外伝その150『ブリタニア新鋭戦車』


――日本連邦が自衛隊式装甲戦闘車両への統一を強引に推し進めたがための弊害に苦しんでいるのを他山の石としたキングス・ユニオンは自国企業の保護のため、『FV214 コンカラー』をそのまま開発を続行させた。失業者対策のためである。扶桑の戦車開発関連企業が混乱を強いられ、結局は四式中戦車の改良型を『現地企業保護』のために生産せざるを得なくなったのと比べれば、キングス・ユニオンは上手く現場の要望と企業保護を両立させ、問題を着地させたと言える。そのため、ダイ・アナザー・デイ作戦の第二段階に入ってしばらくした頃には、ブリタニアから『センチュリオン』と『コンカラー』が旧式戦車を損失したブリタニアの機甲師団へ配備されていった――




――前線の駐屯地――

「ほう、センチュリオンにコンカラーか。この時代の戦車相手にはオーバーキルだな」

「あの新型の事を知っているの、貴方」

「戦後型の戦車だ、あれは。ブリタニアが大急ぎで間に合わせた新鋭戦車になる。ティーガーUも目じゃない重火力を誇るぞ」

ミーナは西住まほの因子が目覚めたため、空輸されてきたセンチュリオンとコンカラーを一目見るなり、フレデリカ・ポルシェに解説し始める。

「ティーガーUもって…」

「コンカラーは120ミリ砲搭載だ。それに耐えられる装甲も持つ。エンジンは原設計からは変えたから、ティーガー系統の弱点の足回りの弱点もない」

「後発だから?」

「兼ねてから試作はされていたが、設計を変えて造られた戦車だからだ。ティーガー達の戦訓と、戦後の技術進歩でネガを潰したんだ。避弾経始も取り入れられている。ティーガー、特にアインスは避弾経始を取り入れる前の設計だから、弱点が分かれば、ファイアフライにも撃ち抜かれる。ヴィットマンの同位体はこれで戦死している」

「貴方、『覚醒めた』のね、その口ぶり」

「今までの自分とは実質的には『別人』と思ってくれ。今の私は戦車乗りとしての矜持も持つからな」

ミーナは容姿こそ変わらないが、Gウィッチ化が起こった事で戦車乗りとしての矜持を持つようになったため、作戦開始時より凛とした気配を纏うようになっていた。目つきも以前の『温厚を装っているが、内には激昂し易い気質がある』と感じさせるものではなく、『どんな時の冷静沈着でいる西住流継承者』のそれに変貌している。口調もミーナ元来のものではなく、西住まほのものに変わっていたるなど、目に見えるほどの変化が起こっている。そのため、自身の未来行きは前向きに捉えているし、『かつての妹と生きる世界を世界を隔ててしまった』という、まほとしての意識も持つ状態になっている。髪の癖などはまほのそれに変貌している事もその直接的証拠だろう。そのため、西住姉妹と面識があるGウィッチでなければ、あまりの変化に戸惑うのは間違いなしだ。


「ケイから話は聞いたわ。覚醒めてどうするつもり?」

「あの方達への禊も兼ねて、この戦いで戦車乗りとして戦果を挙げるしかないだろう。熟練の戦車長は不足しているからな。私が乗って出るのは間違いないと思ってくれ、ポルシェ」

それまでのミーナであれば、作戦時にしか出さないような調子の落ち着いた声で言う。女言葉が完全に消え失せたフランクな喋り方なのもあり、それまでとは別人と見てくれというのも頷ける変化だった。

「リューダーだが、まだまだ青い。あいつには『戦車戦闘の肝』というのを仕込んでやらんといかん」

「陸戦の連中に聞かれたら、『コト』よ、その発言」

「今の陸戦で、私ほどの戦果を出せるウィッチはいない。ましてやW号後期型でさえ扱いきれない連中もいるからな」

実際、G化したミーナが叩き出した個人戦果はこの時点でカールスラント陸軍のどの陸戦機械化歩兵も出せない燦然と輝く大戦果だった。通常戦車戦の知識を得た事もあり、『昼飯の角度』『ハルダウン』『ダックイン』などと言った、この世界の多くの戦車乗り(M動乱を経験した扶桑除く)が持たない知恵も持つ。

「だがな。一つだけ問題がある。覚醒めて、いきなり動かしたから、正式な搭乗資格が無いんだ…」

「はぁ!?何それー!」

「ロンメル助けたから、恩を売ってどうにかできないかな?」

「貴方、航空科でしょ?それも空軍の。ケッセルリンクが聞いたら目回すわよ?」

「確か、空軍に陸戦部隊があったな?」

「ゲーリング配下から離される予定の第1降下装甲師団よ。確か、今後の教導のために派遣されていたから、そこで訓練課程を終えとけば?私が根回ししておくから」

第一降下装甲師団。世にも珍しい空軍の装甲師団で、ゲーリング肝いりの装甲師団であるが、21世紀ポーランドからの『戦争犯罪者集団』との抗議で編成の廃止も検討されたが、現場の反対で維持された。配置換えの名目で、ゲーリングの手からは離される予定である。陸軍との共同部隊化、統合任務部隊として改編予定で、ケッセルリンクの指揮下に入ることが有力視されている。当然、エリート師団と見做されていたため、当時としては有力な車両が配置されていたが、扶桑の五式改やブリタニアのセンチュリオンとコンカラーの登場で陳腐化してしまった嫌いがあり、隊員たちはその差に腐っていた。当然、当時のカールスラントが用意できる車両としては最高級品たるパンターとティーガーUが配備されていたが、敵方がM46を出してくると、戦中型でしかないパンターでは苦戦を強いられ、頼みのティーガーUも攻撃力の優位が失われてしまったという難点を抱えていた。いくらM46がM26のエンジンとトランスミッションを改造しただけと言っても、ティーガーTの攻撃には耐えきれる装甲はあり、そこも苦戦の理由だった。

「どんなAFVでもエンジンルーバーを上から狙えば簡単に落ちる、陸戦ウィッチは立体的機動戦闘を覚えさせないといかんな」

「立体的機動戦闘?」

「そうだ。バカ正直に正面を狙うだけが打ち合いじゃない。天蓋を狙うとか、側面から攻撃して履帯を切るとか。陸戦ウィッチはボルトアクション式小銃と手榴弾持って突っ込む兵隊よりよほど頑丈なんだ。空軍の支援のもとでそういう戦をするようにせんといかんぞ」

「空軍の支援?」

「ルーデル大佐殿が提唱しているあれだ。近接航空支援は実際にその効果が実証され、23世紀になっても、安価な近接航空支援機として、未だに東西冷戦下の遺物たるA-10が飛んでるんだぞ?」

「ああ、ルーデル大佐の同位体が関わったとかいう、あの直線翼のジェット攻撃機」

「近接航空支援ではあれ以上のは中々ない。可変攻撃機で『VA-3 インベーダー』というものもあったんだが、あれは軍縮のときに殆どが退役してしまったし、ガトランティス戦役の戦で消耗してな。それが再生産される有様だ」

「より後のジェット機で代替されなかったの?」

「ステルス機は近接航空支援が必要になる戦場で使うには高すぎたし、技術の進歩でアクティブステルスの実用化や機体形状の縛りが緩くなったから、F-35を持ってくるにはリスクが高いんだよ。ティターンズからすれば『原始的なステルス機』に過ぎない。自衛隊も費用対効果の観点から、オジロワシの連中に配備するのを見合わせた」

「その割に米軍がサンプルに持ち込んだF-22はOKなのね」

「ステルス機って言うより、機動性だ。イーグルよりは小回り効くからな、あれは」

F-22は扶桑と自由リベリオンへのデモンストレーションも兼ねて、アメリカでも貴重でありながら、複数機が持ち込まれた。これは2018年当時の『前大統領』が進めた軍事費削減と、学園都市がロシアをコテンパンにした事、模擬戦で黒江と赤松がボコボコにしたという戦訓で存在意義が失われていたF-22への餞というべきものだった。当時、米軍は議会との兼ね合いで、F-35に統一する計画を立てており、F-22は『東西冷戦下の遺物』と軍部からも厄介者扱いされていた。それに不満を持つ者達が強引にダイ・アナザー・デイに持ち込んだのだ。

「どうして持ち込んだの?」

「議会や軍に、F-35があればいいって楽観論がある上に、21世紀の米軍は財政難だ。東西冷戦下の設計の22より、最新鋭の35のほうが強いと思ってるんだ。そこで、空軍のある派閥が強引に持ち込んだのさ。空自の兵站に相乗りしようって理由もあるみたい」

「なるほど」

米軍はダイ・アナザー・デイに軍事顧問団という名目でちゃっかり参戦しており、空軍はF-22配備の部隊が参加している。第二次世界大戦から戦後直後の機種が敵であるのに、現用機の中でも空戦能力の高い同機は必要なのかと槍玉に挙げられたが、大統領は『WWUの古き良き空に、我が国の『航空支配戦闘機』の存在を示すことは重要なのだ!』とし、批判を一蹴した。目論見通り、F-22は米軍の精鋭パイロットの手でその真価を発揮。索敵が目視中心の第二次世界大戦型〜朝鮮戦争型の戦闘機を蹂躙している。被膜の改修が完了したF-22の実戦テストとしては相手の型式が古すぎる嫌いはあるが、当時の『数も武器の一つ』だった時代の戦闘機と戦うというのは、最後の制空戦闘機と言われたF-22の存在意義の証明だった。

「まぁ。米軍としても、量産までに20年かかった上、できたら東西冷戦も遠い過去になっていて、ロシアとの制空戦闘に勝つことを前提に作った機体は『贅沢』だとか言われるから、ここらで箔を付けておきたいんだろう」

ミーナは『転生』が完了した後は早速ながら、以前と違うところを見せる。F-22は異世界に持ち込むことで真価を初めて発揮した機体になる。最初は地球連邦軍が過去の戦闘機のデータを補完するために飛ばす程度だったが、今では、実機が現役であった21世紀で製造された機体が本当に飛ぶ。

「本当は持ってるおもちゃの自慢じゃないの?聞けば、F-15よりも強い機体だそうじゃないの、そのF-22」

「謳い文句からして、『航空支配』を謳っていたからな。ん、そのF-22がスクランブルするぞ。よく見ておけよ」

「私、飛行機は専門外なんだけど」

「本当なら、私もお前も存命か怪しい時代の現役機だぞ。そんなものを見れると言うのは、本当なら貴重だぞ」

ミーナもフレデリカも生年月日で言うなら、1910年代から20年代後半の世代で、量産されたF-22を生きて拝めるかは微妙な年代の世代になる。21世紀の現役機を若い内に拝めるというだけでも奇跡に等しいのだ。

「戦車で言えば、レオパルト2、チャレンジャー2やヒトマル式を見るのと同義なんだぞ、これは」

「うーん……」

「ただ、こうして持ち込んでいくと、技術が発展するのも早いから、21世紀には向こうで22世紀に現れてるはずのができてるかも知れんな。太平洋で起こる戦線はそういう状況になるからな」

「日本ってどうして、技術にそんなトラウマがあるのよ?」

「仕方がない。日本が太平洋戦争で追い詰められる頃には、空も海も陸も、持ってる兵器が殆ど時代遅れになっていて、更に高高度爆撃機に為す術もなかったっていうトラウマがあるんだ。だから、70年分の技術格差で自分達がサイパン、フィリピン、沖縄、硫黄島で味わった地獄を味あわせたいんだろう」

日本には少なからず、太平洋戦争の雪辱を願う論調が燻っていた。勝てると当時の指導層の良識派は言っていないのに、陸軍中心の強硬派が戦争を起こした。そのため、日本連邦樹立の過程では、陸軍を減らそうとする日本側と扶桑側のせめぎあいだった。しかしながら、空軍の設立では、当時としては先進的な考えを持ち、撃墜王に寛容であった陸軍飛行戦隊の出身者が現場人員の主導権を握っている。これについては、後世の人々に『特攻は海軍の方が率先して行っていた』と記憶されていて、実際、海軍航空隊はマリアナ沖海戦に負け、台湾沖航空戦にボロ負けして以降は全軍特攻化が行われたので、1945年次の海軍航空隊を侮蔑していた事も大きい。そこに源田は後世での自分の軍人としての名声をねじ込み、黒江達の手引きもあり、空軍初代総司令官に任ぜられたのだ。人員的バランス取りもあり、現場の人員は陸軍出身者のほうが多く、参謀以上は海軍出身者が多く採用されている。ただし、大西瀧治郎など有力視された海軍高官は中枢からは外されており、その代わりに海軍を空軍化しようとしていた井上成美が移籍してきた。戦前の論文を叩かれたことでの勢いで移籍したらしい。基地航空隊が分散されて南方の島に配置されたら、尽くが集中運用された空母機動部隊に完膚なきまでに叩かれたという戦訓に衝撃を受けた事も、移籍の理由でもある。また、持論であった『巨額の金を食う戦艦など建造する必要なし。敵の戦艦など何程あろうと、我に充分な航空兵力あれば皆沈めることが出来る』、『航空機の発達した今日、之からの戦争では、主力艦隊と主力艦隊の決戦は絶対に起らない』も、逆に対空射撃システムの発達で半ば否定され、リベリオンがおもちゃ感覚でポンポン、戦艦を作ってきたという事実に責任を感じ、信濃が完成するタイミングで、秘書の比叡に『俺は空軍に行ったほうがいいかもしれん』と漏らしていた通りに動いた。また、海自から『これって空軍じゃないですか。あ号作戦の無残な敗北の一因は空母機動部隊の弱体化であって…』と指摘された事も大きい。しかしながら、戦艦と巡洋艦がいなくなっていた21世紀では通用する理論でもある。戦艦などが現存する戦場では机上の空論だが、いなくなっていれば、けして間違いではない。だが、史実の戦訓は井上成美にとっては、自分が『軍政家であって、学者である』事を再認識させたと言ってよく、彼はあくまで『海軍軍人であった者』として人生を終えた同位体と違い、軍人としてのキャリアの残りを『空軍高官』として過ごす事になる。彼は海軍提督としての実務は優柔不断と詰られていたが、空軍事務方の高官としては才覚をフルに発揮。最終階級は空軍元帥。Y委員会委員という、退役後も明確な目的を持て、比叡を養子にした事もあり、史実よりも長生きしたのだった。

「向こうも大変なんだ、ポルシェ。空軍の設立準備での人員選抜、エース制度の課題、双方の機種統一……空軍一つで問題は山積だ」

「だからって、向こうの言いなりに?」

「なんとかしようと、あの方達が手を回してるが、疾風は整理対象になるだろう」

「ああ、実機のほう」

「日本のそれより航続距離が長い代わりに、携行できる弾数が大きく劣るのが分かってな。急いで改良型を作るように言ってはあるが、間に合うまい」

ミーナは疾風の実機が『ウィッチの護衛』用途に特化されていたため、航続距離が長い代わりに、携行できる機関砲の弾数が日本で存在した同機の半分以下という状況な事に溜息だった。レイブンズもこれには愕然としており、長島飛行機へ『紫電改と烈風に押されて消えるのは覚悟しろ』と半ば延命を諦めるような発言を残している。長島飛行機は諦めず、携行できる弾数を日本での同機と同等以上に伸ばし、航続距離を切り詰めた(ハ43に換装し、翼を再設計したものに変えた)二型の開発を急ぐが、瓢箪から駒で生まれた百舌鳥に主力戦闘機の座は明け渡す事になる。更に、旭光と栄光が相次いでロールアウトした事もあり、疾風は二型がレンドリース用、あるいは義勇兵用の機体として利用される機体として生き残ることになる。

「どういうこと?」

「F-86とF-104のライセンス生産が間もなく扶桑で開始されるからだ。疾風は改良型が出たところで、あまり興味は示すまい」

「なるほど」

ミーナはそう言ったが、栄光の本格生産は数年先延ばしされた後、すぐに『F-4EJ改』、『F-15J』に生産の主体が移され、扶桑ではあまり出回らない内に生産が縮小された珍しい機種となった。これはF-104の採用直後にドラケンが採用された事で、迎撃機枠が食い合いになった事もある。別の問題もあり、パイロットの中堅組の多くがジェットへの機種変更に躓いたのもあり、レシプロ機は日本側の予想より多くが生き残る事になる。また、源田自らマルヨンを乗り回し、デモンストレーションを行うなどの遊びも行うので、レイブンズが源田を推したのも、そこにある。

「ん?ロンメルがお呼びだ。センチュリオンに乗って出るぞ。射手と装填手を呼んで来てくれ」

「呼んでくるわ」

ロンメルから参戦してくれとお呼びがかかった。射手はシャーロット、装填手兼無線手はルコ(北野古子)の組み合わせとなり、一行はセンチュリオンでロンメルのもとへ向かった。

「うーん。まさかブリタニアの新型戦車に乗るなんて」

「でも、この戦車、ティーガーのアハトアハトを弾いて、逆に一撃で致命傷を与えられる砲を積んでるんだよね。凄いと言おうか」

「それまでのブリタニア戦車の集大成的な戦車でもあるし、本来はパンターやティーガーを仮想敵にして造られた戦車の一つになるんだ。その二つを圧倒するための戦車だ」

「でも、ティーガーUはどうなるんですか?」

「それにはコンカラーが当たる手筈だ。元からこれは、ティーガーのアインスに当たる戦車であって、ケーニッヒは想定外だ」

「ああ、あの重戦車」

「ブリタニアの現時点の持てる技術で重戦車を作ろうとしたら、ああなったんだ。従来の思想とは違うが、重戦車という代物はやがて、時代遅れになるからな」

「どうしてですか?」

「中戦車が強く、速くなっていくと、重戦車はその優位点をスポイルされてな。やがてカテゴリ自体が時代遅れになり、戦車自体も主力戦車の時代に入る。ここの辺りだと国の技術が物を言う時代になるから、個性もあまりない」

戦車はやがて、国ごとの違いが無くなっていく主力戦車の時代になる。しかしながら、国ごとの外見的差異が少なくなってゆくため、この時代の軍人からは『目に見える個性がない』と言われていく事になる。性能面で個性はあるが、目に見えない事が主力戦車時代には多いからだ。また、後の太平洋戦争で思わぬ苦難を歩むのが、16式機動戦闘車である。当時に装輪戦車の概念が無かった不幸もあるが、扶桑軍第4戦車師団に配備された同車はなんと、テケ車やハ号の感覚で運用されてしまい、機動戦闘に駆り出された結果、高い損耗率を記録した事から、一時は自衛隊への大量配備が危ぶまれるほどになる。自衛隊は『待ち伏せ用に作ったのに、なんでハ号やテケと同じ感覚で運用すんの??』と?マークであったが、扶桑は火砲の口径から軽戦車と捉えたため、その食い違いが悲劇となった。ウィッチの対戦車ライフルでエンジンを撃ち抜かれて沈黙する車両も多かったので、同車は現地の運用法が稚拙だったとするレポートにも関わず、財務省は陸軍予算の削減を示唆したので、結局、10式の後継となる次期『T-X』(主力戦車の開発)と同時に、早くも、次期機動戦闘車の開発を行う事が決定する。(エンジン周りなどの各部装甲強化とエンジン周りの構造強化がなされた改良型。扶桑側がウィッチの対戦車ライフル対策と称し、シュルツェンを現地で付けてしまい、重量増加で機動性が落ちるのを承知で運用していた事からの対策であった。そういう運用は全くの想定外だったので、そのために戦車師団が交代し、実際の戦場を知る、第一・第二戦車師団が投入されたという事情もある)

「日本は装輪戦車を持っているが、扶桑にはその概念はない。おそらく、16式機動戦闘車が事実上は待ち伏せ用の自走砲である事も完全には理解できんだろう。そうすると、量産が危うくなるな…」

「ああ、陸自が持ってきたあの車両」

「そうだ。あれは扶桑だと砲戦車に匹敵する砲は持つが、ホニ車とテケ車のいいところを持つ車両で、純然たる砲戦車ではない。たぶん、次の戦線でその問題は噴出するだろう」

フレデリカにミーナは懸念を伝える。16式は戦後に出現するカテゴリの装甲戦闘車両であり、この時代の人間には理解され難いカテゴリの装甲戦闘車両であると。その懸念通り、2019年(扶桑側で1948年前後)、財務省に16式の配備数削減をするように脅された防衛省は、陸自の精鋭師団の増派と、16式の改良型の開発を取り付け、また、扶桑側にミッドチルダ動乱を生き延びた精鋭師団の投入を決意させる。この時に恥を晒した第四戦車師団は錬成と称して、以後は予備兵力扱いで戦役参加は無くなったのだった。

「おっと。ポルシェ。停車だ。敵車両がいる」

「車種は?」

「M26パーシング。対ティーガーT用に用意されていた重戦車だ。史実だと、百戦錬磨のドイツ軍に対抗できるかは微妙だったがな」

「シャーロット。車体正面は撃ち抜ける?」

「私の魔力と、この105ミリなら難なく」

「やっちゃいなさい」

一同が遭遇した車両は、偶然にも偵察中だったM26パーシングだった。建物の影から砲塔だけを向け、100mほど離れ、無防備に車体正面を晒す同車へシャーロットがセンチュリオンの105ミリ戦車砲の引き金を引く。当時としては重装甲とされるパーシング戦車だが、センチュリオン最終型の105ミリはこの時代の120ミリ砲と同等以上の貫通力を誇るので、いくら正面装甲でも防げない。いくら避弾経始が図られていると言っても、リベリオンにそのような概念を知る熟練の戦車乗りなど皆無に等しかった。バカ正直に車体正面を晒し、熟練の砲手でもあったシャーロットの腕にかかれば、一撃である。

「撃破確認。バカ正直に車体正面を敵に晒すとはな。リベリオンには素人しかいないようだな」

「それ、本当ならあなたにも当てはまるわよ?」

「それもそうだが、今は違うぞ?」

「Gってのもややこしいわね」

「でも、この戦車凄いですよ。チハやチヌよりずっと安心感がある」

「ルコ、この戦車はブリタニア最新鋭の重巡航戦車だ。扶桑のチハ系列などとはモノが違う」

「宮菱の戦車開発部が74式のコピーに躍起になるはずですよ、これ」

「アニマルハンターを本来は期待されていたからな。イギリスは21世紀のチャレンジャー2MBTをそのうち供与するとか言って来てるそうだ。太平洋戦線では使えるかも知れんぞ」


「なんか信じられないですね」

「連邦を組む時点で、21世紀側が兵器をモーターショー感覚で持ち込む事は分かっている事だ。チハやチヌでM26の相手をするなんて地獄より、74式で蹂躙したいだろ?」

「た、確かに。私の先輩達は扶桑海でチハストライカーや戦車が無力だった光景を見てきた世代なんで、大歓迎してます。今、反対してるのは元の騎兵閥と扶桑海を知らない子供達だけですよ」

北野古子(ルコ)は扶桑海にはギリギリ従軍しなかった世代になるが、アフリカで火力の重要性は身に染みているので、74式のコピーである七式中戦車の採用は大歓迎である。扶桑海事変の当事者は戦訓から、大口径砲弾を欲しがったが、『負け戦の当事者意見など当てに成らんのだ!」とレポートを黙殺した。しかし、信仰するカールスラントが大口径砲を戦局打開の切り札とした事に流され、チト、チリ、そして応急処置にチヌを作っていたが、日本連邦化で更なる大口径砲化の流れが決定的になったが、その流れを助長したのが、圭子である事をルコは知らない。また、とある陸自幹部自衛官が扶桑軍に『命は有効に使える様にせねばな、隊員の命と引き換えに成功したとしても、それは私自身の任務失敗なのだから。失敗に学ぶ、其が出来ない軍は滅ぶからね』と述べた事も大きかったとされる、

「さて、ここからは疎開させた市街地になるぞ。ゆっくり進めろ」

一同はヒスパニア戦線で戦っており、鏡面世界と入れ替えられたロマーニャ戦線と全く別の状況であった。ヒスパニア戦線は山あり谷ありと、当時の機甲部隊には辛い地形であった事、アンドラ公国の魔女の思わぬ奮戦もあり、敵の陸上からの侵攻速度は遅々たるもので、その間に空輸でセンチュリオンとコンカラーを配備させたのが連合軍の状況だった。また、ダイ・アナザー・デイ作戦は名前的にも、ブリタニアの沽券に関わる作戦でもあるので、実戦テストの名目が使えたのも僥倖だった。一同はパーシング、シャーマン、時にはジャクソン戦車駆逐車を『駆逐』しながら、三将軍の待つ前線駐屯地に向かう。一同のセンチュリオンはその間、全くの無傷だった。G化したミーナの卓越した指揮、それに応えられるフレデリカの操縦技能、指示通りに敵を狙い撃てるシャーロットなどの要素もあり、即席のクルーにしては凄まじい戦果を挙げた。ミーナはこの、バルクマン並の輝かしい戦果により、研修先の第一降下装甲師団でも一目置かれるようになる。ハルトマンに次いで、空戦と陸戦の双方でエースとなったウィッチとなり、未来行きの日までには戦車乗りの資格を正式に得たのだった。また、ハルトマン、ルーデル、ミーナ、クルピンスキーが次々と戦功をおっ立てていくので、カールスラントはルーデル用に作っておいた勲章をカールスラント出身の501隊員に与える事にし、その中でも戦功のある五人の内の四人に柏葉・剣付騎士鉄十字章が授与され、ルーデルだけが最高位の『黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章』を与えられた。また、戦功は一段落ちるロスマンは僚機を立てるスタイルであったが、当人が教育畑に行きたがっている事を考慮し、柏葉付騎士鉄十字章が特別に授与された。これらは作戦中に授与された。また、ロスマンは智子により、彼女の派閥の遊撃隊に巻き込まれ、裏方での任務に徹していたが、途中の休憩時間に、黒江のアイデアで、ロスマンを気分転換と称し、フェイトと川内の手引きで、紫電改のマキ世界に『矢島風子』という日本人の不良少女に変身させて、その世界に送り込む事にし、それを実行する。ロスマンも、自分の家族、特に、退役軍人の父親と会うことを極端に恐れたので、父親と会いたくないために、黒江の策に乗っかったのだ。黒江の命もあり、エディータ・ロスマンという名と名声の呪縛から逃れ、一人の日本人のスケバンを演じたロスマンだが、意外にしっくりきたのか、帰る頃には、そのスケバンキャラが癖になっており、再会したクルピンスキーとエーリカの腹筋を盛大に破壊したとか。元の容姿になっても、スケバンとしての口調はついぞ取れなかった。『うちらは仲良くブリーフィングに出ますけぇ、伯爵達の様子を見に言ってくだせぇ』との第一声はラル、黒江、智子の三者を爆笑させたという。また、黒江の命でバンカラ系女子高校生を演じていたのはよほど楽しかったようで、勤務態度も顕著に変化が起こったので、黒江の思惑以上に変化してしまったと言える。この変化はラル、バルクホルンの同期で、元・同僚の『ヨハンナ・ウィーゼ』少佐を驚愕の渦に叩き落とし、ラルとバルクホルンが説明に追われるが、それはまた別の話。また、その時の帰還には、その世界で使用していたキ44を持ち込んで、その世界にいた時の服装のままで帰還したので、G化していたバルクホルンも流石に驚いたという。



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