短編『異聞・扶桑海事変』
(ドラえもん×多重クロス)



――扶桑海の最終決戦前、扶桑軍の思惑は外れ、やはり海軍主体での作戦に変更せざるを得なかった。待機していた全空母をも動員して、航空戦力の数合わせを行ったが、それでも、大型空母が量産される40年代以降に比すると貧弱な陣容でしかなかった。この時の紀伊型戦艦の後期型艦は公称のカタログスペックとはかけ離れており、実際には、主砲を50口径に載せ替え、更に速力維持という無茶を強いられたため、満載配水量は60000トンに達している。この事を吉田善吾司令長官から聞き出した圭子は呆れていた。


――天城の格納庫

「らしいわ」

「まあ、スペックの欺瞞なんてのはよくあるけどよ……無理があるぞ。10000トン位差があるだろ」

「速力維持を命じられて、防御力の維持も命題だったから、どうしても重くなったみたい。この当時じゃ仕方がないわよ。紀伊型の基礎設計はズレが有るにしても、戦間期のものだし」

「だよなぁ。むしろ大和型が『小さい』んだよなぁ。よく、18インチ砲で260m台に収めたもんだ……」

「造船官達の必死の努力って奴よ。ほら、未来の造船官が視察した時も、艦政本部の連中は『小さく造った』のを自慢してたじゃない」

「そうだなぁ。まぁ、坊ノ岬沖海戦やレイテ沖海戦の事を引き合いに出されて、結局は大型化したが、当事者としては『小さくする事』が命題だったとかなんとか」

「まぁ、砲撃戦至上なはずの大戦艦が潜水艦や航空機に怯えるなんて考えもしなかっただろうし、自分らの最高傑作が航空機に無力だなんて残酷な事実知らされるなんて、これっぽちも思ってもみなかっただろうから」

ミッドチルダ動乱の際の大和型の改装の時、扶桑海軍艦政本部と地球連邦軍とで事前のディスカッションが行われた事を話す圭子。その場に護衛として立ち会っていたため、事の詳細を話す。

「艦政本部は大和型を大きくするのに反対だったのよ。『最小の重量をもって威力最大なる艦船たらしむるには船体、兵器、機関および艤装品の各細部にわたり、容積の縮小と重量の軽減をはかるを要す』なんて訓示も出されてたくらいに、小型軽量化に腐心してたから。でも、レイテ沖海戦の武蔵、坊ノ岬沖海戦の大和の最期の戦闘を指摘された上に、若い技官からは全門一斉射撃が不可能な船体強度のことを言われて、艦政本部の古株が激怒してね…」

艦政本部側としては『他の艦の建造をでっち上げてまで、限られた予算の中で威力を持つ艦を造ったのだ』と誇っていたが、連邦側としては『国家予算つぎ込んで造ったのなら、妥協するな』と言ったらしく、喧々囂々となった。これは後世における大和型の悪評が定着していたのが要因だが、むしろ、設計側の想定外の『片側に魚雷を短時間に集中砲火されて沈められる』、『300機以上の爆撃機・雷撃機と単艦で対峙する』事を言われて、困惑した者が多数だった。

「で、むしろ用兵側がそんな運用したのか、と落胆した造船官が多くてね。あと艦政本部から出たんだけど、『艦隊は最低速度艦に合わせて航行するから、戦艦に高速を求めるのはおかしい』とか指摘が出たわ」

「そうだろう。ほら、未来の軍事に疎いマスコミ連中や、実戦を知らない評論家とかがよく、『30ノットも出ない戦艦は空母直掩に使えない』、『汎用性に欠ける』とか記事にするだろ?アイオワが35ノット出した事あるからって、あれ基準で考えてやがるからな、馬鹿共は。戦艦は本来、砲艦外交とか、戦艦と殴りあってナンボのはずだぜ?それを空母の護衛として使ったのは、船が余ってるし、予備をいくらでも用意できる資源があったからなんだぜ?」

黒江は未来で、大和の戦没日になると、よく新聞で『大和は不沈艦だったのか?』などという記事が出されるのを目にした事がある。栄華を誇った日本海軍の滅亡の象徴とされるため、『戦争の当事者』である身としては複雑な気持ちであるのが分かる。

「後世の連中は結果だけを見るから。当事者の努力なんて二の次なのよ、二の次。後知恵で何とでも言えるからね。それで揉めたけど、やっぱり艦政本部も航空攻撃や潜水艦の雷撃を脅威に思ってたから、結局、連邦側の提案を飲んだのよ」

「なるほどなぁ」

航空攻撃に水上艦が弱いことが正式に証明された上に、大和型の重装甲も絶対でない事に恐れを抱いた扶桑軍は、最終的には連邦側の要求を全面的に飲んだ。改大和型が生まれる背景には、ディスカッションで揉めたという事があるのだ。

「お二人さん、何を話してるんだよ」

「若本か。新型戦艦のことだよ、上がひた隠しにしてる秘密兵器だよ」

「何だと!こんな時に秘密兵器だって?!ざけんじゃねー!あの老いぼれ共め!」

若本は若さを見せる。まだ子供といえる年齢故か、すぐに熱くなるという欠点がある。その欠点は青年期になってもあまり変わらず、その後の人生において、反骨精神旺盛だったのと、兵学校で正規の士官教育を受けなかった事もあり、後年における最終階級は少佐だったという。

「話を最後まで聞け。ソイツはまだ竜骨を造ってる段階に過ぎない。つまり、無いも同然の状態なんだよ。」

「んな状態のを、なんで知ってるんだよ、あんたらは」

「なに、ちょっとしたツテがあってな。それさえありゃ楽なんだが」

「なんでだ?」

「今度のは46cm砲搭載だからだよ」

「よ、46ぅ!?」

「そうだ。外国が40cmを積んだ船をバンバン作るだろうから、それを上回る戦艦を作ろうって腹だ。完成は40年代に入ってからだろう。それは手間もかかるしな」

黒江はこの時期、既に知り合っていたマスコミの記者に『それ』をリークしていた事もあり、隠すつもりはなかった。公然と言うのは、海軍の一部高官らと密約を結んでいたからだ。


「でも、そんなこと言って大丈夫なのかよ?」

「この戦いが終わった後に、公表させる手筈は整えてある。お上にも話は入るだろうからな」

「お上のコネかよ。あんたらの事、わかんなくなってきたぜ」

「上のお偉方の一部にはいるんだよ。お上の威光を自分の意のままに使おうとする奴が。堀井もこのクチだった。だったらこっちもお上の威光で潰すまでって事だ。この国で一番偉いのはお上なんだからな」

「お偉方の喧嘩に混ざるのか?」

「そんなところだ。改革派に与する事で、軍の膿を出すしかお偉方を制御する方法はない」

「大人達は勝手だぜ。オレたちの頭ごなしに何もかも決めやがるんだからな」

「軍なんてのは、一枚岩じゃないからな。海軍だって色々な派閥がある。空母閥、水雷戦隊閥、潜水艦閥、戦艦閥……。そいつらをどうまとめるかが司令長官には求められるけど、今の吉田さんは飛び抜けて優秀でもないし、無能でもない平凡な人だからな……」

吉田善吾大将は戦間期の司令長官であるため、優秀さを示すエピソードも、無能と判定されるエピソードも無い。海軍大臣としての働きも特段無い。1945年には予備役編入済みだからだ。黒江も判断に困るのだ。

(井上さんは軍政家で戦下手、小沢さんはこの頃は要職の地位じゃないし、山本のおっちゃんは博打打ち、多聞丸のおっちゃんはちょっと若い。日本海軍の人材不足だよなあ、これ)

そう。後に名将と評価される太平洋戦争時の日本海軍の高官は少ない。黒江が未来で懇意にしている、その4人が連合艦隊司令長官なり、軍令部総長になれる力量を持つ将官だ。

(戦術単位じゃ、ショーフクさんや田中さんみたいな光る人はいる。だけど、戦略級に気を配れる人がいないんだよな、めったに)

そう。太平洋戦争で戦術単位での勝利に固執し、戦略的勝利を逃した例は多いし、油断と慢心で戦力を減じた例も多い。

「なんで、そんなことが言えんの?」

「海軍の高官と個人的に付き合いがあるんだよ。それでな」

それは本当だ。黒江は三羽烏で最高と言われる程に話術に長けるため、面と向かった海軍高官に気に入られる事が多い。この時には既に、後々の上官となる源田実や、先程の4人と知己となっておいた。(後に源田が三羽烏を重宝したのは、その縁故もある)

「ふうん。でもさ、あんたらには何か秘策があるんだろ?オレたちをがっかりさせないでくれよ」

「まぁ、見ててちょうだい。腰抜かすかもよ?」

「楽しみにしてるぜ〜」

圭子の一言を聞いた後、と、準備に向かう若本。格納庫を見ると、竹井を武子が安心させていたり、緊張した顔つきの坂本の姿が見える。武子が指揮官に任じられたのは通達されていたが、不満を持つ佐官や尉官も多い。

(フジのやつは確か、この時は15歳。穴拭と明野の同期だったから、実働年数は2年ちょいか。この頃の常識じゃ若手もいいところだ。不満を持つ奴が多いのもわかる)

――そう。この時期のウィッチはプレティーンの入隊も珍しくない時代。指揮官に任じられるのは16〜18歳、ベテランが19歳以後とはっきりと区分がされており、圭子はこの時、19歳に差し掛かっていたため、ベテラン組、黒江は『脂が乗っている』中堅、智子は『若手』に入るのだ。

「フジ」

「綾香」

「肩に力入ってんぞ?もっと楽にしろ。お前の双肩に皇国の興廃がかかってるのはわかる。だけどな、そんなに緊張すんな…っと」

脇腹の腹筋と腹側筋の間に指が簡単に沈む箇所があるのを知っていた黒江はそこに指を突っ込むようにして掴む。すると、


「ハハ!な、何するのよ……ハハッ……」

「ほら、力抜けただろ?」

「いきなりやめてくれる?は、ハハ…ハ…」

不意打ちで武子を笑わせ、緊張を解す。武子は笑いすぎてしゃがみ込む。

「周りの目なんて気にするな。皇室から公式に指揮権を委任されてるんだ、階級が少尉だからって、周りの視線くらいでビビってんじゃねーぞ?」

「あ、ありがとう。今ので肩が楽になったわ。今回は宛にさせてもらうわよ」

「おう」

「私がやられたら、あなたに託すわ。あなたなら上手くやれるでしょうから」

「バーロー、死ぬつもりで出るやつがあるかよ。みんなで必ず生きて帰る。そうだろう?それに、お前を怪我させたら、後で檜の奴にどやされるしな」

「誰なの、その檜って」

「後年に入ってくる、私らの後輩だよ。特にお前を慕っててな。お前のこと、姐様とか呼んでたっけか」

「え、えぇ〜〜!」

黒江は『姐様』と、自分が慕う人物を呼ぶ者達を見ている(この時は白井黒子、後に甘粕みやび)ため、耐性がついているために普通に言うが、武子は当然ながら、そういう世界に耐性がないためか、この時期にはあった、甘美な女学生文化を想像でもしたか、赤面する。

「お前、耐性ないなぁ」

「あ、当たり前でしょ!じ、女学生みたいな事、ち、ちょっとは憧れてるけど……なんで、あなたは平気なのよ!?」

「いやあ、身近に変態級のがいたから、耐性がついちゃったと言おうか、なんつーか……」

「はあ!?」

(しょっちゅう、ハルカや黒子が夜這いかけてたから、なんて言えねーな。こりゃ)

ここで黒江が言及した『檜』とは、武子が欧州に派遣された際に同じ部隊に配属された隊員で、『義足のエース』との異名を持つ、若手のホープの一人である。武子に憧れて、軍に入隊したという前歴を持ち、ある時に武子を庇って、片足を切断したという経緯を持ち、無論、ミッドチルダ動乱にも参戦している。年齢は菅野と同じ程度で、性質はどちらかと言うと、後に出会う『甘粕みやび』に近い。彼女にどやされる事も多いのだ。

「ま、終わったら話してやるよ。あ、そうだ。宮藤博士のご息女も私らの後輩になるぞ。近いうちに。んじゃ、準備してくんわ」

「え、それってどういうことー!?そっちを説明しなさいよ〜!」

芳佳の事を示唆し、準備を行う。腕には待機状態のISをつける。サイドアームは99式20ミリと雷切だ)

(国宝級の代物だが、最終決戦だし、いいな)

「黒江綾香、出るっ!」

発進時に、未来で毎度おなじみとなったセリフを叫ぶ。これはすっかり癖となっていたからでもあるが、歴史を本当に変えられるかの瀬戸際でもあったため、気合入れの意図もあって、敢えて行った。それを見た他の二人も同じことをやったため、後にウィッチ世界で流行ったとの事。(飛行長などが新設された後、管理が楽になる効果があるため、太平洋戦争時から正式に奨励されるようになった)



――そんなこんなで、武子の次席に任じられた黒江は飛来する怪異に突っ込んでいき、その鬼気迫る戦いぶりを味方から畏れられる。

『この当時』の彼女は突きを得意としていたが、未来では各ヒーローの影響もあって、振り下ろして両断する事も多くなった。例えば、これ。

爆撃機型怪異の前上方に上がり、刀を構えつつ、弧を描くように回す。これは忍者戦隊カクレンジャーのニンジャレッド=サスケの技であった。

『隠流・満月斬り!!』

最後に刀を振り下ろし、その衝撃波でコアを外殻ごと切り裂いて消滅させる。

「と、まあ。ウォーミングアップにはちょうどいいかな」

と、余裕の表情。十字砲火を物ともせずに突っ込んでいく。スタミナ節約のため、シールドは使わない。未来世界でハイマニューバミサイルなどを相手にしてきたおかげで、相手の弾道を見切れるようになっていたのもあって、黒江の動きは『魔法』のようだった。

(動きが見える、見えるぞ!VFやMS乗りしててよかったぜ〜!)

と、感動しつつ、次の大物を視認する。

『お次はこれだ!秘技・流れ十文字!』

素早く十文字に斬り裂く。これは二代目バルイーグルの技である。その剣技は当時に屈指の達人とされた北郷や江藤をして、唸らせるほどの手際の良さであった。

「あいつめ。『8年後』から来たってのは本当のようだな。『今』の技量じゃ、あんな膾切りは出来ないはずだからな…」

「お、妬いてるのか、敏子」

「馬鹿、ガキ相手に妬くほど耄碌しちゃいないさ…ん、ん、んんんっ!?」

その瞬間、江藤は固まった。彼女が目にしたのは……。

『ゲッターァァァァサイトぉ!!』

圭子だった。腕の得物は見慣れた銃やナイフではなく、巨大な刃渡りを持つ鎌だったのだ。それを振り回し、敵を両断したのだ。これには江藤も口を開けたまま、呆然気味であった。更に度肝を抜いたのは……。

『ゲッターァァァ……トマホー―ク!!』

鎌が物理法則無視の超変形で、両刃のハルバードになったのだ。これには北郷も唖然としてしまう。だが、ここで重大な事に気づく。

「ちょっと待った。あれはもう、トマホークじゃなくて、ハルバードじゃないのか?」

そう。トマホークは本来、手頃なサイズで、汎用性がある斧のことを指す。真ゲッターのようなものは本来は『ハルバード』に分類される。それを知っているために言ったのだろう。江藤はショックが大きすぎたのか、目の前で手を振っても反応がない。

「あ、だめだ。固まってるな…。しかし、敏子のこういう反応も久しぶりだな」

北郷は親友の狼狽える表情にほっこりとする。江藤はすっかり固まっていたが、数分後に圭子に叩かれたことで正気に戻った。

「ん、もう、何してるんですか、隊長」

「何じゃない〜!何だその、馬鹿でかい得物は!?」

「何って、トマホークですけど?」

「なぁ!?んなトマホークがあるか!むしろハルバードだろ、それ!」

と、江藤としては異例なほどにうろたえながらの突っ込みだった。

「だっから、投げて使う斧だから、トマホークなんですよっ!」

と、圭子はしびれを切らし、不意にトマホークをぶん投げる。すると、綺麗に弧を描いて戻ってくる。敵をきっちりと両断して。

『ムウン!!』

トマホークを掴まえて、担ぐ。江藤はこの光景に『馬鹿な!?ブーメランでもないのに戻ってくるのか!??』と。北郷は驚きを通り越して笑いに、江藤はひたすら茫然自失気味だった。

――智子は突貫した二人の代わりに、武子の直掩に回りつつ、付近の他ウィッチをまとめていた。

『横川さん、このままだと、徹子が囲まれます。援護を。坂本は竹井を守ってあげなさい、竹井は経験が浅いから。手空きの進藤さんはC中隊を援護してください!赤松さんは……」

いらん子中隊で鍛えられた指揮能力を存分に発揮、自身も武子の露払いをしつつ、戦果を挙げる。智子にとっては、過去の武子に、自身が最終的にたどり着いた境地を見せる絶好の機会であるので、大判振る舞いだった。

『行くわよっ!』

九七式戦闘脚の限界を知り抜いている智子はストライカーの排気煙を使用し、相手を撹乱し、そこから刀を一閃する。智子は鐘捲流や北辰一刀流などの心得がある(ツバメ返しは、彼女が尊敬している剣士の一人の佐々木小次郎の技で、その関係で心得がある)

『ツバメ返し・改!!』

と、史実のこの時期に必殺マニューバとしている『ツバメ返し』(捻り込み)の独自改良系を披露した。愛刀の備前長船を使用した居合い抜きを捻り込みに織り交ぜたものだが、今回は九七式で実際に行っていたモノではなく、二式戦闘脚で行っていた際の改良系である。一撃離脱戦法での技なので、巴戦重視の九七式の性能ではいささか負担が大きい。それ故、本来に比べるとスピードは大分落とした。が、限度いっぱいまで引っ張った一瞬、マシンが軋む音がしたので、流石にマシンの性能の格差を感じる。

(大分落としたんだけどなぁ。キ44以降の頑丈な機体に慣れちゃうと、キ27はやっぱり脆いわねぇ。好きな機体なんだけど)

個人的には好きなストライカーだが、後年の大パワー機に慣れてしまうと、この時期のストライカーは『無理が効かない』。それが歯がゆく感じるのだ。

「凄いわよ、智子!九七で、あんな戦法ができるなんて!」

「まぁ、私もスオムスじゃ色々苦労したしね。あれはその成果。だけど、マシンの性能の格差感じるわ、やっぱり。時速600以上出せるマシンの戦法したら、機体が悲鳴あげたわ。こりゃ予備のキ43を使うしかないかもね」

「あの試作型を?」

「あれなら1000馬力級だしね。一応、情報流して、多少の主桁強化はさせたけど、どの程度か」

「何の情報?」

「急降下制限速度よ。九七とか次のヨンサンは引き起こしの時に空中分解起こしたってのが結構多いのよ。これからは縦の空戦の時代だから、旋回性だけじゃ勝てなくなる」

「あなたがそんな真面目な事を言うなんて……やっぱり8年で成熟した証かしら?」

「そんなとこよ。ここまで来るのに、陸軍航空は大損害。多少は減らしたけど、それでも全体で見ると、前途に暗雲間違いなし。空軍が陸軍主体になったのは、やっぱり時勢にマッチしていたからなのよ。海軍の井上さんは肩透かし食らったみたいな事を言ってたけど」

「井上って?」

「井上成美閣下よ。彼と面識あるのよ、私達。それで独立空軍の形態が、陸軍航空が海軍の一部を飲み込む形になると教えたら、肩透かし食らったような感想だったのよ」

後の扶桑空軍の組織形態が陸軍飛行戦隊のそれの発展形となったのは、陸軍のほうが先進的な航空戦を行っていた事が連邦軍からも高く評価されていたからだ。

「どうして?」

「閣下は海軍の空軍化を考えてたのよ。ところが、46cm砲搭載の次期戦艦『大和型』を作ったほうが軍事的抑止力になったり、他国が戦艦をバンバン作ったのを教えたのよ。そうしたら『なぜ各国は戦艦を意固地になって作るのだ?』と言ったのよ。あの人、戦艦を軍事的意義でしか見てないから、山本五十六閣下の持論伝えて、なんとか収めたわ」

「なんでこう、両極端なのかしらねぇ」

――井上は、聞かされた大和型の量産を『バカげている』と評したが、他国の次期戦艦が続々登場する未来を知ると、落胆したような表情を浮かべたという。しかも、技術の進歩で戦艦の防空力は飛躍的に高まる事、アメリカがなんだかんだで50年間、戦艦を手放さなかった事を知ると、微妙な表情となったという。

「山本閣下が言ってたわ。戦艦は金持ちが持つ、床の間の飾りのような効果を持つって。軍事的意義が薄れても、その心理的効果で効力を持つから、けして廃止はしないって。それを言ったら、井上さんも折れたわ。次期戦艦を撤廃させようかとしてたし。それに各国がバンバン作りまくるんじゃ、持たないと国民がうるさいから。凄く渋い表情してたわよ」

「でしょうねぇ」

智子の言葉からは、井上成美にとって、大和型戦艦が長門型戦艦に代わるシンボルとして君臨する未来は信じがたく、同時に、遥かな未来まで国家の象徴としての意義を果たしていると聞かされ、凄く微妙な表情を浮かべたのが窺える。そんな事を言い合いつつ、二人は任務を果たしていくのであった。



――井上成美とは、史実でも『海軍左派三羽烏』と知られ、史上最後に海軍大将となった軍人で知られる高官。(終戦時の海軍次官)彼はこの世界では、ミッドチルダ動乱勃発時の海軍次官でもあり、空母機動部隊のジェット化による桁違いの高額化の未来と、他国が戦間期型の更新として、大和型戦艦を大義名分に、バンバンと大型戦艦を作りまくった事、空軍は陸軍が主導権を握って、設立した事を指して、海軍の空軍化を進めようとした事があるため、『私の提言は正しかったのか、正しくないのかよくわからん結果だな……』と漏らしたという。(また、空母機動部隊の値段が最終的に、小国には手に負えないレベルに高騰することが知らされ、更に海軍が史実で空軍化を推し進めた事が、海軍の本分である『海戦』で勝てなくなったという本末転倒な事実を知らされると、それはそれで大いに落胆したという)



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