外伝2『太平洋戦争編』
百話『エースとは』
――日本はかつての自分達が味わった『鋼鉄の嵐』を今度は絶対的な差で具現化したいという復讐心を持っており、自衛隊の正確無比な射撃と米軍張りの制圧力を見せつけようとしていた。それを実現させるための装備を揃えるには、少なくとも数年は必要とされたので、攻勢はまだまだ控えられる状況にあった。48年が2月を迎えた季節になると、日本側が不手際の侘びとして流通させた改善型の旧式兵器と21世紀自衛隊の現行水準兵器がハイアンドローの要領で続々と行き渡りつつあった。南洋戦線に配備されだした『七式中戦車』。74式戦車のパワーアップキット適応タイプの『ライセンス生産』(公式に扶桑向けの生産許可が出た)車。これはハイに当たる。当然、砲弾は16式機動戦闘車/オリジナルの74式と共通である。M48が現れた場合の切り札として期待される。それを補助するための七式砲戦車(五式砲戦車を改良し、砲を90式戦車の砲に変えたもの)も配備されている。扶桑軍は中戦車を補助する砲戦車を重視するドクトリンがあり、中戦車が進化してMBTになってもその思想は継続した。その延長線上で開発されたのが『ホリ』の系譜に連なる砲戦車群だ。本来は『その装甲・大火力をもって対重戦車火力の中核を担う』という思想からの開発だが、戦車自体の進化で火力面では大差なくなったため、主力戦車の火力支援が主な任務になった。これは米軍が『M103重戦車』を戦後に使用していたのと同じ発想である。この車両の制式化後すぐに90式のコピーも指令されているので、部内では日本の政治的な決定に失笑の嵐ではあるが。日本は兵器の技術的優位の持続性にトラウマがあるらしく、当時のリベリオン軍と比べても、有に10年分の優位を持つのに関わず、30年分はないと追いつかれると怯えている。これはオーバーにすぎる怯え方である。ウィッチ達の反対で通常兵器の発達が遅れていた世界であるので、いくらティターンズが発破をかけようと、技術的劣位はどうしようもない。このことを現場は知っているため、『七式で五年は絶対的な優位を保てる』と楽観的である――
――南洋戦線 前線――
「どうです、一杯」
「お、すまんね。君たちの政府はこいつの次を作れともう指令を出したと聞いたが」
「ええ。この時代に九〇式、一〇式を出したらオーバーキルもいいところなんですがね。M48が40両来ようが、15両程度もあればアウトレンジ攻撃で撃滅出来ますよ」
「財務省へのアピールかね?」
「ええ。扶桑に軍事的負担を負わせようと言う割に、日本連邦の固有部隊になる我々のことは考えてないのが財務の連中ですよ」
自衛隊は2019年を以て、日本国政府の組織から、日本連邦軍の固有部隊となり、名実ともに軍隊となる。それに理解がないのも財務省だった。財務省は溜まりに溜まった国の借金を無くす事に血眼になり、戦争中でありながら、扶桑の軍事費増加を拒み、扶桑を困らせていた。また、連邦化の弊害もあり、エース制度を拒む海軍搭乗員(ウィッチ)も日本側に見下されたり、後ろ指を指されたりし、精神的に追い詰められる者も続出し、逃げるようにMATに移籍した者も多かった。結果、志賀のような古風の海軍搭乗員たちは『みんなで無名の英雄になりたかったのに……』と嘆き、1945年次の中堅がMATの組織の勃興を起こした。これは彼らが一人前になる頃に、戦争そのものの様相も変わり、エース制度が日本連邦で奨励される時代になった事に、中堅ほどついてこれなかったからである。そのため、海軍航空隊で育ちきっていなかった若手に属するか、伝統を作った世代ほど、伝統を打破する事を良しとし、空軍でも陸軍出身者と共存している。その世代構成バランスの崩れがウィッチ閥の衰退の要因でもある。1948年では、ウィッチの新規が15歳に固定されたため、18歳でヒヨッコ、若手が20まで、部隊の若手士官で20代前半から半ばと、R化前提の世代構成となっている。これは扶桑海以前の経験者が1947年までに全て前線を退く流れであるのを、Rウィッチ化でせき止めた代わりに、クーデター事件とその後の粛清人事、MATの誕生によって、世代的に空白が出来てしまったからだ。従って、Gウィッチはそんな歪な扶桑皇国ウィッチの最強の存在として、集中運用されている。これは各世代の最強クラスが覚醒していた幸運も大きい。
「ウィッチのお嬢ちゃん達はそっちのMATに逃げる連中も多い。多くは芽が出始めた辺りの世代だ。全く、本当なら、前の世代を引退させられるはずの教育を受けた者も多いんだがな」
ウィッチは本来、7〜8年ほどで実働世代は新陳代謝で入れ替わる。戦時中は人員の数を維持するため、速成教育を受けた者が実働部隊に配属されるケースが当たり前。小学校から引き抜くことも当たり前であった。だが、小学校からのスカウトが憲法で禁止されてしまったり、必要な知識が高度化した事で小学校も普通に出ていない者では、士官教育に相応しくないとされたため、士官教育課程が平時のそれに戻された。再教育を侮辱と受け取った者も多かった上、実階級の降格に不満を持ったのがクーデター軍に加わる理由であったりし、扶桑軍部は散々であった。そのため、扶桑が日本の背広組を黙らせて押し通していたのが、勤務階級の維持だった。
「実階級の降格はどう思いました?」
「年齢的には仕方がないさ。奴さんの多くは10代だったんだ。それに軍部に長くいない連中も多いから、教育は簡略化されてた。だが、勤務階級の維持は正解だったよ。勤務階級まで下げてたら、一昨年のクーデターで軍部が割れてたよ」
陸自戦車隊の幹部自衛官と、扶桑軍戦車隊の古参士官はタバコを交換しながら語らう。彼らは日本連邦として、お互いに始めて共同戦線を張るのだ。こういった交流で親睦を図っていた。
「こちらも政治家連中には振り回されてましてね。貴方方より私達の待遇を上にしようとする勢力もいましたから」
「まぁ、お互い様ですね」
「航空兵の連中よりはマシですよ、私達は。航空兵は海軍出身者と空自出身では『撃墜王』への考えが180°違う」
空自は技能優秀者を称える文化があるが、海軍には表向きはなかった。その齟齬がウィッチらの大量移籍と、空軍で陸軍系勢力が実働閥を支配する原因となっていた。陸軍は海軍より人気がないことから、国民向けのプロパガンダに力を入れており、エース制度にも肯定的な者が上層部にも多かった。それがレイブンズの伝説を生んだ要因と言える。海軍航空隊の悲劇は、レイブンズの活躍を見ていない世代の思い込みによる対抗意識にあった。
「それだけで一昨年のアレが?」
「あの子達の多くは、レイブンズが一線を退いた後の世代で、陸軍への対抗意識が特に強かった世代だ。クロウズの全盛期に新兵だったしな」
坂本達がウィッチとして盛りを迎えていた頃に軍に入った世代は1945年次の中堅にあたる。そのため、クロウズは当時、ウィッチとして盛りを過ぎたとされるレイブンズを追い抜けると海軍からは期待されていた。それが彼女らに重荷でしかないことは、彼女ら自身が知っていたし、坂本に至っては『私らは、あいつらにはなれんのにな』とも公言していた。坂本はこれでも、精一杯オブラートに包んでいるつもりだった。覚醒が遅れていた若本に配慮していたからだ。その当時に新兵だった世代のウィッチは無駄に自尊心があったというのは、当時の教官だった坂本、竹井、その世代の代表者でもある下原の談。恐らく、扶桑海の閃光を見て、軍に入ったが、飛行学校辺りで陸軍へ対抗心を持つように仕込まれたのだろうというのは、坂本の推測だ。
「坂本大佐、そちらでのTVを見て苦笑していたよ。今度、ブログでその感想書くとも言っておられた」
「彼女と親交が?」
「私の妹が、彼女の教え子なんですよ」
坂本は引退後は64Fの飛行長の任務につきながら、空母エアボスとしての教育課程を受講している。64飛行長の地位は志賀の異動によって生じた穴の穴埋めであるので、戦後、『若気の至りだった』と、戦後に退役した志賀から謝られたという。坂本は前史と違い、太平洋戦争中はひたすら、『前史の贖罪だ』とし、黒江達とともに居続けた。坂本は芳佳の師であるので、当然、不器用であった。前史で、黒江に癒えぬ悲しみを背負わせてしまった事への償いをすることが今回の転生の目的とし、今回はひたすら黒江に献身していた。その証拠が、今回の戦間期でのラルと組んでのミーナへの教育や、芳佳配属前はシャーリーやハルトマンと組んでの緩衝役の役どころを演じた事だろう。覚醒前の下原がリバウ時代に、黒江を立てる発言が多いのを気になり、尋ねると。
『私は黒江に借りがある、とても大きな。 だかな、それだけじゃ無いんだ、一緒に居たい仲間だからな!ははっ!』
と、いつもの調子で返した。下原の覚醒後は『お前も協力してくれんか?あいつを守るために』と言うなど、黒江と共にいたい事を漏らしている。坂本は黒江に借りがあるが、それに縛られるのは自分らしくないと考えていたが、転生してまで自分に会いたがった黒江への照れもあり、自虐的な発言の多くは前史で自分がどういう風に見られていたかを研究した末の周囲へのポーズであると、下原にはっきりと述べている。下原は坂本に、『坂本さんは不器用ですね』と返したという。
「あの方は本当は周りを立てる方だ。だから、クロウズの中では目立たない存在だったが、先輩受けが一番良かったらしい」
「あの方は最後の、昔ながらの武士道精神の持ち主かもしれませんな」
「いや、正確には海軍航空隊の精神の具現化かもしれない。海軍は他国みたいな個人を讃える制度は無かったし、それが許されていたのは赤松女史だけだった。妹は『あの人は周りをよく見てるから、一緒に飛んでたら、まず生きて帰れない事は無いって安心感も有るしね』と言っているよ。だから、彼女を目指したいのに、レイブンズの復活でエース制度が全軍に入る事を嫌ったんだろう」
これは彼の推測ではあるが、MATに移籍したウィッチの多くは往年のレイブンズに対抗心を持つように教育された世代のウィッチであるのは確かだった。坂本自身は43年時点で、ラルにこう漏らしている。
『徹子みたいなのが表彰されれば、全体の士気高揚になる。撃墜数のカウントは敵への被害をどれだけ与えたかの判断材料でもあり、ステータスとしても世界的には重要な指針とされているのに、エースの記録を取っていないなど他国からの嘲りの種になりかねん。黒江が覚醒すれば、その流れは海軍がブーブーいようと、聖上が許さんだろうから、止められんよ。奴は約束された勝利の剣を持つからな』と。
黒江が『約束された勝利の剣』の使い手である事を覚えていた坂本は、ラルが超電磁砲を持つことも覚えている事も匂わせつつ、黒江がエクスカリバーを持つ事で、エース制度が根付くだろうと言っていた。それは45年には現実になり、レイブンズの復帰後はそのプロパガンダで軍部は予算を獲得しているとまで言われるほど、広報に力が入れられている。黒江が顔出ししなくなったことを日本側に政府ルートでわざわざ文句を言うほど、レイブンズのプロパガンダは扶桑軍の死活問題だった。
「今じゃ、レイブンズのおかげで軍部の予算は増やしてもらってるとか、専らの評判だ。バルキリーにまで乗って戦うんだから」
「あれで予算をどうやって確保してるんですかね」
「バルキリーを調達しないと戦えないほどに前線は兵器がないってアピールになるそうだ」
バルキリーを『知る』者達は、その万能性を羨望し、性能に驚嘆する。21世紀の水準からすれば、VF-1でも『超高性能戦闘機』になる。21世紀当時の航空機のネガである『航続距離の延伸』を大気圏内運用では気にせずに済み、エンジンの反応物質を数ヶ月にいっぺん補充すればいいからだ。それでいて、航空機としても、F-14の子孫らしい形状でありながら、アクティブステルス完備、空力的には21世紀のステルス機より良好と理想的である。そんな超兵器に頼らせるのは忍びないというのは、財務省への国防省の最近のセールストークだ。黒江達がバルキリーを使う際にコックピットに乗り込む映像は予め、配備されている全機種が撮影されており、財務省へのアピールにどれが良いかを精査していたりする。また、この時、国防省は日本向けに『VFの運用コスト対照表』なるものを用意しつつあり、VFの存在を公にしつつあった。空自はダイ・アナザー・デイの際に、連邦軍がどの世代のVFを主用しているかを把握していたが、国防省の情報統制の影響で口外はしばらく禁止されていた。そして、奇しくも最初に存在が明らかとされたのが『VF-1』と『VF-4』だった。これは連邦軍が後方部隊に配備させており、輸送機の護衛目的で参加していた機種でもあった。前線にいた自衛隊はもっと新しい世代のVFが飛んでいるのを目撃しており、数回の開示で、デルタ世代まで登場済みである事が示されていた。黒江達は1へは搭乗訓練で経験があるが、連邦軍では旧式機種のVF-4は実は乗っていない。これは黒江達が訓練を受けた段階では、その次の世代のVF-11が練習機に転用されだしていたからである。11で育った彼女らの乗り換えについては、個人の嗜好も多分にあり、黒江と智子、なのははイサム・ダイソンのツテを頼り、VF-19からの流れを好み、フェイトやハルトマンはVF-17から22への流れを辿った。特に19は、『主役機』である事もあり、智子が乗り込んだ事は空自で歓声が上がった。最初は廉価版であるブレイザーバルキリーだったが、腕の向上でリミッター解除の『エクスカリバー』に乗り換えているように、智子も特訓を続けたのが分かる。黒江は苦もなく、チューンされたエクスカリバーに乗り換えているので、そこはパイロットとしての二人の経験差でもあった。黒江曰く、『宇宙なら、ブレイザーのほうが小回りがきくぜ?イサムさんから聞いたもんね』との事だ。ブレイザーバルキリーは機体反応速度が調整されているので、エクスカリバーのチューンのほうがエース部隊では好まれる。これはメーカーとしては驚きの運用法だが、ヤン・ノイマン博士曰く、『ブレイザーは反応をソフトにしたのが受けない理由だよ』との事。他には、人工知能補助が鋭敏過ぎて、エースの好む細かい操縦を受け付けない弱点が指摘されており、ギャラクシー社がものの見事に、VF-171で同じ失敗を犯している。そのため、最近はエース用にアシストを切るか、最小限度に留める傾向になっている。また、スーパーロボットが人知を超えてきてるため、政府の介入も減った。自分達の手には負えないからだ。特に真ゲッターと真ドラゴンの事件以降は、政府の介入は起きなくなった。ゲッターエネルギー事故の大きさに怯えたらしい。
「で、バルキリーの他にグレートマジンガーやゲッタードラゴンの存在は開示してると聞いたけど?」
「スーパーロボットは公表したら奴さんもご機嫌だそうだ。客寄せパンダになるとかで」
「やれやれ。で、この新聞の記事を見てくれ。お宅の穴拭准将閣下が白バラ勲章をもらった時の戦の模様だ」
「どうしてこんな記事が?」
「フィンランドへのお詫びを兼ねての説明だそうだ」
評議会が日本の保守系新聞に書かせた、智子が白バラ勲章を得た時の様子の記事。フィンランド大使館を野党が立腹させたので、そのお詫びを兼ねている。最大野党の党首は智子の白バラ勲章受賞歴に驚き、国防省に詫びを入れている。政府はフィンランドの勲章の中でも高位の勲章であるので、その周知の必要があると判断したのだろう。智子へのインタビュー形式となっているが、だいたいはこのような感じで起こったという。
――1942年――
当時、スオムスの戦況が落ち着き、圭子の覚醒に感応するようにして、Gウィッチに完全覚醒した智子は、来る『一時の引退』に備えての準備を始めていた。ハルカを本国に送り、士官教育を受けさせ始めた時期であるので、この時のいらん子中隊の基地は世代交代の波が押し寄せ始めており、智子も年齢を理由に、43年に本国召還の通達が来ていた。だが、力は完全に黄金聖闘士としてのそれを取り戻したので、来る『未来行き』をどうして理由を捻り出すのか思案を重ねている時期だった。覚醒した証は、巫女装束の上から、ソ連軍式の軍用コートを羽織っていたりする行為である。
「あー、エーリカ?あんたも覚醒めたんなら、こっちに顔見せてよー。話が合うのが今はいなくて退屈なのよ」
「智子さん、ウルスラにあたし達が『面識がある』って知れたらまずいって」
「なんとでも誤魔化し効くじゃない。それに、この時期のエイラとニパの顔も拝めるわよ」
「あ、そっか。それにどうすんです?ほら、今の時期ってスオムスに攻勢が起きる時期だし」
「あんたも混じったら?」
「スコアとかどうすんの?それにウチのミーナやトゥルーデはまだ覚醒してないし、揉め事起こしたくないなー。スコアあげるから、内密にお願いできます」
「仕方がないわね。ウルスラを使って呼び出すわ。私の名前は出す?」
「お願いします」
「はぁ。あの子、あたしらレイブンズ知らないから、正直言って難儀な子よ。まほか何かに染まってくれればいいんだけど…」
智子は自分達への対抗意識でエーリカやルーデルの手を焼かせたミーナの前史での振る舞いを思い出し、嘆息気味だ。
「それを祈るっちゃないなー。あいつ、クルトの一件から頑固になったとこあるし」
結局、ミーナがクルトへの思いを乗り越え、新しい自分になる『G化』は45年のダイ・アナザー・デイまで待つ必要があった。
「あんた、今、高山弁を?」
「前史でドラマ見てた名残かもね」
「やれやれ」
「あまり長話してると、トゥルーデが訝しむから、切りますよ」
「ええ。ここ三日位でウルスラを使って、呼び出すからよろしくね」
智子はこの電話の後、ウルスラにエーリカを呼びだすように指令を出し、エーリカはそれを待って、ミーナに休暇届を出す。表向きはウルスラに顔を見せるため。当時はGウィッチではないバルクホルンやミーナを誤魔化せる言い訳がそれしか無かったからだ。いらん子中隊名義での要請もあり、ハルトマンはスオムスに渡る事に成功。智子との『再会』を果たした。
――42年の晩秋――
「久しぶり、エーリカ」
「ええ。何十年ぶりですか?」
「感覚的には60年ぶりくらいかしら?前史で死んで以来だものね。積もる話もあるわ。私の執務室に来て頂戴」
「ういーっす」
智子はG化した後は、エーリカとは戦友であるのと、当時はお互いの階級がそれほど差がないのもあり、フレンドリーに接していた。以前のハルカがいれば嫉妬の炎全開であろう。執務室で久しぶりの雑談を楽しむ。ここだけ見れば、21世紀の若者と変わりない。
「この記事見たよー?クニカとケイさん、アフリカで大暴れしたそうだね」
「あの子、今回はあたしに面倒押し付けたから、綾香が目覚めれば、あたしが保護者になる予定なのよね」
「まー、あーやはこれからヘビーな経緯が待ち受けてるから、しゃーないですって」
「まーね。あの子、それが引き金だし。覚醒したらしたで楽なんだけどね。ケイは今回、あのキャラで通すとか言ってきたから、早速実家のご両親泣かせたわよ」
「ああ、お見合い」
「今くらいが適齢期だもの、あの子。それがこの時代だと異端に見られる、あの振る舞いよ。実家のご両親泣かせたって」
「あー…」
「アフリカの連中を大いにブルらせたみたいよ。あの殺意スレスレの三白眼なんてやらかすから、シャーロットは怯えるわ、ルコは冷や汗タラタラ、ハンナは腰抜かしたとか」
圭子が覚醒後に見せるようになった、レヴィとしての振る舞い。素の姿であの三白眼を見せたので、アフリカのウィッチ達を大いに怯えさせた。また、マルセイユが未覚醒の内に、自分の実家に連行し、以下のやり取りを両親に見せた。
『アタシの旦那、こいつで』
『なんでだ!?何故わたしなんだ!?」
『それじゃ、お嫁さん出来る?』
『う、うぐ…』
『一生付き合ってやんよ、な?』
肩をバンバン叩き、マルセイユを赤面させる圭子。豪快な振る舞いだが、圭子の両親は末娘が事もあろうに同性愛同然になっているのかと心配し、結局は圭子が戸籍上で30歳を迎えるまで、頑張ってお見合いをコーディネートしようと奮闘する。圭子は兄たちに48年までは『親父とお袋をどうにかしてくれよ、兄貴』とぼやく羽目になるのだ。マルセイユは覚醒後、『私をダシに使いやがって。ま、まぁ、私に惚れ込んだ事に免じて、許してやる』とツンデレ的な返事を返している。圭子も、『一生付き合ってやるってのは本気だけどな、家族として』とし、44年以降のマルセイユの覚醒後は持たれ持たれつの関係になっていくのだ。
「ハンナも、覚醒すれば楽なんだけどなぁ。今じゃ、単にうざったいキャラに見えちゃうし」
「貴方に突っかかってるだけよ。あの子は今のケイ以外だと、自分が勝てなかったの、貴方くらいだもの」
マルセイユは自分を大きく上回る者には従順に振る舞う面がアフリカに行って以降は現れた。エディタ・ノイマンへの態度がそれだ。新兵時に自分の行為を大目に見てくれたノイマンには従順である。それを知る智子はハルトマンを唆す。
「相手してれば覚醒早くなるかもよー?」
「うーん。ケイさんに教育されてるだろうし、諦めよう…」
と、肩を落とす。そこへビューリングが血相を変えて、部屋へ入って来た。ハルトマンは自分は『姉の方』だと注釈を入れてから会釈し、その場に留まった。
「どうしたの、ビューリング」
「スオムスにネウロイの一団が攻勢をかけてきた!現地のスオムス軍第24戦隊が応戦に出撃した!」
「出るわ!確か、『キ44二型乙』が届いてたわね?」
「わかった。エーリカ少尉はどうするつもりだ?」
「出るよ。機体と装備は輸送させておいたからね。それに、智子さんの僚機は私しか務まらないだろうしね」
「すまん、私があがってなければ…」
42年になると、ビューリングはあがりを迎えて久しい。智子に何かが起こった事を感じ取ったため、友人にも勧められた『ファッションモデル』への転職を断り、指揮官教育を受けて、軍に居残った。(軍ヘの志願年度は黒江と同期とのこと)R化からのG化までに、長めの間があった事もあり、ビューリングはこの時の事を後年、『笑い話』にしているという。
「な〜に、ここはあたしにお任せ。伊達に黒い悪魔の渾名で呼ばれてないって、ビューリングさん」
ビューリングにそう微笑ってみせ、ハルトマンは智子の僚機として出撃した。覚醒した後の動きでは、ハルトマンの腕が必要だからであった。智子はキ442型乙(40ミリ砲装備)の実用一号機、ハルトマンはFw190である。当時としては最新鋭機である。ちょうどエイラ達が苦戦しているところに駆けつける形となった二人はストレス解消代わりに暴れまくった。
――戦場――
「なんだ!?扶桑のウィッチ!?扶桑のウィッチがこんなところに来てるなんて聞いてないぞ!?それに、なんだあの馬鹿でかい銃!?」
ラウラ・ニッシネン(愛称:ラプラ)は、戦場に割り込んできた扶桑のウィッチに目を疑う。当時の常識からは考えられないほどの大口径砲。40ミリ砲だろうか。それを普通に構えられるウィッチは滅多にいない。しかもそれでいて、信じられないほどの回避力である。
「こちら、スオムス義勇独立飛行中隊、戦闘隊長兼司令の穴拭智子中尉。そちらスオムスの第24戦隊?援護に入る」
「あのカウハバの!?し、しかし、あそこの戦闘隊長は……」
「な〜に、あがりを迎える前のロートルだけど、ここは支えるわ」
「本業じゃ無いけど火力支援、いくよ!……そうそう。ラプラはイッル達の援護に行きなって」
「あんたはエーリカ・ハルトマン少尉!?どうしてこんなところに!?」
「休暇で妹のところに顔見せに行ったらこれでね。イッル達がやばいよー?」
「どういう事だ!?」
「敵に囲まれてるって事さ。さ、早く」
「恩に着る!」
ラプラは、そのままエイラ達の援護に向かった。二人はその間隙を利用して暴れまくった。何せ当時最新の火器と、Gウィッチとしてのメタ情報で手に取るように相手の動きも分かるため、当時の入手可能な最高の機関砲を以てすれば一撃必殺も可能である。ただし、智子は当時には試作段階の40ミリ砲を持ち込んだため、弾切れは早かった。ホ301は元々、対B29用に開発されていたロケット砲であり、かなり接近しないと当たらないが、45年以降の事を考えて使用していた。
「シールドが心許ないふりってのも、面倒いわねー」
「仕方ないさ。それ、もう弾切れ?」
「ロケット砲でね。この時に試作段階の引っ張って来たのよ。ビームマグナムと一緒よ。さあて、ケイがゲッターの力持ってるから、あたしはマジンガーの力でも使うわ」
「扶桑海ん時に使ったっていう、カイザーブレード?」
「それもあるんだけど、手袋してきたのは、この事もあるのよ」
「?」
「ターボスマッシャァァパーンチィ!!」
「ああ、それか…うぇ!?マジぃ!?」
ロボットガールズと同じ力である。智子はフォボスを動かす未来があるように、ロボットガールズの素養もあったのだ。
「あのさ、オーラで拳作って飛ばせば良いじゃん?」
「あーーー!!そうか!ついついZちゃんのノリで」
「わーったから、敵、来るよー」
「ならば!!正義の魔神の力、受けてみなさい!!ファイヤーブラスタァァ!」
ファイヤーブラスターはマジンカイザーと違い、俗に言う波動拳のようなポーズから撃つ。この点でオリジナリティを気にするのは、中二病要素を智子は持っている証だった。
「……灼熱波動拳?」
「あ、あんたプレイしたの?」
「ナオの相手をしてやったことあってさ」
ファイヤーブラスターは見事に怪異を思いっきり巻き込み、熔解させる。オリジナルのファイヤーブラスターと同等の威力があるのか、あまりの高熱で雪が溶け、更に地面がガラス化している。ストライカーを装着した状態で撃つのは始めてらしかったが、意外にしっくりきたらしい。
「あのさ、水瓶座の黄金聖闘士なのに、炎扱っていいの?」
「一応ね。氷河が一人前になるまでって事で、叙任されたのが本当のところ。それに、炎と氷は表裏一体だから問題ないわ。エネルギー制御が本質だからね」
「ふーん」
「さあて、そろそろあたしらに気づく連中が出てくるはずよ。例えば……」
『こちら、エイニ・アンティア・ルーッカネン大尉。穴拭智子中尉、応答されたし』
「貴方でしたか。常勝のルーッカネンこと、ルーッカネン大尉」
「それは恥ずかしいので、やめてもらえないでしょうか?…貴方がまさか参陣しているとは……。ラプラから報告を受けましたが、貴方まで出る必要は…」
「なあに、引退前の最後のご奉公ですよ、大尉」
智子の過去の武勇を、ルーッカネンは知っているようだった。智子の過去の武勇は、江藤が部隊全体の戦果重視の考えから封印していたが、当時にスオムス軍の観戦武官であったルーッカネンは、レイブンズの無敵ぶりを目の当たりにしている。
「新型の対候試験のついでの出撃に付き合ってもらっただけだから無理はさせないよ、大尉」
「君はエーリカ・ハルトマン少尉?君までここに!?」
「妹の顔を見るついでだったけど、イッルの顔もみたくて」
「イッルの事を知っているのか、少尉?」
「姉のアウロラのほうから話は聞いてるから」
「あー…なるほど」
アウロラの名を出し、その場を取り繕うエーリカ。エイラは本土では『イッル』の愛称のほうが通りが良い。エーリカも前史での引退後はそう呼んでいた。エーリカは42年には『新進気鋭の撃墜王』として名が知られ始めた頃だが、501はまだ形になっておらず、ミーナとはまだ同僚の関係である。そのため、休暇を取得するのも、後々に比べれば楽だった。そのため、休暇で妹の顔を見に来たというのも真実味がある。イッルという愛称の事を知ったのは、二人とも前史では45年のことだ。今回はそのメタ情報から、そう呼んでいる。それを誤魔化す。
「私達も、そちらに合流するわ。イッルやニパ達に何かあると不味いし、ロートルでも盾くらいにはなるでしょう。よろしいですね、大尉」
「何を言うんです、あの時の奇跡を起こされた貴方が言うことではありませんよ、中尉。貴方ほどの方がなぜ、まだ中尉なのか……」
智子は苦笑いする。江藤が『有頂天になるといけないから』と、功績の殆どを未確認として処理したことが、智子達の出世が足踏みしている理由なのだ。それらが公認された事と、軍部が陛下に睨まれたので、三人は5年後には一気に准将になるので、予定調和ではあるが。
「色々やらかして上に睨まれてるんですよ、大尉。昇進蹴った事もありますから、私達三人は。陛下のお気に入りですので」
この頃、ちょうど黒江の冷遇が問題視され、それを誤魔化し、死んでもらうために、わざと欧州の最前線に送り、そこでこき使われている頃でもある。智子は黒江より数年、覚醒で先んじた形になったので、ルーッカネンにはそのようにして、戦果が未確認になっている事を明示する。黒江へのあり得ない冷遇と、智子のスオムス決戦への参陣、ケイの大暴れが、後の太平洋戦争時にエース制度を本格化させるきっかけにもなる。つまり、他国で英雄視されているのに、相応の褒章を与えないで、左遷や前線送りにした事が問題になったのである。智子の場合はわざとだが、黒江の場合は扶桑内部の問題を誤魔化すための異動、圭子は体のいいエクスウィッチの送り先。そうなるはずであるが、黒田と組んだ圭子が、現地を揺るがすほどに自重していない活躍ぶりを見せた事で、当時の参謀本部が激震している最中である。実際、三人が英雄と持ち上げられるのも、未来人と接触した後の45年の事であり、太平洋戦争時のMATの勃興の理由の一端は、江藤の親心からの三人の戦果の矮小化にあった。後に、若松と赤松に『金鵄勲章は取らせてやったじゃないですかぁ!確かに当時の戦果に疑問があったのは認めますから、腕を捻らないでください〜!』と、本気で怒った若松に対して、言い訳じみた泣き言を言っている。若松はこの時に『殺すぞ、小童!』とまで言うほど切れており、江藤は新兵当時に戻ったかのような怯えぶりを見せ、『赤松先輩、助けてください!』と本気ですがりつく醜態を見せた。赤松もこの時ばかりは、『あの時、ボウズの言うことを信じなかった罰だと思って諦めろ。若はこうなったら行くところまで行く』と薄情であった。この事は若松と赤松が極秘裏に処理したのだが、江藤は『あの二人に背いたら殺される〜!でも、なんであそこまで入れ込んでたんだー!若松先輩』と同期の坂川大佐にぼやいたという。
(でもさ、なんで江藤さんは智子さん達の戦果を未確認で処理したの?バレたら、あのお二方にシメられるのなんてさ、火を見るよりも明らかじゃん)
(他の随伴が無くてね。あの時、私も14、綾香で15、圭子も18、9。信用させられなかったのよね。要は若すぎたのよ。私も綾香も。圭子一人だけじゃ、信用性が無かったのよ。あの子を抑えるの大変だったんだから。あの態度取りそうになってね)
(あの態度になったら、江藤さんも失禁もんだって。あの三白眼を向けられたら、ねぇ)
(だからよ、あと、あのニヤケ顔になった時、他の部隊の連中、ドン引きだもの)
江藤はシメられた際、事変の時、圭子に恐れを抱いていた事を告白している。それはウィッチがするはずのない『殺意スレスレの三白眼』や、闘争を心の底から愉しむような顔が理由だと。圭子は今回、レヴィとしての態度を通しているが、それはそれで周りに恐怖を振りまいていた事も判明する。
(で、どうする?)
(まー、多分。覚醒した私達をイレギュラーと見て、怪異が前の時より強化されてる可能性が強いから、いざとなれば、怪異の軍団をまるごとフリージングコフィンで凍結させて倒すわよ)
智子は43年12月に20歳を迎えるが、今回はその前にG化が起こっているため、この時期の一線級の誰よりも、個人では強い。智子は黄金聖闘士としての使命を優先させ、闘技を使うことを宣言する。後年の次元震パニックの際に使用された智子のフリージングコフィンの映像はこの時のものである。智子が45年以降に英雄の地位に戻れたのは、この時の映像をスオムス政府が公開したからである。智子はこの後の『引退期』を経て復帰した後、広報に厳しくなるが、それはスオムス政府が智子を間接的に擁護した事で、広報に配属できなくなった事で50Fで飼い殺しにしていたら、未来人達の誘いに乗り、未来に行かせたら、往年の神通力が戻っていたという、ウルトラC級の奇跡が起こったことで待遇がガラリと変わり、また英雄と持ち上げた因果応報でもある。
(でも、参謀本部がよく広報に回さなかったね?)
(海援隊に天下れって、姉さんに勧められたけど、来年に帰国させて、広報に配属させるのが内示であるみたい。だけど、これで白バラ勲章取ったら、広報に配属させるのはオジャンになるから、50Fで飼い殺しにあうのは確実ね。前史でそうだったし。参謀本部にゃ恨みもあるから、広報には協力はしないわ。ケイが絡んでないと、ね)
広報はこの後、欧州から帰国予定の黒江に期待したら、その黒江も日本での訴訟の連続で非協力的になり、現役復帰後は圭子か武子が締めて出させる以外に広報活動はしなくなったという未来が待ち受けている。まさに踏んだり蹴ったりだ。ただし、ブロマイドの発行は許可していたのは幸いであり、それで日本連邦の体制下でも部署は存続に成功する。太平洋戦争中の事だが、圭子は64隊員と兼任で広報部長に任ぜられ、広報を掌握後、ブロマイド戦略を大きく転換、自部隊の資金源とすべく、未来世界でのトレーディングカード張りの売り方に転換する。それはちょうど次元震パニック中の事で、この時期のブロマイドになっている501元隊員達の姿は、B達を動員したものとされる。A達は前線でそれどころではないので、B達を影武者に使った。それは前史との共通事項だ。また、今回は調もちゃっかり、64F所属ウィッチ扱いでブロマイドに混ざっており、この時期には赤松の差し金で扶桑軍籍も持ったのが分かる。
(さて、エイラを驚かすわよ〜。レイブンズが筆頭の座は綾香には渡さないんだから〜!)
(いや、前史で明け渡してたような?)
智子の意気込みとハルトマンの疑問。黒江が筆頭格と見る認識が強かったのに対抗してのことだが、前史の時点で、仮面ライダー達にもそう認識されていた事を思い出し、なんだかんだで智子は黒江と似た者同士である事を認識し、42年はスオムスの空を駆ける。智子は押しが弱いが、黒江は精神崩壊後の反動で押しが強くなった。その差が45年以降のレイブンズのプロパガンダでの中心が誰であるかを決める材料となるが、ハルトマンは言わないでおこうと考え、智子に随行していった。
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