外伝2『太平洋戦争編』
六十五話『ロボットガールズ!』


――B世界出身で、A世界にいる者達は、概ね、501からの流れで64Fの統制下に置かれていた。管野は、孝美が妹との相克を表面化させてしまい、問題を起こした事になんとなく、バツの悪い思いを浮かべていた。自分が孝美に期待したことが全ての要因の一つではないかと。

「加藤さん、オレ……孝美に悪いことしたような気がするんだ。あいつにオレが期待したから……妹の奴と……」

「あなたが気にすることはないわ。これはあの姉妹の問題よ。解決に周りが動いてくれてるから、その報告を待ちましょう。いいわね?管野さん」

「う、うん」

管野はその人員の中でも、比較的自由に動ける立場にあった。これは気質に差がそれほどなく、言動も似通っている事による成果だった。これは言動にA世界の当人との矛盾が見られないほど、自由度が高い傾向にあり、スリーレイブンズBも、黒江は特に差異がありすぎて、行動を制限されている。これは言葉づかいに女性言葉が残っているためで、それがまったく消えており、男性的な言葉づかいをするAと別人なため、行動を制限しなければならなかったからである。更に黒江Bがおどろいたのは、浦塩空襲で他界した長兄が普通に家庭を持ち、子を成しているという事実であり、その事も行動制限の理由だった。黒江の長兄は浦塩に空襲が無かったので、存命しており、A世界では家庭を持ち、息子も設けている年齢となり、圭子の著書の映画化にも大きな役目を果たしていた。そのため、面会は断っており、彼の一家への手紙は当人から通信で聞いた内容を武子が代筆する形で出している。そのため、『任務完了で帰還した暁には、家に帰らせますので……』と武子は告げている。

「何やってるんすか、さっきから」

「手紙の代筆よ。綾香の上の兄さんの一家に近況報告って奴よ。ここだと存命して、大企業の重役に若くしてなってるから、気を効かせないと」

「大変だなあ。オレの世界の本人じゃ無理だしな。そのお兄さん、亡くなってるし」

黒江Bが残念がっているのは、長兄が家庭を築いた姿を見れないというところだった。Bは浦塩空襲で長兄の遺体を発見し、半狂乱になって泣き崩れたという経緯を持つため、生きている長兄の姿を見たいという希望を告げたが、断られている。その事もあり、Aを羨ましかっていたが、Aには幼少期の母からの折檻というトラウマが母との不仲を生み、黒江Aの家庭環境はお世辞にもいいとは言えない。映画出演で緩和はされたものの、黒江当人の心の傷もあり、実の母親には愛憎入り交じった心情を持つ。その事が智子と圭子への依存の要因であった。黒江BはAにはない『温かい家庭』がある代わりに、闘争本能は高くなく、穏やかな人柄だが、Aは家庭環境が悪い代わりに、反骨精神と異常な闘争本能が備わり、『温かい家庭』に強い思慕を持つ。表裏一体とも言うべきか。ウィッチとして永久に第一線級の能力を得た引き換えに、平時は風来坊的なところを持つAと、あくまで『お情けで軍に戻れた』と自覚する故、生活力があるBは『別人』なのだ。

「そいや、なんでここの綾香さん、風来坊なんだよ。戦争終わったらどうすんの?」

「あの子は平時には持て余されるタイプだから。平時になったら、基地司令になれるのかは怪しいわねぇ」

「あの人、デスクワークよりも飛んでるのが性に合ってそうだし、持て余されそうだなぁ」


――その予測は的中しており、後の第二次扶桑海事変終了からの数年は完全に才能を持て余されており、特定の部隊に属すること無く、遊軍化していた。小松基地司令に落ち着いたのは、山口多聞の圧力あっての事だ。髪を伸ばしていたのはその『風来坊』な時期にあたり、髪を伸ばすと印象が全く違うので、その姿を『知る』武子らからネタにされている。セミロングにすると、ボーイッシュな普段と全く違う印象を与えるので、この『二度目』においては、501時代から『てっとり早い変装』と称して、外出の際などに見せている。ミーナに内緒で機材を確保しに行く時などに用い、これで501を回していた。現在はロボットガールズの登場やグレートマジンカイザーがあるため、機材の非合法確保の機会は減っている――

「Gカイザーの調整、終わったよ」

「ご苦労様、グレちゃん」

「うん……、部屋でゲームしていい?」

「許可するわ」

「ありがとう……」

「なんだこのチビ?」

「……!」

「あー、管野さん。喧嘩はやめといたほうがいいわよ?」

「なんで……ぶふぉ!?」

グレちゃんはチビであるのを気にしており、Zちゃんよりも強力なパンチをぶち込む事がある。今回はドリルプレッシャーパンチを管野にぶち込んだ。グローブが打ち出されるのだが、グレちゃんの場合、ドリルプレッシャーパンチ、グレートスマッシャーパンチ、ドリルスマッシャーパンチと言ったグレート系の強力なパンチを放つ。

「誰がチビだって……?」

「お、やる気か、こいつ!」

「はいはい、喧嘩はここまで」

武子の威圧感に、双方共に引く。武子は怒ると隊で有数に怖いため、風来坊な黒江も、圭子も智子も武子を怒らすのは避けている。そのオーラにグレちゃんも管野も思わず、手を止めた。その点は師である江藤と同じである。

「チッ、生意気なガキだぜ」

「…負けない」

と、一触即発だ。グレちゃんは菅野とはウマが合うのだが、管野とはこの調子である。菅野がゲーマーなためもあるだろう。 同じ姿でありながら、こうも相性が違うのも、興味深い出来事であった。







――前線ではゲッちゃんドラゴンが、竜馬達にいじめられた鬱憤を晴らさんと、ティターンズ残党軍相手に暴れていた。オリジナルのゲッタードラゴンのパワーとスピードを有するため、ダブルトマホークで、自分の機体の量産機『量産型ゲッタードラゴン』を相手に大暴れである。量産ドラゴンはあくまで量産機なため、合体時のカラーリングが赤主体と簡略化されており、増幅器の性能もダウングレードしている。あくまで量産性を重視しているので、オリジナルのゲッタードラゴンには完全にスペックで負けている。その点がゲッちゃんの大暴れの理由だった。

「ゲッター線を使っていないゲッターの武器を使うのはシャクですけど、贅沢は言ってられませんわね。磁甲剣!!ソォ――ドッ!トマホーク!!」

ゲッちゃんは自分の力で、ダブルトマホークをソードトマホークへとモーフィング変形させる。連結させたダブルトマホークの片方が刀身に変形し、ソードトマホークへと変形する。號とネオがGアームライザーを介して形成するそれよりも無骨なデザインで、より巨大で骨太な刀身を持つ。これは訓練の成果である。號とネオのそれより巨大だが、ゲッちゃんドラゴンのパワーは片手持ちを可能とする。ダブルトマホークとは使い勝手は違うが、それでも乱舞を行い、量産ドラゴンを容易く切り刻む。

「やれやれ、隼人が何のために、私を號に乗せたのか測りかねてましたが、このためでしたのね。覚悟ぉ――ッ!!」

十文字に量産ドラゴンを斬り裂く。ソードトマホークはゲッターロボ系では唯一無二の刀剣タイプの武器である。隼人は號とGアームライザーの鹵獲で、構想に自身をつけたらしく、ゲッター軍団の制式装備に加えている。ゲッちゃんドラゴンにソードトマホークを覚えさせたのは、その事も関係している。また、武蔵と弁慶の双方のハイブリッド的な属性を持つのがゲッターポセイドンの『ポンちゃん』であった。

『大・雪・山おろ――し!』

大雪山おろしを使えるところは、当初の予定パイロットの巴武蔵の影響である。武蔵と弁慶の双方の特徴が入り混じっているため、冗談めかして『武蔵坊弁慶やで』とポンちゃんは言っている。また、ストロングミサイルで敵を追撃する『二段返し』を行うのを好むのは弁慶と同じである。そのパワーは意外にも、機体としてのポセイドンを上回り、ゲッター金剛に匹敵する。また、信管を抜いたストロングミサイルをバットにし、ミサイルや光弾を絶頂期の山○浩二張りのフルスイングで打ち返す『バスターホームラン』張りの技も使える。戦争中なのに、広島カー○の戦況に一喜一憂するのは、阪神タイ○ーズの熱烈ファンのフェイトと似ている。が、双方が喧嘩になると、半径5キロは危険範囲になる。フェイトがライトニングボルトを撃つためだ。そのため、早くもなのは達は『フェイトちゃんがごきげんになると、ポンちゃんが不機嫌になる』と噂を立てている。23世紀では『タイ○ーズが勝つとカー○が負ける』からだ。

「ウチの機体が量産されとるのは変な気分や。ほな、一気に始末するで。ゲッターエレキ!!」

ゲッターエレキ。この武器は正確にはオリジナルのポセイドンにはなく、ゲッター真ポセイドンの技であるが、ポンちゃんは撃てる。

「これがウチの――ゲッターポセイドンの――究極の力や!!」

ゲッターエレキの電流はフェイトのライトニングボルトに匹敵する破壊力を持つ。手を相手に向けてかざすだけだが、そこから放たれた電流が相手を打ち砕く。そして。

「超音速を超えた戦いを見せて差し上げますわ!真・マッハスペシャル!」

ライガはこれまた、真ライガーの力の片鱗を使えるため、オリジナルライガーよりも高速で動ける。そのスピードはゲッター紫電に匹敵するほどで、マッハスペシャルも上位の真マッハスペシャルとなっている。それと引き換えに、三人の中ではもっとも非力であるので、それを手持ち式のドリルアーム『名槍コマツバラ』で補っている。ライガーの売りはあくまでスピードであり、パワーではない。そのため、ライガはもっぱら撹乱担当である。(因みに、ライガの声色はアメリー・プランシャールを強気にしたような感じで、言葉づかいをペリーヌに近づけたような声色であるので、ペリーヌとアメリーが驚いたとの事)

「あれがあの子達の力なんですの?」

「スーパーロボットの化身だからな。ペリーヌ、お前も知っているだろう?ゲッターロボGを。あの三人はGの三形態の化身だ」

「なぁ!?あなた達のお国のアニミズム文化には圧倒されますわ、高町三佐……」

ペリーヌは、ロボットガールズチームGの面々を観測していて、思わず圧倒されると本音を漏らす。それはスーパーロボットまでもが化身として現れるのを肯定し、艦が艦娘となるアニミズム文化を肯定する日本/扶桑の文化に圧倒されたのが本音である。


ゲッちゃんが空高く舞い上がり、両腕を広げて、ゲッターエネルギーを臨界にまで高める。ゲッターシャインだ。

『ゲッタァァァァシャイィィン!!』

「あれは必殺技では!?」

「ああ、シャインスパークだ。半径数キロは吹っ飛ぶくらいに強力だ。ただし、連発はできんというリスクもある。」

『雑魚共といつまでも遊んでやれるほど、私は暇じゃありませんの。一気にカタをつけますわ!!シャイィィンスパァァァァクゥ!!』

ゲッちゃんのシャインスパークはオリジナルのそれと比べても強力であり、半径数キロは跡形もなく吹き飛ぶ程の大爆発と、その爆発のキノコ雲が発生する。ライガに肩を借りて、ソードトマホークを持って決めるゲッちゃん。

「これが私達の力ですのよ、皆さん」

「見事だったぞ。これで奴らも当分は襲って来るまい。帰ったら報告書をまとめるようにな」

「了解ですわ」

黒江らがいなくなっている間にも、それを補って余りある戦力は得た。問題は扶桑と連合軍にその勢いを活かせるほどの物的余裕が全くない事だった。軍需物資の極度の不足は陸軍に顕著であり、三八式歩兵銃の弾丸にさえ事欠く有様だった。マスドライバー攻撃で都市ごと喪失した軍需物資は陸軍のものが主であったので、前線の陸軍の弾がないという笑うに笑えない兵站事情が伸し掛かっていた。いくら空軍が奮戦しても、肝心要の陸軍がそれを活かせないという状況がマスドライバー攻撃直後の連合軍の現状であり、位置情報を漏らした日本に強烈な抗議がなされた。それが日本の国会で議題となったのが、2013年の晩冬頃だった。

――2013年末 日本――

「扶桑皇国や国際連盟より、抗議声明が発表されました。ドワイト・アイゼンハワー大統領、チャーチル首相、吉田茂首相の連名によるものであります」

外務大臣が抗議声明を読み上げる。歴史上の偉大な三人の首脳の連名による抗議声明に、重苦しい雰囲気だった。日米英の三大国の偉大な宰相たちが連名で発した抗議声明は、21世紀日本の左派の過度の干渉による弊害を厳しく糾弾しており、吉田茂の声明分は『我が国は大日本帝国ではない』事を強調した文を入れており、キツめだった。それは東條英機や近衛文麿など、大日本帝国でのミスを槍玉に挙げられ、失脚した者達にとっては『胸のすく』内容の抗議であった。もちろんその原因を作った張本人と断定された野党議員達は自分達を棚に上げ、火のようなやじを外務大臣にぶつけた。

「私は声明文を読み上げただけであります。これは吉田茂首相の公式声明文であります。既に向こうの公安警察からの通告書も警察庁に届いております」

外務大臣は野次を受け流す。次に警察庁の担当者が答弁を行う。扶桑の憲兵と公安警察がその職権で射殺した者もかなりいたためだ。射殺されたのは、『されても仕方がない』事を行った過激派の構成員、現地の治安を乱した活動家であった。特に被害は軍人や軍属、軍に協力的な家庭などであり、華族にさえリンチを加えたという報告も担当者は答弁した。更に、傷痍軍人をリンチしたという事例が紹介されると、長老級の議員からざわめきが起こった。流石に戦争で傷を負った傷痍軍人をリンチした事は、倫理的に一線を超えているし、親や身内が傷痍軍人であった者も長老級の議員であれば、21世紀現在も存在した。その事により、活動家らを擁護する姿勢の野党は一転して防戦一方となった。野党内部からも、保守寄りの党から批判が出、国会は荒れ狂った。その日のみならず、おおよそ一週間も国会は衆参問わずに荒れ狂い、国政が機能しているか怪しい状態と、諸外国から揶揄されてしまった。これは学園都市の戦争の戦後処理において、政府が殆ど蚊帳の外だった事への批判を主にするはずの野党が、扶桑の抗議声明により、批判の矢面に立たされた故の混乱であり、扶桑への損害補填に軍事的分野を含める事を決めるのにも一週間の時間を費やした。扶桑と連合軍に対しての損害補填はその年の対外援助の一環という名目で行われ、連合軍をなだめるためにも、空前の大金が連合軍に流れた。ヴァンガードの完成が早まったり、播磨型の建艦が早まったのは、日本企業の技術援助によるものである。この時に復興都市が多数建設されたり、亡命リベリオンが急速に豊かになったのは、この時の巨額の賠償金と資材のおかげである。日本は悪く言えば八方美人的なところがあり、ウィッチ世界からの侵略を受け、多数の戦艦を持ち込まれれば、実質的に打つ手はない。FARMを受けた戦艦群は並大抵の攻撃ではびくともしない上、現在のミサイルは戦艦の装甲をぶち抜く事そのものが想定外だ。総理大臣が恐れたのは、『不沈要塞』三笠の主砲で関東沿岸部を吹き飛ばされるという現実の出現だった。吉田茂からはもしも黙殺の場合は軍事行動も辞さないと示唆されており、対応の期日までに回答しなければならない。もし、亡命リベリオン軍がモンタナ級戦艦でも送り込めば、諸方面で揉めた挙句に無血革命ということもあり得る。総理はその可能性を最も恐れ、意を決し、『期日までに回答がない場合、関東沿岸部都市は艦砲射撃を受ける可能性がある』と公表した。左派からは『WWUの日本軍など恐れるに足らず!』とする防衛戦肯定論も出た。特に社会主義政党からは支持があった選択だ。実際のところ、扶桑には23世紀世界のMSやVF、宇宙戦艦があり、自衛隊など張り子の虎に過ぎないとことを総理は知っていた。当時はソウル砲撃から間もない頃であり、自衛隊から『巡洋艦砲弾くらいまでならAAMかSAMで落とせますが、30cmを超えた砲弾はどうにもなりません』と匙を投げており、総理に事前に報告している。まして、大口径砲趣向の扶桑軍は50cm砲すら存在している。戦艦大和級の超重戦艦がゴマンとおり、20隻前後しかいない自衛隊の潜水艦では食い止めるのが精一杯。ましてや大和を上回る超大和型戦艦すら存在するというのだ。そうなると真っ向からの撃沈は無理である。『戦艦に対抗可能な兵器は潜水艦のみです』 『砲撃圏内に入られたら反らすにしても誤差程度です』とも報告されたこと、超大和型戦艦は日本の如何な手段でも撃沈不能とされた(実際は核ミサイルでも無理である)事もあり、日本としての回答を行う事を選択した。超大和型戦艦の情報が防戦を諦めさせたと言える。23世紀のテクノロジーがふんだんに用いられた同艦が来れば、21世紀のどんな軍隊も歯が立たない。このことはデモの鎮圧にクスィーガンダムが使われた事で、隠している軍事力の暗示になった。そして、ソウル砲撃で使われたウェイブライダー達の威力。『Zガンダムが量産されていて、それを特殊部隊に配備している』と解釈した彼は、ウェイブライダーによる総理官邸や国会議事堂への空挺降下を脅威と見ていた。実際の事件で韓国軍がそれに無力であった事もあり、最悪の場合を避けるために、政治生命をかけた。一週間後、『扶桑国内で起きた事件に対しては扶桑の法の下(もと)裁かれる事が適正とする。 なお、司法当局は操作協力を行い、事件に加担した団体が特定された場合、他国への破壊活動と見なす事として破壊活動防止法に基づく対応を行う』との回答を示す事に成功し、軍事衝突は避けられた。この脅しは吉田の日本に対する一流の政治的パフォーマンスでもあった。クスィーガンダムやZ系MSの力をちらつかせ、日本から出来るだけ多額の賠償金を引き出す事。日本は昔から砲艦外交に弱い。このことを知った吉田は日本に64Fの情報を意図的に流す事で、日本から賠償金を出来るだけ多く引き出すように動いた。黒船がMS群、慌てふためく江戸幕府を戦後日本と当てはめれば、吉田の意図が分かる。



――ある日 扶桑本国――


「いいの、じいちゃん。ウチの情報流しちゃってさ」

「時空融合で『未来に造られる』事になっているんなら、バラしても問題なかろう。持っておるのなら、外交的手段として用いるのが最善だよ」

黒田家当主を正式に継承した黒田は、その正式発表の式典のため、本土に戻っていた。家の継承者が本家嫡男なり、息女でなく、分家からの養子である事は、戦国時代からよくあった出来事であるので、それほど不自然とは取られなかった。ただし、家の中ではお家騒動が尾を引いており、黒田は本家のほぼ全員が自分のご機嫌取りに必死なのに空虚さを感じており、式典には乗り気では無かった。そのため、式典の場からすぐに離れ、吉田茂邸を訪れていた。

「どういう風に?」

「所々を断片的に流したが、奴さんはすぐに食いついたよ。ソウルの事があるからな。完成間もない播磨を使った甲斐があったというものだ。君たちの部隊のことは本当に断片的にしか流しておらんが、少なくとも、ウチの出身の自衛官への監視を解くきっかけにはなるだろう。近代国家を短時間で沈黙させたのだからね、君達は」

「あれはあいつらが隙だらけだから、無傷で行けたんであって、アメリカや日本相手だと使えないかも知れない手だけどね」

「それは重要ではない。事実だよ。曲がりなりにも彼の国は中等国以上ではあった。それをまともな抵抗なしに制圧した。この事実が重要なのだ。例え、アメリカやイギリス、日本と言った大国と言えども無視できん。今回の脅しは実に効いただろう。向こうの『タロー』を通して、要求金額も伝えてある。近日中に回答が来るだろう」

「いいの?向こうにいる『お孫さん』を使うなんて」

「あいつも総理大臣を経験したのなら、この儂の気持ちは分かるだろうさ。それに日本に取って、儂は『戦後における宰相』だ。無視できるはずはなかろう」

「やるね」

「そうでなければ、軍部とやりあえんよ。播磨型の増産は突貫工事で急がせているが、もう1948年だ。最悪、朝鮮戦争の期間も戦争をやるハメとなるのを視野に入れんとな」

吉田茂はこの頃から、1950年代にまで戦争がずれ込む可能性が濃厚であると踏んでいた。新兵器が早めに完成したとは言え、1年ほどで対抗兵器を用意することはリベリオンであれば可能である。播磨の竣工とロボットガールズの来訪を持って、戦況を楽観視できる状況ではない。陸軍の新兵器の開発の遅れ、南洋島の軍需物資の極度の不足による陸軍の作戦行動の封殺などの負の要素も多い。ヒーロー達やスーパーロボットを多数使っても、だ。

「じいちゃん、この戦争はどうなるの」

「わからんよ。少なくとも来年中に終わらなんのは確かだろうさ。日本の過激派連中には痛い目を見させられた。ここらでギャフンと言わせなくては、『戦前世代』の面目が立たん」

吉田は戦前世代の意地を見せるため、日本を相手取った一流の政治的パフォーマンスを見せた。チャーチルやアイゼンハワーを巻き込んで。そのパフォーマンスは日本に絶大な効果を見せ、吉報が舞い込もうとしている。それは間もなくだった。



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