大陸についてから二十日、大グレン団は王都テッペリンに向けて進攻を続けていた。
ここまで多少の小競り合いはあったが、それでも敵の本拠地とは思えないほど小さな抵抗であった為、大した損害も被っていない。
だが、逆にその静けさが不気味ですらあった。
「おそらく、ここだろう……テッペリンに向かうためにはこの山岳部を越えて行く必要がある。
ここまで抵抗が少なかったのも戦力を温存しての事と思う」
チミルフの示唆した通り、シトマンドラはテッペリンから三百キロ離れたところに兵力を集中させていた。
山に囲まれ盆地になっているそこは、基地を隠すには最適であると共に囲まれた山々が自然の要塞となっていた。
シトマンドラの得意な戦法は、航空戦力を使った空中からの一方的な爆撃攻撃による徹底的殲滅だった。
だが、彼もバカではない。大グレン団には二隻のダイガン級があるばかりか、ユーチャリスと言う圧倒的な火力をもった飛行戦艦まである。
ダイガンテンや、シトマンドラの持つ航空戦力を持ってしても一朝一夕になんとかなる相手ではない。
そこでまずは敵の機動力を削ぎ落とし、自分達にとって戦いやすい場所を選んだのだ。
シトマンドラの保有する主戦力は山や森に囲まれていても空中を移動するため、機動力をほとんど奪われることはない。
しかし、大グレン団はユーチャリスを除き、そのほとんどが陸戦型の兵器ばかりだ。
この地形を利用した点で、シトマンドラの優勢は揺るぎないもののはずだった。
そう、本来ならば……
紅蓮と黒い王子 第29話「先に地獄にいっておれ……」
193作
「何故だっ!? 私の作戦は完璧のはずなのに……!?」
シトマンドラの敗因は、人間達を侮りすぎていたことだろう。
敵の作戦を予測していた大グレン団は、シトマンドラにも予測がつかない大胆な作戦にでていた。
その地形を逆さにとり、隠密性に優れたガンメンやバッタを森に隠し、囮にダイグレンとダイガンカイを配置。
敵の進軍があったところで、周囲の森に配置していたガンメン部隊に、ダイグレンを狙って突出した部隊を後方から攻撃させ、その敵の混乱に乗じてユーチャリスを前方に押し出してグラビティブラストを一斉掃射。
その事により、周囲の岩壁や木々を吹き飛ばしダイグレンや部隊が通る道を作り出したのだ。
これにはシトマンドラも驚愕の色を隠せなかった。
これを考えたのは「道がないなら作ってしまえ」と言ったカミナの一言によるものだったが、強引な手段とは言え、その効果は確かなものだった。
勢いを得た大グレン団の猛攻を止められるはずもなく、大グレン団のガンメン部隊は一気に本陣まで辿り着く。
「くそ……っ!! まさか、私がこの私がっ!!」
ダイガンテンを落とされ追い込まれながらも、愛機のシュザックに乗り込んだシトマンドラは迫り来るガンメンを撃破しながら、徹底的な防衛線を繰り広げていた。
この前線基地が抜かれれば、その後ろにはテッペリンを防衛する為に配置した部隊しか残されていない。
それでも、人間達の戦力に比べれば圧倒的なものであったが、ここで退くと言うことは負けを認めるということに他ならない。
そんな失態を螺旋王が許すはずもなく、おめおめ逃げ帰れば自分に待っているのは無能∞負け犬≠フ烙印と死のみ。
そのような不名誉を誇り高いシトマンドラが大人しく飲めるはずもない。
なんとか挽回しようとシュザックを駆り、残存部隊と共に修羅のごとき勢いで大グレン団の兵をなぎ倒していく。
エリートとしての誇りと意地が彼を突き動かしていた。
「前衛ラインが押し返されてます。
先行ガンメン部隊の二割が大破、敵の隊長機を中心にもの凄い反撃です」
キノンの報告を受けて、眉をしかめるアキト。
前回の戦いのこともあり、女性陣だけでなくチミルフにも出撃を止められたアキトは、ユーチャリスで戦闘指揮を執っていた。
元々、後方で指示を飛ばしているよりは、戦場で率先して戦うことを好むアキトではあったが、個人の戦いや、前のように戦えるものが少なかった時と状況が違う。
大グレン団の規模はすでに一軍と呼んでいいほどの規模を持っていた。
チミルフ、アディーネが連れてきた獣人兵にキタンが各地から集めてきた人間の有志によるレジスタンス。
そして、カミナ、アキト率いるリットナーの精鋭を中心とした元グレン団のメンバー。
グレンラガンを筆頭に、突出したガンメンや実力のある将も数多い。
単純な兵士の質と言う点では、すでにテッペリンの軍団を超えていた。
だがその反面、癖のある人物、果ては種族を越えて集まった混合軍であるが故の問題点も浮上していた。
螺旋王の軍団のように、正規の訓練を受けているものがいる訳もなく、表立って見えなくなったとはいえ、獣人と人間の埋められぬ確執といった問題もある。
いくら個々の力が優れた者達が集まっているといっても、そのままでは連携の取れていない烏合の衆に過ぎなかった。
この問題点は大グレン団を結成した当事から浮上していた。
その為、急務とされたのは指揮系統の確立。カリスマの高いカミナを大グレン団のリーダーにそえることはすぐに決まったが、実戦経験の多い参謀、指揮官を決めることは難しかった。
事実、軍団規模の戦闘指揮など取った事がある人間がいるわけもなく、チミルフやアディーネに至っても自分から飛び出していく戦闘スタイルなのは言うまでもない。
もともと、弱い人間達を監視、始末することを任務としてきたのだ。
軍団規模の戦闘を考慮した訓練を受けている者は獣人達の中にもほとんどいなかった。
そこで結局、その役目にそえられたのはアキトとラピスだった。
専門的な立場ではないと言っても、二人で組んで圧倒的な兵力差の相手にテロリスト活動を行っていた経験がある。
そこにいる誰よりも、そういった経験と知識があるアキトが推挙されることはある意味、必然だったのだろう。
それに、チミルフが推したのにも理由があった。アキトの身体の事だ。
今、そのことに気がついているものは少ないが、すでにアキトの身体はブラックサレナに乗って戦える状態ではなかった。
――多分、次に無理な戦闘を行えばアキトの身体は……。
リーロンの診察は間違っていない。アキトの身体は常人ならば、すでに動けること事態が不思議なほどの状態なのだ。
だが、それを言ったところで素直に言うことを聞くアキトでもない。
今はまだいい。だが、テッペリンでの最終決戦となれば、アキトも出ざる得なくなると考える。
「シトマンドラ――っ!!」
チミルフの怒声が山々に響き渡る。
最終決戦、ロージェノムが出てくれば、アキトは必ず決戦の舞台に立つだろう。
だからこそ、そのときを万全な状態で望ませてやりたい。
それがアキトを信じ、そしてその矛になると決めた自分の役目だとチミルフは考えていた。
――約束の時は近い。
最悪、カミナやシモンならば、アキトでなくてもロージェノムを倒せるかもしれない。
いや、彼等の強さならば恐らくアキトがこの世界に現れていなかったとしても、いずれ世界を変えていただろう。
だが、彼等ではロージェノムを倒すことは出来ても、救うことは出来ないと考える。
それはチミルフにとっては直感のようなものだった。
ロージェノムは悪である以上に、この世界を愛する一人の人間なのだと、全てを知ったときに確信した。
彼の行った支配は、確かに人間達にとっては地獄でしかない。
だが、かつては螺旋族の戦士として人類の為に戦った彼が、どんな気持ちでそんなことを実行しようとしたのかを誰も知ろうとしなかった。
彼は悪だ。断罪されるべき悪であるが故に、この世界は、苦しめられてきた人々は彼を許さないだろう。
千年を越える時を、断罪されるべき罪を背負い、世界を敵に回してまでその孤独な時間を生き続けた男、ロージェノム。
チミルフは自分が仕えた、かつての主人にも救いを求めていた。
アキトに下ったのは、何も獣人達の未来を思ってのことだけではない。
彼に、希望を見出したからだ。それは僅かな望みなのかもしれない。
「だが、そこに賭けてみるだけの価値をワシは見出したっ!!」
ビャコウの繰り出した一撃がシュザックの片腕を切り落とす。
かつての仲間の変わりようにシトマンドラは驚きを隠せない。
チミルフとはそりが合わなかったが、それでも同じ主君に仕える同志としては他の四天王よりも一目置いていた。
それは彼がロージェノムに対して絶対的な忠誠を誓っていると感じていたからだ。
シトマンドラにとって、ロージェノムは親であるとともに主君であり、この世界の神と呼べる存在だ。
だからこそわからない。チミルフのこの変わりようが、何故、ロージェノムに牙を向き、以前よりも遥かに強い意志をこの男から感じるのか?
「この、裏切り者がっ!!」
「否定はせん。その不名誉は甘んじて受けよう……だがっ!!」
その瞬間――ビャコウの矛がシュザックのコクピットを貫いた。
血を吐き、鬼のような形相でビャコウを睨みつけるシトマンドラ。
だが、チミルフはかつての同志をその手にかけても微塵も後悔をしていなかった。
「先に地獄にいっておれ……」
ビャコウが矛を引き抜くと、シトマンドラの絶叫を最後に爆散するシュザック。
戦士の誇りと意地をかけた戦いは、チミルフの勝利というカタチで幕を閉じた。
シトマンドラが敗れたことを確認すると、散り尻に逃げ出す敵部隊。
大グレン団結成から、テッペリンに向け進攻して六十二日。大陸についてから初となる大交戦は、こうして幕を閉じた。
――漆黒の闇に沈む。
深い悲しみ、その男の瞳は絶望を経験したことがある男の眼だった。
かつて、同じ眼をした人物を自分は知っていた。
螺旋王と呼ばれ、神の如き力で世界を席巻した男。
悪と称され、世界に仇なす二人は人々からも、歴史からも否定され、孤独に生きる道を自分から選んでいく事となる。
そして、亡霊、死神、果ては魔王と称された男は、世界に否定されその世界からも弾き出されることになる。
その男の名をテンカワ・アキト。
畏怖をこめて、人々は彼のことを黒い悪魔≠ニ称した。
「ご苦労だったね、チミルフ」
「アディーネか……」
「なんだい? シトマンドラを自分の手で討ったことを今更、後悔してるのかい?」
「いや、そんなことはない」
敵の軍勢を打ち破ったとはいっても、大グレン団の受けた被害も決して軽微ではなかった。
シトマンドラの策を逆手にとり、作戦は確かに上手くいった。
だが、予想に反して被害が大きかったのは、シトマンドラのその執念によるものが大きい。
戦略的に勝利した時点で撤退すると思ってた敵部隊が、捨て身で徹底抗戦してきたことはアキトにとっても予想外だった。
それだけ敵も必死だということだ。この先に待ち受けているのは、生きるか死ぬかの戦争だ。
敵もこちらを全滅させる覚悟で挑んでくる以上、更なる被害は確実だった。
アキトでなくとも、この惨状を見て何も感じないものはいないだろう。
そして、これこそが戦争なのだと、そこにいる誰もが実感していた。
「悩んでも仕方ないよ。私らは賭けて、その賭けにとりあえず勝ったんだ。今はこの勝利を喜びな」
今はこの勝利に酔いながらも、明日にその望みを繋ぐ。
本当の大博打はこれから待っている。
それは、テッペリンという世界の巨頭。それを見れば、自分達など如何に小さなものか理解することだろう。
だが、後にもひけない、たとえ大博打を言われようが勝利する以外に彼等に道はなかった。
「受けた被害から考えても、テッペリン侵攻作戦は半月後。ここを出発するのは一週間後ってところね」
壊れたガンメンもそうだが人的被害も大きい。いくらやる気があるとは言っても、それだけで戦いに勝利できるなら苦労はない。
今までは確かに勝利していたが、次の戦いは敵の本拠地。
相手は自分達よりも遥かに巨大な組織だ。数の面でも遥かに劣る以上、万全の状態で挑む必要があった。
カミナやキタンはこういった頭を使ったことや、組織内の運用に関われるほど器用な頭も能力も持っていない。
主に、こういった物を処理するのはアキトやリーロンの役目となっていた。
補佐としてダヤッカや、キノンなどが手伝ってはいるが、決して手が足りているわけではない。
だが、この間まで地下で生活していたような人達が多い中、文字も満足に読み書きできない者を使う訳にもいかなかった。
こうなってくると、戦後の処理なども今から考えておかねばならないとアキトは考える。
戦争は勝ったらそこで終わりと言うものではない。
これは言って見れば、人類の解放戦なのだ。
その後の人々の生活についても考える必要があれば、文化を知らない人々にどうやって社会を形成させるかと言う難題も存在する。
テッペリンに変わる国家を擁立することが急務になってくるだろうし、人々を導いていく幹部の人選も重要と考えていた。
はっきり言って、今の組織でそれが可能な人物は少なすぎる。
ラピスやサレナが、学習塾のようなものを開いて教えているみたいだが、それでも水準レベルに達している人間は少ない。
リーロン、レイテの下についているメカニックや技術部の人間だけでは心もとなさすぎる。
「アキトさん、ここはこれでいいでしょうか?」
「ああ、ここの計算が少し違うな。修正したら整備班に通して、在庫の確認を頼む」
その中でもロシウは特に優秀と言えた。
最初は文字の読み書きも出来なかったのだが、ここに来てからの彼の成長率は他の群を抜いていた。
今では簡単な計算も行える他、資料作成なども率先して手伝えるほどになっている。
キノンやリーロンなどと比べればまだまだなのかもしれないが、彼の歳から考えれば今後かなり期待できる人材と言えた。
そう思ってか、アキトもロシウに様々なことを教え込んでいる。
今まで行っていたガンメンの予備パーツや資材、水や食料の備蓄からそれの運用に至るまで、戦うこと以外の様々な雑務をこなせるように少しずつ教えていた。
ロシウもやる気があるだけでなく、飲み込みも早いのでメキメキと成長している。
ギミーやダリーはまだ小さいので、そういったことはまだまだと言えるが、他にも子供達の中にはロシウ程ではないが多少の雑務をこなせる程度まで成長してきている子達もいる。
ある意味、戦いばかりで先陣をきっている大人たちよりも、女子供の方がそういった側面では非常に役に立っていた。
これだけの大所帯だ。こうして裏で支えてくれる人達がいなくては組織が崩壊する。
最初の頃はほとんどアキトとリーロンがこうしたことをやっていたのだが、そのままアキトだけに任せていたらいつか戦闘ではなく雑務による過労死を招きかねない。
ラピスはそんなアキトを見かねてかなり裏で手伝っているのだが、それも限界にきていたところだった。
それ故に、ここにきてロシウなど子供達が役に立ち始めた事には助かっていた。
「……???」
「もう、なんでわからないのよっ!」
その頃、ブリーフィングルームの一室では、カミナやキタンを含むおバカな大人達がヨーコとサレナの指導の下、読み書きの勉強をしていた。そこには年少組であるギミーやダリーの姿もあった。
カミナ達は今にも頭から煙を噴出しそうな様子で、ホワイトボードに書かれた文字と睨めっこしている。
その物覚えの悪さは同じく教育を受けている子供達と比べても最低と言えるレベルだった。
数字を見れば意識を失いかねなく、勉強≠ニいう言葉は、彼等にとってガンメンよりも恐ろしいものとなっていた。
年少組のギミー、ダリーと同じように勉強させられているのも、それだけ彼等のレベルが低いからなのだが――
「そこ違うよ。これはシロスナワニウサギ=v
小さなダリーに逆に勉強を教えてもらうほど、カミナ達の学力は乏しかった。
これには、教えてる側のヨーコやサレナも困り果てていた。
戦闘では一騎当千の如き活躍をするガンメン乗りである彼等も、ここでは足手まといを通り越して戦力外と言っていい。
だが、まさか仮にも幹部の人間が、それもこれからのことを考えると文字の読み書きも出来ないなんてことが通用するはずがない。
――どうにかして、このバカどもを一般レベルにまでしないと
アキトの苦悩や心労が増える原因となっているものを、どうにか減らそうと躍起になるヨーコ。
だが、「脳味噌まで筋肉でできているのではないか?」と思ってしまうほど、バカな彼等に我慢の限界が先にくるのは言うまでもなくヨーコの方だった。
答えを間違えたり、眠ればチョークの代わりに銃弾が飛んでくる。
その理不尽とも言える勉強地獄からようやく彼等が解放されたのは、部隊が出発する前日だった。
その後、勉強≠ニいう言葉に彼等がトラウマを覚えたのは言うまでもない。
大グレン団がテッペリンに向けて再び進攻を開始した頃、王都テッペリンでもまた迎撃の準備に獣人達が追われていた。
すでに指揮官たる四天王が全員いない状態での防衛作戦は、獣人達の不安をより駆り立てることとなっていた。
臨時で任命された指揮官の獣人達も不安の色を隠せない。
だからと言って、逃げ出そうとするものは一人もいなかった。
そして、それはロージェノムに対する絶対的な恐怖と信仰心によるものが大きかった。
ここで逃げ出せばそこに待っているのは絶対的な支配者による粛清だ。
噂されている大グレン団や黒い悪魔≠ヘ確かに怖かったが、それ以上に獣人達にとってロージェノムとは畏怖すべき対象であり、絶対的な王であったと言える。
彼に逆らってまで、目先の安全に目を奪われるものはいなかった。
「グアームが死に、チミルフとアディーネが裏切り、そしてシトマンドラも死んだ」
その現状でもなお、ロージェノムは笑っていた。
すでにその戦力の大半を奪われているのにも関わらず、ただ一つの焦りも動揺も彼にはない。
まだ数の面では大グレン団に勝っているとは言え、質という点では向こうは一騎当千のガンメン乗りが多くいるのだ。
数で勝っているからといって、力ある指揮官の大半を失っているロージェノムの軍団はすでに数だけの烏合の衆に過ぎない。
だが、ロージェノムもそれはわかっていた。それでもなお、楽しんでいたのだ。
この戦いを――
千年越える時の中で、自分に歯向かってきた人間は数多くいた。
だが、ここまで自分を追い込んだ人間をロージェノムは知らない。
絶望的なまでに力を削ぎ落とされ、地下に閉じ込められたというのに、ただ這い出してきたばかりか数々の強敵を討ち滅ぼし、果ては自分に代わり世界を手にする寸前まで力をつけ近づいているのだ。
そして、その要因となった男のことを思う。
――テンカワ・アキト。
グアームを倒し、チミルフ、アディーネを魅了したばかりか、見事に異種族である人間と獣人をまとめあげ、シトマンドラを打ち破った男。
その戦果はまさに脅威的と言っていい。
ロージェノムは報告にあったグレンラガンよりも、遥かにその男の方が脅威と考えていた。
そして、それ以上に期待もしていた。
その異邦人の存在を知ったときから、彼の者が自分の前に現れるという絶対の自信があった。
悠久の時を生きた戦士としての勘が告げている。彼の者は、ただの戦士でも、ただの勇者でも、ただの英雄でもないと。
その者は死神――。まさに命を脅かす存在だという確信があった。
だからなのだろう。意図的にブラックサレナを奴に返し武器を与えたのも、チミルフをアキトの元に行かせたのも、全ては必然。
それは、いつもの気まぐれなどではなかった。
人類という種の存命を賭けても、自分の全てを費やしてでもアキトと刃を交えたい。
螺旋の戦士としての血が絶対的な強者を求めるのか? それとも、悪を演じる者としての宿命か?
ここにきて、ロージェノムの考えは変わってきていた。
自分の生み出した獣人達がアキトに寝返った時点で、彼の王としての役目は完全に失われていたのだ。
王は絶対でなくてはならない。一片の血も、肉も、魂すらも王たる自分の手を離れた時点で、それは王足りえないのだ。
それは、絶対であるはずの王の生み出した、世界の縮図を書き換えるものだった。
世界は、時代は、テンカワ・アキトを望んでいる。
新たなる王の存在を――。
「私こそ、新たなる王の試練、踏み台ということか……」
敵はテンカワ・アキトという名の世界。
「クク……貴様は人類を滅びへと導く死神となるのか? それとも世界を統べる王となるのか?」
その答えが出る時は、近づいていた。
テッペリン攻略戦――後に七日戦争≠ニ呼ばれる大戦の幕開けである。
……TO BE CONTINUED
あとがき
193です。
一週お休み頂いて申し訳ありません。
拍手返信板でも書きましたが、個別の拍手返信まではやってる暇がないので今回はご容赦を;
七月からは余裕も出来るのでそんなこともないと思うんですが、何かと予定通りにいかなくて困ってます……
さて、今回はあれだけ引っ張った割にシトマンドラ、あっけない幕切れでしたw
まあ原作に比べて遥かに大グレン団の戦力も充実してますからね。ある意味、必然と言ったところですがw
いよいよ次回からテッペリン攻略戦に入ります。
大グレン団もいよいよ持てる全ての力を解放して決戦に挑む事にっ! ヨーコの新機体もいよいよ登場!?
原作ではかなり端折られた七日の攻防も、本SSではしっかりと描きます。
最終決戦に相応しいちょっとした仕掛けも……。
世界という名の最強の敵を前に、ロージェノムが隠し持つ最大の切り札とは?
次回は、夜明けともに始まり、日没とともに終わる長き戦い。そこに挑むは魂を熱く燃やす漢達。最後の戦いの幕が開く。
紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。
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