同じだ…。あの日見たアレと全く同じ…。
あの日と変わっているのは森じゃなくて建物の中って事と、血やら臓物やらがあの日よりも近くにあるって事。
この光景を一言で表わすとしたら…『惨劇』だろうな。……ふざけんなよ。何で、砂の上忍は止めねぇんだよッ!
いや、砂の上忍だけじゃねぇ。音の上忍も助けに入らなかったし、木ノ葉の上忍達だって動かなかった。
これで死人はサスケが殺した奴と今の奴で二人目。ナルトが助けに入らなかったらヒナタも……。
こんなのが中忍試験なのかッ!?こんな簡単に人が死ぬ試験があってたまるかッ!母ちゃんに聞いた中忍試験と全然違うじゃねぇかよ。
クゥーン…。
うるせぇよ赤丸。俺だって分かってんだ。ビビってるって事ぁよ。でもよ…足の震えが止まんねぇんだ。
「ゴホゴホ…えぇ〜試合場がこんなになってしまったので、30分の清掃時間を取ろうと思います。その間に、トイレ休憩や心を静めておきたい人はしっかりと休んでください」
下にいたハヤテっていう試験官が体中に血を付けたまま俺達にそう言うと、ナルトが出ていったドアから木ノ葉の中忍が数人出て来る。
手にブラシを持っている事から、あれで掃除するんだろうな。
「…キバ」
「あ、あぁ…何だよシノ?」
中忍の奴らが掃除しているのを黙って見ていると、シノが俺に声を掛けてきた。
「…ビビるなとは言わない。あれを二度も見たのは俺とお前だけだからな。しかし…」
「な、なんだよ…」
「自分の試合には絶対に引きずるな。残っている下忍はお前とナルト、シカマルに春野、ネジにリーという一年上の奴ら…それから砂のくの一に草隠れの下忍が2人…」
分かってんだよ。俺の試合が次かもしれないなんて事は。
「…キバ。お前がさっきの試合を見て震えているように、あの試合を見たこの場の全ての下忍が震えている。勿論、それには俺も含まれている」
「シノ…」
「大丈夫だ。お前はアカデミーの時よりも強い。俺とヒナタがそれを知っている。…勝て。俺はお前とも戦いたい」
シノは言いたい事だけ言うと、後ろの壁に背を預けて口を閉ざした。…ッたくよー、あいつは喋る時はすげぇ喋るくせに、1回口を閉じたらいつまでも閉じてっからな。
「ハハ。お前にそう言われちゃ…勝たねぇといけねぇなッ。なぁ、赤丸!!」
ワンッ!!
赤丸もシノの話を聞いて、燃えてきたっぽい。ッしゃ!!やってやるよ糞野郎が!!!
▼ ▼ ▼ ▼
あの砂の奴…ここにいる下忍の中では一番だろうな。流石に俺でも、あの砂を回避して柔拳を打ち込むのは無理だ。あんな奴がいるとはな…。
砂の奴から視線を切り、残った下忍の奴らに目を向ける。砂のくの一がどのくらいの実力を持っているか分からないが、あの瓢箪の奴より強い筈はないだろう。
そして残った他の奴らの中では、リーを除けばあの『うずまきナルト』くらいか。
さっきの試合前。ヒナタ様の試合中に飛び込んだ『うずまきナルト』は、まだ戻って来てはいない。あいつと戦う事になったら、なぜ他人の試合に乱入するのかを聞いてみたいものだ。
俺とリーの真向かい、向こうの方にガイとテンテンが見える。ガイはカカシという上忍に用があるらしかったし、テンテンはあの『うずまきナルト』に用があると言っていた。
フンッ…『うずまきナルト』か。本当に、戦ってみたいものだ。
「ゴホンッ…えぇ、お待たせしました。清掃が終わったので次の試合に移りたいと思います」
気付けば掃除をしていた中忍は消えて、試験官が試合場の中央に立っているのに気付く。
電光掲示板が残った10人の下忍の名前をシャッフルし、次の試合の組み合わせを表示した。
『ヒュウガ・ネジ』VS『イヌヅカ・キバ』
うずまきナルトではなかったか。
▼ ▼ ▼ ▼
試合場の中央にはキバとネジの姿がある。
「ねぇ、あの日向ネジってヒナタとどういう関係なの?」
「あいつらは木ノ葉で最も古く優秀な血の流れをくむ名門…日向一族の家系だ」
サクラの問いにカカシは答える。
「日向家の『宗家』と『分家』の関係って言えば良いのかなぁ〜」
「『宗家』と『分家』?」
カカシが続けて言ったそれに、サクラはポカンとしたアホ面を浮かべて聞き返す。
それを見てカカシは苦笑を、サスケは残念な子を見るような目を向ける。そして、そんな3人の間に入ってくる人物が…。
「はい!ヒナタさんは日向流の宗家にあたる人で、ネジはその流れをくむ分家の人間という事です!」
「り、リーさん…」
そう。ネジが階下の試合場に行ってしまい、1人寂しかったロック・リーは自分が心の底から尊敬し、心酔している担当上忍のガイがいる場所、つまりはサクラ達がいるこの場所に来ていた。
「どうしましたか、サクラさん?」
「い、いえ、何でもないです…。つまり、2人は親戚同士って事なのね?」
近くで見る濃ゆい顔に、引き攣った笑みでもって我慢したサクラは視線を階下に戻す。サスケも、既に写輪眼を発動させて観察している。カカシとガイに二人は、そんな自分達の教え子の様子を笑って見ている。
「はい。ただ『宗家』と『分家』の間には昔から色々とあるらしく…。今はあまり仲の良い間柄では有りません」
「どうして?」
「僕も詳しくは知りません。ただ…」
リーはそれまで、サクラさんと一緒にいるって幸せですぅ〜みたいな顔をしていたが、階下に視線をやると真面目な顔になる。それでも、濃ゆい顔である事には違いはないのだが。
「昔ながらの古い家にはよくある話らしいんですが、日向家の初代が家と血を守って行く為に色々と宗家が有利になる条件を掟で決めていて、分家の人間は肩身の狭い思いをしてきたらしいんです」
「ふ〜ん…大変なのねぇ」
そんな感想しか持たないサクラに、サスケとカカシ、ガイの3人は心の中で「おいおい…」と突っ込んだのだった。
▼ ▼ ▼ ▼
試合場の中央へと降り立つネジとキバの2人。そして、対峙した2人の様子を見て大丈夫と判断したハヤテが試合開始を宣言する。
「それでは第8試合、はじめてください」
対峙していた2人。まずはキバが動いた。
「先手必勝だ!!」
体勢を低く構え、キバは印を結ぶ。
≪疑獣忍法 四脚の術!!≫
「行くぜ…」
野生の獣の如く、両の手を地面に着けた。キバは四肢に力を込めて、ネジに向かって突っ込んでいく。
≪通牙!!!≫
高速回転したキバの身体は、ネジの柔拳によって弾かれた。
「フンッ…体術で俺に勝負を挑むとは、馬鹿な奴だ」
ネジはチャクラを纏った両手を構えて弾かれたキバの方に身体を向ける。
「はッ!流石にヒナタと同じ流派だな。これで白眼があるとか…ホント卑怯くせぇけど、俺だって負けるわけにゃいかねぇんだ!!赤丸ッ!」
ワンワンッッ!!!
キバから離れていた赤丸は、主人のその言葉を待ち侘びていたかのようにキバのところに駆けていく。
「あの落ちこぼれと俺を一緒にするな」
ネジは、余裕そうにしていた顔に、憎悪のそれにして白眼を発動させる。
キバは腰に付けているポーチに手を入れると、煙玉より小さな丸薬を2つ取り出して、その1つを赤丸の口の中に放り投げた。
「落ちこぼれってのはヒナタの事かよ…」
キバは残ったもう1つを自分の口に入れて、鋭い歯で噛み砕く。するとキバの眼はさっきよりも鋭くなり、髪の毛が逆立っていく。
赤丸に至っては全身の毛を真っ赤に染めていく。
「他に誰がいると言うんだ。あのお姫様は、忍者になる資格などない」
「同じ流派なのか分かんねぇけどよ、ヒナタの事を分かったような口で話すんじゃねぇよ!!」
キバは『四脚の術』発動時の低い体勢を取り、赤丸はそのキバの背中に乗る。
ワンワンッ!
「疑獣忍法!」
低い姿勢のままチャクラを練り込み、キバが印を結ぶ。
≪獣人分身ッ!!≫
白煙に包まれ、姿を現すは2人のキバ。忍犬である赤丸がキバの姿に化けたのだ。
▼ ▼ ▼ ▼
「チョウジ!キバってば、赤丸に何を食べさせたの!?」
幼馴染のキバが何時も連れている子犬の赤丸を、何気に可愛がっていたいの。そんないのが聞くのは、この中であの丸薬の事を知っていそうな幼馴染だった。
「あれは兵糧丸だね」
案の定食通の幼馴染、チョウジから答えが返って来る。
「モグモグ…服用した兵が3日3晩休まず戦えるっていう秘薬。高タンパクで吸収も良く、ある種の興奮作用・沈静作用の成分が練り込まれているモノだよ」
「あぁ。今のキバと赤丸のチャクラは倍増している。チャクラを身体中に張り巡らせ、獣そっくりに活動するバリバリの戦闘タイプな奴らだから…あれはあいつらに持って来いの丸薬って事だ」
チョウジの言葉にシカマルも続けて言う事で、いのにはあれが何なのか分かったが…。
「あの赤丸嫌いかも…」
いののその感想に「おいおい…」と心の中で突っ込みを入れざるを得ないシカマルとチョウジだった。
▼ ▼ ▼ ▼
「ほぅ…その子犬も戦うみたいだが俺は加減などしない。それからヒナタ様の事だが、お前よりも俺の方があの方の事を『よく』知っている。…ヒナタ様は他人に優しく、調和を望んだ考えを持っているが、それは同時に葛藤を避け、他人の考えに合わせる事に抵抗がない事の裏返し…」
野生の獣のように、2人のキバがそれぞれ付かず離れずの距離でネジの周りを回る。
「そして自分に自信がないため、いつも劣等感を感じている。下忍のままでも良いと考えているが、中忍試験が3人でなければ登録できないモノである事を知り、同チームのお前達の誘いを断れず、この試験に嫌々受験しているのが事実。そんな奴なんだよあのお姫様は…」
ネジのその口振りは全てを見抜いていると言うようなモノ。そんなネジの言葉にキレないキバではない。だからか、キバは赤丸と同時にネジに向かって高速回転の体当たり、≪牙通牙≫を繰り出した。
「人は決して変わる事など出来はしない。『落ちこぼれ』は『落ちこぼれ』、その性格も力も変わりはしない。人は変わりようがないからこそ差が生まれ、エリートや落ちこぼれなどと言った表現が生まれる。誰でも顔や頭、能力や体型…性格の良し悪しで判断される。変えようのない要素によって人は差別し、差別され、分相応にその中で苦しみ生きる。俺が『分家』であの方が『宗家』であるように…」
キバと赤丸の攻撃を回避し、弾き、防ぎながらネジは言葉を続ける。
「今までこの『白眼』であらゆる物を見通してきた。だから、分かる。ヒナタ様はあの試合中に本当は逃げ出したいと思っていたと!」
「そんな事は絶対にねぇッッ!!!!」
ネジを睨みながらその獣のような機動力で一瞬の間に間合いを詰めて、鋭い刃と化した爪でネジを切り裂こうとするキバ。
≪獣人体術奥義 牙通牙ッ!!≫
身体全身を高速回転させて、2人のキバがネジ目掛けて突っ込む。
対するネジは白眼でキバの動きを察知することが出来るので、キバの攻撃はネジの身体に当たらない。
そして、キバがネジの側を通り過ぎる一瞬の間に、ネジはチャクラを纏った指でキバの身体に触れていく。
(はッ!俺の身体は回転してんだぞ?何をするつもりか知らねぇが、そんなもん俺には効かねぇ!!!)
「連続で行くぞ!赤丸ッ!!!」
ワンッ!!
キバと赤丸は関係なくネジに向かって≪牙通牙≫を連続で繰り出していく。
▼ ▼ ▼ ▼
そして、キバの攻撃が続く事十数分…。
(…何て奴だ……)
(まさか、ここまでとはな…)
(日向家始まって以来の天才…その名は伊達ではないようじゃが…)
カカシ、アスマ、三代目火影はそれぞれ驚きを隠せなかった。
▼ ▼ ▼ ▼
(な、何回攻撃したか、もう分からねぇな。それに、さっきからチャクラが練れなくなってるような…)
キバと赤丸はネジを挟んで相対するようにしていたが、攻撃し続けた疲れからか、その動きを止めてネジの様子を離れて観察していた。
「やっと止まったか…」
構えを取っていたネジは、そう呟くと構えを解いた。
「ッ!どうして構えを解きやがるッ」
「フンッそれはお前が一番分かっている筈だ。服を捲って見ろ」
キバは何を言われたのか、一瞬分からなかったが、何を言われたか理解すると早かった。キバは自分の服の袖を少しずつ捲っていく。
そして、自分の腕に赤い斑点があることに気付く。
「何だよ…何だよコレは!!」
「…俺の白眼はもはや『点穴』をも見切るという事だ」
▼ ▼ ▼ ▼
「カカシ先生、『点穴』って何なの?」
「ちょっと前に白眼と写輪眼について教えたが、経絡系上にはチャクラ穴と言われる361個のツボがある。針の穴程の小ささだけどな。それを『点穴』って言ってな、理論上そのツボを正確に突くと相手のチャクラの流れを止めたり、自由に操れると言われている」
「それって…」
「説明ついでに教えといてやるが、『点穴』はな…はっきり言って俺やサスケの『写輪眼』でも見切れない。幾ら洞察眼が使えると言っても戦闘中にあそこまで的確に点穴を見切られたら…」
サクラだけでなく、サスケもカカシのその言葉は信じられないモノだった。サクラは(あんなに凄い忍者のカカシ先生でも見れないなんて…)と、サスケは(写輪眼でも見切れないだと!!ちッ…本当に自分が井の中の蛙だったとはな)と感じていた。
「ネジの『点穴』を突く攻撃は、キバのチャクラの流れを完全に止めてしまったようだ。つまり、これ以上の牙通牙は威力がなくなっていくという事だ。この勝負、見えたな」
(しかしまあ、これ程の奴がいたとはね。はっきり言ってウチのサスケじゃまるっきり相手にならないな。ナルトは別だけど…)
冷静に分析していたカカシだが、内心ではネジの実力に驚嘆していた。
▼ ▼ ▼ ▼
「点穴だか何だか知らねぇが、俺には関係ねぇ!!喰らいやがれッ!!」
≪牙通牙!!!≫
「キバと言ったな。お前はよく戦った。だから、これで終わりにしてやる」
性懲りもなく、同じ技を続けて繰り出すキバと赤丸。ネジはそんな1人と1匹に向かって、柔拳の中でも自分が得意とする掌打を繰り出した。
「「ハァ!!!」」
2人の気合いの入った叫び。まずはキバの攻撃を回避して、後ろから向かってくる赤丸をネジはカウンターの掌打で以って吹き飛ばす。
そして、折り返してキバが繰り出してくる≪牙通牙≫を何度も見た事によって動きを看破したネジは、キバの顎が上がった瞬間掌打をそこに打ち込んだ。
「がはッ」
ネジのその掌打を受けたキバの身体が回転しながら宙を舞い、そして落ちる。
「日向は木ノ葉最強だ…」
掌打を放った状態のまま、ネジがそう呟く。
「第8試合、勝者は日向ネジ!」
ハヤテのその言葉で、予選第8試合は終わった。
あとがき
しばらくぶりの投稿です。二話続けてご覧ください。
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