ナリタから政庁に戻ってきたブリタニア軍は帰還早々にもかかわらず、やらなければならない仕事に追われている。

今回の作戦で失われた兵士たちの正確な数の確認。

被害報告書と始末書の作成。

本国から兵を補充するための書類作りと手続き。

成田で土砂に埋められた兵たちを土砂の中から出してあげないとならないし、街の復興作業もしなければならない。

細かい事は他にも色々あるが、とにかく今はやる事がたくさんあるのだ。

そして俺はと言うと生き残った軍の一部を借りて、ナリタで復興支援の指揮を取っている。

軍の方はコーネリア総督や軍部が担当し、本来いないはずの俺にこうしてこちらの指揮を任せて少しでも早く軍を再編しようと言うことだ。

今頃会議室でクロヴィス総督時代からいた旧政庁陣に文句を述べているころだろう。

何故テロリストが使用している地下鉄道網や鉱山坑道を放置していたか?

だったっけな? ギルフォード卿が激昂しているころだろう。

日本解放戦線は壊滅状態だが片瀬、藤堂や四聖剣といった幹部は現在も確保出来ておらず、黒の騎士団が頭角を現わし戦況はむしろ悪化している。

NAC-キョウトに関する資料も手にいれられず、ゼロを追い詰める手がかりも手に入らない。

まさに八方塞で何も出来ていない旧クロヴィス派の官僚達はおそらく処分を免れないだろう。

まあ仕事も出来ない者は切り捨てられる、この国の大原則に則って処分されるのだ、彼らもきっとそれはわかっているはずだ。

まあ政庁のほうはあちらが上手くやるだろうから俺はこちらに集中しよう。

最初は俺もラモラックで手伝おうと思っていたが、ラモラックは掘削作業に向いていない。

俺も一度出て試したのだが、ラモラックはその巨体と右手のリボルビングバンカーのせいでサザーランドよりも作業に時間がかかってしまう。

馬力はサザーランドよりあるが巨体が邪魔で動きにくいし、リボルビングバンカーが邪魔で巨大な岩は運べない。

リボルビングバンカーは岩を砕くために使おうと思ったが、装填数が8発と限られているし何よりコストが高い。

レオ君に節約してくれって説得されたし、他の部隊に任せて指揮を取る事にした。

指揮を取っているとスザクがランスロットの整備のため休憩していた。

「枢木准尉、作業は進んでいるか?」

「はっ! 作業は順調に進んでいます」

突然の俺の登場にもかかわらず、敬礼しながら返事を返してくる。

「もう満足したかい、死体発掘は?」

ランスロットの方からロイドさんが近づいてきて、そうスザクに話しかける。

スザクは顔をしかめてロイドさんの方を見ている。

「ロイドさん、これも立派な任務の1つですよ」

「そうだったね、一応コーネリア総督の命令でもあるしね」

「ロイドさん、リンテンド卿、ゼロは、黒の騎士団は何をしようとしているんでしょう? こんな犠牲の上に何が出来ると思っているんでしょう?」

ロイドさんと俺にそう問いかけてくるスザク。

「そんなの正義の味方だろう、本人がそう言っているんだから」

「これが正義ですか?」

そう言ってスザクは手に持っていた空のペットボトルを握りつぶす。

「枢木准尉、正義とは見る者によって常に変わるものだ。それに我々は軍人なんだ、その事を忘れてはいけない」

軍に所属している以上軍の命令は絶対、たとえそれが自分の中で悪であったとしても・・・

悔しそうに何かを考えているスザクがふと顔を上げ、何かを発見したようだ。

そちらを見るとヴィレッタとスザクの友達、シャーリー・フェネットとその母親らしき人物が歩いている。

そう言えば彼女の父親はコードRの研究員でナリタで死んだんだったな。

彼女の父親がここで亡くなったのは幸か不幸か?

亡くなったのは確かに不幸だ、だが彼女の父親は禁止されている人体実験を行っていた違法研究者、それに主任までやっていたはずだ。

この事が世間に公表されれば彼女は犯罪者の娘、学園にもいづらくなるだろうし、世間の目も厳しくなるだろう。

研究資料は生き残った他の研究者が全て持ち去っているか処分しているだろうし、もはや彼女の父が犯罪者だと知っているのは俺とどこにいるのかわからない研究者達のみ。

俺はこの事を公表するつもりはないし、彼女に教えるつもりもない。

どちらが正しいのかはわからないがそれを知らずに生きていけるのは彼女にとって幸運なんだと思う。

「スザク君! 終わったわよ、エナジーフィラーの交換」

ランスロットの方で作業をしていたセシルさんがこちらに声をかけてくる。

スザクはもう一度シャーリーがいた場所を見てからランスロットのほうに走って行った。

俺とロイドさんもセシルさんの方に歩いていき話をする。

「調べました、純血派の機体を。それからレイス君の機体に残っていた機体映像も検証した結果」

「やっぱりあれ?」

「輻射波動です」

「まさか敵に協力するなんてね、あのラクシャータが」

「すいません、俺は知らない話のようなので説明してもらえますか?」

本当は知っているが、本来俺には知りえない情報なので説明してもらわないとわからないからな。

「ええ、ラクシャータと言うのは私とロイドさんの学生時代の知り合いなの、それで輻射波動と言うのは彼女の考え出していた技術の一つなの」

「あの右手についていたあれがそうだよ」

「ああ、触れれば爆発するやつですか」

「あれは右掌から高周波を短いサイクルで対象物に直接照射することで、膨大な熱量を発生させて爆発・膨張等を引き起こし破壊するというものなの。それに相手のパイロットもエース級ですしもしかしたら」

「僕のランスロットが負けるって言うの?」

ロイドさんは自分のランスロットが一番だと信じているのでありえないと言う顔をしている。

「可能性の問題ですね、枢木准尉もランスロットに乗ってまだ日が浅いようですし。まぁあの新型のパイロットも今回初めてあのナイトメアに乗ったようですし」

「へえ、見ただけでそんな事もわかるの、レイス君?」

本当に驚いているのか?薄ら笑いを浮かべながら俺に聞いてくるロイドさん。

「映像から見てもわかるように右手に依存しすぎですね。あれではすぐにエナジー切れを起こすでしょうし、それがわかっていないようでしたので。ロイドさんも見ればわかるでしょう、研究者なんだから?」

「それはねえ」と笑いながら言うロイドさん。

「さあ、話はここまでにして作業に戻りましょう。ロイドさんも早く終わらせればそれだけランスロットにかける時間が増えますよ」

そういうとロイドさんの顔がパァっと明るくなった。

「そうだね。さあセシル君、スザク君のサポート頑張ろう〜」

ロイドさんは見るからにルンルン気分でパソコンに向かっている。

「ハハ、じゃあセシルさんも頑張ってください。俺も指揮を取るために戻ります」

「頑張ってね、レイス君」

セシルさんにそう励まされ、俺は指揮へと戻り復興作業は進むのであった。







それからナリタでの作業は1週間ほどで終了し俺達は東京租界に戻ってきた。

それにしても部隊を率いるのは疲れるな、いちいち指示を出さないといけないし時間がかかる。

やっぱり俺は指揮官向いてないのかも、1人で戦場に出るほうが気が楽だし。

そんな事を考えながら俺は報告のために総督室へとやってきた。

「総督、失礼します」そう挨拶をしてから部屋の中に入る。

「戻ったか、リンテンド卿。ご苦労だったな」

部屋の中には書類を読んでいるコーネリア総督と何かを報告している途中のギルフォード卿がいる。

「つい先ほどこちらに戻りましたのでその報告です」

「そうか、ナリタの方はどうであった?」

ナリタの状況を聞いてくるコーネリア総督。

「ひとまず土砂に埋められたブリタニア兵と民間人の救出作業は終わりました。一部の人員を残して引き続きナリタに残して復興作業に従事させています」

「生存者と死傷者の方はどうだ?」

コーネリア総督は被害状況を確認してくる、軍でも数は把握できるがそれはあくまで軍人のみ、民間人の方はこちらの報告書待ちだ。

「正確な数は報告書に記載してありますが、民間人からもかなりの数の死傷者が出ています。救出作業で一命をとりとめたものも何名かいましたが、多くは救出した時にはもう手遅れでした」

何名かとはいっているが本当に助かったのはほんの2,3人ほどだ。

ほとんどの人は埋められている間に息を引き取り、土砂に埋まらずかろうじて怪我ですんでいた者もほとんどの人達が重傷を負っていた。

「そうか」そういって顔を下げるコーネリア殿下。

一軍を率いる者としての責任と重圧、一般人にまで被害が出てしまった事に苦しんでいるのだろう。

「コーネリア殿下、申し訳ありませんが報告を続けてもよろしいでしょうか?」

ギルフォード卿が話を変えるためにそう言った。

これが彼なりのコーネリア総督への気遣いなのだろう。

「そうだな、話を続けてくれギルフォード」

そう言うコーネリア総督の顔はいつもの顔に戻っていた。

「先日の解放戦線の片瀬の捕獲に失敗した件ですが、我が軍にまたも甚大な被害が出ています。海兵騎士団は全滅、陸上で援護していた機体も津波をかぶってスクラップになった機体も多数出ています。」

「そうか、くそっ! ゼロめ、奴さえいなければもうこのエリア11を平定し終わっていてもおかしくないのに」

ギルフォード卿の報告に忌々しい顔をしながらそう言うコーネリア総督。

そうか、解放戦線の片瀬の捕獲に失敗したのか・・・・・・ん?

「コーネリア総督、その話って何のことですか?」

「ああ、卿がナリタで復興支援をしている間に解放戦線の片瀬がタンカーで海外へ逃亡を図ったんだ」

「それを知った我々はすぐに軍を率いて確保に向かったんですが・・・・・・」

「片瀬は海で流体サクラダイトとともに自爆し、そのあとに現れたゼロによってまたも我々はいいようにやられてしまったんだ」

「我々はNACの情報もえられず、軍に被害を出してしまいました」

コーネリア総督とギルフォード卿は悔しそうな顔で俺に説明してくれる。

だがそんな事はどうでもいい、俺の知らぬ間に話が進んでしまっている。

「何故私を呼ばなかったのですか? 今のブリタニア軍の状態はあなた方が1番知っているはずです。言ってはなんですが本当に捕まえる気があったんですか?」

皇族批判にもなりかねない発言だが軍を率いる者として言わせてもらう。

「お待ちください、リンテンド卿!! 今回の件は本当に急を要する事態でしたので、あなたをナリタから呼び戻す時間がなかったのです!!」

ギルフォード卿は俺の言葉に弁明するがそれは関係ない。

「そう言う話ではないのです、ギルフォード卿。私はこのエリアの平定の補佐として陛下から命令を受けています。つまり私はたとえ作戦に参加しなくても知っておかなければならないのです。私が知らない間に軍の数が減っている、そんなことがあってはならない。自己保身に思われるかもしれませんが、責任を追及された時、知らなかったで済まされる問題ではないのです」

「それはそうですが・・・・・・」

ギルフォード卿は苦い顔をしているが、俺にはそれは大問題なのだ。

「今回の件も私に連絡をくれれば別ルートから片瀬を追い込む手があったかもしれない。ギルフォード卿、その資料を見せてください」

そういって俺はギルフォード卿が手に持っている今回の件の報告書に目を通す。

「・・・・・・これは実際の状況を見ていないからわかりませんが、片瀬は自爆したのではなく爆破されたんでしょうね」

「なんだと、リンテンド!!」

コーネリア総督が椅子から立ち上がり、いつもはつけている卿という呼称すら忘れて俺に問い詰めてくる。

「この資料から想像出来る状況的に考えて、確かに片瀬は一見自爆したように見えます。しかし黒の騎士団が現れるタイミングが怪しすぎます、これは軍の情報が漏れているという線もありますね」

「「!!」」

二人は本当に気づいていなかったのか? この違和感に?

「もういいです、今後はこのようなことがないように願います。それと私の先ほどの発言は皇族批判と取られてもおかしくないものです、処分はいかようにでも受けます。私は自分の仕事に戻りますので今は失礼します」

そういって俺は総督室を後にする。

はあ、この時がゼロを捕まえる一番の状況だったのに・・・・・・

ゼロは負傷していて護衛もいなかったのに・・・・・・

この後黒の騎士団が活動を行うのはたしか藤堂救出作戦だったか?

ここで捕まえなければ黒の騎士団は戦力を大きく増して捕まえにくくなる。

かといって俺も自分の仕事があるからこの戦闘に参加できるかわからない。

ブリタニア軍はこの時は確か東北を平定しているはずだし、ラウンズの権限を使ってここに残るにもさっきの発言で俺も遠征に参加しなければならなくなるっぽいし。

あ〜もう本当にめんどくさい。はあ、悔やんでも仕方ない、次のチャンスに備えるとしよう。

溜息を何度もつきながら、俺は自分の仕事部屋に戻るのであった。




自分の部屋に戻って書類を読んでいると俺の部屋に来訪者が現れた。

「失礼します、リンテンド卿」

そういって俺の部屋に入ってきたのは・・・・・・ヴィレッタ・ヌゥ

そう、彼女は俺と共にナリタで作業していたのでこの前の件には関与していない。

つまり記憶を失って扇に連れて行かれ、千草になっていないのだ。

俺がいる事で内容が改変されたのであろう。

だがしかし、俺は扇のあの最後には日本国首相になってヴィレッタと結婚というハッピーエンドはどうしても許せない。

戦争中に仲間の戦死をゼロの責任にして、敵の大将シュナイゼルとグルになってゼロを追放したことは許せなかった。

軍人となった今だからこそわかる、扇のやったことは最低最悪の行為だ。

やり方こそ汚かったが、ゼロは常に勝利をもたらしたのだ。

確かにゼロは非道な行いもしたが、そのゼロを信じず、何の確認も取らず敵将の口車に乗るなんて彼は本当に何を考えていたのだろうか?

そんな彼にこの言葉を送ろう、「ざま〜見ろ、扇!!」

俺は心の中で力の限り叫んだ。

「あのリンテンド卿、よろしいでしょうか?」

「ああ、悪い。考え事をしていた」

俺は扇の事を考えるあまり目の前の彼女を忘れていた。

「はあ、それでお話ですが純血派が解散された今、私は今後どうすればいいのでしょうか?」

それを俺に聞きに来るのか? 解散宣言したのは俺だけど・・・・・・

「それは俺ではなく軍に聞くことじゃないの? 俺は本来コーネリア軍とは関係ないんだから」

「その通りです、ですが私には純血派時のようなジェレミアやキューエルのように後ろ盾になってくれる人物がいなくなりました」

ああ、あの2人ともそう言えば家は名門の貴族だったっけ?

「私はどうしても貴族になりたい、そのためには強力な後ろ盾が必要なのです」

「それで俺に後ろ盾になって欲しいと?」

「その通りです」

そう言えば確かヴィレッタって生まれの低さから貴族への強い憧れを持ってたんだっけ?

「ふ〜ん、まあ俺も一応貴族だけど位は子爵、後ろ盾にするには弱すぎる盾だと思うけど?」

「リンテンド卿は位こそ子爵ですがラウンズの一角、その発言力は並の貴族よりも上です。これほどの盾はないでしょう」

「まあそうだね、でも俺が君の後ろ盾になるメリットは?」

一応言っておくが俺はエロ方面は期待していないぞ。

「必ずやリンテンド卿に報いて見せます」

そう言って俺の前でひざまずくヴィレッタ。

「ふ〜ん、いいよ合格。ここで色仕掛けでもしようものなら俺は相手にしなかっただろうけど、ヴィレッタの能力は今まで見てきたからわかるし俺の副官として俺の仕事を手伝ってもらおう。あ、わかってるとは思うけど一応俺に忠誠を誓ってもらうよ」

俺は彼女を副官にすることにする。

ナイトメアの腕前は準エース級ぐらいあるし、それよりも彼女は内務や指揮するのに向いているような気がする。

俺の仕事は半分減るし、まあ副官にしてもメリットの方が大きいだろう。

「Yes, My Lord!!」

そうしてヴィレッタ・ヌゥは俺の副官となった。





おまけ

あ、手続きするのに書類書かないといけないな。めんどうだな。

「ヴィレッタ、早速仕事を1つ」

「はっ! なんでしょうか?」

「俺の代わりに君の転属届けを書いていてくれ」

「・・・・・・Yes, My Lord」

しぶしぶと言った形で返事をされる、まさか副官の初仕事が書類作成とは思わなかったろう。

「そうだな、俺の副官だから・・・大尉辺りに昇進って書いてていいよ」

その辺はかなりアバウト、俺は一応ラウンズとして人事権も持っているので勝手に決められる。

「大尉ですか!? あの、本当によろしいのでしょうか?」

ヴィレッタの階級は少尉、大尉になれば二階級特進、1回死んだ事と同じだな。

ちなみに俺には正確な階級はない、仮に仮定すれば大将以上? 元帥になるのだろうか?

ブリタニア軍には将軍以上の階級がない、そもそも将軍職はほとんど階級に差がなく、少将や中将、大将と言う風に分かれていないので全員将軍と呼ばれる。

「いいよ、これから忙しくなるからそのお詫びのようなものだよ」

まあR2ではゼロを捕まえた褒美として男爵の位と中佐の階級を与えられていたからどっちが得かわからないがな・・・・・・

選択を間違えたかもしれない彼女に心の中で合掌しておこう。



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