夜明けの太陽と共に、荒れた大地に現れるガンメンの軍勢。
 ヨーコは静かに見つめる。これから戦うべき相手をしっかりと見定めるように……。

「来たわね」

 シートとペダルが添えられ、人が一人乗れるように改造されたバッタの上で、銃を構えるヨーコ。
 ヨーコが以前に大破させたジェットバイクと違い、スロットルの部分にはIFS用のコントロールパネルが備えられている。
 カミナやシモンと違い、ガンメンのないヨーコが自分の足にと、ラピスとリーロンに頼みこんで作ってもらった試作型のバイクバッタだ。
 バッタの上で仕切りに銃の調整をするヨーコを心配して、カミナが声を掛ける。

「ヨーコ、本当に大丈夫か?」
「心配しなくても大丈夫よ。少なくとも今の私は生身ならアンタ達より強いと思うわよ」
「でも、ヨーコ、相手はガンメンなんだよ!?」
「そのガンメン相手に生身で圧倒した人を私達は知ってるはずだけど?」
「うっ!?」

 シモンが言葉に詰まる。確かにそう言うとんでもない男がここにはいるのだ。
 でも、だからと言って、ヨーコにも同じようなことが出来るとは限らない。
 そう思い、止めようとしたシモンだったが……

「心配してくれてありがとう。
 でも、大丈夫……皆が預けてくれたこの銃と……そしてラピスが、アキトが託してくれたこの力がある限り私は負けない」
「そうだぞっ! シモンっ!! カミナ!!」

 ユーチャリスから飛び出してくる青い機体。巨大な銃身を頭に載せた重厚な機体。
 見たこともないそのガンメンから通信で声を掛けてきたのはダヤッカだった。

「ダヤッカっ!! そのガンメンは!?」
「ああ、これか? 以前に倒したガンメンから良さそうなパーツをかきあつめて、リーロンとラピスが組み上げてくれたんだよ。
 他にも何体か組み上げてる最中なんだが、これが一番早く組みあがったんでな」
「シモン、カミナっ!! 戦ってるのはあなた達だけじゃない……私達は皆で戦う為に村を出た、そうでしょ?」

 二人に向かってウインクをしながら、戦っているのは自分達だけじゃないと言うヨーコに、シモンとカミナは「やれやれ」と苦笑いを浮かべながら納得する。

「んじゃ、一丁、盛大に打ち上げてやろうか!! でっかい花火をよおっ!!!」





紅蓮と黒い王子 第21話「我が生涯、最大の一撃、受けてみるがいい!!!」
193作





「ぬうっ!!!」

 ――ガッ! ガキンッ!!
 グレンラガンの猛攻を辛うじて弾くビャコウ。

「チミルフさま――っ!!」

 ビャコウの背後からグレンラガン目掛けてその刀を振り下ろすエンキドゥ。
 グレンラガンは左手でドリルを盾状に展開してその刀を弾くと、目の前のビャコウ目掛けて蹴りを放ちエンキドゥごと弾き飛ばす。

「くっ!! まさか、我々二人を相手にここまでやるとは……」
「くそっ! カミナ、いつの間にここまで力をっ!!」
「テメエら程度の相手なら、アキトがいなくても俺達だけで十分だっ!! 一気に決めさせてもらうぜっ!!」

 輝きを放つグレンラガン。右手にエネルギーを集め、巨大なドリルを形成する。

「舐めるなっ!! 小僧どもが――っ!!」

 グレンラガン目掛けて三叉の矛を構え、高速で突撃するビャコウ。エンキドゥもその後に続く。
 迫る二体のガンメンに、その巨大なドリルを構え、正面から飛び込むグレンラガン。
 ぶつかり合う力と力。その衝撃と光が辺りを包み込んだ。



「これでも食らえっ!!」

 ダヤッカのダヤッカイザー(ダヤッカ命名)の砲撃が獣人達のガンメンを打ち抜く。
 初めて操縦したとは思えない程の動きで、迫るガンメン達を倒していくダヤッカ。
 だが、圧倒的な物量で迫るガンメン達に押され、背後を取られる。

「しま――っ!!」

 ――ドゴオオォォン!!!
 ダヤッカイザーに迫るガンメンに放たれる銃弾。的確にガンメンの動力部だけを撃抜いていく。

「ダヤッカ、油断しすぎよっ!」
「すまない、ヨーコ」

 バッタの背中に乗り、空中からガンメンを狙い打ちにするヨーコ。
 時折り放たれる敵の攻撃を、自身のIFSでバッタをコントロールすることで、軽やかに旋回してかわしていく。
 以前よりも正確無比な射撃が、ガンメンを襲う。
 そのライフルもナノマシンで強化されたヨーコ用に、常人では扱えない出力まで威力が調整されたものだった。
 対戦車、もとい対ガンメン用ライフルを軽々と振るいながら敵を狙い撃つ。

「私達は負けないっ! アキトの分までもっ!!」



「アディーネ様、このままでは……チミルフ様も押されているようです」
「わかってるよっ! チッ!! あの黒い機体さえ出てこなければ何とかなると踏んだんだが……思ったよりも人間達もやるようだね」

 ブラックサレナを倒したことで、戦況は一気にこちらに傾くと読んでいたアディーネだったが、その考えは悪い方に裏切られていた。
 グアームとの戦いでアキトだけでなく、カミナ達の力も数段増していた。
 常に死線を……絶望的なまでの戦力差での戦いを乗り越えてきたのだ。
 彼らは決して弱くなどない。認識を改めなくてはいけない……アディーネだけでなく、そこにいる獣人達は全て同じ考えを持っていた。

「私もセイルーンで出るよ!! 残弾は気にせず、どんどん撃ち込んでやりなっ!!」

 ここまで来たら作戦も何もない。数ではこちらが圧倒的に勝っているのだ。
 ならば、真っ向から叩き潰すのみ。

「四天王が二人で出張ってるんだっ!! 負けは許されないよっ!!!」

 ダイガンカイから高速で戦場に飛び立つセイルーン。優美な翼を広げ、人間達を狩り取る為にその毒牙を向ける。
 アキトとサレナを除く面々が、この荒れ果てた大地で、命がけの死闘を繰り広げていた。






「アキトは優しすぎるよ――」

 それは、失われた過去。
 青い髪の女性――かつてのアキトの妻、ユリカがアキトのことを心配そうに見つめる。

「みんなの為に戦って、みんなの為に傷ついて、それでアキトは本当に幸せになれるの?」

 ――もっと自分の為に頑張ったっていいんだよ?

 ユリカの言葉がアキトの心に響く。
 傷つき、重症を負い死に掛けたとしても、立ち上がれる限りアキトは戦場へと戻る。

「これが俺の為なんだ……ユリカ」

 本当の彼女に会うことは二度とないだろう……異世界に迷い込む以前からそれは決めていたことだ。
 復讐を遂げる為、妻を助ける為とは言え、多くの人を巻き込み犠牲にし過ぎた。
 許されるとは自分も思ってはいない。だが、それでも彼女に一言謝りたかったのは確かだ。
 だが、その一言を俺が口にすることは二度とないだろう。だから――

「俺に許されるのは幸福ではない……果てしない憎しみの果てにある贖罪だけだよ」

 アキトの言葉に、悲しそうな表情を浮かべながら霧の中に姿を消すユリカ。
 周りがどれだけ彼の幸せを望んでもそれは叶うことがない。
 白く染まる世界――。
 目を覚ましたアキトが目にしたのは、医務室の白い天井と、僅かに臭う薬品のアルコールの臭いだった。



 ――カツカツカツ。
 格納庫にアキトの足音が響く。戦闘に入り、響く轟音と振動。
 外ではカミナが、シモンが、ヨーコが、ダヤッカが、皆が戦っているのがわかる。
 未だ回復し切っていない身体に鞭を打ち、アキトはブラックサレナへと向かう。再び剣を手に、戦場へと向かうために。
 だが、そんな行動を予測して待ち構えていたのは、サレナだった。

「……そんな身体でもやはり行くんですね」
「俺だけが寝ているわけにはいかない。これは俺の戦いでもあるんだから」
「皆が、それを望んでいないとしても……アキトは戦場にでるんでしょうね」
「……すまない」
「わかっていたことですから、だから私は止めません。私に出来ることはアキトを助け、アキトの剣になることだけ」

 ブラックサレナに融合するサレナ。徐々に形状を変化していくブラックサレナ。
 そんな、ブラックサレナの中から、サレナはアキトに向けて言葉を続ける。

「アキトが戦い続ける限り、私はアキトの剣になって共に歩み続けます。
 でも、忘れないで下さい。あなたがどれだけ無茶をしても、傷ついたら悲しむ人も、心配する人もいると言うことを……」

 どんな言葉でも今のアキトを止めることは出来ないだろう。それをサレナはわかっていた。
 だからこそ、戦うなとは言えない。でも、知って欲しかった、わかって欲しかった。

「……ありがとう、サレナ」

 あなたは決して一人ではない。想ってくれる人たちが、こんなに沢山いるということを……。






「ガハ――ッ!!」
「チミルフ様、大丈夫ですか!?」

 グレンラガンのギガドリルブレイクを掠め、右腕をもっていかれたビャコウにエンキドゥが寄り添う。

「掠り傷だっ! ヴィラルっ!! ワシにかまわず、何としても奴を倒せっ!!」
「ハッ!! この命に代えても……」

 傷ついたビャコウを部下に預け、再び戦場に向かうヴィラル。

「くっ……、予想以上だったというわけか……まさか、異邦人だけでなく、人間どもがここまでやるとはの」

 ――ブウゥゥ――ン。
 そんなチミルフの前方に現れるボソン粒子。空間の歪みから現れたのは先日の黒い機体……ブラックサレナだった。

「クク……やはり現れたかっ! 異邦の戦士っ!!」

 無事な左腕で三叉の矛を構え、臨戦態勢を取るチミルフ。
 本来なら絶望的とも取れる状態なのに、チミルフの表情には恐れはなかった。
 むしろ、アキトが生きていたことに、そして再び剣を合わせられる事に喜びを感じてさえいた。

「そんな機体で、俺と戦うつもりか?」
「笑止っ!! 貴様こそ、アディーネに受けた傷が完治していないのではないか? なら、五分と五分……武人に情けなど不要だ」
「フ……そうだったな。戦場に立っている以上、覚悟の出来ていない者など、この場に誰一人いない」

 アキトも敵ながら、この獣人のことは認めていた。
 先日のグアームとは違い、正面からまっすぐ向かってくるその実力と気概は、嫌いな物ではない。
 むしろ、好感すら持てていた。敵でなければ、よい友人になれたかもしれない……。
 そんな思いすら抱かせる。

「異邦人、名を聞いていなかったな……ワシの名はチミルフ。貴様の名は……?」
「……俺はアキト。テンカワアキトだ」
「アキトか……ならば、アキトっ!! 我が生涯、最大の一撃、受けてみるがいい!!!

 ビャコウが白銀の光をまとい、チミルフの気合に呼応するかのように爆発的なエネルギーを巻き上げる。

「チミルフ様っ!!」

 ビャコウに寄り添っていた周囲の部下達が、チミルフの事を心配して近寄ろうとするが、チミルフはそれを制止する。

「お前達は、ヴィラルの下へ行けっ!! 漢と漢の戦いに水を注すな。これはワシと奴の戦いだっ!!!」

 そんなチミルフの事を知っている部下達は、その身を心配しながらも頷き、ブラックサレナの横を素通りして、ヴィラルの下へと向かう。

「良いのか? ア奴らを見過ごして……」
「構わんさ……仲間を信じているからな」

 そう言い、右のアーマーの形状を変化させ、巨大なドリルを形成するブラックサレナ。

「一撃で――」
「――決めるっ!!」

 ブラックサレナの周りに巻き起こる青白い光、それを合図にビャコウとブラックサレナが互いに飛び出す。

 ――ドオオオオオォォォン!!!!
 ぶつかり合う二体の衝撃。チミルフの命を掛けた特攻が、ブラックサレナのディストーションフィールドすら貫こうと、その矛を徐々に沈めていく。

挿絵「ガアアアアアァァァァ!! 貫けええええぇぇ――――っ!!!」

 鉄壁の防御であるはずのブラックサレナのディストーションフィールドを貫き、ビャコウの矛がブラックサレナの左肩を撃ち抜く。
 だが、片側の装甲を吹き飛ばされながらも、アキトはブラックサレナの右腕をビャコウに向けると、そのドリルで矛ごとビャコウの身体を上下にに引き裂いた。

「ぐは――っ!!」

 ブラックサレナに身体の大半を吹き飛ばされ、転倒するビャコウ。
 爆発しないで、未だ原型を留めているのが不思議な状態のビャコウの中で、チミルフは満足気な笑みを浮かべていた。

「さすがだな、アキト……ワシの負けだ……止めをさせ」

 ブラックサレナのライフルをチミルフに向けるアキト。

「……チミルフ、一つ聞いてもいいか? 何故、お前達は人間を襲う、地下に閉じ込めておこうとする理由は何だ?」
「それが螺旋王の望みだからだ……我々は螺旋王にその為に作られた、だから戦う……そこに理由などない」
「お前達獣人は、何も知らされず戦っていると言うのか? それで納得できていると?」
「造物主に逆らう子供などいやせんよ……我々は螺旋王が望まれるのであれば、どんなことでも迷わず実行する。
 そうする為に生まれてきたのだからな……」

 この戦いの意味は何なのか? アキトはずっとその事に疑問を持っていた。
 地上に出てきた人間を狩る獣人達。そんな獣人に怯え、密やかに暮らす人間達。
 だが、お互いに憎しみあう理由はどこにあるのだろう? この戦いの成す根本的な理由が未だ見えてこない。
 人間達の中にも、残虐なことを平気でする者もいれば、獣人達の中にもチミルフのように情に厚く、仲間を想い戦う武人のような漢もいる。
 やっていることだけを見れば、この戦いは獣人達の方が一方的に理不尽な戦いを引き起こしていることに間違いはない。
 ならば、この戦争を裏で操っている奴は何を考え、何故、こんな戦いを引き起こしているのか?
 螺旋王――。獣人達の王として、この世界に君臨する支配者。
 獣人達も知らされず、この戦いを引き起こしているのが螺旋王だと言うのなら……会って本人に問いただすしかない。

「チミルフ……どうせ死ぬなら、その前に、この世界の真実を知ってみたいとは思わないか?」

 それはアキトにとっては初めての誘いだった。
 戦ってみてわかること、チミルフは戦士だ。この場で死ぬことを少しも悔やみはしないだろう。
 だが、その前にこれほどの漢がこの場でその流れに利用され、死んでいくことをアキトは心のどこかで惜しく感じていた。

「ワシに、螺旋王を仲間を裏切れと言うのかっ!!」

 チミルフの怒気が膨らむ。だが、アキトは言葉を続ける。

「そうだ……俺はお前に生き恥を晒せと言っている」
「ふざけるなっ!! アキト、いくら貴様でもそれ以上の暴言は許さんぞっ!!」
「何と言おうと俺はお前を殺さない……いや、殺せない」
「くっ!! 貴様を武人と思っていたワシの目が曇っていただけか……」
「ああ、俺はお前が言うように武人じゃない……ただの人殺しだ……」

 悲しそうにそう言うアキトの言葉にチミルフの表情が曇る。

「何故だ? 自分のことを人殺しと言ったり、ワシの事を殺さないといったり、貴様の言っていることは矛盾だらけだ……」

 ――それに、何故、敵である獣人のワシに向かって、そんな悲しそうな表情で語りかける。

 先程まで、鬼神のような力を奮っていた男とは思えないほど、弱く儚げに目の前の男がチミルフの目には映っていた。
 これでは、どちらが勝者で、どちらが敗者かわからない。

「俺に下れと言っている訳じゃない、お前はお前の思うようにすればいい……ただ、螺旋王の言いなりになる駒ではなく。
 そしてその結果、再び螺旋王につき、俺を殺そうとしようが、それはお前の自由だ」
「……そんな、馬鹿な話があるか。それでは、何も貴様に利点などないではないか……」
「あるさ……俺は俺のエゴで、こんな形でお前に死んで欲しくない。だから殺さないと決めた」

 そう、それはアキトの自己満足。
 ラピスを、仲間を傷つける者にアキトは容赦しない。だが、仲間を想う気持ちはチミルフとて変わらない。
 今は無理でも、或いはチミルフのような男ならば、種族を越えて分かり合える日が来るかもしれない。
 アキトは本気でそう考えていた。

「……敵であるワシを信じると言うのか?」
「……さあな。だが、お前は仲間を決して裏切れない……そして、見過ごすことも出来ない。
 それに、このままお前達は人間と獣人、どちらかが滅び去るまで戦うつもりか? それが本当にチミルフ……お前の望みか?」

 チミルフは生まれて初めて、本気で考えさせられていた。螺旋王の言うがままに確かに戦ってきたが、その意味までは考えることすらなかった。
 疑問を感じたことは確かにあった。だが、螺旋王の言うことに……造物主の言葉に耳を疑うはずもない。
 だが……ならば、死んでいった部下達は? 彼らの戦った意味は何なのだ?
 螺旋王に作られたとは言え、自分達には感情も、考える力もある。
 ただ、言うことを聞けばいい存在ならば、感情など持たせず、人形を作ればいいだけだ。
 だが、螺旋王はそうはしなかった。獣人達に感情を与え、命を与えた。

「――チミルフっ!!!」

 ビャコウを庇うかの様に空から舞い降り、ブラックサレナにその羽から出した棘のようなミサイルで、攻撃を仕掛けるセイルーン。
 アキトはその攻撃をかわすと、ビャコウとセイルーンから距離を取る。

「大丈夫かいっ! チミルフ!!」
「……まさか、アディーネ、お前に助けられるとはの……」
「アンタにはまだ貸しが一杯あるからね。ここで死んでもらったら困るんだよ……」

 構えを取り、ブラックサレナの方を牽制するセイルーン。
 だが、チミルフは首をただ横に振り、そんなアディーネを止める。

「無駄だ……アディーネ。ワシらではこいつに勝てん」
「はあ? なんだい、やられて臆病風にでも吹かれたかい?」
「そうではない……戦う理由……ワシらが奴らに勝てないのは、そこに大きな差があるからだと、気付かされたのだ」
「戦う理由? ハッ! それならあるじゃないかっ!! 螺旋王の望みを叶えるのが私らの役目っ!! それ以上に何が必要だって言うのさっ!!」

 セイルーンから放たれた無数の弾がブラックサレナを襲う。

「やったかっ!!」

 だが、爆風の中から渦を巻き上げるように現れるブラックサレナ。
 アディーネは咄嗟にビャコウを抱えセイルーンで空に逃げようとするが、そんな行動を予測してたかのように、空に目掛けてブラックサレナのライフルが放たれる。
 左右両翼の翼を撃ち抜かれ、落下するセイルーン。

「くは――っ!!」

 ――カチャッ!
 地面に這い蹲るセイルーンにライフルを構えるブラックサレナ。

「(――殺られるっ!!!)」

 咄嗟に自分の死を覚悟して目を瞑るアディーネ。しかし、いつまでたってもその引き金が引かれることはなかった。






「――クソっ!! 何なんだよ、アイツはっ!!!」

 情けを掛けられた。手加減されただけでなく、見逃されたことに悔しさと怒りがこみ上がり、その場で悪態をつくアディーネ。
 その後の戦いは圧倒的だった。チミルフとアディーネのいなくなった部隊は蜘蛛の巣を散らすように散りじりとなり、統制も取れない状態のまま敗退した。
 完全な敗北。たった二人の異邦人と、人間達に、四天王であるはずの自分達が二人で敗北したのだ。
 これでは、螺旋王に顔向けなど出来るはずがない。

「チミルフ様……」

 ダイガンザンの艦橋で、その機体を半壊させながらも辛うじて帰還したヴィラルとその部下達がチミルフに深々と頭を下げる。
 チミルフが囮になって自分達を行かせたというのに、ユーチャリスはおろか、グレンラガンすら倒せなかったことに、ヴィラル達はチミルフへの申し訳なさと、期待に応えられなかったことの悔しさに、ただ、頭を下げる他なかった。

「構わん……この敗けはヴィラル、お前達だけのせいではない……」

 アキトの言っていた言葉がチミルフの頭をよぎる。
 螺旋王の言う言葉に、ただ、疑問をもたず忠実に従い戦う。そこに自分達の意思は存在するのか?
 一度、生まれた疑念を振り払い、螺旋王の意に従ったまま、再び戦えるのか?
 チミルフは一つの決意をする。

「アディーネ、ヴィラル……そして皆に話がある」

 それはチミルフにとっても、獣人達にとっても、螺旋王のシナリオに沿わない初めての選択だった。





 ……TO BE CONTINUED









 あとがき

 193です。
 原作とは違い、キタン達の合流はもう少し後です。
 そして、本来ならここで死ぬはずだったカミナとチミルフ。
 両者が死なないまま生き残り、一部のラストはその最後を思わぬ方向へと向かおうとしています。
 チミルフが決意したこととは一体?

 次回は、テッペリン――その頂上に君臨し、獣人達を統べる王――ロージェノム。彼は何を考え、何を思い、何を人類に求めるのか?
 紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。




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