「……全く、怪我してるんだから、大人しく寝てなさいっ!!」

 怪我が完治していない身体で、ブラックサレナで出撃したことをヨーコに咎められ、アキトは自室のベッドに括り付けられていた。
 ご丁寧にも看護兼、監視役として、女性達が交代で付いている徹底振りだ。
 アキトを連れ出したサレナも、今回の件で女性達から叱責を受け、アキトの看病から外されていた。

「サレナはアキトに言われたら断れないからダメ」

 確かにアキトの頼みとなれば、断れる自信がない。サレナは反論することも出来ず、アキトの身体の為だと自分に言い聞かせ、その場を大人しく後にした。
 そんなアキトは今もベッドに括り付けられ、監視役兼世話係として、今はキヤルが付いている。
 その横ではアキトの身体を心配して、自分も看病をすると付いてきたダリーがいた。

「キヤル、ダリー、看病してくれるのは嬉しいんだが……いい加減、この縄を解いてくれないか?」
「ダメ。アキトは放っておくと、無茶ばかりするから」
「ううぅ……アキトはダリーが看病するのっ!!」
「うっ!!」

 キヤルがアキトの汗を拭こうとタオルを持つと、ダリーがそれを自分にやらせろと主張する。
 こんな繰り返しが、小一時間繰り返されていた。
 アキト自身は、キヤルが自分に好意を持ってくれている事は少しは気がついてはいたが、ダリーに関しては思い当たる節がない。
 それに、アキトは気付いてないが、度々、心配して見に着てくれるのがユーチャリスの女性クルーが大半だったりする。

「ダリー、どうしてそんなにアキトの事を気に入ったんだ?」

 キヤルの質問に、ダリーは小首を傾げながらも何かを思い至ると、笑顔全開でその質問に答えた。

「アキトはヒーローみたいだったからっ!!
 ギミーも言ってたよ、アキトは私達を守ってくれる正義の味方なんだってっ!!」

 正義の味方――。
 テロリスト、亡霊や悪魔などと恐れられた自分が、子供達にそんな目で見られていたことに驚きを隠せないアキト。
 キヤルもそんなアキトの気持ちを察して、思わず苦笑がもれる。

「アキトは私達を守ってくれる……だから、私もアキトを看病したいのっ!!」

 純粋なダリーの想いに中てられ、その場は温かな空気で満たされていた。





紅蓮と黒い王子 第22話「ここからは俺様が主役だっ!!!」
193作





 ユーチャリスの格納庫、そこでは整備班の面々が忙しそうにリーロンの指揮の下、グレンラガンやブラックサレナの修理が進められていた。

「う〜ん……これは、装甲も補修するよりも一層、全部取り替えた方が早いかしら?」

 ブラックサレナの剥離した装甲を見て、リーロンは溜め息をつく。
 敵の大将二人と出撃したアキトがブラックサレナで応戦したのは知っていたが、この傷ついたブラックサレナを見ると、その戦いの激しさが整備をしている人間にも伝わってくるようだった。

「ロン、これはここでいいのか?」
「ええ、でもこのままじゃ人手が足りないわね。誰か、カミナでもシモンでもいいから呼んできてくれない?
 戦いで疲れてるのは分かるけど、このままじゃ次の戦闘があった時にまずいわよ」

 ダヤッカの声がダヤッカイザーから格納庫に響く。
 外に廃棄されたガンメンから使えそうなパーツを剥ぎ取って、補給物資として運ぶのが今のダヤッカの仕事だった。
 使える物は何でも使う。そうしなければ、この敵だらけの場所で自分達に生き残るすべはない。
 それを彼らは言われなくても、理解していた。
 そして、こう言う時に一番戦力として期待できるアキトは現在、女性達の監視の元、部屋から動けない。
 リーロンにしてもアキトが普段、無茶しているのはよく知っていたし、特に何も言うつもりはなかった。
 となると、矛先が向かってくるのは当然、貧乏くじを引いた男性達と言うことになってくる。

「まあ、でも……無茶しているのはここにも一人いたか」

 リーロンの見る先には、傷ついたブラックサレナの整備をするサレナの姿があった。
 彼女もあれから一睡もせずに機体の整備に掛かりきりだ。いくら普通の人間とは違うとは言っても、あの戦闘の後だ。
 無茶をするにも程がある。
 それだけ、アキトのことを思っての行動なのだろうが……

「サレナ、一息休憩入れて、アキトの様子でも見て着たらどう?」
「え? でも、まだ機体の整備が終わってませんし……」
「そんなのはこいつらに任せておけば大丈夫よ。さあ、あんた達、もっとキビキビ動きなさいっ!! あと二十四時間は寝れないわよ?」
「「「「ひえええぇぇぇ!!」」」」

 整備班の悲痛な叫びが格納庫に木霊す。
 サレナにしても、普通に休憩するように言って聞かないことはリーロンにも分かっていたし、アキトをだしにするようで悪いが、サレナにも休んで欲しいと言うのが、リーロンだけでなくここの皆の願いだった。
 サレナとキヤルは、ブラックサレナの整備などで格納庫によく訪れる。
 普段は男ばかりのこの場所に、若い女の子が来ていると言う事もあって、二人の少女はちょっとした整備班の男連中のアイドルのような存在となっていた。
 故に、そんな二人の心が誰に向いているかを知っている男達にとっては、アキトは密かに嫉妬の対象になっていたりする。
 もっとも、だからと言って仕事に手を抜かないのがここの流儀だ。
 アキトにカミナにシモン、彼等は戦場で自分達を守る為に戦ってくれている。
 それを後ろから支えるのが自分達の役目ならば、ここは整備班である彼等にとって、戦場であると言える。
 アキト達が全力で戦えるようにするのが自分達の使命だと、彼等は自覚していた。

「では、よろしくお願いします……」

 若干、納得がいかない様子でも、リーロンや整備班の男達に促され、その好意に甘えてアキトの下に向かうサレナ。

「アキト……やはり、ここは温かい場所ですね……あなたにも、もっとその事に気がついて欲しい」

 いや、気付いているのだろうが、アキトはその事に目を背けている節がある。
 どれだけ皆を信頼していても、最後の一線でアキトは身を引いているのがサレナには分かっていた。
 それは、アキト自身が克服することだと分かってはいいても、サレナは何も出来ない自分に歯痒さを感じていた。






 場所は変わり、ここは螺旋の大地のある場所……。

「キッド、そっちにいったぞっ!!」
「任せろ!! くらいやがれ――っ!!」

 猿のような姿をしたガンメンと、緑色のまるでカメレオンのような姿をしたガンメンが、獣人の乗るガンメンを追い詰める。
 彼等はこの辺りの大地で最近売り出し中のレジスタンス、コイーガ村のキッド&アイラック≠ニ言う二人組みのガンメン乗りだ。
 猿のようなガンメン、通称キッドナックル≠ェそのトリッキーな動きで獣人のガンメン、アガーを追い詰める。
 両腕から放たれた弾丸で、左右の足を打ち抜かれるアガー。すかさず、アイラックの砲撃が動きの止まった敵の機関部を撃ち抜く。

「へっ! どんなもんでえ!!」
「……!? いや、まだだ、キッド……」

 二人を取り囲むように現れた十数体のガンメン。
 先程と同じ、量産型のガンメン、アガーと隊長機と思しき機体、ゴネーの姿がそこにあった。

「テメエらだなっ! この辺りで暴れまわってるって人間はっ!?」
「へっ! だったら、どうだって言うんだよっ!!」
「知れたこと、地上にいる人間には死んでもらうっ!!」

 その獣人の合図で、包囲網を徐々に狭める獣人達。
 キッドとアイラックも、それなりに名の知れた腕を持つガンメン乗りではあったが、これだけの数のガンメンを相手に戦うには状況が不味過ぎた。
 すでにここまでの旅で、弾薬もかなりの数を消耗しており、先程のガンメンとの戦いも入れれば連戦だ。
 さすがの二人にもその威勢のよさとは裏腹に焦りが生まれる。

「まずいな……罠にかけられたか……」
「くっ、だからってここで後にはひけねえよ!!」

 そう、二人には引くに引けない理由があった。
 コイーガ村を襲った獣人達の襲撃。それにより、村人の大半は命を失った。
 それ故に、残った村人を守る為に、その仇を討つ為に二人で立ち上がったのだ。敵のガンメンを奪って……。
 最近、耳にした噂で、グレン団と呼ばれる人間の集団が、数多くの獣人を倒しながら奴らのアジトに向かっていると聞いた。
 少し前にも三千ものガンメンを退け、四天王の一角を崩したと聞く。
 それならばと、仲間に加えて貰う為に、自分達の目的を果たす為に旅を続けているのだ。
 だからこそ、こんなところで引くわけには行かない。
 奴らをこの地上から放り出す為には――

「こんなところで、躓いてられるかよっ!!」
「――!? キッドっ!!」

 アガーに攻撃を仕掛ける為、前に出るキッドナックル。だが、その隙を突いて、周囲のガンメンが一斉にキッドに襲い掛かる。
 アイラックがキッドを助けようと、砲撃を放とうとするが間に合わない。

「くそっ!!」

 ――ドゴオオオォォォン!!!
 防御も間に合わない。キッドがそう思った瞬間、もの凄い轟音を上げながら空中より眩い金色の光を放つガンメンが飛来し、キッドの周囲に群がっていたガンメンを一斉に吹き飛ばした。

「大丈夫か? そこのガンメン乗り」
「な、何もんだっ! テメエ!?」

 先端が角のように鋭利にとがった、凶暴な姿をしたガンメン。
 だが、その姿に偽りはなく、一瞬で数体のガンメンを破壊したその実力にキッドとアイラックも息を呑む。

「俺か……俺様は……獣人ハンター黒の兄妹≠フリーダー、キタン様だっ!!」
「黒の……」
「兄妹……」
「フ……驚いて声もでないか」
「「いや、全く知らない」」
「なんでだよっ!?」

 キタンの登場のセリフに、容赦ないボケと突っ込みを入れるキッドとアイラック。
 そんな自分達を無視された状況に痺れを切らした獣人達が怒りをあらわにする。

「人間の分際で、俺達を無視するんじゃねえよっ!!」
「へ、たかが獣人が人間様に偉そうな口を聞くんじゃねえよ」
「な、なんだとっ!?」
「俺を誰だと思ってやがる!? あのキタン様だぜっ!! カミナだけに良い格好はさせねえ、ここからは俺様が主役だっ!!!」

 親指を下に向け、残った獣人達を挑発するキタン。
 それに我慢の限界が来た獣人達は一斉にキタンへと襲い掛かる。

「冥土の土産だ、このキタン様とキングキタンの力をその目に焼き付けていきやがれっ!!」

 眩い金色の光を放ち、その形状をより鋭利な物へと変化させるキングキタン。
 迫る獣人達目掛けて、その角で物凄い突撃を放つ。

挿絵「キングスティンガァァァァ――っ!!!」

 巨大な金色の槍となって、次々にアガーを貫くキングキタン。

「そ、そんな馬鹿なっ!?」
「最後はテメエだっ!!」

 そのまま空中に飛び上がり、獣人達の隊長機ゴネー目掛けて突進するキタン。

「脳天っ!! 地獄裂き――っ!!」
「うがああぁぁ――っ!!!」

 最後の断末魔を上げ、左右に真っ二つに引き裂かれ、爆散するゴネー。
 それを後方から見ていた、キッドとアイラックにも思わず感嘆の声が上がる。

『キタン、終わったのかい?』
「ああ、こっちは無事片付いたぜ」

 キングキタンに通信で呼びかけてくる女性の声。
 すると、キングキタンの後方から、数体のガンメンと大勢の人々が姿を現した。

「お前達は、一体?」

 アイラックが突然現れた軍勢の前に、自分達を助けてくれた人物が一体何者なのか質問する。

「ああ、俺達か……俺達は……」
「「「「グレン団(候補)だっ!!!」」」」

 一斉に答えるキタンとその仲間達。
 カミナの知らないところでも、グレン団の影響力は大きくなってきていた。






 そしてここは王都テッペリン。
 四天王である、チミルフとアディーネ対アキト達の戦いから十日余りの時が過ぎていた。
 すでに王都にはチミルフとアディーネの敗戦の報告は伝わっており、その場には重苦しい雰囲気が立ち込めていた。

「困ります、チミルフ様っ!! 螺旋王との謁見のお取次ぎも成しに、いきなり来られても……」

 突然、帰還したチミルフとアディーネが周囲の獣人達を押しのけ、螺旋王の謁見の間へと進む。
 そして、開き放たれる巨大な扉。
 チミルフの豪腕でその謁見の前へと続く、重厚な扉がギシギシと音を出しながら開いていく。

「何事だ? 騒がしい」
「はっ! そ、それが……」

 報告に上がった獣人の後ろには、すでにチミルフの姿があり、そのすぐ後ろにアディーネも控えていた。

「ひ――っ!!」

 報告に上がった獣人に恐怖の色が浮かぶが、ロージェノムはそれを察するとその獣人を下がらせる。

「よい、お前は下がれ」
「は、はいっ!! 失礼します!!!」

 慌てながらも丁寧に頭を下げ、その場を後にする部下の獣人。
 立ち去ったことを確認すると、ロージェノムはチミルフとアディーネを睨み付けその威圧を高める。

「随分と派手にやられた様子だな。四天王が二人も揃って……
 そして、これは何だ? まさか、失態に対しての嘆願でもしに来たのか?」

 あまりのロージェノムの物言いに歯軋りをするアディーネ。だが、ここはロージェノムの御前。
 その怒りを悟られまいと口を紡ぎ、気を落ち着かせる。

「螺旋王、あなたにお聞きしたことがあり、ここに参上しました」

 敬服し、いつもよりも丁寧な口調で話すチミルフにロージェノムの眉が上がる。

「ほう……よい許す。聞きたいこととは何だ?」
「ありがとうございます」

 許しを貰い、膝を立ち、真っ直ぐにロージェノムを見るチミルフ。
 その重苦しい空気にアディーネの額にも冷ややかな汗が流れる。

「では、お聞きしたい。螺旋王、人間とは何なのですか?」
「……ほう? チミルフよ、それを本当に知りたいのか?」

 チミルフが意外な質問をしてきた事に、ロージェノムに関心がよぎる。

「ワシにはどうしても、螺旋王の言うように人間が取るに足らない存在とは思えない……。
 彼等は強い。それに、逆境に立たされるほどその力は強くなる」

 アキトだけではない、あの白い艦に乗る者たちは、その覚悟も力も自分達以上に強い物だった。
 チミルフは、螺旋王だけが知るその何かを直接本人の口から聞きたいと思っていた。
 アキトの言葉に踊らされたからではない。実際に戦ってみて、人間達に、自分達の存在のあり方に疑問を感じたからだ。

「よかろう、ならば着いてくるが良い」

 そう言うロージェノムに案内され、謁見の間の奥に導かれるチミルフとアディーネ。
 するとそこには数多くの水槽が並んでおり、その中には自分達と同じ獣人と思しき者の姿が見受けられる。

「こいつは……」
「チミルフ、アディーネ、獣人とは不完全な生き物よの」
「……は?」

 中央の開けた場所にでると、突然、口を開くロージェノム。

「獣人は、人間以上の強靭な力と身体を持つ代わりに、その身体を維持するために定期的な睡眠を要求される。
 そうしなければすぐに細胞が壊死し、死に至るからだ」
「それは、螺旋王、あなたがそう作ったからではないのですか?」

 そう、自分達はロージェノムの手により作られた。それは、分かり切っている事だ。

「そう、そう作ったのだ。この螺旋王が……」

 ロージェノムの手に現れる、赤いコアドリルの姿。
 眩い光を放ち、チミルフとアディーネを威圧するかのようにその身を照らす。

「だからこそ、覚悟があるのならば見せてやろう。この世界の真実を……人間と言うものが何なのかを」

 螺旋王によって語られる真実。
 それは、二人にとっても、これからの運命を左右する思いがけぬ出来事となった。





 ……TO BE CONTINUED









 あとがき

 193です。
 二部の後編でヴィラルに語った螺旋王の真実。
 だが、それは時を少し変え、ここで四天王である二人に語られます。
 キタン達も水面下で、カミナ達と別行動をし、勢力を拡大している様子。
 テッペリンとの決戦は? 螺旋王との戦いはどうなるのか?
 
 次回は、遂に語られた螺旋王の真の目的。そして、それに対してチミルフ、アディーネが出した答えとは……?
 紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。




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