インターミッション『兵器開発事情』
※シルフェニア八周年記念作品


――コズミック・イラ世界で開発されたモビルスーツでザフト軍の事情でデータ解析での有用性は評価されたもの、正式採用を見送られたドム。何故か。ホバー移動での操縦に上層部が難色を示したからだった。これによりザフト軍次世代機として完成を見たのは、ザクが一番最初となり、試作機をベースに改修を加える形で採用され、次いで戦時の状況下でグフが採用されたというわけである。


――コズミック・イラ73頃 

この時代、ザフトは開発する機体は基本的に前大戦で実績を挙げた機体の発展型か、前大戦から続けられていた解析で得られた情報を基にして、なおかつ実戦部隊の要求に合致した機体に限られていた。ドムのデータが受けなかったのはザフトのパイロット事情も絡んでの事であった。


「前の大戦からコツコツと技術解析を進めといて正解だった。これでナチュラル共に遅れを取る事は無くなったからな」

「しかし何故ホバーが受けなかったんだ?」

「ほら。ジンやゲイツとかに慣れちまった連中にはホバーはやりにくいんだよ、たぶん」

「かねぇ」

ザフトは前大戦時から体制が一新され、名実共に国家としての地位を築いた。そのため、義勇軍の建前であるザフトもある程度は他国の階級制がある軍隊に値する教育をきちんと行う必要性が大きくなり、全将兵に再教育が行われている。これは前大戦中にザフト将兵が国際条約を完全無視して虐殺を行った事が戦後に問題視され、危うく国家独立が暗礁に乗り上げかけた事への反省によるもので、そのために“新たなザフト”である事を示すために、体制のみならず兵器の刷新を急いでいるのだ。それにザクのデータはうってつけであり、前大戦中から試作されていた機体を改修する形で完成を見たのがザクウォーリアであった。

「ザクウォーリアは条約の範囲内で配備数が決められているが、いずれそれは撤回される」

「何故だ」

「ナチュラル共が不穏な動きを見せている。それに旧・ザラ派のテロリスト共も蠢いている。そいつらがテロでも起こしてくれれば地球軍はそれを開戦の口実にするだろう。それに乗じて議長は動く。その時のためにラインの拡大を極秘裏に指令された。それとあの女狐……クラインの娘を暗殺できるように、と」

これは今のプラントにとって、前大戦にて三隻同盟を統率し、プラントそのものに多大な損害を与えたラクス・クラインはもはや邪魔な存在でしかない事の表れであった。そのために、データから得られた歌巫女―これはリン・ミンメイの事例に範を発する地球連邦の戦略――のデータを利用した替え玉を用意する事もデュランダルが考えている事は上層部の一部しか知らぬ策略であった。だが、そのザフトの思惑はまたも頓挫してしまう。そしてそのデュランダル子飼いのザフトレッド――シン・アスカ――もキラ・ヤマトの前にはほぼ無力であったのだから。これはデュランダルとしても誤算であったらしく、キラがスーパーコーディネイターである事を確信する材料であった。





――そして。西暦2200年。日本


「閣下、やはりプラントの新型機は我が軍から鹵獲したモビルスーツから得られたデータを解析して造られていたようです」

「そうか。彼らは我々やジオンなどの各モビルスーツを模倣する形でモビルスーツを成熟させたのか。やはりな」

宇宙軍提督の一人、ミスマル・コウイチロウは太平洋沖で海軍が拿捕した戦艦がプラント所属の戦艦であった事、その艦載機がルナツーの報告にあったプラント製の機体とは特徴が異なるという報告にそう答えた。そして、その全艦載機は月のアナハイム・エレクトロニクスに送って修復し、その解析と試験を行わせる旨が伝えられた。


「別の世界のものがこちらのOSなどで動くのかね?」

「幸い、機体管制OSに使われるプログラミング言語はほぼ同じであると技術部の解析結果は出ています。同じ数学を持ち、同じ概念を解するのなら同じものが使われていても不思議ではありません」

「なるほど」

「ただし兵器としての成熟度はこちらの方が上です。ショックアブソーバーなどの技術がこちらに比べると拙いので高高度からあらぬ態勢で落下すると行動不能になります」

「ほう。それは面白いな」


それは基本的にコズミック・イラのモビルスーツは空中戦が多くなっていたせいか、ショックアブソーバー関連技術の発達がこの西暦世界より遅れている事が連邦軍部に知れ渡った瞬間であった。そしてミネルバのクルーらは太平洋のどこかで連邦海軍に投降し、地球の捕虜収容所のどこかにいるのである。しかしそれをシンやルナマリアが知るのは数年間後の事であった。

「その戦艦は今どこに?」

「オーストラリアのトリントン湾岸基地に海軍が曳航し、ドック入りさせているとのことです」

「うむ。それでその艦の名は」

「ミネルバであります」

彼の言葉からは、ミネルバは本来たどるであろう運命から考えれば、多少は幸せな経緯を辿ったのだと理解できた。航行可能な状態での拿捕というのは屈辱的であるもの、撃沈よりはマシだからだ。ミスマルはミネルバの辿った運命に同情を見せ、報告を聞き終えた。














――撃墜後、連邦軍に回収されたデスティニーはしばらくキャルフォルニアベースにて保管されていた。その際に修復は行われていなかったが、ミネルバから予備パーツが接収され、送られてくると直ちに修復が行われた。そして地球連邦軍および軍需産業によって詳細な調査が行われた。

「ううぅむ。こりゃまるで全部乗せラーメンみたいだな」

「全部乗せ?」

「ZZの火力、V2アサルトバスターの対応力、ゴッドの格闘能力、ウィングの羽、F91の機動性を模倣したような感じだが、器用貧乏なのは否めんな」

アナハイム・エレクトロニクス社のエンジニア達はデスティニーを“全部乗せの器用貧乏”と称した。万能さを狙うためにアイデアを盛り込みまくったはいいが、アイデア負けしてしまっている点が大きいからであった。

「機体重量だけで80トンか。かなりの重量機なようだが、飛ばすのは凄いよ」

これがコズミック・イラ世界がこの西暦世界に勝っているところである。モビルスーツを長距離飛ばすというのは、この西暦世界では小型モビルスーツか、第5世代モビルスーツでようやっと実現できた機能だ。

「我社も完成させたばかりのΞガンダムとペネローペでようやっとモビルスーツに完全な飛行能力を与えたというのに……オミクロン計画に応用できるかな?」

「クスィーの次か。できるかねぇ」

「さぁな。アナザーガンダム造ったあの科学者達はもういない。と、なるとサナリィに我社がの意地を見せる必要があるのだ」

西暦2200年時、地球圏最大の軍需産業の一つ、アナハイム・エレクトロニクス社は小型モビルスーツ開発分野では、サナリィ―海軍戦略研究所――に遅れをとってしまったもの、大型モビルスーツに関しては一流の技術を未だ維持していた。第5世代モビルスーツは第4世代モビルスーツに飛行能力を与える目的で試作されたが、エンジンなどの関連技術がサナリィに比して遅れているために30m級の大型機となってしまい、軍部に受けが良くない。――ちゃっかり機体は納入したが――なので、アナハイム・エレクトロニクス社としては、UC計画とは別に作る予定の次期ガンダムに適応・応用させ、機体をダウンサイジングしたいのがエンジニアらの会話から伺えた。


――では、そのΞガンダムとはいかなる機体なのか。説明せねばなるまい。Ξガンダムとは、プロトタイプとも言えるオデュッセウスガンダム――ペネローペー――をより発展させる形で完成したガンダムである。コンセプトは「ZZの火力を持つν」で、νガンダムやZZの優れた点を継承した最新鋭機である。連邦軍はこの機体をテスト完了後、ロンド・ベルのアムロ・レイに配備する予定を立てているとか。飛行能力を持つためにアナハイム・エレクトロニクス社の連邦軍へのプレゼンには“空戦型型ガンダム”と記されている。そのΞは荒地での実戦テストも兼ねて、激戦区である、1945年のアフリカに送られていた。






――1945年 2月  アフリカ 北アフリカ

「Ξガンダムってどんなガンダムだ?」

「なんでも空飛べるガンダムだそうですよ」

「それは面白いな」

この時点ではストームウィッチーズ隊長代理の任を務めているハンナ・ユスティーナ・マルセイユはこの基地にテスト機として送られて来た新型ガンダムに興味津々なようである。空飛ぶと言うところが気に入ったらしい。


「これが新型のガンダム?大きいわね」

レオパルト1の運用レポートを上層部へ提出する途中で、基地に立ち寄っていたフレデリカ・ポルシェ少佐が格納庫にやってきて、開口一番にこの一言を発する。

「フレデリカ。お前、どーしたんだ今日は」

「レオパルトの運用テストの報告書を書いて、ロンメルに出すところよ。」

彼女も前年からこの世界の変容についていく事を余儀なくされた。ティーガーの更なる後継機のレオパルト1の運用テストにその任務を変えていた。パワードスーツのような様相を呈していたティーガーとは一線を画する。レオパルトは中装甲脚のような外見だが、ティーガーを上回る巨砲を難なく扱えるパワーと扱い易さを有する。そのために中戦車の任務もこなせ、シャーロットも“動きやすい”と言っている。その証拠に、運用テストの報告書を手に持っている。


「あれはパンサー系列を近いうちに代換するそうだが、本当か?」

「ええ。パンサーより火力があって、なおかつスピードも段違いだから、遅くても来年の今頃には量産体制整えたいみたい。それは置いといて……このガンダムって一機しか無いの?」

「ガンダムタイプは超高級一点物みたいなもんだからな。同型機作るのにも金がかかるらしく、今のところはこの一機だけだ」

「それって兵器って言えるの?」

「試作機の名目でフラッグシップ機作ってるようなもんだからいいんだって。その代わりに絶大な戦闘力持ってるから費用対効果としてはチャラになるらしいぞ」


「量産を考えない代わりに絶大な戦闘力か……いいのか、悪いのか……」

「だが、向こうでの戦争はああしたマシーンが戦争を終わらせた例がいくつもあるからな。今更戻るわけには行かないんだろうな」

フレデリカは連邦軍モビルスーツの最上層に位置するガンダムに対し兵器開発に携わる人間として、微妙な想いがある事を垣間見せた。未来では絶大な戦闘力を持つ代わりに量産を全く考えない兵器がフラッグシップとして生産・配備される事が当たり前となっている風潮に疑問を呈したのだ。兵器としては本末転倒な感が否めない。それはガンダムが服で言えば、オートクチュールのようなエース用の一点物になってしまい、一般兵に回す兵器の開発が二義的なモノになってしまっていることに対しての疑問符であった。
だが、量産機でガンダム、あるいはそれに匹敵する高性能機を倒すにはよほどの技量を持つパイロットでもなければ不可能である。確かに歴史上、量産型でガンダムタイプを倒した例はあるもの、それは量産機のパイロットの技量が優れ、ガンダムのパイロットの練度が劣る状態でのものである。アムロ・レイやジュドー・アーシタなどの強力な力を持つ者がガンダムに乗ればもはや正攻法では手がつけられないのは明白である。マルセイユは、その側面から、歴代のガンダム達の奮戦の結果、戦争が早期終結したので、連邦軍がそういう兵器開発方針を取るのも仕方のないことだと暗にフレデリカに示した。すると。

「あなたがそういう真面目な事言うなんて……」

と、驚かれてしまう。

「いいだろー私だってたまには真面目なこと言うんだぞー!」

ぶーたれるマルセイユであるが、一応ウィッチっとしては“異例”な速さで大尉にまで上り詰めた俊英であるので、そういった真面目な側面もあるのは確かである。

「でもこれってニュータイプ用のガンダムなんでしょう?乗れるのいないでしょう」

「サイコミュシステム積んでるからなΞは。私なら動かせる」

「って、いつの間に操縦訓練なんて受けてたのよ」

「去年の秋頃からちょっとな。それに私ならサイコミュシステムも動かせるしな」

それはマルセイユが固有魔法の関係もあってウィッチとして高度な空間認識能力を備えているのに関係していた。彼女自身が自分の今の権限を以ってして、ある日、アフリカに補給のために物資を運んできた、ラー・カイラム級に乗せられていたνガンダムのダブルフィンファンネルテスト機に乗ってみた。すると、サイコフレームのおかげか、天性の才能が目覚めたのか、連邦軍もびっくりの、サイコミュシステムが稼働したという結果が出た.そのためマルセイユは1944年秋ごろから促成カリキュラムを受験し、12月の15日に「実戦に出れる」くらいの腕は持つと認定されたのだ。



「へぇ……だから塗り替えさせたってわけ?」

「トリコロールカラーじゃ砂漠だと目立つだろ?だから迷彩にさせた」

Ξのカラーリングは元来の蒼と白のトリコロールカラーではなく、マルセイユの指示によって砂漠迷彩色に塗られていた。これはマルセイユが砂漠で運用するのに目立つからという理由で塗り替えさせたもの。最もΞは特徴的な外見なので、やはり目立つのであるが、マルセイユ曰く、“やらないよりはマシだ”との事。

「でも、この図体だと気休め程度よ?」

「やらないよりはマシだ。これで地上の運用テストして、将来の部隊運用に備えるらしいから、荒っぽく使ってやるつもりだ」


そう言って笑うマルセイユ。年の割には妙に落ち着いている彼女だが、心の中には歳相応の少女としての側面が潜んでいる。それはエーリカ・ハルトマンへの思いや各地で苦闘を続けているウィッチ仲間達を案じている発言をしている事からも分かる。ましてや今は圭子に代わって隊長代理の任を仰せつかっている身だ。それ故にΞガンダムに乗ることを決めたのだろう……。νの意思を継ぐΞの胎動はこの瞬間より始まっていた。
















――西暦2000年 


20世紀最後の年を迎えた野比家。相変わらずのび太の泣き声と玉子の怒声が木霊する中、ドラえもんは冷静に、地球連邦政府から送られてきた合金の組成成分の分析を行なっていた。



「あれ?ドラえもん、何してるの?」

「シ〜。今、大事なところなんだ……」

部屋をかなり占領する分析機械にはそのサンプルと、地球連邦の決戦兵器に使われる、タキオン粒子を宿し、放出する性質を持つ、とある移民惑星から採集された金属で造られた弾丸が置かれている。

「ジッケンヲカイシシマス」

そしてその弾丸が打ち出され、そのサンプルの別の金属を容易くぶち破る。消音装置がついているのか、それらは無音で行われた。

「うぅぅむ……」

「どうしたの?」

「のび太くん、宇宙戦艦ヤマトは知ってるね?」

「ああ、未来の世界で英雄とか騒がれてる、戦艦大和を宇宙戦艦に無理矢理直した軍艦だろ?」

「その宇宙戦艦ヤマトを無敵たらしめたのに、波動エンジンがある。超高速粒子のタキオンを利用した事実上の無限機関。」

「無限機関ってなあに?」

「その名のとおりにエネルギーを限りなく生み出すエンジンの事。ぼくの2125年でも殆ど理論上の存在だって言われてた。それをあの時代、イスカンダルっていう星から地球に伝えられて、10年もしない内に自家薬籠のモノにした。これは凄いことだよ。ぼくの宇宙救命ボートより高速でワープができるからね。この破壊された金属はそのヤマトが宇宙で採集したある宇宙人の国で使われている超合金なんだけど……破片の小さい板を置くから、金属バットでぶん殴ってみ」

ドラえもんは機械から金属の破片を拾って、畳に置く。のび太はもう何年も使って、古ぼけた金属バットでその金属をぶん殴って見る。すると。

「あ、あれぇ〜!?」

殴った金属バットはヒビが入り、一部が砕けてしまうが、殴られた方は無傷だ。これは元来の金属としての強度が違う事から生じた事だ。

「のび太くん。この金属は宇宙戦艦に使われるもので、凄く頑丈なものなんだ」

「だったらなんでこのバットで殴る必要があったの?」

「硬さを確かめるためさ。ヤマトや同じエンジン積んでる他の戦艦の艦砲がその金属を作った宇宙人の船を容易くぶち破った謎を解くためにやったんだ。これは未来でもヤマトの技師長さんが提唱した説なんだけど、いまいち確証無いからぼくの方でも実験してくれって頼まれたんだ」

「それで?」

「実験は大成功。この金属は地球連邦軍の軍艦から撃ち出されるタキオン粒子エネルギーに異常に弱いんだ。今度、未来でまた戦争起こるかも知れないから調べておいてくれって要請があったんだ」

「またぁ?あの時代っていつも戦争ばっかりやってない?」

「しょうがないよ。あの時代の地球連邦政府は地球から宇宙を支配してる。それを嫌ってるスペースノイドなんてゴマンといるし、地球連邦政府がいやって言っても、宇宙人が何故か地球を狙ってくるんだからそりゃ戦争にもなるさ。宇宙人も昔の帝国主義の頃の時代みたいな事やってるんだから不思議なもんだよ」

ドラえもんお得意の現実主義的な発言である。子守り用ロボットの割りにはリアリストなので、初対面の人々を驚かせている。その通りにのび太共々、子供でありながら偉く“ませた”政治的会話が繰り広げられていた。この実験データが未来世界に送られた事により、確証を得た地球連邦軍は波動カートリッジ弾を制式採用、生産と配備を急ぐ事となる。



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