外伝その100『ユア・アイズ・オンリー2』


――対マジンガーZERO作戦の準備が進められるウィッチ世界。マジンガーZEROの脅威はグランウィッチがよく知るため、作戦の中心はグランウィッチが占めることとされ、スーパーロボット達の補助に位置づけられていた。


――執務室――

「今回の作戦はあたし達が仕切らせてもらうよ、ミーナ。ZEROの脅威に尻込みしてる連中は当てにならないからね」

「上からの通達も来てるわよ。今回はあなた達に任せるわ、エーリカ」

ミーナは、坂本の口添えもあり、グランウィッチの提案を飲んだ。と、いうよりは若手の多くが無知から事件を引き起こした側であるため、この時点では、グランウィッチが実働戦力であったからだ。グランウィッチ達は圭子に同調し、覚醒済みの全員が辞表を一斉に提出している。無論、ミーナが説得し、取り下げさせた上で破棄したものの、古参と若手との間にある『ジェネレーションギャップ』、グランウィッチと通常ウィッチとの間の壁を意識している。通常ウィッチからすれば、転生して人生をやり直し、若い内から明確な目的を持って動くグランウィッチ達は『文字通りの魔女』と畏れる対象でしかない。無論、十字教を強く信仰するリベリアンのように、その力に憧れる者もいるが、多くは恐れを抱いた。リーネやパティ、ジョゼなどの気が弱い者、感性が常人な者に恐れの傾向が見られた他、他には『未来を知っている口ぶりがムカついた』、『元はエクスウィッチのくせに、偉そうに!』という、圭子への反発が多かった。伯爵やロスマンは後者に近い心情が働いた故の反発であり、『命令とあらば従う』という由の弁解を述べている。


――圭子は『上がっても飛び続ける事を選んで、戦場を飛び続けた結果が今の私、文句が有るならシールドが張れなくなっても飛び続けてから言いなさい』とハッキリ述べている。伯爵とロスマンは比較的年長であるため、言葉の意味を理解し、異口同音に、『自分の無知からの非礼を侘びたい』と、圭子に恭順の意を示した。圭子は元々、シールドが無くとも飛んでいた。それもアフリカの最前線を。更に、扶桑海のトップエースであり、ウィッチ万能論の拠り所となった伝説の張本人。だが、元々の歴史では欧州には怪我で行っていない。最年長者であったため、未来世界でウィッチが万能ではないことに気づき、それを智子と黒江に教えた事から、ウィッチ万能論には元々の歴史以上に冷淡である。更に、黒江と智子が聖闘士になった事、自身がゲッターの使徒となったのも重なり、『戦う意志の無い者には冷ややかさを見せる』事が多い。今回は正にそれで、圭子の視線が冷たい何かを示唆していると気づいたリーネは、それを指摘し、圭子の立場を理解しつつ、通常ウィッチの立場も考えて欲しいとハッキリ述べている。リーネは中立的な立場ながら、圭子にも意見はハッキリ言う勇気を持ち合わせており、若手の救世主と言えた。『リーネが前史と変わらぬ存在である』証明にもなり、芳佳の『相手が話を聞いてくれなきゃネウロイも人も大差無いんだよ。撃ってくるのは自分が撃ち返される覚悟のある人だけで良い、その代わり覚悟が出来ない人は覚悟した人を助けて、ううん、これは贅沢だね、せめて立ちはだからないで欲しいんだ』という言葉にも理解を示した。これ以後、若手達はグランウィッチらとの仲介に、リーネを用いる様になるのだ――

「ZEROとの矢面にはあたし達が立つよ。奴には因縁がある。それに、今回の主役はあたしらじゃなくて、あの人達だからね」

「『偉大なる帝王』……。今回の作戦で投入される新型のマジンガーね……。あなたがそこまで信頼するなんて」

ミーナは新科学要塞研究所から送られてきた『マジンエンペラーG』の格納庫での調整中の様子を写した一枚を手に取る。マジンエンペラーGはグレートマジンガーの正統後継機種であり、対マジンガーZERO用マジンガーである。エーリカは、剣鉄也に前史から好意を持っており、ZEROがグレートマジンガーを『マガイモノ』と断じたことに激昂している。その事もあって、マジンエンペラーGの登場を早めようとするゼウスに協力した。今史では、マジンエンペラーGの開発促進の功労者として名が上がるほどに尽力した。普段は奔放なエーリカも、『グレートマジンガーをマガイモノ!?許さない!絶対にボコボコにして、これ以上ない敗北を味わせてやる!』とまで公言しており、それがマジンエンペラーGの登場がグンと早まった理由の一つである。ちなみに、鉄也はエーリカの好意に気づいていて、互いに『一線は超えない』という線引で親交を持っている。鉄也が好人物に脱皮した理由はが『エーリカという理解者を得た』事であるのは周知の事実だ。『偉大なる魔神皇帝』とも呼ばれし魔神は、エーリカと鉄也の友情と絆が生み出したと言っても過言ではない。

「そう。人が生み出した魔神。これこそが真に科学と人が融合した姿だよ。偉大なる魔神皇帝。そうとも呼ばれてるスーパーロボットだ!」

エーリカの言葉に熱が籠もる。彼女がここまで思いを真面目に語った事は、ミーナの知る限りではない。おそらく、双子の姉妹たるウルスラでも見ていないだろう。それは剣鉄也への想い、鉄也が命を託したマシーンを否定したZEROへの怒りが成せる業だった。実のところ、エーリカはウルスラに未来世界の兵器体系やその中でのスーパーロボットの立ち位置と存在意義について、ウルスラとの再会時に熱く数時間語っており、ウルスラも『姉様、変わりましたね……』と感想を述べている。そのエピソードから分かるように、前史でのペリーヌとのいざこざ(主にグレートマジンガー関連)からか、ペリーヌを快く思っておらず、ペリーヌは『今回は今回ですわ。そのの、若気の至りですの…』と弁解している。ペリーヌは知ったのだ。自身の発言が人を傷つける事もあるし、真意が理解されないこともあると。ペリーヌは若手では珍しく、前史での行いを真摯に受け止め、それを糧とした例だった。



――黒江達は観光を楽しんでいたが、自分達めがけて襲い掛かってきた車の集団に銃撃を浴びせられる。のび太は散るように、一同に告げ、別々の道から逃走した。黒江はむかっ腹が立ったらしく、観光客や住民がいない路地で聖詠を行い、シンフォギアを起動させた。聖衣よりは目立たないのと、路地での戦闘になったためだった。まともにシンフォギアを戦闘目的に使用したという意味では、初めての戦闘であった。

「テメーら、人が観光してる時に襲い掛かってきやがって!もうあったまにきたぞ!!」

シュルシャガナのギアのローラ能力を使い、路地を疾駆し、鋸で車を切り裂く。

(ふう。ボト○ズとかコードギ○ス見たり、バイトで使っててよかったぁ。内蔵式だから、21世紀の一時期に流行った「ローラーシューズ」の要領で……)

黒江は、世代やお国柄などの理由で、ローラー移動に慣れているとはいえないため、シンフォギア世界ではバイトで用いていたのみであった。そこがオリジナルと言える月詠調に劣る点だった。いくら聖闘士になれる運動神経を持っていても、こればかりは熟練するしかない。感覚の問題であるため、黒江も大いに苦戦し、軌道が直線的であるため、弾の弾道が自分に迫ってくる。これには焦る。

「こうなったら、超電磁ヨーヨーの要領で切り裂いてやる!」

向きを変え、破れかぶれでアームドギアのヨーヨーを超電磁ヨーヨーの要領で使う。エクスカリバーなどの闘技が使えない状況での選択だったが、アームドギアにもアテナの加護が働いたか、見事に一台を切り裂く。

「へヘーンだ、思い知ったか!って、おわっ!やばい、挟まれる!」

黒江めがけて、二台の車が突進してくる。猛スピードであり、破壊すると路地に被害が出る。黒江も焦ったが、思わぬ救いの神が現れる。

「中佐、跳んで!」

「の、のび太!?アクロスターなんて、どこから出したんだ!?」

「良いから早く!」

のび太が超小型ジェット機をいつの間にか用意して飛ばしたらしく、巧みな操縦を見せる。黒江はのび太に促され、跳躍し、挟み撃ちを回避して機体に捕まる。が、すぐに対空ミサイルを打たれる。

「お、おい!ミサイルが来たぞ!?つーか、私も乗れないのか!?」

「こいつは一人乗りですから、機体にしがみついてて!」

「お、おい!こいつの推力で、私を外に乗っけたままで機動できんのかよ?ステップとかホールドついてるけどさ!!」

「熱核タービンに変えてあるんで、馬力が違いますって!」

「何ぃ!?」

のび太流の魔改造。それは超小型機に熱核タービンを積み込むもので、並のミサイルに追尾されても当たらない運動性を確保することであり、遠慮なくのび太は高速でローマを飛行する。黒江は外で掴まってるだけであるので、ジェットコースターよりすごい迫力を生で味わっている。ヒヤヒヤものだ。

「うおおおおお!?私が外にいるんだぞ!心臓に悪いぞ、心臓に!」

「もう神様なんだから、寿命関係ないじゃないですか。それに心臓に毛が生えてるんじゃ」

「それとこれは別だ〜!うわぁ〜!」

「光速移動かましてるのに、これくらいのスピードが何です?青銅くらいのスピードですよ」

「だから、別だってんだろ〜!来るぞ〜!うわぁああああ!?前みろ前〜!工事現場だぞ!?」

「あらよっと!」

のび太は比較的巨大な建物の工事現場を機体ごとすり抜ける。ミサイルに追尾されているのに、である。

「お、おい、工事現場なんか通るなよ!あぶねーぞ!?」

「ジェットマンのレッドホークもしてるから、今更ですよ」

「そりゃそーだけどぉ!?」

「普段、同じような事してる中佐の台詞じゃないですよ〜」

「そりゃ、自分で動かしてるからだ〜!!」

黒江は他人の操縦している機に乗っかっている立場であると、普段が嘘のようにびびるようで、語尾が震えている。パイロットには割合、よく見られる傾向だ。のび太はそのまま工事現場をすり抜け、ローマ郊外にある、とある格納庫を突っ切ろうとする。

「お、おい、そこまで真似するこたぁねーだろ!?」

「敵の格納庫ならめっけもんですよ!いざという時になったら、聖剣使えばいいじゃないですか」

のび太は涼しい顔と声で言う。冒険で死ぬような目にあったのが何度もあり、世界の滅亡すら目にしている。『ノア計画』が天上人によって実行された世界線も目にしているため、不相応な程に度胸が据わっているところがある。両親はほとんど知らないが、のび太は『普通の子供』では無くなっているのだ。侵入警報装置が働いたか、進行方向の扉が閉まっていく。それをのび太はギリギリセーフで抜け、格納庫は追ってきたミサイルが扉に当たり、大爆発を起こす、それを見届けたのび太は市街地に戻るコースを取る。

「ヒュウ♪まさに危機一髪って奴だ」

「007みたいな事をマジでやりやがって……。くそ、今度は二人乗りのをもってこい!SF50とか!」

「アレだと、もうちょいでかいじゃないですか」

「なら、せめて複座にしてくれよ!外から人の操縦見てんのは……落ち着かねーんだよ……」

「もしかして、中佐、パイロットによくあるって聞く『絶叫マシン恐怖症』ですか?」

「ああ、そうだよ!悪かったな!!ったく……」

「拗ねない拗ねない」

「ちぇっ……カッコよく決めようとしたのに、これじゃ三枚目キャラだぜ」

と、三枚目キャラ的な側面を変身時には見せる黒江。元々の性格が二枚目半なので、三枚目寄りなところが変身で生じたらしい。そういうところは、漫画で言えば『シ○ィーハンター』の冴羽リ○ウ的である。

「着陸しますよ〜」

のび太が機体を着陸させ、いつの間にか着用していたスペアポケットに仕舞う。黒江はぶすっと拗ねている。変身している時は素が出るため、あーやの時よりは年相応の拗ね方だが、子供っぽさはある。11歳ののび太に容易くあしらわれるのがその証拠である。

「はい、コーラ」

「お前なぁ……」

と、のび太は拗ねる黒江にコーラを投げ渡す。黒江が相方の一人である邦佳の影響で、炭酸飲料が大好きになったのを知るので、その辺は抜かりない。だが、よく見てみると……。

「!?お、おまっ……これ!ペ○シがはっちゃっけてた頃に出してたあずき味じゃねーか!?」

「大学生のぼくが送って来たんですよ。なんか生協で安かったから……とかで」

「おぃ〜!せめてモンブランとかをだな」

「キューカンバー味のほうが良かったんですか?」

「いやいやいや!あれはねーよ!PXで売ってたから買ったんだが、吹き出したことあるから!」

と、漫才を繰り広げる。

『おーいのび太!その辺にスナイパーが居て動けねぇ!』

『今、潰します』

「どーした?」

「シャーリーさん達がスナイパーに足止めされてるみたいです」

「スコープ付きのジャンボガンで狙撃かよ」

「普通の拳銃じゃ届きませんからね」

「それ、発砲音大きいだろ?」

「大丈夫ですよ。今、どっかで花火が上がってるんで、それと同時に」

「って、なんで花火?」

「王女の初公務を祝う式典だそうです」

「ああ、ロマーニャのマリア王女か。そうか、今頃だっけ。」

「ルッキーニちゃん達がちゃんとイベントを起こして、怪異を撃退したところですよ」

「クソ、奴らのせいで見損ねたぜ。まっ、このイベントにゃ元々居合わせてないから、その因果なんだろうな」

「んじゃ撃ちますよ」

花火の音に紛れて撃つとは言え、ジャンボガンの発砲はかなりの音がするので、ヘッドギア越しで軽減されているとは言え、黒江は耳がキーンとなる。弾丸は数秒後にスナイパーに命中、爆発を起こして建物の一部ごとミンチにする。

『シャーリーさん、クリアしましたよ』

『おお、恩に着るぜ。でも、奴ら何者だよ?」

『ロマーニャを中心に統一の動きがあるのに反対する五共和国派のテロリストでしょう。同位国のイタリアはロマーニャ半島を統一させようとしてるけど、それに反対してる動きはヴェネツィアを中心にあります。バダンも一枚噛んでるとか。もっぱらの噂ですよ」

『ああ、ルッキーニの孫の時代に表に出る『経済格差からの対立』って奴か。あれはロマーニャ人にゃ身につまされる話だよなー』

『あの漫画はそこが現実味あるんですよ。ルッキーニちゃんのお孫さんの名前、もしかしたら』

『間違いないな。まっ、あたしも同じ発想だったし、人のこと言えねーか』

のび太とシャーリーは、ルッキーニが自身の孫の名を何から取ったか、大体の見当がついた。もっともシャーリーも孫の名を同じ発想で名付けたため、苦笑混じりだ。

『あの漫画、良ければ続き貸しますよ。ママに捨てられないよう、せがれのノビスケに預からせてありますし』

『なんで、せがれに預かってもらってんの?』

『ほら、あの漫画、青年漫画だから、古い頭のママが見たら怒る内容じゃないですか』

『お前のママさん、教育ママだかんなー』

のび太は母の玉子の教育ママぶりには辟易しており、青年漫画の類は自分の子のノビスケに預かってもらっていた。のび太が話題に出したその漫画もそうだ。玉子は真面目なため、年不相応の漫画を読んでいると憤慨する一面があり、青年漫画は原則、親の不在時に読んでいる。

『そっちに合流したいけど、どこにいるんだ?』

『えーと……』

「スペイン広場の近くだ。ここだと『ヒスパニア広場』って呼ばれてる」

『だそうです』

『了解』

「ったく、五共和国派を煽るなんて、バダンはマジンガーZEROの事知ってんのか?」

「僕たちが倒せると踏んでいるんでしょう。で、適当に降りたんですけど、正確にはどこでしょう?」

「世界地図なんて持ってきたのか?お前さんらしいよ。……シャーリーか?正確には『サンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリオア教会前』なんだ。すまん、素で間違えた」

「ロマーニャ来たことなかったのな…」

「いやぁ〜間違いはあらぁな。この辺は避難が始まったらしく、ガラガラだ」

「分かった」

黒江が正確な位置を伝えたが、情報端末で調べて分かった上、のび太がまたしても世界地図を持ってくる『大チョンボ』をやらかした、黒江もロマーニャの地理がうろ覚えだったなどの要因で、シャーリー達は振り回されてしまった。シャーリーらが来るまでの暇つぶしに、のび太にシンフォギア世界での事の続きを語る。



――シンフォギア世界での最初の決戦では、暁切歌が『月詠調はこの世界から消え失せた』という事を知り、情緒不安定に陥り、立花響と手を取り合う事を拒んだ結果、奏者らは危機に陥った。だが。

「まだ終わりじゃない」

「綾香……さん」

「その姿で喋るなデス!にせも……!?」

切歌が振ったイガリマの鎌を手刀で払い除け、言う。本来の黄金聖闘士としての言葉で。

「この姿になったのも何かの縁だ。それに、君が死ぬことは、この姿の本当の持ち主の子は望んじゃいない。それに、この世界は、君が守りたいと願った子の帰るべき場所だろう?」

「それじゃ……し、調は生きているのデスか!?本当に?」

「私と入れ違いに、この世界から弾き出されただけで、どこかの世界で生きている!私がこの姿で有るって事は、まだ因果が切れていない証拠、諦めるにはまだ早い!」

「因果……?」

「そうだ。因果応報とかいうだろう?その子の帰る場所を守るのも神の闘士としての仕事だ!」

「神の…闘士?」

「ああ。起こしてみせよう!奇跡って奴を!」

「どういう事デスか!?奇跡って!?」

「こういう事だ……!」

呆然とする切歌。調の容姿と声になっている黒江に不思議と安心感を覚える。そして、その場にいた奏者の全員が瞠目する。

『燃え上がれぇぇぇ!私の小宇宙(コスモ)よぉぉぉ――っ!』

黄金色のオーラが黒江を包む。背後に浮かび上がるのは……。

『ば、馬鹿な!ありゃ確か、ケンタウロスだぞ!?』

『いや、あの星々の配置……サジタリアスの星座に……』

『これが綾香さんの本当の力……シンフォギアとは違う何か……!』

『お前たちは知っているのか!?彼奴の本当の力と言うのを!?』

『私達も詳しくは……。全部は話してなくて……だけど、わかります。あれはシンフォギアと別の力だって事は!』

射手座の黄金聖衣が飛来し、黒江の身を包む。黄金の輝きと共に。装飾の多い黄金の甲冑。そのように見えるが、黒江の体から溢れる黄金色のオーラと、射手座の黄金聖衣のヒロイックな造形もあり、見る者を圧倒する迫力があった。

『射手座、サジタリアスの黄金聖闘士(ゴールドセイント)!!サジタリアスの綾香!!』

本来はカプリコーンだが、聖衣に合わせた名乗りを見せた。もっとも、サジタリアスの聖衣は星矢の度々の負傷と離脱により、代理で纏う事が多いため、射手座を兼任している時期も多いため、資格はあると言えよう。

『アークプラズマァ!!』

自立完全聖遺物『ネフィリム』にいきなりアークプラズマを食らわす。アーク放電のライトニングプラズマである。これで焔を起こす最終形態が『ライトニングフレイム』である。辺り一面に稲妻が走る様は、神の如き所業だ。

「遺物ならおとなしく寝て居やがれ!こっちは現役宝具だからな!」

「げ、現役って!?」

「オリンポス十二神が一柱、アテナを守る闘士が代々受け継ぐ宝具。その中でも最高位のモノがこの黄道十二星座の聖衣だ!それを纏うに値する力を見せてやる!ライトニングテリオス!!」

ライトニングボルトで叩き込む雷光を極限まで爆縮し、相手の体内で炸裂させ、内側から爆破する『ライトニングボルトを超えたライトニングボルト』。それがライトニングテリオス。完全聖遺物と言っても、遥か以前のヒトが作りしもの。神の加護があるわけではない。だが、小宇宙は神を守りし者達の必須技能であり、ましてや『アテナの愛す星座』と謳われる射手座の黄金聖闘士の攻撃に耐えられる訳がない。ネフィリムはライトニングテリオスの爆破エネルギーに耐えられず、大きく傷を負う。

「なんだ……今の雷は……。一撃であれほどの破壊力が……!?」

「驚いてる場合か?青髪のお嬢ちゃん?」

「お、お嬢ちゃん!?わ、私を子供扱い……」

「ばーちゃん、アンタには負けるよ」

「なっ!?ばーちゃん!?」

「ああ、こう見えても、本当は年金もらってる高齢者なんでね」

黒江は21世紀時点での実年齢をネタにして遊ぶ。それまで敵側だった側の奏者達は、黒江が年寄りと表現する様に呆然として、あまり感想が言えない。いの一番に会話を交わした雪音クリスも、黒江の飄々とした振る舞いに翻弄されている自覚があるのか、黒江をばーちゃんと呼んだ。

「おばーちゃんとかオバァなら良いが、ババアと呼んで良いのは、日本じゃ毒蝮三太夫だけだぞ」

「あの……今の若者に毒蝮三太夫は……」

「ウル○ラセブン見てりゃ、顔は分かるだろ?」

「あの、そのころはまだ本名名義ですよ?」

「妙に詳し―な、お嬢ちゃん」

「あの、完全聖遺物を前にして交わす会話では……」

黒江と風鳴翼の妙にマニアックな会話に、マリア・カデンツァヴナ・イヴが真っ当なツッコミを入れる。黒江の余裕は彼女にはわからないが、神を守りし闘士という語句が偽りでないことは理解していた。

「再生待ちしてんだからいーのいーの。どうせ再生すんだろうから再生速度把握したら一気に片付ける」

「あなたはいったい……」

「オリンポス十二神のアテナを守る闘士と言ったろう?その最高位だ。心配するな」

「し、しかし!」

「おい、ばーちゃん!バビロニアの宝物庫が勝手に開いたぞ!?」

「馬鹿な、ソロモンの杖の制御無しに!?」

「どーやら、私を『異物』と判断した世界と彼奴が制御して開けたらしいな。だが、この程度。どうという事はない。奴に聞かせてやろう。銀河の星々の砕ける音を!」

黒江は、箒から習うという変則的な方法で会得した闘技がある。ギャラクシアンエクスプロージョンだ。黒江は小宇宙の凝縮精度が正規の双子座である箒より落ちるので、銀河系破砕程度のエネルギーだが、充分に銀河を破砕できるだけの破壊力を持つ。

『ギャラクシアン!!エクスプロォォォォジョン!!』

黒江の起こす所業はもはや人が起こせるモノを超えている。そう思わせた。黒江の周りに幻影として浮かび上がる『銀河が砕ける』光景。そのエネルギーの奔流をぶつけるという行為自体、シンフォギア奏者であっても不可能な所業だ。その膨大なエネルギーを一人で制御出来るという事自体が『人の域』を超えている証だった。

「銀河を砕く『ギャラクシアンエクスプロージョン』。私の守護星座の技じゃないが、宝物庫の中身の大半は吹き飛ばした。君らの仕事はここからだ」

「はいっ!」

お膳立てをし、響達にひとまず託す。それから何十分かの時が過ぎ、響達がネフィリムに決定的ダメージを与えるが、黒江という異物を排除しようとする『世界の意志』の働きにより、ネフィリムは『本来なら撃破できる』だけのダメージを与えて、尚も再生し、宝物庫の扉をむりやりこじ開け、その攻撃の衝撃で響達が吹き飛ばされてくる。

「馬鹿な……。今の一撃は完全に手応えがあった……それをッ!?」

「私達の全力で倒せないなんて……!でも、たとえ万策尽きたとしても、一万と一つ目の手立てが……!」

まさかの展開にも闘志を捨てない響。それに応え、黒江は切り札を見せる。

「神を人が殺す。そんな神話があるだろう。それは人がいつも起こす『奇跡』だ。神を超え、悪魔を倒す。それが人に許された奇跡だ!!お前達がシンフォギアで奇跡を起こすように、私達は第七感、第八感、第九感を研ぎ澄まし、奇跡を起こす。その証を、今ここに!!」

黒江は存在が神格であるため、通常の黄金聖闘士がアテナの血を浴びなくては完全発動出来ない神聖衣を、自身の血を代用する形で進化させ、聖衣のリミッターを解除して神聖衣化させた。神格の血で進化させるということは、聖衣にかかっているリミッターを完全解除させることでもあり、たとえ、そのベースが最下位の青銅聖衣であろうと、神格を倒せる力を与える。神域の力を人に与える究極の聖衣なので、この姿を神衣と呼ぶかは神々での見解は分かれている。

「神の力は伊達じゃないっ!これが、これこそが、人が神を超えるための究極の宝具!!『神聖衣』だッ!!』

「ゴッド……クロス…」

全体的に滑やかかつ、神々しい形状になった聖衣。そして、それに相応しい神矢を番える黒江。

「この世界に一条の光を!私のナインセンシズよ、奇跡を起こせ!!」


一矢討殲(いっしとうせん)!!』

その神矢を放つ一瞬、正統継承者の星矢、先代の資格者のアイオロス、そして城戸沙織=アテナの幻影が浮かび上がった。更に奏者達の力も上乗せされ、貫く。矢を放つ一瞬、黒江はある『曲』を口ずさんでいた。それは自身が未来世界でよく聞く歌であり、学園都市の常盤台で言い伝えられて来た『21世紀のレベル5第三位』の事を指すような歌詞の。即ち、美琴の事をイメージさせる曲を。奇しくも、発表された当時に曲を歌っていたグループのボーカルの声が、黒江の変身した姿の基になった調にとても似ていた事もあり、矢というよりは『超電磁砲』と言える光芒だった。それが、黒江が最初にシンフォギア世界で起こした奇跡であった。



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