外伝その79『奇跡を起こせ!』


――最終決戦に参陣させた大姪(義理の娘でもある)達を501のサポートに回したスリーレイブンズだが、黒江の考えがひょんな事からルッキーニに伝わり、ルッキーニは怒った。

「どうして、そんな事を平気で考えられるのさ!?あたしのロマーニャを……!」

と、詰め寄る。黒江は冷静に返す。

「北欧神話の神であるロキが本気出したら、有無を言わさずイタリア半島全体がおじゃんだぞ?それをやってないだけマシだ」

ルッキーニは不思議と、黒江に手が出せない。黄金聖衣を纏っているからか、不思議とルッキーニは動けない。

「この戦いは、邪神を倒すためでもあるんだ。もう、エゥーゴとかティターンズとか、連合軍とかってレベルを超えた『神々』との戦いなんだよ、これは」

聖闘士としての使命感がウィッチとしての自らを超えているのと、人格が黄金聖衣を纏って、また入れ替わった(勇子への敗北時は元に戻っていた)ため、目つきが余計に鋭くなっている。その効果もあり、ルッキーニは何も言えなくなる。

「…来たか!」

「くたばれぇ!」

「くたばるのはそっちだ!」

黒江は、神闘衣を纏った神闘士と化したかつての同胞達にも容赦なく、拳をぶつけ合う。ルッキーニはそれを見ていることしかできない。神闘士と聖闘士の戦いにおいては、ウィッチは無力に等しい。

『タイタニック・ハーキュリーズ!!』

相手から永久氷壁をも粉砕する剛拳が繰り出される。どうやら、本格的に神闘士になった者が出てきているようだ。それに対し、黒江も光速拳で応えた。

『ライトニングボルト!!』

ライトニングボルトの余波は、ルッキーニにも影響を与える。間近で見ていたせいか、ぶつかりあう小宇宙がルッキーニに流れ込んできたのだ。心の中で何かが弾ける。

「な、何……これ。あたしの中で何かが……!」

「やはり、『この時』か……!ルッキーニ、お前……!」

ルッキーニに小宇宙が目覚めたらしきオーラが不意に出現する。ルッキーニは不思議と体が動き、自然と流星拳を繰り出していた。威力はマッハ3ほど。白銀の中程度の速度に当たる。

「う、うじゅ……なにこれ……?」


「小宇宙だ。第六感みてーなものだが……今はごちゃごちゃ説明してる暇はねー!とにかくその力で援護しろ!」

「うじゅ!?ち、ちょっとまってよ!?いきなり言われても〜!」

「感じたままに動け!自分と敵を感じれば自然に拳が出る!!」

「わ、分かった!」

(そうか、ルッキーニが年食っても若々しいのは、小宇宙のおかげだな。この際だから、勧誘しとくか?)

『うりゃ〜!!』

流星拳である。ルッキーニの場合は、元々の素養が高かったのか、覚醒したての状態でマッハ3の速さだ。

「ほう。覚醒したてでこの速さとは……だが……そんな速さではな!」

「!」

「にゃ!?ユニットが……!」

ストライカーを防御の間なく、敵に破壊されたルッキーニだったが、なんと小宇宙に目覚めたおかげで、ルッキーニをある星座の形の幻影が包んだ。それは小馬座(エクレウス)だった。

「え、エクレウスだと!?」

これには黒江も驚く。エクレウスの聖衣は他の聖衣と異なり、星矢達の聖衣に近い形状ながら、女性が纏う事を前提にしている聖衣なのだ。これは星矢達の世界の下層世界で『聖闘少女』と呼ばれた存在がいたためであろう。ルッキーニは自然と叫ぶ。

『エクレウス!』

エクレウスの聖衣が出現し、ルッキーニを包み込む。

『エクレウス流星拳――ッ!』

と、技名を自然と叫ぶあたり、一種のトランス状態に入っている。意外と様になっており、その様子を遠くから見ていた、ルッキーニの孫娘『トリエラ』は苦笑する。

「ああ、やっぱりおばあちゃん、この時かw」

「お、おい!トリエラったな。なんだありゃ!?」

「おばあちゃん、小宇宙に目覚めてるんですよ。黒江のおばさんと同じように」

「なんだって――!?」

「いつそうなったのかは教えてくれなかったけど、まさかこの時間軸とは」

トリエラは祖母のパートナーと言えるシャーリーに言う。ただし、シャーリーはゲッター線に魅入られ、圭子と同じ道に、ルッキーニは黒江と同じ道を辿るので、行末は異なるのだが。




――ミーナは、聖闘士として戦う、黒江親子(実質)やルッキーニをモニター越しに見て、パニックを起こしていた。

「な、な、な……!?」

「ミーナ、落ち着いたらどう?みっともないよ」

「で、でも何よあれ、エーリカ!?」

「聖闘士と神闘士のドンパチだよ。ありゃもう別次元だから、あたし達にゃどうにもできないよ」

補給に戻ったハルトマンは、富士のCICに詰めていた。バルクホルンが出撃し、坂本が検査のために医務室にいっているため、事実上の副官のような事をしている。ココアシガレットをタバコのように咥えている。

「戦況は一応、ラ號のおかげで互角に持ち込んでる。ただ、ウィッチは精神的ダメージ負ってるのもいるよ。竹井少佐なんて、坂本少佐のあの姿見ちゃったせいで幼児退行を起こしちゃって、今は身体検査で医務室に行ってる」

竹井は、11歳当時(扶桑海事変当時)まで幼児退行を起こしたらしく、言動が幼くなっている。そのため、下がらせて身体検査を受けている。一応、戦闘には支障はないが、口調が幼くなったのが難点である。この程度で済んだのはは11歳当時と異なり、『クロウズとしての誇り』があるためであり、ついでにリウィッチ化させ、そのまま肉体も11歳当時に逆行させたという。

「赤ズボン隊は噛ませ属性ついたのか、またまた負傷で下がったよ。どうもだめだな、あいつら」

「あなたにしては辛辣ね」

「ロマーニャ最高の精鋭って割には、最近の戦績が芳しくないしね。属性ついたかと言いたいくらいだよ。再訓練の教官で、フェデリカ少佐にリウィッチ化を具申しとくか」

「少佐になってから変わったわね、あなた」

「いつまでも子供じゃいられないしね。……ああ。わかった」

「どうしたの?」

「エイラが目を覚まさないから、アウロラ大尉が憔悴してヤケを起こしたみたいだ。格納庫に行って、トゥルーデ用のISを見てさ、『使わせろ!』とヒステリー起こしたみたい」

「彼女、相当に参ってるわね」

「でもさ、あの人は陸戦ウィッチだし、空戦主体のISはまだ無理だと思うんだ。どうする?」

「エイラさんの姉なら、可能かも知れないわね。確か、トゥルーデの機体の予備パーツに新造部品を加えた『フェネクス』があったわね?」

「フェネクスを?あれはまだテストも済んでないよ?ブースターてんこ盛りだし、アウロラ大尉には……何ぃ、かってに出撃していったぁ!?しゃーない、アウロラ大尉に通信を繋ぐ!……大尉、もうこうなったらやけだ、武器の召喚の仕方を教える。……いい?ウェポンの選択は……」

エイラを昏睡状態にされた事への復讐心から、アウロラはバルクホルンの機体の装備違いの機体『フェネクス』というISで出撃してしまう。バルクホルンのバンシィ同様、装備は同名のガンダムからである。そのため、バンシィよりも加速力と機動性に割り振った性能となっており、素人のアウロラには扱いかねるというのが正直なところだ。だが、復讐心に駆られていたアウロラは意地でも動かすという強靭な意思で、フェネクスを操っていた。それを聞いた黒江は『ジャンプからの空挺降下のつもりで飛んでもらうしかねーな、飛行に慣れて無いなら“アムロ・レイの空中戦”でもやってもらうのが無難だろ?』と、ハルトマンに一言言う。

『あれか〜。まぁ、飛行はこれからの訓練如何だね。聞いた?大尉。ジャンプからの空挺降下のつもりでやっていいよ』

『わ、分かった!』

ハルトマンは同時通信で二人と会話を交わす。意外に様になっている姿だ。

「それでいいね、ミーナ」

「ええ。こうなったらヤケクソだわ……」

頭を抱えるミーナ。最近はこのような局面が多いためか、頭に五円ハゲができてしまったという。(10円ハゲかと思われたが、大きさが5円ほどだった。この時代の貨幣価値で言えば、十銭ハゲか)スリーレイブンズ関係で神経を尖らせていたためだろうとは、軍医の診断だ。


――戦況は、ソビエツキー・ソユーズをラ號と超メカ群が押さえ込む事で、均衡を保っている。神闘士は黒江親子とルッキーニが押さえ込みにかかっていた。その『子』である翼は、ある一人の元ウィッチの神闘士を『天叢雲剣』(別名、クサナギノツルギ)で屠る。


『断て!!クサナギ!!』

翼は義理の母であり、血縁上は大叔母の綾香から二拳二刀の異名を受け継いだ『後継者』だが、その身に発現した聖剣は大叔母とは異質なものである。綾香がエクスカリバーとエアに対し、翼はアロンダイトとアメノムラクモノツルギ(クサナギ)である。アメノムラクモノツルギはクサナギという名でも知られているため、クサナギの名が起動キーとなっている。その威力はエアに匹敵するものであり、尚且つエクスカリバーのように『勝利を約束された聖剣』である。(皇室の三種の神器の一つである故の加護)そのため、オリハルコンでできたゴッドローブであろうとも一刀両断に斬り捨てる。

「悪いな、こちとら裏切り者には容赦無いんでね」

翼はヘッドギアをつけている大叔母と違い、見分けのために、ヘッドギアはつけていない。顔が瓜二つであり、声もよく似ていたからだ。幸い、山羊座の聖衣は彼女が使っており、綾香は射手座を使っていたため、見分けは楽だった。

「やれやれ、雑魚どもは消えてもらおう!ギャラクシアン!!エクスプロージョン!!」

ギャラクシアンエクスプロージョンである。大叔母は常用しない技だが、翼は多用していた。小宇宙を燃やす練度は彼女のほうが上であるからだ。そのため、彼女のギャラクシアンエクスプロージョンであれば、アンドロメダ銀河を一発で吹き飛ばせる。

「あれが黒江中佐の姪っ子の力か……。流石に同様の力を受け継いだようだな……ん!?あれはまさかフェネクス!?誰が……な、何ぃ!?」

ストライカーから、バンシィによる戦闘へ移行していたバルクホルンは、兄弟機のフェネクスが、アウロラによって運用された事に驚愕する。しかも、アウロラは陸戦要員であり、空戦は素人なはずである。

「うおおおおおおあああああっ!!」

アウロラは叫びを上げながら、敵のミデア輸送機をビーム・ガトリングガンで蜂の巣にする。アウロラはビーム・ガトリングガンを両腕に構え、さながらガンダムヘビーアームズ改のような様相で乱射し、敵の母機を落とす。まだ空中ではよちよち歩きもいいところで、空戦機動など論外だが、アウロラのエイラへの想いがなせる技か、敵航空機を踏み台にし、叩き落としていく。その際に、スライディングを好んで行っているため、敵機の外板を削っていく。

「イッルの仇だぁぁぁ!くらえええええ!」

セイバーフィッシュに着地し、ブースターにビームサーベルを突き立てる。もはや阿修羅と化しており、アウロラは情け容赦なく敵を屠る。そして、フェネクスの意思もアウロラに流れ込んでいき……。アウロラの瞳の色が変化する。これがバンシィとフェネクスが持つ機能の一つである。伊達にRX-0シリーズの名を持つわけではない。アウロラの脳にフェネクスの情報の全てが流れ込む。すると、各部に仕込まれたサイコフレームが露出し、アウロラはアームドアーマーDEを噴射させ、機動に移る。これはオリジナルのMS『フェネクス』に搭載されていた『n_i_t_r_o』(ナイトロ)システムの代替システム『VMAX』プログラムによるリミット解除の作用だ。ナイトロの危険性から、ナイトロが排除され、NT-Dシステムも開発が進められた結果、第二世代と言えるものへ進化し、略称は同じであるが、意味合いはまったく異なる『ニューラルウェーブ・トランスレート-ドライバー』(神経波解析型制御プログラム)というべきものに変貌し、ニュータイプ排除のためのシステムでは無くなった。その補助プログラムとして組み込まれた『高速戦闘システム』が、VMAXシステムだ。VMAXが発動すると、全スラスターのアフターバーナー点火による推進力上昇、サイコフィールドによるバリアフィールドの展開、ミノフスキー粒子による索敵機器の阻害の効果を得る。ただし、機体に負担をかけるシステムでもあり、発動終了後は強制冷却状態となり、5分前後は行動不能に陥る欠点もある。これは機体の温度が上がるため、各部の強制冷却機構をフル稼働した上での数字である。その5分は空戦では致命傷になりえるものの、メリットの大きさから搭載された。フェネクスのフル稼働状態での稼働時間はおおよそ30分。ISの熱エネルギー量子化能力のキャパシティがその時間で限界になるためで、VMAX状態の熱が大きいのかが分かる。そのため、バルクホルンは通常モードで追従し、いつでもVMAXが解除されてもいいように、護衛に入る。


「フェネクス、私に力を貸せ!!」

アウロラはフェネクスと共に『黄金色の彗星』となり、VMAXの恩恵を活用し、敵を倒してゆく。それは豪放磊落という言葉が似合うはずの彼女が見せた『激情』であり、その発露だった。


――そして。

「超弾動!!双ぉぉぉ炎んん斬んんッ!!」

戦いの中で双炎斬を更なる領域に進化させた芳佳は、後輩のひかりを守りながら剣戟を見せる。智子に関係した故か、超弾動覚醒後の炎は蒼だ。

「宮藤さん……凄い。私も!」

ひかりは固有魔法が接触魔眼であり、怪異が敵ではないこの戦いではあまり意味をなさない。彼女の魔力の絶対量が紫電改をフルドライブで操るのに足りないのだが、魔力をコントロールし、定格出力を出している。そのため、魔力をコントロールする術には長けるので、偵察向きで本質的に戦闘向きではないと言えるが、そこは姉に似て敢闘精神旺盛な彼女。魔眼をワイヤーで接触する事で発動させ、その透視能力を飛行機などの構造の打破に応用する。これはひょんな事から若本が思いついた策で、以後、ひかりはこれを主用し、戦果を挙げてゆく。魔力が少ないのなら、それなりの戦闘方はある。これを後に知らされたロスマンは自らの考えの基準が、いつしかバルクホルンやエーリカ達のそれになっていたことに気づき、自らを恥じ、しばしの間、圭子のもとで再教育を受けたという。(エディータとて、開戦前の採用基準では採用されず、開戦後の緩和で任官に至ったウィッチであり、父親が怒ったのも、その経緯が原因である。圭子からの指摘で、原点を思い出し、自己嫌悪に陥っている)


「そいや、エディータ・ロスマン曹長だっけ?なんか妙に落ち込んでたけど、どうしてだ、西沢」


若本が言う。西沢が返す。

「ああ、こいつが魔力量が小さいんで、前線に出した黒江さんや加東さんと揉めたんだよ。だが、魔力量が小さくともやりようはある。それを奴さんは忘れてたんだよ。それに、あの人だって、開戦前の採用基準なら弾かれてただろうウィッチだしな」

圭子と黒江の指摘が、ロスマンの忘れていた原点を思い出させた。開戦前に志願したが、身体能力面が開戦前の基準に到達しておらず、弾かれていたが、開戦後に緩和し、前線に出された経緯がある。かつての長機のメルダースも、ロスマンが天狗になっているであろう事をガランドへ指摘していたため、それがスリーレイブンズへ伝わり、父親の起こした騒動を収める過程でそれを指摘した。その際、魔力の絶対量がレイブンズの他の二人に比して小さく、上がりも急速に訪れた経験のある圭子がスバッと言った事が、父親への敵愾心すら見せたロスマンを打ちのめした。ロスマンが最終的に出世の方向に折れた理由は、最終決戦で飛び入り参加したひかりの存在が、ロスマンの心に強い衝撃を与えたからだ。

――富士 CIC

「先生、ご苦労さん」

「エーリカ、私はこのまま教育係で居ていいのかしら……?」

「先生らしくないよ?もっとこう、明るく行こうよ」

「私は……のぼせ上がっていたのかしら?あなたやトゥルーデを育てあげて……」

ロスマンはよほど指摘が効いたらしく、意気消沈している。メルダースが指摘した通りに自惚れていたと自覚したのだろう。彼女は本来は明朗快活な性格だが、激戦地に送り込まれた事で、気が張っていたのだ。

「気が張ってたのなら、前と同じ調子に戻せばいいだけだよ、先生」

「エーリカ……」

「あ、ハンナ?ハイパーメガバズーカランチャーで敵艦隊の別働隊を寸断してくれる?」

「分かった」


ハイパーメガバズーカランチャーは、ハイνガンダム用に開発されていた火器だったが、エネルギー供給機構を小型化できずに頓挫していた。その後、ペンタゴナワールドのバスターランチャーの技術が地球連邦軍へもたらされた事により、使用時はケーブルで機体と接続して使用する事で解決し、ガンダムタイプ専用武装という形で生産された。これはバスターランチャーの技術を応用し、ランチャー側にジェネレーターを搭載し、補助動力とした事で、機体の負担を軽減させた事も関係した。当然ながら、強力な固定武装を有するΞであっても例外ではない。マルセイユはメガバズーカランチャーを使用し、敵艦隊を寸断する。これにより、ティターンズ海軍の旗色は悪くなる。空母は4隻、戦艦は新旧合わせて5隻以上が戦没し、海上戦力のバランスが崩れ始める。



「少佐、ソビエツキー・ソユーズを抑えておくように、スーパーロボット軍団に伝えてくれ。あれさえ押さえ込んでおけば、こちらが勝てる」

「了解」

スーパーロボット軍団には、スーパー戦隊メカも含まれる。広義のスーパーロボットだからだ。そして、彼らの働きにより、既に500機の航空機が空に散り、ティターンズ空軍に打撃を与えていた。連邦軍も相当な打撃を負っており、航空戦力の3割が既に失われ、パイロットの死傷者数も300名を超えている。連合軍に至っては、航空ウィッチの負傷者数が30名超えであり、今後、数週間は数個飛行隊の行動が封殺されることを意味する。CICのモニターに表示される戦況モニターには、刻一刻と変化する戦場の様子が映し出されており、一際大きい宇宙戦艦がソビエツキー・ソユーズとラ號、その周りを取り囲むように、スーパーロボットが展開している。ソビエツキー・ソユーズは驚異的な力を有しており、連邦のあらゆる兵器でも完全破壊は困難である。そのため、同じラ級であるラ級でしか撃退は不可能に近い。その証拠に、なおも原子破壊砲が打ち込まれ、イタリア半島のヴェネツィアとロマーニャの国境付近に水爆が落ちたかのようなキノコ雲を発生させる。

「やめろぉぉぉ!!」

祖国の大地を染めあげる殺戮と無慈悲な破壊。506のアドリアーナ・ヴィスコンティは絶叫する。イタリア半島を不毛の大地に変えかねないほどの破壊をもたらすソビエツキー・ソユーズへ激昂し、原子破壊砲へフリーガーハマーを撃ち込むが、砲に焦げ目すらつかないという結果に愕然となる。

「ば、馬鹿な!?……な、なんだ……!?体の自由が……!」

アドリアーナは、ソユーズの甲板に立つ一人の男の姿を視認する。その人物こそ、ロキが依代とした男であり、残党の統率者の『アレクセイ』である。彼はティターンズの軍服に身を包んでいながらも、筋肉質な肉体であった。ロキに依代とされた事により、強力な超能力も得ており、その力でアドリアーナを拘束したのだ。

「ムゥン!」

アレクセイの腕から、後に『サイコシャード』と呼ばれる結晶体が打ち出され、その力でアレクセイはストライカーとフリーガーハマーを破壊する。自壊という形で。当然ながら、アドリアーナはとっさに、フリーガーハマーを離したものの、爆風で重傷を負う。ストライカーも自壊させられ、完全に無力化させられる。

「アドリアーナさん!」

黒田が気づくが、彼の力を警戒し、ソビエツキー・ソユーズへ近づけない。

「この娘は我がティターンズが預からせてもらう。私の力を以てすれば、君程度はいつでも殺せるというのは見せただろう」

アレクセイは言い放つ。それはアレクセイも気づかぬ内に、ロキに同化されたためか、(少年〜青年期に学園都市にいたので、超能力自体は元から使えた)ロキの意思らしき言葉を発する。

「それは『あなたの意思』?それとも『ロキ』としての言葉?」

「両方だ。私はもはや神であり、人なのだよ。ロキに肉体を差し出したのは、ジャミトフ・ハイマン閣下の理想を実現させるには、人であることを捨て、神域に達するしかないと悟ったからだ」

彼はロキとして振る舞う一方、アレクセイとしての人格は維持しており、ジャミトフ・ハイマンを崇拝しているらしき台詞も吐いた。外見はロキとの同化で若返っており、人間の絶頂期たる10代後半ほどの姿となっていた。(演説時は30代ほどだった)

「ジャミトフ・ハイマンの理想を追ってるなら、元の世界でやりゃいいでしょうが!全然関係がない、この世界でやることないよ!」

「元の世界に戻れたところで、我々には帰るべき組織など無い。それに、今の地球圏に、ティターンズであった我らに生きる権利は存在などせん」

アレクセイはティターンズ最高幹部であり、良心派であったとは言え、エゥーゴが政権掌握した後の地球圏で生きる場所は無い。家族も自分を忘れ、別の人生を歩んでいる事も悟っており、ティターンズであった者たちが戦後に爪弾きにあった事を鑑み、『生きる権利がない』と述べたのだろう。

「君たちにとって、我々は『エゥーゴに倒された巨人の亡霊』だろう。我々にも生きる権利があるが、人々は我らを『ゴロツキ』同然に扱う。ならば、自分達と関係がない世界に行き着いた以上、この世界で生きるしかないのだよ」

「エゴだよ、そんなの!」

「我々ティターンズには、もはやこの道しかないのだ!たとえ、我らがソ連邦の役目を演ずるとしても」

黒田とアレクセイの言い合いは、黒田のインカムを通して、双方の全軍に伝わった。黒田は完全にロボアニメの主人公じみており、どことなくアムロ・レイを彷彿とさせる。アレクセイも、『自分達がソ連邦の役目を担っている』事を自覚しているのが分かる。

「全然関係ない世界を巻き込むなどと!」

「この世界で生きる上で必要な事なのだよ、これは!」

黒田はソユーズの甲板に降り立ち、ストライカーを脱いだ上で、扶桑号を構える。アレクセイも腕にロキとしての力で聖剣『リジル』を召喚し、黒田に応えた。奇しくも、黒田は最初に『人として』、ロキと相対した人物の名誉に預かった。そして、黒田も小宇宙に足を踏み入れ始めているらしく、アレクセイ、いや、ロキの動きを認識し、槍を動かすという芸当を見せる。だが、やはり実力差は歴然としており、スピードで圧倒され、起死回生の扶桑号の突きをリジルで弾かれ、大きく、吹き飛ばされる。そこに獅子座の聖衣を纏ったフェイトが間一髪駆けつけ、黒田を救う。

「そこまでだ、ロキよ」

「ほう。貴様、アテナの黄金聖闘士のようだな」

「如何にも。私は獅子座の黄金聖闘士、『獅子座のフェイト』!」

この時が、フェイトが公然と『獅子座の黄金聖闘士』であると宣言した上で戦った、初めての戦闘である。フェイトの元々の属性とも相性が良く、ロキと対等に戦えるスピード、パワー、防御力を以て、ソユーズの甲板を舞台に光速戦闘を行う。


『ライトニングスマッシャー!』

トライデントスマッシャーを聖闘士として改良し、弾速を光速にした上で、小宇宙を使い、ライトニングボルトの派生として生み出した、フェイトのオリジナル技である。したがって、小宇宙を纏ったトライデントスマッシャーと言って良い。威力はライトニングボルトには及ばないが、ライトニングプラズマより打撃力に優れているために使用した。当然ながら、ロキにはダメージはない。が、フェイトはそれを承知で殴り合いを行う。光速で。それに動じないソユーズの甲板も凄いのだが。フェイトとロキの戦いにより、ついに最終局面を迎える。


「ライトニングファング!!」

「ムゥン!」

ライトニングファングを物ともせず、アレクセイ(ロキ)はフェイトに一撃食らわせ、グングニルの槍を召喚する。フェイトも負けじと、バルディッシュ・アサルトを『天羽々斬』(別名、モード『天』)モードで構え、迎え撃つ。その前に獅子座の聖闘士としての技の一つを発動させる。

『我が獅子座(レオ)が闘技の一つ!キングス・エンブレム!!』

――キングス・エンブレム。これは獅子座の闘技が一つであり、久しく失伝していたのを、フェイトが復活させた技である。威力重視であり、射程はライトニングプラズマ以上、ボルト以下と中途半端だが、威力はボルトも超える。稲妻の如きエネルギーの奔流が走り、ロキを飲み込む。フェイトの見せる闘技は稲妻が絡むものが多いため、同じ電気使いのペリーヌは嫉妬すら覚える。これをグングニルで薙ぎ払い、フェイトは天羽々斬の名を冠するバルディッシュで迎え撃ち――



――ソユーズとロキの力により、イタリア半島は荒廃してゆく。それはロキの望む事である。原子破壊砲を防ぐ事は不可能なため、一射の度に半島の何処かの街や村が消滅してゆく。その光は各国軍に核の恐怖を埋めつけるには充分な効果であり、核の軍事利用が抑制される結果を生むが、動力源としては魅力的であるため、そちらの面では活用される。これは核爆弾よりも威力に優れる波動砲という惑星破壊兵器があるため、核爆弾は『リスクが高い』と見られたのも大きかったからだ。この時に一般人の犠牲者も相当数に登った事が、ヴェネツィアの衰退と消滅に繋がるのだ。実際、着弾で被害を受けた都市はヴェネツィア側の都市のほうが多く、後にヴェネツィアが移民を食い止められずに衰退してゆく原因は、この時の恐怖がヴェネツィア国民に染み付いたためである。そして、『核攻撃を受けた場所』のネガティブイメージが広げられてしまった事もあり、ヴェネツィアは国としての体裁を80年代には保てなくなった末に、統一ロマーニャの一地域となるが、21世紀イタリアからテロリストたちが紛れ込み、テロリズムを煽った事もあり、統一ロマーニャ公国の治安はけして良くない部類に入る。同時に、聖闘士の存在が明らかになったこともあり、ルッキーニ家は、フランチェスカ・ルッキーニ(ルッキーニの本名)を皮切りに、トリエラ、その子『ラルザ』、更にその子『フレッチャ』が聖闘士となり、トリエラ以後は代々、聖闘士を排出する家柄となっていく。ルッキーニは意外と長じた後は真面目な側面も持ったようで、その辺はトリエラが真面目に育つ遺伝子的素養があると言え、ウィッチ及び聖闘士としての家訓を後世に残したのであった――



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