変化の術で別人となっている大蛇丸は、音の下忍達の担当上忍として先のサスケの試合を上から観ていた。
(フフフ…流石はサスケ君ね。それにしても……あの術はカカシのオリジナルだった筈…。木ノ葉の奴らの様子から見ると、あれを教えたのは一見カカシのようだけど……)
大蛇丸はカカシに視線を向けてみると、カカシは自分の前で手摺に凭れて観戦している下忍に厳しい目を向けていた。その下忍とは、大蛇丸が今最も欲しい下忍であり、この建物の中で唯一サスケのあの術を見ても驚いていない反応を見せる者でもあった。
(君が教えたのでしょう?ナルト君。本当に面白い子だわ。写輪眼もないのに、あの術を教えることが出来るなんてね。……やっぱり欲しいわねぇ)
フフフ…と腕を組みながら笑う大蛇丸を、傍にいる音の下忍達三人は変な人を見る目で見ていた。
(大蛇丸様は何を笑っているんだ?)
(サスケ君を殺せと言ってみたり、その殺しの対象が自分の部下を殺すのを見て笑ってみたり……分かりませんね)
(う…何かこわっ……)
上からザク、ドス、キンの心の声である。
(ナルト君。君の試合が楽しみね♪フフフ……)
▼ ▼ ▼ ▼
大蛇丸の方から気持ちの悪い視線が送られているのを感じつつ、それを完全に無視して観戦に集中しようと思う。思うんだが……。
三人のくの一に詰め寄られながらじゃ、それも無理な話だっての…。
「バラバラに行こうってナルト君が言ったから、キバ君とシノ君と一緒に頑張ったのに……何でいのちゃんと会ってるの?それに何時の間にか先輩とも仲良くなってるし……ズルいよぉ…」
「ごめんヒナタ!それについては本当謝るからっ!だから泣きやんでよぉ!」
「ヒナタちゃんだっけ?何だか分んないけど、私も謝るから…ね?それに金髪君て何かほっとけないっていうか…」
前世の諺に「女三人寄れば姦しい」ってのがあったけど、これもそんな感じなのかねぇ?……姦しいっていうか、一人泣いちゃってるし。
いつの間にか俺に詰め寄っていた陣形は崩れ、今はヒナタを泣き止ませる陣形へと変わっている。ったく…。しょうがねぇなぁヒナタは。
「おいおい、お前ってばまだ泣き虫治ってないのか〜ヒナタ。簡単に泣いちゃ駄目だろうが」
「うぅ…でも……」
「いのと先輩に会ったのは本当に偶然だって。それにヒナタ達は試験初日にはもう塔に着いてたんだろ?凄いなぁ。俺達なんて三時間前に着いたんだぞ?」
メソメソ泣いているヒナタの頭を多少乱暴に撫でてやる。何でか知らねえけど、いのもヒナタも俺が撫でてやると機嫌が悪くても直ぐに治るんだよなぁ。手のかかる妹を持つと、こんな感じなのかねぇ…。
ふと、ヒナタからいの達の方へと視線を移してみると、いのはプクッと頬を膨らませて腕を組んでそっぽを向いており、テンテンはニヤニヤと笑みを浮かべて俺とヒナタを見ているのに気付く。
全くこいつらは…と、そう思いつつ俺達から少し離れたところで、さっきからキバのこっちを見る目が尋常じゃない程に怖い事になっているのにも気付いてしまった。……ヒナタ、頼むから早く泣きやんでくれ。
そうやって暫くヒナタの頭を撫でていると、やっと顔を上げてくれた。目を真っ赤にして俺の顔を窺ってくる小動物みたいなヒナタ。…すんげぇお持ち帰りしたいんですけどぉおおお!!
……いやいや、少しテンションがおかしかったな。そんな事より今さら気付いた事だが……よく考えたらサスケって写輪眼を使えるんだよな?
って事は、サスケってばここにいる下忍の術を盗み放題って事だよな?……ズルい…チートマジ反対。
と、そんなこんなしている間に次の組み合わせが決まったらしい。電光掲示板に目を向けてみると『アブラメ・シノ』『キン・ツチ』という二人の名前が見えた。
次の試合はこいつらかぁ。どうでもいいけど、俺の試合って何試合目なんだろうなぁ。
「えぇ…ではこれから、第2回戦を始めます」
中央に試験官であるハヤテがいて、シノとキンっていう音のくの一が対峙している。シノはいつものように口元を襟で隠して、ポケットに両手を突っ込んで立っていた。
あいつ、ここでも自分のペース崩さねぇのな。…流石シノ、俺もお前の事はよく分からん。
キンってくの一が、あからさまに俺を睨んでいるのに気付いたから手を振ってやると面白いくらいに怒り出した。
本当、こんな奴をこの試験に出してくるなんて大蛇丸の奴何考えてんだろうな。シノ〜さっさと倒してこ〜い。
「ナルト君?」
いのが俺の左隣りで、ヒナタが俺の右隣りといった感じで並んで下に目を向けていると、俺のそんな態度に気付いたのかヒナタがコテンと首を傾げて俺を見てきた。
ヒナタって自分の可愛さを自覚するべきだと思う。これにやられない奴とかいないだろ。ああ、序でに言っておくと、テンテンはいのの隣でこの試合を見ている。
まぁ、背中に乗られるのは勘弁してもらった結果だな。んで、俺達から少しだけ離れた場所でシカマル、チョウジ、キバの三人がシノを応援していて、カカシ、サクラ、サスケ、ガイが後ろの方で見ているといった具合だ。
「いや何、あのくの一ってば俺が森ん中で一撃で倒した奴だからさ。手を振ってやったらあんな感じに」
「あぁ〜確かに、あの子ってば金髪君にやられた子だね。金髪君ってさ、人の感情を逆撫でするの好きだよねぇ」
俺はテンテンのその言葉に「ハッハッハ」と笑って返すしかなかった。……気付けば俺って結構性格悪いのな。
でも、あの女も直ぐに思い直す事になるだろうなぁ。なんたって相手が…。
「あの子可哀想に……」
「いのちゃんの言う通りかも…。シノ君、相手が女の子だからって手加減しないから……」
「???」
いのとヒナタのその言葉にテンテンが首を傾げてつつ、試合が始まったので下の方に顔を戻す。すると、二人の言った言葉の意味が分かったのか、顔を引き攣らせながら口を開いた。
「二人の言った意味が分かったかも。あれは確かに女の子にとったら最悪だね……」
テンテンのその言葉を聞きつつ、下の様子に目を移す。下では既に、シノの蟲達がゾワゾワとその姿を見せ始めてところだった。
▼ ▼ ▼ ▼
試合が始まってキンは直ぐに、シノに向かって鈴付き千本を投擲した。
チリン…と音を鳴らしながら、自分に向かってくる二本の千本を体を横に傾けることで避けたシノは、ポケットから両手を出すとキンに向かって駆けて行き、下から掬い上げるように掌底をキンの顎に向けて叩き付けた。
キンはそれを受けて宙に舞ってしまうが、その浮いている間に体勢を整え次に来るだろう攻撃に備えるために足が地に着いた瞬間に身構えるが、来ると思っていた追撃は果たしてなかった。
そればかりか、シノは出していた両手を再びポケットに突っ込んでキンを見下ろしている。
「は!余裕の心算か知らないけど、来ないならこっちから行くよ!!」
そう言って今度は千本を逆手に持ち、シノに向かおうとしたその時…。ゾワッと嫌なモノがキンの身体全体に走った。
(何だこれは?あいつの攻撃?いや、あいつから受けた掌底は一撃だけ。ダメージは残ってるけど動けない程じゃない。なら…なんだ!?)
「…ギブアップしろ」
「!?な、何を馬鹿な事を!!今からお前をハリネズミにしてやるのに、何であたしが降参しないとならな…ッ!?」
ゾワゾワッ……それはキンの身体。それも服の中の肌にまで感じる程嫌な感触をキンに伝えた。
「な、何だこれは!?服の中にまで……ヒィッ!!?」
上着の下を捲ってみると、そこには黒光りする『ゴ』が頭につく害虫よりも小さいが、『ゴ』が頭につく害虫と同じような形状のそれがキンの服の内側をカサカサと動いていたのだ。
「あ……ああ…や…ヤダ……取って!取ってよ!!」
「そいつらは『寄壊蟲』と言って、集団で獲物を襲い、チャクラを喰らう」
シノは暴れるキンを見下ろし、体からカサカサと数えられない程の蟲を出しながら説明を続ける。
「い…嫌だッ止めろッ!どこから湧いて来るんだこいつら!!!!」
パニックになっているキンにはシノの説明は届かない。衆人の目を気にしてもいられなくなったのか、着ていた服を脱いでいくキン。
着やせするタイプなのか、胸は同年代の子らより膨らんでいるのが分かる。だが、それを見ても気にしないのがシノという男だ。
構わず奇壊蟲の説明を続け、奇壊蟲に至ってはキンの体をカサカサと動き回っている。ちなみに言っておくと、この場にいる上忍、中忍、下忍関係なく、くの一の殆んどがシノの蟲を見て嫌な顔をしていた。
「ぎ、ギブアップだ!!だから早くこいつらを…ひィ!!!」
そして、ブラやショーツの中にまで入ろうとした蟲に気付いたキンは、パニックになっていたこともあり目をグルグルと回して気絶してしまった。
「……第2回戦、勝者『油女シノ』」
シノはハヤテのその言葉を聞いて、やっとキンの体から奇壊蟲を自分へと戻し階段の方に足を向ける。キンは医療チームが駆け付く程の怪我ではないが、下着姿で気絶しているということもあり、担架に服と一緒に乗せられて会場を出て行った。
▼ ▼ ▼ ▼
「…なぁ、コレもういいだろ?」
俺はキンが服を脱ぎ始めた辺りで、左右から目隠しをされていた。まぁ分からなくはないが…。ってかいのさん、ヒナタさん、俺の目がめちゃくちゃ痛いんですけど。…結構力入れてますよね?ね!?
「……もういいわよ」
「…うん。もういいよ、ナルト君」
二人のその何時もより低い声を聞いて一瞬ビクッと体が震えたが、数分ぶりに目を開くと視界がぼやけて見えた。
よく見てみると、サスケもサクラによって目隠しをされており、カカシとガイはさっきまで後ろにいた筈だが、今現在は手すりから体を乗り出すように下を見ている。
いい大人がガキの下着姿見て興奮してんじゃねぇよ。……ロリコンですか?…そうですか。紅さんとアンコさんこの二人連行してってくれないかなぁ。
んで、いのさんにヒナタさん、何で不機嫌なのか教えてくださると嬉しいんですけど……。え?胸の大きさ?な、成る程…。ま、まぁ、まだ俺らって13だし将来性はあると思うよ?
「ねぇねぇ、金髪君。私もちょっとは自信あるんだよ?」
はいはい。分かりましたから、いのの横で自分の胸を揉みしだくのは止めてください。キバの鼻から血が出始めているので。
「ナルトちょっといいか?」
そしてそんな事を考えているとさっきまでの態度が嘘のように、真剣な顔をしたカカシが俺に声を掛けてきた。
「何か用ですかカカシ先生?」
「まぁ、そう言うな。ちょっと聞きたい事があってな。…いいだろ?」
「……いいですよ。という事なので、先輩はその手を止めてください」
「は〜い。それじゃあ今度やる時は、二人だけの時に、ね?」
……テンテンって、こんな性格の娘だったか?記憶の中にあるテンテンはもっと真面目な娘だったような気が…。
…で、何であんたまで当たり前のように聞く体制に入ってんのさ、ガイ先生。
「で、何が聞きたいのカカシ先生?まぁ、十中八九さっきサスケが出した術についてだと思うけど」
「まぁ、そういう事だ。単刀直入に聞く。……あれはお前が教えたのか?」
カカシは目を鋭くさせて、ガイ先生は俺を値踏みするように見てくる。サスケは腕を組んで知らぬ振りをしているが、内心ビクビクしているのなんて丸分かり。そんなにビクビクしなくても大丈夫だってのサスケ。
「大当たり。ま、あれはサスケにぴったりの術だと思ったからさ。もしかして駄目でしたか?」
「……お前はあの術を二度しか見ていない筈だ。そして、その二度とも俺はお前によって邪魔された。…なのにお前は、あれをサスケに教える事が出来るくらいにあの術を理解していた。それもたった二度見ただけで、な」
「ッ!?それは本当なのかカカシ?」
ッ!?五月蠅いなぁもう…この人って何でこんなに無駄に熱いんだろ?まぁ、嫌いじゃないけどね。
「本当だ。俺は術を発動しただけで、それを相手に『使って』はいない。そんな術を二度だけ、たった二度だけ見ただけで他人に教える事が出来る忍びなど、俺は見たことも聞いたこともない。写輪眼を持つ俺でも、術の発動だけを見ただけではそれがどんな術であってもコピーは出来ない。それをこいつはしたんだ」
あれ?もしかしてこれって……結構ヤバい事だったりする?
『やっと気付いたのか馬鹿者』
……九尾ぃ、気付いてたんなら何で教えてくれなかったんだよ〜。今俺ってば魔女裁判受けてる気分なんだぞ〜。
『いや何、困っているお前を見たくてな』
ハッハッハ……ふざけろ。
「それって…」
「考えても無駄だな。さっきカカシ先生に教えてもらったが、写輪眼を超えるような眼があるとも思えない。ナルト、お前はどうやってそれを可能にしたんだ?」
シカマルにもそんな事言われちまうし……全く。めちゃくちゃめんどくさい事になったなぁ。
「うずまき…ナルト君だったね?失礼だとは思うが、君は確かアカデミー始まって以来の落ちこぼれではなかったかね?それが、なぜこんな事が出来るのか、カカシでなくても気になる。いや、警戒すらも抱かずにはいられない」
警戒、か…。そんなモノこいつらから向けらたくなかったんだけどなぁ…。ま、そんな事思っても無理か。こんな状況じゃな。
「ナルト君……」
「う〜ん、それについて簡単に説明がつく言葉ってあれしかないんだけど…」
俺のその言葉に、その場にいる奴ら全員が耳を傾けてくるのに気付いて苦笑を漏らしてしまうけど、今は我慢だな。
「俺ってば四代目火影の……『波風ミナト』の息子だったりするんだってばよ、これが」
………………………………。
「「「「「「「四代目火影の息子ぉッッ!?」」」」」」」
カカシとガイ先生以外の下忍達全員が大声を上げる。はぁ……本当は本戦で優勝してから言う心算だったんだけど…まぁ、疑いを持たれたら嫌だし正直に言っちゃった方がいいよな。
特にシカマル達にあんな目をこれ以上向けられたくはなかったし。
「…どうしてお前がそれを知っているのか疑問ではあるが、それについては俺やガイ、ここにいる上忍達は全員知っている。だが、それでもまだお前の強さの証明にはなっていない」
まぁ確かに、それだけじゃ弱いのは分かるけど…。
「それについては、もう少しだけ待ってくれないかなカカシ先生。これは俺だけの問題じゃないからさ」
俺は真っすぐカカシの目を見る。嘘がない事を伝えるために。
「……大丈夫だよ。私はナルト君を信じる」
「…そうね。ヒナタの言う通り、ナルトは私達の大事な友達で、大切な人だもんね」
「そうだな。親友を信じないでどうすんだって話だよな」
「ナルトは嘘ついた事ないし、うん。僕も信じる。」
「金髪君と知り合ってから少ししか経ってないけど、私は勿論金髪君の味方だよ」
「ナルトに修行を付けてもらわなかったら、俺はさっきの試合に勝てなかったかもしれないからな。……お前が話してくれるまで俺は待つさ」
「サスケ君がそう言うなら…それに、私だってナルトを信じる。だから、早く話しちゃいなさいよねッ!馬鹿ナルト」
お前ら……涙出てくるからそんな事言うなよぉ。ヒナタといのに至っては俺の手を取って両手で包んでくれるし、テンテンはギュッと背中に抱きついてきた。シカマルは肩を竦めて、チョウジはポテチを食べながら、サスケはそっぽを向きながら、サクラは怒ったようにそれぞれ言ってくれた。
「…………こいつらが信じてやって俺がお前を信じてやらなかったら、俺が先生に怒られるな…。よし、俺もお前を信じてやる」
「ライバルが信じると言うならば俺も信じなければならないな。だが、これは火影様に報せておく。良いね?」
「分かったってばよ。俺もその信頼に応えるよ」
俺はそう言ってから、ヒナタといのの手からゆっくり抜け出し、声を出さずに口だけを動かす。『大蛇丸がここにいる』と。
カカシとガイは俺の口の動きを瞬時に悟ったようで、警戒レベルを上げたようだ。そんな二人を見てゆっくりと首を振り、もう一度口だけを動かす。
『露骨な反応は見せないで下さい』と。
そして、少しだけ警戒レベルを下げてくれる二人。大蛇丸もここでは何もしないって約束してくれたし、俺達だけが何かしようとするのは何か違うと思うしな。
「カカシ、俺はこの事を火影様に伝えてくる」
そう言って瞬身の術でガイ先生は火影のじいさんの所に向かった。カカシは俺に優しい笑顔を向けてくる。
「ナルト、お前は本当に先生と似ているな」
へへ…そんな事言われたの初めてだから無性に照れくさい。
「でも、ナルトが四代目の息子だったなんて……」
「これでやっとアカデミー時代にお前に感じていた違和感が分かった。教科書に載ってる四代目とお前ってそっくりだったんだよ」
「うん。そう思う。だって…ナルト君はカッコいいもん」
「ありがとな、ヒナタ」
そんな事が上で起こっていたのだが試合は続いていたらしく、第3試合は既に終わっていた。内容はカンクロウVS香燐と同じ班の奴の試合で、烏を使って危なげなくカンクロウが勝ち抜いていた、らしい。
らしいというのは、シノとキバにも俺が四代目火影の息子だと伝えに行った時に知ったからだ。まぁ、見なくてもいい試合だったし、別にいいか。さぁて、次は誰の試合なのかねぇ。
あとがき
遅くなりまして申し訳ありません。改訂自体は順調に進んでいるんですが、友人に添削してもらいながらなので、もうしばらく時間がかかるかもしれません。
感想も全然返せていないので、感想を下さる読者様方には申し訳ないです。しかし、目は通させていただいていますので、ご安心を。感想があること、読者様が一人でもいることが、私の力になっています。
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