外伝その190『大空中戦11』


――地球連邦軍はモンタナの撃沈に成功した。ラ號が下方からの主砲を放ち、そこから引火してコントロールを失っての墜落でもあった。モンタナの撃沈の要因は51cm砲弾によるモンタナの船底にあった動力伝達機構の破壊と、コントロール装置の破壊で、空中戦を行うことを考えていない配置であったのが仇となった――



――撃沈し、墜落したモンタナ――

地面にこするようにして墜落したモンタナ。ドリルと動力の回収機構の作動でそれらが無くなり、艦首が切り落とされたような姿た以外は海に浮かぶモンタナそのものの姿であった。その調査を行うよう、リベリオン陸軍連隊を撃滅した後の風鳴翼、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、美遊・エーデルフェルトは黒江より指令を受け、モンタナが墜落した現場を訪れた。

「これが、敵の空中戦艦の残骸なのか…?」

「海に浮かぶ戦艦そのものじゃない……これ」

「敵がドリルと動力を回収したそうなんで、まるっきりモンタナ級戦艦ですよ。あちこち穴だらけですが」

「艦首が無くなっているのはそのためか?」

「ええ。そもそも40cm砲対応防御で51cm砲を防ごうというのが間違ってますが」

夕日に照らされ、朽ち果てた姿を晒すモンタナ。焼け焦げたような姿ながら、原型は保たれており、奇しくも、古代進と島大介が夕陽に眠るヤマトを目撃したのと似た構図である。大まかな艦容は保たれており、砲身の仰角を上げたまま沈黙した主砲塔などもあり、かつての発進前の偽装時の宇宙戦艦ヤマトを想起させる。彼女たちは艦首の穴から内部に侵入する。戦闘と墜落のショックで乗組員は死に絶えており、ラ號の51cm砲の威力の凄さが窺えた。内部には組み立て途中の艦載機の残骸や乗組員の遺体が転がっている。遺体と言っても、機能停止したサイボーグであるが…。コンピュータは独立した電源で動いていたためか、まだ生きていたので、美遊はそれを再起動させ、解析する。コンピュータの起動画面面で出るウェイクアップコードは1945年当時の連合国軍のイニシャルで、1945年当時に作られていたのと同一個体であるのが確認された。

「やっぱり、これは1945年にオーバーテクノロジーを拾った米軍が作っていたのを回収した個体だったんだ…!」

コンピュータのデータベースにアクセスした美遊は、未来世界における過去の時代、連合国軍と枢軸国が争うように、ラ級を切り札として作ったか、作ろうとしていた事実を目の当たりにした。ルーズベルトの大いなる遺産という奴だ。連合国軍は米英ソ仏がそれぞれ別々に計画があったのを、ある時期のウィンストン・チャーチルの提言で一つの計画としたのが連合国軍のラ級建造計画であったのだ。その際に素体としたのが、仏は船体のみがなんとか持ち出せていたガスコーニュ。英は条約前に作っていたのを秘匿していたもので、予算不足が響いていた。ソは建造中のソビエツキー・ソユーズ、米は連合国への体面と対大和型の観点から、建造中止のモンタナを流用した。対する枢軸国は日本が大和型ベース(実際はまほろば型が予定された)のラ號と、当時に存在が取り沙汰された二番艦、独はフリードリヒ・デア・グロッセ、伊はインペロ(ペーパープラン)であった。連合国は既に日本軍とドイツの暗号を解読し、その大まかな全容は掴んでいたのだ。ただし、急速に日独が崩壊に向かった事もあり、戦中に相対することはなく、ラ級としての完成が戦後のソビエツキー・ソユーズとG3型巡洋戦艦は秘匿され、そのまま忘れ去られていき、モンタナは第二次世界大戦の勝利で用無しとされ、後援者のルーズベルトの死もあり、途中で放棄された。だが、一部の有志が日本軍残党の蜂起を懸念しており、工程60%までは進めていた。その段階で船底の装甲が薄く、そこが米軍の見積もりの甘さだった。ラ號は戦闘機じみた三次元戦闘が想定されてもいたため、全ての構造と装甲が強化されていた。もし、計画当時の姿で相対しても、ラ號はモンタナを打ち破っただろう。これはモンタナは対ラ級兵器というより、従来の大和型戦艦を圧倒するためだけの役目を負わされていたため、設計に不備があったのが見過ごされたのだろう。

「この艦は元々、計画はされた完成型(リバティー)のための実験艦だったようですね。残されていた当時の海軍高官とフランクリン・ルーズベルト大統領の会話音声がそれを裏付けてます」

美遊が再生したフランクリン・ルーズベルトと海軍高官の会話は『マンハッタン計画に目処がついたが、万一、その前にJAP共が繰り出したら、事だ。そのためにもこの艦は抑止力にならなくてはならないのだ』というルーズベルトの声で始まっている。つまり、ルーズベルトは日本との戦争は勝てるが、ラ級を持ち出した蜂起を抑えるための抑止力にモンタナを欲したのだ。しかし、後任のトルーマンは原爆に傾倒した。その技術が漏れたのにも関わず、核兵器を次代の抑止力とした。これはアイゼンハワーも継承したのは、歴史が証明している。トルーマンは日本にラ級を造る余力がなく、それを支える日本海軍もレイテ沖海戦で形骸化したことを知っていたため、モンタナを無視し、目処が立っていた原爆に傾倒した。これは明らかになれば、旧アメリカ合衆国の立場を追い込みかねない事実だ。トルーマンは終戦後、ラ號がパーツは完成済みだった事をチャーチルから知らされたが、『日本軍のゲリラ共にそんな余力はない』と一蹴した。だが、実際には長い年月を経て完成に至ったのは言うまでもない。

「この艦はトルーマン政権から公式に中止指令が出されても、フォレスタル氏の自殺や提督たちの反乱などもあり、放棄されるまでには長い年月をかけたようです」

「何故、そんな事を?」

「日本軍の残党はあちらこちらに潜んでいて、60年代まで散発的に戦闘を行っていました。その防止もあって、本土の日本軍を無力化したんでしょうね」。

トルーマンはあくまで、リソースの集中の観点からの判断を下したが、核兵器の副作用が明らかになるにつれ、核兵器の開発継続に一抹の不安を覚えた。その事も、非公式にモンタナを造る動きを黙認していた理由だろう。だが、提督たちの反乱への懲罰も兼ね、トルーマンはその動きを抹殺した。やがて、戦艦そのものが過去の遺物とされてからも年月が経った2000年代半ば、扶桑軍との接触の過程で、23世紀のラ號の存在が示唆されると、米国は旧連合国の名のもとに接収を目論み、国連・日本政府、米国自身の三段構えで動いた。だが、当時既にラ號は影山財団の所有物とされており、大日本帝国政府の後継である日本国政府、米国(旧連合国軍)共にその権利はないと声明を影山財団が発表した事で、米国と日本政府は手を退かざるを得なかった。日本政府内部にも、既に旧・帝国海軍の所有物になっているはずだと影山財団を脅した者がいたが、『サンフランシスコ講和条約で、既に政府への献納予定はキャンセルされている』と突っぱねた。だが、現に地球連邦軍の軍艦としては大っぴらに使用されている事からの苦情には対応に苦慮し、影山財団はその事との兼ね合いから、神宮寺八郎元・海軍大佐の遺言と遺志を公表して、どうにかラ號の接収を阻止した。これが日本連邦下での寄港に繋がる。ラ號は戦後しばらくは砲を搭載せず、大和型戦艦の上部構造物も使わず、潜水艦の上部構造を積んでのテスト艦として使われていたが、ショッカーの台頭から、元の設計に差し戻して作り直した。ショッカーがH級戦艦を作っている事を知った神宮寺大佐の命令だった。その再改造工程が入ったため、本来の姿に戻ったのは1974年頃であった。一説によれば、ラ號はデスパー軍団の大攻勢に対抗すべく、一度だけ往時のメンバーの手で出撃を行ったとも言われ、当時の海上自衛隊の護衛艦隊旗艦『あきづき』がデスパ―軍団に立ち向かう『空飛ぶ戦艦大和』を目撃している。この奇談は当時は相手にされなかったが、更に数十年後、『ラ號は存在する』という証明として、日本政府の証拠として使われている。ラ號の飛行は当然ながら、当時の呉の人々に『戦艦大和の亡霊が現れた』奇談として伝わっていたし、イナズマンFやキカイダー、当事の七人ライダーが神宮寺大佐の要請で口を閉ざした事もあり、奇談という形でそのまま残ったことになる。74年当時はまだ日本軍の高級将校が存命しており、ラ號の飛行を目撃した高級将校達は『神宮寺め、完成させておったのか……』と唸ったという。大日本帝国海軍の忘れ形見であるラ號が戦後世界に本来の姿を晒したのは、これがほぼ唯一の機会だった。ラ號は当時の時点でも、期待された性能を存分に発揮。ヒーローたちが口を閉ざした事もあり、ラ號の奮戦は語られることは無かったが、元・日本海軍将校達の胸には『武蔵と信濃の年の離れた妹が本懐を遂げた』という安堵を残し、偶然にもラ號の凱旋を目撃した昭和天皇は誰にもわからないところで涙したという。かつて、日本軍の大元帥だった昭和天皇は零部隊の事をこの頃には知っていたのもあり、旧軍の再評価を願っていた。標本採集に訪れていた油壺で、21発の空砲を聞いた。その最中に振り向くと、ラ號の威容が彼の目に飛び飛んできた。翻る旭日旗と大和型戦艦としての威容。周りに誰もいないその時だけは大日本帝国軍大元帥としての彼に戻っていた。その艦橋では、神宮寺大佐を初めとした幹部達が敬礼しており、その一瞬のみは昭和天皇の気分は大元帥に戻っていた。その後、昭和天皇はポツリと『あれが豊田や小沢の言っておったラ號なのだな…』と誰にも聞こえないように呟き、全てを悟ったという。そして、同行していた侍従に採集容器を渡し、背を伸ばし、右手に帽子を取り、胸に当て答礼した。それを見ていたのは同地の東大水産研の研究者と荷物持ちの侍従だけだった。昭和天皇が神宮寺に気づいていたかは定かでないが、これは昭和天皇がラ號の旧軍人へ見せた、自らの労いの意志であるとも取れ、大元帥としての想いを見せた最後の姿であった。

「日本側にも、1974年頃に『空飛ぶ戦艦大和を見た』っていう奇談が呉や油壺に残されていますけど、ラ號は一体、何と戦闘を行ったんでしょうね」

この奇談はどこからか当時のイギリスに伝わり、マーガレット・サッチャーがG型巡洋戦艦のフォークランド紛争での使用を目論んだ理由ともなった。不幸があると言えば、その艦名は当時の現役空母と同じであり、それがサッチャーをヒステリックにして、海軍高官を困惑させたことで、長老達の告白で長老達は後輩たちの猛抗議を食らう羽目になる。イギリスはラ號の存在をこの時に再認識し、その抑止力を狙い、再利用を目論んだが、色々な理由で頓挫し、それを聞いたアメリカが80年代に保存されていたアイオワ級を復帰させた裏の理由ともなった。キーロフ級ミサイル巡洋艦を表向きの対抗として。これがアイオワ級最後の花道となったわけだが、キーロフ級ミサイル巡洋艦はアイオワ級の主砲が当たれば容易に撃沈される存在であるため、レーガン政権の政策は海軍に批判されたものだ。だが、ラ號の存在を考慮に入れると、『当時、経済的絶頂を迎えつつあった日本がラ號に最新鋭装備を施して、歯向かってくる』という恐怖がアメリカ軍にはあった表れとも取れる。扶桑の大和型戦艦の寄港は、その当時のアメリカ軍の懸念を事実上復活させたとも言える。海自と米軍がラ號を目撃するのは、ダイ・アナザー・デイに参加する前にサービスで配下のドレッドノート級主力戦艦と共に、サービスで21世紀日本に寄港した時だ。23世紀初頭では、ラ號は事実上の姉妹艦のヤマトに代わり、太陽系外周第7艦隊の旗艦を拝命していた。ヤマト型に分類されたラ號は、ヤマトとまほろばに代わり、同艦隊の旗艦になっていたのだ。アースフリートの設立直後はガトランティス戦役当時の本星防衛艦隊の編成がそのまま衣替えしていたため、ヤマトやまほろば、ラ號はそれぞれパトロール艦隊旗艦の経験を有する。ヤマトは戦前の外周第三艦隊旗艦の経験を含めると、実は結構、旗艦任務を遂行できている。また、フェーベ航空決戦の機動部隊旗艦の経験も含めると、ヤマト型は旗艦任務に充分に耐えうると言える。(その後、ヤマトは第三艦隊に復帰し、まほろばが第五艦隊に、ラ號が第七艦隊に属し、ラ號が21世紀日本に寄港した際に引き連れた僚艦は第七艦隊の僚艦である)外周艦隊はパトロール艦隊なのだが、特別にドレッドノート級数隻が属しており、パトロール艦隊としては豪華な陣容である。アースのドレッドノートはかつてのマゼラン級戦艦の命名規則を適応しており、主に日本で作られた個体が比較的多く残存した事、新規建造が続けられた事もあり、在籍中のドレッドノートの艦名の五割は日本海軍の命名規則の艦であったりする。(そのため、アースフリートは日本海軍であるとする揶揄がある)実際、戦役を切りぬけた初期型『薩摩』、ヤマトの僚艦である、後期型の『蝦夷』などは日本の命名規則の艦である。ドレッドノートに代わる次世代艦はデザリアム戦役の前の時点でかなり具体化しており、これが後の長門型戦艦だ。とはいうものの、ドレッドノートの基本設計の改善型という点では根本的な次世代艦とはいい難い。拡大波動砲のプラットフォームとして、各部をブラッシュアップした艦だが、基本アーキテクチャはドレッドノートと同じだ。ドレッドノートの改善が限界に達しつつあり、また、当時の新鋭艦の仮称『BN級戦闘空母』と同世代になるような戦艦はまだ構想段階であった事もあり、その繋ぎのような艦である。当時は次期旗艦のテストと称し、旧国連の主要構成国が新鋭戦艦を完成させつつあった頃であり、アンドロメダからの世代交代の機運が高まってきた頃である。ガイア古代のA級批判論文が出回ったのはその頃だ。当時、ガイアヤマトは既に航海中であったが、アースの技術供与で通信技術が飛躍したおかげで、アースの軍備のことを知れたわけである。アースとガイアは似ているが、文明の根幹が違っている。アースはアケーリアスの正統後継文明として、タキオン粒子を外宇宙進出の礎にした『タキオン粒子文明』であり、波動理論もタキオン粒子を前提にしたエネルギー理論である。宇宙空間に与える影響は銀河の破壊までがせいぜいだ。アケーリアスの分裂時に古マゼラン星雲の崩壊が引き起こされたように。また、ガイアヤマトがサレザー系イスカンダルに赴くに当たり、アースはその監視も兼ねて、アームド級空母3隻。水雷戦隊とドレッドノート級を二隻ほど送り込んでいる。距離をおいて監視するためだ。当のサレザー系イスカンダルも、もう一つのイスカンダルたる、サンザ―系イスカンダルの存在には慄いており、デスラーが既に地球と和解したという事実も関係していた。当時、サンザ―太陽系のガミラスはデザリアムとの戦闘で寿命が尽きていた地殻などが自然崩壊を引き起こし、宇宙の塵となった。それを受けたデスラーは、銀河系にある同族の星『ガルマン星』を発見、そこを新天地とし、ガルマン・ガミラスを建国している。そのため、デスラーはちゃっかりと銀河連邦のオブザーバーになっており、地球と同盟関係にある。この同盟は地球連邦の繁栄の礎となる。ガトランティスの技術が彼等の手に渡ったからで、ガルマン・ガミラスは地球と共同で銀河系に覇を唱えてゆく。これに異を唱えるのが後に銀河大戦で冷戦関係になるボラー連邦である。ボラー連邦と地球/ガルマン・ガミラス連合の対立が、銀河連邦の対立軸となっていく。これは30世紀でも変わらない。

「なるほど。敵は波動エンジンも手中にあるようです」

「波動エンジン?」

「そうですね。タキオン粒子をエネルギーにする半永久機関とだけ言っておきます」

美遊は波動エンジンを後付で載っけた上で、ラ號と戦闘可能なラ級を見つけたようだった。ラ級の計画数は多くないが、ペーパープランでしかないインペロを除くと、ラ號最大の敵は『フリードリヒ・デア・グロッセ』になる。ラ級を提案したドイツ軍自身が生み出した最大級のラ級。当初より51cm砲を積んだH級のパワーアップ形態。

「フリードリヒ・デア・グロッセ……やっぱり完成させていたんだ…」

「フリードリヒ・デア・グロッセだと?」

「名前の由来はフリードリヒ2世の尊称で、鉄血宰相の後を継ぐはずだった戦艦です」

ドイツはその艦の運用ではキール運河を通ることを諦めていたので、ビスマルクより格段に大型化している。しかし、これまた完成は第三帝国の滅亡に間に合わなかった。これもラ號と同じような経緯である。

「待って、51cm砲って何!?大和より大きくない!?」

「ドイツなら作れますよ。列車砲『ドーラ』があったので」

ドイツにしては珍しい火砲のセレクトである。ドイツは高初速で小口径を選ぶ傾向があったからだ。これはヒトラーの意向もあったのだろうが、超大和型戦艦に51cm砲が積まれた背景はここにある。日本はドイツからの技術供与で51cm砲を製造可能となったが、まほろばに積む分で終戦となった。

「インペロの資材はソビエツキー・ソユーズに流用されたわけね……これでだいたい分かった」

「どういう事だ」

「敵は米ソ仏独の遺産だってことですよ。ヨシフ・スターリンやアドルフ・ヒトラーの遺産です」

「米艦はこれっきりではないのか」

「リバティーがいます。それが正式な米国の完成されたラ級です」

モンタナは前座に過ぎない。当初計画では、対ラ級用のリバティーこそ、米国最大最強の軍艦と目されていた。当初はユナイテッド・ステーツが予定されたので、米国はユナイテッド・ステーツを作ろうとすると頓挫する呪いでもあるのか、と言いたいくらいだ。リバティーは当時としては浮いた艦名だが、ラ級なのと、ユナイテッド・ステーツの代替名に相応しいインパクトという事で選ばれたのだろう。リバティーはペーパープランとされ、公式記録からは抹消されたが、1943年頃の記録には『日本の建造中のラ級に対抗するためには…』という一文がある。実際、このコンピュータにはリバティーの予定スペックは残されており、モンタナの弱点を改良したさらなる大型艦になるはずであった(85000トン級とも)。ルーズベルトは原爆と両立させる気満々だったが、トルーマンは核にリソースを集中させた。モンタナとリバティーは『ハリー・トルーマンの誤算の集大成』と言える。最も、トルーマンは既存艦とサイズがあまりに違う両艦を疎んじたフシがあったが、核兵器が結局、高価な見世物にしか使えなくなったため、まだ両艦を作ったほうが負担が少なく、ソ連の追随を許さなかったかも知れない。核兵器による覇権は脆くも崩れ去ったためだ。一説によれば、ナチスから託された原爆を日本陸軍強硬派がモスクワに投下せんとしたが、天皇陛下の意志を受けた海軍が阻止したという話もある。真偽はどうであれ、日本は核兵器を連合国軍へ投下しようとしたことだけは事実だ。副作用や財政負担を考えると、二隻のラ級のほうが遥かに維持費は安いのである。トルーマンの誤算は戦艦や空母がそうであったように、互いに持てば、双方が持とうとする単純な事実に気づかなかった事、ソ連を甘く見ていたという二つの事実が証明している。

「トルーマンも気づいていれば、核兵器に莫大な軍事費をつぎ込む必要もなかったのに」

「核兵器のもたらす副作用にハリー・トルーマンは気づいてなかったと?」

「当時のすべての国の人間が知らなかったんですよ。知っていたら、軍隊が反対してますよ。当時は単純に『島や街を地図から消せる爆弾』として見られてましたから」

「この世界での状況は」

「リトルボーイは少なくとも存在しています。トルーマンが完成させましたから」

ウィッチ世界では、放射線汚染の危険性よりも、怪異による恒久的汚染のほうが重大とされ、巣をぶっ飛ばすための手段(表向き。実際は東京と京都へ落とすためであった)として用意されていた。しかし未来世界との接触で、亡命者の扶桑への『手土産』は悪魔の発明と非難される羽目となった。23世紀はリトルボーイが玩具のような威力である『反応兵器』を既に大量に保有している上、より上位の兵器も保有している。また、スーパーロボットの全力の一撃は惑星破壊級であり、たとえ日本SFファンに有名な『妖星ゴラス』がやってきても未然に破壊可能だ。それを知る扶桑にはリトルボーイに執着する意味はない。次元の皮肉か、リトルボーイは研究用に解体され、広島の産業奨励館に本体が展示されるという道を辿った。(原爆ドームとなった同館の姿の写真と主に展示された)これは次元を超えたオッペンハイマーへの皮肉と言える。その一方で、効果が見込めないとされた超爆風弾、魔導徹甲弾に代わる武器を求めた連合国はなのはやフェイトの火力や英霊の宝具に結果として依存してしまう。本来、核兵器が双方の代替物になると目されたため、よりクリーンな力を求められた結果だが、なのはは不機嫌な顔で『あたしは逆転イッパツマンじゃないぞ』と不満を述べたという。最も、マジンカイザーや真ゲッターロボだと、威力過剰であるし、ダンクーガでも次元をも切り裂けるため、なのはやフェイトが『クリーン』と目されたわけである。

「未来の反応兵器があるし、わざわざ原始的なリトルボーイを使う意味はないですしね。23世紀にもなると、熱核兵器でも無くなるし」

「なんだその発想は」

「技術的には重要だけど、わざわざリトルボーイをどこかに落とす必要はないってことです」

リトルボーイとファットマンは言わば、人体実験も兼ねた使用であった。広島と長崎。双方の都市の40万人を犠牲にしてまで得たのは、核兵器による相互破壊確証だけである。核兵器は宇宙時代では原始的な兵器とされ、アルカディア号の頃になると、21世紀の標準的な熱核兵器では艦を揺らす程度でしかない。23世紀でも、内惑星用艦艇の多くが轟沈したが、外宇宙用の艦艇はアトミックバズーカに耐えられる。そこもGP02のアトミックバズーカの軍事的意義が大きく減った点だ。

「反応兵器はまだあるのか、23世紀に?」

「反物質を触媒にした次世代型になってますが、それでもピンピンしてる敵はいますからね。光子魚雷でも死なない宇宙怪獣もいたし」

「なんだとッ!?」

「地球連邦は元々、フェーザー砲を主力にしてたら、ガミラスに効かないんで、ショックカノンに切り替えたそうなんで、宇宙は魔窟ですよ」

「フェーザーって、あのスタートレックの?」

「ええ。なんでも、アメリカが2100年位に発明したとか?」

フェーザー。米国がドラえもんの時代に入る頃に発明した兵器で、ガミラス襲来時の外宇宙艦艇の艦砲であった。えいゆうやゆきかぜに搭載されていた艦砲であったが、ガミラスには効果が殆ど無い。ショックカノンは粒子ビームに脈動をくわえて衝撃波を発生させ、貫通力を生み出すもので、フェーザーを駆逐し、波動エンジンの実用化と同時に採用された。23世紀からの宇宙時代で長く、地球連邦軍の最強の矛として君臨した理由は、波動エンジンの高出力が理由である。30世紀では、根本的にそれを凌ぐパルサーカノンの実用化で遂にその地位を譲るものの、主力として君臨した時代は有に700年を超えたという。

「ええ。22世紀の終わりにはかなり改良されてたんですが、敵には『ドアノッカー』と馬鹿にされていて。それで宇宙戦艦ヤマトのあれが」

「それが宇宙戦争なのね」

「ええ。地球人と遺伝子的に同族にあたる戦闘種族は50万の艦隊がぶつかり合うんです。宇宙怪獣は天文学的な数字です。目が回りますよ」

「いったい未来世界はどうなってるの?」

「まだアンドロメダ銀河などに出ようかっていうところです。宇宙からすれば、人が行ける宇宙はまだ、太平洋の中にあるビニールプールみたいなものです」

「例えがいまいちだが、分かりやすくはあるな」

「ありがとうございます。データは回収しましたし、この船は味方の工作部隊に回収を頼みました。引き上げましょう」

三人はモンタナのデータを回収し、外に出る。外に出ると、クロが響と切歌を連れて来ていた。

「翼さん、マリアさん。大丈夫でした?」

「ええ。でも、まさか異世界の戦闘には慣れてるつもりだったけど、凄いものよ、これは」

「立花、暁。その子は?」

「えーと、この人は綾香さんの部下で、ドイツ軍の人らしいです」

「ドイツ軍の…?」

「一応、空軍中尉って事になるわね。クロエ・フォン・アインツベルン。こう見えても、由緒ある伯爵家の出よ」

もっともらしい事を言うクロ。階級は戦功で本当に上がっているので、嘘ではない。

「まって。フォンなら、確か」

マリアはフォンの意味するところを出生地的に知るので、指摘する。比較的新興の貴族の称号がフォンだからだ。

「ユンカーだもの、ウチ。古来の貴族じゃないから、馬鹿にされるのよね」

「マリア、どういう事デスカ?」

「ドイツの古来の貴族は『ツー』がつくのよ。だから日本で良くイメージされてるフォンは新興の貴族の称号で、馬鹿にされるのよ、古くの貴族には」

貴族社会は20世紀になると形骸化しつつあったが、ウィッチ世界では扶桑が華族を維持していたり、ブリタニアが覇権国であることにより、どうにかその命脈を保っていた。革命で貴族社会を否定したはずのガリアが貴族のカリスマ性に頼ったのは痛烈に皮肉な出来事であり、ガリア零落の象徴だった。この世界では、ノーブルウィッチーズは結局、卵のまま終わり、日本の横槍もあって、公的な再結成は流れてしまったわけだが、結果としては復興にかつての英霊が協力したので、むしろそのほうが幸せかもしれない。

「この世界のフランスよりは幸せよ?あそこなんて、今後、大国に戻れるか保証ない上、鉱物資源が害獣に吸われて、殆ど死に体よ」

「どういう事?」

「フランスの本土は害獣の住処に3年以上なってたから、鉱物資源が吸われてて、多分、植民地の維持もおぼつかなくなるわ。軍事的にも昔みたいな影響力は無理だし、本当に英霊頼りになるかも」

「あの人デスネ?ジャンヌ・ダルク……」

「歴史に名を残した人が本当に転生するなんて、信じられません…」

「あの人は英霊でも、特に早くから現代に適応したわ。なんか、ガンダムも動かせるとか」

「え!?それって反則じゃないデスカ!?」

「私はその英霊の力を借りられるので、なんとも言えませんけど」

「君もだが、聖遺物の力をこうも容易く引き出せるとは…。我々の立場がないな」

「気にしないでください。私の行使できる力はあくまで、その一端に過ぎませんし」

「うーむ…」

「ヤマトの波動砲みたいなものです。地球と反地球は別の『波動砲』を得た。反地球にとってのイスカンダルが波動砲の使用を制限したのは、波動砲の乱用が宇宙を引き裂く事の危惧や、波動砲という力で他国を押さえつける事を恥じての事です。なので、地球の波動砲が彼等の発明した『次元波動放射爆縮器』と別物と分かった後は、そのイスカンダルは地球に詫びつつも、濫用を避けろと釘を刺しています。もっとも、使っても状況の打開にならなかったことには冷や汗をかいたそうですけど」

サレザー系イスカンダルはアース(ドラえもんの地球)の存在を知り、宇宙戦艦ヤマトなどの波動理論の違いやサンザー系イスカンダルの存在を知った後は、アースへは『力に溺れるな』という忠告を出した。既にアンドロメダの悲劇で、それを経験済みのアースも『サレザー系イスカンダルの意志は尊重はするが、波動砲装備の是非については、使用理論の根幹が違う以上、貴方方が決める問題では無い』とはっきり返答している。アースはタキオン波動収束砲こそが波動砲であり、次元波動爆縮器ではないからである。これで一応の『手打ち』が双方で成された事になる。サレザー系イスカンダルはアースの歴史を知るに至り、『もう一つの地球は言うべき時は確固たる決意を示す、強い意思の持ち主である』と敬意を示し、アースもサレザー系イスカンダルへは最上位の礼を持って遇するなど、互いに尊重し合う関係となる。元はサレザー系イスカンダルの勘違いが招いた接触だが、なんだかんだで良好な関係になるあたり、友好的宇宙人に来て欲しいアースの切実な事情も絡んでいたが、とりあえず誤解が解けた事に安堵するアース(ドラえもんの地球)だが、ガイア古代のアンドロメダ批判の論文への政治的配慮で、アンドロメダ級に代わる新旗艦を模索することになり、それが後に『ブルーノア級戦闘空母』として結実するのだった。



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