「すげえ……あれが、アキトなのか?」
キタン達は空に浮かぶ二つの影に驚きの色を隠せない。
片方はユーチャリスの何百倍もの大きさがある、天にも届くほどの巨人。
もう一方は、通常のガンメンと比べてもそれほど変わらない大きさの漆黒の機体。
二体の大きさはまさにアリと象と言ってもよいほどにかけ離れていた。
通常であれば、アリが象に勝てるはずがない。誰もがそう思っただろう。
だが、目の前の現実は違った。
巨大な影――大螺旋ラゼンガンに向かっていく影――ブラックサレナは、黒い軌跡となってラゼンガンに迫る。
一撃をもらえば確実に粉々になると思われる状況で、その攻撃をかわしながら、その手に持つライフルとディストーションフィールドをまとった体当たりでラゼンガンの装甲を削っていく。
威力から言えば、グラビティブラストにもギガドリルブレイクにもそれは劣るだろう。
だが、確実に必殺の一撃。並みのガンメンなら一撃で貫くだろうと思える質量をもった攻撃を絶えず繰り返していた。
ブラックサレナがサレナとの融合で二度見せた高機動ユニット。
一つは突撃強襲型『モールタイプ』、ダイガンドとグアームを屠ったその技の威力はギガドリルにも匹敵する突撃力を持っていた。
そしてもう一つは重武装型『ヘビィアームズ』、三千以上のガンメンを翻弄し、その圧倒的な火力をもって殲滅する力を見せつけた。
それらを持ってして、ブラックサレナはガンメン達に畏怖の存在として「黒い悪魔」と呼ばれたのだ。
だが、彼等はその認識すら甘かったことを悟る。
ブラックサレナとサレナ、そしてそれを扱うアキトの実力は確かに凄い。彼等の強さはよく知っているつもりだった。
しかし、目の前にいるその機体はなんなのだろうか? 本当にブラックサレナなのか?
それほどに、今のブラックサレナは異常だった。
その姿は今までの無骨な騎士のようなイメージから、禍々しい生物的な姿に変わっており、本当の悪魔のような黒い翼と、鎖のように断続的に繋がった長く鋭い尻尾をなびかせている。
そして、その攻撃は彼等の常識からは量れないほど常識外れな物だった。
一撃一撃の威力はモールタイプの突撃力にも、ヘビィーアームズの広域殲滅力にも劣るかも知れない。
だが、その速度がまさに異常だった。
剣の嵐、いや、この場合は弾丸の嵐と言った方が良いのかも知れない。視認することすら不可能なほどの速度で、数十、数百という攻撃がラゼンガンを襲う。
「ぐっ、ぬうううぅぅ」
ロージェノムにも初めて恐怖と焦りが見える。大螺旋ラゼンガンはその質量から圧倒的なパワーと強固な防御力を持つ。
だが、一方で大きすぎるその巨体はラゼンガンのスピードを殺していた。
ブラックサレナを捕まえようと応酬するが、その攻撃がブラックサレナを捕らえることはない。
放たれる弾丸も、飛び交う攻撃も、すべてがすり抜けるようにかわされて行く。
だが、ブラックサレナの攻撃は違う。ただ一点、その場所に向かって絶え間なく突き破るまで攻撃が繰り返される。
「貴様っ、まさか、ニアを殺して止めるつもりか!?」
そう、アキトが狙っているのは大螺旋ラゼンガンの咽喉元、ニアの閉じ込められているコアだった。
コアに向かって、容赦ない攻撃が撃ち込まれる。
「アキト……」
「サレナ、グラビティランスを放つ」
「了解――コード執行の槍=\―グラビティランスを起動」
ブラックサレナの尾が分解され、長い三叉の矛へと姿を変える。
その矛をアキトは構えると、槍の先を中心に、今までよりも遥かに高質量のディストーションフィールドを発生させた。
「グラビティ――」
「「ランス!!」」
アキト、サレナの声ともに放たれる黒き閃光。
それは吸い込まれるように、コアに向かって真っ直ぐ飛んで行った。
紅蓮と黒い王子 第36話「ああ、大バカだからな」
193作
「兄貴……」
ユーチャリスに戻ったシモンを待っていたのは、血塗れでベッドに横たわるカミナの姿だった。
「やれるだけのことはやったわ……でも、あとはカミナ次第よ」
リーロンは沈痛な趣でシモンに向かってそう言う。
その傷は通常の人間であれば、すでに死んでいてもおかしくないほどの傷だった。
だが、カミナの体力と精神力は並みの人間とは比べ物にならないほど凌駕している。
治療が終わった今も安心できる状態とはいえないが、その生きようとするカミナの意志の強さがどうにかカミナの命を繋ぎ止めていた。
「兄貴も戦ってるんだね……なら、オレも自分のやれることをしてくるよ」
ここで心配をして涙を流すことを、グズグズと立ち止まることをカミナが望んでいるとは思えない。
シモンにはそのことが分かっていた。カミナのことは心配だ。
だが、それ以上に、自分が心に決めた覚悟に、誓いに嘘をつきたくない。
「ニアを助けてくる。そして、ついでに世界も救って見せるよ」
ベッドで眠るカミナに向かって、笑顔でシモンはそう言った。
そのまま部屋を後にし、グレンラガンの待つ格納庫に向かって走り出した。
「まったく、世界はついでか……シモンも言うようになったわね」
「ヨーコ? いつから見てたの?」
「う〜ん、ちょっと声をかけにくくって、ごめん」
「外はいいの?」
「ガンメンは動かなくなっちゃったしね。
それに、あのバケモノ相手に弾薬もほとんど尽きたパドマじゃ相手にならないわ。
むしろ、アキトの邪魔になっちゃう」
「世界の運命は、あの二人に委ねられたってわけか……」
「ちげえよ」
目を開き、上半身を起こすカミナ。
「カミナ!?」
「ダメよ――まだ、寝てないとっ」
「「――!?」」
二人はカミナの目を見て固まる。
その両目は螺旋の渦を巻いていた。そう、まるでロージェノムのような不思議で力強い輝きを放っている。
「カミナ、その目……」
「ヨーコ、オレをあの二人のところに連れてってくれっ」
「バカ! さっきまで死に掛けてたのに、今だって無理をすれば危ないかも知れないのよ!?」
「それでもだ!! シモンはまだいい……だが、アキトの野郎は放っておいたら死んじまうぞ!!」
「――!?」
「あいつには随分と助けてもらった。だから、ここでその貸しの一つでも返させてくれ」
カミナは、いつものようにヘラヘラした笑顔でヨーコにそう言う。
さっきまで声を荒げて心配をしていたヨーコも、そんなカミナの様子に毒気を抜かれていた。
「……本気なのね?」
「……ああ」
「死んでも知らないわよ」
「オレは死なねえよ」
「あんた、本当にバカよ」
「ああ、大バカだからな」
二人していつしか笑っていた。これから自分達がどれほど無茶なことをしようとしているのかがわかる。
今のアキトやシモンの助けに、装備も体力も不十分な自分達が役に立つとは思えないだろう。
それでも、それが無駄なことになるとは思えなかった。
いつだって、無茶を、道理を無視して、それを乗り越えてきた男がそこにいる。
「怪我や常識なんてのは気合で蹴っ飛ばす!! 俺達は大グレン団だぜ!!」
「あんたのバカは死んでも治りそうにないわね」
戦いは終わっていない。あとのことを戦える者に任せて大人しく寝ていられるほど彼は大人しくなかった。
そして、彼についてきた仲間達もそれは同じだ。
『よく言った!! さすが、カミナだぜ!!』
「ゾーシィ――っ!?」
『テメエのことは気にくわねえが、誰よりもオレは認めてんだ! 早くきやがれカミナ!!』
『そうそう、アタイ達のリーダーはあんたなんだろ?』
「キタン、キヤル!?」
『てめえら!! オレらはまだ負けてねえ!! なら、やることはわかってんな!?』
『『『『オオオォォォォ!!!』』』』
カミナとヨーコの話を通信越しに聞いていたキタン達は士気を取り戻し、雄叫びを上げる。
先程まで、その強大な敵の存在感に気圧され、動きを止めていた大グレン団のガンメン部隊が一斉に息を吹き返す。
「世界は誰でもねえ! 俺達の手で掴みとるんだ!!」
コアをグラビティランスが貫いた。
それはブラックサレナの奥の手であり、最大の必殺技だった。
一発限りの技ではあったが、それはこと貫くという一点においてはグラビティブラストをも凌駕する。
「くっ! 螺旋力が――」
コアを貫かれた大螺旋ラゼンガンはよろよろと体勢を崩し始める。
その形態を維持できるのも、もって数分といったところだろう。ロージェノムのテッペリンの終りが刻一刻と近づいていた。
「まさか、ニアごと撃ち抜くとはな……やはり、貴様は他と違うようだ」
「……いや、オレもただの人の子さ。悩みもすれば悲しみもする。
それにロージェノム、お前もそうではないか?
コアを撃ち抜く直前、お前はニアを庇おうと必死に手を伸ばした。
あれは、お前が本当にニアを心配していたからではないのか?」
「…………」
ロージェノムはたしかにあの時、慌てていた。それも今までに見たことがないほどに――
アキト達が本気でニアを殺そうとするとまでは思っていなかったのだろう。
だが、その予想が悪い方で大きく外れたことになる。
そのロージェノムの様子は、ただコアが撃ち抜かれようとしていたからとはアキトは思えなかった。
「たしかに……認めよう。ワシにも人としての感情が残っていたと言うことを――
だが、それならばわかろう、貴様にはっ」
大螺旋ラゼンガンから分離し、空に飛び出すラゼンガン。
ブラックサレナの前まで飛び上がると、そこで制止する。
「その想いが、どんな結果を生むかをお前は知っているはずだ」
ロージェノムは問う。アキトの闇の部分を感じ取っていたからだ。
アキトの強さは決して世界を救いたいと思い、身につけた物ではない。
たった一人の大切な人を、家族を守るためには世界をも敵に回す力だった。
自分の大切な一を助けるために、百をも切り捨てる男、それがテンカワアキトの正体。
かつてアキトは自分の無力さを知った。すべてを助けようとしても、守ろうとしても、それを叶えることは難しい。
何かのためにと力を奮っても、それで大切な人を救えなければ意味がない。
そのため、復讐に走った男は、過去に世界に背を向け、妻を助けるために多くの人の命を奪った。
「ならば、ロージェノム、お前は何を望む?」
「安寧を……感情を殺し、恐怖により欲望を抑え、世界が健やかであること、それが人類を救う唯一の道だ」
「たしかに人の欲望は果てしない、それは際限なく膨らむ」
戦術核――人体実験――そして世界中で起こる紛争――
元をただせば、すべては人と人の欲望の果てにある、争いに過ぎないのかも知れない。
「大きすぎる人の欲望は世界を侵食し、過ぎたる科学はその身を滅ぼす」
それはロージェノムがかつて体験した戦争。アンチスパイラルと呼ばれる反螺旋族と、螺旋族との戦いを指していた。
世界を救うためと言い、立ち上がったアンチスパイラル。人々の生活を、平和を守るためと戦った螺旋の戦士。
どちらにも言い分はあり、退けない理由があった。
「憎しみは更なる憎しみを生み、歴史を血で染め上げる」
それはアキトが体験した血の歴史。地球も火星も木星も、すべては人々の恨みの声から起きた戦い。
夫を殺された妻が声を荒げた。妹を殺された兄が声を荒げた。恋人を殺された男が声を荒げた。
殺せ、奪え、憎めと――彼等の存在を許すなと――
「ロージェノム、お前は本当は人を……彼等を大切に思っているんじゃないか?
でなければ、憎しみを買うことを知っていて、いつかは自らが滅ぼされることを覚悟の上で、こんなシステムの上に立てるはずがない」
「そうではない。人間が好き嫌いではなく、これが必然なのだ。人が生き残るすべはこれしかなかった。
だからこそ、ワシは掴み取ったにすぎん。それを、お前ならば、お前たちならば、他の答えをだせたというのか?
アンチスパイラルの支配から、螺旋族を解き放てると言うつもりか?」
ロージェノムはその答えをアキトから聞きたかった。千年以上も続いたこのシステムに楔を打ち込んだ男。
この世界の住人でないにも関わらず、今では誰よりもこの世界の人々にその存在を認められている。
「そんなに傲慢じゃないさ。一人で出来ることと出来ないことくらいは弁えてるつもりだ」
そう言いながら、その視線を眼下のガンメン達に向けるアキト。
そこには大螺旋ラゼンガンに向かって一斉に攻撃を仕掛けるキタン達の姿があった。
「この世界を創るのも壊すのも、異邦人のオレじゃない。彼等の役目だ。
彼等は自分達の意思で戦うことを望んだ。自由になることを願った。
理由なんて自分勝手で、単純でオレは構わないと思う」
「それが世界を滅ぼす行為であると知っていてか……やはり人間は愚かだ」
「それは違います!!」
「――ニア!?」
ブラックサレナとラゼンガンの間に割って入るように飛びあがるグレンラガン。
そこには死んだはずのニアが、シモンに支えられるようにして、ラガンのコクピットに立っていた。
「貴様――っ!? あの時、何をした!!」
ロージェノムはニアの無事をその目で確認して、アキトを睨みつけるように見る。
「グラビティランスはただの攻撃武器じゃない。触れた空間を別次元に転移させ消滅させるのがこの武器のもう一つの特性」
「まさか――っ」
「放ったグラビティランスにはボソンジャンプの応用で、ユーチャリスに転移するようにイメージを伝達しておきました。
あの球体の強度はわかりませんでしたが、思いのほか上手くいった。
ディストーションフィールドなしでの単独ボソンジャンプではニアも危なかったのですが……
どんな攻撃も通さないあのコアの耐久性があだになったようですね。
ランスが触れた瞬間に形成された重力波がコアとニアを包み、守ってくれた」
アキトとサレナはこれを狙っていた。ニアを殺さずに大螺旋ラゼンガンを止められる唯一の手段。
少しでも予測や目標が外れればニアも助からない可能性が高かったが、それ以外に彼女を助ける手段も、ロージェノムを止める手段もなかった。
成功したから良いものの、下手をすればニアを助けられないばかりか、切り札も失うところだったのは二人も理解している。
だが、結果的にはその覚悟の一撃がニアを救い、ロージェノムの企みを潰したことになる。
アキトにしてみれば、失敗しても恨まれるのは自分だけでよいと思っていたのだろうが、サレナはそれをよしとしなかった。
いざとなればその身を犠牲にしても、ニアの元に飛び込み、ボソンジャンプで助けるつもりだった。
「くくっ、これはとんだ道化だ」
アキトの取った行動が自分の予測を超えていたことを知り、ロージェノムは笑いだす。
自分すらも手のひらで躍らせて見せたテンカワアキトと言う存在を知るとともに、興味が尽きない男だと更に思いを募らせていた。
こうやって他の者たちも、チミルフやアディーネも魅了したのかと思うと、おかしくて仕方がない。
「だが、それでも人間の身勝手さが世界を滅ぼそうとしていることに変わりはない。
だからこそ、愚かだと言うのだ」
「お父さま、それは違います。みんな、諦めているわけでも、愚かなのでもありません」
「なんだと?」
「私たちは無限の可能性を持っている。命懸けで頑張ることも、夢を見ることも、それらはすべて明日のため――
シモンも、アキトも、カミナや、そしてみんな、諦めてるわけじゃない」
彼等が必死なのは未来に絶望しているからでも、恐れているからでもない。
「道理や理屈なんて関係ないっ、それが彼等、大グレン団の非常識なのです!
常識に捕らわれてる時点で、お父さまは彼等を理解していません!!」
「いや、ニアそれって……なんか間違ってないけど、褒めてる気もしないんだけど」
シモンが困った様子で、堂々と宣言するニアにツッコミを入れていた。
「え? シモン、何か間違ってました?」
「いや、あってるんだけど……」
「ようはバカってことですね」
「そうだな、バカには常識は通用しない」
「アキトもサレナも、そんなハッキリと!!」
ニアの天然ボケとアキトとサレナの冷静なツッコミに大声を上げるシモン。
だが、アキトもサレナもそのバカがいたからこそ、ここまで彼等が頑張れたのだと理解していた。
「愚かだと否定するのは簡単だ? だが、彼等がただの愚か者ならここまで来れなかった。
ロージェノム、オレはお前の考えも思想も理解できる。だが、それ以上に彼等のバカさ加減にかけてみたいとも思う。
もう、千年も我慢したんだ。お前も、そのバカな賭けに乗ってみてもいいんじゃないか?」
「一人の愚かな行為が、すべてを滅ぼすかも知れないのに味方するというのか?」
「わかってないな。世界を本当に救ってしまうヤツってのは、バカになれたヤツって相場は決まってるんだ。
案外、救ってしまうかも知れないだろ?」
口元にニヤリと笑みを浮かべ、アキトはロージェノムの方を見る。
「お前ほどの男がそういうのだ……ここに攻め込んできた彼等の力を否定するつもりもない。
だが――今更、突き出した矛を納めることはできんっ!!」
ロージェノムはアキトのその言葉を肯定しながらも反発の意思を見せる。
そして、ラゼンガンのドリルを伸ばし、大螺旋ラゼンガンに突き刺す。
「何を――!?」
「お前たちがコアを抜き取ったせいで、蓄えられた巨大な螺旋力が暴走を始めているのだ。
このまま崩壊が進めば、テッペリンもろとも、この星は消えてなくなる」
「「「な――!?」」」
そこにいた全員から驚愕の声がもれる。
「お前たちはこの場を立ち去れ。テッペリンの暴走はワシが自らの手で止める」
「お父さま――っ!!!」
「ラゼンガンが敗れ、そしてワシの切り札が砕かれた時点で、勝敗は決していたのだ。
最後の責任は自分の手で取る。ワシとて、この世界を滅ぼすことをよしとはしていない。
そんなことのために、この世界を作ったのではない」
「ロージェノム……」
「螺旋の戦士、いや、シモンと言ったな。覚えておくがいい。世界はお前が思っている以上に綺麗なものでも素晴らしいものでもない。
酷く醜く汚い裏の側面の方が大きいだろう。そのことはそこにいる男の方がよくわかっている。
それでもなお、その世界で人に絶望せず、自分が信じた道を貫けるのか?
見させてもらうぞ――お前達の決意が、本当に正しかったのかを――」
ロージェノムのその眼光はシモンの心を掴み取った。
どこにいても、これから自分の覚悟が一生をかけて試され続ける、そんな気持ちにさせられる。
実際――ロージェノムは、自分の役目を奪ったシモン達に課していたのだ。
世界を本当に救えるのか? お前たちの取った行動が本当に正しいと言えるのかと――
「ロージェノム、オレはニアも、世界も守ってみせる」
それはシモンの意志だった。ニアを守ると決めたということは、ニアのいるこの世界を守ると言うことに他ならない。
アンチスパイラルがなんであろうと、たとえ世界すべてが自分達の敵になろうと、ニアとその周りの世界は守ってみせる。
そう、シモンは覚悟を決めていた。
「その言葉に嘘がないか……お前の人生すべてを持って証明してみせるがいい」
そう言い残し、ロージェノムは崩壊の進むテッペリンに向かって飛び去る。
シモンはそんなロージェノムの後姿を、ただ無言で見送った。
「シモン、ニアを連れてこの場をすぐに退避しろ。他のみんなを連れて行くのも忘れるな」
「……アキトは?」
「……行け、お前には他にやるべきことがあるだろう?」
その言葉を最後にアキトはロージェノムの元に跳ぶ。シモンはその後姿を黙って見送った。
「ニア、いくよ」
「でも、お父さまが!?」
「ごめん、ニア。でも、今のオレ達にはどうすることも出来ない。それに――」
きっと、アキトならなんとかしてくれる。シモンはアキトの言葉を信じることにした。
どんな時でも、アキトは何の策もなしに飛び込むような無謀なことは決してしない。
今回も必ず、何か理由があるはずだとシモンは思う。
「アキトとサレナを信じよう。そして、ニアのお父さんを――」
その場から離れるグレンラガン。
シモンからの緊急通信と、その場の異常を察知した大グレン団、そして獣人達は、敵味方問わずその場から一斉に逃げ出す。
世界すべてが終わってしまいそうな、そんな巨大なプレッシャーが大地を襲った。
「アキト――」
その場から緊急離脱するユーチャリスの中から、ラピスはその様子を見守っていた。
キヤルもその傍らでラピスの手を取り、先程まで自分達がいた場所を食い入るように見詰める。
「なんだって? カミナがいない!? ヨーコも!?」
「まさか、兄貴達――」
カミナとヨーコがその場にいないことに気がついたキタンとシモンが動きを止め、テッペリンの方を向いた。
その瞬間――テッペリンを中心に暴風が吹き荒れ、世界を白い光が包み込んだ。
……TO BE CONTINUED
あとがき
193です。
戦いは終息へと向かい、ロージェノムとアキト、そしてサレナ。
そこに向かったカミナとヨーコも、光の中に姿を消します。
彼等の運命は如何に? 螺旋の大地の行く末は――
次回は、彼等は待ち続ける。世界を救った英雄の帰りを――新たな世界で、新しい生活を送りながら――
紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。
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