外伝2『太平洋戦争編』
五十五話『扶桑より愛をこめて』
――神域に至りつつある智子。それに従い、体に宿った小宇宙も強大化しており、青銅聖闘士を超え、白銀聖闘士をも超え、あっという間に黄金聖闘士の域に到達しつつあった。これは神としての位階に存在が高まりつつある証拠と言える。
「あ、あら?なんか一気に……」
「お前、この戦いのうちに小宇宙が黄金の域になったってのか?反則だな、こりゃ」
「んな事言ったって、あたしは聖衣もないのよ?攻撃食らったら……」
「いや、その心配は無用だ。……来たようだ」
「え!?」
――なんと、飛来したのは水瓶座の黄金聖衣だった。智子がオーロラエクスキューションを撃っているのに呼応したらしい。オブジェ形態から分離し、装着される。
(氷河と亡きカミュの計らいだな。あんがとよ、お二方)
智子の気質は、水瓶座(アクエリアス)に近いモノがあったのか、大神『ゼウス』の計らいで、水瓶座の黄金聖衣が送られてきた。本来の次期装着者の氷河、それと戦死したカミュの意思が智子を認めたらしく、借り受ける形で、水瓶座の黄金聖衣を纏った。(クールになりたいが、それになれないところなどに共通点があった)
「アクエリアスの黄金聖衣……。いいの?これ……?」
「氷河に感謝しろよ?あいつがうんと言わなけりゃ、そいつは纏えねーんだし」
「いいの?本来は氷河が着るべきものなんでしょ、アクエリアスは」
「いずれ、な。が、今はお前に貸し出されたものだ。どうやら、お前がもしも、私と同じように聖闘士になっていれば、アクエリアスに成りえたようだな」
「誰が送ってきたのよ、この聖衣」
「ゼウスのおっさんだな。あのおっさんエロいからな……」
「会ってるの?」
「修行中に一回な。神話通りに、下半身は元気だよ。ヘラのオバハンが愚痴るのも無理ねーよ」
黒江は修行中にゼウスに対面したのか、割とフランクに言う。オリンポス十二神の長でありながら、浮気性なのは神話の通りであるのが分かるが、ゼウスは割と子に甘いらしい。
「ま、とにかく、艦隊の泊地の砲台を黙らせるぞ。エクスカリバー!!」
「ダイヤモンドダスト!!」
水瓶座は基本的にダイヤモンドダスト、ホーロドニースメルチ、フリージングコフィン、オーロラエクスキューションを継承技にするが、それではないものもある。それはこの時の智子の知る由もないことだ。そして、この時までに、黒江はエクスカリバーを日本刀を抜くモーションで構えるようになっているため、シュラに近い性質を持つが、エクスカリバーについては、シュラよりも、そのさらに先代の以蔵に近い性質のエクスカリバーに鍛えているのが分かる。(山羊座の以蔵。実は前聖戦を生き延び、引退した後、シュラが幼年の頃までは存命だったようで、シュラにエクスカリバーを継がせ、その後に死去している。シオンと童虎の先輩の聖闘士)そのため、エクスカリバーといいつつ、浮かぶイメージが大太刀である。
「さて、雑魚共が来たぞ。軽空母から上がってきたな」
「ここは任せて。ちょっと残酷だけど……ダイヤモンドダスト・レイ!」
智子が放ち、口走った技『ダイヤモンドダスト・レイ』。これは三代ほど前の水瓶座の黄金聖闘士『クレスト』の技で、カミュの代には失伝したダイヤモンドダストの派生系。従って、カミュと氷河は継承していない。絶対零度のダイヤモンドダストの光の乱反射で相手を氷結&失明させるという技で、当然、食らったら失明する。そのため、超視力を持っている者はその効力を失わせ、普通の視力であれば失明する。光が網膜を焼くからで、食らった者たちの『豚のような悲鳴』が響き渡る。
「目が、目がぁ!?」
「超視力を発動させているのに、視野が広がらないぃぃ!」
と、狼狽える声も響く。
「グラン・カリツォー!」
智子は水瓶座の失伝している技を次々と放つ。グラン・カリツォーはカリツォーの強化型で、圧殺にも使える。それが光速で締め付けるので、ストライカーを残してミンチになるのが続出する。
「お前がそれなら……電弧放電(アークプラズマ)!!」
ライトニングプラズマには上位技がある。その一つがアークプラズマである。『炎を纏うライトニングプラズマ』とも言うべき代物で、智子と共にある内に、魂の共鳴現象により撃てるようになった。アイオリアすら存在を知らない技であり、アイオロスが知っていたとも噂される。威力は通常のプラズマを凌ぎ、かすっただけでストライカーを蒸発させ、ウィッチを墜落させる。
『吹き飛べ!!ライトニングフレイム!!』
ライトニング系の技のバリエーションの一つ、ライトニングフレイム。熱を帯びた電光が全てを焼き払う技で、ライトニングボルトの上位である。そのため、技のインパクトはトールハンマーブレイカーに匹敵する。電光は泊地に残っていた補助艦艇を焼き払い、粉砕する。見かけはものすごいが、やる事はサンダーブレークと似たようなものだ。
「お前といることで、記憶が流れ混んで来やがった。先代……シュラが遭遇した出来事を平行世界含めて。ややこしい能力だな、智子よ」
「あたしもわかんないのよね。知らないはずの技がスラスラ出てくるのよ。それで、手慣れたように撃てる…」
それが神域と至る智子の力の一端。聖衣の記憶を脳裏に宿らせる『時間操作』と『記憶の引き出し』能力の複合である。使い魔と融合が進んだ事でなし得る芸当だ。
「お前、気づいてないようだけど、お前、もうウィッチの域を完全に超え、黄金聖闘士をも超え始めてる。そう、神域に足を踏み入れ始めてるんだ」
「神……?あたしが?」
「思い出したんだよ、『復活した』時、お前は神の一柱になっていたんだ、靖国でな。それを逆行した事で封じられてたようだけど、次第に力が強まっていく。私が聖闘士になったら、呼応するように急激に。そうでなきゃ、いきなりオーロラエクスキューションなんて撃てるか」
「そう……よね?何が何だか……」
「お前は神になり始めてるんだよ。人を超えて」
「神……」
「あのぉ、私達を置いていかないでくださ〜い……」
「あ、すまん。すっかり忘れてた。解説する。今の芸当見て、戦う意欲がある奴なんていないだろうしな」
芳佳の愚痴で我に返る二人。そして解説する。攻撃はすっかり止んでいる。先程の攻撃で武器は破壊され、上がってくるウィッチもMSもいない。
『しかしだ。あれは中々の攻撃だったぞ』
「超光速を見切りますか!?」
『避けるのに苦労したがな。ビームを避けられる俺が、あの雷光に当たると思うか?』
「ハハ、ドモンさん。バケモンですって」
眼下のリベリオン艦隊は同航戦を仕掛けるブリタニアと、反航戦を仕掛けた扶桑の殴り込み艦隊との二正面作戦を強いられ、苦戦が目立つようになる。そして、モンタナ級戦艦が業を煮やしたが、いきなり、ミサイルをブリタニアのライオン級にぶち込む。さすがのライオン級も、いきなりハープーンミサイルを非バイタルパート部へ叩き込まれたのは堪えたか、火災を起こし、ガクンと速度を落とす。
「あ、クソ、奴ら業を煮やして、近代兵器使いやがった!ブリタニア艦隊にゃ迎撃できねーぞ!」
モンタナ級戦艦と、アイオワ級の健在な艦から、次々とハープーンミサイルが打ち出される。目標は、ミサイルに迎撃能力を持たないブリタニア艦隊。この時代の対空砲では、ミサイルを落とす事は不可能に近い。すぐにセントジョージ級の砲弾がランチャーを破壊したり、大和と信濃の砲弾が命中したりしたが、既に放たれた後であり、ブリタニア巡洋艦と戦艦に次々と命中した。弾数は多くないが、命中した巡洋艦は当たりどころが悪く、大火災を起こし、戦艦は目立った損傷はないが、砲塔に当たり、その衝撃で内部の人間を揺さぶって、明かりを消した。しかし、それだけでも、時間稼ぎになったらしく、セントジョージ級の奮戦虚しく、僚艦へと集中砲火が浴びせられ、補助艦艇は年式の都合もあり、次々と被弾、脱落していく。
「提督、僚艦が次々と……!」
「これが速射砲の威力なのか……せめて、戦艦を黙らせる!」
セントジョージ級と言えど、大和に装甲で対抗できるモンタナ級を二隻も相手取っていては、僚艦の援護もままならない。損傷も増えていき、高射砲の多くは破壊され、小規模な火災を抱えている。
「提督、これ以上は……!」
「ええい、本艦を以ても撃沈できんとは……。役目は果たした!扶桑艦隊に後は任せて、全艦、反転離脱!」
ブリタニアの提督は自艦隊の損傷率が上がってきたのを見かねた副官から促される形で離脱を決断する。ブリタニアは砲撃戦を重視するドクトリンでないのも副官の判断理由だった。消化不良気味だが、役目は果たした。扶桑艦隊へ打電すると、水上打撃部隊は引き上げを始める。続いて、空母の艦載機が突っ込んでくる。新鋭空母なおかげか、ジェット機である。ブリタニアの本命と言える攻撃だった。
「お、バッカニアだ!ブリタニアも相当に無理して持ってきたな」
当時、最新型のジェット爆撃機を動員して、リベリオン艦隊に攻撃を仕掛けるブリタニア海軍航空隊。装備も扶桑と同じ『空対艦ミサイル』である。シーイーグル空対艦ミサイルが火を吹き、モンタナ級戦艦に命中する。ブリタニアはここ最近は扶桑に遅れを取っていたが、未来からの援助で史実より充実した航空隊を海軍が持てたのだ。(とはいうものの、文字通りの虎の子だが)そのために、ブリタニアの空母部隊は史実より小規模になった代わりに、虎の子の部隊にはジェット機が行き渡ったのだ。
「逆に言うと、今年はあれに予算使ったって事では?先輩」
「雁渕、言ってやるな。見栄貼りたいんだろう。奴さんも」
「ブリタニア海軍航空隊は遅れてると聞いていましたから」
「んな事言ったらよ、うちらだって内実はシッチャカメッチャカだぞ?まともなパイロットもウィッチも殆どいないから、こうして、うちの部隊が出張ってるんだぞ」
「それはそうですが、そんなにひどいのですか?」
「海軍航空隊の古参が抜けたおかげで、休暇が取れないくらいに半年の予定埋まっちまったんだぞ!せっかく、今度の休暇でバイトしようと思ってたのに」
「せ、先輩……」
「今度、私に付き合えよ?バイトの予定伸びたから、定食屋のおっちゃんに謝ってきたんだし」
黒江は予定がぶっ飛んだのを相当に根に持っているようだ。小遣い稼ぎのバイトを基地近くの定食屋でやっており、そこの店主は黒江の釣り友達である。そのバイトに孝美を強引に巻き込むのだった。
――ブリタニアのバッカニア部隊の第一波が去った直後、遂に『彼女』たちが到着した。
『ザァウルガイザァアア!』
『ファイヤーブラスタァアアア!』
サウスダコタ級にその二大必殺武器が炸裂し、爆発する。
「ハッハッハ〜!後はあたし達に任せろ〜」
「あ、出してもらえたのか、お前」
『俺達もいるぜ!ダブルライトニングバスターー!!』
Wゴッドサンダーが炸裂し、Gカイザーとゴッドも駆けつける。
「おい、甲児。あいつのあの格好って、もしかして、大空魔竜ガイキング?」
「そうだよ。名前はガイちゃん。オリジナルの方だか、リメイク版なんだかはわからねぇけど」
「そうさ。よっろしく〜」
軽いノリだが、大空魔竜ガイキングの力を行使できるガイちゃん。見かけは10代半ばの少女だが、その力はスーパーロボットに恥じない凄まじいもの。
「おっしゃあ!カウンターパァンチ!!」
「負けるかぁ!ターボスマッシャーパァアンチ!!」
手袋が打ち出されるので、あくまで人間サイズのものだが、威力は本物と同等なので、当然、デモイン級のバイタルパートを余裕で貫く。
「光子力ビーム!」
「デスパーサイト!!」
と、対抗心まるだしの二人だが、人間サイズのスーパーロボットが暴れると考えれば、これ以上に恐ろしいものはない。
『食らえぇ!ハイドロォブレイザァア!』
ガイちゃんは星飛○馬(右投手時)張りの投球フォームでハイドロブレイザーを投げる。大空魔竜ガイキングの主人公『ツワブキ・サンシロー』がプロ野球の投手であった設定を反映したのか、妙に『巨○の星』を意識している。ハイドロブレイザーは凄まじい回転をしながら、アイオワ級に命中し、大穴を穿つ。
「いっやったぁ!お次はパライザーで……」
「いいや、ここは任せてもらうぞ!」
「なのはか!アイアンリーガーの魔球でも投げんのか、お前?」
「ハイドロブレイザーの後だと、芸がないんで、これで!フレイムッ!ソ――ド!」
「あ、そっちか」
なのはは、ガイちゃんのハイドロブレイザーに目が行っているのを利用し、アイオワ級の上空でレイジングハート・エクセリオン改をフレイムソードにし、炎の鳥のオーラを纏う。これがなのはが選んだ『剣』である。威力はエクスカリバーには及ばないが、それでもアイオワ級を一刀両断など、容易である。本来、砲撃とする膨大な魔力を剣にしているのが、切れ味の秘密だった。
「お前、体への負担軽減〜とか言ってるけど、本当は私のエクスカリバーへの対抗だろー?」
「ちがいますってー、ウチのお父さんへの対抗用に覚えたんですよ。そのために勇者シリーズのDVDBOX買ったんですから。小太刀ごとぶっとばせる大技って考えてこれにしてみたんですよ」
「あのなぁ」
『道場ごと吹き飛ばす気満々の様である』と、某ち○まる子ちゃんのナレーションが聞こえて来そうな回答である。なのはは20歳を超え、子持ちになっても、父に挑むチャレンジ精神の持ち主であり、父の士郎もそれを受け入れている。この頃には20歳代で、空自に任官されているが、普段はBのいる世界のように、変に大人ぶらずに、子供のような天真爛漫さを維持している。言動が基本的に高校時代と変わっていないのだ。それでいて、仕事モードだと、ドスの利いたトーンの低い声を出せるという才能を持つ。そして、カイザーとなったZちゃん、ガイちゃんの攻撃は更に続く。
『フェェイスオープン!』
ガイちゃんはフェイスオープンという掛け声とともに胸部のレリーフをキャストオフし、超兵器ヘッド状態の武器を使用できるようにする技がある。これが現状のガイちゃんの全力である。
『ガイちゃんミサァイル!!』
ミサイルを乱射する。が、これは序の口。
『アブショックライッ!!』
強烈な閃光を浴びせ、艦橋にいる者の目を一時的に眩ませる。そして。
『デスファイヤァアア!!』
ザウルガイザーより威力がある火炎を放ち、とどめを刺す。が、恥ずかしい格好になっている。装甲が無くなり、黒地に赤線で大空魔竜ヘッド描き込まれたTシャツ姿なのだ。威力と引き換えのリスクと言える。
「これ恥ずいから、あんまやりたくないんだよね。せめて別のパワーアップをしたいなぁ」
「フェイトちゃんの真ソニックモードよりはマシだとおもうな」
と、別のパワーアップを求めるガイちゃん。そのパワーアップは後に『ザ・グレート』という形で具現化する。そんなガイちゃんを上回るのが、Zちゃんだ。
『ルストトルネェエエド!』
ルストトルネードでエセックス級空母を崩壊させ、カイザーブレードで雷槌を招雷する。
『トォオオルハンマァアアア……ブレイカァアア!』
大暴れもいいところだ。しかも、ZEROから生まれた事の証明のように、顔がニヤリと笑っている。その『破壊を楽しむ』点が『ZEROの子』である所以だろう。
(ガイちゃん、あれがあの子の?)
(あんのクロガネ頭、暴れる時は加減しらねーかんな。環礁ぶっ壊すぞ、あれじゃ)
呆れるガイちゃん。暴れるカイザーZちゃん。マジンカイザーのパワー、スピード、防御を手に入れたためか、ノリノリで破壊を繰り広げる。
「おい、あんた達、あのクロガネ頭を止めてくれ。カイザーじゃ、あたしにゃ荷が重いぜ」
「しゃーねーな。んじゃライトニングテリオスで気絶させんか?」
『んにゃ、その必要はないぜ。俺がちゃ〜んと言い聞かせておいたからよ』
「大丈夫か?」
『ZEROが親なら、俺の言うことは聞くだろうし。あ、元気な野郎共がまだいたようだぜ?』
「やれやれ。んじゃ、消し炭になってもらうぜ!厳霊乃極(ライトニングテリオス)!!」
ライトニングプラズマの最上位技『ライトニングテリオス』。これはエイトセンシズに近づいている者にしかなし得ない所業で、威力はライトニングプラズマの比ですらない。その為、ライトニングプラズマの比ではない『雷槌』が敵ウィッチを覆い、焼き尽くす。黒江は智子と魂が共鳴する事で、エイトセンシズに目覚めつつあるのだ。
「しかし、聖衣に刻まれた記憶を呼び起こすたぁ、お前、神様になってるってことだぜ。肉体を持ったままで、な」
「どっかの漫画だと、亜神っていうカテゴライズに入ってたわね?」
「そそ。だけど、いきなりセブンセンシズに行くとは思わなかったわ」
「いや、エイトセンシズ、更にその先のナインセンシズもあるかもしれないしな。神に値するのなら、そこまで行けるぞ」
「ナインセンシズ、か。あんたへの償いとしては、いい手土産になったわね」
「今度は『置いていくんじゃねぇぞ?』」
「神になるなら、不老不死になるんだし、今度は大丈夫よ」
智子は逆行前、肉体が数百年の生で限界に達し、死する際に黒江を泣かせている。その記憶が蘇ったのか、その一言を言う。つまり今回は三人にとって、再度の『やり直し』だったという事になる。一度目はどこかで歯車が狂い、誰かを不幸にしてしまったという負い目を持ってしまったという事になる。そして、黒江が聖闘士になったのは、その二度目のやり直しでの事だった。『一度目』の時はライダー達を宛にしており、それが二度目の『心がへし折れる』出来事に繋がったが、二度は黄金聖闘士としての誇りがあるため、仮面ライダー三号にやられても、立ち上がれたのだ。黒江が『二度目』の時に聖闘士を知り、それになる選択をした真の理由。それは『神をも倒せるくらいに強い力で守りたいモノがある』と強く自覚したからだった。いつから再度の逆行をしていたのかは詳しくは明かしていないが、少なくとも、メカトピア戦の直後、芳佳と出会う頃であるらしい。その事実を最初から知るのは圭子だけだ。
「ヒガシは知ってるんだろーな。エンペラーのお導きあるし」
「でしょうね。何も言わないで、矛盾点を解消してくれてるのはあの子よ。あの子が色々と誤魔化してくれてるから、あたし達の行為も周りが納得してくれてるんだし」
「あいつにゃ感謝だな。さて、大和と信濃にここは譲ろう。おい、お前ら、上空警戒に移るぞ」
『了解』
一同は上空に上がり、大和と信濃の砲撃戦を見守ることにする。大和と信濃はまさに浮かべる『黒鉄の城』と言える威圧感で、近代兵装で高角砲や機銃、副砲が整理されたとは言え、第二次世界大戦型戦艦の改良であるのが分かる。
「お、いよいよガチンコだ」
大和とモンタナ級が再び相対した。能力は互角。火力では大和が、瞬発力はモンタナ級が勝る。艦隊は最優秀な艦がお互いに引き受け、次席以下が各個に狙うという構図となり、大和と信濃は無傷、モンタナ級は手負いというハンデを負っている。咆哮する両艦。両艦は引き続き反航戦になる形で、おおよそ15500という至近距離で相対していた。最終型の戦艦としてはありえないほどの至近距離だが、泊地戦ではあり得る距離だ。(1940年代に現れた戦艦達は本来、20000mで撃ち合うことを前提に設計されている)しかし、第一次世界大戦の時は当たり前の距離である。その事もあり、誰も不思議に思わなかった。そのあたりは提督級の考え方が第一次世界大戦とほぼ同じであるのが分かる。そのため、後知恵を持つ日本の記者からは悲鳴が漏れる。そこで解説に日本側から動員された軍事解説家が開設する。
『この時代は砲弾の威力は向上しているが、装甲も進歩しているし、15000までの距離なら、想定されていないわけではない』と。15000。それは第一次世界大戦当時からの安全距離のボーダーライン。大和はアウトレンジ攻撃を主眼で設計されたと誤解されがちだが、実際は『20000mから15000mで46cm砲の優位を活かす』という前提に設計されている。そのため、40000mという遠距離で撃つのではなく、海戦の常識の範疇と言える距離で撃ち合う。とはいうものの、15キロ先の目標を撃つのは現実味がないように見える。砲撃戦が絶えた時代の人間からすれば、砲撃戦はのんびりした戦いであるように思える。が、被弾で船は揺れる。が、強化された大和型のバイタルパートはモンタナ級戦艦の40cm砲を弾く。遠距離でないので、SHSはお互いに使えず、(遠距離でないと大落下角での砲弾とならないため、あまり好まれない)通常型徹甲弾を撃っているからだが、大和の弾頭は23世紀技術で高性能炸薬が使用されているため、榴弾→徹甲弾のコンボは効く。その甲斐あり、モンタナ級戦艦の第一砲塔が回転不能に陥る。内部の機構が故障したのだ。ミサイル装備は両者共に早々に失い、体力勝負となる。こうなると、如何に多くの砲弾を当てるか、が焦点となる。大和と信濃は先程からバイタルパートに12発を被弾したが、ミサイル装備が使用不可になったり、CIWSが破壊された程度だ。
「揺れますな」
「大和の砲撃防御力は世界最高水準のものです。我々の世界で撃沈されたのは、魚雷を10発以上被弾するのが想定外だったためです」
と、解説家は言う。実際、砲撃戦では史上最強レベルのタフさを誇るのが大和型である。ビスマルクのほうを評価する声もあるが、日本が想定していた艦隊戦でのタフさは大和型である。大和型のアキレス腱と言えた箇所が補強されているので、実質的な防御力はモンタナ級戦艦と互角である。大和型がモンタナ級戦艦より一世代前の戦艦である事を考えれば、この戦闘は極めて良好と言える。特に、戦後の一般人にありがちの『アメリカへのコンプレックス』が大和型を過小評価させているフシがあった。大艦巨砲主義の権化と言われる大和型も、想定通りの戦場さえあれば、無敵足り得る。その証明だった。ましてや、扶桑の大和型は史実と違い、紀伊型戦艦を長門型戦艦との間に挟んでいるため、元々、設計段階で史実よりも数段強化された間接防御を誇る。それを考慮すれば、自ずと分かるのだ。タフさの理由が。
「信じられません。戦前の産物がアメリカの最新鋭艦と互角など」
「大和型は元々、当時の日本最大最強の戦艦ですよ。ましてや、八八艦隊が普通に造れる世界、それも英国と蜜月の関係にある日本が造る大和型が強大なのは自明の理です」
戦前日本はお粗末な国という評判があるが、1930年代に自前の兵器で国軍の定数を満たせたアジア唯一の国でもある。ましてや、史実より親独派が少数派で、親欧米派が多数派を締め、資源大国でもある扶桑は戦前日本の皮を被った1950年代終わりの日本である。艦内では極めてのんびりとした雰囲気であるが、これは彼らがバイタルパート内の一室にいるからで、兵士らは大忙しだった。この戦闘に参加した連合軍はブリタニアと扶桑のみだが、ノイエカールスラント大洋艦隊/太平洋方面艦隊の参加も検討されていた。が、これは主に艦艇の航続距離面で見送られた。現有の戦闘艦艇の大半は『外洋を走り回る』ほどの航続距離に設計されておらず、バルト海を守護するのに十分な航続距離しか無く、外洋運用にはタンカーを必要とするからだ。そのため、潜水艦が貸与される事になっている。当時、連邦の助言で大量に生産されている最強のUボート『UボートXXI型』が貸与され、続々、回航されている。これはミッドチルダ動乱でバダン保有の同艦が活躍をした事で、急遽カールスラントでも量産計画が決議されたからだ。ティターンズによるヘッジホッグ以下の対潜兵器の登場による在来艦の陳腐化と、潜水艦の地位が相対的に高まった事によるウィッチ閥の発言力低下が、同艦型の運命を変えた。在来のVII型やIX型では、ヘッジホッグや対潜哨戒機、高性能ソナーを備えたリベリオン艦隊の前では狼どころか、羊のようなものであると、現実が叩きつけられたからだ。それに狼狽した海軍は、当時、ウィッチ閥の横槍で計画中止状態のXXI型に着目した。当時のカールスラントでは、『大洋艦隊の栄光よ、もう一度』という大洋艦隊復活を後押しする水上艦隊復活派がウィッチを取り込んで、多数派であり、カールスラント内での潜水艦閥は肩身の狭い思いだった。が、日本から『ドイツは潜水艦でナンボだろ。水上部隊はオマケ』と酷評されたこと、ミッドチルダ動乱で扶桑の対潜部隊がXXI型を難敵と恐れたという戦訓が皇帝に上奏されたため、皇帝の勅により潜水艦部隊が大増強されたのだ。その結果、水上部隊は鹵獲艦を再利用して数を増やし、海軍の資材の半分以上がUボート量産に振り分けられた。その産物が扶桑に貸与される一群だ。
「ドイツなんて、この時代最高のUボートがデーニッツ提督自ら皇帝に上奏して、量産を許可してもらい、急激に量産しています。世の中、目に見える成果さえあれば、黙るもんですよ。新幹線しかり、スーパーコンピュータしかり、スバル360なり」
解説家の言う通り、カール・デーニッツ提督はミッドチルダ動乱の戦訓と、史実の所見を以て、皇帝に直訴。皇帝が反対派のウィッチ閥(海軍)などを黙らせ、量産にこぎつけた。ウィッチ閥はグラーフ・ツェッペリン護衛失敗を槍玉に挙げられ、海軍内での立場が危うくなり、海上部隊も史実での二次大戦の体たらくを批判され、その整備は二の次とされた。空軍は通商破壊戦の意義をラルが知っていたのもあり、デーニッツに協力し、デーニッツを擁護している。カールスラント空軍がデーニッツの後援者という奇妙な光景が出現したわけだ。ラルはスリーレイブンズのラインで通商破壊戦を海軍軍人よりも理解していたので、通商破壊を強く切望していた。ラルは『旧式化したビスマルクを持ち出したら、有名税でモンタナ級呼ばれてボカチンされるのが関の山だ!奴らは通商破壊のイロハも知らん』と憤慨しており、デーニッツを擁護した。その事もあり、ラルはデーニッツに借りを作り、レーダー元帥の後釜に彼がなった際に、借りと称し、海軍艦隊を好きに動員できる密約が結ばれている。デーニッツは海軍内では異端とされていた分、ラルに恩義を感じており、ラルはこれで事実上、カールスラントの軍事力の半分以上を指先一つで動員できるようになった。この密約で実現した統合運用に活路を見出したカールスラント軍は、ラルはそのまま戦中に帝国軍総監に任じられ、三軍の長になるのだった。
――南洋島
「そうだ。F-104をもっとこちらへ回せ!義勇軍名目とは言え、文句は言わさんぞ!」
ラルは空軍総監でありながら、前線の矢面に立ち、腰の傷が完治した事もあり、自らF-104Gに搭乗して防空任務に就くという活動的な総監であった。ラルはハスキーボイスであるが、声質が御坂美琴にそっくりである事から、黒江が試しに、ドラえもんの道具『ハツメイカー』で自作した道具で、人格を入れ替えた事がある。人格が入れ替わった際、お互いに『なんじゃこりゃあああああ!?』と叫んだのは言うまでもない。美琴の人格が宿ったラルの声色は美琴と同じになっており、その能力も入れ替わっていた。黒江は状況的に、ラルが休暇中に実行しており、巻き込まれた美琴は激しく抗議している。それはこの戦いの数週間ほど前の事である。
(数週間前は面白い事を体験させてもらった。生え抜きの軍人だったから、普通の学校になど縁はなかったしな)
ラルは入れ替わった事件を好意的に見ているが、美琴のほうは怒り心頭で、『どうしてくれるんですかぁ〜!』とラルの体で抗議している。なお、この時に美琴はラルの体で電撃を食らわせているが、黒江はそれをライトニングテリオスで相殺している。その時の様子は以下の通り。
「お、おい、その体で電撃か!?」
「休日中だったんですよぉ!?あ〜ゲコ太のグッス、今日が発売日だったのにぃ!」
「お、おい、話聞け!」
「問答無用〜!」
「ちぃ!!ライトニングテリオス!」
黒江は美琴の100億ボルト(イナズマンとの接触で能力が増幅した)の電撃を、ライトニングテリオス(厳霊乃極)で相殺した。そのため、基地の一角の原っぱは完全に焼け野原である。
「だから話聞けって!オメーの欲しいやつは予め、黒子に頼んであるって!」
「く、く、く、……黒子に!?初春さんとか佐天さんじゃなくて!?」
「オメーの写真を数枚流したら、ホイホイ」
「★※☆※!?」
「だっておめーの時間軸との連絡先、黒子しか知らねーもん」
「あ、アハハ……お、終わった……」
ラルの姿の美琴はへたり込む。自分のあれやこれやを黒子に流されたとあれば、美琴にとり、最大の危機である。からだ。
「安心しろ、上条さんとの事は言ってねーから」
「そこを言ったら殺しますよ!?」
「あー、お前。黄金聖闘士の私に勝てるわきゃねーだろ」
と、落ち込む美琴をからかう黒江。美琴はシックスセンス(第六感)を人工的に発現させたものなので、如何にスペックが強力であれ、セブンセンシズに自然に目覚めた者には及ばない。あの一方通行でも、だ。セブンセンシズは第七感であり、人間を根本的に超えている。神の域の力になると、反射も効力を完全には起こさない。と、言うことは、戦神の加護がついているエクスカリバーなどは弾けないということだ。
「電気で視覚を強化したところで、肉体が追いつけなきゃ意味はないだろ?お前は人工的に第六感を引き出したが、私はその先にいるんだぜ?」
「それどころか、第8感まであるんでしょう?もう、馬鹿らしくなりますよ、学園都市の全てが」
「そうだな、アレイスター・クロウリーがどこまで考えてたのはわからんが、神の禁忌に触れようとしているのは確かだろう。23世紀には奴の記録が不思議なくらいに残ってない。恐らく、神々の力で存在を消されたんだろうな」
「神々の?」
「そうだ。聖域にも、そんな黄金聖闘士がいたって伝説が言い伝えられてるからな。お前も未来にいたんなら、自分の時代の学園都市の黒幕が誰かくらい掴んでんだろう?美琴」
「そうですね。でも、科学万能の時代に魔術なんて信じられないですよ」
「お前の今使ってる体の持ち主がその『魔法使い』なんだぜ?かくいう私も、元はそうだが」
「でも、どーするんですか!?あたしは戦闘機とかなら操縦できますけど、魔力の制御は」
「だからオフなんだし、労ってやりたいから協力してくれ、ゲコ太ハンカチやるから、な?」
「そ、それなら仕方がないですね。演技力はそれなりに自信があるんで、声のトーンを下げますよ」
「サバサバした感じでな。それでなら違和感はない」
――この通りである。入れ替わりの期間中、ラルは白井黒子の協力(?)で女子中学生ライフを楽しんでおり、『いい息抜き』だったと上機嫌である。(嗜好が違うのはなんとか誤魔化したり、美琴としてチンピラをのしたりしている)なお、この際にお互いの感応により、魔術が使えないはずの美琴の体にリンカーコアが形成され、ウィッチとして覚醒したり(シールドは使えないが、ラルの飛行技能と固有魔法が受け継がれた)、ラルに美琴の能力が現時点の精度で発現するなどした。これは魂が共鳴した事による能力の流入現象であり、ラルは100億ボルトの発電能力と超電磁砲(改)を手に入れた。偶然の産物だが、ラルは美琴の能力を手に入れた事で、『鉾』を手に入れた事になる。また、超電磁砲の弾体にライフル弾を使うのがラルなりのアレンジであり、彼女はそれを『ブリッツゲッシュ(雷砲)』と呼称したという。また、美琴にも、ラルの影響により、ネイティブ級の独語を喋れるという影響が残り、ラルも日本語がネイティブになり、扶桑出身者が完璧と言うほどの流暢さを手に入れたのだった。その入れ替わり後、孝美へ宛てた手紙には『秋津洲より愛をこめて』と記されていたという――
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