【Side:太老】
「次の人、どうぞ」
「ミサカ一〇七四五号です」
こちらの設備を使って作った円筒形の生体強化の機械を使って、妹達の体を調整していく。
簡易的な機材ではあるが、GPなどで施されている戦闘用ではなく、一般にも普及している汎用の生体強化、そして延命調整を可能とする結構な自信作だ。元々、最低限必要な機材は整っていたとはいえ、二日貫徹して準備した甲斐はあった。
薬物の投与によって急速な成長を促し、短命に成っている妹達の寿命も、俺が生成したナノマシンを投与することでホルモンバランスを正常な状態に整え、細胞の再生回数を増やすことによって寿命を大幅に回復することが可能となる。
この先、無理に延命調整を施さなくても、残り百年くらいなら問題なく生きられるはずだ。
問題点は老化が極端に遅くなる、と言う点だが、幸いにもここは学園都市。実験の副作用だとか色々と誤魔化しようはあるだろう。
――あの事件の日から既に三日が経っていた
実験関係者の殆どは、何故か事前に展開を完了していた警備員と風紀委員の包囲網に成す術もなく捕まってしまったらしい。
あの送りつけたデータを基に動いたとしても、随分と手際が良過ぎるくらいで、正直言って驚かされた。
俺の方はと言うと、あの後、打ち止めの調整を終えたところに殴り込んで来た美琴と、どう言う訳か命懸けの戦闘を繰り広げる羽目になってしまい、小一時間も全力の美琴の相手をさせられるという散々な目に遭わされてしまった。
どうやら俺の与り知らぬところで妙な話になっていたようだ。例の如く、説明足らずのミサカが悪い。
そんなこんなで色々と紆余曲折あった末、妹達の延命調整を俺が担当する話になってしまっていた。
理由は語るまでもなく、打ち止めと同様、妹達がそれを望んだからだ。
「……後、何人だ?」
「……九千二百五十五人よ」
疲れきった様子で、芳川は残りの人数を口にする。
あの後、駆けつけた警備員に拘束されかかった芳川だったが、俺が責任を持って彼女の身柄を預かるということで、事情聴取だけで穏便に済ませてもらった。と言うのも、彼女には、まだまだ手伝ってもらうことが山程あったからだ。
こっちは研究者共の尻拭いをさせられているというのに、自分だけ楽をして逃げようなど、冗談ではない。重症の天井や他の研究者の分まで、芳川には存分に働いてもらうつもりでいた。罪の意識を感じているのであれば、そのくらい当然のことだろう。その代わり、他の連中には今回の実験に掛かった費用、妹達の延命調整に掛かった費用、諸々を請求書として送りつけておいた。
学園側から実験の予算として降りていた資金を流用し、そこから連中の仕業に全て仕立てているので、各方面からの請求書は連中にくるという算段だ。
実験中止に伴う、研究費の返還請求も合わせれば、これで連中が借金塗れになることは間違いなしだが、俺の知ったことではない。
俺など、巻き込まれただけで一文の得にもなっていないのだから。
それに警備員にも頭の痛い事情はあったのだろう。今回の一斉摘発で逮捕された実験関係者は延べ二百名以上に上る。
彼等が隠れ蓑に使っていた製薬会社も、よく名前を聞く有名どころばかりだ。
この全てから事情を聞き、調書を作成するとなれば、夏休み期間中とはいえ、教職員と兼業している彼等の負担は相当に大きいはずだった。
妹達や、芳川一人の問題に労力を割いている余裕は、今の彼等にはないのだろう。
彼等の頼みの綱の統括理事会は依然、今回の件に対して沈黙を守ったままだ。そのことも影響していると俺は見ていた。
まあ、任せてもらえるのなら都合がいい。どの道、今の妹達は学園の言うことなど素直に聞くはずもないのだから――
「……それにしても、あなた何者なの? こんな技術、学園都市でも見たことがないものばかりよ?」
「それに関してはノーコメント。この機械も、これが終わったら処分するつもりだしね」
銀河法なんて物を異世界に持ち出すつもりはないが、過ぎた技術など争いの種にしかならない、と言う意見には俺も賛成だ。
残り九千人弱――先は、まだまだ長そうだった。
異世界の伝道師外伝
とある樹雷のフラグメイカー 第21話『ミサカの選択』
作者 193
【Side out】
【Side:一方通行】
「何だって……てめェが俺のトコにいやがるんだァ?」
「酷いんだよ! ご馳走してくれるって約束したのに、色々とあって有耶無耶にされちゃった上、その後もミサカの調整で忙しいからってミサカを邪魔者扱いして、コンビニのお弁当で済まそうとするんだから、ってミサカはミサカは事情を説明しつつ思い出してぷんぷん怒ってみる」
「あン? だからって、何で俺のトコにくる必要があンだァ?」
朝、目が覚めたらこいつ≠ェ部屋にいた。
水色のワンピースに身を包んだ、自分のことを『打ち止め』と名乗る少女。
あれから全く音沙汰がないかと思えば、俺の知らぬ間に実験は中止。
挙句には、実験の中止を告げられた翌日に、この口煩いチビが家まで押し掛けて来る始末。
一体全体、何がどうなってるのか、さっぱり分からないことだらけだった。
「マスターが謝ってくるまで家出する、ってミサカはミサカは決めたから一方通行を頼って訪ねてきてみたり」
「わかってンのか、てめェ? 俺はオマエ等を一万人近くも殺しまくった大悪党なんだぜェ?」
頭のネジが抜け落ちているんじゃないか? と本気で疑いたくなった。
こいつの事情は知ったことじゃないが、それ以上に意味が分からないのは、自分の仲間を殺しまくった奴の前に堂々と現れ、『頼って訪ねてきた』というこのチビの神経だ。
恨み言の一つでも言いにきたのなら納得も行くが、この俺を頼ってきたなど普通の奴の考えることじゃない。
「でも、一方通行は悪い人じゃないでしょ? ってミサカはミサカは聞いてみる」
「はァン!?」
「ミサカはマスターに色々なことを教えてもらった。美味しい物がこの世界には一杯あるんだってこと、珍しい色々なものが世界には溢れているんだってこと、そしてそれは知識だけじゃなく実際に経験しなければ、楽しいってことも嬉しいってことも何一つ分からないんだって」
「…………」
「ミサカにもっと楽しいことをしたい、生きていたいって気持ちを教えてくれたのがマスターだった。
ミサカ達にも価値があるんだって、生きていれば楽しいことが一杯あるんだって知ることが出来た」
まさか、こいつ等がこんなことを自分から言い出すなんて、夢にも思わなかった。
実験を当たり前、俺に殺されることを当たり前として受け入れ、死ぬ間際まで人形のように感情を表にださなかったこいつ等≠ェ。
「だからミサカは死なない。これ以上は一人だって死んでやるもんか、ってミサカはミサカは考えてる」
冗談とも思える打ち止めの言葉に、俺は溜め息を吐く。
実験の中止という話を聞かされ、最初はあれだけ実験に執着していた連中が何故? と思っていたが、これでようやく合点がいった。
妹達が連中の予想に反して使い物にならなくなったからだ。
そして、その原因を作ったのは間違いない。あの男だ。
打ち止めが『マスター』と呼んでいる男も、間違いなく奴だ、と俺は確信していた。
「それに、アナタがいなければ実験は立案されず、ミサカ達も生まれてくることがなかった、ってミサカはミサカは感謝してる」
「感謝してるだァ? どンな考え方をしたら、そンな結果に行き着くのか懇切丁寧に説明してもらいてェもんだな。
大体、俺はてめェらを散々殺しまくってるんだぜ? 結局のところプラマイゼロじゃねェか。
俺がオマエ達を楽しんで殺しまくってたことに変わりはねェだろォが!」
俺は苛立っていた。打ち止めの言葉に、明らかに動揺していた。
俺は感謝などされる人間ではない。純粋な想いを向けられるような人間でも、敵意のない言葉をかけられるような人間でもない。
妹達を殺しまくった事実は、どんなことがあっても消えるものじゃない。
あの実験は、俺も納得してやっていたんだ。恨まれこそすれ、感謝されることなど――
「それは嘘、ってミサカはミサカは断じてみたり。アナタは本当は実験なんてしたくなかった、ってミサカはミサカは推測してみる」
「ちょっと待てよ。そんな都合の良い話――」
「じゃあ、アナタは何で実験≠フ最中でミサカに話しかけてきたの? ってミサカはミサカは尋ねてみる」
それ以上、言葉が出なかった。
確かに俺は実験の最中、幾度となく妹達に話しかけていた。
しかし、その理由までは考えたことがなかった。
「『人に話し掛けたい』というコミュニケーションの原理は『人を理解したい』『人に理解して欲しい』、つまり『人と結びつきたい』という理由のためで、ただ殺すため実験を続けている理由にはならないはず。
それなら会話を続ける必要はどこにもない、ってミサカはミサカは論じてみる」
「…………」
「それにマスターも言ってた。アナタは不器用なだけで、実際にはそれほど悪人じゃないって。
ミサカも、そう思う。アナタは実験をやめたかったんじゃないかって、マスターとやり方は違うけど、ミサカに実験をやめて欲しくて脅えさせるような真似をしてやんじゃないか、ってミサカはミサカは推測してみる」
「はッ! くだらねェ! あの野郎と俺が同じ? 冗談じゃねェ! 今も、アイツを殺したくてウズウズしてるってのによォ!」
「それも嘘、ってミサカはミサカは断じてみる。アナタにはその機会が幾度となくあった。
実験の中止が告げられた段階で、飛び出していくことも出来たはず。でも、アナタは結局何もしなかった」
何でこんなにイラつくのか分からない。
だが、打ち止めの言葉は、俺の胸に響く。自分では考えたこともない行動の理由。
世迷言だと切り捨てることが出来ないほど、打ち止めの言葉には重みと説得力があったからだ。
理性では分かっている。しかし、感情が認めようとはしない。
(――ッて、俺は何でこんなに苛立ってるんだ?)
実験の中止を知っても飛び出して行かなかったのは、面倒臭かったからだ、とそう言えるだけの根拠が俺にはない。
本当に何で、俺はこんなに苛立ちを感じているのか?
そう、あの時からだ。奴に逃げられたあの日から、実験のことなど正直どうでもよくなっていた。
頭にあるのは、あいつのことばかり。
「それに、アナタが何度行っても無駄と思う。マスターに一方通行がきたらどうするのか? ってミサカが聞いてみたら――」
『あんなウスノロ≠ノ捕まる俺じゃない。何度でも逃げきってやるさ』
「とマスターは意地の悪そうな悪辣な笑みを浮かべて言ってた、ってミサカはミサカは述べてみる」
「はッ――」
その一言で、やっと気付いた。変えられたのは妹達だけじゃない。
俺も、とっくの昔に奴のペースに嵌められていたのだと――
「あ、それと『一方通行はロリコン≠セから気をつけろ』って、マスターは言ってたんだけど、ってミサカはミサカは少し自分の行動が軽率だったかと思い直しつつ距離を取りながら尋ねて見る」
「…………」
やっぱり、あの野郎とはきっちり決着をつける必要がありそうだ。
【Side out】
【Side:黒子】
「お姉様、大丈夫ですか?」
「屈辱だわ……あの馬鹿には電撃利かないし、もう一人の馬鹿には何故か当たらないし……」
お姉様が、アパートに置いてきたはずのミサカ五人と一緒に、施設に突入してきた時には驚いたが、それよりも大変だったのは、何かを勘違いなさったお姉様と、そんなお姉様から逃げ惑う太老との戦いの被害を食い止めることの方が遥かに大変だった。
『人のクローン相手に何やってんのよ! アンタは!』
『言い掛かりだ! 話くらい聞けっ!』
本気状態のお姉様相手に、お姉様が電池切れを起こす状態になるまで無傷で逃げきった太老は、ある意味でさすがと思う。
特別な能力も使わず、身体能力だけでお姉様の攻撃をかわしきった人物は、後にも先にも太老だけではないだろうか?
お姉様の方は、余程悔しかったのか? 体力も精神力も消耗し尽くした状態で、三日間、食事とトイレ以外は殆ど部屋を出ず、こうしてブツブツと呟きながらベッドの上で毛布に包まって不貞腐れていた。
「もう誤解は解けましたのでしょう? そんなに気になっているのでしたら、いい加減ベッドから起き上がって、ミサカの様子を見に行くなり太老に謝りに行くなりなさったらどうですか?」
お姉様が誤解した理由も分からなくはない。わたくしも、ミサカの言葉足らずな発言で誤解した一人なのだから。
とは言え、いつまでもこのまま、と言う訳にはいかないだろう。夏休みは、まだ始まったばかりだ。
その間、ずっと部屋に閉じ篭って太老達を避けている訳にはいかないことくらいは、お姉様も分かっているはずだ。
そう言うわたくしは、と言うと、何の相談もなく勝手な行動を取ったと言う理由で、当分の間、風紀委員の仕事を自粛するように、と風紀委員の先輩からきつく言い渡されてしまった。
あれだけのことをしてクビにならなかっただけマシだが、それでも事件のことを知りながら、こうしてジッとしていることしか出来ない、というのも辛いものがある。
それにどう言う訳か、風紀委員と警備員の行動が想像以上に早かったことも驚きの一つだった。
初春が逸早く事態に気付き、かなり早くから風紀委員の各支部に連絡を取り、指揮を執っていてくれたからだと言うのだ。
いつになく勘の鋭い初春を訝しく思いつつも、一応、礼を言っておこうと連絡してみたのだが、何故か? ここ三日、初春と連絡がつかない。友人の佐天さんに連絡を取ってもらおう、とそちらに連絡してみても、こちらもまたどう言う訳か、同じように連絡がつかない状態になっていた。
(まあ、あれだけの事件の後ですし、ただ忙しいだけかも知れませんわね)
佐天さんまで、というのは気にならなくはないが、今のわたくしは支部に近寄ることも出来ないので仕方ない。
自粛を言い渡されたのは一週間。あと四日で、それも解ける。
礼を言うのも、理由を尋ねるのも、それからでも遅くはないだろう、と納得することにした。
「それではお姉様、わたくしは太老の様子を見てきますわ」
「……ねえ、黒子」
「はい? 一緒に行く気になりましたの?」
「アンタ、いつから『太老』なんて呼び捨てにするような仲になったの?」
「…………へ?」
言われて気付く。しかし、これは別に他意があった訳ではない、と思う。
少しは太老のことを認めてやってもいい、とそう考えたからだ。
「こ、これはその――別に太老のことがどうの、と言う訳ではなく」
なのに言葉が上手く出て来なかった。
直ぐに『違う』と否定できればいいのに、何故か太老のことを思い浮かべると思うように言葉が出て来なかったからだ。
「そう言えば、正木も『黒子』なんて気安く呼んでたわよね?」
「それは確かにわたくしが呼び捨てにするように、と言ったのですが!
ああっ! 何を言ってるの黒子! 違うんですの、お姉様っ!」
呆れた様子で『お幸せに』などと溜め息を吐かれ、部屋を出て行かれるお姉様。
事件は解決したというのに、こっちは大変な問題を残したままとなっていた。
【Side out】
「本当にあの子≠轤オいね。考えてるようで考えてない。でも、結果的に全て良い方に転がり込んでる」
赤い髪に、まるで蟹の手足のように左右に飛び出した長髪。一風変わった近未来的な衣装を身に纏った少女。
そう、彼女こそが、『宇宙一の天才科学者』として銀河に名を轟かす、白眉鷲羽その人だった。
見た目に騙されてはいけない。この姿を取ってからでも二万年以上。
その正体は、訪希深や津名魅の姉、三命の頂神として生きてきた歳月は悠久≠ニも呼べるほど永く、気の遠くなるほどの無限の時を生き続けてきた超高次元の存在。
太老の姿が目的の座標になく、確率変動により誤差が生じ、どこか別の世界に飛ばされたことを知った鷲羽は、太老の後を追ってこの世界にまでやって来た。
「まあ、もう少し観察を続けてみますか」
こちらの世界に来て、しばらく太老の様子を観察していた鷲羽だったが、本来の予定していた世界≠ナなくても想定していた以上の結果≠ェ得られている事に気付き、無理に連れ戻さず、このまま様子を見てみてもよいか、と考え始めていた。
危険な世界のようだが、それも多少危険≠ニいうだけで、このくらいであれば今の太老でも十分に対処が可能な範囲だと鷲羽は考える。
現に今回の事件も、殆ど太老一人で解決したようなものだ。
誰一人気付いていないかも知れないが、太老が関わった時点で、この結果は偶然の産物ではなく必然へ変わっていた。
事象の起点。フラグメイカーとしての能力は、異世界でも有効だということが証明された、と言うことに他ならない。
そして太老の能力は、この世界の歪みを、誰も気付かないうちに更なる歪みで捻じ曲げようとしている。
「ああ、でも釘は刺して置かないとね」
そう言って虚空を見上げる鷲羽。
「そこで盗み見してるアンタさ。余り度が過ぎると、今度は目≠竍手≠失うだけで済まなくなるよ?」
――プツン
鷲羽がそう言った瞬間。どこかで、何かの回線≠ェ途絶えた。
学園都市総統括理事長、アレイスター・クロウリー。
天井から吊り下げられた巨大な円筒形の入れ物の中に、培養液に全身が浸かった状態で、逆さ向きにその男≠ヘ浮かんでいた。
学園都市を統括する世界最高の科学者であり、世界最強の魔術師でもある男。
そんな男が恐怖するのは、見たこともない一人の少女と、一人の青年だった。
正木太老に手≠フ一つである猟犬部隊を潰され、また計画の要である妹達の自由意志の解放などという、とんでもない事態を引き起こされてしまった。
絶対能力進化計画が実験中止になるだけなら、経緯は違っても予定に狂いはない。元々、あれはそう言う風に計画されていたのだから――
しかし、妹達の解放となると話は別だ。
そのため猟犬部隊を送り、正木太老の暗殺を企てたアレイスターだったが、それも予想を大きく超えた太老の力の前に敗北を帰してしまった。
延命治療のために世界中の協力機関に送る予定となっていた妹達は、正木太老の命令した『自由意志』により、それを拒否。彼の手による治療を受け、学園都市に留まることを望んだ。
一万人以上からなる妹達の強固な意志。強引に事を進めれば、最悪の場合、妹達全員を敵に回すかも知れないと言う最悪の事態に、アレイスターは自身の計画が狂い始めたことを今になって思い知る。
量産型能力者計画、絶対能力進化計画。それらは全て、彼の目的を達成させるための手段の一つ、真実を覆い隠す偽装に過ぎない。
彼の真の狙いとは、その実験の結果誕生した妹達を世界全土に送り込み、ミサカネットワークを利用して彼女達を虚数学区≠展開するためのアンテナとして利用することにあった。
しかし、それも正木太老の登場によって、予期せぬ方向で阻まれてしまった。
彼の力に興味を覚え、利用するつもりで警備員に仕立て上げたはいいが、その行動の全てが予想に反し、完全に仇となったカタチで裏切られる結果となった。
「何者なのだ? あの女は……」
そして、もう一つ――突如、学園都市に姿を見せた謎の女。白眉鷲羽。
アレイスターが学園都市中に張り巡らさせた滞空回線と呼ばれる目≠、いとも容易く掻い潜る不可思議な能力を持つ女。
五千万機という途方もない数のナノマシンを学園都市中に散布することで、アレイスターは学園都市のどこで何が起こっているか、と言う情報を全て掴んでいた。
しかし、その目を使っても正体や正確な位置を掴めないばかりか、ようやく居所を捕んだかと思えば、今度はその目≠奪われた。
本来なら外部からは絶対に干渉が不可能なはずの滞空回線を、ほんの一瞬で外側から乗っ取ってしまったのだ。
最後のあの一言は、自分への警告だとアレイスターは受け取る。
どうするべきか? と思い悩みながらも、世界最高の科学者、世界最強の魔術師と言われた男が、何一つ良い考えが思い浮かばない。
自身の計画や考えに固執する余り、彼は気付いていなかった。
生命活動の全てを機械によって補い、千七百年もの寿命を得ながらも、何一つ知ることが出来なかった答えへの近道が、目の前にあると言うことに――
……TO BE CONTINUED
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