【Side:太老】

「全く、あのお二人には困った物です」
「本当に申し訳無い……」
「いえ、太老さんに謝ってもらう事では……」
「そうは言っても家族同然の子達だしね。年長者の俺が注意すべきだった」

 リチアの言っている事は正しい。資料室で騒げば怒られて当然だ。
 ましてや生徒会役員とはいえ、マリアとラシャラは下級生。家のように接し、ここが学院と言う事を考慮しなかった俺にも責任がある。
 あの二人の仲違いは今に始まった事ではないが、時と場所は選んでもらわないと困る。喧嘩するほど仲がよいとも言うが、度が過ぎるとただの迷惑行為に繋がりかねない。今回が良い例だ。
 生徒会の仕事を手伝ってくれるのは嬉しいが、そこだけは年長者として、ちゃんと俺が注意するべきだったと反省していた。

「家族、ですか。お二人の事を本当に大切にされているのですね」
「まあ、色々と助けられてもいるしね。今の俺があるのは、あの二人のお陰でもあるから……」

 異世界に飛ばされ、行くあての無かった俺に手を差し伸べてくれたマリア。そしてギブアンドテイクの関係ではあるが、ラシャラにも随分と助けられていた。
 今の俺があるのは、あの二人の……いや、皆のお陰だ。
 平穏な日常からは程遠く、色々と問題(トラブル)も尽きないが、皆には素直に感謝していた。

「それよりも悪いね。資料整理を手伝ってもらって」
「いえ、私の方こそ助かっています。未整理の資料まで整理して頂いて」
「まあ、物のついでだしね。俺も勉強になるし」
「勉強ですか?」
「生徒会の事、聖地の事を知る良いチャンスでもあるからね」

 生徒会の予算計画書を作るために始めた資料整理だが、聖地や生徒会の事を知る良い機会だと考えていた。
 聖地の事は書物や人伝(ひとづて)に聞いた程度の情報しか持っておらず、実際に俺が知る事は少ない。
 教会に関してもそうだ。この世界の事を知るには、教会との関係は避けては通れない問題と言って良い。
 そして俺はこの聖地のやり方をおかしいと感じているし、教会の考え方にもどちらかと言えば否定的な立場にある。

 だからこそ、生徒会の仕事を通して少しでも知る事から始められればと俺は思う。
 百人居れば百通りの考え方がある。自分の考えが全て正しいと言えるほど、俺は自分が正しい事をしているとは思っていない。
 俺は自分の目的のために、自分の都合を優先しているに過ぎない。それは他の皆も同じだ。それぞれの思惑があって動いている。
 相手の考え方を否定する事は簡単だが、理由を知ってからでも遅くはないと考えていた。

「ん? どうかした?」
「い、いえ……」

 少しリチアの様子がおかしかった。
 挙動不審というか、思い詰めた様子で何か考え事をしている様子が窺える。それを心配して声を掛けたのだが、反応を見るにどうも触れて欲しく無い問題のようだ。
 俺にも色々とあるように、教皇の孫、そして生徒会長という立場を考えれば、彼女にも色々と込み入った事情があるに違いない。
 だが、本人から話してくれるならまだしも、無理に聞き出すつもりは無い。それに今回の場合、気軽に踏み込んで良い話には思えなかった。

「家族の話をさっきしたけど……俺はリチアさんの事も大切に思ってるから。だから、悩みや困っている事があったら、いつでも相談して欲しい」
「……え?」

 リチアとは友人として仲良くやれてはいると思うが、教会との関係は先程も言ったように良好だとは考えていない。
 真面目な性格のようだし余計に深く考え込んでしまうのだろうが、お互い公的な立場がある以上、そこを無視して関係が上手く行くはずもない。
 余り国や組織のしがらみをこうした場に持ち出したくはないが、それが分からないほど俺はバカではなかった。
 ただ、リチアには何かとお世話になっているし相談してくれれば、友人≠ニして俺に出来る範囲で協力するつもりだ。
 例え、彼女が教会の人間であろうとも、俺の大切な友人≠フ一人である事に変わりは無かった。

「あれ? 顔が赤いけど、もしかして熱でもあるんじゃ?」
「だ、大丈夫です! それよりも過去の行事記録でしたね。確か、こちらに以前まとめた資料が――」

 以前に渡した薬のお陰で随分とマシになったと聞いて安心していたのだが、直ぐに顔に出る辺り、身体が弱いのは相変わらずのようだ。
 手伝ってくれるのは嬉しいが、余り無理をさせては後でラピスを心配させてしまう。
 そう考えた俺は調べ物をそこそこに、適当な理由をつけてリチアには休んでもらおうと考えた。

『太老! やっと繋がった!』
「ん? グレースか?」

 すると、その時だった。緊急用に持たされている亜法通信機が鳴り、そこからグレースの声が聞こえてきた。
 服のポケットに入る小さなカード型の通信機。これでも聖地の中くらいであれば、十分に通信が可能な代物だ。
 俺は勿論、マリアとラシャラ、うちの関係者には全員同じ物を持たせてあった。
 尤も、シンシアとグレースは常に自分達のタチコマを連れて歩いているので、通信機など不要ではあるのだが――

『シンシアが男子生徒に連れて行かれた!』
「何!?」

 グレースからの予期せぬ報告。男性聖機師には注意していたつもりだが、まさか行き成りそんな過激な行動に出て来るとは甘く見ていた。
 うちの幼女(シンシア)が連れて行かれた事に、激しい怒りを覚える俺だったが――

『しかも、シンシアが連れて行かれた森が、あの森なんだよ!』
「あの森……って、まさか!?」

 頭に血が上り、直ぐにシンシアを助けに行こうと意気込んで立ち上がった瞬間、グレースの次の一言で冷静さを取り戻した。
 あの森――と言うのは間違い無く、例の『冥土の試練(アレ)』が設置されている森の事だ。
 グレースが慌てて俺に連絡してきた理由も、それで納得が行った。シンシアの身を案じたと言うより、これは――

「太老さん? 何かあったのですか?」
「いや……。うちのシンシアが男子生徒に絡まれて、どうも森の方に連れてかれたみたいで……」
「なっ! 早くシュリフォンの警備隊に連絡を――」
「いや、それはやめた方が良いかと……」
「心配ではないのですか!?」
「心配ですよ。でも、下手に近付くと巻き込まれますから……。寧ろ、危険なのは……」

 頭に血が上って忘れていたが、よく考えてみると、そこらの男子生徒にシンシアやグレースをどうにか出来るとは思えない。
 二人には、そこらの護衛よりもずっと頼りになる相棒(タチコマ)が傍に控えているからだ。
 しかも運が悪いと言うか、よりによって何故にあの場所なのか? 自業自得とはいえ、危険なのは男子生徒の方だった。

【Side out】





異世界の伝道師 第224話『剣士の実力』
作者 193






「酷い目に遭いましたわ……」
「先程のはマリア様が悪いかと」
「ユキネ……あなたは私とラシャラさん、どちらの味方ですの?」
「勿論、マリア様です。ですが、それとこれは話が別です」

 マリアにはっきりと、それとこれは話が別だと告げるユキネ。

「太老に迷惑を掛けるのはどうかと。それに、水穂さんとマリエルがこの事を知ればどう思うか……」
「うっ……。確かに私も大人気なかったわ……」

 ユキネの言葉に、水穂とマリエルに報告されてはかなわないとマリアも観念した。
 ラシャラとの件は譲れないにしても、少なからず自分にも非があることを認めていたからだ。
 それに太老に迷惑を掛けるのは、マリアも本意では無かった。

(ユキネの言うとおりですわね……。お兄様に迷惑を掛けては元も子もありませんわ)

 太老の気を引くつもりで迷惑を掛けて嫌われてしまったら意味が無い。ただ、太老の婚約者として譲れない部分がどうしてもある。特に相手がラシャラであれば尚更だ。大人気ないとは理解しつつも、そう言う部分では大人になりきれないマリアだった。
 逆を言えば、太老の前でだけは王族の責務に囚われず、年相応の少女で居られるという証明でもあった。
 これがただの生徒会の仕事なら、ここまで意地になって人前で口論するような事は無かったはずだ。
 他人には決して見せない弱さをさらけ出し、心の底から甘える事の出来る相手。マリアとラシャラの二人にとって、それが太老だった。

「剣士くん。あなたは今日が初めてですから、どのくらいの段階なのかを見ます」
「はい。メザイア先生」

 そんなマリアとユキネが見守る中、以前ワウと女生徒が決闘をした事のある武舞台の上では、木剣を手にした剣士とメザイアが向かい合っていた。
 怪我をされては問題という観点から、王侯貴族と男子生徒は、武術や体育と言った身体を動かす授業には不参加が原則だ。
 ただ剣士はその中でも扱いの難しい、男子生徒の中でも例外中の例外と言える存在だった。
 聖機師候補以外、王侯貴族しか通う事の許されない学院ではあるが、何事にも例外はある。シンシアとグレースのように国や聖地教会員からの推薦状がある人間や王侯貴族の従者は、聖機師候補でなくても特別に入学が許されていた。
 尤も、推薦状があるからと言って誰でも入学できると言う訳ではない。成績優秀で国に認められるほど特別な人物であるという条件が付くが、王侯貴族の従者に任命される者はその殆どが才能豊かな人材ばかりだ。書類審査と筆記試験はある物の大体は国が後ろ盾となっている以上、身元も確りしているので、これで落ちるような受験者はまず殆どいない。
 剣士も例に漏れぬ実力を備え、カレンの従者として、グウィンデル王家の推薦でこの学院に入学を許された一人だ。
 本来、男子生徒であれば、この手の授業は免除されるところだが、剣士は聖機師では無いと言う事で授業の参加を容認されていた。

「剣士くん、剣術の心得もあるのかしら?」
「でも、あの太老様の関係者って話だし……」
「もしかするともしかするかも……」

 生徒達の注目は、やはり剣士の実力にあった。『マサキ』の名を持つと言う事に、少なからず期待を持って見ていた。
 この武術の時間は、聖機師にとって一番重要とされる授業でもある。やはり、聖機師に一番求められるのは強さだからだ。
 最初の二年は体力作りと基礎学力の習得に時間を費やされているため、殆どの生徒はまだ剣術の基礎しか知らない状態だ。ここから二年、みっちりと聖機師に必要な技術を磨いて行く事になる。逆をいえば、ここで高い評価を得られれば、他の課目に関しては大目に見て貰えると言う事でもあった。
 メザイアの妹――キャイア・フランがそうだ。手先が不器用で家事裁縫が苦手なキャイアが特別科目の『花嫁修業』で赤点ばかりだったにも関わらず、無事に上級課程に進級する事が出来たのも、彼女が数少ない尻尾付きの有能な聖機師であり、武芸トップのアウラ・シュリフォンに次ぐほどの実力を持つ、学院有数の剣術の使い手だった事も理由として大きかった。

 聖機師は聖機人に乗って戦う。そしてその力は亜法波の耐久持続力を始めとすると生まれ持っての資質と、操縦技術に左右される。
 聖機人は人の姿を摸した物。操縦者の思考をそのまま機体に反映する事が出来るイメージフィードバックシステムにより、複雑な操作を簡略化する事が出来るばかりか、操縦者の保有している技術をそのまま機体に反映する事も出来る。

 ――剣術が得意な物であれば剣を、射撃が得意な物であれば銃を

 それぞれの特性を活かして戦えるのも、聖機人が絶対兵器と呼ばれる所以の一つだ。
 幾ら機体が優れていても、操縦者がへっぽこでは宝の持ち腐れになりかねない。資質だけに頼っているようでは聖機師としては二流だ。
 そうならないように武術の基礎を学び、自分が最も得意とする技術を磨く事が、この授業の主な目的だった。
 
 そのため、ここで言う『武術』とは一般人が護身用に学ぶ物や、兵士の訓練とは違い、聖機人に乗って戦う事を前提とした物になる。
 基礎段階を終えると授業の内容には動甲冑を使った訓練も加わり、より実戦的な形式へと変わっていく。
 武術教師にメザイアのように現役の聖機師が選ばれているのは、そうした事情があるからだ。
 故に、武術の腕が幾ら高くても、聖機師で無いカレンなどは武芸科の講師は出来なかった。

 ちなみにカレンが学院で何を教えているかというと、『保健体育』と『花嫁修業』だ。
 あの性格だ。『保健体育』は予想の範囲として、てっきりカレンが武術の教師だと思っていた剣士からは、カレンと花嫁修業が結びつかず『意外』の一言が飛び出したくらいだった。尤もその後、剣士がどうなったかは想像にお任せする。
 ああ見えて意外と女らしい一面もあるのだが、普段の素行のせいで絶対にそうは見てもらえないカレン。剣士に言われるまでもなく、実はその事を深く気にしていた。
 だが、それもある意味で自業自得と言える。酒好きとあの性格はこの際目を瞑るにしても、自分の歳を考えず『若い年下の男の子が好き』と言っている時点で、剣士がカレンを苦手とするのは当然の事だった。

 ――閑話休題

 話が少し脱線した。ようはそのくらい、この武術の時間は聖機師、特に女生徒の彼女達にとって軽視できない重要な授業だった。
 前年度の成績から担当している生徒の実力を大体把握しているメザイアだが、王侯貴族や護衛機師と同じ扱いで二年飛び級して今年度から編入した剣士の実力は、正直なところよく分からないと言ったのが感想だった。
 身のこなしから、それなりの実力を隠している事は窺えるが、どの程度なのかは実際に剣を交えて見ない事には判断が付かない。
 だが『マサキ』の名からも推測できるように、剣士はあの正木太老の関係者だ。メザイアの中にも、もしかしたら――と言う考えがあった。

(やはり、この子……)

 一分の隙も無い自然体の剣士を前に、その実力を確信するメザイア。思わず、剣を握る手に力が入る。

「お願いします」
「あなたは私の打ち込みを受けるだけで良いわ」
「え? はい」

 てっきり模擬戦をすると思っていた剣士は、メザイアの言葉に首を傾げる。だが、それはメザイアなりに考えての行動だった。
 もし剣士がメザイアの思っている通りの実力なら、まともに打ち合えば生徒達の間に動揺が走り、大きな騒ぎになると考えたからだ。

「ハアッ!」

 掛け声と共に全力で打ち込むメザイア。だが、剣士はその場から一歩も動かず、メザイアの剣を簡単に受け流して見せる。それに驚いたのはメザイア自身だった。
 本気で当てるつもりで放った一撃をこうも容易く受け流されるとは、さすがに思っていなかったからだ。
 直ぐ様、二撃、三撃と続けて放つが、それも最小限の動きで簡単に弾かれてしまう。逆にメザイアの方が、その反動で体勢を崩される。

「凄い……」
「ユキネ?」

 これで最後とばかりに、メザイアが渾身の力を込めて放った突きも、剣士には完全に見切られていた。
 最初に立っていた位置から全く動いて居ない剣士。鍛え上げられた肉体もそうだが、その技術はまさに達人の技と言って良い。
 マリアと一緒に授業を見学していたユキネも、剣士の実力を目の当たりにして驚きを隠せない様子だった。
 太老の身内と言う事で、それなりの実力者だとは予想していたユキネだったが、これほどとは思ってもいなかったからだ。
 剣に関しては素人のマリアも、剣士が今、どれほど凄い事をやったのかをユキネの様子を見て察したようで、自分の事のように嬉しそうに薄らと笑みを浮かべていた。

「誰かに剣術を習った事は? もしかして、噂のお兄さん≠ノ教わったのかしら?」
「剣は祖父から――。太老兄は先生と言うよりは、どちらかと言うと俺の兄弟子で」
「太老くんと同門? なるほど、それで……。お祖父様は有名な武術家なのかしら?」
「いえ、ただの田舎の(じじい)ですけど」

 剣士の言葉にポカンとしたのはメザイアだけでなく、話を聞いていた周りの生徒達も同じだった。
 あの『黄金機師』の剣の師匠とも言える人物が、ただの田舎の爺とは考え難い。しかし剣士は平然とした顔で嘘をつけるようなタイプではない。この辺りの一般人との感覚のズレは、太老と剣士は良く似ていた。
 自分の実力を分かっていないと言うか、実力を比較する相手が少なかったために正確に自分の力を把握しきれていない。
 いや、この場合、その比べる相手が余りにとんでもない人達だったばかりに、自分がどの程度凄いのか、周りがどのくらいヤバイ人達だったのかをちゃんと理解していなかった。
 
 剣士は単純に剣の技量だけなら勝仁に迫るほど、水穂とも互角に渡り合えるほどの実力を持っている。それは言ってみれば、銀河でトップクラスの実力を備えていると言う事に他ならない。この中で、剣士の実力を正確に把握できたのは、メザイアとユキネくらいのものだろう。
 だが生徒達にもはっきりと、剣士とメザイアの会話から彼が普通では無い事くらいは察する事が出来た。
 剣士が太老の身内だという話は全員が知っている事だ。そして太老と剣士が同じ剣術を学んだ流派の出身だと、先程の会話から知る事が出来た。
 それだけでも、剣士の実力が並外れているであろう事は容易に察しが付く。

「まあ、いいわ。それじゃあ、あなたは授業を見学――」
『きゃあぁぁ――っ!』

 これでは、とても他の生徒達の相手をさせる訳にはいかないと考えたメザイアは、剣士に授業を見学するように促そうとした。
 しかしそれよりも早く、授業を見学していた女生徒達が予想外の行動にでた。
 一斉に剣士の元に走り、輪を作る女生徒達。その勢いにメザイアも注意するのを忘れ、圧倒されてしまう。

「凄いわ! 剣士くん! あの太老様と一緒に剣術を習っていたなんて!」

 聖機師で無いとはいえ、昨日から見る者が見れば分かるほどの優秀さを発揮し、今日に至っては太老と同じ剣を学んでいた事を明らかにした剣士。
 しかもその実力は、女生徒達から絶大な人気があり憧れのお姉様でもあるメザイアも認めるほどとなれば、彼女達が騒ぐのも無理のない話だった。
 太老の関係者と言う点を除いても、これほど目立つ生徒は他にいない。
 シンシアとグレースもハヴォニワからやってきた天才児として有名だが、それでも男子生徒の剣士やセレスに比べれば注目度は低い。
 それに剣士はセレスと違い男性聖機師ではない。そこが女生徒達との距離感を縮めている部分があった。

「剣士さん。よかったら私に剣術の指南をして頂けませんか?」
「ちょっと、あなた抜け駆けする気!?」
「失礼ね。あなた達と一緒にしないで!」
「あの……皆さん、喧嘩は……」

 剣士に言い寄る女生徒達を、オロオロと右往左往しながらも必死に止めようとするラピス。
 しかし一度火のついた彼女達を止める事は、はっきり言って性格の大人しいラピスには難しかった。

「はっ!」

 段々とエスカレートしていく女生徒達を見て、やっと意識を取り戻すメザイア。
 このままでは心配していた大騒ぎになると考えたメザイアは、慌てて生徒達を止めに入った。

「あなた達! いい加減に――」
「なんですって!?」

 生徒達を注意しようとしたところで今度はマリアの大声に話の腰を折られ、左手を腰にあて、もう片方の手で生徒達に指をさした状態のまま固まるメザイア。
 いつもの余裕ある姿と違い、随分と動揺した様子のマリアを見て、女生徒達の動きもピタリと止まっていた。
 太老の持っているのと同じ、カード型の通信機を片手に真剣な表情で、通信機の向こうの誰かと通話をしているマリア。
 その様子からも、何かがあったのは間違い無い。しかし『何があったのか?』と、気軽に訊けるような雰囲気でも無かった。
 そんな中、一番最初に動いたのは剣士だった。

「あの……マリア様? 何かあったんですか?」
「剣士さん……」

 話が終わったのを確認すると、女生徒達の輪から抜け出し、マリアに事情を尋ねる剣士。
 普段の子供とは思えないほど落ち着きを払ったマリアと違い、今のマリアの様子は普通では無かった。
 そして剣士の性格からして、そんなマリアを見てしまった以上、見て見ぬ振りが出来るはずもない。
 剣士が訊いてくるであろう事はマリアも予想していたのか、少し言い難そうな表情を浮かべながらも、覚悟を決めた様子で通信の内容を語り始めた。

「落ち着いて話を聞いてください。実は、セレスさんが――」





 ……TO BE CONTINUED



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.