常日頃聞こえる子供の声が、嘘のように静まり返ったメンフィルの王城。
 その郊外――リウイの使い魔である水精霊マーリオンの守護する湖畔の側に、王家の墓所はある。
 リウイはその王墓から離れた場所に、王家に準ずる形で建立された墓の前に立っていた。
 シルフィア・ル―ハンス。
 それが、この地に眠る偉大な騎士の名前だった。

「……まるで、自分の一部が欠けたようだよ」

 マーズテリアの聖女の手によって、シルフィアが断罪を受けたのはつい先日のこと。
 神格位剥奪によって魂は完全に消滅し、もう転生することもない。
 そんな完全な死を前に、シルフィアは笑って光の中に消えていった。
 最後に一筋の涙を流しながら……。

 ――強い女だった。

 一生を国のために費やし、己の信念を最期のときまで貫く。
 その難しさは、リウイ自身よく知っている。
 理想に敗れ自分に甘えそうになったとき、何度となく彼女に正された。
 覇王としての今の自分があるのは、イリーナや彼女の支えがあったからだろう。

 ――それがこれからはもうない。

「それでも、俺は進む」

 感傷に浸るのは、やるべきことをやってから。
 彼女の穏やかな笑顔も、淡い緑の髪の匂いも、思い出すのはそれからだ。
 シルフィアとの息子を育て、理想を次代の王に託す。
 嘆き悲しむ暇はない。

 シルフィアは、生きてさえいればそれでいいなどと、甘いことは言わないはず。
 あの気丈な女は、信念無き生に価値はないくらいのことは言うだろう。

 ならば虚勢を張ってでも、理想に手を伸ばそう。
 足掻いて、足掻いて……。
 例え愚者と侮蔑されようとも、愛してくれた女に誇れるような生き方をする。
 そうリウイはシルフィアの墓前に誓う。

「また来る。……マーリオンもいるから、寂しくないよな」

 祈りを終えたリウイは、そう別れの言葉をかける。
 それからシルフィアの墓に背を向け、歩き出した。

 墓所の入り口まで来ると、イリーナとカーリアンが待っていた。
 戦装束ではなく、公の場で着る淡い緑のドレスを纏ったイリーナは、悲痛な面持ち。
 カーリアンの顔にも常の不敵な笑みはなく、何処か悲しげに見える。

「あなた……」
「そんな顔をするな。シルフィアは後悔せずに生きたんだ」
「……ッ……はい」

 消え入りそうな、小さな返答。
 その中に、悲しみとは別の感情が混じっていることに気付き――だが、それを指摘することはなかった。

 シルフィアが亡くなったことで、彼女がリウイの心にずっと住み続けてしまうのではないかという嫉妬心。
 きっと彼女は、そんな醜い心に気付いて欲しくはないだろう。
 そう思ったリウイは代わりに、軽くイリーナの柔らかな金の髪を撫でる。
 目を見開いたイリーナは一筋の涙を流すと、すっと力を抜いてリウイに身を預けてきた。

「カーリアン、エヴリーヌの様子はどうだ?」
「……少しずつこの国の在り方に興味を持ってくれているみたい。
 でも、まだモナルカとは会わせない方がいいかもね」
「……そうだな。だがあいつは、まだ精神的に子供だ。しっかり向き合って話せば、理解してくれるさ」
「そうね。……それにしても、リウイお兄ちゃんだっけ? 子持ちでお兄ちゃんも何もないでしょうに」
「……あれはエヴリーヌが勝手に呼んでいるだけだ」
「でもね〜。満更でもないんじゃない?」
「……知るか」

 悪態を吐きつつ、カーリアンに感謝した。
 少し重くなってしまった雰囲気を軽くしてくれる。
 こういうところは、流石といったところだろう。

「しかしそうなると、四柱の魔神の動向が気になるな」
「ラーシェナとカファルーはヴェルニアの楼から撤退。残党を引き連れて独自勢力を築いているらしいわ」

 楔の塔を陥落させた後、メンフィル軍はユルケレーミ部族国と交渉。
 ブレアード迷宮の一つである、雷嵐の闇堂を経由して、地下から楔魔の拠点――ヴェルニアの楼に攻め入った。

 その過程でリウイは、完全には回復していなかったラーシェナ。
 そして拠点制圧のために別行動を取っていた、ファーミシルス率いる部隊を狙った魔神エヴリーヌを戦闘不能に。
 更には、楔魔の首領である魔神ザハーニウを一騎打ちの末に撃破していた。

 しかし拠点は無事制圧したものの、捕縛しなかったラーシェナ含め、エヴリーヌを除く楔魔の消息が掴めずにいた。
 特に拠点侵攻以前より姿を見ていない、パイモンとゼフィラに関しては完全に不明。
 無論、魔神ザハーニウにも訊いたが、決して口を割ることはなかった。
 盟友を裏切る気はないということだったのだろう。

「……それは?」
「貴方がいない間に、モナルカが伝えてきた情報よ。
 光の神殿はそちらの掃討に、マーズテリアの……元聖女を向かわせたみたい」
「ルナ=クリアか……試練で北ケレースに行くとは言っていたが……」

 引き連れていた騎士の人数はせいぜい二十数人。
 それで魔神を討てるはずがない。
 つまり、光の神殿は試練などという大そうな言葉を持ち出して、体良くルナ=クリアを抹殺する気なのだろう。

「パイモンとゼフィラは、やはり不明か?」
「ええ……ただ拠点陥落前に、神殿兵の一部が忽然と姿を消しているらしいのよ。
 それも拠点の外郭部……円柱を横に倒したような空間のある区画だけね」
「……円柱状の空間か」

 祭壇か、或いは何かの魔導兵器を隠していた場所か。
 そんな疑問に対する答えは、予想外の場所から返ってきた。

「あの……飛行生物の格納場所ではないでしょうか?」
「イリーナ……?」

 半信半疑といった様子のイリーナだったが、思い出そうとする様にリウイの胸の中で首を傾けた。

「エクリア姉様たちが交戦した魔神の話です。
 ゼフィラという名だったと思いますが、エイのような形をした飛行生物を配下にしていたと」
「……なるほど。それが本当の話ならば、パイモンとゼフィラはそれで何処かに脱出した可能性が高い」

 考えられるとすれば……。

 リウイはしばらく目を閉じて思考を巡らせ、憶測に過ぎないと苦笑する。
 もう一度軽くイリーナの頭を撫でると、王城へ戻ることを告げた。

 三人で足並みを揃え、来た道を戻る。
 歩き始めてしばらくしてからリウイは、一先ずパイモンたちの行き先は捨て置き、別の疑問を口にした。

「しかしそうなると、その消えた騎士たちのことが気がかりだな。
 魔神に倒されたのならば何かしら痕跡が残るはずだが、それすらなかったのか?」
「そうみたいね。……折角拠点を陥落させたのに、何か嫌な感じだわ」
「……そうだな」

 二柱の魔神のどちらかが、何らかの術を使ったのかもしれない。
 それも禁呪に分類されるような、危険極まりないものを。
 そしてリウイの予想が正しければ、それを行使した魔神は……。

「まだ何も終わっていない……か」




 
 ――風の刃が頬を切る。

 咄嗟に後ろに飛んで、私はアザゼル――パイモンの追撃を回避した。
 そのままばねのように膝を屈伸させて、空中に飛び上がる。
 翼を広げ、戦場を空に移す。

「……お前とは戦いたくなかったのだがな」
「それは私もですよ。かつての“堕天使長”殿と戦うなど、身が持ちません」
「道化が……勝手に言っていろ」

 パイモンの攻撃手段は、大きく二つ。
 クリスダガーによる投擲術。
 そして膨大な知識を最大限に活用した魔術戦だ。

 しかし本当に厄介なのは、パイモンが持つ特殊能力にある。

「……っ、やはり無理か」

 秘印術の印を組むが、発動する直前で魔力が霧散してしまう。
 ルーアハ・カドシュやディエス・イレといった神聖魔術さえ封じられている。
 それだけでなく、身体も幾分重く感じる。

 ……おそらくは一時的なものだろうが。

「魔封じの閃光、そして破術の閃光……」
「ルシファー様の魔術の威力は並外れていますからね。封じました」

 戦闘時、私の身体を覆う漆黒の魔力がない。
 今は身体能力のみで戦っている状態だ。

 ――それが、魔神パイモンの特殊能力。

 彼の前では魔術行使はできず、特性も発動できない。
 魔術や魔神の特性主体で戦う、彼より下の楔魔には地獄だっただろうな。

 私は眼下のアイドスに心話を送った。

『アイドス、聞こえるか』
『聞こえているわ。……大丈夫なの?』
『私は平気だ。それより……』

 風の揺らぎを感じ急降下する。
 パイモンとすれ違う瞬間、神剣で生み出した風の刃を放ったが、障壁で防がれてしまった。

 まずいな……神剣だけでは攻め手が足りない。
 
 眼下に広がるのはオウスト内海の涼やかな水面。
 さらに周囲を窺い、ケレースの森を視界に収める。

 ……突っ込むしかないか。

『エクリア』
『はい……』
『おそらくお前たちの魔術も封じられているはずだ』
『魔術が、ですか……?』

 パイモンの仕業ね、というアイドスの心話を聞きながら、私は上空のパイモンを一瞥した。
 こちらの誘いに乗ったのか、それとも気付いていないのか、私の後に続くように急降下の姿勢を見せた。

『そこは古神の社だから敵は現れないとは思う。しかし万が一がある。連接剣――』

 森に飛びこむ私目掛けて、パイモンは魔力弾を放ってきた。
 避けられるものは避け、残りは剣で迎撃する。
 途中、私の身体を乗っ取ろうとケレースの森に住まう悪霊が襲い掛かってきたが、全て追い払った。

『攻撃手段はお前の連接剣頼りになる。私が戻るまでアイドスを任せた。……死ぬなよ』
『――ぁ、は、はい! お任せください!』
『貴方も……無茶はしないでね……』

 森の木々――遮蔽物を利用して、パイモンの視界から逃れるように飛ぶ。
 扱えるのは片手半剣一本。
 まずは接近しないことにはどうにもならない。

『どうかな……少しはかっこいいところを見せたいから、無茶をするかもしれん』

 そんな戯言に、アイドスは少し怒ったような声になる。

『馬鹿なことを言っていないで、早く迎えに来なさい』
『……やれやれ、手厳しいな』

 そうまで言われたら、セリカの事を抜きにしても、早々に決着をつけなくては。
 とは言ったものの、流石は“神に強くされた者”だ。

 放たれた魔術の間を縫うようにして接近。
 神剣による刺突を繰り出したが、避けられローブを掠めただけ。
 即座に斬撃に切り替え横に薙いだが、見事に障壁で防がれ、受け流されてしまう。

 それにしても今の一撃は、飄々としたままのあいつだったならば仕留めるくらいの威力があったはず。
 どうやら魔術の威力だけでなく、障壁の堅さも増しているらしい。

 ――っと、パイモンが術の詠唱を止めた。

 警戒しながら私は、パイモンから距離を置いて木の上に立った。
 すると彼もまた、丁度体面になるように木の上に降り立つ。
 奴の意図は分からないが、答えるかどうかは別にして、取り合えず疑問に思っていたことを尋ねることにする。

「……お前、どうしてそこまで魔力を有している」
「“アザゼル”になるために、少々魔力を収集したのですよ」
「“二つ回廊の轟雷”に“炎叉龍の轟炎”……大規模魔法をこうも連続で……。
 パイモン……貴様、生物から魔力を奪うのではなく、生物を魔力に“変換”したな」

 返答の代わりに、パイモンはにやりと笑って見せた。
 生物を魔力そのものに変換する魔術は、禁呪に分類されるが存在しないわけではない。

 無論それは、エディカーヌなどの闇の国家ですら表向き禁止されている。
 しかし相手はそんな理屈の通じない魔神だ。
 中でもパイモンならば、その知識を有していてもおかしくはない。

「必要であれば躊躇わない。堕天使長として皇帝であるあの方より軍事の全権を預けられていた、かつての御身。
 何物にも縛られず、軍神としてその力を振るい続けた貴方の……古神サタネルの言葉ですよ」
「……そんなことを私は言っていたのだな。だが今の私には、捨てられないものがあまりに多い」
「それでいいと思いますよ」
「なに――?」

 パイモンは微笑み、視線をエイが飛び立った方角に向けた。

 ……ああ、なるほどな。
 攻撃を止めたのは、もう十分時間は稼いだということだったのか。

 ……大丈夫だ。

 セリカとて猛者。簡単に倒れはしない。ゼフィラ程度ならば返り討ちだろう。
 そう嫌な予感を抱きつつも自分に言い聞かせ、私は一先ずパイモンの話に耳を傾けることにした。

「何ものにも縛られないかつての貴方では、臣下に示すべき王道は生まれない。
 もしも貴方が“憤怒”しか持ち合わせていなかったのならば、私はここにはいません」
「お前は……どうしても私を魔王にしたいのだな」

 視線を下げて、彼はふっと笑った。

「それにしても、深紅の龍となった御身にしかお会いしたことはありませんでしたが……。
 それが堕天使サタネルとしての貴方の姿なのですね。あの方とは似ていなかったもので気付きませんでしたよ」
「いや、かつての私は銀髪の堕天使だったようだ。髪の色が違うのは、あいつに色素を奪われたからかもしれない」
「ははは、あの方の髪の色は、今の貴方と同じ漆黒でしからね」

 もちろん冗談だ……おそらく。

「まあ……考えてみると、ベルは分かっていたようだがな」
「ベル、ですか……?」
「魔神ベルフェゴル。“私”の参謀を務めていた女魔神だ」
「なるほど。確かに側近ならば……となると、ルシファー様」

 顎に手を当て考えるような仕草をしてから、パイモンはじっと私に目を向けた。

「――貴方は、何処までの記憶を取り戻されたのですか?」

 ……本当に厄介なやつだよ、お前は。

「まだ私がサタネルだったことを自覚しただけだ。完全に記憶を取り戻すとなると……」
「貴方の本体を復活させる必要がありますか」

 今の私の身体は、古神ルシファーの神核を元に形成されているようだ。
 もともと同一存在だったのだから、拒絶反応などはない。
 しかしかつての力を取り戻すとなれば、蘇らせる必要が出てくる――邪竜と呼ばれた大悪魔を。

「……させはしないぞ」
「例え貴方の命令であっても、誰かに望まれれば奇跡を実行するのが悪魔。
 邪竜復活を望む者が現れれば、私はそれに手を貸すでしょう」
「ならば覚悟しておけ。その時お前が相対するのは、他でもない私になる」
「それが答えというわけですか」
「ああ、私とあいつらの生に、過剰な力は……邪竜は不要だ」
「分かりました。ですが、きっと貴方は考えを変える日が来る。貴方が古神ルシファーの息子である限り」
「お前のその物言い……やはりあの男、私を再創造したのだな」

 記憶がないということは、私は一度滅んだのかもしれない――アストライアのように。
 
 ――待て。

 もしもそれが真実なら……。

「……考えを変える理由。思い当たりましたか?」
「馬鹿なことを……魂の在り処は確定していないのだぞ。……第一、セリカは望まない」
「かもしれませんね。ですがアイドス様はどうでしょう」
「あいつもそんなことは望まない」
「ご判断はお任せしますよ。私は厭くまで可能性を申し上げただけです」

 ……そうだ。だがその意図は明白だ。

「女神アストライアの魂。その一部かもしれませんが……解放する。
 そうすればセリカ殿の肉体に眠る、正義の女神を呼び覚ますきっかけになるかもしれません」
「……その時セリカの魂はどうなる?」
「そのままでは、セリカ殿の魂は消滅するでしょうね。ですから、セリカ殿にも新しい肉体が必要になります」

 天の副王としての力を取り戻せば、人間一人の肉体を作ることは、難しいが不可能ではない。
 だから問題は、アストライアを如何にして起こすかになる。

 ――方法は、ある。

「貴方の旅の目的は、それが仮初のものだったとしても、アストライア復活にあったはず。
 そのきっかけになるかもしれないのならば、試す価値はあるのでは?」
「そうなれば、確実に光の神殿は私を見逃さないだろうな。それに、セリカとも敵対することになる」
「しかしルシファー様は、アイドス様と姉君を再会させることができる」
「そしてお前は、私を光に敵対する魔王に祭り上げることができるわけだ」

 セリカと引き離した理由には、この提案も含まれていたのかもしれない。
 セリカがいたままでは、私は否としか答えない。
 だからセリカを排除することで、あいつのことを一度私の思考から遠ざけようとした。
 事実それは成功し、私はパイモンの提案を自分でも意外なほど冷静に考えている。

「ふふ……何にせよ、答えを出すのはルシファー様です。ただ私は、そのお手伝いをするだけ。
 ……さて、では足止めはもう十分でしょうし、私はしばらく身を隠すことにします」

 そう言うとパイモンは、地面に向けて純粋系の爆発魔法を放った。
 炸裂し、土煙りが舞い上がる。
 揺れる大木に左手で身体を固定し、即座に剣を一振りして煙を薙ぎ払ったが、既にパイモンの姿はない。

『次にお会いする時までに御答えを』

 頭に直接響いた声に上空を見上げれば、大きな鴉が一羽、南の空に飛び去っていくところだった。
 
 だが奴の提案は誰も望まないし、セリカのことを考えれば、尚更出来るわけがない。

 ――私がルナ=クリアを殺すなどということは。





 海岸に降り立った。
 黒翼を消し、アイドスとエクリアの姿を探す。
 歩き始めて直ぐに、古神を祭る祠の前で、何やら深刻そうな顔で会話をしている二人を見つけた。

「……無事だったか」
「無事だったかじゃないわよ、馬鹿ッ!」

 ……いったいどうしたというのだろう。

 アイドスは私をその目に認めた途端、胸に飛び込んできた。
 思わず受け止めたが、彼女は強く何度も胸を叩く。
 バカ、バカとうわ言のように繰り返し……彼女の頬に大粒の涙が流れていることに気付いた。

「ばくは……爆発音……聞こえるし……貴方……は……森に……落下しちゃう、し……心配で……心配で……っ!」

 彼女の態度を不思議に思い、エクリアに顔を向けると、少し困ったような表情だった。

「無茶し過ぎです。いくら何でも、悪霊の蔓延るケレースの森に飛び込むというのは……」
「……見ていたのか」
「ええ……それと、普段はルシファー様と共にいらっしゃいましたから」
「……そういうことか」

 今回の戦いのように、アイドスと離れて戦ったのは初めてのことだった。
 彼女はいつも神剣に宿って側にいたから、その不安も増してしまったのかもしれない。

 ……アイドス、何も出来ないなどと思ってくれるなよ。

 私は大丈夫だと伝わるように、ゆっくりと優しく彼女の背を叩いた。

「セリカ様の方は、使い魔のアイレを付けていますから、いつでも追えるかと」

 そう言ってエクリアは、少しだけ寂しそうに笑う。
 きっちりやるべきことをやるのは、なんともエクリアらしい。
 だが本当は彼女も、アイドスと同じ思いなのかもしれない。

「分かった……」

 私は謝りはせず、軽くエクリアの肩を叩いた。
 傍から見れば、それは軽薄な態度だったかもしれない。
 しかし下手な言葉よりも、何となくその方が通じる気がしたのだ。

 それから神剣にアイドスが戻るのを待って、私たちは北華鏡の村を発った。
 エクリアの使い魔である風の妖精が伝えてくる情報。
 それによると、どうやら北ケレースの方に、飛行生物は向かったらしい。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.