外伝その189『大空中戦10』
――扶桑海軍が日本連邦化で苦しんでいたのは、大和型戦艦に抱かれている『無敵』、『最終兵器』、『不沈戦艦』の幻想であった。史実の最期はまったくの予想外かつ想定外の運用であり、用兵側に文句を言いたいのは彼等のほうだった。しかし、日本の戦艦に必要な条件は『キロトン級の核兵器に耐える』というのが条件だった。要するに、核攻撃に耐え、それに匹敵する単位面積あたりの破壊力の砲を要求する、空母のために、戦艦の廃止を進めるための要求であった。そのために、扶桑は23世紀技術を入れまくる事でその要求を実現させ、戦艦の維持を納得させた。野党や財務省は扶桑がオーバーテクノロジーで大和型戦艦を強化してくる事自体、想定外だった。戦艦の維持費を空母調達に使う構想があったからだ。――
――日本 2019年の国会――
「扶桑は何故、戦艦などという時代遅れの代物を維持しようとしているのか?」
「彼等の世界に現れる害獣には、古典的ではありますが、砲弾が最も効果的なのです。視界外交戦能力が存在しない時代に、現在のミサイル前提の考えを突きつけるのは傲慢であります。だいいち、彼等は第一世代デジタルコンピュータの自己製造すら覚束無いのですよ」
ウィッチ世界はウィッチが跳梁跋扈していた事もあり、通常兵器の発達が遅れていた。船こそ、レイブンズのリークでなんとか史実通りになったが、航空兵器や装甲戦闘車両の進歩は扶桑とカールスラントが一番に進んでいた。ティターンズが困ったのも、ウィッチ閥の妨害であるように、各国ウィッチは潜水艦は自分達の隠密輸送艦、空母も自分達を運ぶ船としか見ていない。それを23世紀地球連邦は圧倒的科学力で強引に改革を進めているにすぎない。Gウィッチは自分達がその驚異を一番良く知っているため、ダイ・アナザー・デイで結果的に参謀も兼ねているように、ウィッチ世界の世界の摂理そのものがGウィッチにとっては邪魔なのだ。Gウィッチは経験上、『極限まで発達した科学や練り上げた人の力は、ウィッチの才をねじ伏せる』事を良く理解している。怪力ウィッチも『極限に鍛え上げた人間には及ばない』。流竜馬、一文字號、はたまたガンダムファイター、聖闘士がその事を証明している。また、反応速度でも強化人間には及ばず、強化人間の抜き撃ちで始末されたウィッチも多い。その事もあり、一時に蔓延ったウィッチ万能論は鳴りを潜めつつあった。
「現地でのウィッチ万能論は我が国の兵器や、素でウィッチより優れた人間達によって覆されつつある。そんな存在に多額の予算は必要ないのでは?」
「現地での信仰や雇用を鑑みての決定です。居場所を作ってやらなければ、中世の魔女狩りが再来しますよ?オラーシャではそうなった」
「あれはあそこが未開で野蛮だからだ」
「人は毛色の異なる者をとかく排除しようとします。貴方方もそうです。ウィッチを軍から完全に排除しようとしている」
「排除ではない、社会復帰を支援しろと言っているのです」
「オラーシャで起こったのは、大量殺戮だ。中世の魔女狩りとソ連の大粛清が煽動された民衆の手で引き起こされたのですよ?犠牲になったのは、大粛清と魔女狩り、独ソ戦の損害を合わせたような人数です。オラーシャ帝国は前身時代の領域すら維持も覚束無いような国にたった数週間で零落したのですよ?しかもウクライナに海軍主力を持っていかれている。その最大の犠牲になったのはウィッチだ。同国のウィッチ部隊は見る影もなく衰退し、たった数百人がオラーシャの二軍で残存しているウィッチなのですよ?元は2000人を超えていたのに、ですぞ!」
オラーシャは航空・陸戦ウィッチを2000人以上抱えていたが、ソ連の再興を夢見た、とある日本人のアナーキストが煽動し、革命を引き起こしたため、鎮圧後もウィッチ資源は重要供給源のウクライナを始めとした地域の分離により、資源が四散。気づいた時には、サーニャさえ失う羽目になった。そこも新皇帝の逆鱗に触れたサーシャが全ての名誉剥奪の後にシベリア送りにされたのもうなずける。
「我が国はウィッチ世界のウラルの東半分から太平洋までの広大な領域の安全保障を担わなくてはならないのですよ!必要とされる陸軍の人数は700万を超えます」
防衛大臣の答弁の言う通り、太平洋戦争の予備兵力確保の意味もあるが、オラーシャの分も軍拡しなければ、とても広大な領域の安全保障は覚束無いと。これは中国や朝鮮相当の国が既に滅び、オラーシャの衰弱が招いた予想外の現実だった。
「各国にも協力を仰ぎ、インドやネパールなどに旧型兵器を供与しようとしたら、貴方方が反対した!」
「あの法案はそのための……」
「確かに対米戦には役に立たぬかもしれませんが、インドやネパールにとっては重要な戦力になり得たのですぞ!」
この時から太平洋戦争に至るまで、お役所仕事で旧型兵器を自衛隊兵器への統一を名目に廃棄していった事が、開戦後の駒不足と数年の塹壕戦に繋がってしまう。数年後に問題になったのが『チトとチリの廃棄』で、窮した日本側がチト改を造る羽目になるのだ。黒江が後に愚痴るが、主砲を日本側の設計陣が75ミリから90ミリに変えていた事も扶桑を混乱させた。その事が判明した後、黒江は扶桑軍の担当者の要請で、日本の三菱重工業に飛んだが、三菱重工業側は『すぐ使い物にならなくなるのは、こちらとしても採算がとれんのです』と回答されたという。実際、三菱重工業としても、75ミリ砲は近い内に90ミリ砲に取って代わられるのは分かっているため、現場の設計陣が90ミリ砲を選んだのだ。その際に黒江は『武器庫に在庫の山の75ミリ砲弾を処理するの作ってくれよ』と愚痴り、その兵器がバスターウィッチ用の破砕砲である。一応、61式相当の五式改とは共通規格にされてはいたが、その頃には七式中戦車の完成が近いため、機動戦闘車の砲を提供するよう、日本製鋼所に要請するのだった。
「し、しかし、インドはイギリスのバックアップがあるではないか!タイは独立……」
「アユタヤは我が国の庇護がなければ、すぐに消えますぞ!」
ウィッチ世界のアジアはオラーシャが完全に四散した後は、事実上、扶桑しか列強がいない。アユタヤは脆弱であり、ネパールも事実上はブリタニアの属国なので、扶桑はウィッチ世界の安全保障を担わなくてはならないのだ。
「では、それでは何故、海援隊の装備が骨董品ばかりなのだ!」
「当時の感覚ではそれほど型落ちというわけでもありませんが…」
海援隊はちょうど、日露戦争の頃の装備に代わり、1920年代から30年代前半水準の装備に入れ替えが終わっていたのだが、海保長官が数年後に問題を起こしたのが事実上の問題提起となり、海援隊は事実上の国営組織に移行する。装備のさらなる更新に莫大な費用がかかる上、年式的にレーダー装備の増設に向いていないモノも多かったため、自衛隊の護衛艦の払い下げが行われるのだが、海自にガスタービンなどの研修に大勢を派遣する必要が生じたからだ。組織そのものを連邦軍に編入するにあたり、先代の三笠は記念艦化のため、タービン機関から元のレシプロ機関に戻す案が真剣に検討されたが、これは海援隊からの抗議で立ち消える。そのため、床のチーク材が次代の三笠の提督室に移植されるに留まったという。(これは海援隊が先代の才谷美紀の指揮下にあった頃、浮揚後にエンジンを当時最新のタービン機関へ換装していたからで、日本側は往時の走る三笠を求めていたので、これで喧嘩になった。見かねた才谷美沙子は三笠の記念艦化と引き換えに、自衛隊で除籍した護衛艦を要求したという)また、三笠は再度の改修がされた後であり、その費用を回収出来ない内に記念艦にするのはあんまりであるが、対空戦に前弩級は向かないため、結局、自衛隊の護衛艦がいくつか流れたという。
「では、どうなされるのです。民間軍事会社ですので、海保への編入は無理ですよ」
「海自に吸収させればいい」
「MATで相当に無茶しているのですよ?それに海保は既に接触して、断われております」
「海自は?」
「海自に編入するには、株式取得に莫大な予算がいります。ですので、連邦軍に直接編入したほうが安上がりです」
この答弁からの準備期間は、海保には極秘であったため、交代した海保長官が問題を引き起こし、また長官が変わることになる海保。その長官が口論になった挙句の果てに、豊田副武をなんと、コースクリューパンチでぶん殴って病院送りにしてしまったことに衝撃を受けた海軍が商船護衛に本格的に関わることになった事もあり、海援隊の存在意義が問われてしまう。(連邦軍への編入でなんとか面目は保った)海保にとっては『悪夢』と言われる暗黒時代は彼の更迭で終わりを告げるものの、政治的立場を大きく損ねたため、部内でも彼のことはタブーとされるのだった。また、海軍のウィッチ含めた予備役確保のついでにというのが彼の逆鱗に触れたため、結局、海援隊はその主任務が明確に商船護衛とされたため、空母機動部隊の編成に追われることになる。また、はた迷惑だが。豊田副武はこの殴打事件の結果、『死に場所を求める』ようになってしまい、扶桑海軍は心療内科の強化に多額の予算を費やすことになる。このダイ・アナザー・デイ当時の時点で、参謀の多くが心療内科にかかるほどの状況であり、海軍の現場は源田実や小園などが回している危機的状況であった。また、日本で問題視されているが、日本軍の元・一兵卒などが『将校は温室で駒を動かすみたいにしか兵隊を使い捨てる方法しか練ってなかった!』と批判するため、江藤のみならず、実は北郷も前線に駆り出されており、『将校』、『参謀』の職域がかなり曖昧になってしまっている。そのため、参謀という職はあってないも同然であり、自衛隊の幹部自衛官が『作戦会議が開けない』と愚痴るほどだ。そのため、佐官や将官、参謀が最前線で戦うことを歓迎する一般人、それをどうにかして諌めようとする自衛隊幕僚に分かれていた。日本軍の『頭でっかち堅物エリート』のイメージがあるため、江藤や北郷は現場出身であることで重宝されているが、やっている事は現場にいた頃と同じである。権限が増えて飾緒がついただけと江藤も北郷も自嘲している。
「貴方達がもたらしたのは、扶桑の参謀を心療内科にかからせ、若い参謀を前線送りにしただけだ。扶桑軍を機能不全にしたいのですか?」
「いいではないか。数百万もいるのなら、参謀の10人や20人」
これである。ほとんど、ただの怨念返しである。実際、北郷も江藤も、やっていることは一戦士と変わらない仕事をしており、階級に見合わないと愚痴っている。もっとも、黒江は好んで前線にいるが。この国会の様子はもちろん、当の日本国内でも問題視されている。参謀や将校の職を理解していないと批判が起こったのだ。日中戦争の生き残りの元兵士の批判がそのまま扶桑に当てはめられた悲劇もあるが、現場はほとんど、一握りのGウィッチが回しているに等しかったからである。これがGウィッチと通常ウィッチの対立の要因にもなってしまう。Gウィッチは文字通りの血みどろの戦を自らの血と汗と涙で購ったが、通常ウィッチは自らの存在理由をロートルに汚されたと反発したからだ。
「ウィッチも同じです。これから、前線で戦った者とそうでないもので対立が生じます。その対立が暴発した場合、誰が責任を取るのですか?」
防衛大臣の言う通り、ウィッチ間の対立はクーデターに至り、Gウィッチ依存に等しい組織へと扶桑ウィッチ部門を変えてしまう。本来はGウィッチを中核にし、現場ウィッチを上手く使おうとしたが、クーデターを理由にした粛清人事が依存傾向を決定的にしてしまう。Gウィッチ達の戦線から逃れられない道はこの時点で決定づけられていた。つまり新陳代謝の停滞と戦争により、新世代が育つのを待てる状況ではないのも、Gウィッチの悲哀と言えた。
「今後、黒江統括官らに今より強大な権限が与えられても、文句は言わんでください。扶桑のウィッチ組織はもはや彼女たち頼りなのですから」
「あの若造らに何ができるというのか?まぁ、せいぜい楽しみにしておきます」
防衛大臣の言う通り、黒江達は作戦中、防衛省のミスの尻拭いを押し付けられた上、怪人軍団との血みどろの戦闘を行っている。その戦闘の模様は扶桑皇室にも伝わっており、『全員に功一等を与えるべきかな、侍従長?』と陛下は述べている。それほどの死闘であったからだ。日本でも瑞宝章受賞は確定しており、金鵄勲章の戦時授与が見送られる方向になったため、その代替物が扶桑の瑞宝章だった。実際、金鵄勲章の存続は日本連邦になるまでの最大の懸案の一つで、年金も勲章も維持するが、戦時の正式な終了前に授与するという妥協案が採用された。これは本来の戦時における軍人叙勲が存在意義である事が戦後日本には理解されなかったが、他国の十字勲章との釣り合い取りで認められた。そのため、陸軍、それと新設の空軍は武功章の増設と新設と二階級特進で対処したが、海軍は部内の相克で後追いになってしまう。その事も海軍を苦しめる羽目となる。海軍のウィッチは元々、レイブンズの台頭以後、クロウズ亡き後は苦しい立場であった。宮藤芳佳の台頭はあったが、政治的にここのところ劣位にあり、幹部たちのサイレントネイビーの伝統を打破しようとする勢力がウィッチに蔓延っていた。空軍での主導権争いは、レイブンズの移籍という事実で事実上の敗北であると捉えた者が多く、そこも武子や竹井の誤算であった。つまり、数に勝る自分達が主導権を取れるとの思い込みが、海軍航空隊の主導権確立を阻止しようとした日本の介入で打ち砕かれたのがそもそものクーデターの理由の一端である。つまりは驕りだ。(アメリカ軍が均等配置を助言はしたが、日本側に海軍航空への忌避感があるため、結局は現場の幹部は陸軍主体になった。結局、特攻のイメージにより、海軍航空は空軍の主導権を握るに至らず、司令官の多くが海軍出身という形での配置に留まる)。空自は『司令官の多くは海軍で、源田さんだって海軍やん』と露骨な派閥抗争に呆れている。64Fの大まかな組織母体も343空である点を挙げ、事実上、勝ってるだろと言うのだ。(最も、64F第一中隊が343空から引き継いだ『新選組』の名は陸軍では47Fのものだったため、空軍でも存続した同隊が苦情を入れたが、『新選組は343空を引き継いだ64のものだ。お前らはかわせみ部隊だろ?』という事で決着し、新選組はそのまま64の第一中隊を指す単語として定着した。これは知名度の差もあり、新選組の名を343空の後身である64が持つほうが、日本へのプロパガンダ的に都合が良かったからだ。)343空も離脱者が生じたため、それも陣容がかつての復活になった要因である。つまり反G閥はその反発により、敵を利する結果を呼んでしまったわけである。そこからの粛清人事の徹底が反G閥の息の根を止めることになったのも皮肉なものであった。
――反G閥は戦場のリアルタイム中継という誤算により、クーデター前にして、早くも大義名分を半ば失った。黒江達が血で血を洗うような凄惨な死闘を展開したことが決定的であったのだ。日本が東京・大阪・名古屋・京都・新京に街頭TVを設置したのが効いたのだ。当時、扶桑は戦時という事で、TV放送の開始は先延ばしにされていたが、1948年に遅延していた東京オリンピック(扶桑では開催を放棄しろという声が出たが、反対派が鬼の首を取ったように日本側に叩かれ、将軍や高級官僚の首が飛んだため、開催が結局決まった)に向けてという名目で整備された。扶桑の人々はオリンピックというものを『上流階級の道楽』と見ており、その認識の違いで悲劇を生んだと言える。また、オリンピック参加にウィッチ世界の国々は消極的だったが、多くは同位国の圧力で参加を決定した。扶桑軍部は戦争中に余裕があるかと反対したが、反対した将軍や参謀の懲戒免職処分での圧力に怯え、レイブンズの提言もあり、45年夏には協力的に変わっていた。また、当時はアスリートと言える水準の能力の選手の多くは軍籍を持っており、そこも陸軍に強烈な圧力(兵器の廃棄、将軍や参謀の追放)が加えられた理由だ。これは史実の中止理由が陸軍の反対に根ざしていたからで、陸軍は日本主導で首根っこを押さえるように圧力が加えられた。金鵄勲章の廃止も圧力として使われた。また、昭和天皇が日本の今上天皇の説得を受けた事による勅が下った事もあり、陸軍は従った。そのため、オリンピックを名目にした軍幹部の再教育が行われたとも言える。この一環に組み込まれたのが、開明的な若手軍人と見なされたレイブンズの准将着任であった。実際、レイブンズはあらゆるフィールドで当時としては革新的なドクトリンを説き、黒江は幹部自衛官としての籍を持つ。陸ではエアランド・バトルを、海では潜水艦隊の活用と空母機動部隊の攻撃的集中運用、空ではネットワークによる空戦。いずれも1990年代までに実効性が証明されたドクトリンであるが、ウィッチ世界では、空母機動部隊の集中運用すら反対論があったほど、遅れていたので『革新的』と扶桑の部内で言われていたのだ。黒江の場合、防大同期が2010年代には護衛艦艦長に登りつめていたりしたし、自分も事実上の海軍である地球連邦宇宙軍に籍を置いているため、海軍艦艇の運用ドクトリンを勉強してきている。源田の子飼いと見なされているが、のび太となのはの影響で艦艇プラモ作りに精を出す趣味を持ったので、意外にも『戦艦は男のロマンだぜ!』とドヤ顔で言っちゃうほどで、そこも海軍の運用ドクトリンに一家言を持つ本当の理由である。
「防大の同期が言ってたけど、航空機で魚雷30本程度、爆弾40t以上を一度の空襲で叩きつける能力とその護衛戦闘機隊が一個航空団に求められる最低限の能力だ。雲龍じゃそれは出来ねぇ」
と、雲龍型には辛辣なコメントを出している。もちろん、これは後で艦娘の葛城に猛抗議を食らうはめになるが。その際に、葛城はなんと偶然にも、暁切歌や武部沙織と声が似ており、黒江はその偶然に苦笑いであったが、虫の居所が悪く、『じゃかましい!このでっかい駆逐艦!』と言って葛城を泣かせてしまったという。実際、実艦としての雲龍型の本来の存在意義は『戦時急増の戦時空母』で、そもそも長期運用など考えていなかった。そのため、造船技師も『戦時急増だから、飛龍の原案を流用したのに、お役所仕事の役立たずとか言わないで!』と号泣したという。これは蒼龍型と翔鶴型は同型艦として、史実での翔鶴の図面で作られたが、日本側が翔鶴と瑞鶴を独立させ、同型艦がない大鳳を翔鶴型に組み込むなどの種別変更を推進させた事で、『ジェット空母にできそうなのが三隻しかないやん!』と防衛省を悩ませたことにある。造船業界は『海軍が飛龍の原案流用でいいから作ってよって言うから、急いで作ったのに』と苦情を入れたほどである。そのため、海軍もまさか零式から紫電改と烈風に戦闘機が更新され、更にジェット機が控えているようなことになるとは夢にも思わず、雲龍で運用を目論んだ橘花の開発中止は『夕立にあった気分だ』と艦政本部長を悩ませた。そのため、場しのぎに未来から空母を買う方法が取られたのだ。雲龍は設計時の新型である零式、天山、彗星の運用は考慮されていたものの、それを遥かに超える航空機の進歩は艦そのものを陳腐化させてしまったのだ。そのため、当時既に10数隻が就役済みの雲龍は『エセックス以下の鉄屑を何故無駄に…』と謗られている。当時の水準ではれっきとした正規空母の規模だが、かがといずもよりも小さい船体、同世代にエセックス級がいた事が雲龍の不幸だった。そのため、21番から27番に使用予定の鋼材は八八艦隊竜骨流用の50000トン級に回され、竣工間近の末期艦は空母と見なされない有様であったという。自衛隊や一部の識者からは『雲龍型を何でエセックス級と比べてるんだか、ポジションとしたらインディペンデンス級と同格じゃない?』というヒステリックな批判への批判が飛んだ。艦政本部も状況が許せば『大鳳型二番艦や改大鳳型を用意する手筈だったのに!』と記者会見で釈明した。
「雲龍はインディペンデンスの位置づけにある戦時急増空母であり、我々は大鳳を増産する予定だったのでずぞ!」
「ガソリンタンクに魚雷一発が当たっただけで真っ二つになったボロ空母だろう!」
実際、大鳳はガソリンタンクが破損し、気化したガソリンに火花が引火し、換気能力の低さも重なった末に真っ二つになって轟沈したので、ボロ空母との誹りを受けてしまう。それは艦政本部の技師たちには辛い罵倒であり、最善と信じた方法が後世の歴史にあっさり否定された。その悔しさは大和型戦艦以来、味わってきた屈辱である。艦政本部は新技術の導入に躍起になっていたが、大鳳の同型艦追加が流れた事もあり、未来空母の購入で済まされることに危惧している技師も多い。それを鎮めるのが88艦隊の遺産を使う空母なのだ。
「我々の持てる技術での最善を目指したのですよ!」
「トーペックス400kg炸薬の魚雷を防げない癖に」
「それではどうしようというのか!」
「トーペックスも防げないくせに、装甲空母とはお笑い草だ」
まさにああ言えばこう言う、であった。既存扶桑艦艇が異常に頑丈になる改装を受けたのは、太平洋戦争敗戦の幻影が彼等を苦しめたからだ。そのため、大鳳と翔鶴、瑞鶴は大幅に艦影が変わり、アングルド・デッキ装備、翔鶴と瑞鶴も大鳳に準じた姿になったため、就役時の面影がない。
「あー、自衛隊の艦艇でヤマトの主砲弾に耐えられるのあったっけ? ガンダムのビームライフルで蒸発しちゃうレベルの艦しか無かったんじゃないっけ?」
と、痛快な一言をオブザーバーとして同席した地球連邦軍将校(少将)が言ってくれ、胸がすく思いをしたとは、関係者の談。実際、地球連邦軍の存在は『超文明の国軍』という形で明らかにされていた。ガンダムやマジンガー、ゲッターが本当に実現することは、2020年ほどの技術水準からすれば夢物語だからだ。2020年はまだマクロスが南アタリア島に落っこちてくる遥か前であり、ドラえもん関連技術もまだ基礎研究から一部が抜けた段階だ。その技術水準では、当然、それなりのものしか作れない。23世紀の記録によれば、2019年は御坂美琴らの時代も終わって久しく、学園都市が勢いを失い始めていた年である。そのため、学園都市からかなり技術が流れ、この年から急速に技術水準が加速してゆくことになる。それはそれまでの時代に、上条当麻、そして、Gウィッチ化した御坂美琴が学園都市そのものを潰す勢いで事を起こし、最終的に彼等が何らかの形で勝利した事による出来事とも言える。美琴はグンドュラ・ラルと半ば同調することで、上条当麻と並び立てたため、自我にラルの要素が入り込んでいる。そのためか、はったりもかなり入っているが、ラルの口調を真似られるようになっている。美琴はその恩恵とラルの記憶で、かなり口も上手くなっており、麦野沈利を容易く自滅させている。そのため、ラルの口調を真似して、窮地を脱したり、その大人びたハスキーボイスを活かし、魔術関係者と口八丁で渡り合う事もあったという。反対に、ラルがファンシーグッズをハルトマンに買いに行かせたり、黒子の声を聴くと、ゾワッとするなど、元来の美琴の特徴が伝染っていたのである。ハルトマンは『感応の効果だね、こりゃ』とため息であるが。(ちなみにラルは美琴の声で『バラしたらコロスわよ?』と脅している)美琴にとっては、ラルのウィッチとしての強大な力が、ラルにとっては対軍級の超能力がメリットとなった。(美琴にとって、本来は魔法は能力と相容れないはずだが、魔術との原理の違いで両立に成功した)そのため、2019年の時間軸では、美琴は学園都市のためではなく、学園都市に利用された人々の無念を晴らすために滞在していた。当時には学園都市の権限は縮小され、独自の軍事力も技術が組織へ流れる事を危惧したヒーロー達の介入で殲滅されており、まさに指導者を失った哀れな団体の様相だった。それまでに生み出された能力者を収めるための箱庭としてしか、その存在意義は認められていないというのが、2019年の学園都市だった。その隙を利用し、ヒーロー達が自らの拠点として乗っ取りを敢行、銀河連邦警察の介入もあり、宇宙刑事ギャバンは学園都市の行政局長に栄転した。同時にヒーロー達の支援者の資本が入り、歴代仮面ライダーやスーパー戦隊の拠点都市として姿を変えた。文科省の外局傘下とされたが、実際は地球平和守備隊の傘下であり、完全に乗っ取りを成功させた。調の学園都市への監視任務が解かれたのは、それが成った2019年4月のことだ。
――怪人軍団との死闘は続いているが、響と切歌に会っていたクロ(クロエ・フォン・アインツベルン)は、戦闘時のアーチャーの服装で現れ、響にマジンエンペラーGの存在を示唆していた――
「マジンエンペラーG……」
「そそ。偉大なる魔神皇帝、偉大な皇を超える者。色々と箔がついた機械仕掛けの神よ。Gカイザーの威力は見たでしょう?それをも更に超えるスーパーロボットよ」
「スーパーロボットって、いったいなんなのデス!あれだけ聖遺物がバーゲンセールなのに、それより凄いモノなのデスカ!?」
「人の意志が科学を鎧に顕現した神威の姿だよ。これを見て」
『ストナァァァサァァンシャイィン!!』
一文字號の真ゲッター1がストナーサンシャインを放つ映像だ。もちろんリアルタイム中継だ。ティターンズの築いた前線拠点を丸ごと吹き飛ばす。地形を変える勢いの大技であり、真ゲッターロボの悪魔を思わせる翼とハルバード(ゲッタートマホーク)もあり、ものすごい迫力だ。
「スーパーロボット以外にも、こういうのもあるわよ」
部屋にあるリモコンで映像を切り替える。今度はZガンダムのバイオセンサーが発動し、ビームを弾くわ、オーラで機体が覆われるなどの超常現象起こしまくりの映像で、Zガンダムは強力なニュータイプが搭乗すれば、超常現象を起こせるマシーンなのだ。
「あの、何、これ」
「何って、普通にZガンダムだけど」
「いやいやいや!なんでロボットがシンフォギアよろしく、オーラ出してるの!?」
「人の意思を表現できるマシーンだそうだし、このくらいはお茶の子さいさいよ?」
「何気におっそろしい事言ってるデスヨ、この人!」
クロは普通に落ち着いているが、Zのバイオセンサー発動はものすごい光景ではある。
「これで驚いてたら、これなんて腰抜かしナンバーワンよ?」
次の映像はエイラが持ち出したユニコーンガンダム三号機こと、フェネクスのデストロイモードへの変身だった。フレームがまたたく間に展開し、頭部が割れてガンダムフェイスになるのは、『変身』そのものだ。しかもイリヤ(サーニャ)への愛の力か、サイコ・フィールドで攻撃を弾き、搭乗型ロボットとしてはありえない速さでの機動を見せた。
「エイラったら、気合入ってるわね〜」
クロは乗っているエイラがイリヤへの愛でフェネクスを御したことに苦笑しつつ、フェネクスの高いポテンシャルに目を見張る。元々、アナハイム社の重役婦人『マーサ・ビスト・カーバイン』いわく、『軍のつまらない意地で作ったガンダム』だそうだが、多くの世界でアナハイム社は小型MSに乗り遅れた事で斜陽を迎えていくため、皮肉な状況である。
「なんですか、あの動き!?」
「まるで瞬間移動してるみたいデス!?」
ユニコーンガンダムはフルサイコフレーム機だ。それはフェネクスも例外ではない。20m級機動兵器としては破格の機動性を誇る。ユニコーンガンダム系の超機動を響と切歌は目の当たりにした。フェネクスの高機動戦闘は元々、ニュータイプの素養があったエイラのセンスの高さの証明であり、イリヤ(サーニャ)への愛が為せる業である。そのため、美遊(リーネ)とパートナーの座をかけて争うと公言しだしている。イリヤは『い、今はサーニャじゃないしぃ〜…』と明言を避けているが、なんとも面白い状況とは、圭子の談。エイラはサーニャの事をパートナーと思っているが、サーニャはイリヤスフィール・フォン・アインツベルンとして生きる道を選んでしまった事、リーネが美遊・エーデルフェルトになった事が最大の誤算であった。エイラはその鬱憤晴らしも兼ね、フェネクスで暴れていたりする。
(は〜ん。エイラのやつ、イリヤの事で鬱憤溜まってるわね?あの子は美遊がパートナーみたいなものだし、こじれるかもね)
楽しんでいるクロ。イリヤは美遊と親友だが、元の姿での人間関係に実は悩んでいたりする。それはエイラ・イルマタル・ユーティライネンとの関係で、自分がイリヤスフィール・フォン・アインツベルンになった理由は知っているが、美遊と仲良くしている様子にやきもちを焼いている事をクロは知っていた。また、エイラは『ロマーニャ人のお前がなんで、カールスラントの爵位もてんだぁ!?』と、クロにも当たり散らすなど、苛ついた様子を見せている。その様子は中継されているため、イリヤは相当に恥ずかしい思いをしていたりする。エイラはその鬱憤晴らしをフェネクスでしているため、接近戦を行っているが、相当に雑である。クロはその状況を楽しみつつ、響と切歌を導く役目を果たすのだった。
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