【Side:太老】
「また、あなたですの?」
「それは、俺が言いたい台詞だけどね……」
現在、俺は風紀委員に連行されて、顔見知りと言うことで、黒子から事情聴取を受けている。
理由は虚空爆破事件≠ニ呼ばれる事件の現場に俺が偶然にも居合わすことになったからだ。しかも、被害者として。
あのファミレスのアルバイトは、美琴の所為で失敗に終わってしまったので、次なる仕事先を探して駅前にあるスーパーへと足を運んでいた。
レジの店員にアルバイトのことを尋ねようとした矢先のことだ。
「風紀委員です! この場から早急に避難してください!」
数名の風紀委員が、そう叫びながら店内に入って来るものだから、場は一気に騒然とした。
どうやら店内に爆弾が仕掛けられた可能性があるらしく、そのことを店長と大声で話し合っているのが聞こえた。
嫌な予感しかしなかったので、関わり合いにならないようにと、さっさと店を出ようとしたのだが――
「きゃっ!」
逃げる人込みに倒され、足を挫いて動けない女の子を発見してしまった。黒子と同い年くらいの女生徒だ。
さすがに見過ごすことも出来ない。女生徒を背中に担ぎ、避難しようとした、その時だ。
商品棚の陰に、隠すように置かれていたウサギのヌイグルミ≠発見したのは、
「店の方の被害は甚大でしたが、あなたのお陰で風紀委員にも客にも怪我はなし、そのことは感謝しているのですけど――」
あれは危なかった。間一髪のところだったと言っていいだろう。
ヌイグルミが爆弾だと直感で察した俺は、爆弾の方に、壁になるように後の大きいな商品棚を蹴り飛ばし、背中に背負った女生徒と、近くにいた風紀委員を脇に抱えて、慌ててカウンターの中に飛び込んだ。
一瞬でも判断が後れていたら、俺達は間違いなく爆弾の餌食になっていたはずだ。
咄嗟にあんな行動が取れたのも、小さい頃からずっと養ってきた危機回避能力の賜物だ。
昼寝をしていると、巨大な爆撃音と共に、壁や天井を一撃の元に破壊する殺人的な攻撃が飛んでくるなんて当たり前、食事の最中に、大気圏を突入して宇宙船が振ってくるなんてことも日常的にあった。
あれに比べれば爆弾など、まだ可愛げのある悪戯に思えるから不思議だ。
「何で、あんなところに居たんですの?」
そう、店はあの騒ぎで半壊。俺は再び仕事先を、勤め始める前に失ったと言うことだ。
呪われてでもいるのだろうか? ここまで間が悪いと、そうとしか思えない。
「ははは……」
「ちょ、ちょっと何ですの!?」
「俺のアルバイトを返せ――っ!」
思わず叫んでしまった。もう、色々と溜まっていたらしい。
【Side out】
異世界の伝道師外伝
とある樹雷のフラグメイカー 第4話『警備員』
作者 193
【Side:黒子】
「なるほど……仕事を探していたんですの」
事情を聞く限り、ファミレスの件は、わたくし達にも責任があると思わなくはない。
しかし、今回の一件といい、本当に運のない男だ。
いや、そう言う機会にばかり恵まれているのだから、逆を言えば運がいいのか?
どちらにせよ、このまま放っておくのも寝覚めが悪い。
「しかし、あなたも能力者なのでしょう? この学園に来たのも、だから≠ネのでは?」
彼の能力が何かは分からないが、あれだけのことが出来るのだ。
それなりの奨学金も申請すれば受けられそうなものだ。
第一、この学園都市にスカウトされたからには、そうした説明を最初に受けなかったのかと不思議でならない。
「え? 俺、能力者じゃないよ?」
「……そんな訳ありませんわ。あれだけのことをして置いて能力者じゃないと?」
「前も言ったような気がするけど……ってか、風紀委員なら調べれば分かることじゃない?」
そう、以前にIDを彼から見せてもらって身元照会をしてみたところ、どう言う訳か、身元保証人は学園になっていた。
しかも、能力レベルは無能力者≠示していたのだから、あの時は自分の目が信じられなかった。
しかし、そんなことがありえるのだろうか?
いや、どう考えてもおかしい。彼の能力は一般人からは逸脱し過ぎている。
どこの一般人が、車を蹴り飛ばしたり、目で追いきれないほどの速度で動いたり、爆発から二人を抱えて逃げ果せると言うのか?
そんなのは只の一般人≠ニは言わない。
「鍛えたから……とか?」
「どこの少年漫画の主人公ですか! と言うか、何で疑問系なのです!?」
彼のお馬鹿な発言に、思わず大声で張り叫んでしまった。
部屋の隅で報告書をまとめていた初春が、「ヒッ!」と小さく叫び声を上げ、肩を震わせながら、こちらの様子を窺っている。
こっちは真剣に考えていると言うのに、本人はずっとこの調子だ。真面目に応対するのが馬鹿らしく思えてくる。
「もう、いいですわ……」
どうせ、本当のことを話すつもりはないのだろう。
わたくしはとっとと話題を切り替え、次の話に持って行くことにする。
「だとすれば、学生≠ナはないと言うのも本当なんですの?」
「高校くらいは行きたかったんだけどね……家庭の事情で行けなかったんだ」
「そうですの……」
少し悪いことを聞いたかも知れない。自身の能力をひた隠しにしていることといい、そしてそれを学園も何故か黙認している。
訳ありの様子だし、複雑な事情があるのかも知れないと、わたくしは察した。
「仕事がしたいのでしたら、紹介しても構いませんわよ」
「え! マジで? いや、本当に!?」
「本当ですわ。わたくし、嘘は申しませんもの」
嘘は言ってないが、本当のことも何一つ言ってはいなかった。
【Side out】
【Side:太老】
「しかし、あなたも能力者なのでしょう? この学園に来たのも、だから≠ネのでは?」
黒子はそう言うが、俺は能力者ではない。それは断言できる。
そんな特殊能力があるなら、こんな苦労はしていない。
体のスペックは色々とあって高いかも知れないが、中身は極普通の一般人だし。
「え? 俺、能力者じゃないよ?」
「……そんな訳ありませんわ。あれだけのことをして置いて能力者じゃないと?」
「前も言ったような気がするけど……ってか、風紀委員なら調べれば分かることじゃない?」
そう、風紀委員なら、学園の『書庫』を調べあげるくらい簡単なはずだ。そうすれば、学園都市の居住者の情報くらい直ぐに分かる。
警備員で行った能力測定でも、俺の能力は無能力者と診断された。これは実際に聞いたので間違いない。
だから、風紀委員の報告との話の食い違いや、俺が巻き込まれただけの只の一般人だと言うことが理解されて、あの程度で解放されたのだ。
「鍛えたから……とか?」
「どこの少年漫画の主人公ですか! と言うか、何で疑問系なのです!?」
嘘じゃないんだが、やはり信じてもらえない。それだけではないとは言え、体を鍛えていたと言うのは本当だ。
子供の頃から勝仁に剣を習い、あの柾木家≠フ女性達の引き起こす騒動に、色々と巻き込まれ、揉まれて来た。
宇宙に上がってからも、海賊討伐を通して随分色々と経験させてもらった。
ようは、その経験が生きているだけの話だ。
「だとすれば、学生≠ナはないと言うのも本当なんですの?」
「高校くらいは行きたかったんだけどね……家庭の事情で行けなかったんだ」
中学卒業と同時に鬼姫に拉致られて、それどころの話ではなかった。
しかも、親公認だと言うのが、更に裏切られたみたいで悲しい。
どこの世の中に、受かっている高校を蹴ってまで、海賊相手の最前線≠フ現場に、自分から首を突っ込みたいと思う?
俺には無理だ。そんな自殺願望や、勇者思考は持ち合わせていない。
しかし、平穏な日常に戻る退路は完全に断たれていた。
拉致同然で宇宙船に乗せられ、気付いた時には宇宙に居たからだ。
「仕事がしたいのでしたら、紹介しても構いませんわよ」
「え! マジで? いや、本当に!?」
「本当ですわ。わたくし、嘘は申しませんもの」
捨てる神あれば拾う神ありだ。黒子が救いの女神に見えた。
と、思っていたのだが、色々と間違っていたようだ。
「上の許可が下りました!」
「本当か! いや、これで随分と楽になるかもしれんな!」
どう言う訳か、俺は警備員の待機所にお邪魔してる。
綺麗なお姉さん≠ネら嬉しいのだが、むさ苦しい男ばかり、しかもおっさん≠ノ囲まれても嬉しくもない。
何故、こんなことになっているかと言うと、黒子の紹介すると言った仕事が、警備員の仕事だったからだ。
最近、能力者の犯行が激増して人手不足らしく、学園の教員≠セけでは対処が追いつかない状態になっているのだとか。
風紀委員も似たような状況らしいのだが、学生ではないと言うことで、こちらを紹介された。
通常、教師でもなく、学園の関係者でもない外部の者を、警備員に雇い入れることなどありえないと言う話だったので、それなら許可が下りる心配もないだろうと安心していたのだが、
「大丈夫、給料もちゃんと出るらしい。しかし、大変だったな。
高校も行けなくなって、生活費も自分で稼がないといけないとは」
黒子が、どう言う説明をしたのか知らないが、問題なく雇用契約が成立してしまった。
上層部が特例≠ニして認めたらしい。俺の境遇に同情して、気を利かせてくれたのだろうか?
いや、そんな気の利かせ方、勘弁して欲しいのですが……。
何れにせよ、今更、断れる雰囲気ではない。
「驕ってやるから、今晩は飲みに行くか?」
と、見た目、四十代半ばと思われる部隊長が、俺のことを気に掛けてくれている様子で、食事に誘ってくれている。
他の皆も「がんばれよ! 応援してるからな」と、何故か励ましの声を掛けてくれていた。
今更、「いや、さすがに警備員はちょっと」と、言える雰囲気じゃない。
退路は完全に断たれていた。
【Side out】
【Side:黒子】
一向に眠れない。正木太老のことを考えているからだ。
彼なら、警備員でも十分にやっていけるだろう。
それに学園上層部≠フ彼への対応から、通常なら通らない無茶でも、特例≠ニして話が通るのではないかと、わたくしは推察していた。
案の定、彼が仕事を探している事情を添えて上に申告してみれば、『特例として警備員の仕事を認める』と言う通達が返って来た。
やはり、上層部は彼のことを何か隠しているようだ。
「とは言え、これで彼との接点≠熄o来ましたわね」
携帯の番号を渡したと言うのに、一向に電話を掛けて来る様子がなかったから、逃げられたかと心配していたのだ。
あれほど釘を刺したと言うのに、仕事探しに夢中になって忘れていた。
しかも、先日の噴水で水浸しになったことで、文字が滲んで読めなくなっていたと言われた時には、空間移動能力でビルの屋上からダイブさせてやろうかと殺意が湧いた。
(もっとも……彼なら、それでも平然と生きていそうですが)
正直、わたくしの慧眼を持ってしても、底がまったく見えないと言うのが本音だ。
コンコン――
部屋の扉をノックする音で、我に返り気付く。考え事をしていると、何時の間にか朝になっていた。
外で小鳥の囀る声が聞こえる。時刻は午前四時を半ば回ったところ。七月と言うこともあって、外はすでに日が差し始めていた。
どうやら、お姉様が部屋に返って来たようだ。
「お帰りなさいませ、お姉様」
「た、ただいま……」
「寮監の目を誤魔化すのも大変なのですから、夜遊びは程々にして欲しいですの」
ここ最近、たまにこう言うことがある。原因は分かっている。
お姉様がこうして疲労困憊の様子で、焦燥しきって帰って来る時は、決まって話に出てくるあの殿方@高ンの時ばかりだからだ。
正木太老も相当に型破り≠ネ男だが、お姉様の話に出てくる男も、相当に非常識≠ネ存在のようだった。
超能力者、しかも学園第三位≠フお姉様と何度も諍いを起こしながら、その事如くを無傷で生還していると言うのだ。
お姉様は負けていないと言うが、お姉様を相手に無事なだけでも、その男は十分に異常な存在≠セ。
「登校時間まで寝かせてもらうわ……朝食はパスするから、適当に理由言っといて」
「はあ……」
「アンニャロウ、いつか……かなら……ず」
自分のベッドに倒れ込んだかと思えば、そのまま死んだように眠ってしまった。
大体、これまでの話から考察するに、一晩中追いかけっこでもしていて、余程疲れていたのだろう。
しかし、今回もこの様子から察するに、決着はつかなかったようだ。
「しかし……お姉様に限って、そんなことはないとは思いますが」
枕を抱きしめて、幸せそうな寝顔を浮かべて眠るお姉様を見ていると、わたくしの脳裏に嫌な予感が過ぎる。
そんなことはないと思いたいが、先日の正木太老とのヌレヌレグショグショ事件≠ニいい、お姉様の最近の行動の陰には男の影がちらつく。
しかも、相手はどちらも型破り≠ナ、非常識≠ネ男と相場は決まっている。
逆に、そうでなければ、お姉様の相手は務まらない。普通の男性なら、とっくに黒焦げになって病院のベッドの上だろう。
「心配でなりませんわ……」
わたくしには、お姉様の拘りが、怒りとかそう言ったものではなく、別のところにあるように思えて仕方なかった。
【Side out】
……TO BE CONTINUED
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