黒龍城塞での戦いから一夜明け、新市街にある九龍グループのホテルでリィンは仲間たちと今後の対応について話し合っていた。
ちなみにこのホテルを手配したのは〈黒月〉のツァオ・リーだ。
まるで状況を把握していたかのように旧市街の港で待ち伏せしていて、アルマータの幹部の身柄を引き取っていったのだ。
ツァオならリィンやシズナの勘の鋭さや索敵能力の高さは理解しているはず。恐らくは船で沖合から黒龍城塞を監視していたのだろうと言うのが、リィンの見立てだった。
「なるほど……少し面倒なことになりましたね」
ミュゼが面倒なことになったと言っているのは、アルマータの幹部のことだ。
幹部を数人捕まえただけであれば、ここまで深刻な顔はしない。アルマータのボスを捕らえたことが問題を複雑にしていた。
しかも、自ら姿を現して無抵抗で拘束されたのだ。そのため、結果だけを見ればアルマータのボス――ジェラール・ダンテスが仲裁するカタチで戦いを終えたことになっている。これの何が問題かと言えば、裏社会の人間は何よりも面子を重んじる。逆に言えば相手が詫びを入れるなり相応の対応を取るのであれば、そこにつけ込んで相手を貶めたり泥を塗る行為は恥とされる訳だ。
これは大きな組織になればなるほど、ついて回るしがらみと言っていい。
法に支配されない裏社会の人間だからこそ、一定の秩序が必要となる。
だからこそ〈黒月〉は自分たちの敷いた掟を絶対のものとして自らにも枷を嵌め、遵守しているのだ。
「恐らくは組織の解体に繋がるような大きなペナルティーは生じないと思います」
今回の件を〈黒月〉のルールに置き換えた場合、ある程度の罰則は負うものの組織の解体にまでは行かないだろうと言うのが、ミュゼの考えだった。
そして、その点についてはリィンも同意見だ。
アルマータのしたことと言えば、ライ家と結託してリィンを貶めたことくらいで、これは直接〈黒月〉に関係していることではない。それにライ家の問題は〈黒月〉にとっても表沙汰にはできない頭の痛い問題で、アルマータだけに責任を取らせるような真似をすれば組織の恥を晒すことになる。となれば、相手が頭を下げている以上は落としどころを用意するしかない。例え、何か企んでいるのだとしても〈黒月〉の立場からすると話に乗るしかないという状況であった。
「ですが、違法薬物と人身売買の件があるのでは?」
エマの言うとおり、違法薬物と人身売買は〈黒月〉が掟で禁じていることだ。
しかし、ここにも大きな壁が立ち塞がっていた。
「いまのところ被害はメッセルダムに絞られていますから……。それに疑わしいと言うだけで証拠もなしに罰するのは〈黒月〉でも難しいかと」
犯罪が行われていることは間違いない。しかし、いまのところその被害はメッセルダム周辺に限定されている。
黒月の足下で起きたことであれば、自分たちのルールで裁くことができる。しかし、アルマータは巧みに〈黒月〉の干渉から逃れていた。決して〈黒月〉の縄張りでは騒ぎを起こさず、違法ビジネスに手を染めながらも密かに力を蓄えてきたのだ。これが〈黒月〉がこれまでアルマータに手をだすことが出来ずにいた理由だった。
ライ家がアルマータと手を結んだのも、自分たちにまで累が及ぶ可能性は低いという算段があったのだろう。
「それに本格的に調査するとなると、今度はライ家がアルマータのビジネスに関与していた可能性が浮上します」
ミュゼの言うように、そこが〈黒月〉にとって一番頭の痛い問題となっていた。
違法薬物と人身売買は〈黒月〉が掟で禁じているビジネスだが、それに長老家が加担していたとなると示しが付かない。
このことを深く掘り下げるということは、自分たちの首を絞めることに繋がりかねないのだ。
となれば、現状は目を瞑るしかない。
落としどころとしては、釘を刺す程度のことしか出来ないだろうというのがミュゼの考えだった。
「すみません……私がもっと上手くやっていれば……」
悔しげな表情で頭を下げるリーシャに、気にするなとリィンは返す。
ライ家の当主が殺されたことを気にしているのは分かっていたからだ。結果的に口封じを許すカタチになってしまったが、そもそも生きていたところで状況は大きく変わらなかっただろうというのがリィンの考えだった。
ライ家の屋敷からもアルマータとの関係を示す決定的な証拠はでてこなかったと言う話だ。恐らくライ家の側は自分たちが利用されているなど露程にも考えず、アルマータを都合の良い手駒程度にしか考えていなかったはず。そのため、いつでも切り捨てられるようにと自分たちとの繋がりを示す証拠を残さなかったのだろう。
そこまで徹底している相手である以上、アルマータの目的をライ家の当主が知っていたとは考え難い。
それにアルマータを誘い出すためにライ家の当主を餌に使うと考えたのはミュゼで、作戦の許可をだしたのはリィンだ。この件にはツァオも一枚噛んでいて、リーシャだけに責任を負わせるような話ではなかった。
「ミスをしたって言うのなら、私も一緒だしね。むしろ、こっちの方が責任は重いかな?」
まるでリーシャを庇うようにシズナは話に割って入る。
庇うと言っても嘘偽りなく、今回の件はシズナも責任を感じていた。
相手の思惑に乗せられたとはいえ、リィンはアルマータのボスと幹部を捕らえている。
一方でシズナは二人も幹部を逃しているのだ。
舐めてかかった訳ではないが、本気でなかったことは事実だ。手を抜いたと言われても仕方がないし、結果だけを見れば与えられた仕事をこなせなかったことに違いはない。特に傀儡を操っていた方の少女よりも、メルキオルを逃したことの方が面倒なことになりそうだと感じていた。
ただの〝勘〟だが、奥伝へと至った剣聖としての〝勘〟だ。それにシズナは八葉一刀流の開祖ユン・カーファイから剣を学び、黒神一刀流の使い手でありながら八葉の技にも通じている。〝観の目〟と呼ばれる洞察力に優れており、何度も窮地を脱してきたのだ。
それだけに自身の勘に強い自信を持っていた。
「確かに失態と言う意味では、お前の方が責任は重いな。最初から全力でいけば捕まえられた相手を、余裕をかまして逃がしてるんだから」
「返す言葉もないね。でも、もう少し言葉を選んでくれてもいいんじゃないかい?」
「慰めの言葉なんて望んではいないだろう? それに責任を感じてくれた方が、これからの活躍に期待できそうだしな」
食えない男だとシズナは思う。
出会った時から思っていたことだが、リィンからは年齢以上の老獪さをシズナは感じていた。
まるで老師と対峙しているかのような慣れと経験を感じる。
しかし、年齢から考えればありえない。シズナ自身、剣の腕では頭領や老師に負けないと思っているが、実戦となると駆け引きや経験の面でクロガネにも劣っているという自覚があるからだ。
だからこそ、強い相手との仕合を望んでいると言うのがある。
「リィン……年齢を偽ってないよね?」
「なにを急に失礼なことを聞いてやがる。お前とほとんど歳は変わらねえよ」
それだけにリィンが年齢を偽っているのではないかとシズナが考えるのも無理はなかった。
少なくとも二十は鯖を読んでいなければ説明が付かないと感じていたからだ。
しかし、実際にはシズナの方が二つほど年上だった。
だからこそ、シズナも納得が行かないのだろう。
「なにバカをやってやがるんだ……」
アーロンが呆れた表情で部屋に入ってくる。
使いっ走りをさせられて戻ってきたら、夫婦漫才のようなやり取りを見せられたのだ。アーロンが呆れるのも無理はない。
とはいえ、さすがにリィンとシズナを茶化す勇気はないようで本題に入る。
「ツァオから伝言だ。ホテルの会議室を押さえてあるから、ひとりで来てくれとのことだ」
ツァオからの誘い。
アルマータのことだと察するが、条件を付けてきたことをリィンは訝しむ。
しかし、今回の件は対応を誤れば組織の恥部を晒すことになる。
そうして弱味を見せれば、第二のアルマータが出現しかねない。
可能な限り情報の漏洩を抑えたいと考えるのは不自然なことではなかった。
「リィンさん、お気を付け下さい」
しかし、何かあるとエマも感じ取ったのだろう。
注意を促すエマに無言で頷きながら、リィンは指定された会議室へと向かうのだった。
◆
ツァオに指定された会議室に到着すると、そこにはツァオの他に二人組の見知らぬ男女がいた。
二メートルほどある大男に、プラチナブロンドの長い髪の女。
猟兵やマフィアと言った感じではなく、それでいて一般人とは思えない佇まい。
その特徴からリィンは二人組の正体に当たりを付け、ツァオに尋ねる。
「どうして、ここにギルドの人間がいる?」
遊撃士協会の遊撃士。それも〈風の剣聖〉に匹敵する高ランクの使い手だとリィンは当たりを付けていた。
二人の特徴から何者かも察しは付いているのだが、敢えて尋ねたのだ。
「その前に報告しておきたいことがあります」
並の人間なら畏縮するほどの鋭い視線に晒されながらも、それを受け流し、会話の主導権を握ろうとするツァオ。相変わらず食えない奴だと評しながらも、リィンは〈黒月〉の顔を立ててツァオの説明を先に聞くことする。大方、アルマータの処遇についてだと察しが付いていたからだ。
そして、遊撃士の二人がいる前でその話をすると言うことは、無関係ではないと言うことも推察できた。
「釘は刺しましたが、アルマータの処遇については保留と言うことになりました」
「……なに?」
落としどころを用意するとは思っていたが、保留と言うことは執行猶予のようなもの。
アルマータが裏で行っているビジネスについて釘を刺したのだろうが、実質的にペナルティーなしということだ。
それだけに訝しむ。〈黒月〉が今回の件を可能な限り表沙汰にしたくないのは分かっている。しかし、人の口に戸は立てられないものだ。どれだけ隠そうとも情報は漏れる。
組織の恥部を隠すためにアルマータを罪に問わなければ、これまで裏社会で築き上げてきた〈黒月〉の信用に傷が付くだろう。
この世界は舐められたら終わりだ。甘い対応を取れば、アルマータ以外にも〈黒月〉に楯突く組織が出て来かねない。
それだけのリスクを冒してアルマータを庇う理由が〈黒月〉にはないはずだった。
「長老会の決定です。彼等の処遇はすべて〈暁の旅団〉に委ねると――」
そう来たか――と、リィンはツァオの考えを察する。
アルマータのボス、ジェラールは降伏してきた際、リィンに自分が下でも構わないと〈暁の旅団〉の傘下に組織が加わることをにおわせた。実際それをリィンが了承した訳ではないが、〈黒月〉からすればアルマータを勝手に処分すれば〈暁の旅団〉との関係に禍根を残しかねない。
それが小さな傷だとしても、信頼とは僅かなひびから容易に崩れるものだ。そして、いまの〈暁の旅団〉と〈黒月〉にそれほどの信頼関係はない。第二、第三のアルマータが出現するリスクと天秤に掛けた上で〈暁の旅団〉との関係を優先したと言うことなのだろう。
これは自分たちの評価を見誤っていたリィンの失態でもあった。
ライ家が失墜したことで〈黒月〉の長老会は〈暁の旅団〉の評価を見直さざるを得なくなった。ルウ家の話をすべて鵜呑みにはしていなくとも、実際に龍來に続いて海蝕洞が壊滅的な被害を受けると言った事件が起きている。
ルウ家以外の長老家がリィンの力を見誤っていたのは事実で、その力が自分たちに向くことを恐れたのだろう。
それに最近は名前を聞くことのなかった〈銀〉の存在も、長老たちを恐れさせる原因となっていた。ライ家の屋敷が襲撃され、皆殺しにされた事件。それが〈銀〉の仕業であると噂になっているためだ。
ルウ家ほどではないとはいえ、ライ家も腕の立つ凶手を多く抱えていたのだ。
それが為す術もなく敗れ、皆殺しにされたとなっては〈銀〉の実力を認めざるを得ない。『伝説の魔人』と語り継がれる凶手の力が、いつ自分たちに向くか分からない状況に長老たちが恐怖するのも無理からぬ話だと言う訳だ。
ようするに――
「申し訳ないとは思いますが、納得してください。少々やりすぎたのですよ」
ツァオの言うように、リィンたちはやり過ぎたのだ。
猟兵として当然の報復をしたつもりでも、それが〈黒月〉の長老たちをも恐れさせた。
他の猟兵団であれば報復を考えても、そこまでのことは為そうと思っても普通は躊躇するし、容易に為せることではない。それが出来たのは〈黒月〉という巨大な組織を敵に回したとしても、どうにかなるという絶対の自信がリィンを含め〈暁の旅団〉の幹部たちにはあったからだ。
これまで負ければ世界が滅びるような敵と戦って勝利を収めてきたが故に、幾ら巨大な組織だと言っても相手が〝人間〟であることを忘れ、いつもの調子で対処してきたリィンたちの認識のずれが招いた結果とも言えた。
この点はミュゼにも落ち度がある。
リィンたちと行動を共にすることで一般的な感覚が抜け落ちていたのだろう。
「なるほど、それでそこの二人に話が繋がる訳か」
アルマータのしたことはギルドも把握しているはずだ。
当然〈黒月〉に対しても捜査協力を求めたはず。しかし、そんなものが聞き入れられるはずもない。
この街は実質的に〈黒月〉の支配下にある。そのため、ギルドや警察であっても裏の事情に首を突っ込むことは難しい。それで一般市民に犠牲者がでていたとしても目を瞑るしかないのが、この街の実情だ。
拒否されれば、それ以上の捜査は難しい。だから、これまでは諦めていた。
しかし、アルマータの処遇は〈暁の旅団〉に――リィンに委ねられた。
そこでギルドが介入してきたのだと、リィンは状況を察する。
だが、
「ギルドの考えは分かった。だが、お前も同じ考えなのか? 不動のジン」
遊撃士との関係が悪いのはマフィアだけではない。猟兵と遊撃士も水と油の関係だ。
都合良く自分たちに協力してもらえると考えているのなら、甘い認識としか言えない。
それを次のS級とまでギルド内で噂されている遊撃士が理解していないとは到底おもえなかった。
「……やはり、俺の正体に気付いていたか」
「アンタは有名人だしな。知らない方がどうかしてる」
不動のジン。その名を知らない者は、猟兵にもいないと言っていい。
A級の遊撃士にして『リベールの異変』や『教団事件』など幾つもの事件に関わり、解決へと導いてきたギルドの英雄。次のS級に最も近い男と、非公開となっているS級の存在を知る関係者の間では噂されている人物だ。
それに――
「隣のお前は最近売り出し中の〈剣の乙女〉だな」
「わたしのことまで――!?」
「〈ルバーチェ商会〉と言えば伝わるだろう。俺たちの〝情報網〟を甘く見ないことだ」
最近、共和国にも販路を広げつつあるクロスベルの商会。
暁の旅団との関係が噂されながらも表向きは真っ当な商売をしていることから、警察やギルドも警戒しつつも迂闊に手をだせない相手となっていることは〈剣の乙女〉――エレイン・オークレールも理解していた。
しかし、Aランクの推薦を受けているとはいえ、数多くいる遊撃士の一人に過ぎない自分まで把握されているとは思ってもいなかったのだろう。
それだけに警戒を強める。ただ強いだけの男ではないと、いまのやり取りだけで察せられたからだ。
「まあ、いい。ここまで来たんだ。話くらいは聞こうじゃないか。それでギルドは俺に何を望む?」
追い返すことは簡単だが、遊撃士が猟兵に協力を持ち掛けてくるなど珍しい。
そんなバカはエステルくらいだと思っていただけに、内心リィンは少し楽しんでいた。
悪い癖だが、興味を持ったと言った方が正解だろう。
拒絶することは、いつでも出来る。しかし、話を聞くだけならタダだ。
「一般市民を殺害し、重傷を負わせた犯人を追っているわ。容疑者はエメラルドグリーンの髪をしたダガー使いの優男と、アルマータの幹部と思われる女。ボスの身柄を渡せとまでは言わない。ただ、捜査に協力して欲しい……」
なるほどとエレインの話に、一応は納得した様子を見せるリィン。
確かに筋は通っている。ギルドとしては一般人に危害を加えた犯人さえ逮捕できれば面目は保てるという考えなのだろう。
しかし、
「協力する見返りは?」
これが一般市民であれば、ギルドに協力するのは当然だと考える者もいるだろう。
しかし、リィンは猟兵だ。何の見返りもなしに頼みごとをして通るはずもない。
それにリィンからすれば、死んだ人間は自業自得としか言えない連中だ。アルマータに殺されずとも、裏で処分されていた可能性が高い人間。猟兵やマフィアに属していないからと言って、一般人という括りにするのは無理のある人種だった。
リーシャを庇って怪我を負った男には同情する点があるし、借りがあるとも感じているが、だからと言ってギルドに協力する理由にはならない。第一その男も〈黒月〉の依頼を受けて事件に首を突っ込んでいる関係者だ。
例え片足であろうと裏の事情に首を突っ込んだ時点で、自己責任というのがリィンの考えだった。
「報酬を支払うわ。ギルドからとはいかないけど、それなりに私も貯えはある。その中から――」
「三千万ミラだ」
「……え?」
「連中のボスに引き合わせてやってもいい。ただし、情報料として三千万ミラを貰う。それで、どうする?」
相場から考えてもありえない額を要求され、エレインは呆然と固まる。
高ランクの遊撃士はギルドの稼ぎ頭だけあって、それなりの報酬を貰っている。
しかし、ギルドの信条は民間人を救済することにあり、法外な依頼料を取っている訳ではない。
三千万ミラなんて大金――いまのエレインに支払える金額ではなかった。
「払えないなら別にいい。この話はなかったことにするだけだ。それとも――」
力尽くで聞きだしてみるか?
と、リィンから発せられた殺気に身体が反応し、エレインの手が腰に携えた剣の柄に伸びる。しかし、
「……ジンさん?」
「そこまでだ。相手も万全ではないようだが、それでも間違いなく今のお前さんよりは強い」
剣を抜く前にエレインの前に立ち、ジンが止めに入る。
そんなジンの行動にリィンは感心した様子を見せる。
止めに入ったことよりも、体調が万全でないことを見抜かれたことにだ。
「それと若いのを挑発するのはやめてもらえるか?」
「猟兵とギルドの関係を考えれば、どれだけ本気なのか覚悟を試すのは当然だろう?」
「まあ、そりゃそうだがな……。てか、お前さん。それでも値下げに応じるつもりはなかっただろう。こっちの足下を見て、思いっきり吹っ掛けやがって……」
「相手が遊撃士でなければ、俺もこんな要求はしないさ。だが、こっちにも面子がある。ギルドが頭を下げて協力を頼むならともかく、小娘に報酬を払わせる組織を信用できると思うか?」
リィンの話に一理あると、難しい表情を浮かべながらジンも認める。
幾ら犯人の情報を得るためだと言っても、これはギルドの仕事だ。
事情があるとはいえ、エレインが情報料を負担するのは筋が通らない。
「……どういうつもりだ?」
「ギルドを代表して俺から協力を依頼する。だから頼む」
頭を下げ、協力を要請してくるジンを訝しむリィン。
それもそのはずで、まだB級のエレインと違ってA級のジンの言葉は重い。
ましてや次のS級と目される男の言葉だ。そんな男が『ギルドを代表して』と口にしたのだ。
今更引っ込めることは出来ないし、ギルドとてなかったことにするのは難しい。
「いいだろう。金も必要ない。ただし、これは〝貸し一つ〟だ」
相手が筋を通すなら、リィンも無茶な要求をするつもりはなかった。
だが、
(こいつは高くついたかもしれねえな……)
これなら素直に報酬を支払っておけばよかったと考えるジン。
しかし、こうなっては仕方がないとリィンの条件を受け入れるのであった。
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