻物なんて1組あればいいじゃん!これ以上はさ…」
「愚図が…俺に指図するな」
右手をヒナタ達の方に我愛羅は突き出した。カンクロウはその言葉を聞いて今度こそ堪忍袋の緒が切れてしまった。
「いい加減にしろッ!たまには、兄貴の言う事も聞いたらどうなんだ!!」
カンクロウは我愛羅の胸倉を掴み、力任せに引き寄せる。
「お前らを姉弟と思った事はない……邪魔をすれば…お前から殺すぞ」
二人は互いを睨みつけていたが、我愛羅がカンクロウの手を振り払い、再びヒナタ達に右手を突き出した。
「が、我愛羅…止めなよ、ね?そんな冷たい事言わないでさ……。姉さんからもお願いするから…ね?」
見かねたテマリが我愛羅に向かって笑顔を見せて、両手を前に持ってきて合わせる。普通の姉弟のようでないそれは、見る者に疑問を抱かせるのだが、ここには砂の姉弟三人と茂みに隠れたヒナタ達しかいないため、それを抱く者はいない。
ヒナタ達に至っては背を向けている状態であるし、何より恐怖によってそんな事を考えている暇ではない。
我愛羅はテマリの言葉に何も反応するでもなく、ヒナタ達に向けていた右手を一度カンクロウに向けるが、再びヒナタ達に向ける。
これは、邪魔をすればお前を殺すというのを暗に示したのかもしれない。我愛羅の突き出した右手に砂が集まっていく。
(助けてナルト君!!)
(ふざけんな!こんなとこで終われるかよ!!)
(…二人だけでも!!)
三人の思いも我愛羅は意に反さずに砂を集めていく。
「我愛羅ッ!!」
テマリが叫び、我愛羅の手が握られた。だが、術は発動しない。握られた手には瓢箪の蓋が有るのみ。ヒナタ達は助かったのだ。
「分かったよ………」
表情を変えずに瓢箪に蓋をして我愛羅は歩き出す。それにテマリとカンクロウは安堵の溜息を吐いて、お互いの顔を見やる。
(チィ……だからガキは嫌いなんだよ…)
カンクロウは内心で舌打ちをするとテマリと二人、我愛羅の後を追って森の中へ消えて行った。
「「「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」」」
クゥーン……。
危機を脱したヒナタ達は息を整えようとしていたが、今まで経験したことのない緊張でまだ息を整えることが出来ないでいた。
そんな時、キバの服の中に隠れていた赤丸が弱々しい鳴き声を上げた。
「何だよ…そういう事かよ、赤丸。……ったく、もっと早く言えっての」
「…何て言ってるんだ赤丸は…」
「赤丸は砂のチビに、あのデカい奴が『殺される』からヤバいって言ったんだ」
今更だが自分の軽率な行動を後悔するキバ。今回は運が良かった。もし何か一つでも違っていたら、軽率な行動を取った自分だけでなく、自分に付いて来た二人までも殺されてしまうところだったのだから。
「兎に角、砂隠れのチビ……。何者かは分からねぇが、アイツはヤバすぎる…」
三人は『はぁ〜』と大きく溜め息を一つ吐いて地面に体を投げ出した。三人はあと1時間程このまま動けないだろう。だが、この時三人は中央の塔に着いてから直ぐに、もう二度と会いたくないと思っていた砂の姉弟三人と再会することになるのをまだこの時は知りもしない。
▼ ▼ ▼ ▼
昨日ヒナタ達がそんな事になっているとは露程も知らないナルト達は、朝ご飯を九人という大所帯で食べていた。この光景をこの予選の中で見ることになるとは誰が予想出来た事だろうか。
「ちょっと……テンテン先輩だっけ?さっきから気になってるんだけど、何でナルトにそんなに近いの?」
「ん?近いかなぁ〜?どう思う金髪君」
「えっと…いのの言う通り、若干近い気がします」
俺の対面に座っているいのが、俺の右隣に座っているテンテンに向けて指を差した。いのの言ってる事は正しい。さっきからこの人ってば俺にドンドン近づいて来てるんだよなぁ。今じゃもう腕がくっ付く位だし。
(なぁ…何であの人もここにいんだよ)
(ん?ああネジの事か。何でってそりゃあ先輩と同じ班だからだろ?てか、お前はそいつどうにかしろよ)
俺の左隣にはシカマルが座っている。んで、そのシカマルの隣にはチョウジがいて、さっきから熊の肉を焼いては食う焼いては食うを繰り返している。それを注意させようとするが、シカマルは首を左右に振る。
「ありゃ駄目だ。ああなったチョウジは食い終わるまで止まんねぇよ」
と言って、自分の分の熊肉を食べる。……他の奴らはというと、食べ終わったのかサクラとサスケ、それからリーが三人で話をしているし、ネジは一人で黙々と熊肉を食べ続けている。
シカマル曰く、こいつらはここに来る前にネジと会ってたらしい。しかも、ネジから逃がしてもらったとか…。お前らがその気になったらネジなんて倒せるだろうに…。まためんどくさいとか思って逃げたんだろうなぁシカマルの奴。
「ねぇ聞いてるのナルト!」
「ん?わりぃ。聞いてなかったわ。何だ?」
「金髪君それはないと思うよ。そんな事言っちゃあの子可哀想じゃんか」
「あ、ああああんたに言われる筋合いなんてないわよっ!!」
…いのとテンテンは混ぜるなキケンって奴だと俺はこの時悟った。
「あぁ、はいはい。ごめんな、いの。先輩も煽らないでくださいよ。んで、どうしたんだ?」
「もぅッ!…えっとね。ナルト達はもう天地両方の巻物揃ったのかなって聞いたの。で、どうなの?」
あぁ、そういや揃ってたな。音の奴らから奪ったのが丁度地の巻物だったし。時間的にも余裕だな。ま、サスケの修行の時間が取れたと思えば万々歳か。サクラには塔に行くまでに、食糧調達を俺の分までやらせるとして…。俺は俺で、何か忍術考えるか。
「揃ったぞ〜。ほれ、天と地。これ持ってけばいいんだろ?」
懐から天の書と地の書を取り出す。もう一つの天の書はサスケが持ってるから、ここでは出さない。いのは「やっぱりかぁ…」と溜息を出した。いやいや、お前らも頑張れよ。お前らなら余裕だろ影真似と心転身使って奪えるし、何よりいのの体術でそんじょそこらの奴らなんて蹴散らせるしな。
「ねぇねぇ金髪君」
「何ですか先輩」
「私に天の書くれない?」
おっと。ここで借りを返せるチャンスか?巻物自体は、後で誰かから奪えば良いし、テンテンからの借りがなくなる方が俺的には都合が良い。けど…内の班員がそれを了承するかは別問題だけど。
「何言ってんのよ団子頭!って、ナルトにそれ以上近寄るなぁあああ!!!」
いののこの言葉の通り、テンテンは俺の右腕を掴んで胸に当てて来ている。テンテンってこんな性格だっけ???てか、案外胸あんのな。
「ええ〜?何で君にそんな事言われないといけないのかな?あ、もしかして君、金髪君の……コレ??」
テンテンは小指を立てながら、いのにニヤッとした笑みを向ける。いのは顔をトマトのように真っ赤にしてあわあわしていたが、指をぶるぶる震わせながらテンテンを指している。てか、コレって……古いにも程があるだろ。
「そ、そそそそそんなのあんたに関係ないじゃない!!」
それから、テンテンといのの喧嘩?を見ながら朝食を食べ終わり、シカマルとチョウジの二人とそこから離れて行き、日向ぼっこに洒落込んだ。
ああ……平和だ。
あとがき
二話続けての投稿となりました。仕事の合間をぬってちまちま改訂作業を進めていますが、中々はかどりません。汗)
でも、頑張りますww
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m