外伝その353『44戦闘団の移籍』


――現場は広報部の方針転換や、レイブンズの非公式スコアの公認、カールスラント空軍のスコアの参考記録化で士気的意味での大混乱に陥っていた。前者は江藤に殆どの責任が被せられたが、広報部の致命的ミスが確認されたこともあり、江藤は厳罰を免れた。後者はロシアの策謀であり、カールスラント空軍はグレーテ・ゴロプの人種差別主義ぶりが露呈したことも重なり、一挙にマスメディアから攻撃を受けた。それに嫌気が差した古参兵の殆どは44戦闘団に属し、部隊ごと扶桑へ事実上の移籍を行った。カールスラント空軍はこれで一挙にエースパイロットの多くを失った。ガランドはJG52出身者が政治的理由で迫害されかねない事、軍内で今後は持て余されるであろう状況を予測し、自らが主導して44戦闘団に集めていたエースパイロット達ごと扶桑空軍への『手土産』にした。機材もそっくりそのまま持ち込んで。ウルスラは技術部にそのまま残留したが、罪滅ぼしのつもりか、そのまま出向扱いにされた。その日から44戦闘団は日の丸の旗の下で戦う事になったが、現場の士気の完全崩壊を恐れたカールスラント政府と空軍の懇願もあり、隊員はカールスラント空軍の予備役として、その名が記され続ける事になった。こうした取引が行われた結果、44JVのカールスラント勢はカールスラント軍服を着用し続ける事が特例として認められ、扶桑空軍でも『撃墜王』として遇されることになった――










――カールスラント空軍最精鋭であった者達は『魔弾隊』として、ルーデルの管理下に置かれた。44戦闘団に集められた精鋭達はカールスラントでもトップエース級の者達で、二つ名持ちであるため、64Fの補充要員は彼女たちが実質的に担った。特例措置で、全員がカールスラント軍服を着用し続ける権利を得たため、64Fでは二つの国の軍服が使用される事になった(魔弾隊は全員がカールスラント軍籍を予備役として保有する事になったので、その一環である)。マルセイユとハルトマンを政治から守るための措置であったが、44戦闘団全体を巻き込んでの大事になった。当初の想定よりは大事になったが、連合軍としては、人材のMATへの流出を抑えられたので、イーブンとされた――

「ふう。あのデブ元帥のご機嫌伺いをせんでいいのは気分がよろしいぞ、中佐。いや、今は大尉か」

「降格だけで済んで御の字でありますよ、大佐」

ミーナは扶桑の騒動の責任を取る形で大尉に降格となった。そもそもの原因の一端が覚醒前の彼女にあったからで、勲章は剥奪を免れたものの、尉官まで格下げとなった。だが、まほとしては『むしろ、一中隊長のほうが気楽でいい』とし、ラルにガランド後継の総監を押し付け、悠々自適である。そのラルはこれまでの裏工作が公にされたせいで『要職にしちまえ!!』で総監に任ぜられた。最も、ラルもかつての悪童ではなく、半分は御坂美琴と化しており、以前より品行方正である。最も、本来の任命の趣旨は『悪巧みできないように』であったが、精神が御坂美琴化した事で超現場主義化しており、自分で戦わないと気が済まない。

「私は空軍総監なんだぞ、ミーナ。フーベルタに鼻で笑われた」

「いいじゃないか、文句を言える者は誰もいない立場だぞ」

ラルは空軍総監になった。背中の傷は完治しているが、ルーティン的意味でコルセットはサポーター代わりに着用し続けている。カールスラント空軍の制服組の責任者になったため、文句は皇帝以外は言えない。カールスラントトップ3のエースパイロットであるため、部下が萎縮するという声も出たが、皇帝が認めた。副官は多数置いており、事務処理を回避しており、御坂美琴の同位体としての記憶の覚醒が起こった事もあり、実質は黒江達の配下として振る舞っている。年功序列で言えば、黒江達はラルの新兵当時に士官だったからで、日本的な年功序列に従っているのが分かる。

「空軍総監になっても、実際は中間管理職だ。まあ、若い頃は確かに無茶したが、下原を引っ張ったのは、宮藤のフラグのためだというのは理解してほしいよ」

「お前、今後は合法的に物資を好きに配分できんのだから、別にいいだろう?」

「それはそうなんだが…」

「お前の能力は電撃だろう?御坂美琴の記憶でも目覚めたか」

「わかってるくせに。ま、宮藤ほどは複雑でないから、いいがな。で、お前は戦車だろう?私はガラじゃないから、扶桑で生産されたドラケンを取り寄せた」

「ああ、扶桑が独自に改良したという?」

「再設計して航続距離を伸ばして、燃費を改善したというが、局地戦闘機の代替だろ?」

「だが、航続距離は段違いだ。スウェーデンの連中は腰抜かしてるよ。推力も段違いだから、更に短距離で離陸できる。操縦性も改善されとるそうだぞ」

「日本の技術サマサマだな」

「そりゃ、21世紀の技術で作り直せばな」

「日本からは疑問を呈されてるが、第2世代相当の要撃機としてはベストに近いだろ」

「空中給油もあるからな」

「日本のマスコミはどこの世界も現金だぞ。私のいた学校が10連覇を逃した時はだな」

「お前の妹、ねぇ」

「お前だって、1万人ほどミサカシリーズいたろう」

「半分はあのロリコン野郎に殺されたがな」

「上条当麻の事はどうなんだ?」

「アイツのことは反則だ」

「いいだろ、お前にさんざ物資と人を盗られたお返しだ」

ラルとミーナは精神的意味では日本人化していたため、カールスラントの軍服は着ていても、自衛官に近いメンタリティになっている。ミーナに関しては、まほとしての精神がミーナの肉体を動かすに等しいため、言葉づかいは中性的になっている。ミーナ本来の関係としては、ラルを『女狐』と罵って嫌っている面があったため、以前より遥かに良好な関係と言える。

「で、Pプロジェクトはどうだ?」

「私の元いた世界の平行世界に6人以上いるのは確認した。しかし、お前が気にするとはな」

「ガランド閣下から総責任者の地位を継いだからな」

「黒江閣下肝いりのプロジェクトだ。だが、キラキラプリキュアアラモードの二人は当分は本業のパティシエだな」

「戦闘に今の時点で出せるのは、5、フレッシュ、ハートキャッチ、スイート、魔法つかいから数名づつか」

「いないよりは遥かにいい。閣下が表を作ってくれたから、把握しやすくはなったが…」

「大尉、総監。クラン・クラン大尉…いえ、黒川エレン大尉が挨拶したいと」

「通せ。エレンが来たか」

「たしか、元・妖精出身の二番目のプリキュアだったな。今はS.M.S.に属しているというが」

兵士が報告しに来る。黒川エレン(クラン・クラン)が来たのだ。

「失礼します」

連邦宇宙軍の軍服姿のエレンが入って来る。クラン・クランとして生きてきたため、実戦経験豊富なパイロットでもある。声は圭子に似ているが、圭子よりはオクターブが高いため、聞き分けは楽である。

「黒川エレン大尉であります。只今を以て、64Fに着任致しました」

「ご苦労。加藤閣下には挨拶は済ませたな?」

「ハッ、今しがた」

「もうじき、響が帰って来る。旧交を温める時間はあるぞ」

「ありがとうございます、総監」

エレンはクラン・クランとして属していたマクロスクォーターがロンド・ベルに編入されたため、自動的にロンド・ベルの隊員となっていた。記憶の覚醒後はプリキュアであること、北条響(シャーリー)の戦友であり、黒江の友人であった事から、呼び寄せられたわけだ。

「ただいま〜…。え、エレン!?」

「響!」

「あ、アンタも転生してたの!?」

「それもメルトランディとして、な。クラン・クラン大尉が素体になった」

「ラルさん、それ反則だと思う」

「紅月カレンを経て、北条響してたお前が言うことでもないだろ?」

「ま、まぁ、スザクは嫌いだったけどさ」

ラルの解説に苦笑いの北条響。スザクのことを嫌いと言うあたり、自白剤投与未遂を未だに根に持っているのが分かる。立花響と名前が被るため、部隊ではシャーリー、もしくはカレンと呼ばしているともいう。

「SMSで仕事するのに、元のマイクローン姿より便利で助かってるよ、生活は元の姿がお得だけどな」

「お前、ケイさんに声似てね?」

「あの人ほどやさぐれてないぞ、私は」

エレンは圭子に声色が似ている。だが、圭子はアウトロー色の強い粗野な言葉づかいで、低めの声色なので、聞き分けは容易である。

「君には早速、中隊長の任についてもらう。君は貴重な軍歴持ちだ。子供たちをまとめるように」

「努力致します」

「聞いてくれよ、アコのやつ、相当遊んでるんだぜ?」

「聞いたわよ。あの子、王女の立場から開放されたとは言え、英霊でしょ、一応。少しは自制ってもんを…」

「あいつ、プリキュアの姿でないと理性が蒸発するからって、ここ一週間は変身したままだぜ?気持ちはわかるが」

「あれ、エレン!?」

「のぞみ…。貴方もいたの?」

「これでも部隊の中堅だもーん!大尉だし」

「くるみが聞いたら、驚くわよ?」

「あーん、くるみのこと言うの反則ー!ミーナさん、これ、広報任務の報告書です」

「ああ、机に置いてくれ。後で確認する」

「のぞみが中堅ねぇ。響、この子で大丈夫なの」

「ま、一応、素体が扶桑のエースパイロットだし、事務処理とかの問題はねぇよ」

「そう。それでアコの他に誰が?」

「ラブ、りん、いちか、あおい、はーちゃんだな。前線にいるの。はーちゃんも普段の姿だと子供子供しちゃうからって、フェリーチェの姿になったまんまだ」

「はーちゃんは精神が幼かったから、いくらのび太のところで過ごしても、時々言動に幼児性がでちゃうのは仕方ないわ。はーちゃんなりの背伸びと思いなさい」

「お前、キュアビートには?」

「当然。あ、みらいとリコから電話があったけど、あの二人、のび太のもとではーちゃんが大学まで終えたので、腐ってたわよ」

「げ、めんどくさいな〜。あいつら」

「リコはともかく、みらいよ。あの子、のび太が机に飾ってた中学生時代のはーちゃんの写真見て『のあーーーー!?』とか、『お、教えてください!今、はーちゃんが中学に行ってたって言いましたよね!?』って、キュアマーチを振り回してたわよ」

「あの馬鹿…、生き返っても変わんねーな」

呆れる北条響。マーチがどんな目にあったのか、想像がついたらしい。同時に同情する表情だ。

「セーラー服のはーちゃんなんてレアだし、気持ちはわかるよ、響」

「お前なぁ。あとで、マーチになんか送ってやれよ、のぞみ」

「分かってるって」

「相変わらずね、貴方達。それに、のぞみ。響の事は呼び捨てだったっけ?」

「からかわないでよ、エレン〜。響とは軍の同期だから、つい…」

「ああ、同期の桜ってやつね」

のぞみは北条響とはプリキュアとしては三代は離れているが、素体の錦がシャーリーと士官学校で同期に相当するためもあり、呼び捨ての仲である。りんが勉強で多忙なため、お目付け役を頼まれているのもあるだろう。

「そんなわけだ。今日も午後から広報の連中に付き合う羽目になってる。終わったら一杯やろうぜ」

「貴方、酒はご法度よ?」

「コーラだよ。綾香さんと黒田がコークとペ○シの双方を仕入れてんだよ」

「いや…、金剛がルートビアを嬉々として用意してたの見たぞ」

「えーーーー!?あの野郎、変に張り切りやがって!!」

「お前ら、一応、成人はしとるだろ。だが、コーラは飲みすぎると腹に来るぞ。ルートビアにしとけ。宮藤がカツカレーを作ってるぞ、ヤマト亭スタイルで」

「あれ、今日は金曜だっけ?」

「金曜だ。福神漬とらっきょうがジャイアン氏のスーパーから卸されてな、ちょうどカツも余ってるからと」

「あれ、リーネのやつ、醤油は大丈夫だっけ?扱えるのか?」

「エーデルフェルトの姿なら普通に大丈夫だそうだ。曰く、親父さんが薬と勘違いして一気飲みさせたとか?」

「アホーーー!」

リーネは本当の姿だと、醤油にトラウマがある。父親が華僑に騙され、東洋の神秘薬として一気飲みさせる暴挙をしたからで、リーネがエーデルフェルトとしての姿で固定させているのは、扶桑で暮らすのに醤油は必須アイテムだからだろう。

「華僑に騙されたんでしょ、その子の父親。徴兵逃れで飲むってのは記録にあるけど…」

エレンも苦笑いするが、リーネは美遊・エーデルフェルトとして生きる事を選択しているため、醤油へのトラウマはかなぐり捨てている。そのため、厨房でカツカレーを普通に調理している。調にクラスカードを貸すなど、意外に縁の下の力持ち属性もある。

「さて、一目、君のプリキュア姿を確認したいのだが、いいかね」

「構いません。レッツプレイ!プリキュア・モジュレーション!」

エレンは久方ぶりにキュアビートに変身する。圭子も姿は真似られるので、厳密に言えば、キュアビートの姿は見ているラル。ニヤリと微笑う。

『爪弾くは魂の調べ!!キュアビート!!』

「おー!久方ぶりのビート!」

「とはいうものの、前線には出るわよ、こう見えても、今はメルトランディだし」

「エースのミリアみてぇだよな」

「あの人は伝説よ。憧れてんだから」

「子供をポンポン産んで、VF-22で今でも鳴らしてる市長が他にいるか?」

若いメルトランディ(クラン・クランの世代)にとって、ミリア・ファリーナ・ジーナスは憧れの存在である。黒江はガムリン木崎を通して面識があるが、エレン(クラン)はない。黒江はガムリン木崎から、バローダ戦役中の武勇伝を教えられ、VF-22の搭乗訓練を受けた時期もあるが、イサム・ダイソンに出会った事で19派に鞍替えしている。19系一辺倒と思わせつつ、22も搭乗資格は取っているのである。

「いないわね…」

「お前、ゼントラーディ系のパワードスーツ一辺倒か?」

「綾香から聞いてないの?VFの基礎を教えたのは私よ」

「資格持ってんのかよ」

「失礼ね、教官資格持ってんだから!AVFを勧めたのは私だけど、イサム・ダイソン少佐に出会って、19に乗ったとは聞いてるわ」

ちなみに黒江はレシプロ経験者であるのもあり、22のACMで主翼をわざとたわませるループ挙動が気持ち悪いとし、そこを偶々、イサム・ダイソンに相談したところ、『ちょうどいい可愛い娘ちゃんを見せてやる』と連れて行かれ、そこがニューエドワーズ空軍基地であった。イサム・ダイソンが当時、ADVANCE計画の素体にするE型の慣らし運転の最中であった事から、同乗させてもらい、龍鳥飛びを味わった。それ以来、転生を重ねても19系に惚れている。

「じゃじゃ馬過ぎて苦労したけど一度躾ちまえばかなり楽だぜ?19は」

「綾香」

「黒江さん」

「綾香、少し痩せたんじゃない?」

「ここんとこ、働き詰めだったんだよ。今しがた、広報部長と会ってきたとこだ」

キュアビートはクラン・クランとして友人であった事から、黒江とは気安い会話を行う。

「ウチのガキに雑用は押し付けてきた。明日は非番だし、寝てすごすわ…」

欠伸をする黒江。流石の黒江も疲れと無縁ではないのがよく分かる。

「珍しいわね、貴方が」

「昨日、寝てたらよ、ジム・インターセプトカスタムの編隊が空襲してきて、夜通しの空戦になっちまったんだ。手練でさ…」

「一年戦争の時の?」

「そうなんだが、ウェーブライダーは小回り効かねぇから、MS形態で戦わざるをえなくなってよ」

「大変ね」

「目が覚めたら、たまにゃ仕事抜きに飛んで来るかな。んじゃ、風呂入って寝てくる。ビート、ガキどもの面倒頼んだ…」

「先輩、大変だったんだよ、ビート。夜中の2時に空襲してきて、あたしもシャイニングドリームになって、先輩に随伴したんだけど、手練でさ。アムロさんが援護してくれて、助かったんだ」

「貴方達が苦労する精鋭部隊で空襲ねぇ。アムロ少佐は?」

「今後のローテーションのことで、隊長と話してる。やっぱ、初代ガンダムのパイロットは違うね」

アムロが来た途端に戦況が逆転したので、アムロとハイνガンダムの組み合わせは連邦軍最強の組み合わせであると実感したらしいのぞみ。夜戦にも関わず、アムロは20機のインターセプトカスタムの内、9機を瞬殺しており、さながら、コンスコン艦隊との一戦を連想させる動きであった。

『知らない馬鹿が喧嘩売ってくるのは仕方ない、俺だって軍本体から離れてるから、正規軍じゃ一年戦争のロートルだって思ってるか、実在しないと思われてるんだ。後ろにも目をつけるんだ。夜は特にだ』

アムロはそう言いつつも、ファンネルを使わずに戦い、黒江が見惚れるほどの戦技を見せている。特に格闘戦では徒手空拳も用い、敵を踏み台にするなどのテクニックを披露、黒江とドリームが呆然とするほど鮮やかに、敵を一蹴している。

「そうよ、彼は一年戦争、グリプス戦役、ネオ・ジオン戦争を戦い抜いたベテラン。おまけに、ディジェでサイコガンダム倒せるんだから、大した人よ」

『慣れると、後ろから狙われるだけで尻とか背中にむず痒い感じがするようになるもんさ』

アムロはMS戦闘の先駆者であるため、黒江にとっても師匠と言える間柄で、階級差が逆転しても、黒江は敬語をアムロに使う。アムロの戦歴と多種多様なMSを乗りこなした腕は黒江にとっても憧れの的の一つである。また、ドリームの戦い方を『直線的すぎる』と評したのも彼だ。アムロは戦闘分野に特化したニュータイプと言えるが、歴戦の経験で部下に戦い方を教える鷹揚さを身に着けており、その点は相応に成長した証だ。年を重ねるにつれ、弱さを見せるシャア・アズナブルと対照的であり、アムロがシャアと違い、伴侶を得た事で得た落ち着きを見せ始めている事の表れだった。キュアビート(クラン・クラン)もアムロの戦歴を諳んじているように、彼は23世紀初頭時点での連邦宇宙軍最強のパイロットの一人であり、次点のカミーユとジュドーにはない『歴戦の経験』を持つとされる戦士であった。今はメルトランディであるキュアビートも敬意を払っているように、黒江たちはアムロたちという地球連邦軍で最高の教師を得た事で、戦のイロハを吸収していくのだった。



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