外伝その159『約束された勝利の剣3』


――黒田はリーネをG化&変身させた。変身後のリーネは元の引っ込み思案さが鳴りを潜め、その代わりに、元からある『友人のために犠牲になる』自己犠牲精神が増幅されており、芳佳のためなら火の中、水の中と言った様相だった。それに伴い、以前は戦闘技能は中の下程度だったはずが、黒江達と張り合えるレベルに飛躍していた。また、言葉づかいも幾分か大人びていた。

「うーん。ここまで変わるたぁ……。うん。大成功だね」

「大尉。お久しぶり、と言っておきます。これで芳佳ちゃんと同じ目線に、同じ立場に戻れました」

「好きだねぇ、お前」

黒田は黒江の影響もあり、親しい友人かつ後輩を呼ぶ時は『お前』と言うようになっていた。キャラかぶりを心配したというのが、本人の言い分だ。黒江が今の江戸弁を織り交ぜた江戸っ子的な言葉づかいになったのも、『扶桑ウィッチは似たようなキャラが多いんだよー!』と転生前に甲児に愚痴られたのが発端である。実際、扶桑のウィッチは武士道被れが多いため、黒江は兜甲児にそれを指摘された事で、自分の『キャラ』を意識した。それが数度の転生で固まったのが、現在のキャラである。黒田もお気楽極楽の基本は守りつつ、転生を重ねる内にキャラを変化させており、今は『戦闘では好戦的だが、普段はお気楽極楽でフランクな人柄』という立ち位置にいる。

「あ、そうだ。お前に戦場の状況を説明しとくけど、お前がそうなった以上はイリ…もとい、サーニャやルッキーニを変身させないと」

「見栄えですか?」

「違う違う。バランス取れないだろう?そうしないと」

「うーん…?」

「考え込んだら負けだぞ、美遊」

「大尉、楽しんでません?」

「先輩たちに比べりゃ、あたしは気楽なほーさ。先輩たちは超絶ブラック企業も裸足で逃げ出すからな」

黒田はこの作戦中は割と気楽な立場であるが、黒田はこの後の黒田本家継承イベントが控えているので、嵐の前の静けさと言える。黒田本家の混乱の原因は事変での自分の戦功に根ざしている事は分かっているので、本家の継承は風子への償いも兼ねている。それが風子に重圧を与えてしまった者としての贖罪であり、事変で七勇士最年少と謳われた自分ができることだと。

「あたしは次の戦までに、家を継がないといかん立場だしね。こう見えても侯爵家の出だしね」

「その辺は諦めてなかったんですか」

「元は分家の分家の分家の分家の分家くらいの華族と名ばかりの中流階級に生まれたからね」

黒田は実家は黒田家の分家の末端の家であり、本来なら本家を告げる地位にはなかったが、風子がウィッチになれなかった事で、風子の父が娘を役立たずと邪険に扱いだした事、邦佳が七勇士として、天皇陛下に拝謁する名誉を得ていた事、黒江の腹心であることなどが複合し、廃嫡と邦佳への継承を現当主が天皇陛下の仲裁で宣言する流れになってゆく。

「本家が適当にバカやってくれるから、お上に顔向けできないレベルの自爆と、こっちの功績目当ての当主のじーちゃんの意向で当主を継ぐ羽目にしかならなそうなんだよね、どうあがいても。じーちゃんは廃嫡を宣言しちゃうし。日本の野党連中に華族廃止で喚かれても困るって、お上の意向もあるんだ」

日本の野党は扶桑の華族を廃止したかった。自分達のところには存在しない身分だからだ。それと、自分達の掲げる憲法に違反しているから、という身勝手な理由である。安倍シンゾーは『扶桑の華族は我々の記録にある旧華族と違い、特権などは昭和時代までに殆ど廃止されており、現代のイギリスに於ける爵位のようなものに変貌しているのであります』と説明を繰り返し行なっている。扶桑の爵位はもはやイギリスの貴族同様、旧時代に支配層であった武士や公家などの家柄に与えられた名誉、国家功労者とその子孫に与えられるような名誉に変質している。また、吉田茂も『基本敬意の対象であり、日本に於いての国民と皇族程も立場に差はないのです。華族で在るための義務も多く、功有る者を称える意味合いの身分であり、敬意を受けるために、より厳しい義務を負う立場にある、不当な特権階級とはかけ離れたものなのです』と日本連邦評議会で表明している。それは黒田が末端の分家ながら、軍人になることが義務とされていたことでも証明されている。

「日本の連中は自分達の過去の記録のバイアスで見る。23世紀より客観的に見れてないんだよな、連中。のび太みたいな人がもっといれば、先輩も訴訟で悩まずに済んだのに」

黒田は黒江が日本で起こされた訴訟で胃痛に悩まされていたことを近くで見てきているため、日本の人々の間にある『戦前への先入観』などを嫌うようになっていた。必要上、覇権国家のような形の歴史を歩んだ扶桑への理解をしようとせず、自分たちの価値観こそが絶対とする『ノイジー・マイノリティ』が扶桑やウィッチ世界の他国の反感を買っている。これは21世紀世界の各国に共通している事項だが、日本は特に酷かった。その最たるものがオラーシャを共産化しようとした『革命』だろう。日本のとある共産主義者の残党達がオラーシャに迷信がある事を利用した反ロマノフ王朝・反ウィッチの名のもとに、共産主義革命を中国共産党などのバックアップで引き起こし、オラーシャ帝国の五体を引き裂いた。自分達が嫌ったはずのスターリンと同じことを引き起こし、オラーシャはもはや国としては死に体も同然にまで衰弱しきった。受けた被害は独ソ戦と大粛清をいっぺんに起こしたのと同規模という無残な有様だ。サーニャが国を捨てた理由の一つが士官学校時代の親友の無残な死なので、両親が逃れた扶桑に帰化を選ぶのも当然のことである。そのため、サーニャは扶桑名は九条しのぶ、別の仮名に『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』というカールスラント風の名を使用する事になる。これは偶々、アインツベルンという名籍がカールスラントに存在し、サーニャの隠れファンだったカールスラント皇帝がその名籍を与えたために許された。こうした扶桑とカールスラントの多方面からの尽力により、サーニャは祖国の地を踏まない覚悟を決め、以後は日本連邦に本籍、別荘をカールスラント連合帝国に置く事になる。喧嘩別れをレヴィのしばきにもかかわらず、ヒステリックに引き起こしたサーシャは作戦完了後は、逃げるように本国へ戻り、オラーシャ帝国の復権に尽力してゆくが、サーニャとの正式な和解は、サーシャが精神的に落ち着く数十年後のベトナム戦争での事になる。サーニャはこの時間軸以後、自主的に自分の事を『しのぶか、イリヤって呼んで』と公言していく事になる。それは自分なりの祖国への別れであったのだろう。(仕事で渡航する分にはいいのか、それぞれの仮名で数回ほど渡航していた)

「溜まってますね」

「これからの事思うとね。サーニャには辛いけど、オラーシャは、内乱でもう国としての体は成してない。サーシャ大尉とも喧嘩別れした。大尉は多分、パットンの親父が降格させるかもな。サーニャのファンだって言ってたし」

「出来ます?」

「パットンの親父に伝えたら、二階級格下げしてやる!!とか喚いてた。でも、現場の士気もあるから、一階級だろうな。ノイマンさんの件で分かってるから」

「ああ、聞きました。エディタ・ノイマン大佐の件ですね」

「ああ。彼女、哀れな事に21世紀のギリシャやらユネスコに名指しで批判されて、ナチ呼ばわりだ。精神的に追い詰められて、病院からまだ出てこれないらしい」

「もしかして、マルセイユ中佐が佐官になったのって」

「察しがいい。ノイマンさんの穴埋めだ。あいつのパイロットとしての戦功だけじゃ、到底中佐には届かないしね」

黒田は今回においては、マルセイユより上の立場で『ストームウィッチーズ』に在籍していたので、マルセイユの事を呼び捨てかつ、格下扱いである。軍歴がマルセイユが学校に通い始めた段階からである上、あの竹井が『黒田先輩』と呼ぶという状況であるためだ。竹井が先輩と呼ぶ人間は45年では少なくなったが、年下である黒田を先輩と呼ぶのは、前史との人間関係の違いである。

「お前も転生してしばらくすれば、立場も前史と変わってくることが分かるよ、美遊。あたしも坂本や竹井の後輩だったけど、今は逆に先輩だしね」

「お察しします」

「ありがとな。これでスッキリした。それじゃ、あたしはライトニングZを戻してくる。サイコフレーム発動させて負担かけたからな。サーニャとルッキーニには連絡を入れて、ラー・カイラムに着艦してもらう。お前は敵を倒しながら、先輩達と合流しろ!」

「了解!」

黒田と別れたリーネ、もとい美遊は自身の魂魄に記憶されていた力を行使し、クラスカードと、どこかの世界で呼ばれていただろう代物を呼び出し、アルトリアが英霊として阿頼耶識に座していた時期のクラス名『セイバー』の力をその身に宿す。その服装や甲冑はアルトリアが生前、絶頂にあった頃の青い騎士服と甲冑姿になる。アルトリア当人は厳密に言えば、『セイバーリリィ』の姿で絶頂期の力を振るう状態なので、この時点でアルトリアという存在の転生と関係なく、宝具の力は借りられるという事になる。因みに、リーネ当人には、こうしたガチンコの戦闘経験はない。前史では、ペリーヌの従卒として軍生活の後半から末期を過ごしたのと、MATに関わっても、デモンストレーションで飛ぶことはあったが、実戦には出ていない。にも関わず、彼女がこうして戦う選択を取ったのは、魂魄に刻まれたもう一方の記憶、つまり今の容姿のもとになった『美遊・エーデルフェルト』という人物の記憶に依るものだった。偶然にも、彼女が呼び出した剣は『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。リネット・ビショップとしては、たとえ芳佳のためでも、人間相手には戦えないが、『美遊・エーデルフェルト』としてなら戦えた。黒田の判断は、ずっと思い悩んでいたリーネの、芳佳と同じ目線で生き、同じ道を歩んでいたかったと後悔していたGウィッチとしての苦悩を吹き飛ばし、自分に勇気を与えてくれたと感謝されるのである。そして。彼女もまた、約束された勝利の剣の力を開放する。

『この力が私の大事な人たちを守る力になるのなら、私はもう躊躇ない――!疑うよりも、私の可能性を信じる――エクスカリバーァァァ!!』

――エクスカリバー。黒江、調、アルトリアの三者の振るう本物に比べれば、威力も魔力の光芒の規模も遥かに劣る。どこかの英雄王であれば『紛い物(フェイカー)』と侮蔑するだろう。だが、それでも、その名に恥じぬ威力は出し切っており、後衛に詰めていたガランダー帝国の獣人達の全てを薙ぎ払って余りある規模の現象は引き起こしていた。


紛い物(フェイカー)、いや、使い手の心意気はダブルフェイク(本家を超えた写し)といったところか、成長が楽しみだな、フハハ…』

完全に人を見下しているチャネリングが瞬間的に美遊に繋がる。その主こそ、黒江とガイちゃんに『神剣』を授け、調の成長を観測している男であった。彼は正式な黄泉還りはしていないが、自身が認めたものには力を貸す鷹揚さも持つ。エクスカリバーを紛い物と知っていても友のために振るう美遊(リーネ)の可能性に何か光るものを見つけたのだろう。
彼女が幻視した彼の姿は後ろ姿であったが、微笑っているのは分かった。

『貴方はまさか……――」

『我が玉座に至るのを楽しみにしよう、フハハハハ』

チャネリングがそこで切られるが、幻視した姿は間違いなく英雄王(ギルガメッシュ)だった。これは黒江やガイちゃんも遭遇した現象であり、二人は彼に認められ、『天地乖離す開闢の星』の力の制御に至った。調は彼に『若く、未熟』と見られており、その領域には至っていないが、素質を黒江から受け継いではいる。リーネはその転生してまで抱く芳佳への想いが英雄王に認められたのだろう。






――その際の光は、黒江達のところからでも観測できた――


「なにィ、あの光……規模は小さいが、エクスカリバーだとぉ!?誰だ?!」

「私じゃないですよ、師匠!」

「見りゃ分かるわ!ウチのガキはアロンダイトと草薙だから、あの色は出さねぇ。アルトリアも撃ってないよな」

「まだクールタイム中ですよ!?」

アルトリアも動揺している。そこでレヴィが固有魔法の『超視力』で誰が撃ったかを確認した。すると、流石のレヴィも驚愕した。

「おい、こりゃ……何かの見間違えじゃねぇよな」

「どうした」

「美遊・エーデルフェルトの姿が見えるぜ。しかも変身した姿だ…」

「なぬぃぃ!?」

黒江が素っ頓狂な声を上げた瞬間、レイブンズの三人に黒田から事後報告が入った。流石の黒江もこの事後報告には怒った。

「バーロー!!なにやってやがるんだ、全く!!やるんなら一言言え!」

「サイコフレームでブーストさせんなんて、機体がヘタったらどーすんだ!バァ――カ!!」

黒江とレヴィは怒り心頭である。そこへジャンヌが仲裁に入る。

「まぁまぁ。やっちゃった事は仕方がありません。リーネさんにはそのまま後方撹乱をしてもらいましょう。アルトリア、貴方の身体能力を借りたとしても、本格的な戦場にはまだ出せないでしょうから」

「そうですね。黒田大尉は後で私がシメておきますので、お二方、この場は」

「だそうだ。お前、とーぶんはあんみつ抜きの刑な」

「そ、そんなぁ〜!」

黒江はジャンヌの顔を立てたが、一応、罰則は与えておく。黒田は郷土料理の『がね』と『あんみつ』が好物であり、あんみつを抜かれる事は、ドラえもんがどら焼きを食べられないのと同じこと。無線での黒田の声が一気に暗くなった。

「がねじゃない分、慈悲深いと思え」

「あれ抜かれたら死にますよ!」

「あのなぁ。私らはもう死ねねー体だぜ?」

黒江がここでGウィッチとしての自分達の存在の事に触れる。黒田はここでそれを思い出し、なんとも言えないような溜息と声を出した。

「先輩、それ言ったら身も蓋もないですよ……」

「事実だろー!だから、たとえ冥府の世界にあった嘆きの壁も怖かねぇぞ」

神の座に至った黒江達はその気になれば、冥界の嘆きの壁も通り抜けられ、自分の力だけでエリシオンへ至るだけの力を持つ。身も蓋もないと言ったのは、自力で冥界と現世を行き交うことが可能な存在になったので、生死など、とうに超えている。星矢たちが至った領域に二番目に達した事になる。その気にさえなれば、亡者軍団も引き連れて来れるのだ。

「今回は神様になってるんだぞ?その種の冗談はマジで意味ねーかんな。それに今はハーデスがおっ死んだから、冥界の権限はZ神のものだ。あいつがその気になれば、英霊ももっと現界してくる。だが、英霊って言ってもピンからキリまでいるからな。無闇に復活もさせられねぇんだろう」

Z神は基本的に、善性を持つ英霊を現世に復活させる。それはハーデスが倒れた事で、野心を顕にしてくるポセイドン、アレス、オーディーンなどの神々に対抗せんがためである。つまり、Z神は人間界の守護のために、聖闘士と英霊を用いるつもりなのだ。

「先輩、ズレてます」

「おっとっと。で、リーネを美遊にしたんなら、サーニャとルッキーニも変身させろ。それは許可してやる。それと、あいつ、どうやってエクスカリバーを?」

「クラスカードを自分で作ったみたいです」

「あ、ガチで?サーニャを早くやれ。後方撹乱の戦力も必要だしな」

「了解。それとなのはは隊長が呼び出しました。響の一件で始末書書かせるそうで」

「武子に、始末書5枚は書かせておけと伝言してくれ」

「了解」

現在、なのはは武子にお叱りを受けている。響の一件の処理のためだ。切歌から抗議が正式にあったらしい。

「あ、それと風鳴弦十郎司令を隊長が叱るとか言って、先方に電話してます」

「あ、マジ?あのおっちゃん、人はいいんだが、どうも、あいつのメンタルにはあまり触れられないらしいからなぁ」

黒江や武子は生年月日で言えば、風鳴弦十郎から見ても、彼の祖母に相当するであろう世代に当たるため、彼には目上として接している。そのため、電話口で叱られている風鳴弦十郎には、なんともシュールさが漂う。また、エルフナインは、黒江が完全聖遺物の霊格をその身に宿している事を解明しようとしているらしく、戦闘データの提供を依頼してきたらしい。武子も黒江も『撮影なら勝手にしろ』と自由にさせているが、エルフナインは戦場に巻き起こる完全聖遺物(宝具)のバーゲンセールとも言うべき状況に大いに困惑している。約束された勝利の剣と黒江が呼び、その他数人が使用する剣は、まさにアーサー王伝説のエクスカリバーそのもの。シュルシャガナを持つはずの調も使用したので、シンフォギア世界からすれば、完全聖遺物のバーゲンセールである。しかも、相応の魔力さえあれば、自分達の世界の理を完全に無視する現象を引き起こす。ガイちゃんがガングニールを損傷させるために見せた『天地乖離す開闢の星』がその最たる例だ。武子は黒江が言っていた事をそのまま、エルフナインに伝える。『私達のエクスカリバーは聖遺物その物ではなく、その霊格、要するに物質的な側面とは別の形の根源を力として扱っているんだ、だから使用者の魂の在り方で、その顕現の形が変わるんだ』という伝言を。エクスカリバーのオリジナルの持ち主であるアルトリアは風、黄金聖闘士であり、尚且つ雷の力を持つ黒江は雷、調はシュルシャガナの元来の炎剣としての力の影響で炎の力を付加した形に分岐している。黒江のエクスカリバーは正確に言えば、『エクスカリバー・サンダーボルト』、もしくは『エクスカリバー・ミョルニル』というべき派生だ。響がまだ、黒江を調当人と思っていた頃、エクスカリバーを食らわされた後の回収時、ガングニールに『電気で焼かれた形跡があった』のはそれが理由だ。

「隊長、先方にかなり強く出てますね。それと、切歌を鍛えるとか?」

「しゃーない。あのまま戦わせてても、足手まといになるし、得物の性能に頼ってるもんな。鎌持つんなら、デスサイズヘルみたいになぎ払いとか覚えればいいのによ」

切歌は鎌の特性をあまり理解しておらず、投げつけたり、一対一の近距離で使用している。黒江や武子、はたまた英霊達から見れば『お遊戯』も同然と酷評される扱い方である。例えば、ガンダムデスサイズヘルのデュオ・マックスウェルは『一対多で多くを薙ぎ払う』ビームシザースの扱いを見せている。切歌は小柄な体躯のハンデもあるが、鎌の扱い方を心得ていない。

「おー!武子に伝えろ、あいつのコーチは號にしとけと。あいつはゲッターサイトをブン回すから、扱いはプロだ」

「あの山猿ですか?ちょっと心配ですよ」

「號が聞いたらお前、砲丸投げられっぞー?テキサスマックのあの妙なイントネーションの連中に馬鹿にされてるんだぞ」

一文字號はアメリカ地域が日本に負けじと作ったスーパーロボット『テキサスマック』のパイロット達に山猿とからかわれており、大いに憤慨している。そのため、黒江は黒田に一応の忠告はする。

「砲丸がライジングボールでぶっ飛んでくるぞー。私も経験あるが、コンクリートの壁をマジで凹ませる速度でぶん投げてくるんだぞ」

「なんですか、そのドワォ兵器」

號や竜馬はゲッター線に愛された者なので、擬音が入るなら、『ドワォ』だろうと満場一致で言われている。甲児や鉄也が『ズババン!』と普通の擬音で形容されるので、二人の特異がよく分かる。黒江達も『ドワォ』という擬音=新旧ゲッターチームの事と認識しているので、ドワォはゲッターチームの代名詞である。

「うーむ…。ゲッターチームは知れば知るほどドワォだしな。G以外にはあまり漏らすな。誤解を招くし、ガキの教育によくねぇ」

竜馬達初代、號達二代ゲッターチームのいずれも、通常ウィッチからすれば戦闘狂と誤解されやすい言動であり、ウィッチからはいい第一印象は持たれない。獣戦機隊のほうがまだいい第一印象だろう。

「分かってます。本人達もそれは自覚してるみたいですからね」

特に、神隼人はロボット工学やゲッター線研究者に本職を移行しつつあるほど切れる頭脳なので、傍から見ると危険発言が多い。翔も橘博士の令嬢でありながら、地球連邦空軍のパイロットであった前歴があるため、似た傾向がある。基本的にゲッターチームは1乗りが熱血漢、2乗りが頭脳、3乗りがチームの良心兼力持ちのポジションだ。3乗りは死亡率がもっとも高いので、乗りたがないテストパイロットも多い。

「獣戦機隊の皆さんも変速的な操縦分担してるんだよな。忍さんが機動と射撃、亮さんが接近戦だし。最近は断空剣の時はやるようになったっていうけど」

獣戦機隊のダンクーガの場合は得意分野に応じて、操縦担当を藤原忍と司馬亮に切り替えられる操縦系統になっており、上手い具合に役割分担されている。因みに他の二人も重要な役目を背負っており、合体ロボは何かとやることが多い。また、ダンクーガはどの機体からも操縦は可能であり、そこが操縦が一本化されているダンガイオーなどに比べての利点と言える。ゲッターやダンガイオーのように、頭部から胸部を構成する機体のパイロットがロボの操縦を全て担当する構成はむしろ珍しいと言える。

「合体ロボはこの時代の連中の常識で図れませんしね。いちいち分離して出る理由も理解できないだろうし」

「合体コールをシャウトして、合体を見せつけるのがいいのに、まったく」

「ハルトマンもZZの変形合体に異議あり!とか言ったことありますもんね」

「えーと、どっちだよ」

「ウルスラだったかなぁ。何十年前だったか…」

Gウィッチは転生しているので、感覚的には直接の前史は数十年ほど前という感覚である。そのための会話であるが、なんとも凄い内容である。

「いつまで喋っているのですか?」

「あー、すまん。アルトリアが額に怒りマーク出してるから、切るぞ」

アルトリアは基本的に生真面目なので、黒江がいつまでもしゃべっている事に怒りたいらしいが、立場的に強く出れないため、必死に我慢している。(黒江はこの時、既に中将待遇、アルトリアは一介の少佐である)

「スマンスマン、長引いた。怒るなって。あとでドラえもんにグルメテーブルかけ借りてやんから」

「し、仕方ありませんね…」

アルトリアは転生後、生前同様に大食いにならざるを得なかったので、食事量はハインリーケ本来の量の3倍を有に超える。それでいて、太らないのは、戦闘でのカロリー消費が仮面ライダー級の大きさであるがためというもっともな理由がある。また、アルトリア個人として、生前の反動か、フードファイターを副業にしようかと考えているほどの量が食べられるので、芳佳は食事の分量をグルメテーブルかけを借りて『メガ盛り』にしている。そこがアルトリアが持つギャグキャラの側面でもある事を上手く利用し、場を乗り切る黒江。

「師匠、上手いことやりましたね」

「お前を戻したのは切歌達を休ませ、響を引っ込めたからだが、響の精神的ダメージが思ったよりでかい。後で私が復元しといたガングニール渡すから、その時に私がなのはとお前の真意を伝えた上で侘びとく」

黒江は仕事はきっちり行いつつ、戦闘を愉しむ。統率力も高いので、立場的にこの場では、仮面ライダー達などのヒーロー達に次ぐ。レイブンズの中で統率力が最も低いのが智子だが、一応、中隊の指揮は取れていたので、智子/武子の世代までが平時の教育期間で育成されたウィッチでは最後の世代になる。坂本や竹井以降では、素養があると言うことで、小学校や軍学校を飛び級をして任官も珍しくなかった事を考えると、坂本や竹井の代までが上の世代のノウハウを上手く継承できた例にあたる。問題はそれ以降の代で、雁渕姉と下原の代は兵学校の期間が二年に短縮。菅野の代以降は一年半もない。それが現在は大問題になったので、黒江達も士官任用試験を受験し、合格した上で正式な階級を維持している。つまり、戦時は再教育期間が確保できないから、任用試験を行うという過程が日本連邦で行われたのだ。黒江達を含めたGウィッチ達は自衛隊での指揮幕僚課程と幹部高級課程に相当する難門を全員が難なく突破している。黒江は自衛隊で空将になっているので、本当は受けなくともいいが、元々の勉強好きから敢えて受験、合格している。黒江達は作戦の合間に受験しているが、難なく突破。自衛官達の羨望の眼差しを浴びた。扶桑軍ウィッチ出身軍人からこの措置は大きな反発があったが、日本連邦軍の方針としては『指揮幕僚能力の再確認のため』であり、正式な階級の規定であるが、勤務階級は現場の混乱防止で維持するという事は事前に何度も通達された。クーデター防止のためである。防衛省制服組はこの措置を『背広組が扶桑軍将校より自衛官を優位にしたいために仕組んだ』と揶揄したが、ウィッチ出身軍人の少なからずはロジスティックスを理解していないものも多いため、制服組により、勤務階級の維持が盛り込まれた。ウィッチ軍人の体裁を守るためだ。背広組の増長と傲慢を抑えるため、制服組により、『試験に落ちた佐官ウィッチは原則として正式な階級は大尉であるが、勤務階級は維持し、その名誉に配慮した扱いをする』規定が盛り込まれた。黒江のシンパ達がこれでも手直しした方である。その前は『不合格者は少尉に原則として降格だが、勤務査定は有利にする』という警察官僚の視点からの書き方だった。防衛省内部でも『これは不味いだろ!』と非難轟々。ウィッチの主力世代には、中学校すら出ていない者も多いからだ。また、防衛大臣も『ウィッチの名誉に配慮したまえ』と命令を防衛省に下した事で、勤務階級の維持の文面が盛り込まれた。元々は生え抜き自衛官(陸自)からウィッチの階級が年齢不相応であるとする意見を発端にしての試験実施であったが、制服組は戦線にいる幹部級までの適応は反対であったし、試験は以後の志願者からにすべしとの立場だった。それを背広組が全ウィッチに対象を広げ、事もあろうに激戦地でも実施させたのだから、さあ大変。黒江達が過労死ラインで勤務しているのは、試験の第一次合格者でもあるためである。そもそも、試験は部内でも『指揮幕僚能力確認の名を借りたウィッチの中枢からの排除である』と反発がある。黒江達は副官や幕僚を全員英霊にしているが、サーシャがヒステリーを起こしていて使い物にならない、ラルは次期空軍総監の人事の通達で多忙、ロザリーはアルトリアの勧めで退役という、幹部級ウィッチの人事異動に対応するため、英霊達を司令部の事後承諾で副官と幕僚に仕上げたのだ。そのため、黒江達の事務処理は事実上、芳佳が扶桑軍代表の副官として勤めており、数日は飛んでいない。その補助に、空自での事務処理が上手い部下を送り込んでもらったところだ。

「黒江さん、事務処理終わったんで、これでジャンヌさん達はレイブンズ付きの副官として、うちらで処理できます」

「おお。あんがとな」

その芳佳から通信が入る。芳佳曰く、『親父さんが幕僚として、淵田さんを送り込んでくれたんで、今は海軍にいる連中の処理が楽になった』との事。

「ああ、淵田のオヤジを送り込んでくれたのか。これで赤城や加賀も前線に出れるだろう」

艦娘達はこの時、日本連邦統合幕僚本部内での取り扱いで揉めていた(海保系の官僚や外部有識者から疑義が呈されていた)。出撃出来なかったのは、その有効性への疑問が原因だ。だが、そのサイズに反する異常な攻撃力が注目され、艦隊の援護という形で投入が決定されている。当代屈指の戦闘艦の化身なのが政府にまで認識された。更に一部はメンタルモデルと呼ばれし変身能力を有する事も注目された。(高雄、大和、武蔵、伊401など)高雄は艦娘としての素の姿より、メンタルモデル姿のほうがキャラが立っていると言われ、大いに憤慨しているが、キャラの特徴的にメンタルモデルとしての姿のほうが目立っているため、最近はこちらが主体だ。(末妹の摩耶はメンタルモデルだと『カーニバルだよっ』になるので、艦娘としての姿を通している)

「艦娘さん達は大和型、長門型姉妹と高雄型の二隻と何人かの駆逐艦と選抜された空母が出されるようです。前線に出てる普通の空母は今、雲龍型だけになってますしね」

「マジで?」

「改装済みの三隻は浮きドックで補給整備中ですしね」

「おおう。そうか、未来だと洋上空母でも核動力だから、そのこと忘れてたわ」

「雲龍型はレシプロ機担当とは言え、未来の連中から『彗星や天山もまともに運用できない役立たず』なんて揶揄されてますから、義勇兵達も怒ってます」

「まぁ、元の設計が飛龍だし、ウィッチとの兼用の量産型母艦にすぎねぇ場繋ぎだしな、所詮」

雲龍型は通常艦上機の彗星や天山でさえ、同時発着に難ありの旧式扱いされており、未来人にとっては殆ど露払いの前座扱いであった。その為、未来からは『STOVL仕様にしない?』と進言されており、実際に使用鋼材が良好な初期艦はコア・ファイターが配備されるのだ。

「コア・ファイター回していいって話もあるけど、予算が敷島の計画や播磨の量産に取られてるから後回しなんだよなー」

「ああ、それなら、空軍と宇宙軍が機種変更で状態良好なのが大量に余ってるから、格安で有償提供しますって」

「そりゃ良かった。で、空自連中はオジロワシの連中がいるが、他の部隊は来るのか?」

「統幕が却下ですよ」

「ファントムがヘタってきてるって言われたんだけどなぁ。どーすんだよ。ファントムのノズルが落っこちたって事故が…」

「地球連邦軍にセイバーフィッシュでももらえるか聞いてみます。あれなら今すぐに用意できるらしいですよ」

「幸い、操縦は簡単になったが、M粒子下での戦闘を仕込む必要もあるし、機種転換に一月いるなぁ」

「仕方がないですよ。部隊の増派を統幕が渋ってますから」

統合幕僚監部はウィッチ世界への増派を『防空ローテーションの維持』を理由に露骨に渋っていた。その為、黒江は配下の自衛隊の航空隊のやりくりに苦労している。機材が老朽機だからだ。

「腕がいい連中はVF-1EXに乗せちまうか。今は作戦中だし」

当時、ダイ・アナザー・デイ作戦に従事する空自の作戦機は僅か12機であった。これは2018年にF-4装備の飛行隊からF-35への機種転換が開始されており、ウィッチ世界に現用機派遣や、大規模派遣はよろしくないという政治的理由もあり、黒江が在籍経験のある部隊の一部が派遣されていたからだ。アメリカがデモンストレーションでF-22まで出し惜しみしないのとは対照的で、日本は米国から『出し惜しみしている』と揶揄されている。日本は国内事情的に大規模派遣はほぼ不可能であり、海自も一個護衛隊の派遣が精一杯、空自は現用機派遣は野党の反対で潰えている。これは東京五輪を控えてるので、自衛隊の派遣を野党が猛反対したためだが、日本連邦としての義務という語句には流石に引っ込むしかなかった。そのため、空自と海自は小規模、陸自は機甲師団から抽出した旅団規模の派遣と、作戦に従事する部隊としては、陸自が一番得をしている。陸自は第二次世界大戦型軍隊であるリベリオン相手では圧倒的優位があり、その点でも活躍が目立っていた。金鵄勲章の対象になり得る戦車乗りも出てきているが、海自は殆ど観戦要員である。(当時最新鋭の護衛艦達が派遣はされていたが、当初は一個護衛群規模が検討されていた)これは国民と政治家が戦艦や重巡などが存在する海域に護衛艦を行かせたら、99%で沈むという先入観を持っていたためで、当時の海自護衛艦隊司令部を憤慨させている。実際、第二次世界大戦のような乱戦に巻き込まれた場合の護衛艦の生存率は低いと、TVで専門家が煽った事から、海自は選抜された特別編成で艦隊編成を組まざるを得なかった。また、国民からの『向こうの大和型に負けない存在感の船を旗艦にすべし』という、海自を振り回す無茶な要求から、当時最新鋭のヘリコプター護衛艦『かが』を旗艦に添えざるを得なかった。また、政治家と背広組に押される形で、第4護衛群の通常編成ではなく、あきづき型が加えられている。これはあきづき型の効果をテストするための防衛省の思惑が絡んでいた。

「海自は実戦テストも兼ねてるのか、特別編成で送ってきましたから、4護群の司令が愚痴ってますよ。あきづき型じゃなく、本来の編成のむらさめ型で充分なのに、って」

「しかたねぇさ。日本はアメリカの空母航空隊にトラウマがある。相手がレシプロ機とは言え、いっぺんに数百機が来るから、あきづき型を増やすべきだって思ったんだろうよ。あしがらもわざわざ抽出してまで送ってきたし」

本来、第4護衛群には元から『すずつき』がいたが、わざわざ、他の護衛群から抽出してまで数が増やされており、日本のトラウマの深さが分かる。海自艦隊は日本政府の都合で特別編成になっているが、能力そのものは21世紀の第一線級だ。当時の駆逐艦や軽巡より遥かに強力な防空能力を以て、爆撃/雷撃機(ウィッチ)を寄せ付けない。それがバスターウィッチ誕生に深く関わっているのだ。ルーデルはいち早くバスターウィッチに実質的に転じ、海自と空自と連携しての敵艦の電子装備破壊に尽力している。その関係もあり、あしがらとすずつきは鋼鉄の大海獣の宴に立ち会う名誉に預かった。両艦は扶桑対リベリオン・バダン連合艦隊の凄まじい撃ち合いに立ち会い、日本へ実況中継を行っている。その中継はネット配信で、凄まじい再生数に達しつつある。なにせ、史実ではありえない艦同士の砲撃戦である。モンタナ、超大和、H級後期型。造艦技術の限界に挑むような大型艦だ。ウィッチ世界の列強諸国の首脳のコメントも載せて。特に、扶桑軍が初めて披露した超々大和型の三笠型は反響が大きかった。なにせ500m以上の超巨艦が凄まじく機敏な動きで疾駆し、45口径56cm砲を放つのだ。造船業界はこの光景に息を呑む。これは富士のデモンストレーションも兼ねており、ヒンデンブルク号に対抗するための戦艦という存在意義を見せつけるため、ヒンデンブルク号とサシで対決しているのだ。

「あ、今、ネット中継のコメント数が30万超えですよ。相手が独艦なんで、ドイツ人も喜んでるみたいです」

「まー、ビスマルクが新古なんて馬鹿にされてたし、バルト海から出られなかった水上艦隊がヒンデンブルク号を持てたら、ドイツ人も大喜びだろうさ」

「近接戦闘前提ですしね、ドイツの船」

「バルト海は天候ワリィしな」

ドイツ艦は基本的に太平洋の海軍の船と違い、近接戦闘に強い造りになっている。そのため、大和に対抗し、圧倒できる船の建艦は机上の空論と思われていた。キール運河の存在が理由だ。だが、ラ級のフリードリヒ・デア・グロッセもそうだが、なにかかしらの要因が既存のインフラを超える艦の建造を推進させる。日本のラ號とまほろばを見てもわかるように、既存のインフラでの利便性など、時として求められなくなるのだ。

「占領地での建造の世界線もあるだろうしな、あれ。ヒンデンブルクって、ナチスからすると、すごい皮肉ってる気がするけど」

「まー、一応は独の偉人ですし。グロースドイッチュラントはもう使っちゃってるから、使ったんでしょう」

「うちらが三笠や敷島を大和の次に使ったようなもんか?」

「そーいうもんですよ。大和超えの戦艦に小国の名前つけたくないでしょうし」

戦艦につけるべき名前。バダンも扶桑もそれが一番の難事であった。扶桑など、ネーミングの参考に日本の仮想戦記を持ち出すほどの難事であった。播磨の姉妹たちは越後、能登、美濃が予定されているが、その内の能登は建造枠がラ級に振替が行われた。そのため、播磨は越後、美濃、讃岐で打ち止めとなる。(能登は造船所の不手際で、一番に同型で建造が遅れていたせいもあるが)播磨、越後はダイ・アナザー・デイ時には、既に戦列に加わっていたが、5番艦とされた美濃と3番艦の能登は造船所の腕の差と不手際もあり、能登は建造が遅延し、竜骨が完成した段階でラ級へ転用される。これは造船所の機材交換タイミングの関係で休工期間が長くなってしまったためであり、担当員らはそのままラ級としての建艦にシフトしてゆく。能登は日本向けのプロパガンダ用の役目もあり、ニューレインボー・プランの艦では唯一、最初から公にされている。これはラ號を持てない日本を慰めるためでもあった。ラ號は地球連邦の軍艦にはなるが、大日本帝国海軍の軍艦としては『1952年4月28日』でその役目を終えているのだ。日本政府の防衛族はラ號の所有権を主張したが、『1952年4月28日』(講和条約発行が大日本帝国の国際法上の幕引きである)までに完成していなかった事を理由に、影山財団は日本政府の所有権を否定している。しかしながら地球連邦には献納され、その力を奮っているので、地球連邦の折衷案として、『日本連邦で議決すれば日本の国益のために運用出来る』、という希望を得る事に成功する。それは神宮寺八郎大佐が望んでいたことでもあった。それ故、『最後の帝国海軍将校』の渾名がついた(神宮寺八郎は大佐級の軍人としては一番長命で、平成末期まで長命を保ったらしい。亡くなったのは平成末期の長門が沈んだ日であったらしいが、言い伝えによれば、自ら行方を眩ませたとも。なお、大日本帝国海軍の記録によれば、兵学校は46期卒、古村啓蔵らの一期後輩であるとされる。)

「それと、地球連邦に防衛族がラ號の事で泣きついたそうですよ」

「はぁ?ラ號は地球連邦の軍艦で、戦後日本の護衛艦じゃねぇぞ?」

「それがですね、元々は日本海軍に献納されるはずの船だし、地球連邦の前身の一つの我々にも所有権はあるはずって屁理屈を」

「小学生の駄々じゃねーんだから……。で、地球連邦は?」

「一応、有償提供の一環で飲んだそうです」

地球連邦の前身はキングス・ユニオンと日本連邦の双方の連合であるので、条件付きで飲んだらしい。日本は自前で大和型を持ちたかったのだろう。地球連邦は統合戦争で失われた21世紀当時の日本のなにかかしらの技術の提供が条件に出し、日本連邦はそれを飲んだ。ラ號はそれだけの魅力と『抑止力』に溢れていたのだ。

「まぁ、キングス・ユニオンもインヴィンシブル持ってるから、お相子だな」

「でも、あれも地球連邦の支援ないと、まともな運用無理でしょ?」

「だよな。絶対、見栄だよ。正直、地球連邦としては旨みなくねーか?」

「統合戦争で失われてた技術と引き換えですからね。そのへんはなんとも…」

戦いつつ、芳佳と通信で話し込む黒江。統合戦争で失われた技術がもらえると言っても、ラ號やインヴィンシブルの運用権を認めるのは旨みが少ないように思えるが、乗組員などのレンタル費や、日本が持っていたが、統合戦争で失われた技術がもらえる事を考えればイーブンなのか?黒江と芳佳はそれで考え込むのだった。



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