外伝その251『対立と可能性4』
――映像では、B側はひたすら、お互いのレベルの違いに戸惑い、翻弄される様子が映し出されていく。当たり前だが、戦闘レベルそのものが飛躍しているA世界では、ウィッチ同士の戦闘すら起こるため、その点で及ばないのは仕方がない。また、A世界特有の事情で姿と名を事実上、かなぐり捨てた者(リネット・ビショップ/美遊・エーデルフェルト)、止むに止まれぬ事情で改名し、姿を変えた者(アレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク、つまりサーニャの本名…と九条しのぶ/イリヤスフィール・フォン・アインツベルン)もいるのだ。一部は隠されたとは言え、一部のウィッチには仕方ないので、事情は説明されているが、箝口令が引かれている。B世界のウィッチはA世界の同一人物の代打になれない者が多数派であり、事実上、戦闘能力を失っているレイブンズBの例もある。芳佳とて同じで、互いの性格が違いすぎて、代打は見送られている。リネット・ビショップは、もはや当人が美遊・エーデルフェルトとして生きる道を選んで、檜舞台から降りているが、当人が家族を安心させるための影武者を必要としたので、Bがその任につくこととなったという――
『そう言えば、2010年代の日本のニュースを隼人にチェックさせてるが、旭日旗の問題でも揉めたとあるぞ?気になったらしくてな』
「ああ、それ。日本の左派が騒いだけど、学園都市が大陸を怯えさせて、扶桑が制裁加えたら、大陸がピタリと止めたのよ。騒いだのは国内の左派よ。そういう人たちは自分さえ良けりゃ良いってやつ。自己満足よ。精神的自慰と言っていいわね。自分達の行き過ぎた暴力が世間の同情を無くした事に気づいていても、引き返せないのよね」
神隼人は学生時代、学生運動家であったため、興味があったらしい問題。日本の左派の急進的な者たちが学生運動が萎んだ後もテロ活動を続けた理由の一つとして、クロのいう事は的を射ていた。青春をかけたものを否定されたくないのだ。2010年代後半になると、彼らももう老人になり、後継者など望めない情勢になりつつあった。それがオラーシャを共産革命に追い込もうとした彼らの原動力だった。45年8月の時点では、オラーシャは各地を独立で喪失し、ウィッチ供給の一大拠点たるウクライナをも失い、国として大きく弱体化してしまった。その損害を突きつけられても、彼らはロマノフ王朝を打倒すれば、現地の人々は農奴から開放されたのに!と自己弁護を行った。それが自己満足に過ぎないと現地に断じられたのは皮肉なもので、オラーシャの人々は体制の転換による混乱を怪異に利用される事を嫌がり、体制の維持を何よりも優先したのだ。左派的世論はこの失策ですっかり衰え、代わりに中道右派的世論に染まる日本。
「で、旭日旗に海軍旗がなったのは、扶桑を日本が説得していたのよ。扶桑の軍旗は日本には馴染みがないから、旭日旗を使うように言ったのよ。扶桑も折れて、今の時点では飛行機の標識まで日本式よ」
扶桑の固有海軍旗は廃止され、45年からは旭日旗に統一されたし、飛行機のラウンデルも日の丸に変わっている。そのため、ラウンデルの書き換えが前線では急いで進められた。そのため、旭日旗と日の丸は、扶桑にとっては『新時代の証』である。
『なるほどな。まあ、俺たちもいるから、その都合もあるだろう。日本といえばミートボールだしな』
扶桑軍出身者には快く思わない者も多いが、日の丸は確かに識別が簡単であるので、軍事的都合が優先されたと言える変更である。また、扶桑のレシプロ戦闘機の多くの機種にとっては、この戦(ダイ・アナザー・デイ)こそが最初で最後の華であるため、現存する生産数の8割以上がかき集められ、使用されている。ガリア軍がいきなり大打撃を被ったのをカバーするためだが、扶桑は局地戦闘機はあまり重視されていなかった(防空に必要な数は生産してはいたが、日本側に鬼の首を取ったように責められウィッチ装備を減らし、実機の生産数を増加させる羽目となった)ので、大パニックが起こってもいた。結果、高度10000mを悠々と飛行する爆撃機を迎撃する訓練を積んでいなかったウィッチ部隊は解散を命じられ、その人員の受け皿に64を充てがった結果、どんどん肥大化していったのである。こうした、対超重爆想定の数を重視するドクトリンは、ウィッチ達の政治抗争を激化させる一端を担うことになる。こうしたウィッチ軽視ドクトリンは日本の一般世論がB-29への復讐を強く志向する一方、『富嶽』などの侵攻に使う兵器の配備を抑えようとする事を容認していたからに他ならない。富嶽系統は結局、他国が扶桑軍備の増強を要望したので、反対論を押し切る形で配備が強行される。(衛星軌道のミサイルを迎撃する防空網の整備で戦略爆撃機の配備に疑問を呈された)また、統合戦闘航空団は結局、対人戦争での有効性が疑問視されたものの、軍事的協調のシンボルであったため、象徴的に二つの部隊が維持される以外は統廃合がなされ、507もハンナ・ウィンドが二代にして、最後の隊長となった。各国は統合戦闘航空団を政治の駆け引きに使用していたため、軍事的合理思考で統廃合が進んだ事は二大国の覇権を固定化させてしまうとしての危惧を述べたが、ブリタニアとカールスラントの権力誇示に使われているという批判に押され、結局はドイツからのスコア粉飾疑惑と重なって、カールスラント空軍が衰退に向かうため、逆に扶桑空軍が旭日の栄光に向かう事となる。その巻き添えを食らったスオムスは扶桑の顔色をうかがうような外交がこれ以後、定着していく。45年には軍のエース達の引退期に入っていたからで、統合戦闘航空団という人材を呼び寄せる大義名分も喪失し、大ピンチに陥った彼らは扶桑に従順になる事で、国としての生き残りをかけたのである。(カールスラントもGウィッチ/Rウィッチ以外のエースが46年頃に退役を控えている)総括すれば、ダイ・アナザー・デイはカールスラント空軍最後の輝きであり、空軍先進国に扶桑が躍り出る最初の戦でもあった。実際、45年次のカールスラントは初期からのベテラン勢があがりが見えてくる時代を迎え、世代交代期に差し掛かっている。本土奪還前にベテラン勢が引退されては、カールスラント空軍の沽券に関わる事態になる。G派はそこに付け込んだのである――
「カールスラントはそろそろ一線張ってる連中が減衰を迎える。カールスラント空軍は恐れてるのよね。ベテラン勢がいなくなれば、二流にレベルが落ちる事に」
「そうだね、ドイツ空軍にはエースが45年以降はいないし、人材レベルは小粒になるな。前の時はエーリカさんが持て余されたくらいにレベル下がってたし」
『日本だって、数十年は撃墜王級の逸材は出ないぜ。特に、事変で生まれた連中がもう引退期のはずだしな』
「扶桑はまだいいほうですよ。綾香さん達絡みでGがわんさかいるんだし。有用性にやっと一部の連中、自衛隊で幕僚長になる連中が気づいて、政策変えたし」
黒江達の有用性に気づいたのは、ウィッチ出身者を含め、同位体が空自で幕僚になる者達であり、自国の撃墜王がある世代まで出ないことを悟り、山本五十六を説得し、それまで黒江達で持たせる事を了解しあった。それが扶桑のプロパガンダ政策の一大転換点であった。実力者はいるが、自衛隊世代は戦果がないという点で、扶桑のプロパガンダに向かず、それも大戦世代のGを押し出す理由であった。フーベルタはこの時、『まさか、自分の発言で言い訳する羽目に…』と嘆息するはめになったが、平和な時代の生まれのウィッチ/パイロットの実力を侮っているのかと批判されたからだ。また、立場的にも、自己のスコアがかなり差っ引かれた上、扶桑の古参がもう数字で推し量れるような次元を超えし化物であったため、自嘲気味に『実力を肌で感じられるならスコアも関係ないな』という、事実上の前言撤回をし、ハルトマンにネタにされたという。サーシャが隔離中に着任したため、引き継ぎはハルトマンが代行していたし、挨拶も殆どできていないが、声がマリーダ・クルスと似ているのがネタにされており、ネタ要員に早くもなっていた。
――新501基地――
「おい、ハルトマン。笑うな!こっちは収容所から逃げて来て数ヶ月と経ってないんだぞ!それがいきなり大佐で、しかも、メイド服なんか着させられて労働させられていたんだぞ!」
「まー、いいやん。二階級特進で給料上がるし、ファンネル使えそーな声だろー?」
「それとそれは別だぁ!まったく、眼帯メイドなんて、連中の収容所長の趣味に適って、強制労働だ。そのおかげで強化手術からは逃れられたが…」
「強化人間よりはマシだよ。あれされると、廃人コースの使い捨てだ。ティターンズの技術は初期段階の未熟なものだし、ネオ・ジオンに比べるとお粗末なもんだ。サフォーノフ中佐は精神破綻した殺戮マシーンにされたとしか考えられないよ、救う手段は……」
「ないのか…?」
「ティターンズの技術レベル的に、良くてフォウ・ムラサメ、悪くてロザミア・バダムのレベルだ。八割は精神破綻者さ。よほどの奇跡を起こさないと無理だよ」
「馬鹿な……!なんとか手はないのか、手は…」
「一個だけある。可能性の獣の力を使うことさ」
「可能性の獣……」
「フルサイコフレームを持つガンダム、RX-0『ユニコーン』。その姉妹機『バンシィ』のもう一つの姿『バンシィ・ノルン』の力を持つパワードスーツをトゥルーデが発注しているんだ。それを借りる?」
「いいのか?」
「フーベルタの実力なら扱えるさ。それにこれから控える戦に備える必要もある」
「引き継ぎはお前がなぜ代行を?」
「問題起こして錯乱状態なんだよ、奴さん。それで表ざたにもできないから、隔離中。ヒーローの基地の一番奥のブロックにね。口がまともに聞けるまでは続けるし、本国送還を待ってもらってるんだ。家族がどえらい目にあったって情報の裏を詳しく取ってるとこでもあるしね。のび太には苦労かけるなぁ」
「ああ,お前の友人の?」
「うん。のび太は多分、『子孫への転生って形で、いつか会えると思う』って言ってる。のび太は今ある肉体での不死化は望んでないし、子孫に未来を託したいと言ってるけど、神々は存在の不滅化を望んでるからね。その折衷なんだろう」
「なるほど」
不死化を望まないのび太と彼の存在を保存したいオリンポスの神々との思いの差は、結局、運命を掌る女神達が議論を交わした末に、転生という着地点が見出されたことで決着する。のび太が言及したのは、それを見越しての事だ。
「カールスラント空軍はこれから衰退期に入るよ。ナチ絡みでエースの多くが追放されるだろうし、前史であたしが持て余されてるのがその証明だよ」
「確かに、国家そのものも政治的に追い詰められるからな。バダンと戦ってきたのにな…」
カールスラント空軍はハルトマンの言う通り、エース級のウィッチの多くが思想調査(同位体がナチ崇拝者かどうかも対象)で弾かれていく事で、次第にノウハウが失われ、衰退していく。軍需産業も商機を失った事で、経営が傾き始め、技術者の離散が始まる。自由リベリオンが当時からすれば画期的なジェットストライカー『F-86』を製造に成功し、それが普及するからだ。また、海軍がペーター・シュトラッサーの事実上の返還を選んだ事で莫大な違約金を支払う上、メッサーシュミット問題でドイツ側にしこたま絞られ、制裁として、ゲーリングに進言したとされる何人かの参謀と高官が罷免された事もあり、カールスラントは踏んだり蹴ったりの状況に追い込まれる。(カールスラントにとっては新鋭機であったので、軍事的には理に適っていたが、結局、ドイツ側にしこたま絞られ、人事への介入を招いたのは誤算であった)
「ゲーリングのアホのせいで、カールスラントのブランドはズタボロだよ。扶桑はもうトムキャットを配備しようかって話で、じきに超音速の時代だよ。それにレーダー完備だから、下手なナイトウィッチより使えるし」
「仕方がない。ナイトウィッチの索敵魔法は空域全部をカバーできん。それにミノフスキー粒子が欺瞞に効果があるなんて知られたのは、去年のことだぞ。こうした大規模空戦自体、ウィッチには想定外だ」
「言い訳しても始まんないよ。とにかく、どんな方法であれ、戦果挙げないと、軍から放逐されかねないからね」
「それがパワードスーツであれ、戦闘機であろうが、機動兵器でも、か?」
「そういう事。非科学的だって謗られてるからね。世代として人数が絞られる場合もあるから、近代戦には本当は向いてないんだよ」
「ウィッチは平和な時期には大人数は出んからな。しかし、怪異の対処が軍の管轄からほとんど外れた以上、ウィッチの行き場はほとんどあるまい」
「そう。だからこそのあたし達だ。スーパーロボットと肩を並べて戦えるのは、あたしらだけだ。ウィッチが軍隊にいられるかどうかを本当に決めるのはこれからさ」
シニカルさを表に出すハルトマン。ウィッチの政治的立場は扶桑での政治抗争の激化を始めとし、45年当時には危うい状態でしか無かった。同位国を納得させるには、21世紀水準の兵器を超えるキルレートを叩き出すことしか手段はない。それが軍良識派がGウィッチに課した使命なのだ。
「向こうの十字教からすれば、本来は魔女は狩るべき存在だが、現地が必要とすれば生かす方針だ。連中への抑止力としても、あたし達は必要とされたんだからね」
十字教はたとえ平行世界であろうと、異端殲滅を推し進めようとしたが、現地情勢との兼ね合いや、かの吸血鬼と同格と思われる高位のGウィッチの存在(とりわけ、オリンポス十二神の守護闘士たる聖闘士がいるのが効いた)で非公然の異端殲滅を諦めたという裏事情を語る。高位のGウィッチは非公然の抑止力としての価値を見出されたのである。ハルトマンはここ最近はシニカルな立ち位置にいると言っていいため、後に現れるBより精神的に、ある種の割り切りすら感じさせる大人になっている。
「ハルトマン、ウィッチはこれからどうなるんだ?」
「科学技術の中での生き残りを図るしかないよ。時空管理局の魔法もかなり科学に寄ってるからね。今までもそうだったけど、その傾向が加速するだろうね」
ハルトマンの言う通り、日本の21世紀水準の科学技術が雪崩れ込む事で、扶桑皇国は一気に比肩する者もない技術大国へ飛躍していく。カールスラントは日本連邦の苛烈な報復を食らい、技術立国のブランドを喪失し、外交パイプも多くが潰され、新京条約に失望した産業技術者の離散が始まり、国そのものが傾いてしまう。流石に同情したアメリカによる救済がなされ、一定の水準は維持できたが、往時には及ばなかった。特に海軍のイメージの低下は顕著で、空母愛鷹を持て余した点はデーニッツの大誤算と言えるイメージ低下を引き起こし、わずか数年で、『潜水艦以外は見るべきところはない』というところにまで落ちてしまう。そのため、往年の太海艦隊を知る水上艦隊閥の巻き返しが始まり、ザクセン級フリゲートなどの購入が進められていく。また、旧海軍系の戦艦は日本連邦へのカウンターパート的意味合いで存在意義を見出され、その保有が継続されるが、提督達を満足させるための道具、海軍の象徴的意味合いが強かった。良くも悪くも、遠征をしない沿岸海軍へ変質してしまったのである。対しての戦艦の活用の積極性で日本連邦の積極性は各国の範とされていく。ダイ・アナザー・デイはその半数以下しか動員出来なかったが、主力が50cm砲級戦艦というのは、扶桑の砲研究の賜物と評価された。当時、41cm前後が主流であるところを51cm砲であり、それを自動装填装置で撃ちまくる。この驚異は欧州戦艦を尽く陳腐化させた。日本海軍の試算では6発で従来式戦艦を戦力半減に追い込めるとされた46cm砲が目じゃない火力でありつつ、近代装備でイージス艦の能力さえ持つため、実質、45年当時の兵器には無敵である(一撃で通常の戦艦の戦闘能力を半減させられるため)からだ。
「これから、マスコミ向けの声明を出すから、フーベルタは大人しく祭り上げられてな。それに、ガランドやメルダースと同じところにいたからって、優秀とは限らないって見られてるから、とことん下手に出てな。それに、今は日本の連中が連合軍にも介入し始めてるから、実直な軍人を演じてればいい」
「実直、か…」
「そう。何で揚げ足を取られるかわからないからね」
「日本はやりすぎだぞ?なぜ連合軍を想いのままにしたがる?」
「敗戦のお返しのつもりさ。特に左派連中が後押しするんだよ。多分、エースの四割が残ればいいほうさ」
「ハルトマン、それは悲観的じゃないのか?」
「ナチ絡みの思想調査は苛烈だよ。まず6割は弾かれる。多くが国軍系だから大丈夫とは思うんだけどね」
ハルトマンの言う通り、ドイツの思想調査はかなり陰湿なやり口であり、これで空軍が大きく弱体化してしまい、後に何割かは呼び戻される。結局、追放された者達がバダン入りして、敵を却って強くしただけだったのが判明したからだ。人材を区別しておくことでエースの温存に成功した扶桑空軍が勃興していくのは当然の流れである。海軍航空隊が弱体化したとは言え、精強無比な空軍をバーターで手に入れたも同然なので、元々、空軍に航空任務を背負わせるつもりだった者達は歓迎したが、結局は空軍の負担低減という軍事的都合で海軍航空隊の再建を嫌々ながら行うことになる。これは日本にジェット時代の空母機動部隊のノウハウがなかったためで、ある意味、財務省や背広組の認識の甘さが露呈したと言える。また、2009年から数年の間の連邦化交渉の停滞は鳩山ユキヲのちゃぶ台返しと、現地軍の解体、全部隊の自衛隊への編入を持ち出したためであり、日本の左派は失態に定評を得てしまったりする。
「日本だって、航空は空軍に背負わせようとして、現場にしわ寄せがいくからってんで、海軍航空隊を再建する方向になるから、連中は思ったようにいかなくなると、すぐにぶん投げるからね。現場はたまんないよ。理不尽に優秀な人材を排除されるから。だから、扶桑は敢えて区別することで温存するのさ」
「扶桑はどうやって先方に説明している?」
「Gウィッチ。元はウチらの内輪で使ってた単語だけど、この際だから、公式にするわー」
Gウィッチというのが、扶桑のウィッチ発案の造語である事が分かる。そして、ラルも扶桑への義勇兵という形で太平洋戦線に自分らを送り込む考えである事を公言しているというハルトマン。カールスラントにできる扶桑への償いはそのくらいだった。兵器は既に後世の『日本製品』や米国製品が席巻し、カールスラント製品の入り込む隙間は殆ど残されていないからだ。
「空自は『海自の哨戒機やヘリはどうするんだ?って話に成りかねんのに、なに渋っていやがるんだ?意味の無い言い合い続けやがって』とか愚痴ってる。当たり前さ。多分、それが問題になるから、立ち消えだろうさ」
「うーむ…。しかし、扶桑国内で内紛は起きるんだろ?」
「できるだけ最小限に抑えたいけど、理解があるはずの扶桑で内紛が起きれば、世論が排除の方向にいっちゃう。だから、あーや達の凄さを啓蒙していかないと、ウィッチ社会そのものが崩壊しちゃう。元々、人間ってのは毛色が違う者を排除したり、生贄にする生き物だしね」
ウィッチ社会の崩壊。この頃には未来世界から持ちこまれた兵器がウィッチが現状で発揮できる能力を上回る能力を見せており、結果として、ウィッチの肩身はどんどん狭まっていた。オラーシャ革命を目の当たりにした扶桑皇国軍良識派の提督や将軍達は、彼らの先任達が死亡、もしくは引退前にひた隠しにしたレイブンズの戦果を敢えて公表する事で、ウィッチ部隊の保全を図った。奇しくも、黒江が約束された勝利の剣の継承者(後で、モードレッドの嫉妬を買ったが…)になっていたり、圭子はゲッター線の使者になっていたという、日本受けする要素を存分に備えていた事もあり、ダイ・アナザー・デイ中には、その日本向けアピールが成功し始めていた。その副作用が扶桑国内の内紛という、先任達の選択ミスの代償なのは、その先任達の大いなる罪であった。
「これから、どうやってヒスパニアに行くんだ?ミーナの乗った定期便には、仕事の関係で同乗しなかったんだろう?」
「コスモタイガーの三座型があるから、それでいく。機材の多くはメネシスに載せちゃったしね」
「お前、ジェットの操縦資格を?」
「VF使う関係で取った。コスモタイガーなら、巡航で15分もあれば、マドリードだ」
格納庫に残っていた三座型コスモタイガーに乗り、二人はマドリードに向かう。新501基地は統合戦闘航空団の基地になる事を前提に整備されているので、耐熱アスファルトの滑走路を完備し、米軍大型輸送機の発着を可能にしている。コスモタイガーであれば、短めの滑走路で対応できる。(コスモタイガーは規格統一の一環で、ガイアにもライセンスが発行され、1式空間戦闘攻撃機という形式で配備されていく。アースでは『一式宇宙艦上戦闘爆撃機』であるため、そこが違いだろう)23世紀初頭当時、地球圏で最も廉価で性能バランスに優れる通常サイズ戦闘機の名を欲しいままにする同機はウィッチ世界でも存分に使用されている事を示す一幕だった。
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