外伝その191『アルトリアの覚醒め』
――ダイ・アナザー・デイの死闘はますますヒートアップしてゆくが、アルトリアが戦う中で、意識が同化してゆくハインリーケは最後の思い出を求め、アルトリアはドラえもんに誘われている旅行で一時的に主導権を戻すとして、ハインリーケに同化前最後の思い出を与える事にした。これがドラえもんのパーティーの際に意識の主導権がハインリーケになっていた理由だ。(あくまで意識だけなので、容姿はアルトリアのままだが)ハインリーケが活動したのは、その時が最後である。意識の主体がハインリーケだと、口調が変化し、一人称も妾になるので、分かりやすい。そのために同行者達は混乱しなかった。ハインリーケも意識の同化が近いことを悟っていたので、アルトリアへの最後のわがままを通したかったのだ。ここで、ハインリーケの肉体に、アルトリアの意識が初めて表層化した際の出来事の詳しい事情を語ろう――
――アルトリアの意識がハインリーケの肉体に初めて表層化した際は容姿の変化は起きなかったが、態度が急変したので、周囲を戸惑わせた。その際には同調率の問題か、約束された勝利の剣は使えなかったが、勝利すべき黄金の剣は使用できた。また、表層化当初の声色は王位についた際のハッタリの効いた低音ボイスではなく、ハインリーケの精神との同調の始まりを示すためか、少女時代の高めの声色で、大淀に酷似した声色である。これは成長の過程で低音になった表れとも言え、ハインリーケ本来の声色に最も近い――
――1944年 ちょうどガリア王党派のテロが明らかになり、ノーブルウィッチーズの活動が暗礁に乗り上げていた頃――
「まさか、ハインリーケさんの肉体に騎士王、貴方が眠っておいでだったとは」
「今は王ではありませんよ?しかし、この方の肉体を使うことで現界するとは思いませんでしたが」
「それはいいとして、ハインリーケさんはドイツ人ですよ?あなた、イギリス人でしょ?」
「うーん…そこは今後の努力で!」
「上手く行きますかね」
「王権奪いに行く訳でもなし、普通にカールスラント貴族として生きるさ。王族の係累とは言え、カールスラントの帝位継承権はないからな」
黒田に思いっきり、突っ込まれるアルトリア。ハインリーケはドイツ人(カールスラント人)。ビールも飲んでいた。しかし、アルトリアはおそらく、エールはあったのか不明な時代の人間で、しかも元・イギリス人だ。
「エールありましたっけ?」
「どうだったかな……。記憶にないな…。円卓率いてた頃は飯に無頓着で…」
「ガウェインが雑とか愚痴ってた記録が」
「嘘ぉ!?くぅ、1000年単位で恥を晒されるとは!」
アルトリアは生前、聖者を気取っていると陰口を叩かれたほど、食事に無頓着であった。その反動が現界後の異常な食欲と言うことだろう。カールスラントのナイトウィッチ用軍服を着込んでいるが、態度はすっかりアルトリアになっていた。
「紫式部だか清少納言だって似たようなもんだし、セーフですよ」
「ぐぬぬ……」
「あとでケイさんに報告入れます。同じ転生者同士のネットワーク作んないとやってられませんからね」
44年が下半期に差し掛かる当時は、Gウィッチ達が徒党を組み始めた頃であり、赤松の号令で、ネットワーク構築を初めていた頃だ。黒田は当時、扶桑海でついたバトルジャンキーのイメージを特段否定することもなかった上、黒江から借りていた斬艦刀を紅海戦線、アフリカ戦線で使用し、それを引き続き使用している事から恐れられている。そのため、ノーブルウィッチーズでは元から浮いていた。この頃には既に、『帰ってきたガンクレイジー』とモントゴメリーに揶揄されていた圭子の護衛を勤めた経歴もあり、A部隊でも浮いた存在であった。ただし、RXやストロンガーの影響でヒーロー的ポーズにはこだわりがある上、当時、リベリオン組が見れていなかった『駅馬車』などを見たと公言し、ジョン・ウェインに個人的にファンレターを出したと自慢している事から、B部隊と仲がいい。(転生前はホラー映画好きだったが、今回は黒江やのび太の影響で西部劇などが好きである。これは前史でエクソシストやチャイルド・プレイ、リング、13日の金曜日などを見てしまい、身の毛がよだったからだろう。そのため、ホラー映画の進歩に身の毛もよだったか、今回は西部劇などに好みを変えており、ジョン・ウェインに1940年頃、本当にファンレターを出している)
「貴方はどうなされるのです?」
「貴方の護衛でもしますよ。先輩が復活しないと動けませんし。数カ月は無役も覚悟してます」
当時、智子と圭子は既に覚醒していたが、肝心の黒江がまだであり、黒田は『はやくティターンズ共、動いてくれないかなぁ』とさえぼやいている。黒江は当時、檜の足の切断や審査部からの追放で、任務に支障がない程度の鬱病にかかっており、連絡を取れない。つまり、いつもの人格が封印状態の鬱病では、うかつに連絡入れると、混乱すると、赤松が戒めているからだ。(曰く、『ワシをまっつぁんと呼ぶようになればいい』らしい。)圭子と智子が、黒江に数年ほど連絡を入れてないのは、そういう事でもある。最も、黒江はいつもの人格が覚醒めると、例によってハチャメチャを引き起こすため、源田も『あいつは343空からの64へのアクロバット編入の準備は完了だ』と述べている。源田は予め、状況を知らされており、レイブンズの身元引受人を公言している。この頃には既に圭子や智子の原隊を調整済みである。つまり、Gウィッチの受け皿は既に用意されつつあったのだ。これは源田実がレイブンズの加護を受け、存在が特異点に昇華し、平行世界の自分の後半生の記憶を得た事も関係している。
「親父さんには原隊を弄って、343空出向に変えてもらったし、後は竹井が芳佳をスカウトするだけなんですよ」
「道は整えているようですね」
「そうでないと、あたしら転生者はハブられますからね。自分で居場所は確保しておかないと。どうせ普通の部隊にはいられないし」
Gウィッチは恒常的に対軍から対界級の強大な力を得る反面、周囲に理解される事がないだろうとは、この時期に既に悟っている。ウィッチの摂理から外れている、『強大な力を持つ癖に精神的に脆い』など、後に、黒江達が叩かれる蔑みがそれを証明している。黒江達はその強大さで居場所を得るが、反G閥との抗争が結果として、軍のウィッチ部門そのものの存廃に関わるレベルに発展し、結果として、本来は教官任務で使う事を考えていたGウィッチ達が戦線の主力を張る事が常態化してしまう。これは源田が反G閥を国賊と罵るまでの事態でもあり、数十年後に至るまでの禍根となり、これが後年の扶桑ウィッチを縛る『見えない鎖』となっていく。後年の世代に『45年の現役さえ、Gウィッチを受け入れていれば、それまでの繁栄を謳歌できたように』と蔑みの対象とされているのは、その後の軍ウィッチはMATとの差別化の意図のもと、黒江達が行っていたパイロット兼任を義務化した事で世代交代の頻度が更に遅くなり、2000年代でも、ベトナム戦争従軍組の一部はまだ、現役高級将校である故の世代交代頻度の低下への恨み節が理由だ。
「どうせ、引退しても有事には呼ばれるから、上は退役時に元帥位与えたいとか言ってるんですよ。転生者に」
「元帥なら現役ですからね」
「そうなんですよ。あたしらの定年は80年代後半でしょう?その後もこき使われるのは覚悟しといたほうが」
「ええ。下手したら、2000年代でも働いてる可能性が」
「……考えたら気が遠くなりそう」
「いいじゃないですか。転生したら1000年経ってた私より」
アルトリアが円卓の騎士を率いていた頃は、おおよそ5世紀くらいと推測されているため、そこからは1500年経過している事になる。その間に文明は大きく変わり、未来世界の介入で、扶桑もTV放送が始まろうかという時代である。しかもいきなり地上デジタル放送で。
「しかも今回はドイツ貴族ですもんね」
「ええ。ビールは本当にどうしたものか。エールなら飲んだかもしれませんが、ポップない時代ですよ」
「そ言えば。で、どうします?ガリア王党派の連中の始末」
「然るべき時に片付けましょう。カリバーンで斬っても構いませんね?」
「それいいたいだけじゃ?」
「と、とにかく!これ以上会話してると、バレそうなので、また」
「はいな」
この時の彼女の声色はハインリーケのそれだが、アルトリアの少女時代の声色とよく似ているため、実質、同化は始まっていると言える。ただ、どこかわがままで、子供子供している面があったハインリーケと異なり、明確に大人としての精神を持ち、元が王であった故の気高さは誤魔化しようがない。アドリアーナ・ヴィスコンティはそんな変化を見逃しておらず、指揮権を直ぐに掌握した事、毅然とした態度と、言葉からも感じる王者を思わせる気高さから、黒田とハインリーケの接触を密かに調べていた。
「おかしい。ハインリーケ少佐のあの振る舞い、事態に直ぐに冷静に対応した判断力……まるで別人だ」
「家伝の剣とかいうあの武器も、カールスラント風の装飾じゃない。どう見たってケルト神話風の装飾だよ」
イザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール、黒田からは冗談めかして、『アイザック君』と呼ばれる彼女も同意する。ハインリーケが持ち出した剣はカールスラント人の好む装飾ではなく、ケルト神話風の装飾が成されていた事に気づいたのだ。
「それに、言葉の端々からは王に言われているような感覚を覚える。いくら係累とは言え、ハインリーケ少佐にそれは無理な相談のはずだ」
「それに、あのバトルマシーンの黒田さんがこうも簡単に従うはずはないよ」
「中尉は『あの』黒江綾香の後継者にして、加東圭子に仕えていたバトルマシーンというのは君らも知ってるだろう?だからこそ、だ」
ジーナ・プレディ中佐(B部隊隊長)も、黒田がハインリーケにあっさり従ったのを怪訝そうに見ているようだ。この歴史においては、黒田は圭子に数年ほど仕えた事から、バトルジャンキーという評判が立っている。七勇士の最年少であった箔もあり、当時の506では戦闘力は群を抜いていた。実際、模擬戦では誰も勝てず、ジーナも黒田のアークインパルスを食らい、空ですっぽんぽんにされて恥をかいた事がある。
「中尉は加東圭子の護衛を長らく務め、黒江綾香に仕えていた古豪だ。私達に隙を見せるとは思えんが…」
ミーナと違い、ジーナはリベリオンの古豪であるため、新人時代からレイブンズの伝説を聞かされてきたため、黒田の事も聞いていた。そのため、真501では、レイブンズに仕える側に回っている立ち回りを見せている。
「扶桑がかつて誇ったっていう無敵の三人。その内の加東圭子は現役に戻ったと聞きましたよ?」
「その通りだ。この部隊に招聘されるちょっと前に本国で一面を飾ったアフリカ戦線のスナップだが…」
ジーナはイザベルに、個人的にスクラップしていた本国の新聞記事を見せた。書かれている内容は『稀代のガンクレイジーは死せず』という、圭子の暴れぶりについての記事だ。ベレッタを二丁拳銃で使い、明らかに獲物を狙う獣のような目つきで撃ちまくっている際の一枚で、マルセイユがビビっているのが丸わかりで写っている。また、明らかに物理法則を無視しているマフラーのなびき方、ベレッタの排莢時の様子がよく撮影されている。圭子は今回はガンクレイジーで事変中を通したので、当時から『扶桑陸軍の狂気』という渾名を頂いている。また、圭子は当時の時点で扶桑軍では珍しい、ベレッタ使いの士官であった(事変中からアフリカ戦線では、精度のいいM1934を使用しており、ダイ・アナザー・デイでソードカトラスに変えている)事もあり、すっかりベレッタは『キチガイ用』と扶桑で評判である。圭子は現役復帰後にはガンクレイジーぶりを発揮しているため、広報時代の生真面目なジャーナリストぶりは『猫かぶり』を悪態を突かれている。また、この頃には、『踊るぜ』との一言と共に、身一つで陸戦を行い、怪異をなぎ倒す行為も平然と行っており、記憶封印が解けた途端に、トップギアにテンションを上げているが、タバコは吸わなくなっている。
「何、これ…」
「加東圭子のクレイジーぶりを表している一枚だ。黒田中尉はこの人に仕えていたんだぞ」
ジーナは黒田の異常な戦闘力の裏付けを圭子に求めた。当時は智子が現役を退いていたからだ。空中では、九七式自動砲を往時同様に振り回し、マルセイユが唸る援護を見せるため、マルセイユはこの頃には圭子に従うようになっていた。圭子は接近戦よし、退いても良しのオールラウンダーであり、なおかつ転生前では不可能だった、智子と黒江の巴戦機動に追従できるようになった利点も活かし、『アフリカは加東で持つ』とまで謳われた。また、スイッチさえ入れなければ、転生前同様の温厚な口調で、『シールド張るのメンドイからこれで支援といきますか、真美!お出掛けするよ!』の一言で済ませるが、入っていると、『踊るぜ!野郎共、ついて来い!』に変化する。そのため、アフリカ戦線では『ケイのスイッチが入ったら血を見るぞ』と言われ、三将軍もそれを恐れていた。また、普段の温厚な態度は復活後はあまり見せず、殆どがヤサグレモードであったため、マルセイユが真面目さを身につける怪我の功名もあった。
「近頃、耳を劈くような轟音を聞いたウィッチが増えている」
「怪異ですか?」
「怪異とは異質の、そう。実験中の新型エンジンのような音だ。正体は不明だが」
当時、ティターンズは中東などに転移してきており、情報収集のためにセイバーフィッシュを飛ばしており、ウィッチたちが聞いたのは、セイバーフィッシュのジェットエンジンの音だ。15000を超える高度で飛行しているため、ウィッチ達はティターンズの偵察に気づくことはない。この時期に得た情報をもとに、ティターンズは戦線を展開、迅速に生存権を確立、リベリオンを掌握するに至る。リベリオン掌握後に現地戦力の活用に舵を切り、翌年には扶桑本土を強襲し、まんまとモンタナの華々しいデビューに紀伊を生贄にするほどに至る。モンタナの華々しい戦果が、扶桑国民を決定的に戦艦建艦運動への情熱に傾かせ、信濃型航空母艦の『S計画』がお流れになる理由である。ティターンズの未来兵器が華々しく活躍し、モンタナが紀伊をただの数発の直撃で轟沈に至らしめた事で、国民が大和型の増産を強固に推し進めさせたのだ。S計画は『大和型の船体を使用した大型空母をウィッチの中継基地に使う』という発想でなされていた。史実の大鳳構想時の発想が信濃で採用された流れで立案された。呉襲撃前日には、搭載機種の策定も終わっていた(定数47機)が、それをも白紙撤回にする規模の運動であり、信濃の工程ももはやコンコルド錯誤の領域だったからだ。信濃が建造される段階では、未来世界の介入で作業が効率化し、エクスウィッチのS計画主任であった参謀が視察に来た(同時に、空母改装の決定を伝えるはずだった)時には既に砲塔床に砲架の設置が終了していたが設置済みだった。そこまで行ってしまうと、もはや空母に改装する費用で大鳳がもう一隻作れてしまう。111号艦もその状態であり、運動への回答とする意図もあり、信濃と甲斐の空母改装は泡と消えた。その代替策が雲龍の増産だが、これも雲龍型そのものの陳腐化で頓挫する。ジェット機対応空母という新たな時代の空母を新規で造る事もあり、S計画は泡と消えた計画と語られる。(当時はウィッチの軍事的価値の低下の象徴ともされた)ジェット機空母は大きさが正義とされるため、扶桑の軍備整備そのものが破綻を来すほどの衝撃であったという。この時期に建艦されし雲龍型で、当初の通りに攻撃空母として戦場に出れたのは、初期の三姉妹のみ。後の妹達は精度のいい個体である『笠置』、『阿蘇』、『生駒』が防空空母へ転用された以外は対潜空母、練習空母、航空輸送艦、ヘリ空母などへ転用されていく。あくまで戦時急増のため、建艦精度が安定しないという点、後期艦は鋼材が悪い上、手抜きの機関を積んだと見なされて、船体寿命も短いとされた事も、雲龍型の大半が当初構想の中型空母による戦時増設の機動部隊としての任を真っ当出来なかった理由だろう。比較対象がエセックスであった不幸、雲龍後継の新空母がジェット対応キャリアへシフトした事から、『時流を読めなかった扶桑の鉄の無駄遣い』、『零式までしか対応していないポンコツ』の誹りを受ける運命となる。『ウィッチとの共用にするし、新型機は大鳳型に積めばいい』とする見積もりで造られたため、滑走制止装置、着艦制動装置を決定段階で当時の最新型にし、油圧カタパルトは搭載したものの、将来的不安は残った。当然、航空機の進化は艤装の進歩の比ではなく、雲龍が戦場に出る際の艦上機は紫電改/烈風、彗星/天山か、流星改、彩雲。しかも雲龍型には乗らない大きさのジェット機が控えている。ダイ・アナザー・デイへの参加も改装で艦載数が大きく減った大型空母を補う補助空母としての参加で、華々しい第一線空母と見なされていない。雲龍の不幸は『1934年の設計を1944年に登板させた』事そのものにあると過言でもない。そもそもは大和と武蔵の護衛空母にする運用も構想されていたが、エセックスがバンバン使われる戦場では役に立たないと指摘されたのだ。
「扶桑は中型空母を量産し始めたが、あれでは近い内に使い物にならなくなる。それを分かっているのか、扶桑の連中は」
44年の一番艦竣工の段階でのリベリオン軍人のジーナのコメントは辛辣であるが、真理である。実際にこの一年後、扶桑軍は未来人からミッドウェイ級やフォレスタル級航空母艦の情報に恐れ慄き、超大型空母に必要なインフラ整備のため、戦艦を増産していく。扶桑はとりあえず大艦巨砲主義でインフラ整備予算を確保し、プロメテウスで場しのぎしつつ、自前で空母を勉強してゆく方法を選んだわけだ。
「扶桑はソウリュウタイプ(史実の翔鶴相当の大きさ)を増産するから、その中型を補助空母として使うみたいですよ、ジーナ中佐」
「なるほど。しかし、そこまで余裕があるのか?ソウリュウタイプは手間がかかるのに」
ジーナ・プレディの疑問は的を射ていた。雲龍型はこの時期、27番艦までの建造が決まっていた。蒼龍型、大鳳型よりも雲龍型が現場で求められたからだが、一年後、21番艦以降は中止され、大鳳型もジェット空母には向かないとされ、計画が差止められた扶桑はそれらの代替に地球連邦海軍で余剰になったプロメテウス級を複数購入し、なんとか体裁を整える。しかし、今度は粛清人事でパイロット/ウィッチが確保出来なくなるという負のスパイラルに陥る。そのために扶桑海軍空母機動部隊が自己完結で行動出来たのは、太平洋戦争前では、ダイ・アナザー・デイが最後となった。つまるところ、日本にとっての空母は『スーパーキャリア』以外の何物でも無く、扶桑は日本連邦化した事で、その問題と否応なしに向き合う事となる。
「扶桑はコンパクトな艦艇を志向してますからね。どこかで破綻するでしょうね」
イザベルもこれだ。他国軍人達は扶桑海軍の軍備整備が机上の空論である事を見抜いていたのだ。一年後に扶桑海軍はコンパクトな艦艇を持つ志向をかなぐり捨て、一気に艦艇の大型化の道へ足を踏み入れていく。海軍はこの後、粛清人事の嵐で空母機動部隊が機能停止状態に追い込まれ、空軍の使いっ走りのような状況に陥り、空海軍の一体化を結果としては進めていく。また、粛清人事されたウィッチたちがアリューシャンへの猛烈な砲爆撃で開戦と同時に死亡してしまった事も誤算だった。これがGウィッチたちが洋上勤務も当たり前の生活になる理由である。
「扶桑は事変で七勇士が無敵を誇って以来、ウィッチが幅を効かせている。だが、当の七勇士はどこか冷めた目で見ている。黒田中尉もそうだ。この謎を解かん事には、我々は黒田中尉の行動の理由すら掴めないだろう」
「中佐は黒田さんの何を調べようと?」
「飄々とした態度だが、こちらを見透かしたような口ぶりを見せる。戦闘力は認めるが、あの見透かしたような態度はどうも気になるのでな。ハインリーケ少佐と黒田中尉から目を離さぬように」
「わかりました」
ジーナ・プレディは、B部隊の指揮官であるが、臨時にA部隊の隊員に指令を出す。ハインリーケと黒田を監視せよと。彼女は扶桑ウィッチでありながら、自国ウィッチが空母で幅を利かせる状況や、ノーブルウィッチーズへ冷めたような視線を見せている黒田の事が気になったのだろう。実際、黒田は歴史の流れを重視し、アフリカ戦線から転戦したが、今回はガリア王党派が予想より大事を起こした事で、ノーブルウィッチーズの死産を予期していた。また、日本が現ノーブルウィッチーズを否定する内容の意見を連合国に出した事で、黒田の予見通り、ノーブルウィッチーズは死産の方向へと向かっている。ガリアはこれで政治的に大打撃を被り、現界したアストルフォとジャンヌ・ダルクにすがる事となる。これも日本の野党に批判されたが、ペリーヌが必死に母国を擁護した事で、ノーブルウィッチーズの書類上の存続だけは認められる。ガリア人より日本人のほうが仏革命あたりの時代に詳しい屈辱を味わったド・ゴールは『あーん、アストルフォちゃん〜、日本がいじめる〜!』(意訳)という泣き言を漏らし、アストルフォとジャンヌは呆れ返ったという。日本の政治家の少なからずは、裏で『共和制なんでしょ?王家潰した国が『貴族』とか頭大丈夫?』と思いっきり見下しており、ド・ゴールは別の自分の失敗から、嫌味を言われまくり、子供のようにしょげてしまい、ジョージ・パットンに『ド・ゴールのやつはまるでガキだ』とこれ見よがしに馬鹿にされてしまう。また、日本連邦結成後は政党として死へ向かい始めていた日本共産党からも、ド・ゴールへ『貴族という悪しき封建主義の残滓を冠した部隊などなぜ必要なのか!』と言われるなど、ド・ゴールとガリアは踏んだり蹴ったりであり、ジャンヌ・ダルクの再来と言われしペリーヌが、あのモードレッドに心を開くきっかけはこれらの出来事がダイ・アナザー・デイに前後して起きたからだ。これらの動きを黒田は予期しており、ノーブルウィッチーズの面々へ新しい居場所を与える方向に動いており、吉田茂に『たぶん、あたしが当主になると思うから、あたしの戦功でノーブルウィッチーズのみんなに居場所を与えられるように動いて』と既に依頼していた。ノーブルウィッチーズは政治的策謀が入り乱れた部隊であり、部隊が無くなれば、人員が遊兵になるのは目に見えている。黒田は当時、駐英大使ながら、次期首相を目されていた吉田茂に501への移籍を極秘に斡旋するように依頼していたのだ。亡命リベリオンが近い内に成立すれば、B部隊は本国へ帰国すら出来なくなる。それを慮っての依頼である。
(ジーナ中佐がアイザック君やマリアン大尉とかにあたしと騎士王の監視を命じてるだろうな。悪いけど、前史で戸隠流を覚えてるんだ。こっちはみんなの居場所を作るのに忙しいんだって!)
監視から逃れる方法は心得ている黒田。戸隠流の心得を使い、一瞬の隙を突いて監視から逃れ、Gウィッチとしての使命に勤しむ。
「さて、クリス・キーラ少佐、いや、王党派残党のエージェントと言うべきかな?」
「何故、私がクリス・キーラでないと?」
「あたしは七勇士の一人だよ。中野学校にファンがいてね、その筋に調べてもらった」
前史と違い、黒田は忍者としての技能があるため、先回りして手を打っていた。それが諜報部将校と言って、基地へやってきた女性との接触だ。
「扶桑の中野学校は忍者の末裔と聞いていたが、そこまでとは思わんだ」
「貴方の上司の『教授』の事は掴んでいるよ。マリー・アントワネットとルイ17世の仇討ちでも企んでるの?」
「教授は近衛隊の家系の出でね、先祖も革命で死んだ者がいる。その仇討ちだろうよ」
キーラは王党派エージェントながら、王政復古ができるとは思っていないという本音を漏らす。
「君は知りすぎている、中尉。ここで消えて……」
「悪いね、キーラさん。そんな疾さの抜き打ちであたしは捉えられない。飛天御剣流・龍環閃!!」
龍環閃の横薙ぎを瞬時に放ち、キーラの銃をぶっ飛ばし、更に大雪山おろしの要領で締め上げる。
「全身の骨を粉々にされる前に、教授の居場所を吐いてくれるかなー?」
「このバトルマシーンめ…、ば、バケモ…」
「あらよっと」
「が、があああああっ……」
腕を揺さぶり、肩を強引に外す。今の黒田にとっては赤子の手を捻るかのような作業だ。
「両腕が使い物になららない生活になりたくなかったら、教授のとこに案内するんだね。アタシは今、無性に苛ついてるんだー」
黒田にしては残酷な所業だが、事を急いでいる故か、かなり荒っぽい。キーラをこれであっさりと屈伏させると、首根っこ掴んで、格納庫に用意したバイクのもとまで引きずる。
「あたしはケイ先輩ほど情け容赦しない柄じゃないから、その点は感謝してね?」
「サイドカーにノーヘルで縛り付けて、か?」
「10ゲージバックショットで脳天ぶっ飛ばれたいのかな?」
「……君は恐ろしいやつだよ…黒田中尉」
レイブンズの影響か、素で恐ろしい発言の黒田。キーラはその好戦的とも取れる雰囲気に圧倒されている。元のお気楽極楽ぶりが鳴りを潜め、完全に戦士になっている。黒江から教わったバイクテクニックを駆使し、その教授の元へ赴く。そこに辿りつくと、教授は驚きの顔で黒田を見る。
「教授さん、先祖の因縁に決着をつける気?」
「ガリアは王や皇帝のもとで栄光を築いた。それは君も知っているだろう?」
「ガリアは精神的に未熟って言いたいわけ?」
「民主主義や共和制を否定はせん。古代ローマも通った道だ。王一家を処刑した後、革命派は結局は恐怖政治を敷き、愚民どもはナポレオンなどというコルシカの小男が皇帝になることを許しただけだろう?黒田中尉」
「ナポレオンの奴はジョセフィーヌにトチ狂ってたし、野心家だった。軍事的には大天才ではあったよ、教授?」
現代の軍制はナポレオンが考えた三兵戦術の発展に位置するため、戦術面では100年に一度の天才ではあった。ただし、兵站面や情報面では疑問符がつくため、戦術面で天才ではあったが、軍略的には無能に入るだろう。輜重は重視していたが、ロシア遠征の大失敗、攻勢限界点がわからなかったなど、失敗も多いし、遺言がジョセフィーヌへの一言であった点でも、ジョセフィーヌに憧れたのが、そもそもの野心の始まりであると、ジャンヌ・ダルクは見ている。
「あの田舎者はジョセフィーヌ嬢に恋い焦がれたために、身分不相応の地位につくことを考えたのだ。軍人のままでなら、英雄でいられたものを」
教授は王党派の子孫であるので、ナポレオンを田舎者と侮蔑している。ペリーヌは功罪はともかく、ガリアの栄光を一時でも見せてくれたためか、肯定的であるのとは対照的だ。ジャンヌ・ダルクも戦略がダメダメなので、仏の軍事的英雄はどこかに致命的欠点があるのだろう。
「ナポレオン三世は?」
「伯父の七光りで皇帝になっただけのあの男の功績など、パリの改造と植民地の拡大程度のものさ」
「いいじゃん。改造されてないと、あそこはクソだらけやん」
「確かにな」
「教授、悪いけどさ、洗いざらい吐いてもらうよ、全部ね」
「フン。どうするのだね?対拷問訓練は自分でしているのだがね」
「いんや、中枢神経系を直接攻撃して見せようか?その手立てはある」
スカーレットニードルである。竹井に訓練を課したのは彼女であり、前史ではフェイトの異動に伴い、一時的に蠍座の黄金聖闘士になった時期もあるので、使える。
「なんなら、脳みそ全部覗けるけど?さあ、どうする?」
「君はやはりバトルマシーンだな、黒田邦佳。あの黒江綾香の後継者だけの事はある」
「後継のつもりはないさ。いずれ、先輩はカムバックしてくるから。さて、やろうか?その大物ぶった仮面を剥ごうじゃあないの、教授」
「大した自信だな、扶桑海七勇士の生き残りだという自信からかね」
「もっと大きいことさ。ジェニファー大尉を内通者に仕立て上げてた事は知っていたよ?やってくれたね?これで大尉は銃殺だ」
「彼女は元々、ノーブルウィッチーズに招かれるべき資格はなかったことを気に病んでいてね、使わせてもらったよ。名誉勲章叙勲の経歴はあれど、貴族の血を持つことなど意味の成さないほど昔の事だというからね」
黒田はジェニファーJ・デ・ブランク大尉(当時。最終階級でもある)が内通者であり、今回は事が大事になったため、銃殺か、良くて終身刑と見込んでいることを話す。生還すれば、間違いなく名誉勲章は剥奪されるため、黒田は行方不明で処理するつもりだった。
「おい、クニカ!どういう事だよ、それ!」
「後をつけてたんですね、カーラさん」
「ジェニファーが内通者って、そんなはずねぇだろ…?」
「ウチの中野学校の連中に調べさせたことです、間違いありません」
後をつけてきたカーラ・J・ルクシックへ淡々と話す。その様子は黒田に冷徹な印象さえ与える。
「銃殺って……あいつはウィッチだぞ!?銃殺にされるはずがねぇ!」
「軍法的には極刑に値する利敵行為です。良くて終身刑ですよ」
「だからって、こいつらに利用されてたから、減刑の余地はあるはずだぞ!?」
「減刑されても、名誉勲章は剥奪だし、不名誉除隊扱いですよ?リベリオンで不名誉除隊はどうなるか、知ってますよね」
「…」
リベリオンで不名誉除隊は社会的不利益が大きい。比較的寛容な扶桑でも、不名誉除隊は不利益を被る(村八分や勘当など)可能性が大である以上、リベリオンでは社会的死に近いほどの屈辱である。ウィッチであろうと、その不利益からは逃れられない。黒田は行方不明と処理することで、名誉は守ろうとしていたので、慈悲があるほうだ。
「だからって、お前、あいつを戦死扱いにしようってのか!」
「別人にするんですよ。適当な名前を与えて、その人として生きてもらう。それが最善ですよ」
不名誉除隊となった場合、ジェニファーは南部の名門出身であるため、家庭崩壊を招く恐れがある。その可能性を避けるため、黒田は彼女に『ジェーン・スミス』というありきたりな偽名を与え、別人になってもらうことを考えていた。それをカーラに話す。
「別人にするって、おい!?」
「この事件が明るみになれば、どの道、ウチの部隊は空中分解です」
「私の思惑は達成されるわけだな」
「教授、ウチを解体しても、それが『高貴なる者の義務』に叶うことなの?」
「過程は重要ではない。大事なのは結果だ。リベリオンの自由主義者が隊を空中分解に追い込んだという」
「ふーん。子供を洗脳して、戦闘員に仕上げていたわけだね」
黒田とカーラの周りをすっかり、教授の配下の工作員が取り囲む。とはいうものの、子供である。しかし、ウィッチにとっては厄介な敵だ。
「子供は大人より従順だ。それ故に扱いやすいものさ」
「なるほど、それがお前のやり口という事か……」
「……まさかその格好は『リリィ』!?」
「色々と都合もありまして。遅くなりました、クニカ」
ハインリーケ……とはもはや言い難い。近世以前の騎士の甲冑を着込み、ドレスのような騎士服を着込む姿は、顔以外はまさしく『セイバー・リリィ』である。カリバーンも携えており、まさしくそれは英霊としての覚醒の始まりである。
「ハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタインか……その格好はなんだね。少女騎士でも気取っているのかね?」
「私としては、気取っているのではないのだがな、教授とやら」
「その剣、エクスカリバーとでも言うつもりかね?君の国なら、それはグラムだろう」
「教授、貴様のいうように、これはエクスカリバーではないさ。だが、勝利すべき黄金の剣だという事だけはハッキリ言っておこうと思ってな」
「勝利すべき黄金の剣だって事だよ、教授」
「カリバーンだと!?馬鹿な、あれは……」
「『我が配下の騎士たちが湖に還した』、そう言いたいのだろう?こうして、我が手に戻った。どういう意味か分かるな?」
「アーサー王気取りかね」
「違うな。転生したのだと言っておこう。貴様の知る伝説の存在がな」
「まさか、そのような事が…」
「妾がその証拠だよ、教授?」
ハインリーケ、いやアルトリアは遊んでみせた。妾と言ってみせたあたり、ハインリーケではないが、完全にアルトリアとも言い難い状態だからこそ、実現した容姿と服装であった。勝利すべき黄金の剣を携え、選定の剣に選ばれし者であったということを敢えて誇示する。カーラは状況のあまりの急転直下についてこれず、パニックになっている。
「どういう事だ、クニカ!」
「選定の剣の騎士王って知ってます?」
「アーサー王伝説のことだろ!?なんでこういう時に……って、まさか……マジか?」
「ええ、大マジです。ハインリーケさんは生まれ変わりなんですよ。アーサー王、いえ、その真名はアルトリア・ペンドラゴンっていうんですけど」
「はぁ!?なんだよそれぇ!?」
「とにかく、ハインリーケさんが持ってるのはカリバーン!そんじょそこらの鈍らがいくつ集まっても敵いっこない聖剣です」
「選定の剣なので、武器としてはあまり使えないんですが」
「つまり、あんたはブリタニアの元・王様の生まれ変わり!?」
「そういうことです」
恥ずかしそうに頷くハインリーケ(アルトリア)。カーラには誤魔化しようがないので、真実を話すことにしたアルトリア。これが彼女の第二の生での初陣であった。
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