南ケレースからアヴァタール地方を越え、更に南方。
 竜族の支配域である山脈と、闇夜の眷属が支配するエディカーヌ帝国領の先に、
 湿原や亜熱帯を多く含み、幻獣や亜人間などが暮らすディジェネール地方が広がっている。
 その中でも特殊な領域に、魔族や悪竜、果ては天使などの上位生物が生息する一帯があった。

 名を“破熱の森河”というその領域は、ディジェネール地方の竜種の住処となっているフェマ山脈や、
 セテトリ地方の大国であり、国王トキーグの支配するミケルティ王国、
 並びに土着神ディスナが治めるディスナフロディ神権国領の北方に位置し、
 熱水やガスの噴出する断層が多く見られる亜熱帯湿原である。

 ――その遥か上空。

 今はもう何人の記憶からも忘れ去られた、古の宮殿があった。
 空の上にあるとは思えないほどに広い荘厳な庭園に、人の手に因るものではない精巧な造りの内装。
 名は伝わっていないが、そこを新たな拠点と見定めた“彼ら”は、“悪魔の全て(パンデモニウム)”と呼ぶことにした。
 それは遥か昔、“彼ら”の盟主が居城としていた大宮殿の名である。

「しかし、よくこんな場所を見つけたものだね。かつての宮殿程までではないけれど、今の僕の勢力には十分だよ」
「元々我が主が拠点の一つにと考えていた場所ですからね」
「へぇ……そんなこと考えてたんだ。でも、僕には話が通ってないんだけど」
「厭くまで考えていただけで、結局占拠には至りませんでしたから。ですからご覧の通りなわけです」
「確かに内装に傷はないようだけど……なんだか納得いかないな」
「それを言うなら、私は貴方が女性だったとは聞いてませんでしたけど」
「別に何も問題ないだろ。というか、いくら魔術で幻惑してたとはいえ、君ほどの実力があれば気付いてもいいだろうに」
「ええ、ですから聞いていません(・・・・・・・)でした」
「うん、君ってやつは性格悪いね」
「今更何を。悪魔の性格が良いわけないでしょう?」
「ふ……くっ……はははっ! 違いない!」

 会話する二つの影。
 片方がもう片方に謙っているように思えるが、実際はそうではない。
 言葉こそ丁寧なものだが、両者の間に緊張感などはなく、気の置けない間柄だと見て取れる。

「ところでパイモン。“彼”はどうだった?」
「……御承知のはずかと」
「うん、分かってる。まだ足りないね」

 会話する二つの影の片割れである魔神パイモンは、先日の戦いを思い返していた。
 自身の別の姿である“荒野の悪魔(アザゼル)”を退けたのは大したものと言っていい。
 しかし“アザゼル”程度に本来“彼”が――古神サタネルが苦戦するはずがない。
 今目の前にいるこの魔神と、自らの主、そしてサタネルの三柱は魔界の三強と謳われたほどなのだ。

「彼が好敵手と認めた相手に会ったけどさ、別にあいつは……セリカは神の力を完全に使いこなせてる様子じゃないんだよね。
 まあ、確かにあの裁きの神炎は凄かったけど、ただそれだけ。使わせなければどうということはない。
 それと互角程度なんだったら……我らが盟主足り得ないなあ」

 底冷えのする声音で呟く女悪魔の表情は、しかし発した言葉とは真逆だった。
 そこにあるのは紛れもなく狂気を孕む微笑み。
 何の戯れか、昔使っていた偽名――ビヨンデッタを名乗っている道化師は、何か碌でもないことを思いついたに違いない。
 そう思ったパイモンの思考は、次の言葉に一時停止状態に陥ることとなる。

「うん、じゃあ彼には一度死んでもらおうかな」
「…………」
「だって今の彼は自分本来の力を自分とは違う“核”で無理やり行使しているみたいだし。
 君は知らないだろうけど、彼本来の武具だって喪失してるし。
 ならいっそ――っていうのはどうかと思ってね」
「……そういうことでしたか。しかし、それでどうにかなるのでしょうか」
「なるよ。彼が真に“サタネル”であり“ルシファー”なら、選ぶしかないからね」
「いえ、そうではなく」
「……ああ、それで本当に死んでしまったらってこと? その時はその程度でしかなかったってことだよ」
「それはそうですが、貴女はそれで良いので?」
「いいよ。僕が肩を並べても構わないと思ったのは、今の弱くて自分を偽っている彼ではないもの。
 まして君には悪いけど、皇帝たる“彼”の方は気に入らないことの方が多かったんだよね。
 むしろ僕としては、君の方が心配なんだけど。君は僕の臣下ってわけでもないしさ」
「その点はご安心を。まだ、彼は私の主ではありません。我が主は熾天魔王だけなのですから」

 それはパイモンの本心だった。
 リウイを勧誘したのも、サタネルを引き込もうとしたのも、
 断じて闇の覇王(リウイ)や黒翼天魔(サタネル)を王と仰ぎたかったわけではない。
 彼の主はいつの世もただ一柱、熾天魔王だけなのだ。

「見事な忠義だな、パイモン」

 二人が会話する宮殿の広間に新たに響いた声。
 透き通った氷の刃のような冷たいビヨンデッタのものとも違う、客を招く娼婦のような淫靡で艶のある声音だ。
 やがてこつこつと、宮殿の床を叩く足音が聞こえ、声の主が二人の前に姿を現す。
 ――っと、同時にむせ返るような甘い匂いが辺りに満ちた。
 声の主の吐き出した吐息が放つ己の性欲を刺激する香りに、パイモンは精神抵抗力を高める。
 魅了効果など、普段は意識せずとも何ということはないのだが、
 流石にその起源を性愛の女神に置くこの魔神が相手となれば話は別だ。

「おいおい、主に魅了の魔術を使わないでくれるかい」
「魔術ではないわ! ……まったく、分かっておろうに。
 妾とて、好きでこのような悪臭を吐き出しているわけではないのだぞ」
「別に悪臭じゃないだろう。ただ、人間にとっては毒ってだけでさ」

 魔神アスタロト――銀髪に切れ長の紫の目をした、今は(・・)女の姿を取るソロモン七十二柱が一。
 そして、ビヨンデッタの配下でもある巴龍大公。
 背中の一対の黒い翼はかつて天使であったころの証であり、
 露出過多な、同じく黒を基調に金色の装飾がされたビキニアーマーに白の腰布を纏う。
 黒い蛇を豊かな胸から細い腰にかけて絡ませ従える彼女は、
 伝承にはひどい口臭であると記されているが、決してそんなことはない。
 だが何れにせよ、ここまでの魅了効果を持っていれば人間にとって毒なのは変わるまい。
 
「お早い到着ですね、大公殿」
「パイモンよ、主命とあっては参じないわけにはいくまい。
 我が“磔剣バルトロマイ”も戦いたくてうずうずしているようであるしな」

 言うや否やアスタロトは何処からともなく出現させた大剣を一振り。
 すると大気が軋むように震え、その破壊力がどれほどのものか想像させるには十分だった。

「相変わらず血の気が多いね君は。流石は男女両方いけるだけのことはある。
 やっぱり“大いなる色欲”は君の方が相応しいんじゃない? 
 どこにいるかも分からない、自ら望んで堕天なんてしたあの物好きよりさあ」
「……事実だが、それは妾の戦好きと関係ないのではないか」
「僕には理解できない趣味だからね。僕は厭くまで男装してた方が荒っぽいのが多い同朋を御し易いからしてただけ。
 百合百合しいのとか、君と同類と見るのとかほんと勘弁してほしい」

 真顔で言うほど、本気で嫌なのだろう。

「誰も主に手を出す気はない。パイモン、此方は……止めておこう。間違いなくつまらんだろうからな」
「おやおや、ひどいですね。こう見えて女性の扱いは中々のものなんですよ」
「そういえば此方、くくっ。二度目の反逆の理由は人間の女との駆け落ちであったな」
「……ええ、まあ。若気の到りというやつですね。いや、あのころは私も若輩でしたから」

 本当は今でもあの時の感情を引き摺っているのだが、と内心で思いつつ言葉にはしない。
 ビヨンデッタにはその辺り、見透かされている気がしないでもないが、何も言わなかった。
 パイモンはこほんと一度咳払いをすると、話題を変えるために改めて口を開く。

「しかし大公殿、宜しかったのですか。此度の戦に参加すれば、自由気ままな生き方とは無縁になりますが」
「先ほども言ったが主命だからな。それに、陛下不在の今、すぐに動くわけではないのだろう」
「ええ、五十年ほどは身を隠しながら、まずは戦力を集めようかと。侵攻を開始するのはその後ですね」
「なるほど、国家としての強さを手にするには妥当なところだな。
 ……だが先ほどの陛下の件――本当に実行するつもりなのか?」
 
 アスタロトの心配するような物言いに、パイモンは苦笑する。
 ふと隣に目を向ければ、ビヨンデッタの端正な顔に浮かぶ道化じみた笑みが、口の端を鋭く釣り上げたものに変わっていた。
 どうやらこちらは、パイモンの抱いた感想とは聊か違うらしい。

「僕らがせずとも、別の誰かが実行する。何しろ彼を邪魔に思っている光側の者は多いんだから。
 むしろ彼が復活して数百年、何も起きなかったことの方が奇跡だよ。まして忌々しい現神が方針を変えたとあれば……」
「闇側もですね。ラーシェナさんなどは、光に組する愚か者と咎めていましたし。
 ――尤も彼女はあの方がサタネル様とは知りませんが。
 あとは……そうですね。もう一人ほど心当たりがあります」
「なるほどね。もう一人(・・・・)か」
「ええ、もう一人です。あの者ならば、狙っても何らおかしくはないでしょう」

 此方等だけで納得していないで、自分にも分かるように説明しろと迫るアスタロト。
 そんな彼女を、パイモンとビヨンデッタはクスクスと笑いながら無視する。

「まあ、何にしても軍勢を集めないと。皇帝不在であっても、最悪僕が新たな皇帝になるだけのこと。
 確か、そういう契約だったよね」
「ええ、その時は自由にされて構いません。私が引き連れてきた軍勢も、私以外は協力するでしょう」
「んー、本当は君の力も欲しいんだが……でもなら、何としても取り戻さないとね、我らが“陛下”を。
 まあ、そんな心配も杞憂になりそうな予感がするんだけどねえ……」

 ビヨンデッタの予言じみた言葉に、パイモンは頷く。
 思う三つの事象は全て、真にその通りだと自身の手で確かめたこと。

 ――だが。

 例え女神アイドスがルシファーとの間にどれほど強い絆を持っていても――。
 ルシファーの盟友である神殺しがいかに抑止の役割を担っていても――。
 そしてルシファーが、どんなに志操堅固であっても――。

 それは古神サタネル、いや……。
 黒翼公ルシファーが――熾天魔王ルシファーとならない理由にはならない。

 そこでパイモンは、姿が見えないもう一柱の魔神のことを思い出した。
 ビヨンデッタによって救出されたはずの、ゼフィラのことである。

「ああ、アレならまだ治療中だよ。当分使えそうもないね。
 セリカは確かに脅威というほどじゃないけど、力を貸している女神の業は少々厄介だ。
 同じ“神”である僕ならまだしも、一介の魔神が“神罰の炎”を受けたのだから、そうそう万全な状態に戻るわけがない」
「そうでしたか。……私はてっきり核を改造でもしているのかと」
「……君は僕を外道にしたいのかな。
 いくら僕でも同族にそんな、人間のような真似はしないさ」

 瞳を険しくするビヨンデッタの様子に、どうやら逆鱗に触れたようだと察する。
 人間が関わることとなると、彼女は我を忘れてしまう。
 逆に言えば、それだけ人間への恨み――望まずに悪魔とされた憎悪は強いのだろう。
 それはこれから自分たちが成さんとすることの前では心強いが、パイモンが望む王の姿ではない。
 ともあれ、当面の主は彼女。仕えるからには全力を尽くす彼は、ただただ自分の性に苦笑するのだった。





 暗雲低迷とはまさにこのような状況をいうのだろう。
 上から大きな力で抑え付けられているかのような、圧倒的な重圧。
 魔神たる私の魔力は抑制され、いつかと同等……いやそれ以上に落ちている。
 以前はそれでも下級魔神程度はあったものが、今は神官騎士どまりだ。

 視界に広がっていた光景もまた、一変していた。

 荒れ果てた大地の広がる山間部は、一転して石造りの神殿へ。
 ただ、神を奉る役割とはほど遠い、禍々しい気配が周囲に満ちている。
 それは懐かしくもあり、忌々しくもある感覚。

 ああ、ここは神の処刑場――“狭間の宮殿”と同じだ。

「……随分なところに……っ……墜ちて……しまった……ようだな」
「ラーシェナ、これはお前の仕業か?」
「馬鹿を……言え。誰が……自分までも……力を無くす……う、くっ……場所に……!」
「……だろうな」

 ひび割れた白亜の床に倒れ伏す彼女を見れば、これが想定外の事態であることは明白だ。
 古の戦でついた数多の傷――戦化粧を華と添えられた凛々しい甲冑は砕け、口の端から真紅の血を流す様は満身創痍。
 己の身を犠牲にしてまで私を倒さんとしていた者が、こんな策を弄するはずもない。

『どうやら……異界に迷い込んでしまったようね』
『そのようだな。……しかし……さて、どうしたものか』

 アイドスの心話に言い淀んだ私の心中は暗澹たるものだった。
 異界に転移してしまったことへの困惑も当然ある。
 如何にこの身が魔神とはいえ、突如としてこのような事態になれば、相応に思うところはあった。
 だが努めて冷静に現状を分析すれば、それ以上に困惑を煽る事態が浮かび上がってきた。
 それは異界に迷い込んだのは私やアイドス、エクリアたちだけではなく、
 ラーシェナが率いてきた魔物たちも含まれていたことだ。
 つまりこれは、私たちを狙った何らかの魔術の発動などではなく、偶発的に起こった自然現象の可能性もあることになる。
 ……となれば、だ。果たして私たちがここから脱出する術はあるのかどうか。
 常套の手法ならば、空間の裂け目を探せば良いのだが、さて……。

「……ラーシェナ、ここはひとまず休戦としないか。
 正直、状況が分からず困惑している。お前もその状態ではもう戦えないだろう」
「……断る。……我を、殺せ」

 ここにきて彼女は未だそんなことを言う。
 だがそれでは困る。勝負が決した今、これ以上の血を神剣に浴びせるなど私にはできない。
 それに一度“ラーシェナは殺さない”と決めた以上、それを覆す気は無い。

 ふと周囲に目を向ければ、どうやらラーシェナの盟友らには迷いが生じているようだ。
 副官と呼んで差し支えないだろう、獣の王カファルーもディアーネとの交戦を一時停止している。
 他方、ディアーネの方は些か不服そうだが、流石に“獣以下の理性”ではないらしい。

「そんなに死にたいなら、勝手に自害しろ。お前の意思までは止めはしない」
「貴様は……っ……そういう……やつだった、な」

 何かに気づいたように目を見開いたラーシェナは、自嘲とも諦観とも取れる微笑を顔に浮かべたかと思うと、
 中程から折れてしまった刀を杖代わりに、ゆっくりと立ち上がった。
 それから瞑想するように目を閉じ――自らにかかっていた何らかの術式を破棄した。
 中空に浮かび上がった円に五芒星の魔法陣。
 おそらくは砕け散った今のが、生命力を犠牲に自己強化を行う禁呪の術式だったのだろう。
 その瞳の輝きから察するに、どうやら彼女の中で何か変わったようだ。

「ふぅ……。ふふ……我が主の名ばかりか、我が技まで盗みおって。
 いっそここまでやられると清々しいな」

 息を整えた彼女に先ほどまでの焦燥はそれほどなく、言葉もはっきりしている。
 しかし禁呪の代償は大きいのか、額から流れる汗の量は多い。
 目に見えないところに反動がいっているのかもしれない。

「休戦の申し出、今は受け入れよう。
 だが我は貴様を許したわけではない。そのこと努忘れるな」
「それで構わない。この場で無益な血を流すよりはいい。
 ……それに、お前との戦いは中々愉しくもあるからな」
「認めよう。それは我も同じだ。貴様が憎いはずなのに、代価を払ってまでその命を奪おうとしたのに、
 悔しいかな、貴様との闘争を嬉しく、もっと続けたいと思っている自分がいる。
 全く、我ながら度し難い。……だがそれでも貴様と馴れ合う気はないぞ」
「私としてはお前が欲しいのだがな」
「ふふ、考えておいてだけはやる。だが理念無き今の貴様では無理だな」
「そうか。確かに何をするでもない私に仕えさせ、お前の腕を腐らせるのは惜しい。
 ……ならば、尚更生き伸びろ。無為にその技、世界より消そうとするな」
「…………」

 私の最後の言葉には応えず、ラーシェナは微かに笑うと彼女の同胞らに命ずるためにこの場を離れた。
 いくら楔魔勢力の残党とはいえ、エクリアらによって倒された数を引いても大所帯。
 脱出の方法を探すにしても全て率いていくわけにもいかない。
 そこで彼女は魔神カファルーに指揮を預けた上で待機を命じ、自身は私たちに同行。
 何らかの変化があれば独自に行動するよう指示したようだった。

「ルシファー様、あの魔神の同行を許して宜しかったのですか……」
「エクリアは、何か懸念するようなことでもあるのか」

 ラーシェナの配下らに攻撃の意思が無くなったのを見て、エクリアは連接剣を腰に戻したようだった。
 だがその顔は未だ警戒の色が濃く、声音も強張っているように思う。

「いえ……ですが、先ほどから嫌な感じがするのです。
 蛇に首根を狙われているかのような悪寒が……」
「そうか……。だが今は私を信じてはくれないか」
「……分かりました。ルシファー様がそこまでおっしゃるならば」

 エクリアの指摘も何となく分かる。
 ラーシェナの同行によって起こり得る事態。
 それは特にないだろうが、この異空間に入ってからひしひしと感じるものがある。
 エクリアはそれを直感的に悪意と判断したのだろう。

 その直感は間違いではない。以前、記憶した紛れもない奴の気配だ。
 だがどの途セリカの行方を追うには先に進むしかない。
 なぜなら、ここに留まっても解決策が向こうから歩いてくるはずがないのだから。

『ルシファー様、ディアーネ共々我らは御身の内に』
『ああ、久方ぶりに召喚したというに、すまんな』
『いいえ……神の墓場の恐ろしさは、私もよく知っていますから」

 ――と、ベルフェゴル。

 ディアーネは不満そうであったが、神の墓場で魔力消費は抑えたい。
 神としての力がほぼ使えない以上、温存できるのならばしておきたいのだ。

『……ルシファー、気をつけて。この感じ、覚えがある』
『お前もか。……ならば気を引き締めて進まねばならないな』
『ええ、きっとこの感じは――』

 ――何者なのか、という具体的な名前。
 それも大方見当がつく――否、この気配を忘れるわけがない。

 ――――。

 私は指示を伝えるラーシェナを待つ間、古い記憶を思い返していた。
 自然、ぎゅっと握られる左の拳。
 或いはお前も、やつに呼び寄せられたのか――セリカ。



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