外伝その325『伊達じゃないこと』


――結局、扶桑皇国は軍事的に日本に振り回されまくったが、レイブンズの『再発見』と再評価という点では、日本は功績をわずかにでも残した。ある種の独自社会化しつつあったウィッチ兵科を『解体』直前にまで追い込んだものの、明確な年功的意味のヒエラルキーは確立された。つまり、事変経験者の生き残りであり、なおかつGウィッチである者が上位を占めていくという、扶桑特有の年功序列的ヒエラルキーであった。扶桑のGウィッチはカールスラントの面々に代わり、公式に『世界最強クラスの撃墜王』とされた。(カールスラント勢の撃墜スコアが参考記録扱いにされ、レイブンズの未来世界でのスコアが一気に加算されたため、レイブンズやその部下達の撃墜スコアはカールスラント勢に取って代わる形で、世界トップ級に躍り出た。未来世界でのスコアと事変中のものとを併せれば、扶桑海七勇士のスコアはカールスラント勢が霞むスコアになっていた)レイブンズの撃墜王としての地位はこの時でようやく確固たるものとなった。年功序列的ではあったが、ウィッチ全体の問題として、上の代を下の代が見下す傾向があったので、レイブンズの事変中のスコアの全公認はウィッチの統制を司令部がしやすくする意図も含まれていた。Gウィッチの特権は、『戦場で使い倒す代わりに、法に反しないことであれば、彼女たちの好きにさせる』意志の表明のようなものであった。ちなみに、彼女たちの所属先の64Fの空軍設立後の位置づけは最終的に、『扶桑軍正規の軍編成に属さない、統合幕僚会議の統制を直接受ける、外殻独立飛行軍』という位置づけに落ち着き、プリキュア勢の所属や未来装備の保有への大義名分が正式に与えられる事になった。ソビエツキー・ソユーズの鹵獲の感状は陸軍参謀本部の名義で授与されているものの、実質的に501を取り込んだ事に反対論は無かった。この時期に始まった日本向けの64Fの存在の宣伝は『プリキュア出身者を含め、各地の精鋭を集めた』で、表向きはされているが、実際には本土で編成の天誅組や奇兵隊には、エースの見込んだ新人もわずかに含まれているし、人員のすべてが二桁以上撃墜の撃墜王ではない。(戦闘技術そのものは一級と判定された者であるが、部下にスコアを譲ってきた者も推薦で配属されているため)だが、欧州にいる新選組と維新隊の人員練度は当時の最高レベルであり、カールスラントが誇った最盛期のJG52やこの当時の44JVを平均レベルで既に上回る。21世紀日本では、自国内での扶桑の栄典や名誉の取り扱いの問題がまだくすぶっており、その事への不満(金鵄勲章を全てで瑞宝章と同等の扱いにし、勲章としての位をそう格付する案が取り沙汰されており、これがクーデターの一因になる)がクーデターの機運を高めていた。こうした、日本の一部勢力による扶桑の軍人主体の社会の変革を目指す動きは、扶桑の『クーデター』と現地世界への多大な悪影響の重大さを思い知った事でピタリと止む。日本連邦が現地の世界秩序を維持する超大国と化するしかないほどに選択肢を狭めた事に気がついたからだ。64Fの優遇措置に日本側が同意した理由は、日本国政府と防衛関係者が『ウィッチの迫害が始まれば、たちまちに中世宛らの魔女狩りが起きてしまう』事をよく理解していたからで、オラーシャの革命騒ぎでの大虐殺と混乱を他山の石とした事がわかる――








――ダイ・アナザー・デイが三週間目を迎えていた頃、扶桑陸海軍を含めての各国軍に多数いたウィッチの少なからずが日本自衛隊内部の害獣駆除専門部門『MAT』(命名者が某特撮シリーズのファンであった)に移籍していく事での戦線の弱体化に一定の歯止めをかける意図もあり、Sウィッチ枠が正式に始動した。授与基準は割に緩め(5機の航空機撃墜、もしくは飛行時間600時間超えで勤務態度良好)に設定され、少しでも古参兵を留ませたい軍部の切実さが窺えた。扶桑皇国は既に、最盛期には400人を超えた制空ウィッチの内の半数を移籍や退役で失っており、新規補充人数がそれに追いつかなくなっていた。それを補うには、RウィッチとGウィッチの活用しか方法はないと見做され、普通教育現場から追放され、その役職を失った陸海軍の教官ウィッチ達が優先的にR化され、戦線に補充要員として投入されていた。(ただし、ウィッチ訓練ノウハウの維持のために高等工科学校として改編され、正式に軍機関化された学校もあるので、全員が前線勤務に戻ったわけではない)更に、転生者は上層部にとっては厄介な人物たちでもある。『軍の内情をつぶさに知られているし、天皇陛下の寵愛を受けている者もいる。法に反しない限り、好き勝手やらせたほうがいい。人事関係者を遡ってまで裁く必要が無くなるし、前線の人手不足を100人分以上で補える』という認識であり、転生者の全員を定年後も使い倒す事は連合軍の暗黙の了解となっていた――








――64Fには結果的に、様々な異能が集まる事になった。実質的に異能の実験場と揶揄されたが、未来装備と併せての特異性の表れとされた。地球連邦軍が採用した兵器が中心だが、既に小型MSの時代が軍事的観点で終わり始めた時代のため、試作品としての用途を終えたガンダムタイプも複数有していた。クラスターガンダムやネオガンダムの実質的な三号機(残されていた二号機の予備パーツを組み上げ、後継機のセンチュリーガンダムのテストに使用予定であった)がそれに当たる。主な機材供給元のアナハイム社は大型機を得意とし、多くの傑作機を輩出していたが、小型機やミドルサイズを苦手としており、ネオガンダムも『カタログスペック上でF91を上回っただけ』と揶揄されており、V2の製造で得られた技術でミノフスキードライブ搭載の『センチュリーガンダム』の建造を目論んでおり、サナリィの後追い感は否めない。可変MSや大型規格のガンダムタイプでは、従来のノウハウが使えるために順風満帆であるが、サナリィの台頭、地球連邦軍の工廠の再拡大で、アナハイム社もかつてほどの繁栄は出来なくなっていた。そこもかつては地球連邦の支配階層とさえ言われた、ビスト家の権威に陰りが見え始めた証であった。(地球連邦が星間国家へ成長し、色々な要因でアナハイム社の軍事開発部門への受注が陰りだし、ビスト家の権威も戦乱の連発で薄れ始めた時期がデザリアム戦役前の頃にあたる)黒江はそこにつけ込み、Zプルトニウスを発注し、ライトニングガンダム(リ・ガズィ系の最新型)、ライトニングZ(非変形機)を作らせ、回させた。当時にジム系の次世代機とされたRGM-153『ジェイブス』も第三陣として試験的に配備させ、地球連邦軍の新鋭機を集めていた。

「ジェイブス、使えるの?」

「旧式のジェガンよりは使えるって話だ。Fシリーズの実質的な量産化だそうだし」

ジェイブス。ジェムズガンを大型化させたような外観だが、塗装はジャベリンと同じ青色主体であり、専用のミッションパック『ヴェスバーパック』を装着し、新型ビームライフル(F91用のライフルを量産化したもの)を装備すれば、F91の簡易量産機らしくなる。のび太やアムロ曰く、『サナリィのFシリーズを意識しすぎた』とはいうものの、機体性能自体はザンスカール帝国戦での第一線機水準であり、ジェガン系からの抜本的更新が今度こそ期待されていた。地球連邦は大口注文が可能なアナハイム・エレクトロニクス社の技術力がサナリィより10年遅れと揶揄されていた関係で、ザンスカール帝国の高性能機を数で黙らせる事が常態になっていたが、サナリィがリガ・ミリティアに協力した関係で、アナハイム・エレクトロニクス社もサナリィの最新技術を取得した。その関係でジェイブスは設計が変更され、Fシリーズの要素が強められた。ただし、当初予定ではジェガンの延長線上の汎用機としての設計で、ミッションパック方式では無かったために細部の練り込みが甘く、ミッションパックもFシリーズ用のものがサイズの関係で流用できない。(ジェイブスは16〜17m、F90は15m)ミッション装備も新規に用意せねばならないために、議会には不評であるし、一年戦争以来の古参兵にも『貧乏くさい』と不評であるが、仕方ない面がある。専用の支援機の製造はデラーズ紛争当時のジム・キャノンU、メタスの派生である『ガンキャノン・ディテクター』や、後発だが、対MS戦をいまいち想定していない『Gキャノン』でストップしていた上、ジムキャノンU以外はラインが止まっていた。この当時は一年戦争や、一時の平時のような専用支援機の活躍できる余地が消え、TMSや第四世代機を軸に、小型機が乱れ飛ぶ時代になっていたからだ。

「ま、アナハイム・エレクトロニクスもミドルサイズでやっと、F91の簡易量産型を造れたってとこだな。ミッションパックが新規だから、議会受けが悪い。たぶん、あまり量産はされないな」

「F90の規格品が流用できないってことね」

「一部はできるがな。素体がジェムズガン系統だから、そもそものすり合わせも甘いとか、アムロさんが言ってた」

「まあ、途中で設計変えた機体にありがちなことよ。グリフォン・スピットとか…」

「ありゃ、機体がエンジンに追っつかないわ、燃費が悪くなる、当て舵も逆になる、だったからな」

「地球連邦はそもそもなんで、今以上の新型に固執を?ネオ・ジオンなんて、パイロットと在来技術頼りの集団じゃ」

「ネオ・ジオンはジオンの残党の寄せ合い所帯だ。サイコマシンとパイロット練度の高さで看板を保ってるだけだよ。ティターンズ残党よりはマシだけど。ザンスカールやクロスボーンの例もあって、定期的に更新するのを思い出したんだよ。MSは戦車や戦闘機みたいに40年使う兵器じゃないから、サイクルも早いんだそうな」

地球連邦は度重なる戦乱を在来機種の近代化だけでは乗り切れないと感じ、ようやく主力のRGMシリーズの交代に本腰を入れた。だが、ジェイブスの設計面の失敗で、早くも大量配備は一部で絶望視されていた。その危惧が後続機のRGM-196『フリーダム』をすぐに生み出す事となる。もう一方の可変戦闘機が『地球圏の在来資源で量産可能なAVFを大量生産している』とは対照的であった。プリキュア達の華々しい活躍が報じられる中でも、地球連邦軍は兵器更新に努めていた。それを話題にする黒江と武子。部隊の機材は地球連邦軍が試験を兼ねて、どんどん新型が送り込んでくるので、潤沢である。それは外郭独立編成化する64Fのみの特権であった。

「ウチは航空審査部じゃないのよ?」

「お上の意向だ。文句は言えんよ。連邦もウチに送ってくれてるから、厚意を無下にもできねぇだろ」

「聖上は貴方をお気に入りのようね」

「おいおい、誤解すんな。お前だって、お上に気に入られてるんだぜ?」

七勇士は全員が昭和天皇に寵愛されているが、特に、黒江へはその度合が高い事は周知の事実であった。武子は尊皇家であるため、黒江が自分より気に入られている事に若干ながらの嫉妬を見せる。

「お前の孫娘が言ってた通りだな。お前、家で相当に尊皇教育されたクチだろ?」

「姉さんの代わりを押し付けられたからよ」

「しゃねぇ。お上に頼んで、皇太子殿下の家庭教師でもやれるようにしてやる。どうせ戦間期は活動凍結されるからな、ウチ」

「貴方、聖上にほいほい拝謁出来るの?」

「俺は立場上、お上に拝謁する機会が多いんだよ。統括官だからな」

黒江は統括官である都合上、昭和天皇に上奏する機会も多い。昭和天皇も黒江のおかげで、前線の様子を把握できていることを喜んでいる。昭和天皇は当時、新憲法が決まれば、ほぼ儀礼上の存在としての国家元首になる事は決定しているが、名目上の扶桑軍最高司令官の地位は維持する。そのため、史実の後半生の彼自身や皇太子と違い、一定の軍事的決断も扶桑の天皇の重要な要素になる。日本の天皇と違い、儀礼的であるが、国家元首である以上、軍事的知識は一定程度は必要にされ続けるのだ。天皇の軍事顧問としての侍従ウィッチ武官は儀礼的な地位とされているが、ウィッチ最高の誉とされる。黒江達はその地位が事実上、約束されていた。近代以降は前線要員から選ばれる事は減少し、華族出身のウィッチが儀礼的に選ばれていた。しかし、時代の流れ、在来華族のスキャンダル(黒田家など)もあり、新興華族たる『英雄』の黒江、穴拭家の次期当主であり、既に将官である二人を抜擢する意志を固めている。

「お上は俺たちを侍従ウィッチ武官にしたがってる。戦後に引き受けるつもりだよ。今はそういう状況じゃねぇしな。お前をお上に殿下の家庭教師に推薦してやっから、準備はしとけ。多分、戦後になると思うから、時間はある」

「いつよ」

「10年以上先だと思うぜ。史実と逆に勝たないといけない太平洋戦争なんて、日本には想像もつかん。国力差は史実ほどないが、人的資源は温存しないとならん。その関係もあって、南洋を防衛する間がヤマだろうな」

黒江の言う通り、南洋防衛が成るまでが山とされる『太平洋戦争』。64の陣容はそのためのものでもあった。

「日本は私達に負けろと?」

「ドクトリンが史実の進化を遂げていれば、南洋と本国の連絡を群狼作戦で絶たれれば、ものの数年で飢餓状態になる。だが、そういう用途で潜水艦を整備してた国なんて、この世界にはねぇだろ」

「そうね…。でも、戦略爆撃も効果が…」

「ティターンズも流石に世論操作まではできんだろ。富嶽で地道に東海岸を爆撃して、恐怖を煽るしかないだろうな」

「弾道ミサイルは?」

「日本が承知しない。迎撃ミサイルさえ持つのに苦労したそうだし、間接的な攻撃装備は予算が降りん。だから、戦略爆撃機を使うんだよ」

「非核三原則の兼ね合い?」

「宇宙開発でしかロケットの開発予算が下りない国だしな。戦略爆撃にはトラウマあるから、野戦防空軽視の提言を政治屋が出してくるんだぞ」

「はぁ。日本って、ガチガチに守るのは良くて、打って出るのは反対するのね」

「大和の保有にもケチつけた政治屋がいる国だしな。それと、うちらの練度を大戦末期の日本軍と同じくらいだって見てんだよ。実際は開戦時の猛者がいる年代だってのに」

黒江の言う通り、扶桑軍航空ウィッチの練度は1942年前後の頃の日本陸海軍と同レベルで、末期とは比較にならない。それでも練度のある人員の戦死と分散配置を嫌う動きにより、東二号作戦は頓挫してしまった。本来、扶桑の実戦経験者は17歳以上に多く、この時期の中堅で、リバウ撤退戦を経験したものは少ない。下原や孝美がリバウ撤退戦当時の新人であり、なおかつ、当時としては若めの年齢で第一線に駆り出されたほうである。(孝美や下原は訓練校から飛び級で前線勤務についた秀才であり、クロウズの次の代になり得るとされていた)

「孝美と定子が期待されてたそうだけど?」

「あいつらがやる気無しだから、撃墜王の施策を切り替えたと、大西のおっちゃんは言ってた。裏目に出たって落ち込んでたけど」

大西瀧治郎は弁解している。『連合軍で対外的に名乗るのは禁止してないし、広報で撃墜王と扱ってたのに、何で儂が槍玉に…』と。実際、黒江と対立した志賀も『部内で言い合うだけに留めておくべき』としており、非公式の称号としたい意向で、叱った坂本に言い訳し、坂本に怒鳴られている。坂本はこの頃、事実上、出戻る羽目になった事に不快感を顕にしており、志賀との折り合いは悪化していた。

『この馬鹿者が!!』

「うお、坂本か。電話口で志賀がなんか抜かしたな?」

「ああ、貴方に喧嘩売ったとか言う、海軍の中堅」

「親父さんが追い出したんだよ。おかげで、坂本は顔に泥を塗られたようなもんだしな」

「343の元飛行長でしょ?」

「坂本の推薦で入れたのに、俺と智子が出向って形で343にいたのが気に入らなかったらしくてな。口論になって、俺に喧嘩ふっかけてきた」

「で、勝ったんでしょ?」

「斬艦刀を首元に突きつけてな。坂本はこれで顔に泥を塗られた格好だ。坂本は横空に居づらくなったし、親父さんは日本に部隊の恥を晒した」

「で、元に戻されたのね?空軍設立を見越して」

「坂本は残るから、今後は出向扱いになるけどな。ったく、あのガキ…。伝統だのどうのって、俺達の代が確立させたっつーの」

黒江は志賀と喧嘩した後なので、坂本の立場を慮る。

「武子さん…」

「貴方、電話はどうなの?」

坂本が疲労困憊の様子でやってきた。坂本は事情を説明する。坂本は自分の後輩が予想以上に頑固者であった事に手を焼いているようで、喉を痛めたらしい。

「怒鳴り過ぎで、声がガラガラですよ」

「医務室で芳佳に処方してもらいなさい。あの子は赤松さんに叱ってもらうわ」

「で、どーいう内容だったんだよ、電話」

「こういう内容だ。喉が痛いから、紙と鉛筆貸してくれ」

紙に書いた内容はこの通り。

「おまえは馬鹿か?いや、阿呆だな」

「いきなり何を!」

「おまえの言うとおりに今まで通り、エースの表彰しないままだと扶桑海軍ウィッチの評価がどうなるか解るか?」

「別に変わらないでしょう?」

「他の国のウィッチから『撃墜数も把握してない阿呆』とか『記録にも残らないヘボスケ』だの見下されるだろうな、そして扶桑海軍、いや、扶桑ウィッチ全体が見くびられ扶桑皇国そのものへの侮蔑となろう!!」

坂本は電話口でまくし立てまくったため、流石に喉を痛めてしまった。いくらGウィッチであ」ろうと、普通に病気はするため、坂本は怒鳴り過ぎで喉を痛め、更に多忙が重なり、疲労で喉の風邪を引き始めていた。

「あ、っ…と」

「わっ…、無理すんな……って馬鹿、40度近くもあるじゃねぇか。武子、すぐに担架を用意させてくれ」

「わかったわ。衛生兵に担架を用意させる」

坂本の発熱は39度を超えており、扁桃腺が急激に腫れて発熱した事が丸わかりであった。その場に倒れ込む。武子と黒江は、偶然にその場にいた衛生兵たちに担架を用意させ、坂本を乗せて医務室に担ぎ込んだ。


――医務室――

「過労ですね。喉が腫れてるんで、薬を飲ませて、点滴をしておきます。2、3日は療養しないと」

「扁桃腺か?」

「潮風に当たって訓練しまくった後に、電話口で怒鳴り過ぎたのも良くなかったんでしょうねぇ。坂本さん、空母乗艦なんて久しぶりとか言ってたし」

「そいや、ここ最近は陸だったしなぁ」

「今日の夜間訓練の教練は私が代わりにするわ。孝美はまだ夜間飛行技能が無いし」

芳佳が診断を下し、所見を二人に伝える。坂本は喉の風邪を引いている。扁桃腺が完全に腫れており、完治までには、少なくとも数日を要すると。つまり、作戦に参加できるかは気力次第である。

「坂本さん、この様子だと作戦参加は微妙ですよ。自衛隊にもうちょい時間稼ぎさせないと」

「スーパーXVで浮きドックごと凍らせて、足止めさせるかな…」

「メーサー攻撃機は?」

「あれはヘリだ。ヘリに対艦攻撃はさせられん。やはりスーパーXVを使うか」

「暗視ゴーグルは?」

「調達を急がせてるが、ナイトウィッチに優先配備だからな…」

「定子さんとイリヤちゃんに回ってないんですか?」

「イリヤは宝具のインクルードあるからいいだろって上が…」


「そういう問題じゃないっしょーが…」

「インストールとインクルード使えるからって、地形変えちまえって、上は何考えてやがる。あいつのは俺と違って、コピーにすぎんのに」

「キャスターを使えば、暗視ゴーグルはいらないわよ?」

「クロ、来たのか」

「少佐が運び込まれたって聞いてね」

「お前、久しぶりに見た気が…」

クロエ・フォン・アインツベルン。イリヤがサーニャであるのと同じく、フランチェスカ・ルッキーニのもう一つの姿である。クロとしては、ドイツ人として振る舞っているように、ルッキーニよりはシリアス寄りの性格と大人びた振る舞いで、声色はスバル・ナカジマと更識楯無に若干寄っているとも取れるが、第三者が聞いた感じでは、ルッキーニと楯無の中間程度の声色である。イリヤに全体的に似た容姿だが、肌は色黒である。

「どうなの?」

「扁桃腺腫れて、このザマだ。こりゃ数日間は医務室だな」

「しょうがないわね、私が復帰するわ。ドラえもんの護衛任務を終えてきたところだし」

「ドラえもんも忙しいしな。で、ドラえもんは何してるんだ?」

「28歳ののび太の家にコズミック・イラから地球連邦が得たMSを収容してるわよ」

「ストライクルージュとガイアだっけ?」

「OSを入れ替えて、人間サイズに小さくして、稼働テストさせたいって」

「あの世界のMS、OS入れ替えんとこっち基準での戦闘に供する事できないからな」

「仕方ないわよ。こっちは元は作業重機が限界まで発達して、宇宙服の延長線上で造られたんだし」

「で、稼働テストするってどうするんだ?スモールライトで人サイズにしただけじゃ、稼働時間が伸びるだけだが」

「ああ、ネルガル重工がいるじゃない?彼らが電子変換で感覚を機体と直結するシステムを作り出したらしくてね、どうも試験の素体にしたいようなのよ」

「ああ、あの兵器のシステムの発展型か」

「ナノマシン注入を嫌がる連中が多いから、その代替案の一つよ」

「モビルトレースシステムの簡易化もか?」

「まあ、従来よりパイロット育成を簡便にしたいってのは一緒よ」

「で、誰をテストパイロットにするって」

「ガイアはカミーユさんのツテで、ステラ・ルーシェを、ストライクルージュはオーブの代表さんにお越してもらって、一ヶ月くらいテストしたいとか、ギアナ高地の連中」

「うーん。ステラはともかく、カガリはどうするんだよ」

「私に聞かれてもね。ま、マスタースレーブ方式なら、従来より育成は楽になるのは確かだし、ネルガルは失明者でもパイロットにできるのを謳って売り込んだらしいのよ」

「あそこもきな臭いの作るなぁ」

「でも、キラ・ヤマトでも連れてくればいいのにね」

「ああ、たぶん、キラは従来型コックピットで充分に強いからじゃね」

「技能的にどのレベルかしら?」

「まあ、アムロさん、カミーユさん、ジュドーの三巨塔には負けるが、ウッソやバナージ・リンクスくらいじゃね?ニュータイプじゃなくて、SEEDだし。…で、ギアナ高地でそのシステムの第一次テストがされてるって?」

「ザフトをこてんぱんにのした関係で、そのテストのテストケースその一で、イザーク・ジュールを地球連合から接収したデュエルに乗せて、そのシステムのデータ取りさせてるそうな。留学生扱いで」

「彼への嫌味か?」

「ま、そのシステムはコーディネーターだのナチュラルだのは関係なくなるし、感覚的には、MSの格好の強化服を着てるようなもんよ。原寸大より難しい人サイズでテスト繰り返すつもりらしいわ」

「ちょっとまて。そうなると、MSのフル装備で人間そのままの動きだよな。なんかバトロイドっぽいな」

「そういう事。例えるなら、ストライクルージュのオオトリ装備がカガリ・ユラ・アスハの動きそのままで動くってことね。想像しにくいけど」

「脳波読み取りのバイオコンピュータ技術とIFSが組みあったようなもんだな…。エンジンが核融合炉なら、駆動時間の心配はないな」

「カイザーのシンクロシステムのスピンオフや、ISの応用でもあるみたい。パワードスーツからのスピンオフも進んだし」

「問題は冷却問題だな。ブルーデスティニーのエクザムやペイルライダーのHADESは冷却を強化しないと、機体がオーバーヒートしたらしいし」

「生命維持装置も開発し直さないと、まともに使えないわよ?改良の余地は多いわ。今の技術だと、宇宙での一時間の戦闘行動で機体がオーバーヒートらしいし」

「事実上は地上用か。ガイアには丁度いいかもな」

「だから、人間サイズでテストしてるらしいのよ」

「つまり、今頃はギアナで、そのシステムの稼働テストが繰り返されて、アナハイム・エレクトロニクスは新型の生命維持装置と冷却機構の開発に?」

「そういう事ね」

「あ、綾香。のぞみはパイロットとしても登録していい?」

「いいぜ、武子。シャーリーと同じで、某アイキャンフライな兵器のパイロットの前世持ってたらしいし」

「シャーリーも同じの持ってそうね、属性」

「いや、あいつは紅月カレンだそうだぜ」

「どうりでガサツなわけね」

「あいつが聞いたら怒るぞ」

美遊・エーデルフェルトと、のぞみが仲が良い理由を黒江達は悟ったようである。エイラがうるさいのは、美遊、クロに加え、のぞみというライバルが出現したからでもあった。また、シャーリーが彼女たちの面倒を見ることになったため、勝手に部屋に上がり込み、実姉のアウロラを爆笑させてもいた。

「エイラに説明する?私とイリヤ、それにのぞみや響(シャーリー)の事」

「それしかない、か。大学の講義で二本分くらいの時間になりそうだ」

64は地味にパイロット適正がある者が多い。古参の高度なパイロット教育を受けた者(テストパイロット出身含め)が意図的に集められたためでもあり、錦(のぞみ)も黒江のテストパイロット時代からの慣習で高度なテストパイロット教育を受けており、その関係で、機動兵器への一定の適性を元から持っていた。それにのぞみ自身が輪廻転生で得ていた技能が加わったことになる。黒江のように、元からテストパイロットに高い適正を持っていたのは極めて異例である。ウィッチは基本、パイロットとしての高度教育を受ける事は現役期間中には無く、引退後の転科(史実の坂本のように)で受ける事が多かったからだ。黒江はこの先、軍編成から独立したテスト専門部署の再建が成っても、昭和天皇の意向もあって、正式に移籍する事はない。ちなみに、黒江のテスト向けの能力を惜しむ声は元・航空審査部の進歩的な一部のテストパイロット達に存在し、戦時中は64にテスト部門が設立され、そこで黒江が新型機テストを行う事になる。旧・陸軍系部隊では、『新鋭機の運用時には、審査部員を戦隊長や基幹幹部とする』慣例があったが、これは空軍に引き継がれずじまいだった。旧・人員の殆どは64Fで前線勤務になってしまっていた事と、昭和天皇が黒江の一軒で、テスト部隊に完全に不信感を持ってしまった事が大きく関係していた。空軍にテスト部隊が編成されず、太平洋戦争後に独立部署として再建される流れになるのは、『昭和天皇の意向が働いているからだ』とまことしやかに囁かれている。

「あ、言っとくぞ。テスパイ部隊の再建は当分は保留扱いだ。ウチにそれも兼任させるつもりだそうでな。太平洋戦線が終わるまでは、この状態だそうだ」

「やれやれ。これは『初めて』ね」

「未来は不確定だって事だ。のび太だって、別世界の記憶があるそうだ。25回の冒険以外の『冒険』の記憶が。あいつも同位体がそれなりにいるそうだし」

「のび太は特異点でもあるって事だけど、そういう事ね」

「俺達は戦争が終われば、基本的に暇になるからな。平時は訓練と書類仕事以外にやることがないが、のび太は同位体も入れれば、濃密すぎる経験を短時間に積んでいるって事だ」

「つまり、アニメで声優さんが交代した後の映画の記憶ものび太は?」

「完全じゃないが、持っているらしい。詳しくは聞いてないんだよ。有名な25回だけで、ガチで死んた事、一回。釜茹でされそうになること二回、物量差で負けそうになった事、少なくとも二回。これを小学校の後半に集中して経験してるんだぜ?いくら、俺達が通算で数百年生きてるったって、常に戦ってるわけじゃなかったし、戦争は戦乱期が終わりゃ、100年近くは起きないもんだしな。同位体の固有経験も入れれば、のび太達は何回、宇宙救ってんだって話だ」

「だから、のび太は英霊の座に?」

「不死性を得るのは転生後のことさ。今は人生を普通に楽しみたいからって、存在の永続性を選ばなかったしな」

のび太は転生を選択したが、『野比のび太』としての存在の永続性は選択しなかった。意志の永続性を望みつつも、存在そのものの永続性は選ばない。23世紀のトチローのような選択である。特異点であり、異能生存体であるという飛び抜けた『特異性』、子供の頃の運の悪さに由来して、運を飛躍的に増強する『ツキの月』を幾度も服用した事で強化された生存率とご都合主義的な展開力。更に、元々は『ギャグ漫画』の人物であるというメタ的な観点からの生存率。子供の頃のヒーロー的な振る舞い、成人後のダンディズムを体現する生き方など、他人からすれば『酔狂な』生き方であろう。

「あの子達は?」

「ああ、のぞみとりん、ラブの事か。俺の一個後の定期便で戻る。黒田に面倒を任してあるよ。のび太みたいに強く生きれるのはカッコいいが、そう上手い話はない。俺も、智子も、失敗は何かしら犯してるからな。シャーリーも、のぞみもだ」

――この物語を見つめる我々を含めて、数多の観測者たる神域の者がその運命を弄んでいる対価なのかもしれない。黒江は『観測者の実験の対象に選ばれた故に、戦乱の方向がズレた』ことを悟っており、その上で戦うことを選んでいる。ゲッターエンペラーがその領域に達した存在であることを知っているからだろう。また、のぞみのトラウマを憂いている節を覗かせる。――


黒江はここで、トラウマになるほどに前世で人生の選択を誤ってしまったのぞみ、ルルーシュとスザクに蚊帳の外に置かれた事に怒りを感じ続けている響(シャーリー)に触れた。ヒロインと言われた二人ですら、全てが順風満帆では無く、のび太のように『多くの困難はあれど、家庭的にも、一人の人間としても、最終的に成功する』ハッピーエンドを迎えたとは言い難い面がある。のぞみは転生前における長子の影に悩んでいる節があり、それを振り切りたいのもあって『婚約』を選んだ。シャーリーは紅月カレンとしての悔いを引きずりつつも、のぞみよりは割り切っている。

「シャーリーは割り切ってるわよ」

「精神的にはシャーリーの方が『大人』だからな。のび太みたいな……なんて言おうか、子供の頃の純真無垢さを維持して、普通に大人として振る舞えるようになるなんて真似は、俺達には眩しい。『隣の芝生は青い』ってか」

黒江は自虐的に武子やクロに語るが、自身は狡猾さを悪い意味でも使ってきたためか、いい意味のみに狡猾な側面を使うのび太が眩しいらしい。のび太は大人になりきれない自覚のある大人、黒江は大人の汚さを身に付けてしまった子供と互いに理解しあっているのだ。のび太の人間的魅力は『慈悲深さ』と『いくつになっても純真』なところも大きく関係しており、調が野比家に居付き、ことはも、のび太が11歳当時からの20年近くを共に生きてきた理由になっている。実質、朝日奈みらいと十六夜リコのことはへの親としての役目を、のび太が引き継いだようなものだ。言わば、ことはに不足していた父性愛を担ったのだ。

「噂をすれば…。のび太から伝言よ。ことはに参戦要請が出たわ」

「マジかよ、はーちゃんまで動員だと?」

「任官手続きが終わり次第、定期便でこっちに来るそうよ」

「みらいとリコが聞いたら、泡吹くな。それに、今のはーちゃん、キャラが変身した後とあまり変わらなくなってるしな。20年くらいをのび太んとこで過ごしてるし。生き返ったら腰抜かすぞ、みらいとリコ。いおな(キュアフォーチュン)とめぐみ(キュアラブリー)はしばらくの間、なお(ラウラ・ボーデヴィッヒ/緑川なお/キュアマーチ)に預ける」

この頃になると、魔法つかいプリキュアの二人の肉体の培養はほぼ完了し、魂魄の定着を待つだけであった。先に意識のみは目覚めており、ゲッター線に呑まれたフェリーチェを正気に戻すなどの介入を通し、復活をアピールしている。はーちゃん(ことは)がのび太の庇護を受けて、のび太の世界の21世紀日本で20年を生き、養子縁組で野比家の長女(調は執事や家政婦のような立ち位置である)になっていることには驚天動地であった。二人は意識のみで、しずかの家の名跡を形式上でいいので、受け継ぎたい(ことはにとっての20年の月日を埋め合わせしたい意図も含まれていた)気持ちを肉体の培養カプセルの護衛役であるディケイドに告げている。(ちなみに、源家はしずかの父の兄が本家筋であり、しずかは分家筋である)2018年前後ののび太の家はシャル、セシリア、ラウラ(なお)の三人のIS操縦者、ハピネスチャージプリキュアの二人が守護する事になる。のび太28歳当時には隠居し、老境を迎えたのび助と玉子も守護対象であり、のび太の両親は知らぬ内に、豪華な陣容の警護を受けていた事になる。

「のび太の家、広くなったわよね、黒江准将?」

「ええ。確か、再開発の折に引っ越したらしいわよ?」

「ガランド閣下が手を回して、デカイタワマンのワンフロア丸ごとをのび太んちに買わせたからな。あの辺一帯が2006年以降に再開発されて、タワマンが2007年以降にバンバン建つんだ。多分、地主の代替わりを好機と見て、街が再開発を急いだんだろう。あの一帯を公園にしたしな、練馬区」

のび太の家の周辺は2000年代後半の(のび太が高校生の頃)再開発で大公園となり、立ち退いた住人は駅前のタワマンに優先的に移転する権利を得、2008年度までに引っ越している。野比家はG機関の支部が置かれたタワマンに引っ越したため、ガランドの計らいでワンフロア丸ごとを購入し、実質的にG機関の合宿所と訓練施設をも担っている。2018年前後の時点では、それから10年が経過。地域にもやがて定着し、のび太の住むタワマンはいつしか、『プリキュアの聖地』、『仮面ライダーの聖地』と呼ばれるに至っている。その関係で、シャルとセシリアがIS姿で買い物しようが、キュアマーチやキュアラブリー、フォーチュンが出歩こうが全くの無問題なのだ。黒江が時たま、プラグスーツを着た綾波レイの姿で買い物しても『ススキヶ原では、他での非日常も少し不思議な日常だ』と、華麗にスルーされている。従って、プリキュア達が変身後の姿で買い物しようが、まったく問題はない。(極論すれば、ジャンヌが甲冑姿で買い物しようと問題ないのだ)

「なおからだ。……何々?変身した姿でコンビニで行ったら、コンビニ強盗に出くわしたから、取り押さえたってよ」

「あの街はフリーダムね」

「だから、のぞみとラブにも、変身した姿でのび太の街で買い物してみろって言ってんだ。はーちゃんと調のおかげで耐性が強まってるし、はーちゃんも変身した姿で買い物してきてるしさ」

タブレットに緑川なお(ラウラ・ボーデヴィッヒ)から送られてきている添付ファイル付きのEメールに笑う黒江たち。写真には、キュアラブリー、キュアフェリーチェ、キュアフォーチュン、キュアマーチの四人がのび太の町のスーパーで変身したままで買い物を楽しんでいる様子が写っていた。キュアマーチは趣味と実益を兼ねているサッカーボールを選んでいる。写真の撮影はのび太の父であり、当時には隠居していたのび助らしい。日付はことはが呼ばれる前のものであり、ラブリーとフォーチュンの歓迎も兼ねて、買い物に行ったらしい。

「准将、これって、世の中の女の子が興奮するわよ」

「大きな友達のほうが喜ぶぞ、これ」

黒江のいう通り、東京の再開発途上の町のスーパーに歴代のプリキュアが四人も集まる。遊園地のヒーローショーが裸足で逃げ出しそうな状況である。ただし、何故かこれまで、話題にはあまりあがって来なかった。これは学園都市の結界の解除が2017年のことであり、まだ効果が残っていたからだ。学園都市は認識が意図的にずらされてたエリアであり、広範囲に上る。学園都市の張っていた結界と東京が古くから元々持っていた魔術、かの天海が江戸期に施した呪術的結界が干渉し、元々、土地に縁のある者か、招かれた者以外は何故かたどり着けなかったからだ(ただし、学園都市が呪術を押さえつけていた影響が消えたため、2018年では、以前よりは影響は薄れ始めた)。また、学園都市は呪術の中心部に位置していたススキヶ原には執着しており、学園都市暗部の部隊が野比家を、時たま公然と襲撃していた時期があった。その度に、ことははフェリーチェとして、能力者やパワードスーツと戦っていた。その関係でフェリーチェの姿で買い物することも多く、2018年前後の段階では定着している。野比家が『プリキュアの聖地』と扱われたのは、幼いノビスケの乗った幼稚園バスがバスジャックされた事件が有名になり、警視総監賞の表彰式にマーチ、ルージュ、フェリーチェの三人が出たからである。その流れで初代とスプラッシュスターの存在が改めて脚光を浴びたのだが、三代目であるのぞみにはプレッシャーを与えてしまった。それもあり、のぞみは肩に力を入れすぎている節がある。しかし、スプラッシュスターの二人が夢枕に立った事で、そのプレッシャーが緩和されだしていたのも事実であり、錦の要素が強まり、生前より強気で好戦的な様子を見せている。

「りんが言ってたわよ?のぞみ、シャインスパーク撃ったって。この分だと、ケイの二号になりそうね」

「確かに。でも、はーちゃんは鉄也さんと甲児を足して割ったような戦法に変わってるぜ、武子」

「つまり、ドリームはゲッターに、フェリーチェは光子力に可能性を見出されたって事でいい?准将」

「そうなるな」

「ドリームはそのうち、ゲッタートマホーク(ハルバードタイプ)を担いで、フェリーチェはエンペラーブレードとソード、ショルダースライサーを二刀流しそうね」

「フェリーチェはこの20年で変わったぞ。ガイアで発見された髑髏の魔神皇帝がいたろ?あれみたいに戦法をガン=カタと接近戦をスイッチできる」

「嘘ぉ!」

「のび太が小6の頃だったかな…。学校帰りにのび太が襲われたんで、ショルダースライサーを召喚して、トールハンマーブレーカー撃って、学園都市の暗殺部隊を瞬殺してな…」

「それが気づいたきっかけ?」

「ああ。はーちゃんも無我夢中だったらしいが、技の発声はきちんとしてた。それ以来だな。はーちゃんが変身した時に光子力を使うようになったの」

「その理屈で行くと、のぞみも今後、ゲッターエネルギーを制御して、ストナーサンシャインとかシャインスパークを?」

「ゲッターの力を受け入れればな」

クロにはっきりと述べる黒江。のぞみは錦の好戦性を受け入れ、人格が再構築されたため、以前より遥かに煽るようなセリフを言うようになっていく。

『今、この世界の民草が味わってる恐怖感を貴様らにも味あわせてやる……、プリキュアの恐ろしさをなぁ!!』

ゲッターの力を受け入れ、ものすごく恐ろしい煽り方で不敵な笑みを浮かべる姿は修羅のようである。

『さあ、舞台は出来上がった!!タウ・リン!!今度は貴様が恐怖を味わう番だ!!ただじゃ殺さんぞ!!貴様にたっぷりとプリキュアの恐ろしさを見せてやる!!』

デザリアム戦役時に言うことになる、この一言。また、『どうやって生きてきたか知らねぇが、この俺の手で引導を渡してやるぜぇ!!』と吠える一幕もあり、のぞみはゲッターエネルギーとの親和性がプリキュアの中では高い部類であることを示す。

『どういうことだ、フェリーチェ!俺にわかるように説明しろ!!』

流竜馬を彷彿とさせる台詞回しをするようになっていくのぞみ。それほどでないにしろ、フェリーチェも『邪に逢うては、それが神でも斬り!!正真正銘の悪魔に逢うては、その悪魔も撃つッ!それが私の答え!!』と宣言し、2019年までには『戦いの神』の要素を得るほどの阿修羅ぶりを身に着けている。つまり、のぞみとことはは互いに対になる超エネルギーの加護を受け、現世(うつしよ)の阿修羅として目覚め始めた。のぞみのその傾向が顕著になるのはデザリアム戦役であり、当分は先である。だが、ことは/フェリーチェは既に兆候が現れ始めており、その答えを既に見出している。それはみらいとリコの予想も超えた事態であり、その変容は他のプリキュア達を驚天動地に追い込むほどであったという。



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