「俺たちに手紙? 一体、誰から……」

 受け取った手紙を訝しげに眺めながら、ロイドはアルティナに尋ねる。

「フランさんから預かってきました。この手紙は、きっと皆さんに必要なものだろうと……」
「フランから!?」

 声を荒げ、誰の目にも明らかなほど大きな動揺を見せるノエル。
 そんなノエルの反応を見て、ロイドはアルティナへの質問を後に回し、先に手紙の中身を確認することにした。
 差出人は記されていない。封筒も特別なものではなく、どこにでも売っているような市販の封筒だ。

「数字が書かれていますね。何かの暗号でしょうか?」
「これって……」

 封筒の中に入っていた一枚の紙には、八桁の番号が記されていた。
 他には特に何も書かれていない。
 何かの暗号かと腕を組むティオの横で、何かに気付いた様子でノエルは声を上げる。

「間違いありません。以前、私が使っていた警備隊の認識番号です。でも、そんなものがどうして……」

 そこに記されている八桁の番号は、クロスベルの警備隊で使われている認識番号だった。
 自身の番号がどうしてフランからの手紙に記されているのか?
 そんなノエルの疑問にロイドは「あ!」と声を上げ、何かを探すように上着のポケットを探し始めた。
 そして銀色のチェーンで繋がれたペンダントのようなものをロイドは手に取り、それを皆に見えるように掲げる。

「ロイドさん。それは……」
「ああ、キミから預かっていた認識タグだ。たぶん、これは……」

 それは以前、ロイドが作戦の成功を祈り、自分の物と交換したノエルの認識タグだった。
 首から提げられるように黒い革製のパスケースに入ったタグを、ロイドは取り出す。
 すると、丁度タグとケースに挟まれるように間のところに、厚さ一ミリほどのデータチップが隠されていた。

「灯台下暗しと言ったところかな。まさか、こんなところに、こんなものが隠されていたなんて……」
「データチップのようですね? 中身を解析してみなければわかりませんが怪しいです」

 ロイドの手にあるデータチップに、ティオは訝しげな視線を向ける。
 先の手紙といい、怪しむなと言う方が難しい。何かの罠かと考えるのが自然だ。
 ロイドが何故こうも冷静でいられるのか、そちらの方がティオは不思議だった。

「中身を調べるのは、帰ってからにしよう。フランは、この手紙を誰から?」
「差出人は不明とのことです。先月、団にいるフランさんの元へ、その手紙が届けられたそうで詳細は把握していません」
「そうか。なら、もう一つ聞かせて欲しい。キミたちの団長は……リィン・クラウゼルは、この手紙のことを知っているのか?」

 ロイドが本当に尋ねたかったのは差出人ではなく、この手紙のことをリィンが知っているか否かだった。
 どう答えたものかと一瞬迷う素振りを見せるも、特に口止めされているわけでもなく隠すようなことでもないと考え、アルティナはロイドの質問に答える。

「はい。団宛てへの手紙や荷物はすべてチェックが入っていますから、当然この手紙のことも把握しているはずです」
「知っていて、敢えて放置するか。いや、フランにそう勧めたのも彼なのかもしれないな」
「……どういうことですか?」

 妹の名前がロイドの口からでたことで、ノエルは困惑を隠せない様子で尋ねる。
 その妹を助けるために、ノエルはこんな無茶をしたのだ。正直なところ、まだリィンに対する不信感は拭えていなかった。

「ノエル。キミが思っているほど、彼は悪人ではないと言うことだよ」

 そんななかで信頼する相手から、彼は悪人ではないと言われてノエルは戸惑いを覚える。
 新聞や資料からは人柄まで伝わって来ないとは言っても、実際に〈暁の旅団〉がやってきた事実は隠すことが出来ない。彼等が猟兵であることは紛れもない事実なのだ。悪人ではないと言われても説得力が薄かった。
 勿論、ロイドもそのことはわかっていた。悪人ではないかもしれないが善人だとも思っていない。彼等のやっていることは白か黒かで言えば、限りなく黒に近い灰色と言ったところだ。今回のクロスベル襲撃に至っても、マクダエル親子の存在。そして背後に帝国の影がなければ、彼等のやっていることはテロリストと同じだ。先の事件で〈赤い星座〉がやったことと大差はない。そう言う意味では、気の許せる相手でないことは確かだ。ノエルが警戒するのは当然のことと言えるだろう。

「もしかして、その手紙の差出人が分かったんですか?」
「ああ、たぶんそれは……」

 そんななかティオはロイドに尋ねる。
 先程のロイドの言葉から『何かに気付いたのでは?』と察したからだった。
 ティオの問いにロイドが答えようとした、その時。再び、大きな揺れがロイドたちを襲った。
 先に現れた幻獣の群れは既にほとんど掃討されているが、それで安全が確保されたわけではなかった。
 大樹の崩壊がゆっくりと始まっていたからだ。ツァイトが言っていたように、この場所も余り長くは保たないだろう。

「そろそろ撤収を始めた方がいい。本格的にやばそうだ」

 声に気付き、ロイドは後ろに振り返ると、巨大なガトリング砲を肩に背負った大男が立っていた。
 映像で見たことのある顔だ、とロイドは思う。〈暁の旅団〉のメンバーだと分かるが、すぐに名前が出て来ない。

「ああ、すまない。えっと確か……」
「ヴァルカンだ。お前さんの噂は耳にしているぜ。ロイド・バニングス捜査官」

 一方でヴァルカンと名乗った男の方は、はっきりとロイドの名前を口にした。
 彼等がエリィのことを知っている以上、名前を知られていることは、そう不思議でもない。
 軍や警察にとって情報は命だ。猟兵もそれは変わらない。特務支援課のことも知られている以上、顔が割れている可能性はロイドも考えていた。
 しかしヴァルカンの口調からして、ただ顔と名前を知っていると言った感じではなかった。

「もしかして、どこかで会ったことが?」
「いや、初対面さ。ただ、お前さんたちには仲間を看取ってもらった借りがあるからな。礼を言わせてくれ」
「それは……」

 ふとロイドの頭に過ぎったのは、帝国解放戦線と呼ばれるテロリストたちだった。
 丁度一年ほど前、オルキスタワーが帝国と共和国のテロリストの襲撃を受けた際、ロイドもその場に居合わせていたのだ。
 その時、赤い星座に殺されたテロリストの片割れが、確か『帝国解放戦線』と名乗っていたことをロイドは思い出す。
 暁の旅団のメンバーの出自は公には明らかとされていないが、人の口に戸は立てられない。噂程度の情報なら出回っていた。
 西風の遺児、赤い星座の隊長、東方人街の魔人。そして帝国を騒がせたテロリストたちの名前が、そのなかにはあった。
 もしそうなら――

「は? 動かせないだと?」
「コクピットに鍵が掛かっているみたいで、解除しているような時間も……」
「仕方ねえか。鹵獲して持って帰れば、団長が喜びそうなブツなんだがな」

 ロイドがヴァルカンにそのことを尋ねようとした、その時。
 鹵獲した軍の装備の品定めを行っていた団員たちの声が、ロイドたちの耳に届いてきた。
 余りに堂々としたやり取りにノエルは青筋を立てながら、ひくひくと頬を震わせる。

「あの人たち、軍の兵器を持ち逃げする気みたいですけど……」
「猟兵ですしね」
「……行ってきます。あれをあのままにはしておけませんし」

 ティオのツッコミに我慢できない様子で、ノエルは団員たちの元へと走っていった。
 捕まった自分たちに選択権がないことくらいは理解しているが、それでも目の前のやり取りを軍人として見過ごすことは出来なかった。
 そんなやり取りに苦笑いを浮かべながらロイドが振り返ると、もうそこにはヴァルカンの姿がなくなっていた。
 仕方がない、と言った様子でロイドは思考を切り替え、ティオへと声を掛ける。

「ティオ。ツァイトと連絡は?」
「……ダメです。呼び掛けていますが返事がありません」

 魔導杖を掲げ、ツァイトに何度も呼び掛けるティオだったが返事がない。
 いつの間にかノルンも姿を消しており、彼等のことをティオだけでなくロイドも気に掛けていたのだ。
 とはいえ――

「彼等には彼等の為すべきことがあるんだろう。俺たちも俺たちに出来ることをしよう」

 すやすやと寝息を立てるキーアの頭を撫でながら、そう話すロイドの言葉にティオは静かに頷く。
 悔しいが、状況は既に自分たちの手に負えない位置にあることをティオも理解していた。
 しかし最大の目的は、キーアを無事に連れて帰ることだ。
 いまはそのことだけを考えようと、ティオは今一度心に誓う。

「おい、嬢ちゃん! どこへ行く気だ!?」
『違うんです! 勝手に動いて――きゃあッ!』

 だがティオの誓いも虚しく、ノエルの悲鳴が辺り一帯に響いた。


   ◆


 見れば、例の黒い機甲兵が制御を失った様子で見境なく、周囲のものを破壊していた。
 一体なにが……と呆然とした顔で、その様子を眺めるティオ。そして、

「こっちにきます!」

 ノエルを乗せた機甲兵が向きを変え、自分たちの方へ向かってくるのを見て、ティオは声を上げる。

「ティオはキーアを連れて下がっててくれ!」
「ロイドさん!?」

 そんなティオの横をロイドは一瞬も躊躇うことなく通り過ぎると、真っ直ぐに機甲兵(ケストレル)に向かって駆け出した。
 相手は全高七アージュもある機械仕掛けの巨人。騎神を模して作られた戦術兵器だ。
 生身で挑むには、余りに分の悪い相手。ティオがロイドの身を案じるのも無理はない。

『ロイドさん逃げてください!』

 当然その様子は、コクピットから外の光景を眺めていたノエルの目にも映っていた。
 止まれ! お願い、止まって! と何度も操縦桿を動かすノエル。しかし、まったく反応した様子はない。
 コクピットの外では、ロイドが暴走する機甲兵をどうにか止めようと健闘を続けていた。
 ロイドの武器は両手に持った一対のトンファーのみ。一方でケストレルの武器は右手に装備した一本の長剣だけだ。
 しかしリーチの差から距離を詰めることが出来ず、ロイドは防戦一方に追い込まれていく。
 どうにか反撃の糸口を掴めないかと一定の距離を取りながら、ロイドは必死に打開策を練る。

「くッ!?」

 打ち下ろされた剣が土砂を舞い上げ、攻撃の余波だけで地面を転がるロイド。
 このままでは……泥に塗れながら、ロイドが体勢を立て直した、その時。
 四方から放たれた銃弾が、ケストレルの動きを捉えた。

「デカブツ相手に見上げた根性だが、無謀が過ぎるな。少し頭を冷やせ」
「ヴァルカン……どうして?」
「言っただろ? お前さんたちには借りがあるって」

 そう言うとヴァルカンは腕に抱えたガトリング砲を、ケストレルに向かって放った。
 機動力に特化したケストレルの動きを鈍らせるため、団員たちも距離を取りながら四方から攻撃を加えていく。
 致命的なダメージを与えるには至っていないが、四方から放たれる銃撃の網にケストレルの動きが狭められていく。

(これが猟兵の戦い方か……)

 単独では不利な相手であろうと、持てる手を尽くして相手を追い詰めていく。
 この集団戦の強みこそ、本来の猟兵の戦い方なのだとロイドは悟る。そして、それがリィンやシャーリィにないヴァルカンの強みでもあった。
 包囲網を突破しようと、ケストレルがヴァルカンの方へと足を向けた直後、目を覆うような白い閃光と共に爆発が起きる。
 最初から、そうなるように誘い込まれたのだとロイドは理解する。そして――

「いまだ!」

 ヴァルカンの声を合図に、煙の中へロイドは飛び込む。先程、ケストレルの足下で爆発が起きたのは導力地雷の光だった。
 威力は控え目だが、音と光を強化した特別製。視界を封じられれば動きが鈍るのは、機械も人間も大差はない。特に機甲兵に使われているカメラやセンサーの類は強い光に弱い。
 そのことを最初からヴァルカンは知っていた。だから罠を張って、その機会を窺っていたのだ。

「うおおおおおおおッ!」

 姿勢を崩したケストレルの胸部へロイドは渾身の一撃を叩き込む。
 ミシミシと音を立て、右手のトンファーが半ばから砕け散る。しかし――
 仰向けに倒れそうになるも、どうにかその場に踏み止まり、ロイドへ反撃を仕掛けようとするケストレル。
 空中で身動きが取れず、トンファーを胸の前で交差させ、防御の姿勢を取るロイドだったが、

「……は?」

 ロイドの背後から煙を突き破り、現れた光がケストレルに命中し、その頭部を吹き飛ばした。
 黒い煙を上げながら、ズシンという音と共に背中から地面に倒れ込むケストレルを見て、何が起きたのかとロイドが振り返ると、

「そうか。さっきの一撃は……」

 その視線の先には、巨大な砲を手にしたティオの姿があった。


  ◆


 ティオの活躍もあって、どうにか機甲兵の暴走を食い止めたロイドたちは〈暁の旅団〉と共に撤収を開始していた。
 そんななか複雑な表情を浮かべ隣を歩くノエルを見て、ロイドは困った様子で頭を掻きながら声を掛ける。

「怒ってるのか?」
「怒ります。なんで、あんな無茶をしたんですか!? 下手をすれば――」

 その先を口にすることはなく、涙を滲ませるノエル。
 ロイドの身にもしものことがあれば――
 そんなことを考えると怖くなる。
 原因が自分にあると言うことはわかっていた。ロイドは助けようとしてくれただけだ。
 これが理不尽な怒りだということも理解している。それでもノエルは声を荒げずにはいられなかった。

「死なないさ。あの時したキミとの約束を守るまでは……」
「え……ロイドさん、それって……」

 一瞬、呆気に取られた様子を見せるも、ノエルはロイドに言葉の意味を尋ねようとする。
 思い当たるのは八ヶ月ほど前、作戦の前夜に飛行船の上でロイドと交わした一つの約束だった。
 その時に約束の証として交換したのが、先程ロイドが持っていた認識タグだ。
 ノエルの服の下にも、ロイドから預かった警察の認識タグが首から提げられている。
 まだロイドがあの時の約束を覚えているとはノエルも思ってはいなかった。でも、もし本当に約束を覚えてくれているのなら――
 そのことを尋ねようとしたところで、集団の先頭を歩くヴァルカンの足が止まった。

「まずいな」

 ヴァルカンの視線の先には、ラインフォルト社製の戦車の姿があった。ツァイトを追っていった部隊のものだ。
 だが、こちらにはノエルがいる。そのことを相手に伝えれば――とヴァルカンは考えるが、

「問答無用で撃ってきやがった!?」

 岩陰に慌てて隠れるヴァルカン。戦車の砲弾の音が背後で響き、土砂を巻き上げていた。

「敵味方、関係なしってか。どう見る?」
「もしかしたら……ティオ、頼めるか?」
「はい」

 魔導杖を掲げ、胸部の装甲に仕込まれたエイオンシステムを起動するティオ。
 演算能力を高めることで、主に導力ネットワークを使った調査や検索に用いられる能力だが、これには彼女の感応力を高める効果もあった。
 エイオンシステムを用いたティオの感覚は、目で捉えることの出来ないものさえも感知することが可能だ。
 音と煙に紛れ、探ることの難しい人の気配や鼓動を感じ取ることさえも、ティオにとっては難しいことはでなかった。

「あの戦車は無人です。状況から考えると、さっきの機甲兵と同じかと」

 ティオの話を聞き、「やはり」とロイドは確信した様子で呟く。機甲兵の暴走も偶然とは考えていなかった。
 マリアベルとギリアスが繋がっていたとしても、無数の戦車と機甲兵がクロスベルへ無償で提供されたこと自体、裏があると考えるのが自然だ。
 機体の鹵獲や裏切りを〈鉄血宰相〉と呼ばれた男が想定していないとは、到底おもえなかった。
 だとするなら、なんらかの仕掛けを機甲兵や戦車に施していても不思議な話ではない。

「なるほどな。こいつもギリアスの野郎の仕業ってことか」

 同じことをヴァルカンも考えていたのだろう。その言葉にロイドは頷く。

「白兵戦用の装備しか持ってきてねえからな。さすがに戦車と正面からやり合うには分が悪いか」
「ガンナーモードは、しばらく使えませんよ? さっきのでエネルギーを使い果たしてしまったので……」
「となると……」

 機甲兵を一撃で破壊したティオの魔導杖に微かに期待するも、それも無理とわかってヴァルカンはもう一人の少女へ視線を向ける。

「……どうして、私を見るんですか?」
「お前さんの相棒。あれでどうにかならねぇかと思ってな」

 ヴァルカンに期待の籠もった視線を向けられ、気怠そうに「はあ……」と溜め息を漏らすアルティナ。
 しかし保護した姉妹たちのことを考えれば、少しでも役に立つところを見せておきたいというのが本音ではあった。
 リィンなら見捨てることはないと思いたいが、メリットがなければ動かないのが猟兵だ。特にリィンの場合、その傾向が強い。
 哀れみや同情だけで、アルティナの姉妹だからと言って受け入れたりはしないだろう。だからこそ、アルティナは率先して今回の仕事を引き受けたのだ。
 精神リンクによる人形兵器の運用が、団の仕事でも役に立つことが証明されれば、姉妹の居場所を作ることにも繋がる。そう考えたが故の行動だった。

「結社の人形兵器……いえ、これはエイドロンギアの流れを汲む機体ですか?」
「さすがですね。結社の技術を取り入れ、ツァイスで先日完成したばかりの機体です。名前は『フラガラッハ』と言います」

 光学迷彩を解き、突如アルティナの傍らに現れたフラガラッハに、ティオやロイドたちは驚きを見せる。
 その独特の作りから、すぐにオーバルギア計画の産物。エイドロンギアの流れを汲む機体だと察するティオ。
 先程はヴァルカンにガンナーモードは使えないと言ったが、実のところティオはまだ奥の手を隠し持っていた。
 それがエイドロンギアだ。

(私のと比べると、こちらは白兵戦に特化した機体のようですね)

 エプスタイン財団で開発され、オルキスタワーに保管されていたものを奪取し、ティオはここぞと言う時のために隠し持っていた。
 いや、正確にはエイオンシステムを用いることで、クロスベルにいる限りは自由に呼び出すことが可能と言ったところだ。
 なお、ティオの見立て通りフラガラッハは〈クラウ=ソラス〉を元としているため白兵戦に長けているが、財団の開発した本来のエイドロンギアは戦場での面制圧を主目的とした戦術兵器だった。

「まさか、一人で突っ込む気か!?」
「問題ありません。この子と一緒なら、あの程度の戦力――」

 フラガラッハと共に戦車の前へ飛び出そうとするアルティナに驚き、ロイドは声を掛ける。
 しかしこの程度の戦力であれば、フラガラッハだけでも制圧は可能だとアルティナは分析していた。

「敵の背後に別働隊を確認。あれは……」

 ロイドの静止を無視し、岩陰から飛び出そうとした、その時。
 アルティナの目が、戦車の背後へと接近する複数の影を捉えた。
 そして、

「警備隊の装甲車です! それにあそこにいるのは――」

 ノエルは手にした双眼鏡を覗き込み、

「ランディさん!?」
「ミレイユ先輩まで!?」

 エイオンシステムで様子を窺っていたティオも声を揃えて、驚きの声を上げる。
 二人の様子を見て、敵の増援ではなく味方と判断したアルティナは確認を求めた。

「味方のようですね。どうしますか?」

 無人の戦車も背後から迫るランディたちに気付き、応戦を開始していた。
 仕掛けるなら今しかない。そう考えたロイドは、先程のアルティナの問いに答える。

「挟撃を仕掛ける。ヴァルカンも、それでいいか?」
「ははッ、言うじゃねーか。警察をクビになったら猟兵団(うち)に来ねーか?」

 あっさりと挟撃を提案したばかりか、猟兵に堂々と共闘を申し込む。
 そんな警察官らしからぬロイドの答えに気を良くしたのか、豪快にヴァルカンは笑う。
 リィンが許可するかどうかは分からないが、半ば本気の誘いだった。

「折角の誘いだけど、警察(こっち)が性に合ってるんだ」

 だが、そんなヴァルカンの誘いをロイドは苦笑を交えながら断る。
 警察官として、組織の一員として自分の判断が正しいとはロイドも言えない。
 それでも貫きたい意志が、守りたい命がある。

(兄貴、次は俺の番だ。俺が家族を守ってみせる。兄貴がそうしてくれたように……)

 腕の中で寝息を立てるキーアを見守りながら、ロイドは目的と意志を再確認するのだった。



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