外伝その398『図上演習と戦闘10』
――地球連邦軍の下請け的役回りを担う64F。地球連邦軍は2200年に元・エゥーゴとプリベンターが実質として再編させたものの、ティターンズ閥は依然として生きていた。これは元々、プリベンターが安全保障を極秘に担うはずであった都合、大量の失業軍人が生じ、社会不安が増大したのが背景にあり、ガトランティス戦争で軍部が存続し、メカトピア戦争を経て、軍部が再建される過程で、民間軍事会社に人材を引き抜かれた事に不満を持つ高官たちを宥める意味で64Fを下請けとして遇したのだ。ただし、正規編成には組み込めないので、ロンド・ベルの一部と扱う事になったのである。その関係で機材については便宜が図られるため、ストライカー以外は不自由しなかった。ただし、それに伴う教育は高度にならざるを得なかった。航空機やMSは特にそれであった。整備兵らは時代を超えた兵器の整備を覚えないとならないため、負担が増しており、地球連邦軍の要員が当面は整備を担当することとなった。航空部隊である都合、可変戦闘機や可変MS、スーパーロボットが主だが、戦闘車両も有しており、レーヴェ戦車やコンカラー、センチュリオンを保有していた――
――格納庫――
「連合軍のご機嫌取りに、センチュリオン、コンカラー、レーヴェをそれぞれ一個大隊分保有とはな」
「仕方あるまい。人型機動兵器も万能ではないし、整備に手間がかかるんだ。戦闘車両の保有は警備のためにも必要だ」
「連合軍の各国から熟練兵を引き抜いたのか?」
「供出させた。本国で冷や飯食わせられてた連中だから、士気は高いぞ」
こちらはバルクホルンとミーナ。ミーナは便宜的に実階級の降格後も中佐待遇のままであるため、階級章はまだ変えていない。人格の変化により、ヒステリックなところが消え、実直な軍人という体裁になったため、実のところ、以前より却って評判はいい。(シスコンという共通点ができたので、そこもバルクホルンとの関係が深化した理由だ)
「まさか、105ミリ砲で中戦車扱いとはな」
「時代の流れだ。主力戦車という概念が普及すれば、今の区別は意味をなさなくなるさ」
「開戦前は50ミリ砲積んでいれば、立派に中戦車だったんだぞ?それが75ミリになり、今度は90ミリ、105ミリだ。インフレしているぞ」
「技術の発達のおかげだ。ドイツがV号を処分させたのもわかる」
「突撃砲に変えるためか?」
「今となっては、それしか使い道が無いからな。対戦車携帯火器も出てきているから、V号戦車以前の車両はものの役にも立たんよ」
当時、開戦時の戦闘車両の多くは旧式化を理由に処分されていたが、一部は突撃砲に転用された。W号戦車も例外ではないが、前線の要望で史実のH型に改装された車両が半分以上を占めた。これはM26以上の新型がまだ少数であり、大半がM4である状況は変わりがない事、敵の陸軍官僚らがティターンズの恫喝にも関わらず、M4を犠牲を払ってでも主力とするドクトリンを盲信した事が理由であった。そのため、リベリオン軍は機甲戦でコンカラー、センチュリオン、レーヴェを配備しつつある連合軍に圧倒され始めていた。リベリオンは既に1000両ものM4を何らかの形で喪失していたが、リベリオンの生産力はそれを物ともせず、M4を送り出している。連合軍の苦戦は1000両を撃破しようと、リベリオン軍の数が減らない脅威によるものだ。
「敵は物量が武器だ。大会戦をあと三回しても、人的損害を増やさんことには戦意が折れないだろう。捕虜と本国にいる自由リベリオンの将兵の家族との交換を交渉中だ。捕虜が多すぎて、食わせられんからな」
この頃から、自由リベリオンは扶桑を介する形だが、捕虜と将兵の家族、あるいは亡命希望者の交換を交渉している。捕虜が何十万にも及び、とても食わせる事ができないからだ。扶桑も同様の考えであり、リベリオン本国も捕虜の帰還は政治的理由で必要としており、そこで折り合った両者はこの時期から交換船を盛んに運行し、お互いの欲求を満たした。その交渉がこの日には始まっていたのである。
「やれやれ。捕虜はもう何万だ?」
「聞いて驚くな、数十万に登る」
「数十万だとぉ!?」
「師団や大隊単位で降伏するのが多くてな。気がついたら、並の中規模都市ほどの人口に膨れ上がり、とても食わせられん事になった。地球連邦に旧式移民船借りて、億単位迄なら寝かせて置けるが…、それは最後の手段だ。メガゾーンじみてくるからな」
地球連邦はワープやフォールド航法確立以前に『メガゾーン23』のような世代宇宙船を建造しており、その完成状態のものが数隻ほど保管されている。旧式の世代宇宙船なので、使いどころもなく、放置されていた。元々はガミラス襲来以前に新天地を探す旅のために用意されていたが、波動エンジンなどの超光速航法の普及で無用の長物とされ、完成した数隻が放置されたままであった。この時に収容スペースが脚光を浴び、最初期型の光子エンジンに代わり、波動エンジンを装備し、船体構造を強化した上で運び込まれた。未完成だった居住スペースは20世紀頃のパリ、ニューヨーク、東京を模したものになり、それを全て再現したため、下手な新マクロス級よりも巨大である。この艦級は『メガゾーン級』と名付けられ、後の災害での移民船に転用されたという。
「メガゾーン、か。時祭イヴでも出すのかね」
「マイナーだから、2010年代の若者はわからんだろ」
冗談めかした会話。格納庫の戦車はどれもこの時代では重戦車に分類される大きさと武装で、この時代の中戦車を超えるものだ。数が少ないのが玉に瑕だが、集中投入で活路が模索されている。バルカンクロイツが描かれるレーヴェはドイツから開発の停止とレオパルト1での代替が提案されたが、カールスラントはこれを跳ね除けて完成させた『いわくつき』の車種だ。レオパルト1は強力だが、避弾経始が前提の設計であるため、装甲が薄いとされたのである。そこが重戦車を求めていた前線の要望と噛み合わなかったのである。同車そのものはその後に採用はされるものの、当時は装甲が求められていた時代なので、脚光を浴びなかったのだ。
「レオパルトをドイツは採用させたいようだが、日本連邦と違って、ブラックボックスだらけの状態での生産だから、技術屋の不信をかったそうだ。日本はいいよ。74が直にライセンス生産、太平洋戦線には10式を生産させるつもりなんだからな」
「日本は方向性さえ決まれば、優秀だからな。61相当と74で自衛隊式戦車に慣れさせて、10式の増産の口実を手に入れたんだから。21世紀水準の戦車が作られると、キングス・ユニオンが焦るぞ」
「電子装備はブラックボックスだろ、どう考えても」
「閣下らでもないと理解できんだろうが、モジュール式だから、整備は楽だろう。その前の74すら回ってきてないがな」
自衛隊式の戦車の本格配備は大きくずれ込んだが、一部のコピー品は出回っており、M動乱帰りの部隊のみの装備である事もあり、重宝された。Gフォースはそのデモンストレーションの意味もあり、10式の増勢が決まり、F-35の先行配備が行われたが、黒江は『数がすくねー内に送るな』とぶーたれている。黒江曰く、『出撃可能なのが四機じゃ、示威飛行と偵察しかできん』との事。そのためか、F-35は滅多に飛行せず、もっぱら、VFかコスモタイガー(コスモタイガーは黒江と智子のみ)で制空戦闘を行うことが常態化している。コスモタイガーは宇宙が主な使用想定環境だが、大気圏戦闘でも有用性があるため、大気圏内戦闘でも制空戦闘に供されている。戦闘機は地球連邦軍の得意分野の一つでもあるので、ガミラスやガトランティスも地球の制空戦闘での精強さを恐れていた。
「戦車はこいつらで持たすとして、空はジェットはまだ本格的に部隊規模では飛べんぞ」
「仕方あるまい。プリキュア連中はレシプロで飛行の基本を叩き込まんとならんからな。ジェットはT-1か、T-4を取り寄せて仕込む予定だから、待て」
当時、自衛隊のT-4はラインが完全に閉じられていた上、扶桑に供与する分も確保できないので、早々に諦められた。日本側は過去に採用されていた『T-1』を扶桑で再生産することを提案していた。それと、扶桑の長島飛行機は中島飛行機の同位企業であり、戦中の設備が無傷で存在するため、長島飛行機を立てる意味でも提案されていた。T-1はスバル、つまりは富士重工業が戦後に送り出した練習機だからだ。これはいきなりのT-4の製造は川滝には無理である事、扶桑での最大規模の生産力を持つメーカーは長島だった事への配慮だった。ミーナが言葉を濁し気味なのは、どちらになるかはこの時点では不透明だったからである。
「どっちなんだ?」
「わからん。川崎はこっちで製造ラインを開いてもいいといってるし、スバルは長島に製造させるというからな。T-4は比較的に新しい技術で作られているから、扶桑国内のメーカーは殆ど蚊帳の外だろう。おそらく、今回は政治的配慮で、T-1だろうな」
T-1は技術レベルで扶桑の手に負える上、扶桑メーカーに旨味がある。それを考えると、T-4の採用は延ばされるほうが濃厚であるのが当時の予測であった。(T-4は練習専用機であるので、有事に機体を動員することを志向する扶桑軍の一部実戦派の将校から不況を買ったとも。作られた時代背景が違うので、文句は表立っては言わなかったという)
「VF-1EXを練習機にしてもいいが、20世紀基準の航空機を操縦させたほうが技能は身につく。これは閣下も言っておられた」
21世紀以降は簡便にパイロットを確保するため、操縦方法は簡便になるように進化しているが、エースパイロット専用機という概念も根付かせたため、戦乱が激しい23世紀初頭では、20世紀頃の練習機で一定の技能を培わせて基礎技能を上げるという方法が奨励されており、T-4もレプリカが使用されている。技能低下が叫ばれていた時代だからだ。
「なるほどな。それで、ニューヨークとワシントンに空襲はしてると聞いたが?」
「富嶽を使ってな。あれなら、戦前型の防空網の網の外を飛べるし、今、リベリオンで配備されていってる90mm高射砲も富嶽の飛行高度には届かんからな」
「無差別ではなく、誘導爆弾を使ってるのは本当か?」
「無差別爆撃の反対論がウィッチに多いからな。費用は思ったより高くついてるよ。誘導爆弾は自前で揃えられんからな。だが、ニューヨーク海軍工廠やワシントン海軍工廠に打撃は与えている。ピンポイントで爆撃出来る分、示威効果は低いが、恐怖は与えている」
ミーナは覚醒前は戦略爆撃に否定的だったが、覚醒後はピンポイント爆撃による生産力の減少をむしろ奨励している。ウィッチ航空兵科はこの頃より、政治的発言力が減少し始める。対人戦争でのウィッチ兵科は航空分野では、デメリットが目立ち始めたからだ。
「我々はデメリットが目立ち始めているからな。爆撃機の長距離援護が不可能、機動性のメリットも、戦闘ヘリより多少は優れているが、火力が戦闘ヘリに及ばない。魅力が薄れたと言うべきだな」
当時、第一世代宮藤理論は限界に突き当たっていた。それはジェット化での航続距離延長策がパラサイト以外の有効策がないに等しい、火力増強が難しいという点だ。空中給油を可能にし、戦術を革新させる第二世代理論はまだ構想段階であり、吾郎技師曰く、F-100が実用化されないと無理との事。
「F-100を自由リベリオンに急かしてるが、実機のように、セイバーダンスなる欠陥を持つ状態で作らせるわけにもいかんから、実機の経緯をノースリベリオンに流してあるそうな」
F-100。スーパーセイバーのことである。ストライカーとしても第2世代の嚆矢とされる機体で、第二世代宮藤理論を初めて適応した機体である。この時期は扶桑での採用も見込まれていたが、結局、扶桑は当時の新興メーカーが送り出す『F-104』を採用する。とはいうものの、既にP-38を送り出していたメーカーではあった。しかし、当時はまだ実績が浅いメーカーと見做されていた。だが、その後に経営が悪化する他メーカーを長い年月の内に吸収合併し、2000年代には新リベリオン合衆国の双璧とされる航空機メーカーに躍進する。
「F-100さえ実用化されれば、F-104はすぐに実用化される。そうすれば、マルヨンは予備パーツの確保ができる。今は未来の時間軸から取り寄せているにすぎんからな」
「あれはハルトマンが扶桑化を主張して、鬼教官になるきっかけだったからな。今では、あいつが鬼教官だよ」
「昔のアイツを知る者には驚かれるからな。エーリカの鬼教官ぶり。マルヨンで死傷者出しまくっていたからな、ウチは」
ミーナはハルトマンの鬼教官ぶりをそう評する。かつてのバルクホルンが可愛く見えるほどであり、バルクホルンがアメ役を担う事になる事は、JG52時代からの戦友は天変地異と評している。バルクホルンは覚醒後、前史の晩年は下半身が不自由になっていた経験から、以前のような激しい気性ではなくなり、総じて温厚になっている。対するハルトマンは鬼教官と呼ばれた前史の後半生の経験から、教える時はスパルタ教育である。
「ミーナ、今回はどうするんだ?」
「戦車兵と二足の草鞋を履くよ。プリキュアは『妹』に任す」
「歌手は諦めたのか?」
「軍にいても歌えるから、割り切ったよ」
ミーナ本来の夢は人格の変化もあり、割り切ったとしつつ、戦車兵の資格を正式に取るという。これはまほとしてのノウハウが活かせるからで、戦車道の継承者としてではない、一介の士官として、自分を試すと明言した。
「それも含めて何足履いても良いんじゃないか?お前にまだ、シャイニールミナスとしての要素が無いとは決まってはいないだろう。閣下を見てみろ、自衛官、扶桑軍将校、地球連邦軍将校、黄金聖闘士だぞ」
黒江は四足以上の草鞋を履いている。それを引き合いにだし、ミーナに可能性を説くバルクホルン。以前と違い、バルクホルンは『可能性』を信じる様になっていた。可能性の獣に身を委ねた者として。
「変わったな、トゥルーデ」
「可能性の獣を扱った身として、だよ」
バルクホルンはIS『バンシィ』の操縦者としての側面も持つため、以前と比べると、前向きになっている。ミーナはお互いに変化した身である事に苦笑いしつつ、バルクホルンの言う通り、可能性を模索してみる事にしたのだった。
――歴代プリキュア達が矢継ぎ早に軍籍を与えられ、一律で大尉に任ぜられる事には反発があった(シャーリー/メロディは少佐に昇進)が、戦士としての自由度を与えるための措置と、素体の人物の軍籍を流用する都合も大きかった。のぞみやみなみ、ゆかり、響(シャーリー)、トワがこれに当たる。階級としてはリーダーではないものの、素体の人物の関係で佐官である琴爪ゆかり/キュアマカロンが一番に高位である。変則的なケースはキュアビート/黒川エレンと調辺アコ/キュアミューズであり、ビートはクラン・クランが覚醒した、ミューズはアストルフォが変身しているという事もあり、軍隊階級が佐官である。(ミューズが前世と違い、天然ボケのアホの子要素を持つのは、アコの記憶がある状態のアストルフォが変身しているからである)なお、非戦闘員扱いが定着しつつある宇佐美いちか/キュアホイップも階級は大尉であり、パティシエに専念してはいるが、階級では他と同じである。なお、プリキュアになれるが、医官としての教育途上の宮藤芳佳については、医官としては直に少佐の予定である。これについて、黒江は『なに?プリキュアがいきなり大尉とかオカシイ?お前らに比べて十分以上に戦歴重ねたベテランなんだぞ?平均して防衛ミッション50回前後をほぼ全勝のチームメンバーと、中尉くらいのウィッチは比べ物にならない差があるからな』と訓示しており、隊内の懐疑的な意見を封殺している。のぞみ、シャーリー、芳佳、ペリーヌはウィッチとしても一流と謳われる腕を持つからだ。ただし、みなみは竹井としての家柄の都合、懐疑的な意見はまだあった。そこは七勇士の一人に数えられる身である腕でギャフンと言わせているが――
――図上演習開始までの休憩時間――
「みなみ、お前はしゃーない。家が家だ。親父さんは海軍省の重鎮、爺さんはあの少将だ。若本のガキにも昔、それで嫌味言われた事あんだろ」
「今回はギャフンと言わせてますけどね、あ、はは…」
苦笑いのキュアマーメイド。若本とは、1943年に会ったのが最後だったので、今回の再会ではスコアがまだ控えめなのを話題にされているが、キュアマーメイドへの変身を見せると、拗ねられたと黒江にぼやく。
「あのガキ、昔からスコア第一だからな。事変ん時に絡んでくるのはうぜえって、ケイがぼやいてたぜ」
「あの子は美緒に剣道で負けてから、直枝みたいな思考回路ですから」
苦笑いのマーメイドだが、若本は子供時代、自分の固有魔法を上回る変化を見せた智子を始め、レイブンズに絡みまくり、圭子からはうざがられていた。いい加減にキレた智子が叩きのめしたため、以後は菅野に近いタイプになった。(時系列的には若本が菅野の振る舞いの類型を確立させたというべきか)ただし、菅野が猪突猛進気味なのに対し、理論派に転じたのが若本である。一時は扶桑最強を謳われたのだが、その若本も45年時点では、黒江たちには『ウスッ!』と挨拶をし、敬語で接するなど、成長している。
「菅野型の奔りだしな、あのガキ。でも、リバウで頭を使うの覚えたそーだな?」
「ええ。当時の司令官が放任主義でして…」
「なるほど。それで三号爆弾の名手になったわけか」
若本は45年時点ではGウィッチになり、以前よりは落ち着いた雰囲気を持つ。しかし、最近は西沢に坂本の親友ポジを盗られたと怒っており、最近は西沢と口論の末、決闘騒ぎを起こすなど、根本は昔のままである。
「あの子、美緒のライバルを自負してまして。リバウ以降はクロウズに義子が入るのに怒り心頭なんですよ」
「ああ、別の部隊だったとは聞いた」
「義子は事変の後に入りましたから、それが気に入らないみたいで、最近に決闘騒ぎを起こしたとか…」
「あのガキ、根本は変化してねぇ」
呆れる黒江。西沢は扶桑版ハルトマンを謳われる天才肌である(以前は他人の顔を覚えるの苦手だったが、Gウィッチ化後は改善されている)。事変に従軍してないが、リバウ三羽烏の一翼を担う俊英であり、菅野を手懐けている事もあり、現在では赤松/若松組の幹部扱いである。
「今の実力は私達との付き合いの分、義子が優勢でした。飛天御剣流と牙突で覚醒状態の徹子の心胆を寒からしめまして…」
「西沢のほうが付き合いあったしな、菅野の関係で。覚醒持ってる連中はスペックに頼るから、負傷しやすいんだよ。智子はそれを他の能力で補ってたから無敵だったんだがな」
固有魔法『覚醒』(絶対魔眼含む)は防御力低下などのデメリットがあることが知られたのは、43年以降だ。智子が無敵であったため、誤解を生んだ面はある。覚醒は本来、能力向上と引き換えに防御力低下などのデメリットがあり、智子のそれも防御力低下というウィッチ本来のデメリットがあった。だが、智子は気と小宇宙を防御壁代わりに展開することでそのデメリットを打ち消している。つまり、デメリットが目立つ能力を防御力強化ができる他の能力で補っていたのである。孝美は防御が元から薄めであるのに、発動すると防御力皆無になるため、前史では最終的に使用を禁止されていたが、今回は聖闘士なので使用機会は多いという。
「それが理解されたのは、孝美の負傷で、でしたしね」
「あのガキも昔は覚醒系なのをあたりと思い込んでたからな。智子は特別なんだよ、良くも悪くも」
智子は転生後は覚醒系の代表格と扱われているが、元は押しに弱い系なため、変身願望は強い。プリキュアになりたいと言い出した言い出しっぺも智子であり、意外にノリが14歳当時のままである。今では部下にプリキュアを抱えているが、入れ替わってみたいと度々言っており、それが実現したのが一年後の出来事なのだ。
「智子さん、誰と入れ替わりたいんですか?」
「ピーチとだな。素が近めだしな。俺も付き合って、のぞみと入れ替わるよ」
この時から、一年後の伏線は張られていたのである。黒江も入れ替わり自体は楽しんでいるので、プロジェクトの立案当初の姿を体現している。
「で、みゆきが言っていたアレですか」
「事態が百鬼共のせいで深刻になるしな。ウザーラなんて使われてみろ。初期状態のハートキャッチを含めた当時のオールスターズで止められるかよ」
聖龍ウザーラが現れる以上、プリキュア達を守護するために手を打つのは当然と述べる黒江。
「おまけに、百鬼共は情け容赦のない鬼だ。ウザーラの地軸逆転ビームや重力遮断波を使われてみろ。世界は終わる」
黒江が懸念するのはウザーラの脅威の機能だ。地軸逆転ビームは地球型惑星に使った場合、世界の滅亡は必至とも恐れられた。ムー連邦がアトランティスの自滅を喜んだのは、ウザーラの機能が当時のムーの想像を超えていたからであろう。ウザーラの力は海底人類の技術の粋が集められており、ムー連邦も未完成を心から喜ぶほどの最終兵器であった。それに対抗する手段はゴッドマジンガー、マジンエンペラーG、真ゲッタードラゴンだ。スーパーロボットでも最強を謳われし三体を揃える事で撃退を図るしかないのだ。
「ゴッド、エンペラー、真ドラゴンの三体を呼び出してもらって、ウザーラに対抗する。あの四体がぶつかることで何が起こるかはわからんが…」
「因果の果から話を進めてませんか?」
「こっちにはタイムテレビがあるからな。チートといわれようと、最善は尽くすべきだろ。その世界でサンシャインが目覚める前に物語を終わらせるわけにもいかんだろ。そもそもの「因」がコッチの戦だから、自分のケツは自分で拭くって事の内だからな」
「トワに声をかけたんですか?」
「のび太がかけたらしい。ま、お前らはプリンセスプリキュアだ。DX2の頃のオールスターズの度肝を抜けよ」
「はるかたちはいませんけどね」
DX2というだけで通じるのも恐ろしいが、第一期プリキュアオールスターズ三部作の二作目に第二期以降のプリキュアも参戦させる魂胆なのだ。
「万一のため、7人ライダーにも話は通しておく。昭和ライダー全員が来てくれるかもしれん」
「仮面ライダーの手も借りるんですか?」
「バダンが来た場合、消耗したオールスターズじゃ、一方的にやられるだけだ。昭和ライダーとディケイドがいれば、どうにかできる」
黒江はオールスターズを守護するため、昭和仮面ライダーの手も借りると明言した。プリキュアオールスターズに敗北の因果が産まれるのを阻止するべく、ツテを頼る。プリキュアオールスターズが敗北しそうになった事は第一期の時代では二度あるので、ZEROがそれを確実にしようとするだろう事から、力でねじ伏せるしかないカイザーよりも、カウンター的役目が明確であるゴッドをぶつける事で阻止するのだ。
「マジンガーZEROは魔法つかいを倒してからは、お前らに執着している。力で上回るしかないカイザーを持ち出して、カイザーノヴァで舞台をぶっ飛ばすより、ゴッドの反因果律兵器で因果を紡ぐのを妨害して、ファーストライトで肉体からZEROの魂を出させるほうが効果的だ」
「反因果律兵器とは?」
「兜剣造博士のアイデアであり、早乙女博士の遺産の一つでもあるゲッター線を用いた演算装置さ」
兜剣造は因果律兵器を解析出来ないことにショックを受けていたが、早乙女博士はゲッター線暴走事故の前に『ゲッター線を使った演算装置でZEROの紡ぐ因果を否定する結果を演算すればいい』と助言をし、ゴッドとエンペラーに組み込んだ。ZEROに都合のいい因果を出現させるのが因果律兵器なら、それが否定された世界の因果を出現させる事で相殺すればいい。それが早乙女博士が兜剣造に遺した遺産である。そして、光子力とゲッター線の融合でZEROを倒せ。それが早乙女博士の、ひいてはゲッターエンペラーの意志だ。
「早乙女博士はZEROを倒す秘策を授けてくれた。自分がゲッターと一つになるのを悟った上で。それと、俺たちに真ドラゴンを授けてくれた。なら、お前らの友達を守るために、真シャインスパークを撃つしかないだろ」
「どうなるんですか…?」
「ゲッターを信じろ、としか言えん。ゲッターはマジンガー以上の超常的なところを持つからな」
ゲッターの超常性。フェリーチェに力を授ける、ゲッタードラゴンを真ゲッタードラゴンへと変貌させる進化力など、超常現象を起こす点で、一番に暴走が恐れられる。竜馬はそれらを『力は使う者次第だ。世界を滅ぼす力も、使いようだ。破壊と創造は紙一重と、昔に親父が言ってたぜ』とまとめている。流竜馬はゲッターの未来に恐れをなしたが、ゲッターを超え、自分が理性にならんとしている。変節とも捉えられるが、キュアフェリーチェとキュアドリームの一途さがゲッターの未来に恐れをなした竜馬に勇気を与えたとも取れる。流竜馬もなんだかんだで元は妹思いの青年であり、弁慶の行方不明後、フェリーチェとドリームが自分を責めても反論せず、二人の前ではあくまで強気な態度を演じてみせるなど、彼の持つ優しさを表に出させた点で、二人は功労者であった。隼人も『お前にも、そういうところがあったのか』と言い、竜馬を見直したという。
「早乙女博士は思念でフェリーチェとドリームに言い残したそうだ。ゲッターは宇宙を切り裂く、それは宇宙を新しい宇宙として作り上げるために切り裂いて組み合わせる為の一歩目なのだ、ってな。多分、早乙女博士はこうなるのをわかってて、二人に警備を頼んでたのかもな」
黒江は『早乙女博士はゲッターエンペラーに慈悲をもたらすために、竜馬とドリーム達を引き合わせたのではないか』とし、闘争本能の権化と揶揄される竜馬に潜む人間性を表に出させるため、竜馬の亡き妹を思わせるような人柄のプリキュアである二人を招いたのでは、と推測した。早乙女博士は竜馬のために、そこまでレールを引いていたのだろうか。その真相は闇の中だが、ゲッターに恐れをなした流竜馬に『ゲッターに勝つ』という明確な行動目的を与え、竜馬に愛を思い出させる上で、早乙女博士は二人のプリキュアを使ったのだろうと、黒江と隼人は悟っていたのだ。
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