スーパーロボット大戦α 〜Future Story〜


第十二話「コトシロを討て 復活の赤い彗星」


太平洋での二日が経ち、ナデシコは再びヨコスカドックへ戻っていた。

しかし、ナデシコの空気は重い。中でもブリッジ、パイロットメンバーは突出していた。

ネオ・ジオンの決起した理由が、連合の腐敗が原因だったということ。

そして・・・マキビハリの裏切り。それが、未だに信じられないのだ。



   ナデシコC 食堂

普段賑わう食堂、二日経った今でもメンバーは少ない。

いるのはユリカ、ラピス、アキト、リョーコの四人だけだ。

やがてアキトが口を開く。

「ユリカ、ルリちゃんはどうだ?」

「部屋に篭ったままなの、話はしてくれるけど・・・」

「サブも似たようなもんだ。最も、あいつの方が重症だけどな。酒に入り浸って、放心してるんだ。」

リョーコも、どこか疲れたような顔をしていた。

「壊れたレコードみたいに、同じ言葉を繰り返してる。「何でこんなことに・・・」ってな。」

「・・・サブ。」

「アキト、どうすればいいの?」

ラピスも、二人が心配のようだ。

「彼は自分の意思でネオ・ジオンへ行ったんだ。連合を倒すため、好きな女のためにな。」

そこで一度言葉を切る。

「ルリちゃんは俺が何とかする。リョーコちゃんはサブを頼む。」

「ああ。」

「アキト、シン君とタカヤ君は?」

「あの二人は・・・黙々とシミュレーターをやってる。めっきり無口になってしまったよ。」

「そう・・・」

「じゃあ、行ってくる。」

アキトは席を立ち、居住区へ向かった。


   ルリの部屋

ルリは部屋に電気もつけず、ベッドに仰向けで寝ていた。

その顔は、いつものキリっとした雰囲気がない。

「(何で、どうして行ってしまったの?ハーリー君・・・)」

あの後オモイカネが教えてくれた。あの二人は敵同士と知らずにメールをしていたこと。

その内容も、恋人同士みたいなものだった。彼がこそこそ何をしていたかようやくわかったのだ。

今まで自分の後ろを付いて来るだけだった彼が、自分の意思で出て行った。

いつのまにか変わっていたんだなあと思うと同時に、メールを見ていると、悲しみとイライラする気持ちが起こった。


今まで私しか見ていなかったのに・・・


そして、もしかすると今後ハーリーと戦うかもしれないのだ。

それを考えるとエピオンのパイロット、ローズクォーツの顔が思い出される。

「(ローズクォーツ。あの女がいなければ、ハーリー君がいなくなることも無かったのに。)」

ルリは、自分が今もイライラしていることに気がついていない。

と、

コンコン ドアがノックされる。

「ルリちゃん、いるかい?」

アキトの声だった。

「はい。」

「ちょっと入っていいかな?」

「・・・どうぞ。」

ドアが開き、アキトが入ってくる。

「うわ、真っ暗じゃないか。」

電気をつけ、部屋が明るくなる。

ルリは既に身体を起こしており、ベッドに腰掛けていた。

「何か御用でしょうか。」

「いや、今日食堂に来なかったからさ、心配でね。」

「そうですか。私なら大丈夫ですよ、アキトさん。」

「そんな顔して言っても説得力ないなあ。余計に心配しちゃうよ。」

「私、そんな酷い顔してますか?」

「ああ、以前の真っ黒ユリカ並みかな。」

「ぷっ。」

以前とある事件の時のユリカの顔を思いだし、吹きだしてしまう。

「ふふ、それは拙いですね。」

「だろう。ルリちゃんは笑ってるほうが可愛いしね。」

「ア、アキトさん・・・(赤)」

恥ずかしい台詞を言われ、ルリは赤くなった顔を伏せる。

「ルリちゃん、俺は食堂にいるからね。いっしょにご飯を食べよう。」

「はい。(やっぱりアキトさんは優しいです)」

「じゃあ先に行ってるよ。」

「わかりました、私は少し顔を洗ってからいきます。」

「うん。」

そうしてアキトは部屋から出て行った。

ルリは鏡に映る自分の顔を見た。

「(本当に酷い顔・・・アキトさんに迷惑を掛けてしまいました。)」

水を両手ですくい、顔に浴びせる。赤くなった顔に冷たさが心地よかった。

いつだったかリョーコが言っていた。彼がいつまでも近くにいるとは限らないと。

「(なら連れ戻せばいい、アキトさんと同じように・・・)」

それはどういう感情から来ているのか、今は分からなかった。



   サブの部屋

「ったく、お前は〜!」

リョーコはサブの部屋に転がっているビールの空き瓶や空き缶を片付ける。

「飲みすぎだろ、いくらなんでも。」

サブはベッドにもたれかかるように座り、ずっと下を向いていた。リョーコの声が聞こえているのかわからない。

部屋は、換気をしなければならないほど酒臭かった。

「サブまでぶっ倒れたらどうすんだよ。」

「・・・うるせえよ。」

ボソッと呟く。

「あ?」

「うるせえって言ってんだ、出てってくれ。」

「何だよ、こっちはお前が心配で来てんのによ。」

「余計なお世話だ、頼んだ覚えはねえ。」

「いつまで餓鬼みてえなこと言ってんだサブ!!」

リョーコはサブの胸倉をつかみ、立ち上がらせた。

「いい加減正気に戻れ!」

「俺は正気さ・・・だからもうウンザリしてんだよ。」

「この・・・」

バチーン リョーコの張り手が左頬に当たり、乾いた音が響く。

「てめえ!!」

サブはリョーコをベッドに押し倒した。

「俺だってわかってるさ。だがな、ネオ・ジオンもかつて弾圧を受けた奴らってことは俺達と同じなんだよ。

 だからその苦しみも分かっちまう。ハーリーだってそれを分かってるから、俺は・・・俺は・・・」

リョーコの頬に、サブの流した涙が落ちてくる。

「俺は、もう戦う理由が無くなっちまったんだよ。」

「・・・サブ。」

「う、っく。」

そんなサブを、リョーコは優しく自分の胸に抱きしめる。

「戦う理由がありゃいいのか?」

「・・・・・・」

「なら、俺を守るのが理由じゃだめか?」

「えっ。」

「俺は最後まで戦うぜ、自分の居場所を守るために。」

「リョーコ・・・」

「俺を守ってくれるんだろ、最後まで。あの時もそう言ってくれたよな。」

「ああ。」

「だからサブが苦しい時は俺が助ける。もっと頼ってくれよ、それが・・・妻の務めだしな。」

「・・・すまねえ。」

サブがリョーコの背に手を回し、嗚咽を漏らし始めた。

リョーコは優しい笑みを浮かべて、サブの背中をなでる。

そのまましばらくして、サブが口を開いた。

「悪い、俺どーかしてた。」

その声は、普段と変わりなかった。

「木連男児は女性を敬えってな。これじゃリョーコの旦那失格だ。」

「サブ、俺はお前を信じてるからな。」

「ああ、俺もさ。」

どうやら元気をとりもどしたらしい。

「行こうぜ、アキト達が待ってる・・・ん?」

サブがいつまでもどこうとしないのだ。

「リョーコ。」

「な、何だよ。」

「久し振りだな〜、この感触は♪」

頬をリョーコの胸に押し当て、頬ずりをする。

「ひゃっ!?」

「最近ご無沙汰だったしよ〜。」

「ば・・・ば・・・ばっきゃろー!!」

リョーコの右拳が、サブのわき腹につきささる。

「ぐはっ!?」

ベッドから転げ落ち、苦悶の声をあげる。

「こ、この感触も久し振り・・・」

「ムードぶち壊しじゃねえか、このケダモノ!!」

そのままドアへ向かう。

「先に行ってるぜ、早く来いよ。」

わき腹を押さえて苦しむサブを横目に、リョーコは部屋を出た。

「まったくあいつは!」

サブの部屋を見、自分の左手の指輪を見る。

「・・・ふん!」

だがその顔は、どこか嬉しそうだった。



   アカツキの部屋

アカツキとプロスが何やら作業をしている。

二人の周りには多くのウインドウが表示されていた。

「じゃあ各計画が最終段階にはいったんだね?」

「はい、月のネルガルドックでは三番目のZ計画、H計画、そして残りの三機も完成間近です。地球のトリントンコアでは四番目のD、
 
 我がネルガルが出資したダブルGも最終チェックに入りました。」

「何とか間に合ったか。」

「ええ、しかしZ計画最後の一機、機体のユニット調整にもうしばらくかかるそうです。」

「まあそうだろうね、あの火器管制は彼も苦労するだろうし、何より武装がねえ。後はフルムーン頼りか。

 しかし急がなければ、ホワイトサレナはもう・・・」

一つのウインドウを見る。そこには「Z計画 No,V」と表示され、その横に別のシルエットが映っていた。一目で普通ではないことがわかる。

「格闘、射撃、前の二機に比べ、こいつは規格外だからね。扱えるのはやはりテンカワ君だけかな。」

「敵もパワーアップしてますからな、急ぎませんと。」

「ああ、しかしH計画もダブルGも、あの二人がいないと始まらない。」

「ですが、まさかマキビさんが裏切るとは予想できませんでしたな。」

「ルリ君の存在がある限り、離れることはないと踏んでいたんだけどね。既に振られて、吹っ切っていたんだね。」

「恋は麻薬、ですか・・・」

「そうだね。」

「ところで、敵にマシンチャイルドがいるのは拙いのでは?」

「その時はルリ君とラピス君が対処してくれるさ。あの二人は彼よりずっと力がある。」

「そうですな・・・おっと、忘れていましたが会長に伝言です。」

「なんだい?」

「奥様が至急連絡をよこすようにと。」

「げっ!?」

アカツキの顔が青くなる。

「では私はこれで。早めにしたほうがよろしいかと。」

「・・・一人にしないでくれるかい?」

どうやらプロスに援護を求めているようだ。

「私が関わる話題ではありませんのではい。」

プロスが出て行き、アカツキは恐る恐る妻へと通信をつなげた。

そして・・・怒声が響き渡る。



   レウルーラ 

「ハリ君、起きてますか?」

個室をあてがわれたハーリーは、そこで眠り、今ローズが迎えにきていた。

しかし返事がなく、不審に思ったローズは監視用の特別キーを使い、部屋に入る。

「失礼します。」

中に入ると、ハーリーはまだ寝ていた。

「まだ寝てますね。」

しかしうっすらとハーリーの目が開かれ、光りが漏れている方を見る。

「?・・・はっ!?」

ガバッっと起き上がり、周りを確認する。

「ここは・・・そうか、僕は・・・」

「おはようございます。」

「はい。おはようございます、ローズさん。」

そうしてハーリーは掛け布団をどけると、

「キャア!」

「へっ?」

ローズが小さく悲鳴をあげ、後ろを向く。

「あ、あの、ハリ君。し、下・・・」

「あ・・・すみません。」

何しろ連合の服を着て寝るわけにもいかず、寝巻きなどあるはずもなく、二日たっても彼の格好はトランクスとタンクトップだけだった。

「わ、私外に出てます。」

ローズは逃げるように出て行く。

ハーリーも急いで連合の服に身を通す。

「すみません、お待たせしました。」

「では、昨日艦は大体案内しましたので、セレスのいるリビングへ行きましょう。」

そうしてローズの後をついて行く。

通路を歩いていると何人かのジオン兵とすれ違ったのだが、自分を見る目はやはり違っていた。

「(やっぱり裏切り者は受け入れられないのかな・・・)」

「そんなに心配しないでください。」

「えっ?」

「みなさんも、すぐに慣れてくれますよ。」

ハーリーが思っていたことをわかっていたようだ。

「さ、つきました。」

ドアをノックし、名前を言って中に入る。

「セレス、連れてきました・・・あら?」

中にいたのはセレスともう一人、こちらも女性だ。

「レミーさん、あなたまで。」

「は〜いローズ。そこの彼が例の?」

「は、はい。」

「ふ〜ん。」

レミーはジッとハーリーを見る。彼女はウエーブがかかった金髪で、背中まで伸ばしていた。ただ瞳は黒色だ。スタイルもセレスやローズ並にある。

背は大体一六五センチだろう。

「初めましてマキビ君。私はこのレウルーラ艦長のレミー・ローザです。」

「こ、こちらこそ。マキビハリです。」

お互いに握手をする。

「しかしローズ、こんな可愛い坊やを何処の連合軍から攫ってきたのよ?まさかあなたの趣味??」

「ぼ、坊や!?」

「レミーさん、彼はもう18ですよ。それと私は誘拐犯ではありません!」

「そう・・・えっ!?」

「くくく。」

セレスが口を押さえて笑っている。

「18なの!?こんな可愛い顔して。」

ドスッ 胸に容赦ない言葉が突き刺さる。

「確かにそうですけどってハリ君!?」

ハーリーは両手を床につき、泣いていた。

「ど〜せ僕なんて子供っぽいですよ、みんなにからかわれるしおもちゃにされるし、いいとこないし。まさに不幸の代名詞ですよね。あはははは。」

後半は彼の心の叫びなんだろうな・・・そして人生諦めたような乾いた笑い声が響く。

「そ、そんなことないわよマキビ君。」

「童顔が何だっていうんですか、いいとこだってたくさんありますよ。」

フォローのつもりなのだろうか、レミーにローズよ。

「まったく、本当におもしろいわね。」

と、今まで黙って笑っていたセレスがハーリーに話しかける。

「戦争終わったら漫才でも開こうかしら、まあそれよりハリ君にはこれを渡したくてね。」

そういい、机から一つの袋を取り出し、ハーリーに渡す。

「これは?」

「ネオ・ジオンの軍服よ。いつまでもその格好はあれだし、昨日サイズを聞いておいたでしょ。あってるのを見つけておいたわ。」

「ありがとうございます、セレスさん。」

「じゃあ隣の部屋で着替えて頂戴。」

「はい。」

ハーリーは隣の個室へ入っていく。

そして数分がたち、ハーリーが出てきた。

「わあ、とっても似合ってますよハリ君。」

それは、黒を基調とする将校用の軍服だった。

「あの、何故黒色なんですか?」

他のジオン軍人は緑が多かったのだが、

「君にはその色が似合いそうだと思ってね。黒髪に蒼い瞳と、よく似合ってるわ。」

ローズの色は、セレスと同じ赤色だった。レミーは黒だ。

と、セレスが立ち上がりハーリーの前に立つ。

「サイズもぴったりね、連合のはダサいから。」

そう言ってハーリーを見上げる。至近距離でセレスの艶やかな唇に目がいってしまい、思わず喉がごくりとなった。

セレスはかなりの美女であり、そんな女性が近くにいたら目が向いてしまうのは、男の本能だから仕方ない。

しかし、急にひんやりとした感触が首筋にはしる。何かと思うとそれは・・・ローズの細い指先が、ハーリーの首に添えられていたのだ。

「何デレデレしているのですか?」

静かな声が後ろから聞こえる。

「今何を考えていましたか?ハ・リ・君??」

「な、何のことですかローズさん。」

と、セレスが何か思いついた顔になり、

「あら、私をジッと熱い眼差しでみていたんじゃないの?」

「ふえっ!?」

「・・・へえ、そうなんですか。」

「ち、違います。そんな」

「残念ね、私そんなに魅力ないかしら?」

セレスが悲しそうに言う。

「い、いえそんなことありませんよ。」

「あら、やっぱり私のことを・・・」

「なっ、もう浮気ですかハリ君は!!」

と、ローズがハーリーの身体を揺さぶり始めた。

「ごめんなさい少し見てました許してください。」

セレスはすでに離れてレミーといっしょに笑っていた。

「(こ、この人たちは同じだ・・・)」

もちろん、思い浮かぶのはあの面々だ。

「まあそろそろ本題に入りましょう、二人ともいいわね。」

「わかりました!」

「はい・・・」

ローズはまだ怒っているのか、逆にハーリーは疲れたような顔だ。

「じゃあレミー、後よろしく。」

「ええ。」

そうして三人は部屋を出た。


しばらく歩き、一つの部屋に入る。

「さてと、ハリ君には少しこれをやってもらうわ」

指差したのは、エステと同じシミュレーターの筐体だった。

「シミュレーターですか?」

「ええ、MS用のね。」

「MSですか・・・すみませんが経験がないんです。」

「かまわないわ、エステと同じIFS専用だから。同じ要領でやれば問題ないはずよ。」

「わかりました、やってみます。」

ハーリーは筐体の中に入り起動させた。

全視点モニターがつき、全ての視界が宇宙になった。

「これが・・・よし。」

右手をIFSのパネルに置き、左手をレバーの上に載せ、握る。

「ハリ君、操縦はエステと同じだと考えてください。」

「わかりました・・・なるほど、こうなってるんだな。」

そうしてIFSが光り、架空のギラ・ドーガが動き出す。


その光景をモニターで見ている二人。

「へえ、やるわね。」

「そうですね、MSは初めてのはずですけど。」


ハーリーは機体を動かし続け、操縦の仕方が段々理解できてきた。

「ハリ君、次はターゲットを出すから、それに攻撃してみて。」

「わかりました、どうぞ。」

そうして五つのバルーンが出てきた。

「行くぞ。」

右手に持っているビームマシンガンを三連射、三つのバルーンを破壊する。そのまま接近し、左手のビームソードアックスで二つを切り裂いた。

「全ターゲット破壊確認。お疲れ様、ハリ君。」

「じゃああがって。」

「了解。」

筐体が開き、ハーリーは外に出る。

「どうかしら、MSの感想は?」

「雑誌とか情報でしか見たことありませんでしたけど、いい機体ですね。」

「でもハリ君もすごいです。初めてのMSをあそこまで操るなんて。」

「それはエステと殆ど同じだったからですよ、ローズさん。」


「(でもこれは相当訓練してた証拠ね。動きにあまり無駄が無かった、特に射撃の正確さは誉めたものだわ)」


「ハリ君、君に少し話しがあるわ。私についてきなさい。ローズは準備の方にまわって。」

「わかりました。」

セレスはハーリーを連れ格納庫の奥へと向かい、ローズとはそこで別れた。


   
   格納庫

セレスに連れられてきたのは、格納庫の一番奥の部分だった。

「君に見せたいものは、これよ。」

そうして一つのボタンを押し、それは姿を現す。

「こ、これは・・・」



   ナデシコC ブリーフィングルーム

今ここでは、アカツキが奪われた新型の説明をしていた。二つの機体がモニターに映っている。

「過去の大戦で最高のスピード、最強の武器を持っていたガンダム。それを新たに造り直したのが「ウイングガンダムゼロMk=U」。

 エンジンを三機の小型相転移エンジンに換え、連結させたおかげで莫大なエネルギーを生み出すことができる。

 そのために大きさは27メートルになってしまったがね。これは射撃戦がメインの機体だ。

 武器は二基のマシンキャノンと両肩の内部にビームサーベルが一本づつ。

 フィールドランサーと同じくフィールドを無効化する「フィールドバスターシールド」

 新型のグラビティライフル、そしてメインの「ツイングラビティバスターライフル」

 これは、一本ずつロンググラビティブレードにもなる。

 さらに背部の四つの翼の内、主翼の翼が特殊兵装の「フェアリー」だ。これは個々の力を併せて前部に展開し、

 「ピンポイントディストーションフィールド」を張ることができ、

 グラビティブラストに耐えることもできて大気圏突入時にも使うことができる。開発コードはZ−T。

 そしてこの機体の最大のポイントが、「ゼロシステム」だ。」



   レウルーラ 格納庫

「君にこの機体に乗ってもらいたいのよ。」

「何故、僕なんですか?」

「他に乗れるパイロットがいないのよ、ゼロのせいでね。」

「ゼロ?」



   ナデシコC ブリーフィングルーム

「Zoning and Emotional Range Omitted System」、つまり「領域化及び情動域欠落化装置」の略だ。

 これは搭乗者にシステムが分析、予測した状況の推移に応じた対処法の選択や結末を搭乗者の脳に直接伝達する。

 簡単にいうなら、勝利するために取るべき行動をあらかじめパイロットに見せるのなんだ。その予測とは、

 基本的に戦術的な勝利を目的としたもので、勝利するためなら搭乗者の死傷を問わない。つまり、搭乗者の事情、感情などお構いなく、

 勝利の為の行動を優先するものさ。更にこのシステムはコクピット内に高性能フィードバック機能を備えた機器を搭載、

 脳内の各生体作用をスキャンし、脳そのものに刺激を与え、パイロットの能力を強化することもできるんだ。

 そして脳内の活動状況から搭乗者のコンディションを読み、MSの機動や運動によって発生する衝撃や加重などの刺激情報の伝達を緩和、

 あるいは欺瞞し、人間の限界を超えた環境下での機体制御を可能とするものなんだ。

 そして、このシステムの恐ろしいこところは、分析、予測の結果に基づいた行動をパイロットに強制させようとする。

 状況によってはパイロットの死亡や機体の自爆、虐殺に近い徹底的な敵の殲滅、友軍を巻き添えにする攻撃の実行など、

 パイロットに極めて非人間的な選択を強要する場合もあり、パイロットにはシステムから与えられる膨大な量の情報に耐え、

 望ましくない結果に繋がる行動を拒否するための強靱な精神力が求められるんだ。過去に、これによって悲しい経験をした者もいると聞いた。

  少しでも迷いを持てば、システムに飲み込まれる。故にこれを操れる人間は、相当の実力がないと味方さえも攻撃してしまう。」

 
画面が変わり、太平洋に現れた機体が映し出される。


「そしてこの機体が、かつてウイングガンダムゼロと死闘を繰り広げたもう機体、「ガンダムエピオンMk=U」だ。全長27メートル。

 過去に回収されたものはゼロに似たシステムを積んでいたんだが、すでに破損していた。だから今回はゼロシステムを搭載している。

 こちらは主に格闘戦仕様で、ネオバード形態に変形。ウイングと同じ三つの連結型相転移エンジン。

 武装は、腰の大型グラビティブレード。これは最大なら戦艦さえ一撃で切り裂くことが出来る。例えナデシコでもフィールドごとね。

 後はシールドに装備されてるヒートロッド。そして両肩の義手、改良されたエピオンクロー。

 これはディストーションフィールドを無効化することが出来る。あとウイングと同じ背部の「フェアリー」。

 まさに正反対の機体さ、外見もね。開発コードはZーU」


    レウルーラ 格納庫

「そんな機体が、僕に扱えるわけありません。」

「できるわ。君は、マシンチャイルドなんでしょ?」

「・・・ええ、そうですが。」

「この機体のシステムに耐えるには、脳に送り込まれる膨大な情報に耐え、自分を見失わない強い心が必要になる。

 ローズを、守りたいんでしょ?」

「守りたいです。でも僕は・・・強くありません。」

「そうは思わないわ。君はローズのために仲間を裏切ってまでここに来た。それはかなりの覚悟が必要だったんじゃないの?」

「・・・・・・」

「それに、ローズの事情をもう聞いたはずよね?」

「ええ、僕とは違う強化体質だと。」

「もう会ったけど、他の四人はまだ無理なの。まだ年もとってないからとてもシステムには耐えられない。君は、もっと自分を信じてもいいはずよ。」

「僕に、できるんでしょうか?」

「あなたにならできる。私こう見えても男を見る目はあるつもりよ。」

「・・・わかりました。僕がこの機体、ウイングガンダムゼロのパイロットになります!」

力強く、ハーリーは言った。

「うん、それでこそ男よ。じゃあ早速だけど、君はしばらくウイングゼロに乗って訓練をしていてね。私達はもうすぐ作戦があるから。」

その言葉に、昨日言われた作戦を思い出した。

「やるんですか、本当に。」

「・・・ええ。でも誰かがやらない限り、人は同じ過ちを繰り返し続けるのよ。」

セレスも、辛そうな顔で言う。

「レウルーラは戦線を離脱するから、後でローズにも声を掛けてあげてね。」

「・・・はい。」


「(あの人たちも、来るんだろうか・・・)」



   ナデシコC ブリッジ

「香織君、今のナデシコでこのエピオンに勝てるかな?」

アカツキは香織に問いかけた。

「・・・全員で攻撃しても未来を予測され、その反応をさらに超えることの出来る・・・みなさんの腕が悪いとかではなく、

 単純に機体性能の差が大きすぎるんです。」

「だろうね、あのゼロシステムを使いこなすなんて、ローズクォーツ・・・ただの女性じゃないな。」

「・・・・・・」

全員が黙ってしまう。

「だけど、まだ負けたわけじゃないよ。」

「どういうことだアカツキ?」

「我がネルガルが建造していた新しいナデシコが、トリントンコアでまもなく最終チェックを終わらせるんだ。」

「新しい・・・ナデシコ?」

「ああ。提督、これを見て欲しい。」

そして、一つのウインドウが出てきた。

「ナデシコD。四番目のナデシコで、ナデシコCのコンセプトを引き継ぎ、新しく左右にもフィールドブレードを増設。

 戦闘時に艦前方部と同じように展開し、強力なフィールドを張ることが可能だ。並のグラビティブラストでは破るのは不可能さ。

 全長は735メートル。相転移エンジン五基と核パルスエンジン六基を搭載、ネルガル初の超大型艦だ。

 武装は大口径グラビティブラスト、ミサイルを左右10門ずつだ。」

「これが・・・新しいナデシコ。」

「でも、やけに大きなカタパルトですね。それにこの大きさでは相当スペースが開いてしまうのではないですか?」

「ルリ君の言うことは最もだが、それには理由がある。搭載機がやたら大きいんだよ。」

その言葉にアキトは疑問を覚えた。

「大きいってエステじゃないのか?」

「ああ、もう一つ言うことがあったよ。実は月ではシン君、アキト君、サブロータ君、リョーコ君、そして僕の機体が、

 トリントンコアではタカヤ君の新型機がロールアウトされたようだ。」


「えええ〜!!」


「全部特注だからね、もうすぐ会えるはずさ。ナデシコDも、大型化した機体に対応できる作りになっているのさ。」

「そうだったんですか。」

シンは嬉しそうに頷く。

「敵は明らかに強くなってるからね。とりあえずナデシコをトリントンコアへ向けてほしいんだ。」

ユリカは司令部に通信をしようとした瞬間、

『ルリ、総司令から緊急通信』

「わかりました、繋げて下さい。」

通信回線が開き、ミスマルのウインドウが表示された。

「諸君、緊急事態だ!」

「お父様?」

「よく聞いてくれ、ネオ・ジオンはターミナルコロニーの一つ、「コトシロ」を地球に落とすつもりだ。」

「何だと!!」

「アキト君、すでにコトシロには部隊が展開し、大型ノズルが設置されている。ここに向かった宇宙軍は奴らの息がかかっていたようだ。

 この様子では、まだ他にもいる可能性がある。」

「そんな・・・」

「恐らく目標は移転した地球連合総司令部「ジャブロー」だ。もしコロニーが落ちれば前大戦の悲劇が再来する。

 何としても阻止せねばならん。他の艦では間に合わん、ユリカ、コトシロへ向かってくれ!」

「了解です。ただちに向かいます。」

「頼むぞ。」

通信が切れ、艦内に通信をだす。

「総員第一種戦闘配備。これよりナデシコは地球を離脱し、ターミナルコロニー「コトシロ」へ向かいます。」

全員が動き、艦内にブザーが鳴り出す。

「ラピス、ドックから離れて。」

「もうしてる。エンジンもOK。」

ラピスがユリカに端的に返した。

「ハーリー君、コトシロまで最大で・・・あっ。」

ユリカは返事がないことに顔をしかめる。いつも元気に返す少年は、もうシートにいない。

「ユリカさん、ハーリー君は現在休暇中です。」

「ナデシコ、最大船速でコトシロへ。」

無表情でルリが言い、ラピスがナデシコをコトシロへ向け動かす。

「ごめんね、二人とも。」

ユリカは聞き取れないほど小さな声で返す。

「(ハーリー君、君は何をしてるの・・・)」


ナデシコはコトシロへ向かい、発進した。



  コトシロ宙域 レウルーラ

「レミー、準備はどう?」

「もう設置は完了してるわ。まったく連合政府は、自分の保身しか考えてないのね。こんな物を渡してくれるなんて。」

「私が駆け回って、よ。」

ノーマルスーツを着たレミーとセレスだ。

「例のブツは?」

「もうすでにスイートウォーターから合流ポイントへ動いてる。あれがないと本当の作戦ができないからね。情報によるともう一つの弾丸も、

 じきに調整が終わるわ。後はブツを届けるだけ。まあそのためにソロモンを奪ったんだけど。」

「まあ、今の軍じゃ真実に気付いてももう遅いわ。私達が何故ソロモンを奪ったか、気付いた時はもう準備が終わってる頃。

 何しろ二つの弾丸の推力提供者が政府の人間だしね。」

「レミー、ミスマル大将以下の三人は油断できない。そして・・・ナデシコC。」

「・・・そうね、油断は禁物だったわ。」

「ところで彼はどうしたの?」

「まだ機体の調整が終わってないのよ。だから今回は無理ね。」

「そう・・・恋人っていいわね、レミー?」

「う、うるさいわね。あんたもさっさと男捜せば!」

「この戦争で生き残ったらね。ゆっくり捜すわ・・・と」

通信が入り、繋げる。ローズのウインドウが出た。

「セレス、用意が終わりましたよ。」

「そう、私も行くわ。ヴァルキリーチームは?」

「みんなOK、私といっしょで問題なし。」

「ローズ、マキビ君はどうしたの?」

「彼はウイングゼロに篭ったままです。さっき少しお話しましたけど。」

顔を赤くするローズ。何があったのか・・・

「はいはいお熱いことで。すぐに行くわ。」

通信を切る。

「レミー、出撃後は例のポイントで落ち合いましょう。」

「了解、ジーク・ジオン。」

「ジーク・ジオン。」

ザッっと敬礼し、セレスはブリッジから出て行った。

「艦長、こちらに接近する戦艦を一隻確認。識別・・・ナデシコCです。」

ブリッジが慌ただしくなる。

「全艦に連絡。全機出撃後、無人戦艦及び無人機、セレスとヴァルキリーチームを残し戦線を離脱する。」

「了解。」

通信兵が艦内、他の艦に連絡する。


   
   格納庫

「来たわね。」

セレスは報告を聞き、愛機の状態を聞く。

「ケン、調子はどうかしら?」

「前回と同じで異常はない。お前とのサイコミュの相性もバッチリだ。」

レウルーラ整備主任、サクマ・ケン(妻子もち)が答える。

「他の機体は?」

「エピオン、ヴァルキリーチームのギラ・ドーガはいいんだが、ウイングゼロは坊主が出てこねえんだよ。あのPTもそうだが。」

「ハーリー君はさすがに無理よ。あいつのPTの方も、じき完成でしょ。」

「本当はユニットとの微調整だがな。あいつがうるさくてよ。」

「そう、私も行くわ。」

そのまま愛機のコクピットに飛んでいき、中に入って起動させる。

「セレス、俺より先にくたばるんじゃねえぞ!」

「当然よ、ハッチ開放。」

赤い機体がカタパルトに乗る。

「セレス・ダイクン、ナイチンゲール・・・行くわ!」

姿勢を低くし、射出とともに足を離す。


「ノズル点火!!」


レミーの言葉とともに、コトシロ後部のノズルが火を吹く。

「レウルーラ以下、離脱する。」




   ナデシコC  
  
「コトシロ確認、地球へ向け移動を開始してる。」

「ラピス、敵の規模は?」

「四連筒付木連式戦艦三隻、リアトリス級戦艦二隻、カトンボ四隻にバッタ多数、後は・・・月面で確認されたギラ・ドーガ四体、

 それに、ガンダムエピオン。」

「エピオンがいるの!?」

ユリカは眉をひそめた。

ルリは各パイロットへ通信する。


  
   格納庫

「みなさん、今回はコトシロ落下の阻止です。何とかノズルを破壊してください。」

「ルリちゃん、敵の数は?」

「数はたいしたことありません。しかし敵の中に、例のギラ・ドーガ四体と、ガンダムエピオンが確認されました。」

「げ、マジかよ。」

タカヤが嫌そうに言う。

「各機、発進してください。」

「了解。」×六


六機がナデシコから出撃した。

「全機、敵を突破しノズル部を破壊するんだ。」

「了解」×五

多くのバッタが向かってくる。

「落ちろ!」

「邪魔だ!」

先行するシンとアキトが道を切り開き、

「ライトニングブラスター!!」

ファントム、サレナが左右へ別れ、そこにグラディエーターのライトニングブラスターが突き刺さる。

「遅いぜ!」

「そこだ!」

「通してもらうよ。」

さらに出来た穴を、リョーコ、サブ、アカツキが広げていく。

だが、アキト達の方を何かが通り過ぎていき、再び前に戻ってくる。

それは折りたたまれた脚部を戻し、翼を広げたガンダムエピオン。その周囲にギラ・ドーガ達が集まる。

「へっ、本命登場か。」

リョーコはやる気満々の声を出す。

「・・・シン君。」

「何ですか?」

アキトがシンに通信をしてきた。

「ここは俺達の任せて君はコトシロへ向かうんだ。君のファントムならサレナより早い。」

それは全員に聞こえていた。

「え・・・でも。」

「行くんだ!!」

そしてファントム以外の五機はエピオン達へ向かう。

「まったく、身勝手ですよあなたは。」

ファントムはその真上を通ってコトシロ後部へ向かう。

だが、エピオン達はそれを追うことはしなかった。いや、追う気がないようだ。



    ナデシコC ブリッジ

「ファントムが敵艦隊を突破に成功。」

「ラピス、アキト達は?」

「エピオンと交戦中・・・砲撃来る。」

「回避してミサイルで反撃。」

「(おかしい、敵は何故シンさんを追いかけようとしないの?)」

その中でルリは、敵の行動に疑問を持っていた。

「それに、もう時間がない。」

傍らのウインドウに目をやる。


それは、阻止限界点という言葉だった。



ファントムはコトシロ後部へ着こうとしていた。

「見えた。」

光りを放つノズル部分。ライフルを構えて撃とうとした時、

嫌な感じが頭をよぎり、後方に下がる。

と、そこを一筋の漆黒の光が通過していった。

「上!?」

カメラを向ける。そこにいたのは、一体のMA・・・いや、真紅のMSだった。

「(何だこいつは・・・それに、このプレッシャーみたいなものは?)」

そのMSは、ファントムから少し離れた所へ降り立つ。そして、

「通信?」

それを繋げて見る。するとウインドウに映ったのは、赤いパイロットスーツに身を包んだ

「セレス・ダイクン!?」

シンは驚愕の声を上げる。総帥自ら出てくるなど・・・と思っていると、セレスが口を開く。

「会うのは二度目ね。ネオ・ジオンの忌むべき宿敵、白い・・・いえ、白銀の悪魔。」

「宿敵?悪魔??・・・何を言っている。」

「分かってない、いえ、まだ気付いてないといったところかしら。でもやはり血筋ね。私達が出会ったのは運命でなく宿命なのよ。」

「何訳わかんねえこと言ってやがる。セレス・ダイクン、お前達は何故こんな物を地球へ落とす!」

「地球に住む人々は、自分達のことしか考えていない。連合はその最たる例よ。だから私は、地球に住む人類を粛清すると宣言した。」

その言葉にシンはビームライフルで返した。だがセレスの機体、ナイチンゲールはあっさりと避け、右手のメガグラビティライフルを

撃ち返す。それはフィールドを纏う暇なく、ファントムの右肩を貫いた。

「(ファンネルを使うまでもない・・・か。)」

「喰らえ!」

ファントムはナイチンゲールに接近し、両手のセイバーを振り下ろす。ナイチンゲールは下がりながらビームトマホーク、ビームサーベルで

受け止めた。エネルギーのスパークが起こる。

「粛清だと!お前にそんな権利が・・・人に罰を与える資格があるってのか!」

「人が変わるためには、誰かがしなくてはならない業なのよ。私は敢えてその業を背負うつもりよ!」

両機は互いに譲らない。

「(人が変わるだと?)それがただのエゴだと、何故気付かないんだ!!」

「シン、地球は今アンデッドという者達に脅かされてる。もう限界が近い。だからこそ地球には、一度休んでてもらうのよ!!」

ファントムの両手が弾かれ、腰のスカートアーマーから隠し腕のビームサーベルが飛び出し、ファントムの両腕を切り落とした。

「だから地球を氷河期にするっていうのか、お前は!!」

武器を失っても、ファントムはフィールドを纏って突っ込むが、

「その機体では、私は倒せないわ!」

ナイチンゲールの回し蹴りを喰らい、吹き飛ばされる。

「くっ・・・何!?」

セレスはとどめを刺さず、引き上げていったのだ。

「何故・・・はっ!?」

ピーピーピー コクピットの中でアラームが鳴り、ウインドウが表示された。

「阻止限界点を超えた・・・か。」

コロニーの先端が、摩擦を起こし始めていた。

「俺は、何もできなかったのか・・・く、うおおおおー!!!!」

シンはコクピットの中で叫び、歯軋りしながらナデシコへ戻って行った。


エピオンとギラ・ドーガ達は、まるで倒す気がないような攻撃ばかりをしていた。しかしそれでも、アキト達は多大なダメージを受け、

機体もボロボロだった。特に二機のエステとアポロンのダメージは深刻だった。

「くそ、これではこちらも動けない。」

だが突然、五機は背を向け離れて行ったのだ。

「何、どういうことだ?」

「アキト。」

ラピスからの通信が入ってきた。

「作戦は失敗。コトシロは、阻止限界点を越えたの。」

「何だと!?」

「もうファントムも戻ってきてる。急いで!」

「くっ、全機帰還する。」

「失敗、だってのか・・・」

「止められなかったのか、俺達は・・・」

「ちくしょう、ちくしょう!」

「急ごう、僕達も摩擦熱にやられてしまう。」

タカヤ、サブ、リョーコ、アカツキは悔しそうな声をあげ、機体をナデシコに向かわせた。

その途中、シンのファントムが後方からやってきた。



   ナデシコC ブリッジ

「コトシロ、以前ジャブローへ降下中。」

ラピスが沈んだ声で報告してくる。

「コトシロが・・・落ちる。」

ルリの呟きが、ブリッジに響いた。

「まだ、終わってないよ。ルリちゃん。」

しかしユリカだけはいつもと同じだ。

「ユリカさん?」

「このナデシコで、コトシロを破壊します。」

「「!?」」

「少しでも被害を減らすためなら、やるしかないもん。責任は私が持ちます、二人とも、コトシロ破壊のベストポイントは?」

二人はそれを聞き、即座に計算を始めた。そして、

「ここがベスト。」「私も同じです。」

それは、コトシロの中心部だった。

「グラビティブラストで限界まで破壊作業をすれば、エンジンが弱まりナデシコも大気圏に突入します。シートベルトの着用を。」

「「了解。」」

「艦内に連絡。」



   格納庫

「全クルーに連絡。ナデシコはこれよりコトシロに対しグラビティブラストによる砲撃を行います。それによって大気圏突入の可能性が
 
 あります。各員、衝撃に備えて下さい。」

「なにい〜!!」×パイロット、整備士一同



   ブリッジ

「大気圏に突入開始。」

「照準合わせましたオモイカネによる微調整完了です。」

「了解。グラビティブラスト、発射!!」


ナデシコからのグラビティブラストは、見事コトシロの中心部を貫き、爆発を起こす。


「ユリカ、表面温度上昇中!」

「まだ、あと一発。いけるよね。」

「はい、再チャージ・・・終了です!!」


ナデシコ全体を揺れが襲い、ブリッジのモニターが赤く染まっていく。


「目標コトシロ、てえー!!」

再び撃たれたグラビティブラストによって、完全にコトシロは二つに分かれた。

「ラピス、フィールド全開!!」

「了解・・・!?エンジンに異常発生。」

「何とかもたせて。ルリちゃん。」

「はい、このまま降下すれば、ナデシコは南太平洋に降下します。」

「降下終了と同時にエンジン停止。補助に切り替え緊急着水します。」

不安定な姿勢のまま、ナデシコは地球に降下していく。



コトシロは砲撃によるダメージ、摩擦熱によって二つに分かれた後も細かく分解していき、破片は大気圏で燃え尽きたが、

前部は大西洋に、後部は変わらずジャブローに墜落した。

予定通りではなかったが、その巨大なエネルギーは津波を起こし、大量の塵を巻き上げ、厚い雲を作っていく。

だが、ネオ・ジオンによる地球への粛清はまだ始まったばかりであったことは、誰にもわからなかった・・・



    レウルーラ

「コトシロ落としは50パーセント成功したわ。」

「・・・ナデシコは最後まで抵抗したのね。」

「ええ、大気圏突入と同時に艦砲射撃を二回。さすがはナデシコといったところね。」

「レミー、みんなは?」

「休んでいるわ、さすがに疲れてたみたい。」

「そう・・・もう一つの弾丸は?」

「すでに準備させてるわ。連合も一枚岩じゃないから、あそこの防衛部隊の一部が極秘で行ってる。後は「推力」を届けるだけよ。」

「またく、古いものは大変ね・・・ん?」

ピーピーピー 通信がきて、モニターに顔が映る。

「コトシロは落ちたようだな、ダイクン。」

低い声・・・男のようだ。

「あそこから目を離させるという目的は達成したわ。あちらさんはもう終わりだと思ってるでしょうし。それと、支援に感謝します。」

「いや、礼はいらん。それよりも・・・」

「ボソンジャンプの独占。この戦争が終わった後はお好きにどうぞ。その時、地球は氷河期ですが。」

「わかってるならばいい、では。」

「ええ・・・草壁中将。」

通信が切れる。

「・・・俗物が!!」

セレスは珍しく悪態をついた。



次回予告

大気圏突入のダメージにより、ナデシコCは大きな傷を負ってしまった。ナデシコは進路をトリントンコアへと向ける。
そこに待っているのはかつての仲間、新しいナデシコ、そしてタカヤの新型機。彼は訓練のためコアに残り、再び宇宙へ向かうためナデシコは発進する。
しかしそこに忍び寄る影、アンデッド。
ナデシコを守るため、シンとタカヤは出撃する。だが、傷ついた二人の前に現れたもの、それは・・・現代に蘇る凶鳥の姿。
そして・・・グラディエーター、散る。


スーパーロボット大戦α 〜Future Story〜


第十三話「三たび舞う蒼き凶鳥 剣闘士の最期」

??「久し振りだな・・・タカヤ。」




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