リィンに国防軍の対応について質問され、セイジュウロウは険しい表情を見せる。
 しばらく沈黙の時間が続くが、観念した様子で先に口を開いたのはセイジュウロウの方だった。

対零号特戦部隊(タスクフォース・ゼロ)と言うのを聞いたことがあるかね?」

 セイジュウロウの話にリィンやシズナだけでなく、現地人のレイカも首を傾げる。
 軍事に疎ければ、そうした組織のことを知らなくても無理はないが――

「知らないのは当然だ。表向きは存在しない部隊だからね」

 レイカが知らないのも無理はないと、セイジュウロウは語る。
 零号と呼ばれる部隊は、公にはされていない部隊だからだ。
 対テロ、諜報などを担当する一号、二号と呼ばれる特殊部隊が有名だが、零号が担当するのは異界。
 怪異や異界の脅威に対抗するため、政府が独自に組織した部隊。
 それが、対零号特戦部隊(タスクフォース・ゼロ)なのだとセイジュウロウは説明する。

「部隊が結成されたのは、いまから十年前だ」
「え、それって……」

 レイカも気付いたのだろう。
 東亰都民であれば、十年前というキーワードで真っ先に思いつく災害があるからだ。

「そうだ。東亰震災――いや、裏社会において東亰冥災と呼ばれている大災害。それが、対零号特戦部隊(タスクフォース・ゼロ)が組織されるに至った理由だ」

 セイジュウロウの話は続く。
 対異界と言うとネメシスやゾディアックが有名だが、どちらも公的な機関ではなく民間の組織だ。
 即ち、国は怪異に対して有効な手段を持ち合わせておらず、対応を裏の組織に委ねていると言う状況にある。
 国家として、そんな状況を見過ごせるはずもない。
 しかし、どちらの組織も国を跨ぐ国際的な組織で、徴用しようとすれば諸外国からの反発を招くことになる。
 だから独自の組織を作り上げることにしたのだと説明するセイジュウロウに、リィンは確認を取るように尋ねる。

「だから、教会と手を組んだと言う訳か」

 そんな組織を知識もノウハウもない状態で、一から作り上げられるはずもない。
 たった十年でカタチに出来たのは、協力者がいたからと考えるのが自然だ。
 それが聖霊教会なのだと、リィンは察したのだ。

「そうだ。企業連合(ゾディアック)に借りを作りたくはなかったのだろう。当然、大きな見返りを求められることは目に見えているからな。そして、それはネメシスにも言えることだ」

 それに神話級グリムグリードを討滅し、災厄を鎮めたのはネメシスの英雄ということになっている。
 ゾディアックも東亰に現れた怪異の掃討作戦に参戦し、住民を避難させるのに一役買っていた。
 日本政府は東亰冥災の件で、二つの組織に大きな借りがある。
 だから協力を求めることを躊躇ったのだと、セイジュウロウは説明する。

「プライドか? いや、ゾディアックやネメシスに依存しない部隊を作ろうと言うのに、二つの組織に頼ってしまっては意味がない。あくまで軍主導で計画を進めるために、主導権を握られることを嫌ったのか」

 よくある話だなと、呆れた様子でリィンは溜め息を漏らす。
 国防軍の考えは理解できなくないが、それで教会に頼っていては本末転倒だと思ったからだ。

「それで、教会に上手く乗せられたってところか」
「東亰冥災には、教会も関与することがなかったからな。思惑が一致したと言うのもあるのだろう」
「思惑?」
 
 訝しげな視線を向けてくるリィンに、セイジュウロウは言葉を続ける。

「彼等は教会によって聖別された武器を装備している。もっとも――」
「並の怪異が相手ならともかく、グリムグリードには通用しないだろうな」
「そう言うことだ」

 セイジュウロウの話を聞き、やれやれと自分たちが狙われた理由をリィンは察する。
 教会の思惑についても察しが付いたからだ。
 教会の思惑は十年前の真相を確かめ、リィンたちの正体を突き止めることにあったのだろう。
 そして、国防軍は教会からリィンたちの話を聞き、ゾディアックとネメシスどちらの組織にも所属していないリィンたちを捕らえ、戦力として組み込もうと企んだのだ。
 騎神のことも既に把握していたのかもしれないと考える。
 大方、軍で接収する腹づもりだったのだろうと――
 そう言う意味では、トモアキは国防軍と教会に利用されただけの哀れな子羊だったと言うことだ。
 自業自得であることに変わりは無いのだが――

「話についていけないんだけど……ようするに十年前の災害にも、あの化け物が関わっていたってこと?」
「そういうことだ。それで、どうする?」
「どうするって、どういうこと?」
「このまま俺たちと一緒に行動するか、ゾディアック――いや、北都に保護を求めるかって話だ」

 リィンの問いに目を丸くし、そして複雑な表情を滲ませるレイカ。
 リィンが自分をここまで連れてきた理由を、ようやく察したからだ。
 北都に保護を求めれば、以前と同じようにとは行かないかもしれないが、異界と関わることなく表向きは平穏な日々を送ることが出来るだろう。
 しかし、リィンたちと行動を共にするのであれば、話は別だ。
 裏の世界に身を置くと言うことは、この先もずっと狙われ続ける可能性が高い。
 怪異だけでなく国防軍や教会さえも敵に回し、いまの生活を続けることは出来なくなるだろう。
 引くなら、いましかない。選択を迫られているのだとレイカは察し、

「そんなの決まってるわ。リィンたちと一緒にいるに決まってるじゃない。余り、私を舐めないでくれる?」

 答えをだす。
 問われるまでもなく、最初から腹は決まっていたからだ。
 そうでなければ、リィンのマンションに押し掛けたりはしない。

「第一、ゾディアックとかネメシスとか言われても、私はそんな組織のことを知らないし、知らない相手に自分の身を委ねるほどバカじゃないわ。それなら危険だろうと、私は私が信頼できると思った人に命を預けたい」

 レイカからすればセイジュウロウでさえ、ただ名前を知っていると言った程度の相手でしかない。
 ゾディアックやネメシスなど、裏の世界について知るまでは名前すら聞いたことがなかったのだ。
 そんな相手に自分の命を委ねるつもりは髪の毛の先ほどもなかった。 
 危険なことに変わりはないのなら、自分の命は信頼できる相手に預けたい。
 それが、レイカの考えだからだ。

(やれやれ、似てるとは思ったが、ここまでとはな……)

 ゼムリア大陸に残してきた恋人たちのことを思い出しながら、リィンは溜め息を吐く。
 芯が強く、勝ち気なところはアリサやエリィによく似ていると思ったからだ。
 それを言うなら、アルフィンやミュゼと言ったリィンの周りにいる女性は、みんな似たようなものなのだが――
 だからこそ、無理に引き離したところで意味はないと悟っていた。
 むしろ、ここで拒絶すると余計に危険に晒すだけだと知っているだけに諦める。

「好きにしろ」

 リィンがそう言うと、勝ち誇った様子で笑みを浮かべるレイカ。
 同じように笑みを浮かべているシズナを見て、呆れる。
 最初から結託していたのだと察したからだ。
 それならそれで、レイカのことはシズナに丸投げしようとリィンは考える。
 それよりも問題は――

「ゾディアック――いや、北都はどうするつもりだ?」

 どちらに付くつもりだと、リィンはセイジュウロウに選択を迫る。
 国防軍が教会と手を組んで騎神を狙っている可能性があると分かった時点で、最悪この国をでることもリィンは考えていた。
 いまのヴァリマールであれば、単独で大気圏外にでることも可能だ。国外に脱出することなど容易い。
 リィンからすれば、ちょっと面倒事が増えたと言った程度の話でしかないからだ。
 異界化(イクリプス)が頻発し、十年前と似たような兆候がでているのが気になるが、だからと言って手を貸す理由も助ける義理もない。
 セイジュウロウの出方次第では、あっさりとこの国を見捨てる考えでいた。
 元日本人の記憶があると言うだけで、いまのリィンは〈暁の旅団〉のリィン・クラウゼルだからだ。
 それに、この世界はリィンの知っている日本とも微妙に異なっている。
 並行世界の一つだと考えられるが、それならば尚更、助ける義理はないと言うのがリィンの考えであった。
 当然セイジュウロウも自分たちの対応次第では、リィンがこの国をでるつもりでいることは分かっているのだろう。
 だからこそ、この会談を設けたのだ。
 取り返しがつかなくなる前に、打てる手を打つために――

「目には目を歯には歯を、という言葉がこの国にはある。国防軍と教会が手を組むのであれば、我々も同じように対応するだけの話だ」
「おい、まさか……」

 嫌な予感がして尋ねるリィンに、セイジュウロウは頷き返す。

「ゾディアックとネメシスは目の前に迫る脅威に対して、合同でチームを結成することになった。ミツキとアスカくんの同意も得ている。Xanadu(ザナドゥ) Research(リサーチ) Club(クラブ)。表向きは部活動(・・・)の一環とする予定だ。その特別顧問を――」

 キミたちに頼みたい――
 と、セイジュウロウは頭を下げるのであった。



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