GROW LANSER
〜彼の地を貫く光の槍〜
3rd pierce 故郷からの迷い猫 中編



   「さて、自己紹介も終わったとこで、
    率直に聞くが、あんさんたち、いったい何者や?」

   先ほどの和んだ雰囲気を一気に吹き飛ばし、
   ヒューイは緊迫した状況をつくりだした。
   彼が刹那にひき抜いた剣の切っ先は
   祠門の喉元にあった。

   「ちょ、ヒューイ?あんたいったい・・・」

   突然豹変したヒューイにうろたえるアネット。
   あわてて仲裁に入るが、彼の言葉は
   それさえもさえぎるものだった。

   「アネットはんはちょっと黙っててくれるか?
    確かにさっきの戦闘では味方になってくれるたんは助かったが、
    これから先そうなるとはわからん。目的を聞いとかな、な。
    それに、さっきからちょろちょろしとるちっこいのってなんや?
    それよりもあんさんたちはいったいどこからきたんや?
    わいの情報網からはあんさんたちのことはまったくわからん。
    納得のいく説明してもらわなこっちも警戒緩められへんで。」

   「あ〜、ちょっと待って。順を追って説明するから。
    といっても、何から説明するかな〜。
    ここまで自分の能力見せといて、
    “何にもする気はありません、君たちの敵にはなりません”
    じゃ、納得しないよね〜?ここまで関わっちゃったし、
    君たちには話ってもいいかな?それでいいか?エリス?」

   「そこはおにいちゃんに任せるよ。」

   剣を喉元に突きつけられている緊迫した雰囲気をものともせず、
   のほほんとした感じを醸し出している。
   それは隣に立っているエリスも同じだ。
   ヒューイに対し、にらみつけるでも、襲い掛かるわけでもない。
   まるで何も起こっていないように振舞っている。
   その雰囲気は周りにいる者たちさえ飲み込んでいた。

   「目的つっても明確じゃないし・・・。ひとついえることは、
    この世界のマナバランスを元に戻す、ってところかな。」

   「マナバランス?それにこの世界って、
    まるで別の世界から来たみたいな言い方ね。」

   もう、態度など気にしないといった感じで、
   彼らの言葉に反応するモニカ。
   この世界最高の技術を持つフェザリアン故か、
   彼らのいきさつに少々興味を覚えたようだ。

   「そう、私たちはここじゃなくてもっと別の世界から来たの。
    世界はここだけじゃない、無数にあるわ。
    いわゆるパラレルワールドというものよ。
    ここよりも技術の発達した世界、荒廃した世界、
    そんな世界がザラにあるわ。
    その中のひとつの世界から私たちはやってやってきたの。
    この世界ってマナ、つまり火とか水とかの
    力の均衡が崩れちゃってるの。
    それを元に戻すのが私たちの当面の目的ってとこかな。」

   「こことは別の次元に、マナバランスか。
    それにしても当面の目的とは、えらくアバウトじゃな。」

   二人の状況にいささか納得のいかないビクトル。
   それに、マナと別次元のことについて
   詳しい話を聞きたいことであったが、
   とりあえずそれは置いておくことにした。

   「なにせこっちに来ることは俺にとっても予想外だったからな。
    もちろんエリスがくることも予想外。
    いきなりここに飛ばされてきたもんだから、
    状況の把握のしようがないんだ。
    俺たちがどうやってここに来たのかは後で話すとして・・・、
    この次元が危機的状況に陥ってるんだったら、
    何ヶ月かかけて調査してから、
    俺みたいなやつを送り込むはずなんだが・・・。」

   頭を掻きながら、ぶつぶつとつぶやく祠門。
   はたから見ると困っているようにも見えなくもないが、
   その実、その困っている状況さえも楽しそうに見えた。
   何でも楽しく前向きに、これが彼のモットーなのである。
   ただ、状況をわきまえないのがたまにキズではあるが。

   「で、このちっこいのは?」

   剣を持った反対の手で、ウィーラを指差す。
   いい加減何度も同じことを言われたせいか、
   額に血管が浮かんでいた。
   それでなくともマスターである祠門に剣を向けているのだ。
   彼ら精霊にとってその行為は、敵視するに値する。

   「ちっこいちっこいって、ヒドイな!
    これでも私はウィーラって名前があるんだから!!!
    それに、マスターに剣を向けるとは何事だ〜〜!!!」

   「わ、しゃべった。」

   突然しゃべりだしたウィーラに驚くアネット。
   そんなことさえも頭にくるのか、
   今度は矛先をアネットたちに向けた。
   いわゆる、八つ当たりというやつだ。

   「なによ、しゃべっちゃわるいわけ!?」

   「まあ、そうむくれるな、ウィーラ。」

   「だって、マスター・・・。」

   ウィーラの暴走をいさめる祠門。
   しょぼくれるウィーラはマスターである祠門に
   彼らになんか言ってやってくれと目で訴えている。

   「で、つまるとこ、いったい何なんや?
    まさか精霊とか言ったりは・・・。」

   「へえ〜よくわかったな。
    見たところ、俺の精霊とこの世界の精霊とでは
    かなり違いがあるみたいだな・・・。
    俺の精霊の場合は正確には
    実体化もできるから妖精と精霊の中間的存在
    妖霊、といったところではあるがな。」

   祠門は関心したようにニヒルな微笑をヒューイに向けた。
   それを聞いてか、さっきからスレインの方のところに座っていた
   ラミィが、ウィーラのそばに飛んでいった。

   「へえ〜あなた精霊さんだったんですか〜。」

   「うん、あなたは妖精さんだね。でも、
    あなたに気づいてるのは少ないみたいだね。
    見る分だと、マスターとエリスちゃん含めて、
    ひぃ、ふぅ、み・・・五人かな?」

   「はい〜。皆さんとお話したいんですけど〜
    なかなかそういうわけにはいかないんですよ〜。」

   少し悲しそうではあるが、仕方のないこと、
   と言って微笑み返すラミィ。
   それを見て、ウィーラは1つ提案をする。

   「じゃあさ、あたしがマスターに頼んで、
    みんなとお話できるようにさせてあげるよ。
    ていっても、あたしの御仲間なんだけどさ。」

   「ほんとですか〜。うわぁ。たのしみです〜。」

   「え、えと、ウィーラちゃん?
    いったい何と話してるの」

   彼女たちの微笑ましい会話は、
   アネットたちにはウィーラの声しか聞こえていない。
   アネットたちから見れば、ウィーラは
   隣に人がいるように会話をしている
   一人芝居をしているようにしか見えなかった。
   だが、ただ一人を除いては、声だけは聞こえていたらしい。
   怪訝そうな顔を浮かべている者がいた。

   「あははは、やっぱり見えてないね。」

   「はい〜、ちょと寂しいですけど、
    仕方ないことなのですよ。
    でも、気づいてくれる人はいますから、
    その人と会うのが楽しみなんですよ〜。」

   ウィーラも少し残念そうにしながら、
   ラミィとともに微笑みあった。

   「だ、だから、あのね・・・。」

   いまだにアネットはウィーラのみの会話を聞いていた。
   さすがに、ここまで無視されて楽しそうに話をしていると、
   彼女のほうが不憫に思えてならなかった。
   そこでスレインは一言、アネットにこう言った。

   「まあ、この世界の精霊にでも話してるじゃないか?
    あまり気にすることはないとおもうんだが・・・。」

   「まるで見えてるみたいに言うのね、スレイン。」

   「そ、そんなことはないぞ・・・。」

   「ま、そういうことにしておくわ。」

   少し、恩人でもあるアネットにも内密にしていることが
   バレそうになったのか、少々冷や汗を浮かべるスレイン。
   ラミィからの言伝もあり、普段は彼女がいないように
   振舞っている。そうでもしないと、彼が、
   何かに向かって話しかけている変態と間違われるからだ。

   「ははは、まあ、俺の精霊たちは、マナの影響を受けやすいから、
    いま、俺の髪の中で待機中だ。出てきたときにまた紹介するよ。」

   「ということは他にもおるということじゃな。」

   祠門の発言に、ビクトルが反応する。
   その眼光は今にも“キュピーン”という効果音が
   聞こえてきそうなほど鋭い。
   相変わらず何を考えているのか判らず、
   モニカと祠門、エリス以外の全員がひいていた。

   「ああ、ウィーラを含めて、
    俺が使役してるのは八精霊だ。」

   「八精霊やて!!!?」

   「うん、おにいちゃんは私たちの世界でも随一の
    精霊使いなの。いろんな化け物とも戦ってたし、
    おまけに一子相伝の格闘術の使い手なんだよ。
    ちなみにさっきの翼も精霊術によるものだよ。
    属性は風。ウィーラは風の精霊なの。」

   さしものヒューイも、これには驚きを隠せなかった。
   彼に差し向けていた剣も下ろすほどだ。
   この世界で精霊使いが使役できる精霊は1属性のみ。
   その中で能力の一番強いものが王とされる。
   しかも、各々の隠れ里はその属性の精霊使いしかわからず、
   個別の修行法や、王の選別などが行われている。

   「あの翼は一時的なものなのね・・・。」

   「さっきの戦闘のとき出した技もその格闘術の一端ってとこか。」

   「あんまりかしこまることもないけどね。」

   あっけらかんといいはなってはいるが、
   照れがあるのか、ほほが少し赤らんでいた。
   どうやら、ほめられることにはあまり慣れていないらしい。

   「もう、お兄ちゃんはすぐ謙遜するんだから。」

   「それにしても、さっきからお兄ちゃんって
    呼んでるけど、二人は兄妹なの?」

   「ああ、それはこいつが勝手に呼んでるだけ。
    俺は別に名前でもいいって言ってるんだが・・・。」

   アネットの質問に苦笑しながら、エリスの頭を撫で回す。
   それが気にいらなかったのか、ちょっと顔を膨らませていた。

   「おにいちゃんはおにいちゃんなの!!!」

   「っていって聞かないんだよ・・・。」

   「まあ、ホントの妹みたいに見えなくもないしね。」

   エリスは声を荒げて主張する。
   そして、アネットの言葉を聴いてか、
   エリスはさらにほほを膨らませた。

   「ん、どうした、エリス。そんなにむくれて」

   「なんでもないわよ・・・・・・(お兄ちゃんってホントに鈍感)」

   祠門がエリスの様子を気にかけるが、
   不貞腐れた返事しか返ってこない。
   それを見ているギャラリーは、
   みな、一様にこう思っていた。

   「わかってないわねぇ。」

   「ええ、愚鈍ね。」

   「とんでもない朴念仁じゃな。」

   どうやらアネットはからかっていただけのようだ。
   カマをかけてやってみたらしい。
   それであれだけ初対面の少女を手玉に取るのだから、
   恐ろしいことこの上ない。
   さらに勘と彼女の雰囲気だけであの行動をとるのだから、
   行動力、観察力ともに、驚嘆に値すべきものであろう。

   「それにしても、エリスはまた魔力が上がってるな。」

   「そりゃあ、おにいちゃんのお手伝いができるように
    たくさん修行したんだから。」

   「ん?エリスは魔法使いなんか?」

   「うん、そうだよ。いま魔法媒体は保管してるけど。」

   祠門の言葉にエリスが反応し、ヒューイの質問に、
   指輪やネックレスを見せながら、エリスはうなずく。
   祠門も、エリスの機嫌が直ったのがうれしいのか、
   笑顔を浮かべ、エリスの肩に手を置き、
   彼女のことについて、少々説明をした。

   「こいつの魔力は際限ががなくてな、まだ発展途上みたいなんだ。
    今の魔力なら山ひとつ、軽くぶっ飛ぶんじゃないか?
    ほんというと、強力すぎる魔力持っているもんだから、
    魔物に狙われやすいんだ。
    だから彼女を守るために記憶も魔力も封じてきたんだけど・・・。
    なんら変わりのない普通の女の子として
    暮らしてもらいたかったんだけどな・・・。ん?どうした?エリス?」

   なぜか、もじもじとするエリスを不思議に思ったのか、
   彼女に目をやる祠門。エリスも彼を見上げ、
   乾いた笑みを浮かべながら、こうのたまった。

   「あ、あはは、この前一回だけ魔法失敗しちゃって、
    山ひとつなくなっちゃた・・・。」

   これを聞いたギャラリーは呆然と見守るほかなかった。
   しばらくこの場の空気は凍りつき、
   再び動きはいじめたのは数分先にことであった。
   ただし、エリスと祠門の楽しそうな笑い声が
   あたりに木霊していたことをここに記す。


TO BE CONTINUED





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