外伝その188『宇宙戦艦Gヤマト』


――1945年の戦闘は21世紀日本に中継されていたが、その中継で目立っていたのは、ラ號やラー・カイラムと言った宇宙戦艦である。多くは1945年のテクノロジーではありえないものだが、ラ號は21世紀日本に確かに存在した兵器である。ラ號はそのあたりで異質なものであった――


「あれがラ號なのか…?」

「防衛大臣、アレこそがラ號の最終形態、宇宙戦艦ヤマトの准同型艦として改装されたラ號スペックVであります」

ラ號は艦橋周りはまほろば同様、原型のものからデザインそのものは変えていないが、中身は別物である。砲もアンドロメダ規格の51cmショックカノンに強化されており、当初の超大和型戦艦としての姿を数百年越しに実現した。装甲などもヤマト型と同規格の高品質の強化テクタイト板と超合金の組み合わせであり、当時のラ級では抜きん出た存在である。

「宇宙戦艦ヤマトの部材で改造したというのか?」

「正確には、ヤマトとアンドロメダの部材を使って改装したようです。そのため、砲はアンドロメダの51cmショックカノンだそうです」

「アンドロメダだと?あの白色彗星に飲み込まれた噛ませ犬の?」

「大臣、詳しいですな」

「若い頃にブームだったんだよ、ヤマト」

アンドロメダのイメージがよくわかる一言だ。実際に就役したアンドロメダも、ネームシップはその想定外の運用も祟り、よく奮戦したが、力尽きて撃沈されている。そのため、アンドロメダには『噛ませ犬』という風評被害がつきまとう。ガイアでは『条約破りの禍々しいバケモノ』と古代進などに忌み嫌われており、そのとばっちりをモロに受けているのも否めない。アースにおいては、ヤマトの影響から抜け出すため、旧アメリカ合衆国出身の科学者が中心になって、イージス艦の流れを汲む旗艦用大型戦艦として用意された経緯がある。そのため、ヤマトのスペックを超えることに執着した技術陣が20インチショックカノンを載せる設計に拡大したのが本当のところだ。最も、アースにおいては第一世代波動エンジン艦隊のフラッグシップであったので、戦略指揮戦艦という特殊なカテゴライズすらされていた。しかし、実際は土星決戦から本土決戦において矢面に立ち、儚く散っていった。ガイアの同じ姿で就役予定の前衛武装宇宙艦とは、主砲の口径や大きさそのものが違うのだ。(前衛武装宇宙艦は16インチ砲だが、アンドロメダ級は20インチ砲。パースが効いた艦影が有名なので、素人にはわからない。)アンドロメダ級は間違いなく、スペックはヤマトを超えていたことは確かだ。ガイア古代はアースのアンドロメダ級を一目見るなり、アースの真田志郎に猛抗議をしたが、波動エンジン、波動砲の原理が根本的に異なり、別世界のイスカンダルから波動砲の原理が供与された事を説明され、事の重大さに顔面蒼白になったという。また、ガイアに滞在していたサレザー系イスカンダルの『ユリーシャ・イスカンダル』はアースの波動砲が自分達の次元波動爆縮器ではなく、違う原理の『タキオン粒子波動収束砲』であることにショックを受け、数日間寝込んだとも伝わる。

「超文明はリメイク版のイスカンダルと付き合いがある反地球と付き合いがあるようですが、波動砲の原理の違いで、反地球のヤマトクルーから猛抗議されたそうです」

「オリジナル版のヤマトは波動砲にもピンピンするガトランティスを倒しても、これからは自動惑星ゴルバ、ボラー連邦の機動要塞と戦うのだぞ?何を言っているのかね、反地球のヤマトのクルーは」

「どうやら、リメイク板イスカンダルは波動砲の開発を禁じていたようで…」

「傲慢だな。オリジナル版のヤマトのあの死闘を見給え。彗星帝国のあの強大さは波動砲でも倒れなかったのだぞ」

オリジン・ヤマトを知る者は口を揃えて、『宇宙戦艦ヤマト2/さらば宇宙戦艦ヤマト愛の戦士たち』を見ろと言う。未来で実際に起こったことは双方の折衷的なものであったが、進退窮まる古代がズォーダーに敢然と啖呵を切るなど、さらば宇宙戦艦ヤマト愛の戦士たちのエッセンスが入っている。その記録映像はこの時、既にガイアに流されている。ガイアの古代自身を始めとして、アース古代が進退窮まる状況でさえ、『違うっ!!断じて違う!!宇宙は母なのだ。そこで生まれた生命は、全て平等でなければならない!それが宇宙の真理であり、宇宙の愛だっ!お前は間違っている!それでは、宇宙の自由と平和を、消してしまうものなのだ!俺たちは戦う!断固として戦うっ!!』と啖呵を切る場面に衝撃を受けた者は多い。この啖呵はズォーダーの『どうだ、わかっただろう。宇宙の絶対者は唯一人、この全能なる私なのだ。命あるものはその血の一滴まで俺のものだ。宇宙は全て我が意志のままにある。私が宇宙の法だ、宇宙の秩序だ。よって当然、地球もこの私のものだ。ムハハハハ、アハハハハハハ!!』との高笑いへの返答であり、ボロボロになったヤマトの姿も重なり、アース古代の最終回答の重さが際立つ。アースヤマトは、その出自が儚くも坊ノ岬沖海戦で散った戦艦大和であるため、ある種の悲壮感を感じさせる面があるが、この時は特に際立っていた。アース古代はこの時、現在のガイア古代より若く、また、乗組員の多くが戦死してしまった状況も手伝い、かなり追い詰められていた故の発言だが、地球の不退転の決意を示し、結果的に生存競争化し、生き残ったガトランティス人は、地球にいる捕虜とアンドロメダ星雲にいる末端のみとなったのであるが。

「大臣、官僚のおかげで、扶桑軍人にかなり不満が溜まっています。如何なされます」

「暴発させ、その上で改革するしかあるまい。扶桑への過剰な介入は我々の傲慢だよ。野党連中の愚かな行為のツケだよ。多くの扶桑軍人の地位を奪い、ウィッチを魔女狩りした。向こうのオラーシャの四散を招いたのは我が国のアナーキストの残党共だし、奴らはソ連の頃から、ろくな行為をせんよ」

ソ連をウィッチ世界で再興させようとした日本人達は自分達より技術で上である地球連邦軍によって倒されたが、オラーシャ帝国は四散し、前身のモスクワ大公国に毛が生えた程度の国へと零落した。そのため、オラーシャ新皇帝がサーニャの亡命を招いたと激怒し、サーシャを勲章と称号を剥奪して、シベリア送りにしたのも納得がいく。そのため、日本連邦は否応なしに、ウィッチ世界の太平洋からウラルの東半分に至るまでの広大な地域の安全保障を担わないとならなくなった。日本は当初、陸軍を半減して機械化を完全にする意図があったが、そうも行かなくなる。つまるところ、史実の米国役を日本連邦が演ずるしかウィッチ世界に安全をもたらす手段はない。

「ラ號は本来なら、我々のものだ。だが、サンフランシスコ講和条約までに完成されなかった以上、献納が無効化された。嘆かわしい事だ」

「終戦までに献納されなかった以上、仕方ないのでは」

「国家機関に献納される契約は1952年までは有効なはずだ。国際法上、大日本帝国は1952年まで存続している」

「かなり無茶な論法ですよ、それ」

「終戦しても、日本軍は11月までは存続していたからな。そういう理屈だ」

法律上、日本軍は1945年11月までは存続していた。その論理が通じれば、国際法上、大日本帝国は1952年のサンフランシスコ講和条約発行まで存続している。そのため、ラ號の所有権が日本政府ではなく、その後身の地球連邦にあることが悔しい防衛大臣。ラ號は書類上、大和型戦艦の四番艦とも、五番艦ともされ、一応は戦艦大和の正統な系譜に属していた。防衛大臣は宇宙戦艦ヤマトを青年期に見ていた世代なため、大和型戦艦の生き残りであるラ號には特別な思いを持っていた。その彼が喜ぶ宇宙戦艦がいる。ラ號の支援のため、30世紀の遥かなる未来から現れし、宇宙戦艦ヤマトの最終形態『グレートヤマト』である。表向きは23世紀の元祖を装っているが、外見上、初代の倍以上の大型化を成し遂げている、主砲がショックカノンではなく、パルサーカノンであるなどの違いがある。そのため、分かる者が見れば、『初代宇宙戦艦ヤマト』そのものではないことは分かる。



――戦場――

鏡面世界の外では、そのグレートヤマトが怪異の掃討を行っており、超波動砲のシステム『回帰時空砲』で以て、怪異の巣の存在をこの世から消し去っていた。30世紀の技術は、波動砲に時空制御の能力すら与えるに至った。ヤマトを超えるヤマト、それが偉大なる宇宙戦艦ヤマトと呼ばれる『グレートヤマト』だ。本来は『宇宙戦艦大ヤマト』のコアシップであるが、単独行動も可能で、その能力は23世紀の初代ヤマトの最終形態のおおよそ10倍を誇る。

「回帰時空砲、怪異の巣に命中。消滅していきます」

「コアシップでの行動訓練には丁度いい相手だった。ラ號に通達、ソビエツキー・ソユーズがそちらへ向かったと」

グレートヤマトからの通達で、モンタナの援護にソビエツキー・ソユーズが駆り出された事を知ったラ號。モンタナとの決着を急ぐものの、米軍艦艇らしい装甲の厚さで、51cm砲弾も中々決定打にはならない。これは空中で放つ故に、砲弾の命中角度が跳弾角度になったりする不確定要素が大きい。

――ラ號 艦橋――

「Gヤマトより入電!ソビエツキー・ソユーズの反応をキャッチしたと!」

「モンタナに手こずっている暇はないぞ!モンタナが見せない下部に潜り込め!」

「了解っ!」

ラ號は亜音速から遷音速の速さで、三次元戦闘を展開し、モンタナと撃ち合っていたが、モンタナの弱点に彼等は気づいていた。船としては通常なら問題にならない『船体下部』である。ラ號は上下からのプレス攻撃も想定し、構造段階で船底の強度が強化されているが、モンタナはリバティーのためのデータ収集のために仕上げられた『急ごしらえ』のラ級戦艦のために、弱点が明確にあるのだ。

「砲術長、次の接敵で決めろ!」

「味方の航空隊が惹きつけてくれてるんで、照準はばっちりです!」

「機関長、次の接敵にオーバーブーストをかけられるか?」

「最大出力、いつでもいけます!」

「よし、行くぞ!!」

ラ號はモンタナの砲撃を避け、モンタナの死角に潜り込み、そこからオーバーブーストで一気に接近、船底へ51cm砲弾をぶち込み、一撃必殺。これが神宮寺大佐の取った奇策である。そのため、モンタナもこれにはひとたまりもなく、へし折れはしなかったが、火災に包まれ、操艦不能になり、地面に擦るようにして不時着していく。その際の衝撃で、鏡面世界の市街地の何%かがなぎ倒された。モンタナはこれで撃墜され、緊急時の機能なのか、ドリルと動力の波動エンジンや重力炉ブロックが単独で離脱するのが観測され、モンタナは空っぽの船体のみが墜落したことになる。

「モンタナ、沈黙!!」

「ソビエツキー・ソユーズの襲来に備えよ!友軍に集結指令!」

ラ號はその隙に態勢の立て直しに勤しみ、友軍の航空隊をフォーメーションを組む。ラ號の51cm砲弾20発に耐えた耐弾能力は称賛に値する。元々、バイタルパートの装甲厚は大和型戦艦とほぼ同等を誇っていたからだろう。空中の三次元砲撃戦は戦闘機のドッグファイトに近いため、操舵の腕や砲術長の度胸も勝利への要素となり得る。多少の艦のスペックの優位は優勢を必ずしも約定しない事を、彼等は学んだわけである。ともあれ、これでDフォースのぶつかり合い第一ラウンドはラ號の勝利に終わった。しかし、ラ號もパワーアップをした割には苦戦したことになるが、空中での砲撃は不確定要素が多い事が判明したので、多くの戦訓を残したことになる。

「これで地上の友軍が楽になったか…」

神宮寺大佐はほっと胸を撫で下ろす。黒江達は死闘を演じているが、その補助になったと。









――こちらは立花響。ガングニールの復元はされたものの、精神的意味での療養が必要とされ、まだ前線復帰の許可は出ていなかった。そんな中、調の迸る闘気と、真なるシュルシャガナの映像に衝撃を隠し切れなかった――

「あれが調ちゃんの持つシュルシャガナの本当の力……、万海を灼く炎剣……」

バルムンク、エクスカリバー、デュランダル、ジョワユーズ、シュルシャガナ。聖遺物そのものの力が容易く奮われることに驚きがあり、また、シュルシャガナが『鋸』ではなく、本来の炎剣になったことに関しては、切歌がシュルシャガナの鋸を調と自分の絆の象徴のように思っていた事を知る故に、哀しげな表情であった。

「響さん」

「調ちゃんは、切歌ちゃんのことは確かに思ってるよ。だけど、今までと何かを変えたと思うんだ」

「何かを、デスカ?」

「うん。そうでないと、切歌ちゃんとの絆の象徴だった鋸の形をこうも簡単に捨てるはずないから」

「いえ、それは違うわよ、立花響」

「何者デスカ、貴方は!」

「黒江さんの部下で、クロエ・フォン・アインツベルン。ドイツ軍の中尉よ」

「なんデス、その格好は」

「貴方達の力と似たような状態って言っておくわ。この場で説明は無理だもの」


クロは戦闘時の『アーチャー』クラスの『誰か』の格好で響と切歌の前に現れた。ルッキーニが素体とは思えないほどに落ち着いた態度でありつつも、どことなく小悪魔的かつ、狡猾でドSであるなど、元がルッキーニである面影が殆ど無い。更に言えば、更識楯無をも思わせる、飄々とした態度でもある。

「貴方は知ってるの?調ちゃんのあの力を」

「あれがシュルシャガナの真名だもの。『万海灼き払う暁の地平』。神話の神が持った剣の一つにして、かの英雄王、ギルガメッシュのコレクション。エクスカリバーやバルムンクには及ばないけど、対軍宝具よ」

「宝具…?」

「黒江さんから聞いてないの?人間の幻想を骨子に作り上げられた概念兵装。貴方のガングニールもその内の一つになる。哲学兵装での干渉は不可能、貴方達の力がエクスカリバーやゲイ・ボルグに通じなかったり、因果を捻じ曲げるので精一杯だった理由はそこにあるわ。暁切歌、貴方のイガリマも鎌が本質ではないわ。イガリマは『千山斬り拓く翠の地平』って真名がある斬山剣。その力に気づくことこそが、調との友情を取り戻せる一助になるってことは忠告しておくわ」

「千山斬り拓く翠の地平……!?それが、それが、イガリマの本当の名であり、力なのデスカ…?」

「そうよ。あ、立花響。貴方についてはなんとも言えないわ。ロンギヌスと存在が混じり合ったようで、黒江さんもその力を読みかねていたもの。他世界ではロンギヌスとも、ガングニールともつかないから、元の世界での絶対性は発揮できないっていうのも、おそらく、元の世界での哲学兵装化が原因でしょうね」

ガングニールはシンフォギア世界では事実上の無敵に近いが、他世界ではロンギヌスと混じり合ったおかげで、双方ともつかない力と認識されるためか、元の世界での無敵さは封じられているとの推測を話すクロ。響はガイちゃんの天地乖離す開闢の星を目の当たりにした後なので、元の世界でどんな時も奇跡を起こしてきたはずのガングニールが、いくら聖遺物の位に勝るとは言え、天地乖離す開闢の星の威力を押し返すどころか、一瞬でシンフォギアそのものを部分的にとは言え、破壊されたことにショックを隠せないことをクロに言った。

「あれは約束された勝利の剣すらも真っ向からねじ伏せる、世界を切り開いた原初の剣よ。貴方が生き延びられたのは奇跡よ。本当なら半死半生間違いなしの因果律操作力だもの。ガングニールに感謝しなさい?」

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)……。それがあの子と綾香さんが持つ最強の剣なんですか?」

「ええ。アレを防ぐには、同等の位の聖遺物か、この世で一番硬い超合金を使うしかないわ」

「物理的強度で防げるんデスカ?イガリマもガングニールも弾くような聖遺物の攻撃を」

「あるわ。その名も超合金ニューZα。光のエネルギーを持つこの合金なら、物理的に耐えられる」

天地乖離す開闢の星すら、マジンカイザーの超合金ニューZαは破壊できない。それはGカイザーのそれと違い、オリジナルのマジンカイザーは超合金ニューZαは自己進化を起こせる代物であり、改良を施せば、ZEROと戦えるポテンシャルを秘める。そのため、物理的に破壊するのは、因果律に干渉しなければ困難であるはずだが、ゲッター線が介在している進化かつ、自己の意志を持つと、自己進化で因果律すらねじ伏せるため、エヌマ・エリシュにすら耐えきる。それが神を超え、悪魔を倒すという魔神皇帝のポリシーであるのだろう。

「超合金ニューZα……」

「神を超え、悪魔を倒す。究極の魔神達が持つこの世最高の盾よ。それに身を包む機械仕掛けの神を貴方達は見たはずよ」

「グレート…マジンカイザー……」

「それは『紛い物』と悪の魔神は評したけど、偉大な皇ではあるわ。あれはその存在の一端でしかないわ。その上を行く『偉大なる魔神皇帝』……マジンエンペラーGが控えているもの」

「偉大なる魔神……」

「皇帝デスカ…!?」

「そう。それこそグレートマジンカイザーを超える存在、グレートマジンガーの正統な後継者よ」

マジンエンペラーG。その存在を示唆するクロ。偉大なる魔神皇帝。魔神皇帝の中でも、ZEROと渡り合い、倒せる力を持つ、最高位に位置する存在だと。クロの言は響と切歌に衝撃を与えた。Gカイザーを超える存在がいるなど。機械仕掛けの神を作れるほど、純粋科学はその次元に到れるのかと。元々、先史文明の遺産を先史文明の知識と現代の技術で再構築したのがシンフォギアなので、ロボット工学が異常に発達すれば、あのような兵器は造れるのだろう。だが、次元すら揺るがす最強のソルジャーを人が異端技術を用い得ない科学知識で作り上げられるのか?その疑問が渦巻きつつも、Gカイザーの武器の威力を思い出す二人であった。



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