俺、ジノ、アーニャの3人は直属の上司となったエニアグラム卿に連れられて、対EU方面軍の前線基地へとやってきた。
ラウンズがやってきたということで、周りの軍人達の目も自然とそちらに集まる。
ある者畏敬の念をこめた目で、またある者は何時かその地位を奪わんというぎらついた目で。
そんなエニアグラム卿に視線が集まるからだろう、その後ろにつき従う俺たち3人の姿も彼らの目に留まり、そんな俺たちを写す瞳は、何故こんな子供がと言う疑念の色に染まっていた。
そんな視線などお構いなしに進むエニアグラム卿についていき、俺たちはこの小隊専用に与えられた一室に通された。
「今日からここがお前達の生活スペースだ、アーニャには悪いが右の部屋を一人で使ってくれ」
エニアグラム卿が指差す方向には、ドアが二つ。
そのうちの一つをアーニャ、もう一つの部屋を俺とジノで使えと言うことだろう。
入ったばかりの新兵に個室など与えられるはずもなく、たいていは大部屋に押し込められる。
それを考えたら、俺たちは本当に優遇されていると言うことがわかる。
「襲われそうになったら物を噛み切ってやれ」
エニアグラム卿は笑いながらそう言うが、その状況を想像すると背筋が凍るように寒くなった。
隣りのジノも同じことを考えたようで、顔を真っ青にしながら苦笑いしている。
部屋を出た俺たちはエニアグラム卿に連れられて、この基地の各部署へと挨拶に回った。
回る先々で、本当にこんな子供を戦場に出して大丈夫なのかと言う視線を浴びまくったが、俺たち3人はそんなものは当初からわかりきっていたので気にしなかったが・・・
最後の部署を回りきると、さすがに緊張の糸が切れ、俺たち三人も廊下で一息つく。
それを見ていたエニアグラム卿も俺たち一人一人を労ってくれる。
「お前達、ご苦労だったな。私もこう言う堅苦しいのは嫌いなんだが、軍と言うものに所属している以上これは我慢するしかない。それではお前達に今日最後の任務を伝える」
その言葉に、だらけていた俺たちも慌てて姿勢を正す。
「格納庫にお前達が登場する予定のKMFが搬入されている。各自その機体をしっかりと自分ように調整しておくように」
その言葉に、俺たちの疲れきった表情は途端に明るくなる。
それもそうだろう、俺たちは学生だったので自分専用のKMFなど持っていなかった。
当然訓練用のKMFは自分用には調整できないので、ようやく自分が好きなように機体をいじれる事になる。
それじゃあ行って来い、そう言うとエニアグラム卿は俺たちと別れ、何処かへ歩いていった。
俺たちも待ちに待った自分だけのKMFが与えられるということで、テンションは急上昇。
格納庫へ向かう足もおのずと速くなる。
「ジノとアーニャはどんな風に機体を調整するんだ?」
俺は隣りを歩く2人にそう尋ねる。
「俺は高機動戦を意識して少し装甲を削って機体を軽くするぜ、あとランスを装備させるかな。アーニャは?」
「少し機体が重くなっても装甲を厚くして、銃火器類を多く装備する」
二人とも自分の戦闘スタイルに合った機体に改造して行くようだ。
「アーニャは俺とジノへの援護で普通以上に銃弾を消費してしまうからな、いつも苦労かけて悪いな」
俺は気苦労をかけているとアーニャに謝るが、アーニャは首を横に振る。
「いい、そのほうが早く戦闘が終わるから。レイはどうするの?」
「俺も装甲を軽くすることと、近接向きの武器があれば装備させたいな。ファクトスフィアの性能を少し上げてもらいたいんだけど、それは無理かなぁ?」
俺がそう答えると、ジノは不思議そうに尋ね返してくる。
「レイ、近接向きの武器はランスじゃダメなのか? レイはランスの扱い上手かったじゃないか」
「俺は剣とかを使いたいな。ランスはジノも装備するし、2人ともランスで直進的な攻撃をするより、俺が剣を使うことで相手をかく乱させる事ができて攻撃がやりやすくなると思うんだ」
ジノは一撃離脱型、どちらかというと俺はインファイト型、訓練ではランスを良く使っていたが、生前の好きな機体がアルトアイゼンや、R−1という格闘主体のものばかり。
そちらに対する憧れが大きいが、現状KMFの格闘武器はスタントンファー一つだけ、あまりにも心もとない。
だから武器を使うという選択肢になる。
そうすると、チームとして動く以上効率という物を重視し、ジノとは違った武器を持ちたくなるというわけだ。
「なるほど、確かにそのほうが相手もやりづらくなるな」
納得した様子のジノだが、今度はそれを横で聞いていたアーニャが俺に尋ねてくる。
「ファクトスフィアの方はどうして?」
「アーニャは俺たちの援護と自分の事できついだろうし、俺が周りの情報を確認しながら戦えば、2人に指示も出しやすくなるからね。だから少しでも性能を上げたいんだけど・・・さすがに今以上の物は技術部が製作中だろうし、今ので我慢するしかないよな」
俺がそう悲観に暮れていると、何処から現れたのだろう。
白い白衣を身に纏った男性が俺達の会話に参加してくる。
「なかなか面白い話をしてるねぇ〜、ボクも混ぜてくれるかい?」
「え〜と、あなたは?」
ジノがその人に名前を尋ねるが、その姿を見て俺はその人物が誰であるかすぐに気付いた。
特徴のある喋り方に、いかにも研究者という風貌のこの男性、この人も原作に登場にしている人だ。
「ああ、ボクはロイド・アスプルンド、KMFや武器の開発を担当してる技術者だよ。今はここでKMFの新しい武器の運用試験をしてもらうためにお願いに来てたんだけどね、「実戦に使えるかわからん武器など使えるか!」って言われてね、困っていたんだよ」
"ロイド・アスプルンド"
特別派遣嚮導技術部、通称特派の主任を務める技術者で、ランスロットといった新型のKMFやフロートシステムといった最新KMF用技術を開発した天才博士。
また見た目からは想像できないが、ブリタニア帝国の伯爵である。
「あなたの事はわかりましたけど、何で俺たちの話を?」
言ったら悪いが、突然人の会話に割り込んでくるのはどう考えてもマナー違反。
だから今のようにジノとアーニャに怪しい目で見られているのだ。
だが、そんな視線など何処吹く風、と言わんばかりにロイドさんは答える。
「キミたちあれでしょ、士官学校から特別に戦場に送られてきたって言う、とても優秀な3人組でしょ。この基地でもすごく噂になっているよ。それでボクも君たちが見たくなって、見に来たら興味深い話をしてたからね、少し声をかけたんだ」
にたにた笑いながら、そう話すロイドさんは実に怪しい。
ここが軍の基地の中でなければ、警察に通報される可能性もあるぞ。
まぁ、この人は本当にそんな事を気にしない人みたいなので、俺も気にしないことにしておくが。
「興味深い? 何がですか?」
「うん、キミは剣を装備したいといっていたよね〜。ちょうどボクが今回開発したのが君の希望する剣なんだよ。それでキミに実際使ってもらってテストしてもらえないかなと思ったんだけどね、とりあえず見るだけでも見てくれないかな?」
そう言いながらしっかりと俺を連れて行く気満々のこの男、しっかりと俺の服を掴んでいる。
「まあ見るだけならかまいませんが、先に機体の調整もやらないといけないので、行くのは遅くなると思いますよ?」
求めていたものがあるのなら、これはわたりに船と言うものだ。
別に断る理由もないだろう。
「それなら僕が手伝ってあげるよ、キミの機体をボクのラボに持ってくるといい。よし、運ぶように指示は出しておくから、早速行こうか〜」
強引に連れて行こうとするロイドさんに、ジノやアーニャの制止の声は聞こえず、俺はロイドさんのラボへと連れて行かれた。
「ここがボクのラボだよ〜」
ロイドさんに連れられ5分ほど歩くと、どうやら到着したらしくそう紹介された。
ロイドさんとともに中に入ると、戻ってきたロイドさんに気づいたのか、一人の女性が近づいてくる。
「ロイドさん運用試験の件はどうなりましたか? やっぱりダメでしたか?」
どうやら俺の存在に気づいていないらしく、ロイドさんの方しか向いていない。
「セシル君、軍の方はダメだったけど、使ってくれそうな人は見つけてきたよ。例の学生の1人が見るだけならと言ってついてきてくれたんだ」
そこでようやく俺に気づいた女の人、セシルさんがこちらの方に向く。
「あぁ、あなたがあの噂の。私はセシル・クルーミーです。この研究室の副主任をしています。よろしくね。ここでは軍の規律は忘れて、話しやすいように話してくれればいいわよ」
"セシル・クルーミー"
特別派遣嚮導技術部、通称特派でロイドの補佐を務める女性で、自身も優秀な技術者であり、フロートユニット・エナジーウイングの考案者である。
特派の主任はロイドであるが、ロイド自身がいい加減なため、特派を実際に取り仕切っているのは彼女である。
料理好きのようでよく料理を作っていたが、本人は味音痴のためなんとも言えない料理を作り出しては、他人に振舞っていた。
「わかりました、俺はレイス・リンテンドです。本日付でこの基地に配属されました。よろしくお願いします。ところでさっきもロイドさんが言っていたんですが、あの噂って何ですか?」
自身の知らぬところで噂されるのは気分の良いものではない。
だから尋ねて見たのだが、返ってきた答えを聞いて俺は度肝を抜かれる。
「それはね、将来はラウンズ入りが確実、というほどの腕前を持った学生が3人この基地にやってくると言うことなの、それでかなり話題になっているのよ、あなたたち」
とんでもない噂が流れているようである。
「あれ〜、ボクはもうラウンズ入りは内定で、この戦いで戦果を挙げ次第、ラウンズに入るって聞いたよ〜」
何かすごい事になっている。人から人へと伝わる間に話がドンドン捻じ曲がっている。
「何ですかその噂は、俺たちは一度も皇帝陛下と話した事もないし、戦場にも出ていないのにそんなことあるわけないじゃないですか。それに俺たちは学生の中で強かっただけで、まだ実戦も経験してませんからここにいる人たちに勝てるとは思いませんよ」
ありのままの事実を話すが、ロイドさんは俺の方を見てニタァと笑う。
「そんなに謙遜しなくてもいいよ、キミたちのデータ見せてもらったけど、キミたち3人ともエース級の腕を持っているし、ここでも勝てる人は少ないと思うよ」
ロイドさんにすごく評価されている、嬉しいのでとりあえずお礼を言っておこう。
「ありがとうございます、それでそろそろ俺に見てもらいたい剣の話をしたいのですけど、どこにあるんですか?」
「ああ、あれだよ」
そう言って見せられたのは、4mほどで結構分厚い剣があり刃が2つに割れている。
「これはメーザーバイブレーションソード、略してMVSと言うんだ。見てわかるとおり今は刃が別れているんだけど、使用時には2つに割れていた刀身が合わさり、高周波振動を起こして、鉄をも両断することができるんだよ。でも今はまだ大き過ぎて両手でしかKMFに装備する事ができないんだ、最終的にはこれを小型化して、両手に一本ずつ持てるようにすると言うのが僕の理想なんだけど、小型化するためにも運用試験がしたいんだ。協力してもらえないかな?」
MVSがすでにあるのは驚いた、まだでかいけど実戦には使えるかもしれない。
「いいですよ、使えそうな武器ですし、試してみたいという気持ちもあります。そのかわり、さっき話していたファクトスフィアの件どうにかなりませんか?」
「いいよ、実はそれも溜め込んでいたアイデアがあるんだ」
自分のコレクションを自慢する子供のように、嬉しそうな表情に変化するロイドさん。
これで何とか話がまとまったので、俺の機体調整について話し合いながらお茶を飲んでいると、俺のナイトメアがようやく届いた。
ロイドさんは俺のサザーランドを見回すと、怪しい笑顔を浮かべながら、期待の調整をはじめるのだった。
そしてそれから3日後、調整の終わった俺のサザーランドを受け取りに行くと、左腰にMVSを装備していて、鞘の先が地面についていた、そこには機体の機動性を落とさないようにランドスピナーがついている。
「普段は鞘にいれてあるから使いたい時には鞘から出して使うといいよ。でも剣がでかい分キミの機体にも負担がかかるから、あまり多様はしないほうがいいよ。ある程度のデータが取れる分には使ってもらいたいんだけどね」
ロイドさんの注意事項を聞きながら、俺は機体のチェックを進める。
どうやらロイドさんは俺の予想以上のチューンを施してくれたようで、機体が俺の動きにとてもなじんでいる。
「キミの機体はここで整備するようにエニアグラム卿と話をつけてあるから、戦場から戻ってきたら、またここに帰ってきてね」
「わかりました」
俺は二人に礼を言うと、この機体の動きを確かめるためにこの一日を費やしたのだった。
次の日、ジノとアーニャの機体も整備が終わったので、俺たちはエニアグラム卿にミーティングルームへと集められる。
「ようやくお前たちの機体が全機調整が終わったようなので、明日から早速戦場に出てもらう事になる。最初は簡単な仕事を任せるが、それに慣れたらすぐに前線に出てもらう事になるので、覚悟していて欲しい」
「「「Yes, My Lord」」」
「おまえたちに最後に一つだけ言っておく、戦場に絶対なんて事はない、私も1発銃弾を食らえば死んでしまう。だから戦場にいる間は絶対に気を抜くな」
「「「Yes, My Lord」」」
こうして俺たちは初めての戦場に立つのだった。
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