「うぅ・・・負けた・・・」
泣きそうになってる龍亜。龍可が歩いてきて声をかける。
「負けただけで泣かないの、まったく・・・」
「な、泣いてなんか・・・」
といいつつも涙を拭う龍亜。素直じゃないな。
「途中詰めが甘かったな、シンクロ素材をちゃんと吟味していたらもっと粘れたかもしれないぞ。」
声をかけつつ近づいていく。
「・・・どういうこと?」「どういうことなの?」
二人とも疑問符。勉強は出来てもカードはまだまだみたいだな。
「スコープンを攻撃表示で出していればステープラーとシンクロしてパワー・ツールをだす。その後攻撃してモンスターが仮に全滅しても通常召喚が残ってるからDを召喚すればバインドの効果が生きただろ?残念ながらバインドを壊す手が無かったから俺はまだしばらく何も出来なかったさ。」
「なるほどな・・・」「そっか・・・」
まぁ普通なら攻守が高い方残すのが当然だからあながち間違ってたわけではない。状況次第だなそこらは。
「さて、そろそろ晩飯の時間だが二人とも普段何食べるんだ?」
「インスタントだったり頼んだり適当に作ったりかな・・・」
ふーむ、あまり栄養バランス偏った物は控えさせたいところだな。
「よし、今日は俺が料理を作るか。シチューでいいかな?」
「え、いいの?」「料理・・・できるの?」
「これでも一人暮らしみたいなものが長かったからな、それくらい簡単だ。」
そういって部屋に戻り料理に取り掛かろうとした時、視界にあるものが入った。
「龍可宛・・・二人とも、これは?」
二人に聞いてみるのが一番と判断し、聞く。
「あぁ、それはフォーチュンカップの招待状。知ってるでしょ?フォーチュンカップ。」
フォーチュンカップ・・・デュエル・オブ・フォーチュンカップのことか。優勝者はキングであるジャック・アトラスとデュエルができると言う。
「参加者に龍可が選ばれたのにさ、龍可出ないって言うんだぜー?」
「だって私興味無いもん。」
「これだよ、まったくー。」
まぁ、目立つのとか苦手そうな印象があるな。
「そうだ、何だったら蒼真出てみない?」
フォーチュンカップか・・・
「いや、いい。それよりも二人の家庭教師役が忙しいしな。」
本音だ、そして目立つのも嫌だ。だから出ない。
「ちぇー、つまんないのー。」
「そんなことより買出しに行くが何か買ってきて欲しい物はあるか?」
冷蔵庫の中には思ったより何も無かった。別にあるので間に合わせてもいいがそれじゃ味気無い。
「特には無いかなー、龍可はー?」
「私も特には・・・」
「そっか、じゃあちょっと行ってくる。すぐ帰ってくるから大人しく待っとけよー。」
そういってD・ホイールを走らせ街へ出かけていった。

「これと・・・あ、その人参も貰えるかな?お姉さん。」
ただいま買い物中。メニューは予告どおりシチューのつもり。
「まぁ、お姉さんだなんて?そんなこと言っておだてるんじゃないよ!」
「お姉さんはお姉さんでしょ?若く見えますけどねぇ。」
「まったく上手いんだからぁ!あ、これもおまけに付けてあげるよ!」
「いいんですか?ありがとうございます!」
とまぁこんな感じで色々頂いております。ありがたい限りですまったく。
さて、財布も軽くなってきて荷物も限界近くなってきたのでそろそろ帰るかな。
「・・・ん?」
もうすぐで着くというところで視界に赤いD・ホイールが入った。と思ったらマンションの方に突っ込んだ!?
「おいおい、どうなってるんだ!?」
状況は分からないがただ事じゃない、すぐさまD・ホイールを走らせ倒れた人の近くに止まる。
「大丈夫かあんた!おい!」
「・・・・・・」
くそっ、返事無しかよ!呼吸はしてるみたいだが・・・。
「「蒼真!」」
騒ぎを聞きつけたのか龍亜と龍可が出てきた。
「龍亜!龍可!すまないがこいつを部屋で休ませてくれないか!?」
「え、それ誰?」
龍亜のもっともな疑問。それに対し龍可が
「分かった、龍亜手伝って!」
迷うことなく快諾。ありがたい、一刻を争う状況だからな。
「龍亜、疑問はもっともだが今は黙認してくれ。急いでこの惨劇を片付けないと・・・」
目の前に広がるいろんな物の残骸とD・ホイール。しかも人が倒れてる。こんなところを誰かに見られては最悪即通報だ。
「わ、分かった!」
納得してくれたのか龍可と一緒に倒れてた奴を部屋に運び込む龍亜。
「さて、急いで片付けないとな・・・」
一番の不安要素、負傷者が片付いてもまだ残骸が残っている。どこから手を付けるかと考えていると
「おい、これはどうなってるんだ!?」
うお、人に見つかった!しかもあの人管理人じゃん!!どうする、俺?
逃げたら龍可と龍亜にも面倒が及ぶかもだし素直に話しても信じてくれる訳が無い!
「いきなり人が突っ込んできたんですよー。」
俺が逆の立場だったら信じる?絶対信じないわ!
何とかごまかさないと!
「いや、すみません。新しいD・ホイールのテストをしていたらぶつけてしまったもので・・・。」
「あんたがこれの原因か!どうしてくれるんだこんな滅茶苦茶にしてくれて!!」
「本当に申し訳ありません!こちらの片付けはもちろん私がしますし、壊した物の弁償もきちんとさせていただきます!」
「そんなの当たり前だよ!明日の朝までにちゃんとしておいてくれよ!」
そう言って管理人は去っていった、おお怖かった。
さて、片付けを始める前に龍亜と龍可に言っておかないとな、多分徹夜になるし・・・はぁ。
後、あの男の容態も気になるし確認しとかないとな。・・・というかあの二人晩飯もまだか!俺のせいだな!?すぐ作ってやるか。
「龍亜ー、龍可ー?」
部屋に入るとソファーに寝かせた男とそれを見守る龍可と龍亜。
「蒼真、この兄ちゃんって誰なの?それに何でああなってたの?」
「この人意識も無いしどうしたらいいの?」
当たり前の疑問がわいて不安そうな二人の頭を撫でて落ち着けながら話す。
「まぁこいつが誰かは分からん、それになんで事故を起こしたかも良く分からん・・・が、ほっとく訳にもいかないからな、もしこいつが悪人だったらまずいが・・・」
起きて早々部屋荒らされたりしたら困るな、やっぱ追い出すか?
「それは大丈夫よ、精霊たちがこの人は悪い人じゃないって言ってくれてる。」
「精霊?ああ、龍可は精霊と意思疎通できるんだっけ。」
前もって両親から教えてもらってた情報にあったな、両親ともにそれは気にしなくていいと言っていたが・・・
「・・・信じられない、やっぱり?」
すぐ返答できなかったからか、そんなことを言い出した龍可。
「いや、そんなこと無いさ。カードには無限に等しい可能性があるからな。精霊ぐらい居たって不思議じゃない。」
そう笑顔で返すと驚きと嬉しさと不思議の混ざった良く分からない表情になってくれた。可愛いね。
「蒼真は信じてくれるんだ、他の大人達は全然信じてくれないのに。」
双子だから一人が信用されなかったのが嫌だったのだろうか、認めてくれて嬉しいのだろう。龍亜が上機嫌で話しかけてきた。
「何、カードには可能性があるってだけさ。世界を変えるほどのな・・・。」
寂しさを感じさせるほどの言葉に二人がきょとんとした。いけないいけない、感情が出すぎたか。それにまだ片付けることがあることを忘れちゃいけない。
「さて、こいつが大丈夫ならまずは晩飯作りだ。予告どおりシチューでいくぞー。」
「待ってましたー!」
「龍亜、うるさいよ。」
騒いでくれて大いに結構。家庭とはかく楽しめるものなり、だ。
さて、調理の時間だ!と思ったが、割と時間がもったいないので二人にも手伝わせることにしました。
「でー、俺達何すればいいの?」
「シチューってどう作るの?」
「とりあえず俺の指示通りに動いてくれ。出来は初回だし下手でも全然良いぞ。」
二人の質問に答えながら用意を進める。
「肉は俺がやるから二人はまずジャガイモと人参の皮むきな。使い方は分かるだろ?」
といいつつ包丁とピューラーを差し出す。ちゃんと包丁は子供向けの小さいやつだ。
「大丈夫よ。」
「?これってどう使うんだ?」
龍可は理解してくれてるのにピューラーを見て疑問符を出す龍亜が残念すぎる。
「龍可、龍亜に教えてやってくれ・・・」
苦笑しながら肉を切り、軽く小麦粉をまぶし置いておく。
「分かったわ。龍亜、これはこうやって使うのよ。」
実演指導してくれている龍可。教えが良いせいか龍亜もすぐできるようになっていった。
そんなことしてる間にも俺はマッシュルームを切り、ブロッコリーを塩茹でする。
「皮剥き終わったなら龍亜は玉ねぎ、龍可は人参切ってくれないか?」
「はーい。」
「任せて。」
良い返事だ、キッチンは大分広く3人居ても問題なく動ける。二人が四苦八苦しながら切ってる内にジャガイモを切り終わり、水にさらしておく。
「二人とも大丈夫か?」
見てみると龍可は殆ど終わっているが龍亜は涙目になりながら頑張ってる。
「う、涙が・・・」
玉ねぎ切ってるとどうしてもなるなー、仕方の無いことだ。
「半分以上終わってるぞ龍亜、もう少しだ。」
声をかけ龍可のほうを見たときには人参は切り終わっていた。
「へぇ、さすがだな龍可。」
「ちゃんと鍛えてますから。」
笑いながら答える龍可。
「これは龍可は良いお嫁さんになりそうだな。」
こちらも笑いながら答える。
「なれるかな・・・」
えへへという擬音が聞こえそうなほど笑ってる龍可。
「なれるさ、龍可なら。」
撫でながら答えると満足したのか上機嫌で
「次は何?」
なんて言ってきた。積極的になってきてて良い傾向だな。
「いや、ここからは俺一人で大丈夫だから大人しく待っててな。」
「むぅ・・・分かった。」
もう少し何かしたかったのかちょっと不満げにリビングに向かう龍可。後は焼いて煮るだけだから残念だが複数居るとむしろ邪魔なんだ。
「き、切り終わった!」
辛そうな声と共に龍亜がガッツポーズしている。
「お、終わったか。」
見ると不恰好ながらもちゃんと切られている玉ねぎ達。
「うん、問題なしだ。後は休んでて良いぞ。」
「やったー、じゃあ待ってるねー!」
達成感に満ちた表情でリビングに向かう龍亜。双子でも驚くほど違うなぁ、やっぱり性別の壁が大きいかな?
などと考えつつ材料を炒め鍋に入れ、水とブイヨンを加え煮込んでいく。
煮込んでいる間にホワイトソース作り。薄力粉、バター、牛乳を混ぜ塩コショウで味を整え完成っと。
ソースとブロッコリーを混ぜ、シチュー完成!
「二人ともできたぞー。」
「待ってましたー!」
「いいにおーい。」
二人を呼び、シチューと簡単なサラダ、トーストを運ばせる。今回は急ぎ目なので品目少な目でございます。
「いっただっきまーす!」
「いただきまーす。」
「どうぞ、召し上がれ。」
二人とも食べ始めたのを確認して席を立つ。
「ん?どしたの?」
「食べないの?」
「いや、入り口の片付けがあるからな。時間かかりそうだから先寝てていいぞ。あ、食器はちゃんと水につけておいてくれ、洗っとくから。」
そういって部屋から出て行く。
「・・・あの人ご飯食べてないよね?」
「ん?帰ってきたら食べるでしょ、だからまだ結構残ってるし。」
「・・・ならいいんだけど。」

「さて、どう片付けるか・・・」
目の前には変わらぬ惨劇。気が滅入るなぁ・・・。
「とりあえずD・ホイールを中に片付けてしまうか。」
赤いD・ホイールを最上階まで運び戻ってくる。
「後は散らばった物だが・・・なんだこれ?」
良く分からない物がそこらへんどに散らばっている。
「もしかしてここゴミ置き場か何かだったのか・・・?だったらここに纏めて置けば問題ないかな。」
とりあえず遠い物から順番に持ってきて置くという行程を繰り返す。
「しかし・・・あいつは何者なんだ?」
考えるのはD・ホイールに乗ってここに突っ込んできた男の事。
「やっぱりあいつが不動遊星なのか・・・?」
だとしたら順調に物事が進んでいることになるが、順調すぎて不安になる。
第一奴が突っ込んできた理由が分からない。動きは分かっても理由が分からないのではな・・・。
「いや、話を自然に聞きだせるからむしろ好都合かな?」
などと考えていたら片付けはほぼ終わっていた。戻すだけで本当に良かったかな。

最後の一つを置き、部屋に戻るともう電気は消され暗くなっていた。
時計を確認すると既に12時を回っている、この時間なら皆寝ていて当然だな。
ソファーに寝る遊星は呼吸も落ち着き一晩もしたら普通に起きそうだ。
「さて、俺はどこで寝るかな・・・?」
ごたごたしていて部屋の確認を忘れていた。まぁ正直野宿も何回かしてたから部屋の中ならどこでも寝れる自信はある。
「適当に窓際借りるかな。」
窓際まで行き荷物の中からロングコートを取り出し被る。そんなに寒い訳ではないが何も無いと落ち着かないのは何でだろうな?
明日は遊星に事情を聞かないとな・・・人数増えたから料理も大変なことになるなぁ・・・。
まぁ起きてから考えよう、お休みなさい。




後書き

デュエル無しの平凡回です。デュエルしてない時ももちろんあります。
創作の中とはいえ彼らも生きてる人間。食事もあれば睡眠もある。
そこをちゃんと書きたいと思ったんですが難しいですね。

フォーチュンカップが始まったらデュエル三昧なのでそれまでは日常編?とでも言うべき物が続きます。
長すぎてくどくなってないかが心配ですねー。



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