外伝その399『図上演習と戦闘11』
――ダイ・アナザー・デイでは、ゴルゴ13とのび太は別個に破壊行動を行っていた。規模はゴルゴの方がド派手で、リベリオン軍ウィッチ兵たちをかつてのソ連特殊部隊の時同様に溺死させるなどしている。ゴルゴはクローニングで肉体の代替わりはするものの、経験値は引き継がれるため、『あまり、同じ手は使うべきではないが』としつつも、ただでさえ、数が少ないリベリオンのウィッチを大きく減らし、戦況に大きく影響を与えていた。曰く、「状況次第で同じ手が使える時には手札を晒さない為に同じ手を使うのも有効だ…」との事。――
――64F隊舎――
「Mr.東郷から打電よ。魔女は丁重に眠らせたと」
「例の手を使ったのか。リベリオンはこれでウィッチをあまり調達できなくなるだろうな。あそこは『新しい土地』だ。これで太平洋で潜水艦狩りが行われりゃ、リベリオン本国は半世紀くらいはウィッチ主体の戦は起こせんだろう」
「そうね。これで子供達が懸念する事態が起きる危険性は減るわね」
「連中はわがままを言ってるだけさ。パットン親父が発破かけてるが、まりんこもいるくせに芯がねぇ」
図上演習が行われる直前、ゴルゴからの打電があったと、武子に呼び出された黒江は、『ゴルゴが敵の輸送列車の進路を変えた上で、線路を途中で爆破し、脱出手段を奪った上で湖に突っ込ませた』事を悟った。
「リベリオンはネイティブのシャーマンを利用するくらいしかウィッチの供給が難しいけどネイティブのシャーマンは軍(政府)を嫌うせいで動員できない。これは勝ったな。何人を溺死させた計算だ?」
「一個大隊、いえ、連隊分だから、30人から40人は確実よ。ウィッチ兵科は陸戦でも、人数は多くないし」
「わーお。さすが東郷」
「敵への圧力に使えるわ。特にティターンズにはね」
「これで、ゴルゴは依頼の四分の一を果たしたことになるな」
「そういうことよ。今頃、ティターンズは血眼になってゴルゴを探してるでしょうね」
「全盛期のソ連が全力でやっても無理だったものが、連中に出来るものか。リベリオンは顔面蒼白だろうな」
「ええ。ウィッチの40人は熟練兵の1000人にも匹敵する価値とされてるもの。ウィッチ中心の作戦は10年くらい無理になるとさえ言われてるわ」
「後送になっても、戦死率は低いのが売りだしな。事変の航空ウィッチも全参加人数は100人もいかない。今回は特にだ。他が宛にもならんから、俺達でやったからな」
「おかげで、国内の若い子が外国で真実を知らされて、やさぐれるケースが7割になったけどね。軍部も非公認にしてたのは失敗だと今更言ってるわ」
「英雄は必要だよ。若い頃のお前はその点、扱いにくかったよ」
「若気の至りよ。今は個人戦果も60機に伸ばしてあるわ。総司令としての体面もあるし」
武子は総司令という立場上、一定の個人戦果は体面のために申告せねばならないため、陣頭指揮を取り、出撃の度に10機前後を落とす事を繰り返している。事変では10数機程度のスコアだったため、そこから実力の証明のため、60機まで6回程度の出撃で引き上げた。フーベルタが公言していた実力主義は欧州の実力指標の主流であり、年功序列の強い扶桑系ウィッチには衝撃であった。結局、その拠り所だったスコア認定制度そのものがロシアの横槍で大混乱を来たしたため、黒江、智子、圭子、黒田、赤松の五人をカールスラント四強に代わる『真のトップエース五人衆』として君臨させる事で、カールスラント撃墜王の代替とされた事が扶桑海軍中堅層の暴発を招いたが、そのことはクーデター軍が全世界から非難される理由にもなった。(扶桑海軍の面目が丸潰れなため、それ以後、坂本が海軍航空隊で絶対的権威を持つ伏線にクーデターそのものがなっていく)
「海軍は中堅が暴発するけど、一日で鎮圧できる?」
「48時間以内ならな。連合艦隊にも手筈を伝えとくから、48時間は猶予を設定するように仕向けろ。日本はそう安々とこっちに介入できんのは幸いだが、猶予は48時間だ」
「分かったわ。ゴルゴが敵に打撃を与えてくれたから、リベリオンの計画は破綻したわね」
「まぁな。これでガキどもも多少は戦力になる。俺達も全ての戦域は同時にはカバーできんしな」
「敵はM46を生産し始めたけれど、陸軍の官僚が抵抗してるようよ」
「哀れだな。こっちがコンカラー、センチュリオン、74式などに取り掛かるのに、向こうさんは鉄屑と肉塊を生み出すのをやめんか」
「物量で少数の高性能車を踏み潰すつもりなんでしょうね。制空権がない以上は無駄だというのに」
「全くだ。この時代の高速徹甲弾程度で、世代の違うAPFSDSを前提にした第三世代の正面装甲を穿つのは不可能だ。敵は戦車駆逐大隊を存続させたいんだろうが…」
「政治の犠牲にするのね、兵を」
「アメリカならばの選択だな」
二人が同情するリベリオン戦車部隊の窮状。当時の彼らはセンチュリオンにすら有効な攻撃手段を持っておらず、徒に犠牲を重ねていた。黒江が嘆く『1000両の撃破でも、戦況に影響が出ない』という状況は、リベリオンの生産力の大きさに裏付けされている。
「目下の問題は政治か。シビリアン・コントロールの建前上、表立っては動けん。極秘裏に処理しなければいかん。武子、お前のツテはどのくらい籠絡したか?」
「古参連中は殆ど籠絡してあるわ。政治嫌いなのに、政治を考えないとならないなんて」
「政治にに口を出さないとか言って、政治に振り回されるなら政治を理解して無茶振りを回避するのが軍人として正しい行動だ。腐った民主主義は時として、専制君主を生み出してしまう。政治嫌いなのはわかるが、割り切れよ。現にヒトラーがそうだった。歴史がなんと烙印を押そうと、あの男は民衆をコントロールして権力を得たんだ。民主主義は最悪の場合でも、最良の専制君主よりはマシだ。かと言って、象徴的存在は必要。その兼ね合いが立憲君主制なんだ。クーデター起こそうとする連中のやる事は、いつも軍政か独裁だ。カザフィ、スターリン、ポル・ポトしかり」
「体制としての民主主義を保つためとは言え、裏で物事を決める組織が必要とはね」
「仕方ない。史実の日本軍は自分らに都合のいいように聖上の権威を振りかざした挙句の果てに滅びていったんだ。それと同じことを考える連中は扶桑にもごまんといる。フランス革命は専制君主が民衆を軽視して、財政を傾かせたために起こった。その本質を理解してないバカが扶桑軍には多い。特に中堅にはな。俺はどこぞの金髪の孺子のように皇帝になるような野心はないし、聖上っていう絶対的権威がある以上、自分の身の丈に合わない野心は不要だが、俺を敵視する連中にはいるからな、俺が聖上に取って代わる野心があるって考えてるお花畑が」
黒江は民主主義体制の軍隊で立身出世した故に、自分の身の丈に合った地位しか望んでいない。パイロット出身である事もあり、政治的野心もない。だが、英雄と称される人物には、必ず内部にも敵がいる。黒江の場合は45年当時にウィッチ兵科の中堅とされる年齢層の軍人らであろう。
「歴史を動かそうとする者はいつの時代も敵を持つ。シャアも、ゼクスも、トレーズも敵を持った。俺は民主主義の軍隊の改革をしたいだけさ、内側からな。その分、敵は多い。俺たちは転生してる時点でゴシップ記事の標的だし、死を乗り越えた事も否定的に見られる身だ。だからこそ、外側からではなく、内側から改革をする事で社会に受け入れられるしかないんだよ、選択肢は」
「あなたが最初の転生者だものね。そこまで考えてるのなら、退役した後に政治家したら?」
「やるとしても、軍隊出身は嫌われるからな。国務大臣になれたとしても、国防大臣が精々だから、ケイにでも任せよう」
黒江は政治的なビジョンを高レベルで持つが、元々が趣味人であるのもあり、引退後に政治家になる気はない。圭子が後年に政治家のキャリアをスタートさせ、国会議員を一定年数務めるのは、この時の黒江の冗談めかした推薦が理由で、平和な時代に軍の規律を保たせ、世界最高の軍隊と謳われた扶桑空軍を律させるため、後輩らに担ぎ出されたのが始まりである。扶桑皇国軍部の内、連邦構成国の双方の政治的理由で、陸海軍は何かかしらの欠点を持たせられたまま、21世紀まで過ごすことになるが、空軍はしがらみがないと見做されたことから、軍事予算は豊富であった。ベトナム戦争まで大戦世代が現場にいた事もあり、比較的に楽に二度の大戦と事変を乗り越えた。世代交代の完了が最も遅かったのが空軍であるのは、この時期からの行政側の判断として、事変世代が普通の常識では、45年当時は『若年』だったからである。(なお、黒江は引退直後の80年代後半から90年代、出身地でウィッチ養成学校を経営して、当座の生計を立てつつ、2000年代に地球連邦軍の軍人に復帰し、それに専念するようになるのである)
「俺達はロートルだの言われてるが、普通の常識じゃ、まだ青二才だ。銀河英雄伝説のラインハルト・フォン・ローエングラムだって、皇帝になったのは23歳くらいだ。日本側はジュネーヴ条約の兼ね合いで俺ら世代を重宝しだすだろうし、今の任官されていない連中は高等工科学校に行かされてから任官だろうから、親のほうが驚く。それに士官学校卒は10年の勤務実績ないと、士官学校の学費返還義務が出来る。この時代の人間からすれば抗議が出るだろう。軍人になるのは、基本的に農家の次男や三男、あるいは花嫁修業代わりに息女の誰かが行かせられるからな」
「卒業間近の連中は?」
「前線からの要請で、卒業を控えてる数十名のみは配属先で自衛官が教育することで妥協された。しゃーないが、ミーナの無知で俺達が冷遇された事が国際問題になってな。あいつは大尉に降格された。ただし、勤務階級は前のままだ。隊の混乱は日本も望んではいないからな」
「ドイツ側はどういう態度なの」
「閣下が事後報告するだけで済ませた。降格と給与の自主返納とかの処分は出してあるし、それに形式上はいじめているわけではなかったからな。閣下の報告で軍法会議は見送られたよ。ただし、少将以上は現役中は無理なように人事考査に書かれるだろう。本人も自嘲気味に『退役時に名誉的に少将がいいとこでしょう』ってな」
ミーナは覚醒前の私情混じりの態度が悪影響を及ぼし、ミーナの現役中の最終階級は大佐(退役時に少将。年金は少将扱いで支給)で落ち着く。カールスラント三羽烏はロンメル達を始めとする将官らが年月と共に予備役になった後、カールスラント軍部の再建に尽力し、ドイツ領邦連邦の体面を辛うじて保つための原動力となる。
「まぁ、精神的に別人格になって、その前の出来事は事実上、責められないから、妥協した?」
「現場の混乱の助長は向こうとて望んでいないし、唯でさえ、スコア認定のことで現場が大混乱なんだ。体面上、勤務階級は下げないから、俺らの下で働いてもらおうって腹だろうな」
「えーと、今日は午後から図上演習でしょう?子どもたちをあまりボコボコにしないこと」
「加減はするさ。だけどよ、士官学校時代は腕利きで鳴らした手前、期待はするなよ」
「はいはい」
「ねえ、貴方。元の姿は取らないの?」
「必要な時だけ取ってるが、基本的にはこの姿で行く。慣れてるしな」
黒江は戦闘での敵からの指揮官識別を難しくする意図もあり、作戦中は姿を変えたままで通した。調との出会いをきっかけに完全に会得した能力である。ただし、人物の肉体的特徴を掴んでいなければならないというハードルがあるため、後々にのぞみと入れ替わる時には、時間短縮のために『入れかえロープ』を使っている。元の姿は必要上、広報などで見せているので、歴代のプリキュア達も黒江の今の姿が仮初めのものであるということは知っている。現在は瞳の色以外は調を10代後半まで成長させた外見を維持している。識別点として、髪はポニーテールにしているのと、調より長身であるところがポイントである。黒江は忍術を本格的に会得していることもあり、素顔で活動する事は減り、調の姿で行動する事が多くなった。黒江はのび太の裏稼業を手伝う時もあるが、素顔はあまりに有名なため、姿は変えている。素顔はクールビューティーで通るイケメン系の顔だが、純真な内面に合わせるかのように、調の姿を使う機会は多い。黒江の魅力はガキ大将的な義侠さ、戦闘での勇ましさを持つ反面、心を許した相手には家族同然に接するという、戦場での姿と反するほどに純真な側面とのギャップの大きさであると、青年のび太の談。子供時代には『自分たち(子供)の目線に立って、きちんと向き合ってくれる』とことはに言った事があるが、のび太達は思春期にさしかかる時期に自分達で人知れず、地球滅亡級の事態を阻止したりしていた事から、自分達の言うことを『子供の戯言』と流さずに真剣に取り合ってくれた黒江たちを心から信頼している。のび太自身の優しさがことはと調を心酔させた事を考えれば、黒江はのび太の内面に潜む面倒見の良さと『明確な目的があれば、普段の弱気さを吹き飛ばす勇気を出せる』陽の側面を引き出す役目をドラえもんと共に担ったと言える。
「素顔を時々使わないと、何かのSFみたいに、本当の顔がわからなくなるわよ?」
「俺はサイボーグのグレートブリテンみたいなもんだよ。あれだって、姿を使い分けてるだろ?」
「だから、そのグレート・ブリテンだって自分の姿見失ってるじゃない!」
「ハニーと同種の能力の応用なんだし、式典じゃ素顔で出てるよ。ただ、おりゃ日本で有名になりすぎて、プライベートがないからな。姿を変えてるんだよ」
「訴訟問題?」
「そそ。それと、金鵄勲章のことで注目されだしてから、のび太んちにまで押しかけやがってな。それで変えるようになった。この姿だと、かわいい高校生にしか見えないからな」
「あなたねぇ。ところで…、貴方、のび太といつタメ口に?」
「あいつが青年期になってからだから、高校以降だよ。16すぎりゃ、のび太も精神面で子供でいられなくなる事は自覚したし、妹を二人も持てば、あいつも我が身を振り返って、考えるさ」
「ことはと調ね」
「そうだ。調は住み込みの家政婦的ポジションだけど、はーちゃんは本当に義妹になったから、振る舞いも高校からは変えていったよ。対外的にアニキとして振る舞う必要が出るしな。はーちゃんも行動に幼児性は残ったけど、中・高・大と学生生活を送らせる内に、精神年齢は成長した。5年くらい離れ離れにならざるを得なくなってた経験があるみらいにとっては、今の状況はショックだろうが、受け入れてもらうしかないさ」
朝日奈みらいはことはの事実上の親にあたるポジションであったので、事実として知っているものの、いざ、現実として『野比ことは』として対外的に振る舞っている状況に直面すると、大いに取り乱している。それに巻きこまれたキュアマーチ/緑川なお(ラウラ・ボーデヴィッヒ)からの愚痴のメールが来ているのを確認し、苦笑いを見せる。
「ん?ラウラもかわいそうに。みらいに振り回された挙句の果てに筋肉痛になったそうで、プリキュアの姿で整形外科に行く羽目になったとさ」
「あらら…。変身してても、筋肉痛にはなるのね」
「ラウラとしての生活の中で使ってなかった筋肉でも使ったんだろう」
「ありそう」
プリキュアでも筋肉痛になる時はなるようで、シャルが付き添って、整形外科に連れて行った事が書かれている。変身を解除しなかったのは、解除すると、痛みが余計に増すのは確実というのはわかっていた故だろう。みらいはこの珍事を起こしてしまった張本人なので、モフルンに諭され、リコに叱られ、猛省しているという。
「黒江さん、準備終わったよ…って、何してんだよ」
「メロディ、これ見てみろ」
「マーチじゃないか?ナヌ、筋肉痛だって!?」
「みらいがパニクって、止めたら筋肉痛になったそうな。シャルが整形外科につれていくってよ」
「おいおい、変身解かないで整形外科?」
「解いたら、動けなくなるくらいの痛みになるだろうからだと」
「あのガキ、どんだけパニクったんだ?」
呆れるキュアメロディ。振る舞いは生前と違い、ガサツさが出ており、紅月カレンに近いため、生前のように女言葉はほぼ使わない。
「お前さ、生前は割に大人じめだったって言うが、今は本当、紅月カレンだよな」
「直近だからだよ。意識すれば、昔と同じ言葉づかいできるけどさ、こそばゆくてさ」
「お前、自衛隊からなんて言われてるか知ってるか?プリキュアになれる紅月カレンだぞ」
「…事実だから、言い返せねぇ」
枢木スザクを殴りたいと公言し、ルルーシュ・ランペルージの共犯者に選ばれなかった悔恨を口にする機会が多いこともあり、キュアメロディは紅月カレンの色彩がかなり強い。のぞみが概ね、生前の明朗快活さを維持したのと対照的に、彼女は紅月カレンの激しさを発現させたと言える。
「お前、元が大らかだけど、カレンの激しさがプラスされたおかげで血の気が多いだろ。むぎのんじゃないだけマシだが。この世界に生まれ変わった(または流れ着いた)プリキュアは常識を投げ捨てて貰うし、投げ捨てた常識と引き換えに強大な力を得られる。お前、輻射波動を生身で撃てるんだし、少しは前世を顧みてみろ」
「戦った事は後悔ないけど、誇れるものじゃないよ」
反体制組織に身を投じたが、学友でもあったルルーシュ・ランペルージに利用された形になった事、枢木スザクのエゴとギアスに押され気味であった事による『戦士としての悔しさ』と共犯者に選んでくれなかったルルーシュ・ランペルージへの思いとの相克もあり、紅月カレンとしての人生は『誇れるものではない』と明確に言う。
「意志を貫き戦い通した、それだけで誇っていい、変節を繰り返す一生よりずっと良いじゃないか。のぞみは出身世界でそれが出来なかったのと、子供にも疎んじられる孤独感で壊れちまったから、プリキュアである事への執着を持つ。のび太はそれを危惧してる。昔、俺も、三号に半死半生にされた時に、ヒステリックに泣き喚いた事あるからな」
黒江はのび太や城茂という心のケアをしてくれる者がいたために挫折から立ち直り、聖闘士になれたが、のぞみはキュアドリームとしての自分のポジションに執着していると思われる節があり、のび太、出身世界が同じであるキュアマーチから危惧されている。
「ココはそれもあって、のぞみと結婚するんだ。のぞみを救えなかった世界線がある事は、彼にとってもショックだからだろう」
「あたしはさ。学校のダチの掌で踊らせられてたのも心残りだった。だから、転生できた。のぞみの奴の事はマーチから話を聞いたけど、りんたちは何してたんだよ!?」
「ラウラから伝え聞いただけだが、のぞみ、後輩の野乃はなの応援に応えたくて、無理しすぎたらしいんだよ」
「あのガキ、のぞみに何を言いやがった!?」
「落ち着け。野乃はなだって、善意で応援しただけだ」
「おちついてられっかよ!あのガキ、今度あったら…」
「いいから落ち着け!順番に話してやる。事の起こりは野乃はなが子供を生んだ頃だ。のぞみもその頃、上のガキを懐妊してな。何気なく応援したんだそうだ。しかし、結果的にその応援は呪縛になったが、はなは気づいてない。善意で言っただけだし」
「自覚もねぇってのか!?」
「よく聞け、バカ!それからはのぞみの心情の問題になるしな。のぞみだって、その頃は前途洋々だったからな。だが、あいつのショーバイが不味かった。教師だからな」
「もしかして…?」
「ああ。その上、下のガキも生まれたし、りんたちはそれぞれの道で成功してたから、迷惑をかけたくなかったんだろう。それが全てに狂いが生じるきっかけだった」
黒江は熱り立つメロディをなだめすかしながら、のぞみが転生を望んだ理由を説明する。同じ世界から転生したキュアマーチがラウラ・ボーデヴィッヒとして語ったあらましを伝えるだけだが、黒江をして『後味が悪い』と言わしめるほどに悲劇だった。
「狂いは下のガキが子供の頃は病弱だった事からだった。よくある姉妹間の嫉妬さ。そして、上のガキが捻くれて、非行に走るようになった挙句の果てに大人になってから、ダークプリキュア化しやがった」
「何だって!?」
「その頃ののぞみは体を壊しちまって、プリキュア化する体力もあるかどうか。りんたちも相次いで亡くなったから、自分のガキが悪の道に走ったショックもあって、精神的にも変身に耐えられなくなってた。それを見かねた下のガキが覚醒したのを見届けたて亡くなったそうな。りんたちが先に逝ったショックも大きかったのか、あまり長生きしなかったそうだ」
「……」
「70まで行かなかったというから、死因は心臓発作か何かだろう。プリキュア化は肉体が老いても絶頂期に若返らすが、ベースの肉体が加齢しすぎると、負担が大きくなる。これはつぼみのばあさんの例で確認した」
プリキュア化は基本的に体の細胞を活性化させる要素を持つため、老婆でも20代の頃にまで外見が若返る。のぞみは生前の現役時代の後半は仕事をしながら、変身していたのと、変身の特性で外見上は絶頂期のままであったのもあり、体への負担が大きくなっていく事に気が付かなかったのだろう。
「そういえば、あいつは先代が自分のばあさんなんだっけ」
「ああ。のぞみは多忙すぎた上、引退後にそれまでのツケで体を壊した。そして、自分のガキどもが殺し合う事が確定した状態でお迎えだぞ。心残りすぎて、天国どころじゃないぞ。多分、実質、老化も加速してたんだろう。活性化させすぎた結果、肉体が耐えきれないってのはザラにある例だ。ジオンやティターンズの強化人間の製造記録にはそんな例が数多ある」
「それで…?」
「下のガキがシャイニングドリームになって、姉貴を倒したそうだ。往年のあいつがムシバーンを倒したように。姿は瓜二つだったそうだ。」
「そうか…」
「だから、Z神は魔女として転生させておいたんだろうさ。あいつが望んだのは、往年の生活そのものだ。お前らとつるんでた頃のな」
「それ、ココにとって、すごく皮肉でしかねぇよ」
「だから、のぞみは錦の立場をそのまま引き継いだんだろうさ。俺たちなら、人事部に理由言って、新規入隊扱いで軍籍を用意する事は容易いのに」
のぞみは錦の人格を上書きする形で精神面での転生を遂げた。黒江は『軍籍を新しく作ろうか』と聞いたが、のぞみは固辞し、錦の立場を受け継ぎ、大尉としての勤務を選んだ。これは錦の記憶と意識も溶け込んでおり、激昂すると、錦の粗野な面が出るからだろう。
「どちらかでは無いけど、どちらでもあるんだ、今のわたし」
「なんだ、聞いてたのか」
「娘達の事はなおちゃんから聞いてるよ。一週間は寝込んだよ。表向きはインフルエンザって事にしてるけど、先輩には言ってある。メロディ。はなちゃんは悪くないよ。わたしが青かっただけだし、それに、これから会えたとしても、りんちゃんみたいに、同位体の可能性のほうが大きいし」
「お前、サバサバしたな…」
「言ったでしょ、どちらでもあるって。ココに心配かけたけど、結婚はするよ」
「本気かよ!?」
「やり残した夢の一つだし、ココと結婚って」
「でもさ、お前、りんが愚痴ってたぞ。咲さんの力を受け継いだろ」
「咲さんと舞さんがラブちゃんとあたしを選んだんだよ。先輩がこれから会うはずの二人がその咲さんたちならいいんだけど、違うみたいだし」
「それは再来年以降を期待しろ。再来年に『嵐』がくる。その時に出会えるだろうさ。ま、その前に錦の同位体への言い訳考えとけ。それと竹井の同位体にも。あいつは五月蝿いぞ」
「先輩はいいですよ。自分にも勝てるし」
「そりゃ、半引退のお局様と現役バリバリの黄金聖闘士とどっちが強いかって言えばな。前史はホテルぶっ壊して始末書だったから、今回は大人しくせんと…」
「貴方、盛大にホテル半壊させて、同位体を泣かせたものね」
「るせぇ。ちゃんと責任取って弁償したわ、財テクで稼いだ分飛ばしちまったが」
「問題はリーネよ。ほら、あの子…」
「ああ。どうすんべ」
「それはこれから考えるわ」
武子に茶々を入れられる黒江。黒江は今回は穏やかに同位体と接触したいらしいが、今回は芳佳とリーネが騒動の中心となるのは予測していなかった。二人は飛べるエクスウィッチの心情を推し量れず、黒江達の同位体を責めてしまう事になる。また、坂本が急速に衰えていくのに歯噛みしている世界線な事もあり、既に引退したが、まだ飛べる黒江と智子を強く責めてしまう。それを見かねて、芳佳とリーネはそれぞれのもう一つの姿で戦ってみせることになるし、圭子の叱責に繋がる。また、黒江達は同位体への慰めも兼ねて、『自分らが絶対的権威として君臨する姿』を間近で見せる事になる。
「先輩、同位体に何を見せるつもりなんですか?」
「八咫烏と謳われるところまで強くなれた世界線を、だ。基本世界じゃ、まっつぁんと俺に接点はないから、今の関係は不思議がられるさ」
「基本世界じゃ、むしろ坂本先輩が伝説だからなー。この世界で万年二番手で引退したなんて、信じられないだろうなぁ」
「俺たちが現役であり続けた結果、アイツは上に頼ることができて、烈風斬に手を出さなかった。だから、烈風斬に至る世界じゃ、俺たちの伝説は与太話程度にしか見られんだろうよ。でも、新しいウィッチの心構えの基本を説いた戦闘航空士の教科書的著書残すから歴史には残るし、パイロットには神様になるからな。だから、この世界でのあいつの弓は与太話に取られるだろうさ。アイツ自身にもな」
黒江はこの世界での坂本の権威ぶりをそう評する。そして。坂本が得た固有技能を。
「前、はやてのツテであいつ、ファルケン覚えてな。アイツ、俺らみたいな必殺技ほしい心情はどうしてもあったみたいで、今回の裏ワザにしたんだと」
「あれ、どう説明するんだよ。炎の隼が舞うだろ」
「スカーレットの技は鳳凰が舞うだろーが」
「ああ、それだけど、赤城と加賀からも手ほどき受けたとか言ってたわよ。それで説明しとくわ。それに、同位体の烈風丸はまた折る?」
「エクスカリバーでへし折るか?」
「あの子が泣くでしょ。こちらで封印措置しとくわ。それと、芳佳が震電持ってきたら、パーツがないと言いなさいな」
「こっちのジェットは扱えんだろうし、見せても、ハルトマンが文句言うだろうな」
「ええ。その時はデモンストレーションを頼むわ」
「マルヨンでハルトマンの心を折ってやるさ」
色々と画策する一同。
「あの、先輩。その時になったらシューティングスター使っていいですか」
「やれ。向こうはこちらを見くびるだろうが、こっちは天下の64Fだ。絶対無敵、元気爆発、熱血最強ぶりを見せてやらんと…」
実際、64Fは扶桑の一部隊という事、幹部が高齢のウィッチだらけという事で、見くびられる事が同じ世界でもままある。平行世界の501が円熟した時間軸なら、尚更だろう。だが、黒江が天下の〜と形容したのは伊達ではない。
「何処のエルドランの勇者ですか」
「いっそのこそ、そいつらの技でもやるか、お前ら」
「ゴウザウラーあたりはやりたいですね」
このノリだが、黒江達は自分達が戦線の清涼剤という事も理解している。そこが職業軍人たる所以だ。ゴルゴが戦況に重大な影響を及ぼし、のび太が要人暗殺に動き出した中、64Fに課された役目は戦線の清涼剤的役目である。
「伊達に『七勇士』とか『レイヴンズ』とか『閃光、電光、雷霆』なんて言うトップ勢揃えてないからね。破城槌と言って欲しいですよ」
「キマイラ隊みたいな見掛け倒しで無いことが求められるからな、俺たちは破城槌にもなってやるさ。それが親父さんが多くの世界で軍令部に課されてしまう役目でもある」
「ああ、旧ジオンの…」
「そうだ。日本が俺たちに期待するのはホワイトベースであり、アーガマであり、ラー・カイラムの果たした役目だ。なら、その彼らのバックの組織の手を借りて、やってやるまでだ。親父さんの名誉のためにもな」
「ルルーシュが聞いたら、呆れるよ?」
「スザクが出る度に狼狽えたり、自分の異母兄に及ばない事を気にしてるスカシ野郎の事は忘れろ、メロディ」
苦笑いのメロディ。ルルーシュはスザクにいつも戦略を狂わされ、取り乱したり、才覚が異母兄に及ばないために、ギアスを使うしか上を行く方法が無いことを気にしていたのを覚えているため、黒江がネタにする事には、当事者であったために苦笑いである。だが、アムロやシャアなどの要素が大戦略を根底から覆えるのが日常茶飯事である上、黒江達が転生で出た技能で浦塩を防衛した事実に、ルルーシュの信条の一つを否定する事実の積み重ねを認めるキュアメロディだった。
「あんたらとプリキュアとしての自分を省みると、あいつの信条が馬鹿らしくなるよ」
「戦略は臨機応変に対応して考えるもんだ。リアルタイムでな。ルルーシュは目的は果たしたが、代償は大きかった。だが、アムロさん達を見てみると、戦略通りに事が動くのはあやふやなのがわかる。のび太の成長を見ろ。ドジでノロマなぐーたら小僧が、今じゃ、ゴルゴも認める凄腕スイーパーで、環境省きってのエリート官僚だぞ。しかもモテモテなのに、カミさん一筋、愛妻弁当だぞ」
のび太を引き合いに出し、ルルーシュの『戦略は戦術に勝る』とする信条は一面的である事を教える黒江。のび太は小学生時代の周囲の評価を覆し、幸せな人生を手に入れた。しかも温かな家庭を築いた。のび太の努力は周囲を驚かす成果を挙げた。そして、裏世界でゴルゴも認める凄腕になった。のび太はその評価を持ったまま、マネジメントに仕事の軸足を移してゆく。30代に入る頃の話だ。一年後の騒動以降、のび太はマネジメントでも関わっていく事になり、30代半ばにさしかかる頃には、スネ夫に『前は自分で動いてたのに、今では黒幕然としてる』と言われるのである。
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