『美味しいニャン!』
今、サンフランシスコ・ブロックのメインストリートに流されている映像は、ランカの出演する中華飯店『娘々』の新しいCMだ。
こうしたように、街中の至るところで、ランカの姿が見受けられるようになった。
それと言うのも、先日から公開された映画――『鳥の人』のマオ役にランカが起用されたことにある。
「シンデレラね。まさに」
黒塗りの公用車で不機嫌そうにそう口にしたのはキャサリンだ。
街中に流れるランカの姿を、キャサリンはトゲのある言い方でそう締め括った。
だが、別にそれはランカを嫌ってのことではない。
単に虫の居所が悪かったのだ。
キャサリンもかつて、準ミス・マクロスに選ばれたことがあるほどの美少女だった過去を持つ。
もっとも、それも数年前の話――
今のキャサリンは準ミス・マクロスでもなければ、アイドルですらない。
今は新統合軍に所属する一軍人だった。
だから、過去の掴み損ねた栄光に嫉妬して――と言うわけでなかった。
これっぽっちもそんな気持ちはない。
――といえば嘘になるかも知れないが、少なくともキャサリンの虫の居所が悪い原因は他にあった。
「おやおや、少々トゲのある物言いだね」
キャサリンの機嫌が悪い原因は隣に座っている、この男にあったと言ってもよい。
レオン・三島――大統領首席補佐官にして、ハワードの右腕と目される男。
そして、キャサリンの婚約者。もっとも、最近のキャサリンとレオンの仲は、お世辞にも良好とは言えなかった。
その大きな要因となったのは、ギャラクシーの戦艦を保護した事件からしばらくして、キャサリンがレオンの行動を不審に思い始めたことにある。
キャサリンは最近のレオンの行動を好ましく思っていなかった。
正確には今までにも不審な点はいくつかあったのだが、近くにいすぎて気付けなかった――いや、婚約者であると言うだけで、気付こうとしてこなかったからかも知れない。
しかし、ここにきてキャサリンは、レオンの行動に疑問を持ち始めていた。
迅速とまで言えるダルフィムの乗員の完全隔離――そして、撫子商会の問題。
市民からの評判もよく、大統領ですら既に受け入れる姿勢を出していると言うのに、過剰なまでに彼は商会のことを敵視していた。
油断がならない相手だと言うのはキャサリンにも分かる。
だが、レオンの行動は何かを隠すために――いや、他に何か、自分の計画の邪魔になる可能性のあるものを嫌っている。
そんな節が見受けられる。
以前に軍で報告のあった、テンカワアキトを狙った軍の暴走行為――
報告によれば、彼等を快く思っていない、下仕官が行なった暴走行為と言うことで処理されているようだが、キャサリンはそれだけでは納得がいっていなかった。
少なくとも、そこに政治的意図があったことは諮らずとも分かる。
ここまでのことを考えれば、この件にもレオンが関わっていたと考える方が説得力があった。
「あら、なんのことかしら?」
車内に流れる父親――大統領の演説を目にして、キャサリンは眉を潜める。
放送されている内容は、市民向けに刷られたギャラクシー船団の安否、そしてバジュラに関することだ。
市民感情などを考慮して、政府に都合のよい情報を捏造することは、ままあることだ。それでも大統領の口から出される言葉は、今更ながら事実を知るものにとっては児戯としか言いようがなかった。
新統合軍が苦戦の末、ギャラクシーの乗員を救出したということ、そして彼等によって救出された人々は政府監視の下、病院で適切な処置を受け、回復に向かっていると言う内容だった。
だが、キャサリンは知っている。あの救出作戦はSMS、いや――撫子商会の助けがなければ成立しなかったと言う事実。
そして、ダルフィムの乗員が未だ軍の隔離施設に収容されたままだと言うことを――
「いずれ、十二時の鐘がなったら――魔法は解ける」
先程のキャサリンの言葉を気にしてか――
ランカのことを指したそのレオンの言葉に、キャサリンは溜息をこぼしながら返事を返す。
「違うわ。あの子はガラスの靴を見つけたのよ」
そう、ランカの魔法は、そんなことで決して解けることはないとキャサリンは確信していた。
オズマの義妹であるランカを、キャサリンはいつも視線で追っていた。だからこそ分かる。
彼女はいつも自分の夢に真摯だった。見ていて嫌になるほどに――
ミス・マクロスの時も――そして、あの場所にも、自分の力で辿り着いたのだと言うことは映画を見ればよく分かる。
だからこそ、レオンのその何でも分かっているかのような発言は、彼女には許せなかった。
「キミが履けなかった靴を?」
「履けなかったんじゃなくて、履かなかったのっ」
レオンの意趣返しとも取れる嫌味に、キャサリンは嫌そうに答える。
キャサリンは胸の内で自分に言い聞かせていた。「大統領の娘である自分には、大統領の娘としての役目がある」と――
そこに政治的な裏が孕んでいようと、キャサリンにとっては自分で選択した道なのだ。
ただ、その選択さえも――
女の意地だったのかも知れない。
歌姫と黒の旋律 第11話「ロスト・メモリーズ」
193作
「次は雑誌のインタビューです! 急いで!!」
「はいっ」
最近のランカの一日は忙しかった。それこそ目が回りそうと言うのは、こう言うことを言うのだろう。
朝から夜遅くまで続く、レッスンや取材、撮影などのタイムスケジュール。この間まで、駅前で手配りの宣伝活動をしていたとは思えない日常が、ランカの生活を塗り替えていた。
「見て、ランカちゃん」
「ん?」
移動中の車内で、エルモが指差したのは天空門ホールだった。
そこはシェリルがフロンティアに来艦した時に行なわれたコンサートで使用された会場――
そして、ランカのファーストライブが行なわれる予定の場所だった。
夢にまで見たファーストライブが、憧れのシェリルが歌ったあの場所で行えると言う現実に、ランカは心躍らせる。
(ここで、私のステージがはじまるんだ)
ただ、そんなランカにも気がかりなことが一つあった。
「ランカちゃん、行きますよ」
「あっ、はい!」
仕事が忙しく、ほとんど学園に通えていないと言う現実――
美星学園は、芸能活動などで、すでに社会に出て働いている生徒に限り、レポートなどの提出で出席日数などを憂慮してくれるのでそこは問題ないが、それでも皆と会えないのはランカも寂しい。
それに、親友のナナセから連絡があって知ったことだったが、来週はアルトの誕生日だった。
時間をなんとか作り、アルトと直接会って話がしたいランカだったが、それも今の状態だと難しい。
このファーストライブも控えている大事な時期に、エルモの張り切っている顔や、自分の為に頑張ってくれているスタッフを見ると「お休みを下さい」とは中々言い出せなかった。
それ故に、ランカは頭を悩ませる。少なくとも誕生日のプレゼントと、ファーストライブのチケットだけは自分の手で渡したい。
そう思いながらも、今日も慣れない仕事に追われ、その忙しさから機会を逃していくのだった。
美星学園のプールサイド。そこにアルト達の姿があった。
普段は仕事で滅多に顔を見せないラピスや、シェリルも授業に参加してるとあって、その水着姿を一目見ようと野次馬の男たちがプールを取り囲むフェンスに、群がるように集まっていた。
「え? 早乙女くんのところにも連絡ないんですか?」
その中で、スクール水着に収まりきらない一際大きな胸を揺らし、ナナセが迫るようにランカのことをアルトに聞きに来る。
目の前にアップで差し出された胸に圧倒され、顔を赤くするアルト。
視線をそらすようにプールの方に向けると、仏頂面で――
「なんで、オレのところに来るんだ?」
「メールに書いたんです。早乙女くんの誕生日のこと……」
ランカにアルトの誕生日のことをメールしていたナナセは、少なくともアルトのところには連絡が行っているだろうと思っていた。
だが、それほど忙しいのか? 最近のランカは学園にも顔を出さないし、メールを返してくれることも少なくなっていた。
事実、アルトにも連絡されていないところを見ると、ナナセもランカのことが心配になってくる。
「それだけ、今が充実してるってことよ」
声のした方をアルト達が向くと、そこには学園指定の水着をまとったシェリルが立っていた。
その後ろには同じく水着を着たラピスが、興味なさそうな顔をして立っている。
「それより、アルト――あなた、誕生日なの?」
「まあな」
何か小声で呟きながら頷くシェリルに、アルトは不審な目を向けながらも黙っている。
下手にシェリルにツッコミを入れれば、どんな飛び火が自分にかかってくるか分からないと言うことをしっかりと理解しているからだった。
もっとも、それでも認識は甘いのだが――首を突っ込む突っ込まないに関わらず、シェリルに目をつけられた時点で手遅れだと言うことを、忘れてはいけない。
それで苦労をしているアキトを、ラピスは傍でずっと見てきていた。
それ故に、シェリルが何かを考え、そしてアルトが巻き込まれようとしているのが分かる。
だが、アキトに関係のないことは自分にも関係ないと、何も言わず静観を決めているラピスだった。
「ランカさん、早乙女くんには何かって思ったのに……」
「きっと来ますよ。今はファーストライブも決まって、すごく忙しいだけですよ」
落ち込むナナセを励まそうと、ルカもフォローを入れる。
だが、ランカのことが気になっていたのは、何もナナセだけではなかった。
ルカもミハエルも表向きは何事もないように装っているが、寂しいと言う気持ちはある。
アルトも、ランカのことを気にしていないと言えば嘘になる。だが、彼自身、ランカの夢にかける情熱を知っていたので、そのことで彼女の頑張りに水を差すようなことをしたくなかっただけだった。
それに、アルトもSMSだけでなく、今では撫子商会のエステバリス隊に秘密裏に出入りさせて貰ってることもあって、訓練で忙しい。
こうして学園にいる時間以外は、ほとんど訓練か任務にかかりきりになっていることが通例となっていたので、ランカのことを気にしている余裕が自分になかったと言うのもあった。
「それに、一番楽しいときでもあるしね。今は毎日が新しいこと尽くめで」
「そう言うものですか?」
「経験者は語るよ」
今のランカのような時期を体験してきただけに、シェリルの言葉には経験者だけが持つ重みがあった。
だが、そんなシェリルに意趣返しとも言わんばかりにアルトは皮肉めいた言葉を返す。
「その経験者とやらは暇らしいな。やたらと学園で見かけるが」
まあ、アルトの言うように確かにランカに比べればシェリルはここ最近、よく学校に来ていた。
それでも登校日数は週の半分と言ったところなのだが、銀河の妖精とまで言われたトップアイドルとして見れば、「仕事の方は本当に大丈夫なのか?」と周りが言いたくなる気持ちも分からなくはない。
実際、ツアー中のことを思えば仕事は減ってはいるし、ギャラクシーが消息不明となった今では、今まで培ってきた地盤が失われたのと同義なので、新人と言えど華々しいデビューを飾り、今が旬の話題沸騰のランカと比べれば、そのオファーの数も言うまでもなく差があって当然だった。
それに敢えて言うなら、プロスペクターの計らいで意図的にシェリルの仕事の数が減らされていたからと言うのもある。
歌手と言えど、彼女達は年齢的にはまだ学生だ。それなのに学業が疎かになってはいけないと、プロスペクターは仕事を締めていた。
今まで歌手一筋できていたシェリルは、通信教育による最低限の知識はあっても、学校に通っていたわけではないので、同世代の友人と接する機会などほとんどなかった。
それ故に、この機会はプロスペクターもアキトも良い機会だと考えていたと言うのもある。
シェリルだけでなく、ラピスのこともあるが、二人には歳相応の学生らしい生活を送って欲しいと考えていた。
「経験の分、時間のやり繰りが上手いのよ! 言っとくけど、仕事が仕事が少なくなった分けじゃないからね!!」
どんな事情にしろ仕事が減っているのは事実で、それは半分、見得のようなものだったのだが、アルトにそう言われて黙っていられるほどシェリルは大人ではない。
後ろにいたラピスも「やれやれ」と言った顔で溜息を吐く。
そんな時だった。シェリルがくしゃみをしたのは――
「くしゅん!」
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
繰り返し咳き込むシェリルを心配して、駆け寄るラピス。
そんなシェリルの肩に、ミハエルは優しくタオルをかける。
「……気がきくわね」
「誰かと違ってね」
苦笑をもらしながらミハエルに礼を言うシェリル。
そんなミハエルの行動に怒りを覚えた野次馬達からは、嫉妬の混じった殺意の眼が向けられていた。
普通なら、少し風邪をひいたシェリルに優しくよりそうクラスメイト。そんなよくある温かい日常の一コマで済んだのかもしれない。
だが、一緒にいたラピスはそんなシェリルを見て、周囲とは違い、一人、険しい表情をしていた。
(お姉ちゃん……やっぱり)
唇を噛み締め、言いかけた言葉を咽喉の奥に押し込めるラピス。
アキトの言っていた言葉が、ラピスを踏みとどまらせていた。
――シェリルはすべてをルリちゃんから聞き、それを知った上で、それでも尚、真実を知りたいと言ったそうだ。
だから、オレはシェリルの意志を尊重したい。たとえ、それがどんな結果になったとしても――
その話を聞かされた時、ラピスはシェリルの覚悟を知った。
だからこそ、ラピスは何も言えないでいた。シェリルの覚悟に水を差すような気がして――
「でも、真面目な話、結構無理してるんじゃない? うちの科、結構ハードだし」
プロとしての自覚を人一倍持つシェリルが、体調を崩すと言うことに、勘のよいミハエルは少し不審に思っていた。
それでも、予想できることと言えば、仕事と学業の両立が本人が自覚している以上に、彼女の負担になっているのではないか?
と言うことくらいしか思いつかない。
それ故に、そんなシェリルを心配したのだが、シェリルは何事もなかったかのようにミハエルの方を向き笑顔で答えると――
「良い息抜きだわ。それに、来週からはしばらくこないつもりだし」
「仕事?」
「そう、珍しいヤツ」
別にシェリルが仕事で学園を休むことは珍しいことではなかったので、ミハエルも深くは追求するつもりはなかった。
だが、この仕事が、後にあんな事件を引き起こすとは――この時のミハエルには予想もつかなかった。
「ガリア4で慰問公演? シェリルさんが?」
マクロスクォーターの中にある隊員の休憩所として使われているバーに、キャサリンとオズマの姿があった。
人払いをしてあるのか、周囲には誰の姿もなく、バーには似つかわしくない重々しい雰囲気で密談をしている。
「ああ、その護衛任務に人を回せないか? ――と打診があったんだわ」
「受けたの?」
オズマが護衛任務くらいの報告で、こんな席を設けたとはキャサリンには思えなかった。
だからこそ、オズマに不審な目を向けながら、その出方を待つ。
「いや、何せ、あそこに派遣されてる新統合軍の部隊は、彼の有名な『第33海兵部隊』だからな」
「え……まさか、あのゼントラーディ主体の?」
キャサリンが驚くのも無理はなかった。
今から半世紀も前の星間戦争で、人類に味方し素直に文化を受け入れることが出来たゼントラーディ人もいれば、戦後、仕方なく人類に下ったゼントラーディもいる。
言って見れば、後者のそうした鼻つまみ者≠ニ称される者の集まり、それが第33海兵部隊だった。
規律を重んじる軍にとっては厄介者、かと言って、そうした勢力は軍内部にも派閥として未だ存在する為、内部分裂を恐れて下手に処分も出来ない。
出来れば関わり合いになりたくない相手、それが彼らだった。
「そう、あの部隊だ」
「…………」
キャサリンもオズマの話を聞いて、やっと納得がいったのか考えを巡らせる。
シェリルはただの歌手ではない。言って見ればギャラクシーからの預かり物、そして銀河に住む人々にとっても大切な要人と言える女性だ。
通常のアイドルとはことなり、その政治的価値、重要度は言うまでもなく高い。
そんな彼女を慰問とは言え、態々、危険と分かっている相手のところに送り込もうとする政府の考えが分からなかった。
もし、シェリルの身に何かあれば、政治的問題にも発展しかねない。
「このことを商会の方は?」
そう、彼女の所属は今は撫子商会だ。彼らが、特にあのアキトが素直にこの話を受けるとは思えなかった。
「そっちとは話がついてるそうだ」
「うそ……」
キャサリンは納得が行かなかったのか、オズマの返答に渋い顔を見せる。
政府の行動もよく分からないが、商会の動きも解せないものがある。
「妙だよな。最近の政府の動きは……ヒュドラの疫病の件といい、今回の件といい――
例の謎のバルキリーについてもだんまりを決め込んでやがる」
「あたしも、ちょっと調べてみるわ。色々と気になってたし」
オズマの用事が何かを悟ったキャサリンは、話を待たず即答した。
事実、キャサリンはレオンの行動にも不審を感じていた。そこにきてここまでの一件。
そして、その裏にはいずれも撫子商会の影が見える。
「ねえ……彼ら、敵だと思う?」
「さあな。だが、少なくとも奴らは、軍を嫌ってるように見えるぞ。いや、信用してないと言うべきか」
「そう、よね」
商会が、敵か、味方か? それは彼我の戦力を見比べてもキャサリンには重要な事に思えてならなかった。
フロンティアに常駐する新統合軍すべてが結集すれば、まさか撫子商会の戦力に劣っているとは思えないが、彼らが軍の敵となった場合、バジュラとその両方を相手に出来るかは疑わしい。
最初のうちはレオンもそのことを気にして、商会を警戒しているのだとキャサリンは思っていた。
だが、それだけでは納得が行かないほど、レオンの行動には不審な点が多く目立つ。
「判断を誤れば軍の敵にはなるかも知れないが、オレ達の敵になるとは限らない」
「それって、どういう意味?」
SMSも今や軍の一部だ。軍の敵になると言うことは、SMSの敵に回ると言うことと同義だと考えていたキャサリンが、そのオズマの言葉に疑問を感じる。
「じゃあ、なんであいつらは態々、オレ達を鍛えたりしやがるんだ?
アルトはバレてないつもりだろうが、向こうの連中に鍛えてもらってることくらい分かってる。
それに、こないだの演習だって、あれは見方を変えれば指導とも取れる」
「それは、こちらのことを探ろうとしてるとか?」
「だとしてもだ。あの演習、あいつらにはたいしてメリットもなかった。
むしろ、あれだけの力を誇示すれば、軍との軋轢も強くなるのは目に見えてる。
奴らは軍人でも政治家でもない、ただの民間企業だ。メリット、デメリットだけで考えれば、明らかにデメリットの方が目立つ方法を何の理由もなしに取っているとは思えん」
「それじゃあ……」
「だからと言って、味方とも言えないだろうがな。少なくとも、今はオレ達≠フ敵ではない――と言ったところか」
ほとんど、オズマの勘のようなものだったが、キャサリンもそう言われてみれば納得のいく節もあったのか、考え直していた。
商会の行動には確かに不審な点があるが、そのいずれもフロンティアが損をしている訳ではないのだ。
むしろ、フロンティアへの無償支援の件や、先日のギャラクシーの救援活動に関しても、彼らばかり損をしてるように見える。
それに彼らが来艦してからと言うもの、バジュラが来襲して以降、右肩下がりだったフロンティアの経済が、以前よりも活気を見せてきているのは揺るぎない事実だった。
「どういうこと? それじゃ、彼らの目的って……」
すべてに疑問を感じ、真実に向かって動き始めた二人――
そうしてる間にも彼らのすぐ傍で息を潜め、新たな策謀が動き出そうとしていた。
「へ〜、大気があるんだ。ガリア4って」
ルカの説明を受け、驚きの声を上げるミハエル。
プールでシェリルから慰問公演の話を聞いたアルト、ミハエル、ルカ、ナナセの一行は、仕事で早引きしたシェリルとラピスを除いて、その話を肴に休憩を取っていた。
「そうか、大気が……」
シェリルが慰問公演をすると言うガリア4――そこにはルカの説明によると大気があり、人が呼吸できるだけの酸素が確認されていると言う。
昼と夜の温度差が激しいために人が生活するには向いていないらしいが、それでも大気がちゃんと存在し、空があると言うことはアルトにとっても魅力的な話に聞こえていた。
「ここからだと主観時間でほぼ一日、客観では一週間近くかかっちゃいますけど」
「それって……」
今回の慰問が組まれたことに疑問の声が上がっているのには、これも大きく起因している。
フロンティアとガリア4を結ぶライン――その航路の途中にはフォールド断層があり、通常であれば一瞬で飛べる距離を、その断層のために数日かけて移動しなくては行けない現実があった。
バジュラと違い、現在の技術水準ではフォールド断層は飛び越えられないものとされているため、こう言った時間の差異が生まれる。
銀河ネットワークなど、中継ポッドを用いた通信方法ならほとんどタイムラグのない通信も可能ではあるのだが、それでも人を乗せた船を往き来させるには障害が付きまとう。それが今の人類の限界だった。
「でも、慰問なんて珍しいな。こないだやったドキュメンタリーの第二弾?」
そんな無理をしてまで、この情勢が不安定な時期に慰問公演と言うのもおかしいと思うミハエルだったが、テレビなら「そう言うこともあるのか?」と疑問を押し殺していた。
ミハエルが言っているドキュメンタリーとは、先日学園で撮影されたシェリルのドキュメンタリードラマのことだ。
先日、その放送がテレビでされ、シェリルと同じチームだったアルト達は、シェリルと一緒にテレビに出演していた。
そのことで、学園でもちょっとした話題に上がったほどだ。
アルトとミハエルは、その容姿と成績もあって学園での人気も高い。学園の首席と次席、それに加えてこの容姿だ。
女生徒が騒ぐのも無理ないと言える。それにルカも、情報分野ではダントツの成績を残している天才少年だ。
父親の会社でLAIの技術部顧問をやってる他、経済の分野でもかなりの著名人だった。
そこに加え、シェリルやランカと言ったアイドルを周囲にはべらせ、入学早々、ファンクラブまで結成したと言うラピスや、隠れファンの多いナナセも仲間に引き入れている。
嫌でも、このグループは目立つ。そこにあのテレビ放映だ。騒ぎにならない方がおかしいと言うもの――
「さあな」
あの放映から数日、黄色い声援を放つ女生徒に追われ、男子生徒には嫉妬の篭った殺意の目を向けられ、アルトは散々な思いを体験していた。
ミハエルは持ち前の要領のよさで事なきを得ていたようだが、不器用なアルトにそんな上手い解決策が思い浮かぶはずがない。
結果的に一番被害を被っていたのは言うまでもなくアルト一人だった。
その間、ルカはというと、LAIの研究室に篭っていたので、学園がどれほどカオスな状態だったかを知らない。
そんな、穏やかな昼下がりの談話を楽しんでいたアルトに、若い男の声がかかった。
「アルトさん」
「ん?」
アルト達が振り向いた先、校舎前に停まった黒塗りの高級車の前に立っていたのは、紫色の着物に身を包んだ男性だった。
かなり身分の高い人なのか、落ち着いた物腰でアルトに話しかけると一緒にいたミハエル達に会釈をする。
「兄さん……」
そんな時だった。アルトが驚きとともに漏らした言葉に、そこにいた全員が目を見開いて驚いた。
「「「兄さん!?」」」
「先日の撫子商会との演習――
やはり軍の内部では彼らの過剰な戦力対して、なんらかの処分を施すようにとの声が高いようです」
補佐官の一人から報告を受け、大統領のハワードは苦い顔をしていた。
フロンティアが保有する戦力でも最高の錬度を誇るSMSが、数も劣る相手に完膚なきまでにやられたとの報告を受け、軍は浮き足立っていた。
民間プロバイダーの方が昨今の新統合軍の兵士より錬度が高いことは今更、議論するまでのことではない。
ただ、問題として、それだけの戦力を持つ企業が、軍になんの協力もしてない現状に問題があると彼らは声を荒げていた。
今はバジュラとの問題もあり、政治的にも情勢が厳しい時期だ。
下から上がってくるのは「正式に彼らと雇用契約を結び、軍の戦力として扱うべきだ」と言う意見や、過激なものになれば「従わないのであれば無理矢理にでも徴収して拘束すべきだ」と言う意見まででてくる始末――
どちらにしても、撫子商会の持つ保有戦力を軍は看過できないと判断していた。
だが、軍のその行動を許してしまえば、ようやく安定してきたフロンティアの経済を混乱に招く恐れがある。
この情勢下、それが軍人としての考え方としては決して間違っていないとハワードも思うが、一方で、今のフロンティアが問題なく航行を続けられているのは撫子商会のお陰だと言うことも忘れてはいない。
政府としても彼らにはすでにこれ以上ないと言うほどの借りがある。無償での補給活動や、不安に駆られる市民感情を考慮したチャリティーコンサートなどを含めた福祉事業に、人々の生活を支える経済支援活動。
バジュラの襲撃で家族を亡くした遺族などへの賠償金などで頭を悩ませる政府には、その実――金がない。
スポンサーであるLAIやビルラーの支援を受けているとはいえ、それにも限りがあった。
ギャラクシーとの連絡も途絶え、補給ラインが断たれている現状では、撫子商会に頼る以外に補給を頼める相手がいない。
たとえ資金面でどうにかなっても、生活する為に必要な資材、食料の問題だけはどうにもならないと言う現状もある。
撫子商会の船は巨大な商業船だ。その辺りから、備蓄も抜かりがなく、今のフロンティアの市民を養うだけなら一年は維持できるだけの供給を可能だと彼らは申し出てくれていた。
これらのことから、今、彼らとの関係をこじらせるのはまずいとハワードは考える。
だが、軍にも軍の面子がある。今はハワードの裁量で抑えることが出来ているが、いずれ軍部の暴走を招くことは明らかだった。
「これは、頭が痛いな……」
『大統領、ホットラインが入っております』
「誰からだ」
また、軍からの苦情か何かかと嫌な顔をするハワードの元に、事態を動かす一本の電話が入る。
『撫子商会――ホシノ・ルリさまです』
「――!?」
それは、撫子商会の実質的トップ――ルリからの、大統領個人に宛てた会談要請だった。
「シェリルと言うお嬢さんの番組見ましたよ。それとこれも――」
展望レストランに続くエレベーターの中、アルトは兄と呼んだその男性と一緒にいた。
彼の名は早乙女矢三郎――早乙女一門の歌舞伎役者で、アルトの兄弟子に当たる。
血縁関係はないが、数多い嵐蔵の弟子の中でもひと際優秀だった彼のことをアルトも尊敬し、その慣習から矢三郎のことを「兄さん」と呼んでいた。
「ただのスタントだ……」
「でも、芝居は芝居です」
芝居のことを持ち出され、面白くないアルトは仏頂面をしたまま返事を返す。
だが、矢三郎はアルトのそんな態度を意に返した様子も見せず、淡々と段取りを進めて行く。
レストランに到着し、案内された席でひさしぶりの対話をする二人――
だが、映画の話や、テレビの話などをするためだけに、矢三郎が自分に会いにきたとはアルトも思っていなかった。
「わざわざ、映画の感想を言いに着たのか? 用件が他にあるんじゃないのか?」
アルトのその言葉に、矢三郎の身にまとう空気が変わる。
「嵐蔵先生が倒れました。幸い、命に別状はなく、マスコミには伏せることが出来ましたが――
ご無理がたたっているようで、今も自宅に伏せっておられます」
「――!? ……オレには関係ない」
「本当に、そう思っていますか?」
矢三郎から、父親が倒れたと聞かせれ、動揺したのか?
アルトはいつになく険しい表情を見せていた。
「もうすぐ、誕生日ですね」
「……?」
矢三郎が突然、何を言い出したのか理解できないアルトは怪訝な表情を浮かべる。
嵐蔵が倒れたと言うのに、そこで自分の誕生日となんの関係があるのか、分からなかった。
「あなたに贈り物があります」
それは兄弟子として、そして彼の才能を惜しむ一人の役者として、矢三郎からアルトに贈られた言葉だった。
「ランカちゃん、頼まれていたアリーナのチケットです」
「ありがとうございます。社長」
「でも、どうしてわざわざ? お友達にもご家族にも私の方で手配を……」
ランカが社長にファーストライブのチケットのことを頼んだのは、ナナセから連絡を貰ってすぐのことだった。
自分がここまで来ることが出来たのは、皆の応援があったからだと思う一方、あの時からずっと――
いつも傍で助け、励ましてくれていたのはアルトだったとランカは想いを寄せる。
だからこそ、このチケットを誕生日プレゼントと一緒に、アルトに自分の手で渡したかった。
「直接、手渡したい相手がいるのよね?」
そんな、ランカの心を見抜いてか、シェリルがいつものスマイルで後ろに立っていた。
テレビ局のロビー。
シェリルの奢りで、甘いジュースを受け取ったランカはそれを手にする。
「期待の新星にっ」
そうして、乾杯の音頭を取るシェリル。
ささやかではあるが、ランカのデビューを祝したシェリルなりの気遣いだった。
「こんな、自販機のジュースで味気ないけどね」
「そんなことないですっ! ありがとうございます!!
これもシェリルさんと――」
「アルトのお陰?」
「あ……」
シェリルに見抜かれたのが恥ずかしかったのか、ランカは顔を赤くして俯く。
そんなランカの仕草が、シェリルには可愛く見える。
「バースデープレゼントでしょ? それ――」
「これだけだとちょっとアレかな? ――と思ったりするんで、他にも一応」
「そう、あいつ喜ぶわよ。きっと――」
「…………」
シェリルのアルトを「あいつ」と呼ぶ親しさに胸にざわめきを感じるランカ。
それは、ランカにとっても、ずっとシェリルに聞きたかったことの一つだった――
アルトとシェリルの関係。シェリルはアルトのことをどう思っているのか?
それがランカには気になって仕方がない。丁度よい機会だと、意を決してランカは、そのことをシェリルに聞き出そうとする。
「シェリルさん、あの――」
「う……」
その時だった。シェリルの様子が急変したのは――
持っていたコップを床に落とし、頭を抑えながら、フラフラと近くの手すりに持たれかかるシェリル。
そんなシェリルの只ならぬ様子に、先程までの話も忘れ、ランカはシェリルを支えるように付き添う。
「シェリルさん!!」
「お姉ちゃん――っ!!」
大声を上げ、駆け寄ってきたのはラピスだった。
すぐにシェリルに駆け寄ると、その額に手を当て――
「ラピス……」
「お姉ちゃん、やっぱり無理してたんだね」
「大丈夫よ。私はプロよ……体調管理は……」
「ウソっ! 私、知ってるんだから!!」
突然、現れたラピス。その二人の言い合いにランカは困惑していた。
シェリルの体調が悪いというのは分かる。しかし、あの普段は口数の少ない方の大人しいイメージを持つラピスが、これほど動揺しているところをランカは見たことがない。
それだけに、事態は切迫しているかのように思えた。
「シェリルさん……」
「ほら、ラピス。ランカちゃんが心配するじゃない」
「あ……」
シェリルのことばかりで頭が一杯になっていたラピスは、完全にランカのことを忘れていた。
それだけに、今のこの事態をどう収拾しようかと必死に考えを巡らせる――
「やれやれ、こんなところで騒がれては皆さんに迷惑ですよ」
「ごめんなさい。プロス……あなたも今日はきてたのね」
「ええ、まあ。慰問公演のスケジュールの話や、警備の確認もありましたしね。
しかし、これは可愛らしいお嬢さんと一緒ですな。確か、ランカさんでしたか?」
「あ、はいっ! えっと……あなたは?」
そんな、三人の目の前に見計らったように姿を見せたのはプロスペクターだった。
いつものスーツに身を包み、トレードマークのメガネをくいっと持ち上げる仕草を見せる。
「これは失礼しました。わたくし、シェリルさんのマネージャーをさせて頂いております――
プロスペクターと申します」
そう言って名刺を取り出すプロスペクターに、ランカはその名刺を受け取りながらも目をパチパチとさせる。
ランカの記憶が確かなら、シェリルのマネージャーは女性――グレイスのはずだった。
だが、目の前の中年の男性がグレイスにはとても見えない。
「えっと――」
衝撃的な出来事が次々に起こり、完全にランカの頭の中はパニックになっていた。
「ランカさん、これから少し時間――ありますかな?」
それからしばらく経って、その日、最後の撮影を終えたランカは、プロスペクターの案内で撫子商会の旗船に着ていた。
最初に乗せられた高級車も然ることながら、ここにきてからランカには驚きの連続だった。
案内された部屋は見たこともないほど豪華で広く、そこが同じ船の中だとはとても思えないランカは感嘆の声を上げる。
プロスペクターの話から会長の邸宅と言うことは聞かされていたが、まさかこれほどとは予想していなかった。
「でも、その……そんなお金持ちの会長さんが私にどんな御用なんでしょうか?」
案内された部屋のソファーに腰掛けながら、緊張した面持ちでランカは慣れない丁寧語で話そうとする。
そんなランカの様子に苦笑を漏らしながら、シェリルがまず姿を見せた。
「もっと楽にしていいのよ。あなたはお客さまなんだから」
「シェリルさん――! もう、いいんですか!?」
先程までのシェリルの様子を見ていたランカは、元気そうに自分で歩いて現れたシェリルの身体を気遣う。
だが、当のシェリルは先程までとは打って変わって血色のよい顔色をしており、見た目にも元気そうに見えた。
「ええ、心配かけてごめんね」
「いえ……それで……」
「あなたが、ランカさんですね」
ランカが、先程のことをシェリルから聞こうとしたその時、奥の扉から姿を見せる女性――
その存在感にランカは思わず息を飲んで、彼女の次の言葉を静かに待つ。
それほどの存在感が彼女――ホシノ・ルリと呼ばれる女性にはあった。
(この人が撫子商会のトップ……)
エルモに「撫子商会の会長さんに食事に招待された」と話をしたら、狂喜のあまり小躍りを始めてしまった。
それほど、この業界でやっていく意味でも、彼女との接点は大きいのだとエルモはランカに言った。
経済界の重鎮、政界の要人と言えど、滅多に会うことが出来ないと言う雲の上の存在――
そんな女性がランカの前に今、立っている。
(綺麗な人……まるで御伽噺に出てくるお姫様みたい)
透き通るような白い肌――
そして、吸い込まれそうな金色の瞳――
滑らかに輝く藤色の長い髪――
そのどれもが幻想的で、ランカはただ、溜息を吐くしかなかった。
ここに来た目的も忘れてしまいそうにランカはなる。
そんな彼女を現実に引き戻したのは、ルリの一言だった。
「ランカさん」
「ひゃ、ひゃい!」
突然、名前を呼ばれ舌を噛むランカ。そんなランカを見て、おかしそうに隣にいたシェリルが笑う。
「酷いです……シェリルさん」
「……アハハ! だって!!」
「シェリルさん、お客さまに失礼ですよ?」
そう言いながらも、ルリも笑いを堪えるの精一杯だった。
顔を引き攣っているのが分かるのか、シェリルも一向に笑い止む気配がない。
そして扉の前で控えていたプロスペクターも、何故か後ろを向いて肩を震わせていた。
「みんな……酷いです」
完全にヘソを曲げてしまったランカは、用意してもらったミルクティーを手にしながら、リスのように口を膨らませていた。
しかし、場の雰囲気は先程までとは打って変わって、気安いものになり、その空気がランカの緊張も解きほぐす。
本人は分かっていないだろうが、こうした空気を作り出したのも他ならぬ彼女の魅力なのだ。
「あ、このお茶……」
「お気に召しませんか?」
「いえ、凄く美味しいです! こんなの飲んだことがないくらいっ」
「それはよかった。この茶葉は、地球で取れた物なんですよ。
もっとも再開発が進んでいるとは言っても、汚染されている場所はまだ数多くありますから、こうした物が取れる土地も限られているんですが……」
「地球……」
そこが人類の故郷だと言うことはランカも知っていたが、実際に見たことはない。
地球統合政府の拠点がある場所で、人類の発祥の地だと言うこと以外はよくは知らなかった。
映像資料などで見ることはあっても、ランカたちにとっては実際に行くことは叶わない場所――
それが地球と言う星の認識だった。
「でも、そんな貴重なお茶を私なんかの為に煎れてもらって、本当によかったんでしょうか?」
――このお茶一杯でいくらするんだろう? と考えるだけでランカは恐縮してしまう。
「大切なお客様には、最上のもてなしを持って返す。それがここのやり方ですから、お気になさらないで下さい。
それに今は無理でも――いつか、みんながこんなお茶を飲める日がきっと来ます」
それは夢物語のような話に聞こえるかもしれない。だが、目の前にいる女性なら、いつか成し遂げてしまうのではないだろうか?
――と思えてしまえる何かがあった。
「あの、それで私に話って――」
シェリルのことも気にはなるが、恐らくそれを含んでの話だとランカは思い。意を決して彼女に話を切り出した。
『例の物は無事、引渡しが成功したようです。スペックはその設計図どおり、LAIの技研は狂喜してましたよ』
レオンは自分の執務室で部下からの報告を受けていた。
先日、接触した人物から渡されたデータを元に開発した兵器――その引渡しが無事に終了したことを聞くと安堵の表情を浮かべる。
これも彼の計画にとっては必要な手札の一つだった。
「フェアリーは?」
『予定通りガリア4に向かうようです。先程、確認の連絡がありました』
それは彼の計画の内ではなかったが、これだけの情報とバックを持っている相手のことだ。
レオンも利用してやるつもりで協力を惜しまなかった。LAIとの窓口を引き受け、その代わりに技術提供を受ける。
そして、お互いの目的には一切干渉しない。それが二人が取り交わした契約内容だった。
一先ず協力関係を取ってはいるが、レオンも顔も見せない相手を完全に信用するつもりはない。
レオンは自分の野心のため、ビルラーだけでなく、政府を、軍を、そして彼ら≠も利用するつもりでいた。
『それと、一つご報告しておきたいことが――』
その内容を聞いてレオンがいつになく大声を上げる。
「何――っ!? ランカ・リーが彼女と接触しただと!?」
それはレオンの完全に斜めを行く事態だった。
ランカ・リーには以前から監視を付け、そうならないように機会が来るまで泳がせておくはずだった。
――にも関わらず、先に彼女が接触したとなると話が変わってくる。
「何故だ!? そのためにお前たちをつけていたのだろ! 何故、そんなことになった!?」
『いえ、それが……ランカ・リーを監視していた者たちが何者かの襲撃を受けまして……』
レオンの子飼いである軍の特殊工作員が全員、見ず知らずの何者かにやられ、全滅したと言う報告だった。
それにはレオンならずとも驚く。ならばと――
「監視モニタの映像は――」
『すべて消去されていました。恐らく、相手は高度な情報隠蔽能力も持っているのかと……』
「く――っ!」
分かっているはずだった。
そんなことが可能な人物は、ここまでのことからも、あの男をおいて他にいないとレオンは考える。
「テンカワアキト……」
その男の名を口にする度に、幾度となく計画を邪魔してくれた恨みがレオンの中で沸々と沸いてくる。
だが、それもこれで終わりと言わんばかりにレオンの表情が愉悦に歪む。
「だが、あの計画が実行されれば、ヤツも妖精も、ガリア4ともども終わりだ」
彼らの計画に頼るのは癪だったが、アキトの存在が消えれば、まだやりようはいくらでもあるとレオンは考えていた。
「テンカワアキト、それにフェアリーが消えれば、ランカ・リーの件は後でなんとでもなる」
『では、ランカ・リーの件は?』
「今はいい。泳がせておけ」
『――はっ』
通信の切れた執務室に、薄気味悪く笑う男の声が木霊していた。
「そんな、それじゃあ……」
ランカがシェリルの口から聞いた話は、15、6の少女にはとても辛い現実だった。
「そうよ。私の命は――もって、あと半年。無理をすれば、それよりずっと短いでしょうね」
ランカが知ることが出来たのは――
シェリルが今の医療技術では治せない不治の病にかかっていると言うこと――
延命処置を受け、病院で寝ていれば少なくとも、あと数年は生きられるかも知れないが、彼女がそれを望んでいないと言うこと――
そして、命を賭けてでも、知りたい真実があるということだった。
「このこと、アルトくんには……?」
「アルトには話してないわ。ここにいる以外の人間で知ってるのは、商会でも極一部の人間と、アキトにラピス――
それにグレイス……彼女だけでしょうね」
「なんで、このことを私に?」
「あなただからよ――本当はこの時期にあなたに教えるつもりではなかった。
もう少し後に、せめてファーストライブが終わるまでは待つつもりだったわ」
シェリルの真意がランカには分からなかった。こんな大事な話を、何故、自分だけに伝える必要があるのか?
彼女ならもっともらしい嘘をついて誤魔化すことも出来たはずなのに「今、何故?」と言う疑問ばかりが頭を巡る。
「ランカさん、よく聞いて下さい――」
そして、ルリから語られる言葉――それがランカの運命を大きく左右することとなる。
次の日――ランカはいつも通り、笑顔で仕事をこなしていた。
だが、分かるものには分かるように、笑顔に陰りが見える。
「ランカちゃん、何かあったんですか?」
「社長……ううん、なんでもないです。今日も、お仕事頑張りましょう」
ランカがそう言う以上、エルモもそれ以上は何も口を挟もうとしなかった。
――出来れば、私たちはあなたに協力して欲しいと考えています。
でも、このことはあなたの過去にも、そして、あなたの行く末にも大きく関わる問題です。
だからこそ、私はあなたによく考えて決めてもらいたい。
ルリのその話から、シェリルが自分のことを包み隠さず話してくれた真意をランカは悟った。
ランカの過去――それは忘れている記憶に関係することだと言うことだ。
シェリルの目的のためにもランカの力が必要で、そしてルリの目的のためにもランカの過去の情報が必要と言うこと――
だからこそ、シェリルは自分のことを包み隠さず話してくれたのだろうと、ランカは思う。
(きっと、私が協力しなければ、シェリルさんとルリさんは困ることになる)
それが分かっていて、尚――
あの二人は自分のことを気遣ってくれているのがランカには分かった。
(本当に、辛そうだったな……)
ランカに事情を説明していたときのシェリルの表情、そしてルリの顔は――
表には出すまいと努力していたようだが、ランカには非常に辛く、悲しそうに見えた。
(私はどうしたいんだろ……アルトくんなら、どうする?)
過去を思い出そうとするだけで、酷い頭痛に襲われる。
何度もそれが原因で気絶したことがあるランカにとって、過去と向き合うと言うことはそれほど恐ろしいことだった。
そんなことを楽屋で考えていると、携帯電話が鳴っているのに気付く。
慌てて携帯を取り、送信者の名前を確認すると、そこには『松浦ナナセ』の名前が表示されていた。
「ナナちゃん……?」
――ピッ!
電話を取り、そっと携帯に耳を当てる。
『ランカさんですか?』
「ナナちゃん……」
ナナセの電話は学校に来ないランカを心配してのものだった。そして、アルトの誕生日の件――
正直、デビューが決まってから友人とこうしてゆったりと話をする機会もなかったとランカは思う。
それだけに安心して気が緩んだのか――ナナセと会話してるうちに、いつしか涙を流し始めていた。
一度流れ出すと、止め処なく溢れてくる涙。携帯越しに静かに泣くランカに、ナナセは学園のことを、みんなのことを話しながら、ゆっくりと落ち着かせていく。
『少しは落ち着きましたか?』
「うん……」
『何があったかを聞くつもりはありません。でも、ランカさん――
私はランカさんの味方ですから――少しは友達に頼って下さい。
ミシェルくんも、ルカくんも、それに早乙女くんも、みんなランカさんのことを心配してます』
「うん……ありがとう。ナナちゃん」
ランカの声が少し軽くなったのを聞いて、ナナセも安心する。
ナナセが電話した直後のランカは、何か、張り詰めたものが壊れたような危ない感じがしていたが――
今のランカは完全に落ち着きを取り戻していた。
「ねえ、ナナちゃん。もし、記憶喪失になって、みんな忘れちゃったとして……」
『……ランカさん?』
「でも、今が幸せで――でも、忘れてるせいで悲しむ人がたくさんいて……
ごめんね。自分でも、何、言ってるんだろ……忘れて」
何を言いたいのか上手くまとまらないランカは、その言葉を詰まらせる。
そもそも、これは自分の問題なのだから、ナナセに相談するのは筋違いだと、また自分に言い聞かせようとして――
『私は、それでも過去を忘れたくありません。なかったことになんてしたくない』
「ナナちゃん?」
『だって、忘れるってことはランカさんのことや、みんなのこと――
大切な人たちを、大好きな人を想う気持ちを失くしてしまうってことでしょ?
私はそんなのは嫌です。ランカさんのことを忘れて生きていくことの方がきっと辛い』
ナナセの言葉はランカの心に突き刺さった。
たしかに自分は辛いことばかりを想像していたけど、忘れている過去――
そこには家族のこと、友人のこと――
大切な人たちとの思い出があったに違いない。
『忘れたいこと、辛いこと、たくさんあるかもしれないけど――
それでも私はきっと――思い出したいと、そう思うと思います』
記憶を失くすほどのショック。オズマはランカに「無理に思い出さないでいい」と言った。
過去は過去のままで、辛いなら思い出さなくても生きていける。
それは確かにそうだろう――だが、忘れている過去にも、そこには確かに大切な人、家族や友人がいたはずだ。
その人たちのことを忘れ、過去に目を背けたままで、本当に胸を張って生きていけるのだろうか?
『ランカさん、嫌な聞き方かも知れませんけど、アルトくんのことを忘れたい――
本当にそう思いますか?』
ナナセにはランカが何を言っているのか分からなかったが、それでもランカの苦悩は理解できた。
だから、ランカには安易な道を選んで欲しくなかった。
それが友人を苦しめる結果になっても、ランカならきっと乗り越えていけると信じて――
「ナナちゃん……ありがとう」
涙を拭い、ランカは笑顔でナナセにお礼を言う。
悩んでいた先程までの自分とは嘘のように、ランカは晴れ晴れとした表情をしていた。
そうして、ナナセにお礼を言うと――ランカは携帯電話の電源を切る。
そのまま、別の番号に電話し始めるランカ。
そんなランカの様子を扉越しに見守っていたエルモは、静かにその場を後にする。
撮影スタジオでは、ランカの到着を待つスタッフが痺れを切らせて待っていた。
そんなスタッフに、エルモは丁寧に説明しながら謝っていく。
「すみません――ちょっと、こちらの手違いでステージ衣装の到着が遅れてるみたいで――
申し訳ありませんが、もう少しだけ、待っていただけますか?」
「ちょっと頼みますよ――っ! こっちだってスケジュール押してるんだから」
「すみません、本当にすみません!!」
大袈裟に土下座して誤るエルモに、スタッフも「仕方ないな。あと三十分だけですよ」と言い、小休憩の合図を送ると去っていった。
「損な役割ですな」
所用でテレビ局に来ていたプロスペクターは、エルモとスタッフのやり取りを一部始終監察していた。
そして、エルモが謝っている原因が、昨日の話に起因しているものと思ったプロスペクターは責任を感じ、そんなエルモを労おうと声をかけた。
だがエルモは、先程まであれほど嫌味を言われ、スタッフに怒られていたと言うのに、嫌な顔一つせず、そんなプロスペクターの言葉に笑顔で返事を返すのだった。
「これが、私の仕事ですからね」
エルモ・クリダニク――プロスペクターはこのことで、彼の印象を深く胸に刻むこととなる。
――あなたに贈り物があります。
そう言った矢三郎の言葉が、アルトの胸に深く残っていた。
矢三郎が提示した条件と贈り物とは、アルトが誕生日に嵐蔵に会いにくれば、勘当を解くと言う約束を取り付けたと言うものだった。
だが、まだ心の整理をつけることが出来ていないアルトは、そのことで思い悩んでいた。
父親とのことは単なる親子喧嘩と言うだけではない。家に戻り、嵐蔵を襲名すると言うことは、パイロットの夢を諦め、歌舞伎役者に戻ると言うことだった。
空に憧れた気持ち――パイロットになりたいを思ったあの気持ちは今でも嘘じゃないと、アルトは誓える。
だが、あの後、矢三郎に言われて――戦争をしたかったのか? と問われればNOだった。
アルトは決して戦争をしたかった訳じゃなかった。
最初は単に空に憧れただけで、矢三郎の言うとおり、戦う覚悟もなく児戯に等しいものだったのかも知れない。
だけど今は――
「アルトくん、お待たせ……撮影が長引いちゃって」
「こんな時間に急に会いたいなんて、どうしたんだ?」
「うん、それなんだけどね……
……アルトくん? アルトくんも何かあったの?」
いつもと少し様子の違うアルトに気付いたランカは、怪訝な表情を浮かべる。
さすがにいつもアルトのことを見ているだけあって、アルトの変化には鋭いランカだった。
余りにオロオロと大騒ぎして心配するランカに、アルトは仕方なく昨日あったことを話す。
それを聞いたランカは、最初はよく分からない様子で話を聞いていたが、アルトの事情を察すると、自分のことのように喜んで口にした。
「アルトくん、それってビックニュースだよ! だったら、絶対にお父さんに会っておかないとっ」
「おまえ……オレの話を聞いてたのか?」
それが出来るなら、アルトもこれほど悩んだりしないと言うのに、ランカは「どうして?」と言わんばかりの無邪気な表情で答えを返してくる。
さすがのアルトも怒る気になれないのか、ランカのその返事に生返事を返すだけ――
「どうして? お父さんと仲直りできるチャンスかも知れないんだよ?」
「どうしてもだ! 家に戻ればオレはパイロットの夢を諦めるしかない……だから、オレは……」
そう、家を出たのも、そのためだった。自分の夢を叶えるためにはあの親と決別して、家を出るしかないとアルトはランカに言う。
だが、ランカの答えは違っていた。
「それでも、親子でしょ? たった二人の肉親でしょ?
アルトくんがパイロットになりたいって言う気持ちはよく分かる。
でも、それでも、親子の絆は消せないと思う」
「おまえに――何が分かる!!」
さすがにランカと言えど、土足で心に踏み込まれたのが堪えたのか、アルトはいつの間にかランカの手を振り解き、その手を払いのけていた。
払い除けた手が勢いあまってランカの頬を打つ格好になる。
やってしまった――アルトがそう思ったときにはすでに遅く、ランカは地面に倒れていた。
「ランカ……オ、オレは」
明らかに動揺するアルトに、ランカは何も言わず静かに立ち上がると――
殴られた頬を腫らせながらもアルトを責めることなく、逆に震えるその手を優しく包み込んだ。
「分かるよ……私も一緒だから……」
「……ランカ?」
「お兄ちゃんに歌手なんてダメだって頭ごなしに否定されて、それで頭にきて家を飛び出した」
それはランカが歌手の道を歩みはじめた日の出来事――
「でもね。ミシェルくんに甘えるなって怒られて、そしてカッとなって、マイクを持ってみんなの前に立って――
そこで気付いたの。一人でどれだけ喚いていても、泣き叫んでいても、それだけじゃ何も変わらない。
何も出来ないんだって――」
ランカはあの時、ミハエルに挑発されて、その場で歌って証明しようと人の行き交うモールに一人で立った。
だが、たくさんの人を前に足が竦んでしまい、声が出なかった苦い経験を思い出しながら、必死に伝えたいことをアルトに語る。
「そんなとき、空を見上げると紙飛行機が見えたんだよ。アルトくんの紙飛行機が――」
「オレの紙飛行機……あっ」
ゼントラのモールで何気なく投げた紙飛行機。あれがランカの目に留まっていたのだとアルトは気付く。
「やっぱり、あの紙飛行機はアルトくんだったんだね」
「いや、アレは……」
「私はね。あのことがあって、いつも、みんなに助けてもらっているんだって、気付けたの。
ナナちゃん、ルカくん、ミシェルくん、それにシェリルさんやラピスちゃん――
他にも社長や、たくさんの人に助けをもらって、私はここにいる。
そして、そんな私があるのは――お兄ちゃん、それにアルトくんがいてくれたから」
「ランカ……」
「だから、私は逃げないでお兄ちゃんにちゃんと向き合うことにしたの。
どれだけ反対されても構わない。分かってくれるまで、話をしようって――」
その夢に向かって真摯な姿勢は、アルトがランカに好意を抱き、憧れる部分でもあった。
だからこそ、いつしかランカに惹かれていたのかも知れない――そうアルトは思う。
「アルトくん、アルトくんにとってお父さんは、過去はそんなに目を覆いたくなるような酷いものだった?
私はアルトくんの昔を知らない――だけど、本当にお父さんのことが嫌いなら、こんなに悩んでないと思うよ」
ランカの言う通りかも知れない。アルトはいつしかランカの言葉に耳を傾け始めていた。
すぐに心の整理がつくものでもないが、それでも少し前向きに、アルトは父親とのことを考え始めていた。
「すぐには答えを出せない……でも、考えてみる」
それはアルトなりの精一杯の譲歩だったのだろう。その答えに満足したのか、ランカはいつになく嬉しそうな笑顔を見せる。
「それで、おまえの話はなんだったんだ?」
照れ隠しもあったのだろう、自分のことばかり話していたのではここに何しに来たのか分からないと、アルトはランカの方に話を振る。
もう、夜も遅い。仕事で遅くなることがあるとは言え、あまりランカを遅くまで連れまわしていたと知れたら、今度はアルトがオズマに殺されかねない。
それもあって、アルトはランカの話を急かした。
「私は、もういいの」
「もう、いいって……おまえ」
「本当はアルトくんに少し会いたかっただけだから」
そう言い、小悪魔ぽく舌をペロっと出すランカに、思わずアルトは顔を赤くして動揺した。
(本当はアルトくんに決意を聞いてもらうつもりだったけど……いいよね)
顔を赤くするアルトの腕を取り、いつもより少し素直に、そして我がままに、家まで送ってくれるようにお強請りするランカ。
いつもと違って積極的なランカに戸惑いながらも、アルトは黙ってランカの言うことに従う。
(いつか、アルトくんにこのことを話すと、相談しなかったことを怒るかも知れない。でも――私はアルトくんを信じたい)
「なんだ? にやけて……気味が悪いぞ」
「なんでもない!」
(どんなことがあっても、私はアルトくんとなら、笑って未来(あした)を迎えられる)
それは一人の少年と、少女が、自分の過去と向き合うことを決めた大切な日――
明日へと続く、大切な一歩を踏み出した瞬間だった。
『本当にいいのか?』
あれから一週間――ガリア4に向けて飛び立つ一機のシャトルと、それを警護する白いエステバリスの姿があった。
「ええ、本当は誘ってあげようとも思ったんだけど――二人の邪魔をするほど野暮じゃないしね。
それよりもアキト。その機体、いつものと違うみたいだけど……」
『サレナは改修中だ。それに、あの機体では目立ちすぎる』
通信越しに、連絡を取り合うアキトとシェリル。
結局、シェリルの警護はいつも通りアキトが行なうことになっていた。
今回は慰安と言うこともあり、先方を威圧するわけにも行かず、まさか軍艦で行くわけにも行かなかっため、ユーチャリスの使えないラピスは留守番と言うことになっていた。
それでも出発する直前まで、心配してついて行くとごねていたラピスだったが、アキトに諭されて渋々承諾していた。
「アキト……頼りにしてるわよ」
『誰に言ってる。オレが約束を違えたことが一度でもあったか?』
「嘘をつくことは、よくあるけどね」
『…………』
シェリルの冷やかしめいた皮肉にアキトは無言で答える。
だが、そうは言っていてもシェリルは知っていた。
アキトの嘘は優しく、そして時に吐かれる者にとって、残酷なものだと言うことを――
(だから私は、あなたに嘘を吐かせないようにしたい。一番傷つくのはアキト――あなただと思うから)
それはシェリルの願いだった。
アキトの優しい嘘に頼らない強い自分でいたい。
そして、アキトが嘘を吐かなくていい、頼れる相棒(パートナー)として隣に立ちたいと――
シェリルを乗せたフォールドシップと――
フォールド機関を搭載した、新型空戦フレームを装備したエステバリスが、ガリア4へ向けて飛び立つ。
そこに待ち受ける黒い謀略を知りながらも、彼らはフォールドの波に姿を消していった。
……TO BE CONTINUED押して頂けると作者の励みになりますm(__)m