その緊急事態にいち早く対応をしたのは、他でもない織斑千冬その人だった。
「AからDブロックまでのアリーナの隔壁を閉鎖しろ! それと教員にアリーナへの突撃と生徒の避難誘導の指示を!! 生徒の避難が完了したら残りのアリーナ全隔壁を閉鎖するんだ! 奴をアリーナの外に出すことだけは許すな!!」
「は、はい!」
千冬の指示で、アリーナで起こった事態に唖然としていた人々が動き出す。
その様子を見届けながら、千冬は真耶にアリーナにいるあかり達へ通信をつなぐよう指示した。
※ ※ ※
『東堂、デュノア、篠ノ之、聞こえているか?』
「聞こえてますよ先生。で、あれはどうすれば?」
『現在教員で構成された班がそちらへ向かっている。すぐさまそこから退避しろ』
「分かりました。シャルル、箒ちゃん、聞こえてたよね? 今すぐここから……っ!?」
千冬からの通信を聞いたあかりが、シャルルと箒へ声をかけていたが、その言葉が全て言い切られる前にかつての千冬の愛機、暮桜を模したISはあかりへと切りかかってくる。
それを屈むことで回避したあかりはそのまま自身のブレードをぶつけてそのっま相手を押さえ込む。
「やっぱ予定変更! シャルルは箒ちゃん連れて早く逃げて!」
「あかりさんはどうするんですか!?」
シャルルの言葉に、あかりは時間を稼ぐとだけ答え、そのまま暮桜を模倣したISとの戦闘に入った。
その光景を見てシャルルは悩む。
果たしてこのままあかりに任せて自分達は逃げてもいいのだろうか?
しかし現在箒はシールドエネルギーが0で戦うことは愚か自身の身を守ることさえもできない状態だ。
そして自分もシールドエネルギーは少なからず消耗している。
ならばどうする事がもっとも最適な判断なのか……
悩みに悩んだシャルルはあかりに背を向け、箒に方を貸しアリーナから退避する。
その際、一度だけあかりのほうへ振り返りあかりに向かって叫んだ。
「篠ノ之さんを安全な場所まで連れて行ったらすぐ戻ってきます!!」
シャルルが下した決断。
それはすばやく箒を安全な場所へ送り届け、すぐさま自分が戻ってくると言うものだ。
その間、あかりは一人で戦う羽目になるが、ドイツ軍のエースであるラウラと互角に戦っていたのなら少なくとも自分が戻ってくるまでの時間は耐えれるはず。
そう判断し、シャルルは箒とともにアリーナのフィールドから退避した。
それを横目で見送ったあかりは、再び目の前のISへ意識を集中させる。
そのISは姿はもちろん、構えから重心の取り方にいたるまでが千冬とほぼ同じだった。
何がどう作用した結果このような状態になったのかはあかりには分からないが、少なくとも今の相手は並大抵ではないということは分かる。
そんな事を考えながら、しかしあかりは……
「…………」
笑っていた。
それも今まで誰も見たことがないような、おおよそ誰もがあかりに抱いている印象には似つかわしくない、獰猛な笑み。
いったい何をそこまで喜んでいるのだろうか。
なぜこのような状況で笑っていられるのだろうか。
それは当人のみが知ることだ。
二人は地面に足を突いたまま、すり足ですこしずつ相手に近づいていく。
そして二人がすり足一歩で相手を己の間合いに入れることができる距離まで近づいた時だった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
上空から聞こえる叫び。
そして空から模倣ISに何者かが突撃して行った。
その攻撃はよけられたが、しかし突如乱入してきたその人物は、そんなことお構いなしだと言わんばかりにがむしゃらに向かっていく。
「い、一夏っ!?」
乱入者の正体は一夏だった。
あかりの驚きの声も聞こえていないのか、一夏は先ほどから模倣ISに突撃を繰り返している。
しかし、素人が見ても考えなしの突撃だ。
千冬の力を模倣しているであろうそのISが迎撃できないはずがなかった。
一夏の大振りの一撃を体をそらすことで回避し、仕返しとばかりに一夏の体に手に持った刃での一撃を加えた。
その一撃によりあかりのいる地点まで吹き飛ばされる一夏。
地面に倒れこんだ一夏は、それでも震える足に鞭をうち立ち上がる。
「一夏! 何やってるんだ!?」
「あかり兄、今だけはあかり兄の言うことだろうが先生の言うことだろうが聞けねぇんだ。あれをあのままになんか出来ない!」
立ち上がった一夏はあかりの静止も跳ね除け、雪片弐型を模倣ISへと向けた。
「あかり兄なら分かるだろ? あれは千冬姉だ。千冬姉がどんな思いで手に入れた力なのかも理解しないで、ただ千冬姉の力だけをマネした物だ。そんなの使って暴れるなんて……千冬姉への冒涜だろ!? 俺はそれを許しちゃおけねぇ!!」
一夏の怒りに答えるように、白式が零落白夜を発動させる。
あたれば必殺の一撃、しかし裏を返せば当たらなければかすり傷一つすら与えられない。
一夏の攻撃は全て相手の刃に遮られ、むしろ白式が次々に攻撃を受けていく。
そして、その時がやってきた。
雪片弐型に宿っていた光が消え、それどころか雪片弐型そのものが消え去っていた。
まさかと思い一夏が視界の隅に表示されるシールドネルギーの残量を確認する。
その残量はわずか10。
一夏は自分が置かれている現状にもっとも即した言葉を頭の中から引っ張り出した。
(具現維持限界!?)
以前の授業で習った言葉だ。
ISを稼動させるために必要なエネルギーを下回った状態のことを指し、この状態になった場合、絶対防御を除くISの武装、機能が一切使用不可能となる。
所謂エネルギー切れの状態だ。
しかし、このタイミングで具現維持限界が訪れたことに一夏は疑問を覚える。
確かに自分は考えなしに突撃していたが、零落白夜は先ほど発動したばかりであり、相手からの攻撃もエネルギーがここまで減るほど受けてはいないはずだった。
これではまるで自分が零落白夜を食らったかのよう……
そこまで考え、一夏はようやく気づく。
相手は何を模倣した?
模倣したのは千冬のかつての愛機、暮桜だ。
その暮桜はどんな武装を持っていた?
それは白式が持つ雪片弐型の大本となった……
一夏がそこまでたどり着いた思考から意識をはずすと、そこには自身に向かってくる。白刃の煌き。
それはまっすぐに自身の首を狙っていることに一夏は気づいていたが、対処のしようがなかった。
この距離では回避などできるはずもなく、具現維持限界で大幅に防御性能が下がっている白式ではこの攻撃を受けることすらできない。
最後の砦として絶対防御があるにはあるのだが、絶対と付いてはいるが極端に威力が強い攻撃は絶対防御を貫通してしまうと言うことは授業で習っている。
つまり、一歩間違った方向に運命が転がれば、自分は……死ぬ。
一夏はまるで幻を見ているかのような目つきで自らに向かってくる刃を見つめていた。
そして、その刃が一夏の首に……
「一夏っ!」
「っ!?」
誰かの声とともに、一夏の視界が急速に移動する。そして先ほどまで自分の首を狙っていた刃はほんの一瞬前まで自分がいた地点の空を切り裂いていた。
それを成したのは一夏を小脇に抱えたあかり。
「あ、あかり兄……?」
「何を呆然としてたのさ!? 間に合わなかったらどうなってたことか!!」
あかりの声でようやく意識がはっきりとしてきた一夏。
恐らく、あかりが空打を用いて首の皮一枚といったタイミングで一夏の救出に成功したのだろう。
目の前から目標がいなくなり、しばらく動きを止めていた模倣ISだったが、ようやくあかりにより救出されたと言うことを理解したのか、感情が宿らぬ顔をあかり達の方へ向ける。
そのままあかり達へと一歩近づき、しかしつま先が小さく破裂したことによりその歩みは止まった。
「すみません! 遅くなりました!!」
模倣ISの動きを止めたの箒を安全な場所場で送り届けたシャルルだった。
そのままシャルルは両手に呼び出したヴェントの引き金を引き続け、銃口から吐き出す鉛弾で模倣ISの動きを止めながらあかり達の下へと移動してきた。
「あかりさん、一夏大丈夫!?」
「僕は平気、一夏もなんとか無事だよ」
「あぁ、そういえば一夏、この件が片付いたら後で寮長室に来いだって。カンカンだったよ、織斑先生」
「う……確かに無断で出てきちまったりしてるし……あぁ、何個減らされるんだろ、俺の脳細胞」
「自業自得だよ」
この一瞬だけは、先ほどまでの殺伐とした空気は鳴りを潜め、まるで日常のような穏やかな空気が流れる。
しかしそれも一瞬のこと。
しばらく笑いあう三人だったが、ひとしきり笑いあった後はあかりとシャルルが一夏を背中にかばうように立った。
「それじゃ、このまま僕らは一夏が避難するまで暴れまわる?」
「そうですね。どちらかと言えば圧倒的火力をぶつけるのは得意ですし」
一夏を背中にかばいながらあかりとシャルルがこれからの行動について相談する。
しかし、一夏はそんな二人を押しのけて前に出る。
「一夏? 何を……」
「ごめん、でもこれたぶん千冬姉の弟の俺がケリつけなきゃなんない事だとおもうんだ」
そう言いながら、一夏はまっすぐ敵を見据える。
あかりもその気持ちは理解はできるのだが、いかんせん今の一夏は戦える状態ではない。
何せ今の白式は具現維持限界に達しており、かろうじて装甲を纏ってはいるが、それどまりだ。
そしてその装甲もいつ消えるか分からない。
もちろん武装も出せない状態だ。
「一夏、気持ちは分かる。でも戦えないなら下がってるんだ」
「だけど……」
もちろんあかりの言葉が正論であり、従うべきは当然あかりの言葉だ。
しかし、一夏はその場を動かない。
それは一夏の意地だ。
自分の姉の力だけを真似た奴を許しちゃ置けないと言う一夏の我侭。
「けど何度も言うけどエネルギーが……」
「エネルギーさえあれば大丈夫なんですよね?」
その我侭にあかりが困っていると、今まで黙っていたシャルルが口を開く。
しかし、シャルルの言っていることはもっともだが、この場でエネルギーを補給する術などない。
「エネルギーだったら大丈夫。僕のリヴァイブにはコアバイパスがあるから、補給は無理でものエネルギーを白式に移すことなら……」
そう言うとシャルルは装甲の一部を開き、そこからコードを取り出す。
そして取り出したコードを白式に接続した。
「僕も確かにあかりさんの言うとおりにした方がいいとは思うんだ。けど、一夏のこれだけは譲れないって言う気持ちも分かる気がする……一夏も男の子だもんね」
コードからリヴァイブのエネルギーが譲渡され、白式はエネルギーを回復させる。
しかし、回復したとはいえエネルギー量は完全回復には程遠い程度の量しかない。
「ごめんね、リヴァイブも結構消耗しちゃってたから、その位しか譲渡できなかったよ。これ以上あげちゃうと僕も自分を守れないから。でも、たぶん零落白夜を一回使えるくらいはあげれたと思う」
「サンキュ、シャルル。これだけありゃお釣りが来るぜ」
エネルギーを譲渡され、ある程度白式のエネルギーが回復した事を確認した一夏は再び雪片弐型を呼び出す。
そして雪片弐型のブレード部分が展開し、もとあった実体ブレードの代わりと言わんばかりにエネルギーのブレードが現れる。
「…………」
雪片弐型を正眼に構え、一夏は目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。
そして深呼吸をきっちり二回行った後、一夏はその目を見開いた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
雪片弐型を握ったまま模倣ISへと駆け出す。
それを相手が黙って見ているはずも無く、手にした刃を振り上げる。
しかし、一夏にはその動作が遅く見えていた。
それは不思議な感覚。
意識が加速し、どのような攻撃にも対処できると確信できるほどの万能感。
だから自分に向かって振り下ろされる刃を己の刃で切り払い、そうしてがら空きになった胴体に逆に刃を振り下ろすこともいとも簡単に行うことができた。
胴体を縦一文字に切り裂かれた模倣ISは、その切り口から黒い泥状の物と一緒にラウラを吐き出す。
その様子を見てまるで血が噴き出してるみたいだと感じた一夏は顔を若干しかめながらも、しかし一緒に吐き出されているラウラを受け止めようとして……
「……るな……!」
「へ?」
「私に……触るな!!」
今まさに地面に倒れこもうとしていたラウラの叫びの直後に襲い掛かってきた衝撃にふきとばされた。
「一夏!?」
「ってぇ……! いったい何が……」
あかり達がいる場所まで吹き飛ばされた一夏は、痛みに顔をしかめながらも顔を上げ何が起こったのかを見る。
視界に映ったものは、まるでビデオの巻き戻しを見ているかのような光景だった。
吐き出されていた黒い泥状の物が模倣ISの切り口へと戻っていき、それに伴いラウラの体も再び模倣ISの中へと飲み込まれていく。
そして全てを体のうちに収めた模倣ISは胴体にできた切り口さえもふさぎ、まるで何事も無かったといわんばかりにそこに立っていた。
「マジかよ……」
そして逆に白式は完全に限界を迎えていた。
元より少ないエネルギーだった状態で零落白夜を使い、エネルギーはもはや枯渇寸前。
そしてとどめとなったのが先ほどの衝撃だ。
これにより白式のエネルギーは完全にゼロとなり、もはや装甲を展開することすら不可能な状態となってしまった。
「くそっ! こんな事って……!」
一夏はその状況に歯噛みする。
シャルルにエネルギーを分けてもらってまでやったのにこの結果だ。
これで決着が付いたならそれでよかった。
しかし結果はどうだ?
相手はまるで何事も無かったかのようにああやって立っており、こちらはこうして戦闘不能状態。
おまけにシャルルも自分の身を守ることも危ういと言うエネルギーの状態だ。
自分が我侭を言わなければシャルルをこんな危険な目にあわせなくてすんだだろうにといまさら冷静になった頭で後悔する。
そして……
「一夏、シャルルと一緒に下がって。あとは僕がやる」
「あかり兄……」
こうして、結局あかりに迷惑を駆けることもなかっただろうにとも後悔する。
しかし、後悔は先に立たず、覆水が盆にかえらぬように一度迎えた結末をやり直すことなど出来やしない。
己の失態に打ちひしがれる一夏を、しかしあかりは叱りはせず、ただ笑顔でこう言った。
「後は僕がやるから……今だけは一夏のその怒り、僕に預けてくれるかな?」
−−−僕が、一夏の分もたたきつけてくるから。
その言葉に、一夏はうつむかせていた顔を上げる。
あかりは、相変わらずの笑顔。
その笑顔が頼もしい。
「……あぁ、頼む……あかり兄」
だから一夏はあかりに託す。
一夏の思いを受け取ったあかりは自ら模倣ISへと向かってった。
その背中を見送る一夏はポツリと呟いた。
「やっぱ……もっと強くなりてぇなぁ……」
少なくとも、あかりに迷惑をかけない程度の強さは欲しかった。
※ ※ ※
一夏に見送られたあかりは、しかしその表情を曇らせる。
先ほどはああいったが、実際あかりのエネルギーもそれほど潤沢に残っているわけではない。
それでも、あの場でまともに戦えるほどエネルギーを残していたのもまたあかりのみ。
故に、あかりは前へ出る。
その右手にブレードをしっかりと握り、ただ前へと。
そしてある程度相手に近づいたところで、あかりは止まる。
それは一夏が乱入してくる直前に取っていた間合いと同じ。
あと一歩で互いの間合いと言う距離だった。
あかりは考える。
のこりのエネルギーは少ない。ならば確実な一撃で終わらせる。
その為に、自分はどのように動けばいいか……
それはほぼ一瞬の思考。
次の瞬間にはあかりは自ら一歩踏み出した。
一拍遅れて動き出す模倣IS。
しかし、その一拍もすぐさま埋められる。
まるで人体の限界を無視したかのような動き。
人体への負担を一切考えていない、そんな動きで一拍は埋められた。
そんな相手の構えは刺突の構え。
線での攻撃でなく、点での攻撃。
その点の攻撃に対し、あかりは迷わず左腕を差し出す。
まっすぐ左腕に向かってくる刃は一瞬何かに止められたかのようにその動きを止め、しかしすぐさま動き出し刃鉄の装甲へと突き刺さる。
「っ!? あかりさん!?」
「あかり兄!?」
そしてどの程度にとどまらず、なんとあかりの左腕を貫通してしまった。
あかりの血にぬれたのか、腕を貫通している刃は赤い液体に染まっている。
しかし、刃はあかりの目の前で止まっている。
そして普通であれば痛みにもだえているであろうあかりの顔の浮かんでいるのは、苦悶の表情ではなく、笑み。
「捕まえた!」
その言葉に感応したのか、模倣ISがすぐさま刃をあかりの腕から抜こうとするが、装甲を突き破った際に砕かれた装甲がうまい具合にかみ合って刃を固定してしまっている。
一瞬の後、ならばもっと突き刺そうと力を込めるが、既に遅い。
あかりが振り上げた右腕は、既に振り下ろされており、その手に握られたブレードは相手の胴体を切り裂いていた。
先ほどと同じように縦一文字に切り裂かれた模倣ISは、その傷口からラウラと泥を吐き出す。
それを見たあかりはすぐさま右腕のブレードを投げ捨て、倒れこもうとしているラウラの首根っこを引っつかみ、模倣ISから引っぺがした。
ラウラと言う一応の操縦者を失ったせいか、模倣ISは先ほどのように再生はせず、そのまま泥のように崩れ落ちていく。
その際、あかりの腕に刺さっていたブレードも泥のようになってしまったため、ふさがっていた傷口が開きそこから大量の出血が始まる。
その傷を見ながら、あかりは自分の考えがうまくいったことに安堵のため息をついた。
確実に一撃で終わらせるには相手の動きを止めなければならない。
ならばとめるためにはどうするか?
そこであかりが考えついたのが『自分の腕を犠牲にして相手を捕まえる』と言うものだ。
傍から見れば狂気の沙汰でしかないが、少なくともあの時点ではそれがベストだとあかりは判断した。
何せ刃鉄は近接武装一つしかなく、動きを止めれそうな武装など持ち合わせておらず、なおかつ現状は一人で戦っているため誰かに動きを止めることを頼むことすらできなかったのだ。
もっとも、その考えにも問題があり、まず絶対防御をどうするかと言う物があった。
しかし、それは以前の授業で絶対防御にも限界があり、その限界を超えた攻撃は本体へとダメージを貫通させられると言うものがあった事を思い出したあかりは、もしかしたらと言う思いでその行動をとった。
結果、その試みはうまくいき、相手の攻撃は絶対防御を見事貫通。
砕かれた装甲がうまくかみ合って刃を固定していたのはさすがにうれしい誤算であったが、こうして一撃の下なんとかISをとめることができた。
要するに分の悪い賭けだったのだ。
あかりは右腕でラウラを抱きとめながら、自分のほうへ駆け寄ってくる一夏とシャルルを見てふと思った。
「今回は僕も千冬のお説教かな?」
近い未来、自分が一夏と共に、千冬に床に正座させられている場面を想像しながら、あかりは情けなく笑った。
※ ※ ※
そんなあかり達の様子を見つめる者がいた。
その人物がいるのはアリーナの遥か上空。
IS学園の警戒網よりも遥かに上空にいるその人物は、誰にもその存在を悟られること無くアリーナの様子を見下ろしていた。
「……やはりやられたか」
その上空にいる人物が口を開く。
声からしてまだ10代半ばかそれより少し下の少女の声。
そしてその少女が纏っているのは、まるでセシリアのブルー・ティアーズのカラーリングを変更したかのようなIS。
少女の顔はバイザーによって隠されており、その表情を悟りにくくしている。
少女はしばらくアリーナを見下ろした後、顔を上げ、虚空に話しかけ始める。
「私だ。あぁ、予想通りにやられたぞ。所詮木偶人形、かなうはずが無いだろうと言っていたはずだがな」
恐らく通信をしているのだろう。
しばらく無言になり、通信先の相手の言葉を聞いていた少女は再び口を開いた。
「だが喜べばいいじゃないか。これであの邪魔者共を追い出せる格好の理由ができただろう。……あぁ、確かにお前達も気に食わないが、奴らはうるさいだけでさらに気に食わないからな、珍しい意見の一致と言う奴だ」
それからしばらく通信先の相手とやり取りをした少女は通信を切り、その場から移動し始める。
その際、一緒んちらりとアリーナを見下ろす。
そしてそんな彼女が司会の中心に納めたのは、一夏やシャルルに詰め寄られている男……あかりだった。
「東堂あかり……か。ははっ、やつを奪ってやったら、いったいどんな表情をするんだろうなぁ」
なぁ、『ねえさん』?
あとがき
ようやくこの作品の黒幕サイドをちらりとですが出せました。
次あたりでタッグトーナメント編も終わらせたいと思います。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m